※ 作中にオリキャラが登場します。
※ さらにバリバリの捏造設定があります。
※ 以上を踏まえた上で、「こまけぇことは気にすんな!」という方だけ下へどうぞ。
1
―― お前が話に聞く祟り神か。とてもそうは見えんな。
―― いかにも私は人間だ。軍神などと呼ぶ者もいるが。
―― ああ。我らが神の仰せにより、そういった仕儀となった。
―― 同感だが仕方無かろう。互いに割り切るしかあるまい。
○ ○ ○
「へぇ、ここがウワサの。言っちゃなんだけど、あまり流行ってるようには見えないね」
「諏訪子様、お店の前ですから…」
魔法の森の近くにある香霖堂というお店は、なかなかおもしろいところだった。
ここには懐かしい道具がたくさんある。外の世界に未練なんか無かったつもりだけど、気がつけば私はこのお店にちょくちょく通うようになっていた。
そんな私を見る内に、諏訪子様も興味が湧いてきたらしい。案内してくれと頼まれて、こうして香霖堂へお連れすることとなった。
「いらっしゃい…おや?」
扉を開ける。いつものようにカウンターで本を読んでいた森近さんが顔を上げた。
「こんにちは。また遊びに来ちゃいました」
「できれば買い物もしていってもらいたいけどね。後ろの御方はもしかして…?」
「はい。こちらは守矢神社の祭神であられる、洩矢諏訪子様です」
店主である森近霖之助さんに、諏訪子様のことを紹介する。今度は諏訪子様に森近さんを紹介しようと振り返り…その異変に気付く。
「…諏訪子様?」
私の仕える神は、今まで見たことも無い表情を浮かべて、そこに立ち尽くしていた。
驚いている…のだろうか。でもそれだけではない気がする。恐怖、郷愁、後悔、狼狽、悲哀、慈愛。それらが混在する不思議な顔で、森近さんを凝視している。
いったいどうしたというのだろう。固く固く握り締められた両の拳が、ただならぬ様子を感じさせた。
「諏訪子様!」
もう一度声をかける。ビクッと体を震わせ、諏訪子様が目を丸くして私を見る。先ほどまでとは違う、ただ純粋な驚きがその顔にはあった。
「わ、びっくりした。いきなり大きな声を出さないでよ」
「諏訪子様こそ、どうなさったんですか? 何か気になることでも…」
「ああ、いやいや。なんでもない、なんでもない。店主もそんなに畏まらなくていいよ、今日は客として来ただけだから」
心配する私と、何事かとこちらを注目している森近さんに、プラプラと手を振って笑顔を向ける。ごまかしているのは一目瞭然だった。
それでも諏訪子様が詮索無用という以上、巫女である私は従うだけだ。胸の中の疑念を飲みこみ、一緒に店内を見て回る。
なのに、気付かずにはいられない。私や彼の目を盗むようにして、諏訪子様が森近さんを見詰めていることを。
食い入るように。吸い寄せられるように。まるでそこから目を離すわけにはいかないとでもいうかのように。それが自分の義務なのだと言わんばかりに。
あまりに真摯で、声をかけることさえ躊躇してしまう。そして私に見られていることに気が付くと、なんでもないような顔をして商品の物色に戻るのだ。
幾度となく向けられたその視線に、気がついてはいたのだろう。不思議そうにしていたが、森近さんはあえて何か問おうとはしてこなかった。
…あるいは、問えなかったのかもしれない。そうすることを憚られるほどに、諏訪子様の視線には尋常でない熱意が込められていた。
店を出た後、諏訪子様は何度も何度も香霖堂の方を振り返った。どれほど小さくなっても、建物が見えなくなっても。
もしかして噂の一目惚れ? そんな言葉が一瞬浮かんだが、頭の中で否定する。あれは…あの視線は、そんな甘く優しいものではない。もっと凄絶な何かだ。
でも、それが何なのかは、私には分からなかった。
2
―― この地に入って、もうどれくらいになるかな。
―― ここは良い国だ。美しい土地だ。実はな、ずっと前からそう思っていた。
―― 何故お前が照れる…おい、何故怒る。
―― まったくお前は変わらんな。あとどれくらい見ていられるのやら。
○ ○ ○
「霖之助さん、アレなんなの?」
いつものように香霖堂に遊びに来て、例によって戸棚からお茶とお菓子を持ち出して、今さらながらにそう尋ねる。
アレというのは他でもない、図々しくも売り物のイスに腰掛けて霖之助さんをじ~っと眺めているちびっ子のことだ。
「守矢神社の祭神、洩矢諏訪子様だよ」
「それくらい見れば分かるわよ。どうしてアイツが香霖堂にいるの?」
「僕が聞きたい。冷やかしなら帰ってもらいたいんだが」
「ちょっと待った。私が冷やかしだっていうなら、それは何?」
諏訪子が霖之助さんの隣に座っている私を指で示す。不服だと言いたげな彼女に、堂々と胸を張って説明してやった。
「私はいいのよ、霖之助さんとは長い付き合いだし」
「なるほど。だったら仕方ないね」
「それで納得されるのも不本意なんだが…」
数日前に初めて来店して以来、こんな調子で毎日来るようになったらしい。何か買うでもなく、長い時は朝から晩までただ黙って霖之助さんを眺めているそうだ。
おもしろくない。香霖堂は私の縄張りである。そこに客でもない部外者が出入りするとは何事か。
大体にして、コイツらはろくでもないことばっかりやらかすのだ。ここは博麗の巫女としてしっかり問い質しておかねばなるまい。
「で、今度は何を企んでるのよ」
「諸悪の根源みたいに言わないでよ。店主の顔を見に来てるだけだってば」
…何それ? 霖之助さんに会いに来てるってこと?
そんなことをして何が楽しいのだろう。もしかして、香霖堂にお宝が眠っているとでも勘違いして、それを狙っているとか?
「言っておくけどね、この店ガラクタばっかりで金目の物なんか無いわよ」
全部が全部とは言わないが、まぁ妥当な評価だろう。悲痛な顔を私に向ける霖之助さんとは裏腹に、諏訪子は嬉しそうに笑っていた。
「意外と健気なところがあるんだね、博麗の巫女。まぁ、そこまで嫌われちゃったら仕方無い。今日のところは引き上げようかな」
「明日になったらまた来る気? 図々しい神様ねぇ」
「君がそれを言うのもどうかと思う」
「ああ、そうだ。代わりと言っちゃなんだけど、店主に一つだけ聞かせてもらってもいいかな?」
イスから立ち上がりながら尋ねてくる。霖之助さんが了承すると、諏訪子は不意に厳かな口調でこう言った。
「店主、あなたは何者?」
静かな、でも突き刺すような物言い――それはともかく、その質問はなんなのか。
霖之助さんは霖之助さんである。いったい他にどう答えろと? いくらでも相手を煙に巻くことができる悪質な問い掛けだ。
質問の裏の意味を探ろうとしているのか、霖之助さんは考え込んでしまった。真面目なのは彼の長所だが、それも時と場合によるというものだ。
「何を言ってるのよ。霖之助さんは霖之助さんに決まってるじゃない」
代理でそう答える。諏訪子が意地の悪い笑みを浮かべた。
「そっちには聞いてないよ。それに、その答えじゃ的外れだね」
「そんなの誰に聞いたって同じよ。どういうつもりなのか知らないけど、長居するために妙な質問してるんじゃないでしょうね?」
「おお怖い怖い。山の神が怒り出す前に退散しようっと」
「山の神って、アンタのことじゃないの」
大げさに身振り手振りで恐怖を表現しつつ、諏訪子が扉へと向かう。途中一度だけ足を止め、彼女は霖之助さんを振り返った。
「店主。さっきの答え、その内聞かせてもらうから。ちゃんと考えておくように」
3
―― またここにいらしていたのですか、母上。
―― …俺には分かりません。
―― こうなることは分かっていたはずです。
―― なのに何故、父上と母上は…。
○ ○ ○
あの洩矢諏訪子が、ここ最近香霖堂に足繁く通っている…その情報を入手した時、私は心の中で快哉を上げていた。
何しろ異変の影に守矢アリ、とまで言われる連中である。これは絶対スクープになる。今度の新聞の一面は、全部差し替え大決定。誰よりも早く記事にしなくては!
そうと決まれば行動あるのみ。文花帖を片手に幻想郷を東奔西走、私はこの件の関係者への突撃取材を重ねまくった。
『はい、確かに諏訪子様はここのところ毎日香霖堂に通っています。考え込むことも多くなったし、心配してるんですが…』
『諏訪子のこと? さぁ、この前は問答みたいなことやってたけどね。霖之助さんに迷惑かけてなきゃいいけど』
『そーなのかー』
『やっぱりあたいは最強ね!』
…後半は少し相手を間違えた気もするが、それもまた勢いというものである。
ともあれこれで裏は取れた。洩矢諏訪子が香霖堂に対して並みならぬ関心を抱いているのは事実らしい。
ならば、その理由は? あの店の商品は外の世界の道具だ。私の目にはガラクタにしか見えないが、少し前まで外の世界にいた彼女にとっては宝の山なのかもしれない。
あるいは店ではなく、店主が目当てということもありうる。森近霖之助は知る人ぞ知る匠なのだ。かの霧雨魔理沙が所有するミニ八卦炉は、彼のお手製だと聞いている。
彼の持つ技術と、彼女たちの持つ外の世界の知識を合わせて、何かトンデモナイモノを作り出そうとしているのだろうか。前に山の巫女が言っていた巨大ロボとか。
なんとも胸躍る話ではないか(記者的に)! さらなる情報を求めて、私は香霖堂へと向かった。
あそこの店主とは顔見知りである。洩矢諏訪子が何を企んでいるにせよ、いきなり門前払いなんてことはないだろう。
香霖堂の前に降り立ち、扉に手をかけ…そこで動きを止める。
「またですか。あまり祭神が出歩くものではないと思いますが」
「平気平気、神奈子もいるし。それより今日はお土産を持ってきたんだ、一緒にお茶でも飲もう。店主、少し上がらせてもらうよ」
店の中から声が漏れていた。一方は聞き覚えのある男の声、そしてもう一方は…窓からこっそり覗くと、店の奥に去った誰かを店主が視線で追っていた。
「勘弁してもらえませんかね。霊夢たち以外の者にまで好き勝手やられたら、僕は本格的に干上がってしまう」
「安心してよ、迷惑はかけないから。お茶もお菓子も持って来てあるんだ」
程無くして店の奥から戻って来たのは、果たして洩矢諏訪子だった。店主の前に湯呑みを置くと、抱えていた細長い道具(水筒だろうか?)を傾けて何かを注ぐ。
どうだと言わんばかりの彼女を見て、店主が渋々ながらに口をつけ…驚いた顔をした。
「茶が暖かい。どうなっているんだ?」
「ふふん。これは外の世界の道具でね、中の飲み物が冷めにくい水筒なんだ。あっちじゃ普通に使われてるものだよ」
「なるほど、外の世界の…少し見せてもらえませんか」
道具屋の血が騒いだか、店主が目の色を変えて水筒を撫で回す。そんな彼を嬉しそうに眺めながら、洩矢諏訪子は懐からまんじゅうを取り出した。
「はいこれ、温泉まんじゅう。地霊温泉のお土産の試作品だってさ」
「ああどうも。ふむ…名前は魔法瓶、暖かい、もしくは冷たい飲み物を持ち運ぶ道具か。これは便利だな」
感心した様子の店主から水筒…魔法瓶とやらを受け取った洩矢諏訪子が、取り外したその蓋に茶を注ぐ。ゆったりした雰囲気の中、一人と一柱はお茶の時間を楽しんでいた。
「ところで店主、霊夢とはどういう関係?」
「ただの昔馴染みですよ。少なくともあなたが考えているような関係ではありませんね」
「なんだ、つまんない…あ、さては他に本命がいるわけか」
「冷やかしなら帰ってもらえませんかね」
「いいじゃん、お茶奢ってあげたんだし。そんな無愛想にしてちゃ、いつまで経ったって閑古鳥だよ?」
「構いませんよ。食うに困ってるわけじゃなし」
「…若いのに年寄りみたいなことを言うんだね。枯れ果てるにはまだ早いよ、店主」
結局、私はそのまま取材をせずに引き上げた。
窓から覗いたのが良くなかった。私が踏み込むには、あの場の空気は…うまく言えないが、あまりに幸せそうで、微笑ましくて、そして暖かかった。
私は森近霖之助を知っている。客と自分の興味の対象以外には、基本的に無関心を貫く性格の持ち主だ。見たところ、それはあの場においても変わっていないようだった。
だとすれば…間違いない。あの暖かい雰囲気の源は洩矢諏訪子だ。だが、その意味するところは分からない。
確実なのは、彼女は悪意を以て香霖堂を訪れているわけではない、ということか。店主を巻きこんで何かやらかすようにはとても思えない。
「…これは、勘が外れましたかね」
思いっ切り落胆しながら、私は次の新聞の構成を練り直すはめになったのだった。
4
―― 知っています。彼女が身罷ったのでしょう。
―― どうしてって、それを言いたいのはこちらの方です。
―― そもそもそこまで深い関係じゃない。言ってしまえば赤の他人でしょう。
―― 俺はただ、双方に最良の道を選んだだけですよ。
○ ○ ○
「あはははは! それ私にも似た覚えがあるよ、名ばかりの劣化品というか紛い物を押し付けられてさぁ」
カニを御馳走するというので博麗神社に行ったらカニカマを出された――そう愚痴る私の前で、諏訪子はケタケタと大笑いした。
「神様も結構苦労してんだな。で、霊夢の奴にどこがカニだって突っ込んだら、『カニの味はするでしょ』って逆ギレされた」
「まぁ、幻想郷で海の物は手に入りにくいし。あの子なりにアンタに御馳走してあげようと思ったんじゃない?」
「だからってカニカマ出すかよ?」
「そこはほら、あの神社参拝客少なそうだし」
「盛り上がるのは結構ですが、なんというか…何故あなたがここに?」
呆れた口調で香霖が言う。ぶっちゃけた話、それは私も気になった。
何か掘り出し物でもないかと香霖堂にやってきて、いつものように香霖と話し込んで…せっかくだし飯でも作ってやろうかと思ったところで、諏訪子が現れたのである。
私がいるのを見て、「ちょうどいい、鍋の材料があるから三人で食べよう」なんて言い出して、わざわざ神社に戻って肉と野菜を持ってきた。
断る理由も無く、こうして三人で鍋をつついているわけだが…コイツ、いつの間に香霖と飯を食うような仲になってたんだ?
「いいじゃん、みんなで食べた方が楽しいし。あ、もしかして肉嫌いだった?」
「そういうわけではありませんが…つまりその、神社の方はいいんですか?」
「神奈子は今日は天狗たちと会合という名の宴会、早苗はその付き添い。ここに来る前に結界張っておいたから戸締りも問題無し」
「なるほど。しかし、それとあなたがここで鍋をつついていることがどう関係しているのか分からないのですが」
「食材持ってきてあげたんだから文句言わない。それと店主、私には敬語使わなくていいよ。なんか他人行儀でヤだし」
「こういってはなんですが、他人行儀も何も…」
「ほら、敬語」
「…他人行儀も何も、実際に他人だろう」
「甘いね。一緒にご飯を食べたんだ、もう家族みたいなもんだよ」
「敢えて尋ねるが、まさかこのまま僕の店に居座るつもりじゃないだろうね?」
「居座るとまでは言わないけど、ちょくちょく通わせてもらうよ。あの問い掛けの答えを聞かせてもらうまではね」
「…? おい、問い掛けってなんのことだ?」
出し抜けに尋ねる。香霖が言うには、前に諏訪子から「あなたは何者」と問われたのだという。
何者って、香霖は香霖じゃないか…私がそう答えると、諏訪子はまた大笑いした。霊夢もまったく同じ答えを返してきたとかで、さらには不正解らしい。
「アンタたち考え方がそっくりだね。いやはや良いコンビだわ」
「なんかそれ、バカにされてる気がするぜ?」
軽く睨みつける。OK神様全部分かってる…とでもいうような目で、諏訪子は私と香霖をニコニコと眺めていた。
最近諏訪子が香霖のところに入り浸っているって話は、霊夢から聞いてはいた。動機も目的も分からないのに、不思議と私はあまりコイツのことを警戒していなかった。
どうしてだろう。なんというか、香霖は私がいてやらないとダメなヤツだ。だから香霖に近づこうとするヤツは、いつもそれとなく見張っていた。
特に女は良くない。香霖はお人好しだから、きっと簡単に騙される。ここ数年、さらに強くそう思うようになった。
なのに諏訪子に対しては警戒心が働かない。相手が神様だから? …いや、それは違う気がする。
コイツはきっと、香霖を騙さない。傷つけたり、悲しませたりすることも絶対に無い。私がこの女を恐れる必要は無い。
なぜかそう確信していた。理由は分からない。その点についてだけは、不気味といえば不気味だ。
私がいて、香霖がいて…闖入者であるはずの諏訪子が、気がつけばその中にどでん、と構えていて。
「うん、美味しい美味しい。魔理沙はいいお嫁さんになるね、私が保証するよ」
「バ、バカ。何言ってるんだよ」
でも、これはこれで悪くないかもしれないと、私は思った。
5
―― では行きます。母上も御元気で。
○ ○ ○
「どうしてだよ! 行かない理由なんて無いだろう!?」
扉に伸ばしかけた手もそのままに立ち竦む。何事かと顔を上げれば、店の中では誰かと誰かが言い争っているようだった(まぁ見えないけど)。
「行かない理由ならある。帰りが怖い。夜遅くに魔法の森を歩くのは危険だ」
「だから私が送ってやるって言ってるじゃないか!」
「そこまでして行く理由は無い。僕はここで本でも読んでいるよ」
えぇと、状況を整理してみよう。
「なんなんだよ…なんなんだよ、いつもいつも! お前がここから出ようとしないから、私が誘いに来てやってるんじゃないか!」
吸血鬼の乳歯が抜けたとかで、明日の夜お祝いのパーティーが開かれるらしい。
「この際だからはっきり言わせてもらうが、迷惑だ。僕には僕の生活がある」
私は幽々子様から贈り物を用意してくるよう言われて、ここ香霖堂へとやってきた。
「迷惑…? 迷惑ってなんだよ、私はお前が心配で…っ!」
品揃えの風変わりさにおいては幻想郷随一を誇るこの店なら、吸血鬼の喜びそうなものがあるんじゃないかな…と思ったのである。
「君に心配されるほど落ちちゃいない。魔理沙こそ、いいかげんにもっと有意義なことを探すべきだ。いつまでも子供じゃないんだから」
さて、これからどうしよう?
「…っ…じゃあ、何か!? 私がここに来るのは香霖にとってただの迷惑で、他のことをした方が私のためだっていうのかよ!」
ここで入店すると、ただの空気が読めない人である。
「…要約するとそうなるね」
といってせっかく来たのに今から引き返すのも如何なものか。
「…………そうか」
あ。なんか小気味良く乾いた音が。
「香霖のバカ野郎! お前の顔なんか、もう二度と見に来てやるもんかっ!!」
ドス、ドス、ドス、ドス! と力いっぱいな足音が近づいてきて、目の前の扉が豪快に開かれる。店の中から現れたのは、黒白の魔法使いだった。
怒りを宿した、でもぐじゅぐじゅに潤んだ瞳と一瞬だけ視線が合う。びっくりして完全停止中の私の横を駆け抜けて、彼女は箒に乗って飛び去っていった。
「…いらっしゃい。何かお探しかな?」
呆気に取られながらそれを見送った私に、背後…店の方から声がかかる。振り返れば、見事に頬を赤く腫らした店主さんがそこにいた。
「あ、あの。実は贈り物を探してて…」
「ああ、ひょっとして明日の紅魔館のパーティーかい? これなんかどうだろう」
何も無かったように話をする店主さん。この人こんなに商魂たくましかったっけ? …なんとなく違う気がするけど、うまく説明できない。
ともあれ店主さんお勧めの、外の世界の小奇麗な砂時計を買わせてもらうことにした。珍し物好きの吸血鬼ならこういうものは喜ぶだろう。
お金を払おうとしたその瞬間、店の表から荒々しい足音が聞こえてきて…すごい勢いで扉が開かれた。
魔理沙が戻って来た? 一瞬そう考えながら目を向けた先には、しかし彼女以上に小柄な女の子が立っていた。
稲穂と同じ色の髪の毛に、目玉のついた奇妙な帽子。しかし全身から怒気を放つその姿には、キレた幽々子様にも匹敵する威圧感があった。
「いらっしゃ…」
「魔理沙が泣きながら飛んでくのが見えた」
早口で言い切り、店主さんにズカズカと近づく。身の危険すら感じて、私は悲鳴を飲みこみつつ飛び退いた。
「あの子に何をしたの」
「…見ての通り接客中なんだ。話なら後で」
「答えろ店主ッ! お前、あの子に何をした!」
さらに強い口調で女の子が詰問する。しばらく無言で睨み合った後、店主さんは軽く息を吐いた。
「…明日の紅魔館のパーティーに誘われたので、断っただけだ」
「どうして断ったの」
「パーティーが終わるのは夜更けになる。そんな時間に魔法の森を通って帰るほどの危険を冒してまで、参加する理由が無い」
「送ってもらえば済むことじゃない。それこそ魔理沙にでも頼めばいい」
「誰かの手を煩わせるくらいなら、ここで読書している方が気が楽だ。ああいう場に異性を伴って出席することがどういう意味を持つのか、そろそろ理解させないと」
さて、とりあえずカウンターから飛び退いたのはいいとして…私はいったいどうすればいいのだろうか?
「あの子がどうしてお前を誘ったのか、その気持ちを考えてあげたことはないの」
「魔理沙ももう子供じゃない。自分の将来について、少しは真剣に考えさせるべきだ」
「分からないの? はっきりした自覚は無いのかもしれないけど、あの子にとってお前はそういう存在なんだよ」
気まずい。ひたすら気まずい。というか私の存在ってすごく場違いなのでは。
「それが魔理沙のためになるとは思えないね。下手な感傷は早い内に捨てさせた方がいい…どの道、いつか別れることになるんだから」
「だからなんだっていうんだ! あの子はお前に甘えてる、お前が自分を守ってくれると信じてる。それを心地よく思うから、お前もあの子を甘やかしてるんでしょ?」
帰った方がいいのかな。でもまだ砂時計受け取ってないし、お金も払ってないし。
「…魔理沙の親父さんには世話になったからね。その恩を返しているだけだ」
「だったら何故あの子に甘える! 本当にそれだけの関係なら、家に上げたり炊事を任せたりするもんか! 霊夢にだって同じような接し方をしてるじゃないか!」
困る。非常に困る。私を無視して白熱しないでほしい。
「…さっきから聞いていれば、あなたはいったいなんなんだ。仮にあなたの言う通りだとしても、僕と魔理沙の問題だろう。あなたには関係無いはずだ!」
「それは…!」
「これがお互いにとって一番良い関係なんだ。部外者が口を出さないでくれ」
話は終わりとばかりに、店主さんが口を閉ざす。この人が怒鳴るところを初めて見た。
いや、正確にはイメージすることも無かったというか…付き合いは短いが、あんな風に大声を出す人にはとても思えなかったのだ。
女の子は沈黙した。どうしようもない悲しさと切なさが、その体を包んでいた。
「…お前もアイツと同じだ。失うことを怖がって、いかにも無害な顔をして、自分も周りも傷つけて、最後には何もかも見失う…!」
でも、それもほんの一瞬…その小さな体から大噴火のように怒りが解き放たれた瞬間、店主さんの体は真横に吹き飛んでいた。
「頭を冷やせ。それがどれだけ罪深いことか、少しは考えろ!」
商品を巻き込みつつ、壁にぶつかってようやく止まる。頬を張ったのだと気づいた時には、女の子は踵を返して店を出ていってしまっていた。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
目を回している店主さんを助け起こす。さっきの魔理沙の分も合わせて、腫れ上がった両の頬が痛々しかった。
「…騒がしくしてすまないね。客に気遣われるようじゃ、商売人失格だな」
店の整理を手伝って、改めて砂時計の代金を払う。店主さんの顔は、なんだか少し寂しそうに見えた。
6
―― ひどいじゃないか。ひどいじゃないか。
―― こんなの、あんまりだ。親不孝にも程がある。
―― お前はなんのために生きたんだ。どうしてそんな生き方しかできなかった。
―― 私は、ただ苦しませるためだけにお前を産んだのか…?
○ ○ ○
「やぁ店主。少しは頭が冷えた?」
紅魔館で間もなくパーティーが始まろうかという時分。女は、一人酒をしていた男の下にやってきた。
「…まだ頬と顎と首が痛むよ」
「はっはっは、悪かった。私もカッとなって、ちょっと余計に力が入っちゃったよ」
何気無い口調で謝罪する。男はそれを受け入れるでも拒むでもなく、どこか遠くを見るように杯を傾けた。
「やっぱりパーティーに行く気は無い?」
「…………」
「無視しないでよ、寂しいじゃん。今日はね、店主にちょっと昔話を聞かせてあげようと思ってさ」
「昔話…?」
思いがけない言葉だったのだろう。男が視線だけで女を見やる。彼女は、寂しそうな、苦しそうな、泣いているような…そんな笑顔を浮かべた。
「そう。遠い遠い、気が遠くなるほどの大昔。自分が何者か見出せぬまま逝った、とある男の物語。酒の肴と思ってくれればいいよ」
幽鬼のように儚げな笑みを顔に貼りつけたまま。
「…でも、最後まで聞いてほしい」
女は、ゆるりと語り出した。
その男はね、店主。あなたと同じ、人間と…人外の者との間に生まれた存在だった。
ある意味政略結婚のようなものだったけど、男が生まれる頃には、両親はとても仲良くなっていた。
…理想の家族だったとは言わない。でも、本当に幸せな家族だったんだ。
男が少年と呼べる歳になった頃、父親が死んだ。人間としては長寿だったけど、人外である母親や、その血を受け継いでる男とは生きる時間が違い過ぎた。
母親は悲しんだ。でも、最初から分かっていたことだと自分に言い聞かせ、幸せだった思い出を支えにして、耐えた。その悲しみを周りには悟らせないようにした。
でもさ、子供というのは見てるんだよね。母親が苦しんでいることも、そうなった理由も、男には分かってしまった。
分かってしまったら、怖くなった。いつか自分も同じように苦しみ、誰かを傷つけるかもしれない。
それで男はどうしたか? 誰とも深く関わろうとしなくなった。深い関係を築いてしまえば、いずれ深く悲しむことになるから。
子育てなんか初めてだった母親は、そんな男の処世術を、不思議には思っても正そうとはしなかった。息子なりに考えがあるのだろうと、真意を問うことさえしなかった。
…最低だよね。息子の異常には気付いたのに、それをずっと放置してたんだから。
さて。ある時、そんな男が好きだという人間の娘が現れた。男もその娘を好いていた。ところが娘が年頃になっても、男は彼女を娶ろうとはしなかったんだ。
母親には理解できなかったけど、男にとっては当たり前のことだった。ただ一人老いていく父親の姿が、残されて嘆き悲しむ母親の姿が、男の心を縛り上げていたから。
大切な者を残して逝くくらいなら、愛した者に先に死なれるくらいなら、そんなものは作らない方がいいに決まってる。男は、本気でそう考えていた。
そして娘は、あっという間に歳を取り…やがて男の前に現れなくなった。老いた自分の姿を見られたくなかったんだ。
娘を気に入っていた母親は、ここに来て慌てて二人をくっつけようとしたが、時すでに遅かった。男は結婚を、娘は会うことすら拒み続け…その内、娘は死んでしまった。
幼い頃から一途に男を想い続け、結局独り身のまま死んでいった娘の葬儀に、男は顔も出さなかった。母親は怒ったが、それでも聞く耳持たなかった。
何故って、葬儀に出たら娘が特別な存在だったと認めることになるからね。彼女の想いを拒み続けた男にとって、それが唯一果たせる義理だったわけだ。
どうしてだろうね。男の両親は、いずれ別れが来ることをお互い分かってて、それでも仲良くなったのに。そんな関係もアリなのに…なんでそれが分からなかったんだろう。
深い関係にならなければ傷つくことも悲しむこともない。そう思っていた男は、でも娘の死の後で途方も無い苦しみを背負うことになった。
本当は男も気づいてたんだ、娘のことが大好きなんだって。抑えたり、忘れたつもりになったりできても…自分で操れるようなものじゃないんだよ、想いとか絆っていうのは。
なのに男は、その気持ちを勝手な理屈で踏みにじった。自分自身も、自分の一番大切な者も裏切った。それで苦しくならないわけがないんだ。
苦しくて苦しくて、でも男にはそれを癒してくれる幸せな思い出が無かった。あるのはただ、自分が彼女を裏切ったのだという事実だけだった。
どうしようもなくなった男は、母親に旅に出たいと打ち明けた。娘が眠る場所に留まり続けることには、もう耐えられなかったんだ。
そんな息子の苦悶を中途半端に理解していた母親は、少し悩んでそれを許した。いずれ子は巣立つものだ、どこか別の地で幸せになってくれれば…と、ノンキに考えていた。
それが、母と子の最後の別れになった。
それから長い長い年月が過ぎた。ある日、女々しくも男のことを案じ続ける母親の下に急な報せが届いた。
最初に政略結婚と言ったけど、男には姉がいてね。ある国に人質として預けられていたんだけど、その子が今わの際にあるとのことだった。
大急ぎで駆けつけて、なんとか死に目に間にあった。でも幼い頃に家族と引き離され、長いこと異国で暮らしていたその子は、もう母親の顔なんか覚えていなかった。
子孫たちに囲まれながら、母親の仇敵に向かって「あなたは私の母だった」と告げて、彼女は逝った。己の生に満足していたんだろう、死に顔は本当に安らかだった。
母親面して泣いてる仇敵を見て、本当の母親は恐ろしくなった。他人に預けた、というか奪われた子はこんなに幸せになっていた…旅に出た息子はどうしているんだろう?
男の命もそろそろ尽きる。探さなくては、会いに行かなくては。胸に湧く恐ろしい予感に戦慄しながら、母親は今さらのように男の行方を追った。
…地の果ての山奥でようやく探し当てた時、男はとっくに死んでいた。たった一人で、誰に看取られることもないまま、冷たい骸になっていた。
男は、娘を裏切ったことを、忘れることも受け止めることもできなかった。ただ孤独と後悔に苛まれながら、何かを成すでもなく、誰と交わることもなく、死んでいた。
「残された母親は考えた。朝も、昼も、晩も、気が狂うほどに考えた。どうして息子は、あんな死に方をしたんだろう。あんな生き方しかさせてあげられなかったんだろう」
感情の死に絶えた声で女は話し続けた。男は酒を呷る手を止めて、いつしかそれに聞き入っていた。
「考えて、考えて、考えて、ある時ふっと気づいた。要するに、息子は…自分自身が何者なのか、はっきり位置づけることができなかったんだと」
一拍の沈黙が降りる。男の目が知的な好奇の色を帯びるのを見て、女は微かに嬉しそうな顔をした。
「己だけで生きていけるほど力のある者は稀なんだ。ほとんどの人間や妖怪は、他者との関係の中で生きている。そうやって自分自身を学び、形作っていく。
自我とか、何かを決断するための指針って言えば分かりやすいかな。それがあるから、人はいくつもの道の中から一つを選んで歩いていける。正しいかどうかは別にしてね。
でも、男にはそれが無かった。最後の最後まで、自分自身が何者なのかをはっきり位置づけることができなかった。そうできない理由があった。
何故って、男は人間でも妖怪でもそれ以外の何かでもない特異な存在…あなたと同じ、人間と人外との間に生まれた混血だったから。
人として生きるには特殊過ぎるし、母親と同じ存在になるには力が足らない。といって妖怪や、他の何かにそうそうなれるわけでもない。
自分自身が何者なのか見出せなかった男は、己に向かって力強く踏み込んできた娘を、受け入れることもキッパリと拒むこともできず、結局は自分も相手も壊してしまった。
苦しくても、悲しくても、覚悟を決めて自分が何者なのか決めておけば良かったんだ。そうすれば男も、あの娘も、あんな死に方はしなかったのに。
母親の仕事なんだよね、本当は。でも質の悪いことに、男の母親は強大な存在だった。己だけで在ることに疑問も恐怖も感じないほどの力の持ち主だった。
だから男の苦悩なんか、その時は全然分からなかった」
言葉を切って。まるで、苦くて黒くて悲しいものを、それでも噛み締めるように。
「……分からなかったんだ」
静かに、柔らかく、呟いて。女は話を結んだ。
「…………」
男は、しばらく何も言わずに女を見詰めていた。彼女はそれを、薄く微笑みながら受け止めていた。
「最後まで聞いてくれたね。ありがとう」
「…何故、その話を僕に?」
「分かってるはずだよ、店主。分かっててとぼけられるほど、あなたは悪人じゃない」
男が女から視線を外す。無言のまま顔に苦いものを宿らせる彼に、女は諭すように願うように、言葉を続けた。
「あなたが今までどんな生を歩んできたのか、私は知らない。あなたとあなたの親しい者たちが、あの二人と同じ道を辿ると決まったわけでもない。
でもね、店主。私には、あなたと今の話の男が良く似ているように思えるんだ」
「…思い違いだ」
「なら、どうしてこんな辺鄙なところに店を構えたの? 道具屋なら、もっと客が集まりやすい場所はいくらでもあるのに」
「人付き合いが苦手なんだ。この店には、道具の本当の価値が理解できる者だけ集まればいい」
「なら、どうして霊夢や魔理沙を追い払わないの? お茶とか商品とか、勝手に持ち出されて苦労してるんでしょ?」
「追い払っても来るんだよ、彼女たちは。こっちが根負けしただけだ」
「そう言い張るなら、今はそれでいい。でも、忘れないでほしい。今の話を。かつて自分が何者なのか見出せず、何もかも見失ってしまった男がいたことを。
覚えておいてほしい。あなたを本当に心配している者が…少なからず、あなたの周りにいるんだってことを」
「…僕にどうしろと言うんだ」
「考えてほしい。あなたが他者を遠ざける一方で、近づく者を拒もうとしない理由を。
逃げないでほしい。あなたがずっと背負ってきた、虚無と、苦痛と、悲しみから。
そして、ちゃんと向き合ってあげて。そんなあなたに、それでも会いに来てくれるあの子たちに」
「…………」
「いつか聞かせてほしい。あなたが何者なのかを、私に。アイツみたいに、悲しいだけの生を送る者は…もう見たくないんだよ」
言うべきことは言い終えたらしい。簡単な別れの言葉を残し、女は男の店を後にした。
香霖堂からだいぶ離れたところで不意に足を止め、こちらを睨んでくる。
「…あら、バレてた?」
クスクス笑いながらスキマから出る。本気で隠れていたわけでもないが、それでも私に気づくとは。さすがは神様と言っておこうか。
「覗き見とは趣味が悪いね…いつから見てたわけ?」
「昨日、あなたが一晩中魔理沙の愚痴に付き合ってあげた辺りから」
正直に教えてやると、頭を抱えて地団太を踏み出した。あーうー唸ってる姿には、神としての威厳など欠片も無い。
「そう言えば聞いたことがあるわね。遥か昔、大和の地に青大将の異名を持つ戦の天才がいたと。後に神職となって、かつての敵国に骨を埋めたとか…」
「すわこちっちゃいからなんのことだかわかんな~い」
無邪気な笑顔で小首を傾げる。あれでごまかしているつもり…いや、空気を読めというサインだろう。
「言っとくけど、さっきのは全部作り話だからね。広めたり言い触らしたり記憶に留めたりしたら、恥かくのはアンタだから。いや、マジで」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」
スキマを開いて、その中に身を躍らせる。妙な動きをしているようだったから見張っていれば…まったく、肩透かしもいいところだ。
なのに不思議と悪い気がしないのは、きっとおもしろいものが見れたからだろう。心配事を一つ片付けた私は、意気揚々と屋敷に戻った。
7
―― 苦しかった。寂しかった。悲しかった。空しかった。
―― 運命なのだと悟った。最良の生き方を知った。独りで生きる術を欲した。
―― だが、その結論はあまりに独善的だったのかもしれない。
―― それでも気にかけてくれる誰かが、自分に会いに来てくれる限りは。
○ ○ ○
パーティーも半ばを過ぎたところで、新たに客がやってきた。
道具屋の主人だ。招待状を渡した時は浮かない顔をしていたが、来てくれたらしい。
「あら霖之助さんじゃない、珍しい。今日は来ないと思ってたのに」
早速霊夢が近寄っていく。どこか照れ臭そうに、彼はそれに応じていた。
「ちょっと魔理沙、霖之助さん来てるわよ? ほら」
「…ふん。今さら来たって許してやるもんか」
道具屋の主人が何度も謝るが、魔理沙はそれを受け入れようとしない。そういえばあの二人が喧嘩したようなことを妖夢が言っていた。
「ほらほら霖之助さん、これとかすっごい美味しいわよ? 魔理沙に謝るのなんて後でもできるじゃない、早く食べなきゃ損よ」
「あっ…こら、香霖! 私の話はまだ終わってないぞ!」
しまいには仲良く騒ぎ出す。彼女たちはいつもあんな調子だ。少し喧しいが、せっかくのパーティーなのだ。仏頂面されるよりずっといい。
やがて、宴もたけなわとなり…空になった食器を片づけている私の耳に、招待客同士の話し声が届いた。
一方は道具屋の主人。もう一方は、あまり聞き覚えの無い幼い少女の声。聞こうとしたわけではないが、近くにいるせいでどうしても耳に入ってしまう。
「待ってたよ、店主。で、答えは見つかった?」
「難問だからね。簡単には答えられそうにない。だからじっくり考えるつもりだ…納得のいく答えを見つけたら、必ずあなたに伝えるよ」
「分かった。楽しみにしてる。あんまりのんびりして、あの子たち泣かせたら承知しないからね?」
皿を運ぼうと体勢を変えた瞬間、意図せず幼い声の主が視界に映る。稲穂色の髪に奇妙な帽子を被った小柄な少女…山の上の神社の神の片割れだ。
メイドとしてあるまじきことに、そこで私は動きを止めた。仕事も本分も忘れて、彼女の顔に見入ってしまった。
泣いているように笑っていた。嬉しくて死んでしまうくらい、微笑んでいた。ずっと昔に無くしてしまった、大切な大切な宝物にまた会えたような…そんな顔を、していた。
きっと、何かとても素敵なことがあったのだろう。そう判断して、私は仕事に戻った。
終
強いえて言えば見せ場が物足りなかったかもしれないけども、
カニカマ100本食べた位の満足感。
よかったです
ただ少し魔理沙が怒る部分がいきなりで、どうしてだと少し面食らいました。
ただそれも、その後の流れで理解していくうちにあまり気にならなくなりましたが。
でも一つだけ言いたい、確かにカニカマは美味しいが、カニを食べさせてあげると言われて、
期待しまくった後にカニカマを出されると軽く絶望に浸れるという事に。
ほのぼのとした場面、物語を語り終えたとき雰囲気など面白いお話でした。
いいものを見せて貰いました。
あとカニカマだっていいじゃない、安いし。
もしかしたら小説執筆経験があるのですか?
少々話の展開に違和感があるようにに思えましたが、楽しく読むことが出来ました。
話の展開が少々違和感というのは、例えば序盤での諏訪子の霖之助に対する
リアクションが随分と唐突に思えます。
見た瞬間に反応するということは、彼の見た目に対する驚きのように見えます。
しかし、実際には彼の半妖に対するものであった、というのはちょっと違和感があります。
半妖というのは一目でわかるものなのだろうか、と思ってしまいました。
もっとも神様にそのようなことをいうのは野暮かもしれませんが…。
それと視点が早苗、霊夢、文、…と移っていったことには何か意味はあるのでしょうか。
諏訪子と霖之助の話がメインである以上、諏訪子か霖之助の視点で話を進めたほうが、
話の流れがスムーズにいきますし、また、感情移入もしやすいと思います。
次も頑張ってください。期待して待っています。
素晴らしい。
面白いんだけど
人妖の境界線上に立つ霖之助はいったい何者になるのか。
そしてもうかえらないこを想う母親の希望と成り得るのか。
……おっと、これは作り話でしたね。空気嫁俺。
やはり母親は強いな。