「はあ……」
今、博麗神社では今晩行なわれる宴会の準備が
「誰か手伝いに来なさいよねぇ……」
進んでいなかった。
今日の宴会の幹事は魔理沙だ。
しかし、魔理沙が宴会の準備などに来たことはない。
彼女は宴会に参加し、騒ぐだけ騒いだら帰る(若しくは社務所で寝る)。
そんな奴が宴会の準備に来るはずがない。博麗霊夢はお茶を啜りながらそんなことを思っていた。
ちなみにこのお茶は宴会準備を始めてから5杯目のものだ。
そんな折に境内に足を踏み入れる者の気配がした。
霊夢は気だるげな様子でそちらを向いた。
「何?宴会ならまだ先よ。むしろまだ午前中だわ」
「あら。手伝いに来てあげたのにつれないわね」
そこに立っていたのはレミリアの従者、十六夜咲夜であった。
「へー。あんたが。珍しいわね。お嬢様のお達しかしら?」
「お嬢様ならまだ寝てるわよ」
「必要なものは大体こんなものかしら?」
「そうそう。後は買い出しなんだけど……」
やっぱり二人だと早いわね。言いながら、霊夢は買い出すものをリストアップしていた。
必要なものをリストアップし終え、ふぅ。と、一息つく。
「買い出し。霊夢が行くの?」
「貴方が行ってくれる、ってなら話は違うけどね」
「それなら……」
一瞬、咲夜の姿が消えたと思うと、彼女の足元に黒白の物体が蹲っていた。
「ててて。おい!何しやがる!」
「貴方、幹事のくせに何もしていないでしょう?せめて留守番くらいしてなさいな」
言うと、咲夜は神社の方を指さした。
「ったく。しょうがねぇなぁ」
渋々と彼女は引き受けたようだった。
「いや、ちょっと待て」
そして巫女は状況を理解していなかった。
巫女とメイドという奇妙な組み合わせが、人里で買い物をしていた。
「荷物持ちするのなら先に言いなさいよね」
「あら。言いませんでした?」
「言ってない」
まあ、楽だからいいけど。と伸びをしながら霊夢は答えた。
「えーっと、最後に買うのは……。あ」
「どうしたの?」
「今日の宴会ってお酒って持ち寄りだった?」
虚空をみながら思案する咲夜だが、直後に、覚えていませんわ。
と、笑顔で答えた。
「そ、それじゃ、大量に買っとく必要が、あるかしら」
どうせ鬼もくるのでしょうから。
咲夜から顔を背けながら、霊夢は答えた。
結局、咲夜が神社と人里を一度往復し、買ったものを神社に運ぶのだった。
「で、こいつは寝てるのか」
神社に帰ってみると魔理沙が縁側で気持ちよさそうに寝息を立てていた。
込み上げてくる怒りの矛先を魔理沙にぶつけようとしたところ、
「霊夢。お風呂沸かしたけど、入る?」
「……なんで?まだ日中よ?」
「貴方、結構汗掻いてるわよ?宴会の前に入ってサッパリしたら?」
ニコとほほ笑む咲夜を凝視出来ずに霊夢は、分かった。と口の中で答えた。
「はあ。なんで咲夜の笑顔を直視できないのかしら」
湯船につかりながら、霊夢は一人考えていた。
彼女の――咲夜の――笑顔をみると何故か気恥ずかしくなる。
自身でも分かるくらいに顔が赤くなり、体温が上昇するのだ。
これでは、まるで
「まるで、恋する乙女じゃないの……」
自分で言って恥ずかしくなったのか、勢いよく湯船の中に顔を沈める。
程なくして、ぷはぁ。と霊夢が頭を湯船から出した。
「…………髪、洗おう」
湯船から体を出し、洗髪をしようとした時、
「霊夢。失礼するわね」
「え?」
咲夜が風呂場に侵入してきた。
「別に体洗うのとか自分で出来るのに」
「いいじゃない。偶には人に委ねてみなさいな」
咲夜は、背中を流しに来た。と言って侵入してきた。
霊夢は初めこそ拒んだもの、今は大人しく、なされるがままになっている。
「霊夢」
「な、何よ」
「貴方の肌って綺麗よね」
「突然に、お前は、何を、言っているんだ」
霊夢の顔は赤くなり、突然のことで驚いたのか、しどろもどろになりながらも答えた。
「だって、白くて絹のような触り心地。一日中触っていても飽きませんわ」
「触れるな。この変態メイド」
嘘だ。本当ならば咲夜にずっと触っていて欲しかった。
「あらあら。嫌われてしまいましたわ」
クスクスと咲夜が笑いかける。
「いいわ。もうそろそろ出るから、先に行ってて」
分かりましたわ。言いながら咲夜は辞した。
再び湯船に浸かりながら霊夢は顔を真っ赤にし、いったい何なのよ。と、ひとりごちた。
風呂からあがると日が傾き、空が朱に染まり始める時間となっていた。
霊夢はタオルで自身の髪を拭きながら、縁側にやってきた。
魔理沙の姿は既に無かった。家の中には気配がなかったので大方自身の家にでも行ったのだろう。と霊夢は結論付けた。
咲夜の姿も無かったが、恐らくレミリアを迎えに行ったのだろう。
「全く。今日は散々ね」
霊夢は腰を上げて、宴会の最後の準備を始めた。
今日の宴会は楽しみが一つ増えたかもしれない。
l2 「博霊神社」ではなく「博麗神社」です。
同様に「博霊霊夢」も「博麗霊夢」です。
宴会まで書くか、咲夜さんサイドも書くかした方がよいかと。
あと…咲霊を描きたいのだろうと思いますが、こういう自身の恋心に気づく過程、というのは心理描写が重要です。ちょっとあっさりしすぎているように感じるので、氏にとってはくどいくらいに書いてもいいと思います。