くるりくるくる くるくるり
私――鍵山 雛は時間をつぶすかのように、妖怪の山の鬱蒼とした森の中でくるくると回っていた。別に意味がないわけではない。私の能力は「厄をため込む程度の能力」だから、こうやって回っていることで周りの人妖が背負っている厄を集めることが出来るからだ。
……しかし今は私の周りに誰もいないのか、はたまた誰も厄を背負っていないのか、私に厄が集まることはなかった。それを思えば回っていてもさして意味はないのだろう。私は回るのをやめた。
はぁ、と。ため息をつく。
今日は3月3日、ひな祭り。正確な日にちを数えているわけではないので確かではないのだが、それでも人里の方から楽しそうな声が聞こえてくるので、多分そうなのだろう。
ひな祭り。ひな。雛。私の名前。
はぁ、と。本日何度目になるのか分からないため息をまたつく。
ひな祭りの「ひな」が私を指しているのではないということは分かっている。分かってはいるんだけど、誰かが私のことを思い出して、会いに来てくれはしないかと、そんな淡い期待をしてしまう。厄を纏っている自分に誰かが会いに来てくれるなんて、あり得ないのに。
くるりくるくる くるくるり
私はまた回り始めた。別に意味があるわけではない。厄が集まってこないんだから。
これは単なる暇つぶし。
誰かが来るまでの時間つぶし。
◇ ◆ ◇
それでも、と言うべきか。やっぱり、と言うべきか。結局、日が傾き始めても誰も来なかった。
それまで私が何をしていたかというと、変わらずくるくる回って集まらない厄を集めようとしたり、思索に耽ったり。とにかく人生の無駄というものを満喫していた。
帰ろう、と思った。日が暮れるとただでさえ暗い森が一層暗くなる。そうなる前に早く帰ろう。
てくてくと、無意味に回ることもなく普通に歩いて家を目指す。少しばかりひらけた場所にある我が家。その扉に手をかけようとした時だった。
「おーい」
と、声をかけられた。
声のした方――上空だ――に目をやると、白黒の服を着た人物が箒にまたがって宙に浮かんでいる。
その人物はスゥーと降下してくると、私の目の前に着地した。
えぇと、まりさ……だっけ?
「おう、最高に普通の魔法使い、霧雨 魔理沙だぜ」
……最高に普通ってなんか変よ。
「ん、そうか? だったらなんか適当に考えてくれよ」
別に普通の魔法使いでいいと思うけど――ってそんなことはどうでもいいのよ。
私がそう言うと彼女――霧雨 魔理沙はけらけらと笑った。
思い出した。霧雨 魔理沙。普通の魔法使い。白黒。一応人間。以前、山に侵入しようとしていたから追い返そうとしたら返り討ちにされた。人間のくせにやたら強い奴である。
それで? 何の用なのよ。
「お前を迎えに来たんだぜ」
? なんで?
「なんでって、宴会だぜ宴会。今日はひな祭りだろ? だから神社で宴会でもやろうと思ったら、霊夢の奴が『そういえば山には雛って名前の厄神がいたわね』って言うもんだから、みんなを代表して私が迎えに来たんだ」
みんな?
「みんな。結構たくさん集まってるぜ。ほら、さっさと行くぞ」
え、あ、ちょっ……。
魔理沙に腕をグイグイ引っ張られて、私はもう暗くなった夜の空へと飛び立つ。
掴まれていない方の手でそっと自分の頬を撫でてみると、私は微かに笑っていることが分かった。
◇ ◆ ◇
私と魔理沙が神社の境内に降り立ったとき、すでにそこにはたくさんの人妖たちがいた。山で良く見かける顔から、まったく知らない顔まで。どうやら私が山で静かに暮らしている間にまた新しい住人が増えたようだ。
「遅いよ魔理沙ー」
「悪い悪い。じゃ、後は適当に楽しんでくれよ」
魔理沙はそう言うと、どこかのグループに混ざりに行ってしまった。別に薄情だとは思わない。宴会はそれぞれで楽しめばいいわけだし。
さて、どうしようかな。
私は基本的に山からは出ないので、新しく来た人たちと飲んで親交を深めるのもいいかもしれない。それとも慣れ親しんだ山の連中と飲もうか。
周りとくるりと見渡すと、山の連中と新しい住人たちが程よく入り交じって飲んでいるグループがあった。丁度いい。あそこに入れて貰おう。
◇ ◆ ◇
翌日、普段よりも遅い時刻だけど、宴会明けにも関わらずスッキリと目覚めることが出来た。
しばらくぼぉーっとして、昨日の宴会の余韻に浸る。
仲良しの河童とたくさん話せた。新しい住人たち(命蓮寺という寺に住んでいるらしい)とも親しくなれた。余興としてくるくるとダンスを踊った。一緒に真似をする人たちがいた。そのせいで気分が悪くなって吐いている人もいた。とても騒がしかったけど、楽しかった。
厄を集める私は嫌われることもあるけれど、それでもこうして笑って過ごしていけるなら、まだまだ生きていけると思うのだ。
だから私は、今日も回って厄集め。
くるりくるくる くるくるり
私――鍵山 雛は時間をつぶすかのように、妖怪の山の鬱蒼とした森の中でくるくると回っていた。別に意味がないわけではない。私の能力は「厄をため込む程度の能力」だから、こうやって回っていることで周りの人妖が背負っている厄を集めることが出来るからだ。
……しかし今は私の周りに誰もいないのか、はたまた誰も厄を背負っていないのか、私に厄が集まることはなかった。それを思えば回っていてもさして意味はないのだろう。私は回るのをやめた。
はぁ、と。ため息をつく。
今日は3月3日、ひな祭り。正確な日にちを数えているわけではないので確かではないのだが、それでも人里の方から楽しそうな声が聞こえてくるので、多分そうなのだろう。
ひな祭り。ひな。雛。私の名前。
はぁ、と。本日何度目になるのか分からないため息をまたつく。
ひな祭りの「ひな」が私を指しているのではないということは分かっている。分かってはいるんだけど、誰かが私のことを思い出して、会いに来てくれはしないかと、そんな淡い期待をしてしまう。厄を纏っている自分に誰かが会いに来てくれるなんて、あり得ないのに。
くるりくるくる くるくるり
私はまた回り始めた。別に意味があるわけではない。厄が集まってこないんだから。
これは単なる暇つぶし。
誰かが来るまでの時間つぶし。
◇ ◆ ◇
それでも、と言うべきか。やっぱり、と言うべきか。結局、日が傾き始めても誰も来なかった。
それまで私が何をしていたかというと、変わらずくるくる回って集まらない厄を集めようとしたり、思索に耽ったり。とにかく人生の無駄というものを満喫していた。
帰ろう、と思った。日が暮れるとただでさえ暗い森が一層暗くなる。そうなる前に早く帰ろう。
てくてくと、無意味に回ることもなく普通に歩いて家を目指す。少しばかりひらけた場所にある我が家。その扉に手をかけようとした時だった。
「おーい」
と、声をかけられた。
声のした方――上空だ――に目をやると、白黒の服を着た人物が箒にまたがって宙に浮かんでいる。
その人物はスゥーと降下してくると、私の目の前に着地した。
えぇと、まりさ……だっけ?
「おう、最高に普通の魔法使い、霧雨 魔理沙だぜ」
……最高に普通ってなんか変よ。
「ん、そうか? だったらなんか適当に考えてくれよ」
別に普通の魔法使いでいいと思うけど――ってそんなことはどうでもいいのよ。
私がそう言うと彼女――霧雨 魔理沙はけらけらと笑った。
思い出した。霧雨 魔理沙。普通の魔法使い。白黒。一応人間。以前、山に侵入しようとしていたから追い返そうとしたら返り討ちにされた。人間のくせにやたら強い奴である。
それで? 何の用なのよ。
「お前を迎えに来たんだぜ」
? なんで?
「なんでって、宴会だぜ宴会。今日はひな祭りだろ? だから神社で宴会でもやろうと思ったら、霊夢の奴が『そういえば山には雛って名前の厄神がいたわね』って言うもんだから、みんなを代表して私が迎えに来たんだ」
みんな?
「みんな。結構たくさん集まってるぜ。ほら、さっさと行くぞ」
え、あ、ちょっ……。
魔理沙に腕をグイグイ引っ張られて、私はもう暗くなった夜の空へと飛び立つ。
掴まれていない方の手でそっと自分の頬を撫でてみると、私は微かに笑っていることが分かった。
◇ ◆ ◇
私と魔理沙が神社の境内に降り立ったとき、すでにそこにはたくさんの人妖たちがいた。山で良く見かける顔から、まったく知らない顔まで。どうやら私が山で静かに暮らしている間にまた新しい住人が増えたようだ。
「遅いよ魔理沙ー」
「悪い悪い。じゃ、後は適当に楽しんでくれよ」
魔理沙はそう言うと、どこかのグループに混ざりに行ってしまった。別に薄情だとは思わない。宴会はそれぞれで楽しめばいいわけだし。
さて、どうしようかな。
私は基本的に山からは出ないので、新しく来た人たちと飲んで親交を深めるのもいいかもしれない。それとも慣れ親しんだ山の連中と飲もうか。
周りとくるりと見渡すと、山の連中と新しい住人たちが程よく入り交じって飲んでいるグループがあった。丁度いい。あそこに入れて貰おう。
◇ ◆ ◇
翌日、普段よりも遅い時刻だけど、宴会明けにも関わらずスッキリと目覚めることが出来た。
しばらくぼぉーっとして、昨日の宴会の余韻に浸る。
仲良しの河童とたくさん話せた。新しい住人たち(命蓮寺という寺に住んでいるらしい)とも親しくなれた。余興としてくるくるとダンスを踊った。一緒に真似をする人たちがいた。そのせいで気分が悪くなって吐いている人もいた。とても騒がしかったけど、楽しかった。
厄を集める私は嫌われることもあるけれど、それでもこうして笑って過ごしていけるなら、まだまだ生きていけると思うのだ。
だから私は、今日も回って厄集め。
くるりくるくる くるくるり
まるで絵本のように和やかな情景が目に浮かんできました。
雛がとても可愛らしく描けていたと思います。
いいお話でした。
ほのぼのしていても、ベタベタしていない。
こういう幻想郷であってほしいと思う。