Coolier - 新生・東方創想話

蓬莱山 輝夜は永遠に生きていく

2010/03/03 16:33:38
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腕の良い薬師が居る。
彼女の作る薬は人里の誰が作るよりも優れていた。
だからこそ、彼女の元へ訪れようとする人は絶えない。
薬師の居る屋敷に辿り着くには、竹林を抜ける必要がある。これがどうしても人を迷わせる。

とある男が居た。

娘が風邪を引き、里で流通している薬では治まらなかったのだ。夜が降り熱が生まれた。朝が昇り咳で苦しんだ。
このままでは、娘は死んでしまうのではないか?
脳裏に不安が過ぎると男は駆け出していた。家を飛び出て、里の人ごみを駆け抜け、森を過ぎ去り、竹林へと。
竹林を前にして男は立ち止まり、息を呑んだ。
迷ってしまう。男は根拠もなく、肌でそう感じた。竹と竹の区別は付かず、林の中には似たような景色が広がっている。
「……っ」
川に潜るかのように、息を詰めて駆け出す。
こうしている間に愛しい娘の命が削られている。呆然と佇んでいる暇は無い。焦躁感に駆られ、男は判断を誤った。
無闇に走っても竹林は 応えてくれなかったのだ。同じような所をグルグルと。まるで狂った犬になったような気がした。
一刻経った頃だろうか。
唐突に彼女が目の前に現れたのは。
「っ……アンタは……?」
長い髪の少女だった。顔立ちは整っていて、二つの眼球は洞穴のようだ。しかし、その奥には一筋の光が差していた。光を見つめれば、少女の瞳に意識が呑み込まれそうになる。
少女は引力を感じさせた眼を静かに伏せる。
「付いてきて」
ぶっきらぼうな口調で少女は踵を返した。
そういえばと、男は昔聞いた話を思い出す。竹林に迷うといつの間にか、見知らぬ少女が現れ、竹林を案内してくれると。
「あ、ああ」
戸惑う。しかし、今は藁にも縋る思いだ。男は少女の言葉に従った。どれくらい歩いたのだろう?気付けばいつの間にか、眼前には見慣れぬ屋敷が存在していた。
もう一度、男は自問する。
――――どれくらい歩いたのだろう?
ふと、少女が振り返る。
「行かないの?」
夢から覚めたような表情の男に、少女は訝しげな視線を注ぐ。
「あ、嗚呼……。助かったよ」
「良いから行きなさい」
少女は容赦ない言葉で殴るようだった。むすっとした顔には愛嬌が滲んでいた。
呆気に取られ、しかし直ぐに男は小さく頭を下げて駆け出した。ガラッと玄関を開け、閉めるのも忘れて靴を跳ね脱いだ。礼儀さえ忘れたように。
薬師――八意 永琳を訪れる者の殆どがそうだった。
よっぽど急いでいるらしい。大方、身内の命が危ないのだろう。
少女は肩を竦めて、玄関へ歩み寄る。
「やれやれ」
戸を閉めると、永遠亭の向こうから誰かが落ちてきた。
「あ、ヤバッ」
危なげもなく、あっさり着地した兎は少女を見て、口元を引きつらせる。
応えるように少女はニッコリと笑って首を傾げた。
「鈴仙が襲ってくるのよ。何もしてないのにね。何でだろ?レイセンちゃんが怒るような事したかなー?」
不意に怒声が響いてきた。次第に声量は大きくなってくる。後、一分も経てば、この兎に辿り着くのだろう。
逆に言えば、後一分は大丈夫だと言うこと。
兎は―――因幡てゐは疲れたように首を傾けコキリ、と鳴らす。
「貴女達は相変わらず楽しそうね」
少女に言われ、てゐはニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「そりゃあ、そうよ。鈴仙ほど面白い奴はあんまり居ないね」
てゐはカラカラと笑い始める。
「誰がっ、面白いだって!」
頬を打たれたようにてゐは肩を強張らせる。
てゐの背後に突然兎耳の少女が現れたのだ。そして、てゐへと手を向けた。握りこぶしを作り、人差し指だけを伸ばした奇妙な形で。
「鈴仙、待って!」
慌てて、てゐは横に飛んだ。
「待たない!」
鈴仙と呼ばれた少女の”銃口”が、てゐを見つめ続ける。瞬間、伸ばした指先から真っ赤な弾丸が発射された。
弾丸はてゐの頬を掠めて竹林を薙ぎ倒していく。なんて自然に優しくないのだろうか。
てゐはチャンスと見たのか、そのまま竹林の中へと逃げ込んだ。
「待ちなさい!私の服何処にやったのよ!」
鈴仙も慌てて追う。その様はまるで少女に気付いていないようだった。
「はぁ……」
少女が溜め息を洩らすと、鈴仙の足取りはピタッと止まった。古びた人形のように体を軋ませながら、少女へと首を捻る。
「……えッ?姫様、居たんですか?」
「ずっと居たわよ?遊ぶのも良いけど、竹林は荒らさないでね。さ、追いなさい」
何か言いたげな表情を浮かべるも、鈴仙は深く頭を下げた。そして、とーん、と軽やかに竹林へと身を投じて消える。
少女はもう一度、肩を竦める。黒い長髪がさらり、と音を立てるように靡いた。
「やれやれ」
呆れても何も変わらない。
―――――これが蓬莱山 輝夜の一日なのだから。






















蒼い空が広がっている。
偶には外に出ろ。
これは、憎くて殺したい程愛しい人の言葉だ。素直に従ってる訳ではないのだけど、輝夜は人里に居た。
人が集まれば喧騒が生まれる。輝夜は大通りの隅っこで、人が行き交う様を眺めていた。
永琳から薬を受け取った男性を、里まで送り届けたのだ。
竹林では因幡達が喧嘩をしているのだろう。普通の人間が巻き込まれれば、怪我をしてしまう。
聞けば、一人娘の為に永遠亭まで訪れたらしい。
もし、その帰りに死んでしまえば怨霊にでもなってしまうのだろう。
怨霊は薄暗く、とても五月蝿い。輝夜の嗜好として、竹林は静かな方が好きだ。
さわさわ、と風に竹の葉が擦れ合う音がとても耳に馴染む。竹林の中で眠るのは心地良い。
「おや、これは珍しい」
人ごみから抜け出て、誰かが近寄っていく。
彼女の事は輝夜も知っていた。
「どもー。清く正しい射命丸 文です」
「あら、珍しい顔。こんな所でどうしたの?」
たはは、と文は苦笑する。
「いえいえ、それはこっちのセリフですよ。貴女が里まで足を運ぶなんて珍しい。どうかしたんですか?」
「道案内よ」
その一言で十を知ったように文は頷いた。口元には終始、笑みが浮かんでいる。
文は瞳を「貴女も物好きですねぇ」と、言わんばかりに細めた。
「記者さんこそ、なんで此処に?」
「嗚呼、では輝夜さんもお一つどうでしょうか?」
文は膨らんだ上着のポケットから一つ、丸いソレを取り出した。
「夏みかんです。今は春ですが。私としては冬のミカンこそ至高だと思うのですが、さっぱりした夏ミカンも美味いものですよ」
「……ミカン買いに来たの?」
「ええ。そうですよ?」
なんでもないように告げると、文は皮も剥かずに、ミカンを二つに折り別ける。
どうぞ、と手渡されたミカンを輝夜は受け取った。
「ミカン好きなの?」
「ええ、好きですよ?」
輝夜の質問もそこそこに、文は皮を剥いてミカンを口にする。
「うわっ」
文は酸っぱい、と顔を顰めた。そして、トントンと頭を人差し指で突付きながら言葉を紡ぐ。
「ココが疲れた時にこそ、甘い物を取るべきですよ」
「でも、これ酸っぱいんでしょう?」
「ミカンですよ?」
有無とすら、輝夜の口からは言葉が出なかった。
まるでミカンを食べるのは世界の常識だと言っているようだ。
つい、手の中で持て余したミカンを訝しげに見つめた。
「食べないなら私が食べましょうか?」
「貴女は人にあげた物を返せって言うの?」
「ははっ、冗談ですよ」
文は苦笑して首を横に振るった。
しかし、ミカンに注ぐ視線には冗談は混じっていなかった。
やれやれ、と輝夜はミカンの皮を剥く。
一つ指でつまみ、口元へ運ぶ。しかし、中々口にする決心は付かなかった。
酸っぱい食べ物は何故、躊躇ってしまうのだろう。
食事に梅干が出ても、輝夜は決して手は出さなかった。梅干よりも、蓬莱の禁薬の方がまだ口にしやすかった気がする。
「酸っぱいって言われると食べづらいわね」
「なるほど。輝夜さんはアリクイという動物を知っていますか?名前の通り蟻を食べるそうです。蟻は甘いそうですよ?輝夜さんは甘い蟻と酸っぱいミカン、どちらを食べたいですか?」
「……貴女は何を唐突に怖い事言ってるの?」
「ははっ、冗談じゃないですよ?」
「……え?今、なんて――?冗談じゃ、ない?」
文の視線は輝夜から地面へと移ろう。蟻を探しているのは明白だった。
「うわ、本気で探してるわ。信じられない」
何故、そんな事を言うのですか?と、文は首を傾げる。
その行動さえも白々しい。本気で蟻を食わせるつもりだ。
「まぁ、本気にしないでくださいね」
膝を屈め、文は蟻を摘んで見せ付ける。言ってる事とやってる行為が正反対だ。
輝夜だって、里の子供が虫を取って自慢するぐらいの事は知っていた。
だけど、文は輝夜に蟻を食わせて自慢するのだろう。本気で性格が悪い。いや、本気で頭が悪い。
「貴女、喧嘩売ってるの?」
「蟻。」
「っ、何が”蟻。”よ……?絶対に頭おかしいわ。良いわよミカン食べるから」
決心を固める為に輝夜は深く息を吸って吐く。
そして、一息でミカンを口に放り込む。
「……ぅっ」
輝夜は眼を瞬かせて文を見る。
文は嬉しそうに笑っていた。輝夜の反応を心の底から楽しんでいたのだ。
「どうです?甘いでしょう?」
甘かった。酸っぱいと思っていたら、口の中にはミカンの程よい甘さが広がったのだ。
ぽいっ、と摘んだ蟻を放り捨てて、文もミカンを口にし始める。
「酸っぱい酸っぱいと思い込んで、実は甘かった。そのギャップを楽しんで貰いたかったのですよ」
「その為にわざわざ蟻まで捕まえて……考えられない」
「いえいえ、本気で蟻を食べてもらおうなんて考えて無かったですよ。蟻にだって命はあるのですよ。そんな酷い事は出来ないです」
「……今、そこら辺に蟻を放り捨てた人の言葉じゃないと思うの」
「まぁ、小さい事は気にしない。――――蟻だけに」
一人、口元を抑えて笑いを堪える文。
無性に輝夜はこの場所から立ち去りたくなった。
「貴女、名前は?」
「さっき名乗ったと思いますが、良いでしょう。射命丸 文です」
「そう。射命丸さん。二度と私に話しかけないでね」
ニッコリと言い放ち、輝夜は踵を返した。
「嗚呼、待ってください。冗談です、冗談ですから許してください」
不意に小うるさく、ザラついた土煙が舞う。風を撒き散らしながら文は飛び跳ね、輝夜の眼前に回りこんだ。
つい、輝夜は溜め息を洩らしてしまう。
「まだ妹紅の方が、冗談が上手かったわ」
「あの方と比べられると、輝夜さんを楽しませる自信は無いですね。いや、それにしても……」
文は眼を白黒させながら、輝夜を足元から頭の天辺まで見つめ始める。
「輝夜さん。話しやすくなりましたね。以前は超然としていて、ただ人形がくすくす笑っているような人だと思っていましたが」
「お姫様だったからね」
「随分と俗物的なお姫様になりましたね。でも、良いと思いますよ?籠に閉じ込められていては、鳥も飛べなくなる。これも妹紅さんのお陰ですね」
あははは、と軽やかな笑みで文は告げた。
しかし、視線はしっかりと輝夜を捉えている。輝夜の表情から何かを読み取ろうとしてるのだろう。
「ふ、ふふふ」
輝夜は着物の袖で口元を覆って、笑い始める。
内心で舌打ちをしながら、文はさらに言葉を紡ぐ。
「でも、一体誰が妹紅さんを殺したんでしょうかね?犯人は見つからない。妹紅さんを殺すなんて可能な人は限られていると思うのですが」
―――――藤原 妹紅は死んだ。
死ねないのに、死んだ。
今頃は地獄にいるかもしれない。
永遠に生きるはずだった妹紅は、永遠に匹敵するような罰を受けているのだろう。
「さぁ。私も知らないわ。嗚呼、妬ましいわね。死んでしまえて」
輝夜は文の横を通り過ぎる。背中を見せつけ、里の外へと進み行く。
文が追ってくる気配は無かった。ただ最後に、と文は尋ねる。
「輝夜さんは大丈夫なのでしょうか?拮抗する相手が居なくても」
輝夜は答えなかった。
文には、答えないのが答えだと言っているように思えた。
























輝夜には永琳が居た。
永遠を前に、心は容易く砕けてしまう。
同種が傍に居るという意味は、輝夜にとって恐ろしいぐらいに大きい。
永琳が居なくなってしまえば―――。
暗闇に包まれるような、独りで時を過ごす恐怖。想像するだけで膝が笑い出す。
「妹紅は今までどう過ごしてきたの?」
殺し合いの終わる頃合だった。
月が雲に隠れた夜。真っ暗な竹林での行為だった。
輝夜は妹紅の上に乗っていた。ぬるり、と腹部に突き刺した右手を引く。
暗闇の中で互いの熱を感じながら、ごぽりと、妹紅は口から血を溢しつつ答える。
輝夜が掴み千切った臓物が燃え始めた。輝夜は離さなかった。ただ自分の手が焼ける痛みを感じ続ける。
「狂ってたよ。三百年ぐらい経ってからだな。どうしようもなかった。いっそ、こうして体をグチャグチャにされたいと思った」
死ねないけどな、と妹紅は綺麗に赤く笑った。腹部から生まれる炎で笑顔が照らされる。
ソレを眩しいと輝夜は思った。橙に染まる白髪に左手を伸ばして触れる。
「よく大丈夫だったわね」
「まさか。体が崩れていくんだ。心が割れると、体にもヒビが入る。それを血で埋めようと、馬鹿みたいに妖怪を殺してきた」
「そう」
砂を掬って落とすように、輝夜は白髪の感触を堪能する。
輝夜に自分の髪を遊ばれても、妹紅は言及しなかった。今更だった。中身を全て晒しているのだから。
気にした様子もなく、妹紅は言葉を紡ぐ。
「別に誰かの血じゃなくても良かったんだ。自分の血でも良かった」
「誰かの血なんてダメよ」
輝夜は墨のように黒く焦げた右手を揃える。そして、妹紅の胸に突き刺した。指が熟れた桃を穿つような感触。
妹紅の胸から泉のように血が溢れ出す。
ねっとりとした液体が火傷に障り、びりびりと皮膚が引きつるような痛みが生まれた。
「私が居るわ」
妹紅は答えなかった。火のように赤い瞳孔がゆっくりと広がる。眼球の張りが損なわれ、瞳孔は拡散していくのだ。
それでも、綺麗な眼球だと輝夜は思った。舌で抉ろうと、体を合わせていく。
血が輝夜の指と指の間から滴った。血で熱を持った股のこそばゆさを感じながら、妹紅の頬に手を添える。
不意に妹紅の全身が燃え始めた。ごほっ、と輝夜は咳き込んだ。
「っかはっ!ひゅ、げほ」
炎が肺に入り込んでいく。苦しげに咳を重ねる度に、炎は輝夜の体内へ。
文字通り、胸が焼ける。
息が出来なければ、人は死ぬ。くらり、と頭の中が歪み、全身が弛緩した。
輝夜がゆっくりと倒れていく。
ゆらり、と炎が身動ぎする。
一本の棒が、妹紅の右手が持ち上がった。そして、輝夜の喉を突いた。鈍い音を立てながら、輝夜の体は無造作に後ろへ倒れ込む。
暫らくはそのままだった。
「あー…」
妹紅は上半身を起こし、「あー」と喉を慣らした。
輝夜も同じように呻く。
ただ、輝夜は仰向けに寝転んだままなのだけど。
右目の瞼を伏せて、妹紅は訝しげに尋ねる。
「おい、どうした?」
「うんー?妹紅は凄いわねぇ……」
「何がだよ」
「独りっきり。私は耐えられないと思うの。……今日は冷えるわね」
輝夜は右手を空に伸ばす。竹の葉が幽鬼の如く不気味に揺れている。ユラユラと、二人を見下ろしているようだ。
やれやれ、と妹紅は立ち上がって、輝夜の元へ歩いていく。
「ほら。さっさと起きなよ」
「むーりー。起こして。というか、背負って」
もう一度、妹紅はやれやれと呟く。
輝夜の手を引っ張って、上半身を起こした。
そして、輝夜は両手を妹紅へと伸ばす。
まるで赤子のような様に、妹紅は口元を歪めてしまう。
「本当に輝夜大丈夫か?」
トントン、と自分の頭を指で示しながら妹紅は尋ねる。
「大丈夫も何も、妹紅が居れば問題は無いわ」
「じゃあ、私が居なくなったら?」
「……え?」
ふっ、と苦笑しながら妹紅は輝夜に背を向けた。そして、膝を屈めて背中を見せる。
「早くしろよ」
催促され、輝夜は両手を妹紅の肩に回す。
「ねぇ……妹紅って」
「んー?どうした?」
妹紅は輝夜を背負い、膝を伸ばす。
そのまま迷うことなく永遠亭への帰路についた。
「妹紅って、”おぼこ”なの?」
「っな、な、―――」
突然、何を言い出すのか?
何か言葉を返そうにも、こんな時に限って見つからない。
妹紅は恥ずかしそうに顔を俯かせ、小さく何か呟くも、どれも言葉になっていない。
「ふーん。へぇ、可愛らしいわねぇ」
「うっさい、馬鹿!死ね!」
「さっきまで殺しあってたじゃない。まだ足りないの?」
「ああ、足りん!もっと死ね!くだらない事言えなくなるぐらい死ね!」
あははは、と輝夜はケラケラ笑い出す。
「言っとくけれど、私は妹紅の事が好きよ」
「あっそ。私は大ッ嫌いだよ」
不機嫌そうに顔を顰めて、妹紅は赤い唾を吐く。
「で?何が言いたい?」
「んー、千年以上生きてて経験がないのは――」
「そっちじゃない!」
「ふぇ?」
あー、もー、と妹紅は舌打ちをする。
妹紅が言いたい事はそうじゃなかった。
何せ、長い付き合いなのだ。輝夜が何を思ったのかぐらいは分かってしまう。
「さっきの話。もし一人になったらどうするのかって話」
「あー、そっち?てっきり猥談でもしたいのかと思ったわ」
「そんな話、お前となんかしたくない」
「そう?まぁ、良いわ。独りは嫌よ。怖いもの。だから、――――私も妹紅とそんな話はしたくない」
「……そっか」
妹紅は輝夜の考えが大体分かる。
つまり、その逆も然り。
静寂が降りる。
ただ、竹の葉が囁く音と妹紅の雑踏が響いていた。
「ねぇ、妹紅」
「なんだよ?」
喉を鳴らし、輝夜は緊張した面持ちで口を開く。
心がヤメロと叫んでいた。
だけれども、永夜の異変からずっと言おうと思っていたことだった。

「死にたい?」

妹紅は答えなかった。
輝夜の心に亀裂が生まれる、体が崩れていく気がした。
夜風が体の隙間に入り込むようだった。ズキズキと、胸の中が苦痛で疼く。
そんな冬の日の出来事。






















竹林には大きな樹が一本生えている。
文と別れてから、輝夜は竹林を進んだ。
茂みを蹴り別けると、一際開けた場所に出る。その中心に大きな樹が荘厳と佇んでいた。
ふと、輝夜は眼を瞬かせる。
「……ここで逢ったのはあの時以来ね」
蒼い洋服の少女が、樹を見上げていた。蒼の混じった白髪を揺らし、少女は振り返る。
「輝夜。また今日も里の人間が世話になったそうだな」
やんわりと微笑を浮かべて、少女――上白沢 慧音は輝夜へと近寄っていく。
「あそこまで必死な顔をされると助けたくなるものよ」
捻くれた答えに慧音は頬を綻ばし、「そうか」と、呟いた。
「また、何か竹林であったら頼むよ」
「頼まれなくても、竹林で暴れるなら貴女でも容赦はしないつもりよ」
「それは頼もしいな。……では、私はそろそろ行くよ」
目を伏せて、慧音はゆっくりと輝夜の傍を通り過ぎていく。
「あ、待って。少し話をしていかない?」
「……話?何かあったのか?」
歩みが立ち止まる。振り返った慧音の目付きは、銀色のナイフを思わせる。
確固とした意思。性格が真面目故に、何か異変があれば全力で人間を守るのだろう。
頭が固いとも言えるのだけど、今の輝夜にはその反応が可笑しかった。
「蟻を食べさせられそうになったわ」
輝夜は眼を閉じて、歌うように言葉を紡いだ。
「蟻?」
慧音の渋い表情を、くすくすと楽しみながら、輝夜は樹の元に歩み寄る。
「そう、蟻。射命丸だったかしら……?あの新聞記者がミカンか蟻か、食べるならどっちにします?って」
地面に腰を下ろし、輝夜は樹に背を預ける。
「ああ、成る程。アイツは何というか、ミカン即売協会の回し者か?」
「なにそれ?そんな、ヘンてこりんな会があるの?」
今度は慧音が笑う番だった。
苦笑を浮かべながら、いや、と首を横に振った。
「私も隣に良いか?」
「良いわ」
樹の幹へ戻り、スカートを抑えながら慧音も座り込む。
「そんな会はない。今、私が作ったものだ」
「……歴史を操ったの?でも、満月じゃ―――」
「ははっ、違う。冗談だという意味だよ」
「嗚呼、なるほど。そういう事ね。よくも謀ってくれたわね」
「すまない。謀ってしまったよ」
輝夜は険の込めた瞳で慧音を見据えた。
慧音も真剣な眼差しで応えた。
緊迫した雰囲気が流れるも、それは一瞬程度しか保たなかった。
くすり、と。ははっ、と互いに笑い始める。
「どうも私は未だに冗談が苦手らしい」
「そうね。会話慣れしていない私と同じレベルなんだから相当なものよ」
「この前も子供たちにからかわれてな。ちょっとショックだったよ」
慧音は肩を落とす。
輝夜にしてみれば、教え子達にからかわれるのは仕方ない事だと思った。
年頃の少年少女なんて、悪戯する盛りではないか。
それに、慧音の性格は誰が見ても好ましいものだった。きっと、好意から生まれる悪戯だろう。
知らず知らずに輝夜の視線は、柔らかいものに変わっていく。
「それだけ貴女が愛されているという事でしょう?もっと胸を張って良いと思うわ」
「うぐっ。……胸、か……ふふ」
慧音の表情は陰を含んだ苦笑に変わる。自嘲気味に肩を揺らして、暗く笑い出した。
どうやら、胸の事で何か言われたらしい。
ちらり、と輝夜は横目で一瞥する。慧音の胸を。高々とそびえる二つの丘を。そして、自分の胸を見下ろしてみる。
――――見事な絶壁だ。
「この、うし乳」
怨みを込めた呟きだった。
「ぁあ、それを言われたんだ。仕方ないだろ……。体質なんだから」
「はい、お母さん」
「……ん?」
「なんだ、お前の母ちゃん、慧音先生かよ」
「輝夜……?」
「違うよ。誰が、こんなうし乳なんか……!」
「っくぅ!止めてくれ!もう嫌なんだ!聞きたくない!」
いやいや、と慧音は耳を塞いで首を振るう。
輝夜はくくくく、と不気味な笑みを浮かべながら、慧音の肩に寄りかかる。
「けーね先生ー。なんでそんなに胸が大きいの?」
「ぐぅぅ……!」
「あは♪それはね、毎晩――」
「五月蝿い!」
耐え切れないと慧音は輝夜のコメカミを片手で掴む。
ミシミシと頭骸骨が鳴き声をあげる。
「痛い痛い痛いっ!嘘よ、冗談よ、許しっ痛い!」
頬を仄かな薄紅色に染めて、慧音は深く息を吐く。体内の憤りを冷ますために。
溜飲を下げたのか、ゆっくりと輝夜の頭から手を離していく。
輝夜はこめかみの軋むような痛みを、両手で押さえつける。
「……っぅぅ…、まさか、寺子屋の子供達にこんな事してるわけじゃないわよね?」
「そうだな。いつもは頭突きだよ」
慧音の事だから、恐らくは頭突きも相当の威力を持っているのだろう。
輝夜は人知れず、子供達を哀れんでしまう。
「ああ、話は変わるんだけどな。輝夜、――――うちに来ないか?」
その言葉の意図が読めず、輝夜は涙目で首を傾げる。
「寺子屋で教鞭を取ってみないか?きっと、面白いぞ」
今さっきの苦しそうな悩みを振り切り、慧音は笑った。
ニカッと、爽やかに。お日様のように暖かさを発している。
「……面白い?」
「ああ、面白い。やるか?」
面白いと言われれば、やるしかないのだろう。
娯楽性と面白さは似てるようで、似ていない。
娯楽とは輝夜自身が楽しめればいいのだ。それは妹紅が居れば足りていたこと。他に娯楽なんて求めなくても良かった。
しかし、面白いとは自分も含め、周りの人間も楽しいと思える状態だ。
つまり――――、独りじゃない。
「……考えておくわ」
「ああ、待ってるよ」
話は終わったと、慧音は片膝を立てる。
「もう行くの?」
慧音は一つ頷いて、立ち上がった。
「ああ、輝夜が助けた少女の容態を見に行こうと思ってな。来るか?」
「遠慮しとくわ。さっき里に行ったばかりだもの。それに助けたのは永琳よ」
「命を救う薬があっても、手元になければ意味は無い。永琳も輝夜も、本当に有り難う」
雑踏で音を生み、慧音は去っていく。
「―――そうだ。聞きたい事があったんだ」
「なによ?」
振り返り、慧音は恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。
「蓬莱人は子供が産めないのか?」
輝夜は目を瞬かせ、しばらく逡巡した。そして、的外れな事を口にする。
「……それ、プロポーズ?」
「違う違う。妹紅が気にしていたんだよ。私みたいなのは母親になれるのか?って」
「好きな男が居たの?」
「いや、それもまた違うらしい。妹紅はな、永遠よりも恐れていたものが二つあると言った。それは蓬莱人の子は正常なのか?もしくは、自分の子が自分よりも早く死んでいくのではないか?と」
慧音は踵を返した。淀みの無い足取りだった。今度こそ、立ち去るのだろう。
背中越しに慧音は告げる。
「妹紅は……命を紡ぎたかったのかもしれないな」
茂みの向こうに慧音の姿は薄っすらと消えていった。
残された輝夜は寄りかかった背中をずるずると、滑らせる。
「……そうだったの?ねぇ、妹紅」
陽はまだ高い。
それでも竹林の影を乗せた風は、肌に冷たい。
「分からなかったわ。そうよね、人の心なんて誰にも分からないもの」
それでも。
輝夜の心には妹紅しか居なかった。執着できる人は妹紅だけだった。
今まで、心が通じ合える一瞬は合った。
それだけを大事にしてきた。
互いに憎み、血を欲して殺しあう時間。
――――妹紅は居ない。
だから、今こうやって妹紅の思惑に触れた。
輝夜にはそれが嬉しかった。
人は死んでもすぐに終わる訳じゃない。こうして、名残が沢山の人に影響する。
残された妹紅の影を愛しく思いながら、輝夜は嘲笑する。
「私を閉じ込めた籠は二つあったの。月と妹紅。私は……、ちゃんと飛べていると思う?」




























とある冬の日の出来事。

夜が深けるにつれ、風が強まっていく。竹林のざわめきが止まない。
こんな日は妖怪が活発になるのだ。里の外れで音に紛れ、闇に扮し、人を襲う。
とはいえ、蓬莱人にしてみれば脅威になりうるのは、単純に肌寒さだけ。
風を凌ぐためと、輝夜は私室に妹紅を招いた。
部屋の中心にはこたつがある。二人でこたつを囲い、心地の良い暖かさに包まれていた。
「ふわぁ……、くしゅんっ」
うぅ、と輝夜がこたつの上にしな垂れる。
「欠伸したり、くしゃみしたり、器用な奴」
妹紅は手元に視線を注いだまま、声だけを呆れさせた。
忙しなく妹紅の指は動いていた。四角い箱を弄くっているのだ。
永琳が暇つぶしにと、輝夜に手渡したもので名前は「ルービックキューブ」
六色に振られた、54のマスを一平面毎に色を揃えていく玩具。
奇しくも、その玩具で暇を潰しているのは輝夜ではなく、妹紅なのだけど。
「ねぇ、それまだ出来ないの?最近、ずっとそればっかりじゃない。ちょっと頭を使えば出来るでしょうに」
やれやれ、と妹紅は肩を竦めてソレを輝夜へと放り投げる。
「じゃあ輝夜がやれよ」
「嫌よ」
弧を描いたルービックキューブを輝夜は手の甲で払いのける。
ころん、ころん、と畳を転がって、ルービックキューブは止まる。虚しいことに、色は少しだけ揃えてあった。
「永琳は三秒で出来るわよ?」
「アイツが三秒で出来ても別に驚かないよ」
「片手で三秒なのに?」
「嘘!?なにそれ、本当かよ?」
片手でどうやって、マスを回せるのだろう?
試しに妹紅は右手をグニャグニャと蛸のように動かしてみる。
どう動かしても、ルービックキューブのマスを回せるようには見えない。
「モコたん」
輝夜は人差し指を妹紅に突きつける。
「その動き、卑猥よ」
「黙れ馬鹿。次、モコたんって言ったら死ぬまで顔面だけを殴る」
「モコモコたんたん、もこたんたん」
トトン、と指先をコタツの上で跳ねらせて輝夜は口ずさんだ。
まるで夜雀が歌うような、楽しげな表情だった。
妹紅が怒ると思いきや、意外な反応を見せた。妹紅は呆れたように苦笑する。柔らかい目付きで輝夜を見据えた。
「なぁ、輝夜。お前も暇な奴だな?嗚呼、話は変わるが、生きてる意味って考えた事ある?」
「月に居た頃によく考えていたわ。私は何の為に在るのかしら?って」
「なるほど。じゃあ、蓬莱人になってからソレを考えたことはあるか?」
「無いわ」
蓬莱人には今しかない。
永遠に生きるとは、果てのない竹林を進むようなものだ。
進めど進めど、何も変わらない。そこが未来なのか、過去なのか、分かるのはただ進む”今”の自分だけ。
「意味が無いもの。生きてる意味なんて要らない。私はただ、永遠に在り続ける。蓬莱人とはつまり、ソレでしょう?」
「慧音にその台詞を吐いてみな。きっと、痛い目みるよ」
「嫌よ。痛いのは好きじゃないもの」
「散々殺しあってそれは無いんじゃない?」
「アレは痛い以上に楽しいからよ。私達、蓬莱人が永遠を忘れて、唯一生きてる実感を覚える時間だから」
「……本当にそう思うか?」
一拍の間を置いて、妹紅は静かに尋ねた。
静かに、針のような視線で輝夜を見据えていた。言外に、何かを語りかけている。
ただ、輝夜は妹紅の言わんとしている事が分からなかった。それが残念で、チクリと胸に針が刺さったような痛みが生まれた。
「輝夜。偶には外に出ろ。私は空に融けるような夕陽が好きだよ」
「そう?今度機会があったらね。永遠に時間はあるんだから、永遠の時間の中でいつか見ると思うわ」
「……やっぱりお前は月のお姫様だよ。人間じゃあ―――ない」
妹紅の言葉を境に、氷のような静寂が降りる。
輝夜は視線を逸らした。そして、体を翻して手を伸ばす。その先には自身が跳ね除けた、ルービックキューブがあった。
手に取って、再び姿勢を戻す。
かちゃりと、四回だけマスを動かしてみる。
縦に翠色が揃った。かちゃり。次は中心の縦列を合わせようと、動かしていく。その過程で、折角揃えた翠色の列が崩れた。
思った以上に難しい。崩した列を戻し、輝夜は黙考する。
ふと、妹紅が楽しげに口を開く。
「お前の須臾の能力でさ、パパッと揃えてくれよ」
「ええ、そんなの簡単…よ…?………っ」
輝夜は歯軋りと共に、苛立ちを露わにした。
その様を妹紅はゆっくりと眼を細めていく。やんわりと見つめる視線は、温かく包むかのようだった。
「っ……。なんで、出来ないのよ?」
「だろうね。今のお前じゃあ、無理だよ。須臾の力で現状全ての可能性を費やしてもそれは解けない。永琳が渡した奴だろ?そう簡単に行くもんか」
「知ってたの?コレがこんな玩具だなんて」
「ああ、薄々な。でもさ。その玩具、永遠の時間と同意義の須臾の力でも無理だった。ほら、永遠なんて、大したことはないだろ?」
ケラケラと妹紅は頬を綻ばせる。
結局のところ、妹紅は何が言いたかったのか?
内心、輝夜は不思議に思いながらも、胸に手を当てた。ふと、心臓の鼓動に気が付いた。平常時であれば一定のリズムを刻む。
しかし、ならば、今この心臓はなんで鼓動を早めているのだろうか?
「だから、輝夜。私は永遠如きに負ける訳じゃない。ただ、私らしく生きたいから、死にたい。輝夜、私は死にたいんだ」
あー、と輝夜は頭を抱えて、顔を俯かせる。
嫌な予感が頭の片隅で覗いているのは、気付いていた。だけど、妹紅の言葉は予想外だった。
「あのね、妹紅?言ってる意味が分からな――――」
「輝夜なら出来るんだろ?」
何を?とは、輝夜は尋ね返さなかった。ただ、俯いたまま口を開いた。
「……出来るわ。でも、いつから気付いていたの?」
「永琳が教えてくれた。永夜の異変が終わってからだな」
「そう、私も丁度同じ時期に思ったわ。仮初めの永夜を終わらせる事が出来た、確かに私は永遠を終わらせた」
「永琳が保証したよ。輝夜だけが蓬莱人を殺せると」
洞窟に居るかのように、輝夜の声だけが異様に響く。
「なんで、そんなに死にたいのよ……?」
いんや、と妹紅は首を振るう。
「輝夜は私の事が好きだと言ったね。私も輝夜の事は好きだよ」
「珍しい。素直ね。最後ぐらいは、とかそんなつもりじゃないわよね?」
妹紅は答えず、ただ立ち上がって輝夜へと近寄っていく。
スッと輝夜の傍に音も無く、座り込む。面を上げて、輝夜は向き合う。穏やかな表情で、眼を伏せる妹紅と。
嗚呼、蝋燭の灯りのようだと、輝夜は思った。
――――吹けば消える。
輝夜は手を伸ばした。両手を妹紅の頬に這わせる。風で消えないよう、蝋燭の火を囲むかのように。
「私はさー。今までお前への妄執で生きてきたんだ。だから、お前と逢って殺し合うようになってから、余裕が出来た」
「だから、余計な事を考えるようになったの?」
「それも違うよ。私は、私達は楽しく生きれるようになりたいんだ」
「今でも充分楽しいじゃない。私は、今のままで充分よ」
妹紅は声も無く、唇を動かした。「だからだよ」、と。
薄紅色の唇が動きを止め、綺麗に閉じる。兎のように白い肌で、妹紅の唇だけが浮いていた。
食い入るように輝夜が見つめていると、妹紅は再び言葉を紡ぎ始めた。
「輝夜は単純に私が居なくなるのが嫌だから、殺したくないのか?」
くらり、と輝夜の視界が歪む。
「何を言ってるの?本当に訳が分からないわ」
本当は分かっていた。
ただ永遠を前に、妹紅が居なくなるのが怖かったから。
だからこそ、永遠に対しての恐怖が、苦しいほどに分かる。
妹紅が恐れているモノを自分も理解しているからこそ、輝夜はずっと前から、永夜の異変の時から、予感していた。
――――自分が、妹紅の命を終わらせるのだと。
「輝夜ってさ、意外とアレだな。うん。優しいよ、お前」
「……何よ?今頃気付いたの?」
強がって、輝夜は口の端を引きつらせるように笑った。
昔から造り笑いは得意だったのに。今ばかりは、しっかりと笑えなかった。
妹紅の手が伸びる。輝夜の滑らかな黒い長髪に、指を梳かした。
指は昇っていく。髪から肩へ移り、首筋から頬まで。
何かを掬うように目元を這い、そのまま頭の上へ。そして、ポンポンと二度ほど、柔らかく頭を叩いた。
「いんや、知ってたよ。お前が優しいから、きっとこうなるんだろうと」
「妹紅は普通に酷いのね。好きな人を自分の手で殺す、これがどれだけの苦痛か、分からない訳じゃないでしょ?」
「……悪いな。でも、嗚呼。そっか、これは復讐だよ。どうだ?私は酷いだろ」
堰を切ったように輝夜は笑い出した。
体を屈めて、ただ背中を揺する。ゲラゲラと、笑って――――涙を溢した。
「最悪ね。私はなんて恐ろしい人間の恨みを買ってしまったのかしら?」
「私が死んだら竹林に埋めるよう、慧音に頼んであるんだ。輝夜も立ち会ってくれないか?」
どれだけの傷を心に残すつもりだろうか?
輝夜は体を起こした。
もう涙はない。能面のように、取り繕われた薄い笑みが浮かんでいるだけだった。
その笑みの下で、どれだけの感情が蠢いているのか、妹紅は気付かない振りをした。
「ねぇ、妹紅。本当に死にたい?」
最後の問いだった。
妹紅は静かに微笑んだ。それが答えだった。
「今まで楽しかったわ。これから、どうすれば良いのか分からなくなるぐらい」
右手に銀色の鱗弾を生み出して、輝夜は強く握り締めた。
じんわりと熱が生まれる。血が滴り、畳に赤い斑点を作り出した。
「嗚呼、さようなら」
輝夜の右手が、妹紅の胸に突き出される。
大きく妹紅の体が揺れ、輝夜の方へと倒れこむ。
「…ぁー……悪いな…輝夜」
輝夜はゆっくりと妹紅を抱きしめる。
「別に良いわよ。このぐらい」
「……そっか」
抱きしめた体は華奢だった。ヒビ割れた硝子のような感触だ。
これが命の終わり逝く瞬間。
過去、幾度と無く味わった感覚。しかし、それも今日で終わり。
「”ラストスペル”―永夜返し―」
輝夜が呟く。
パリン、と硝子が割れた。
中身が一気に零れたのだろう。
妹紅は既に息をしていなかった。
「……どうか、黄泉路にお気をつけて…。さようなら、妹紅」
その後、輝夜は泣いた。能面を直ぐに剥ぎ取って。
老婆の枯れたような声で、赤子が親を求めるような声で。

ただ、――――泣いた。



























ふと、輝夜は眼を覚ました。
ぼんやりした意識の底で、いつの間にか自分が眠っていた事に気がついた。
夜空には竹林の隙間を縫って、満月が輝いている。
懐かしい夢を見ていた。
「ふっ……くぅ~!」
両手の指を絡ませ、空へと突き出す。パキパキと背骨の小気味良い音が生まれた。
不意に竹林がざわめき始める。
冬の風は冷たく、輝夜は身を震わせて肩を抱いた。
「ぅぅ、冷えるわねぇ。これだから冬って嫌なのよ」
輝夜の独り言を聞いたのか、竹林の影が尾を引いていく。
背中からゆっくりと輝夜の体が温まっていった。
首を捻り、背後にそびえる樹を見上げる。
樹は橙色の炎に包まれていた。
果たしてソレは炎と呼べるのだろうか?触れても火傷はしない。竹林に燃え広がることも無い。
ただ、輝夜を暖め続ける。
「ふふ……ありがとうね」
輝夜は愛しげに眼を柔らかく細めて、樹を見つめた。
この樹は妹紅の遺体を埋めて、すぐに生えてきたものだった。
撫でるように掌を樹に這わせる。
くすぐったそうに、炎が大きく揺らめいた。
うふふ、と楽しげに笑いながら、輝夜は姿勢を戻す。
見据える先には竹林と夜しかない。
「寺子屋かぁ……。明日、行ってみようかしら?」
輝夜の眼には、目の前の光景が映ってはいない。
ただ、明日の事を考えた。
今まで輝夜は未来の事なんて考えもしなかった。
人の世界は忙しない。
自分がどれだけ、ゆっくりした時間の中で生きて来たのかを知った。
皆が皆、明日の為に進んでいる。
偶に立ち止まり、振り返って過去を見やる。
そんな当たり前の行為がどれだけ大切なのかも、知った。
月と妹紅。
籠は、もう無い。妹紅は、もう居ない。
それでも、輝夜は生きていた。
永遠なんて大したことじゃない。そう実感したのだから。
「ふぁ……んー、眠いわね」
再び輝夜は、眼を伏せる。明日の為に早く眠ろう。
そう思える自分の変わりようが可笑しかった。
最後に少しだけ、輝夜は笑った。
そして、眠りに付く。

竹林の中で、樹がゆらゆらと暖かな炎に包まれていたのだった。
























「じゃーねぇー!けーね先生ー!かぐやー!」
夕陽の中、生徒が散っていった。
それぞれが帰路についていく。
輝夜と慧音は寺子屋の前で、その様を眺めていた。
「ねぇ、慧音?」
「うん、なんだ?」
静かに笑いながら輝夜は尋ねる。
「なんで私だけ名前なの?というか、あの子はなんでいつも、私の事を名前で呼ぶのよ?」
嗚呼、と慧音は苦笑いで答えた。
「いや、生徒の中で輝夜の事を名前で呼ぶのが流行ってるらしい」
「流行ってるって、何が面白いのよ?それ」
「輝夜に対して親しみが持てるからじゃないのか?」
「そんなものかしら?」
「年頃の子供なんてそういうものだよ」
ふーん、と興味無さそうに輝夜は寺小屋へと戻っていく。
「嗚呼、そういえば居残りが独り、居たな」
慧音が輝夜の隣へと並ぶ。輝夜は眼を瞬かせた。
「そうなの?」
教師が二人に増えたので、教室も二つに増やした。
だから、慧音の授業で誰かが居残りをしてるとは、輝夜も知らなかった。
「仕方ない事に、眠りこけてな。起こしても直ぐに寝入ってしまう。どうやら昨晩、遅くまで親の手伝いをしていたようだ」
「親の手伝いねぇ。その子の名前は?」
靴を脱ぎながら、二人は寺子屋に上がる。
「鶴森だよ」
不意に輝夜の顔が渋い物を食べたかのように、歪んだ。
あんまりな変わりように、慧音は瞠目する。
「どうかしたのか?」
「あの子、私に対して素っ気無い気がするのよ。その癖、名前で呼ぶの。先生を付けなさいって、何度も言ってるのに」
「はは、鶴森は変わってるからな。本をよく読むし、外でも活発に遊ぶ。それに学業も優秀だ」
「確かにね。それに歴史に興味があるのかしら?随分と詳しいのよ」
「ま、知らないよりは知っていた方が為になるだろう」
ぎしり、と廊下を軋ませながら慧音は教室の戸を開ける。
一人の生徒が座机の上でうつ伏せに寝入っていた。
慧音はやんわりと微笑み、輝夜は呆れたように肩を竦める。
「ほら、鶴森。起きろ」
机の傍に行き、慧音は膝を付いて少女を揺らす。
眠りが浅かったのだろう。
少女はあっさりと体を起こし、眠気でぼんやりした目を擦る。
「ん~?慧音?どうしたの?」
今度は慧音が呼び捨てにされる番だった。
カラカラと輝夜は笑い始めた。
「ふふ、慧音もいよいよ私の仲間入りね?」
ただ、慧音は答えずに少女の頭を掴んだ。
そして、頭を振りかぶり――――。
輝夜は痛そうに視線を逸らした。同時、鈍い音が響く。
「ぁー……ぅぅ」
「ダメじゃないか。授業はしっかり聞きなさい」
少女の呻き声を掻き消すかのように、慧音は説教を始める。
こうなれば話は長くなる。
輝夜は口元を緩めながら、踵を返した。
「私先に帰ってるからー。慧音も程ほどにしてあげなさい」
「あ、輝夜。待って」
少女特有の高い声が、輝夜を呼び止めた。
ピクリと、片眉を吊り上げて、輝夜は振り返り、少女へと歩み寄る。
「気が変わった。私も説教するわ。今日という今日は思い知らせてあげる」
慧音の傍に腰を下ろして、輝夜は身構える。
穏やかな微笑とは裏腹に内心は、憤りで燃えていた。
「紅子?そろそろ、呼び方に先生と付けても良いと思うの。貴女は教わる側、私は教える側、それをはっきりと明確にする為に、先生って名前があるのよ?」
一から十まで、根絶丁寧に叩き込んでやろうと、輝夜は意気込んでいた。
しかし、対する少女はあっけらかんとした様子で言葉を紡ぐ。
「ねぇ?輝夜ってアレ出来たの?出来たんじゃ貸してよ。明日持ってきてね!」
一人嬉しそうに少女は満面の笑みを浮かべる。
あんまりな態度だった。それこそ、正しく友人に接するような態度だ。
ただ、それ以上に少女の言葉が理解できないと、輝夜は訝しげに眉を沿わせる。
「何の事を言っているの?それに、私は先生な―――」
「ルービックキューブ。どうせ、お前の事だから解けてないんだろ?」
少女の表情が転化した。
あどけない笑顔から、老獪でシニカルな笑みへと。
瞬間、輝夜の脳裏で沢山の思考が駆け巡った。
その果てに、辿り着いた答えは。
「ぶっ!?」
平手打ちだった。
頬を張った破裂音を聞いて、慧音はまだ気付いていないのか、呆然と目を瞬かせている。
「妹紅ッ!」
久しく口にしていなかった名前を叫んで、輝夜は右手を振りかぶった。
少女は眼を強く閉じて、肩を強張らせる。
しかし、身構えても平手は襲わなかった。
恐る恐る少女は眼を開いて、輝夜を見据える。
「ねぇ、妹紅」
そこには子供のように、頬を綻ばせた輝夜の笑顔があった。

「――――おかえりなさい」




















愛しい人が帰ってきた。そして、新しい命として生まれた、愛しい人は死んでいった。
振り返れば、妹紅と過ごした時間はあっという間だった。慧音に言わせれば”過去とはそういうものだ。”とのこと。
悲しいと思ったけれど。意外とそうでもなかった。
妹紅は子を生した。
どこか、妹紅の名残を宿した子はとても面白い。からかうと真っ赤な顔をして、呂律の回らない舌で罵詈雑言を吐いてくる。
そんな少女もまた、命を宿して行くのだろう。きっと、延々に。
嗚呼、なんて愛しいのだろうか。
命を紡ぐとは、なんて素晴らしいのだろう。
妹紅はもう何処にも居ない。だけど、悲しくはない。
何処からか、赤子の産声が聞こえるようだ。

今なら大きな声で断言できた。
永遠なんて怖くない。
妹紅と過ごした歴史がある。寺子屋で過ごす今がある。
そして、妹紅の残した”未来”と明日が在る!

空には悠々と雲が広がっている。
天に響かせるように、だけど万感の思いを込めて。
抱え切れない程、大きなモノを受け入れるように両手を広げて。

「嗚呼、生きてるってなんて素晴らしいのかしら!」

今日も。明日も。次の春も。
蓬莱山 輝夜は永遠に――――生きていく。
受けるかどうかは分からない。
ただ、初めて書きたいものを書き表せたような気がします。

読んで頂き、ありがとうございました。
少しでも楽しいと思っていただければ幸いです。
設楽秋
http://whitesnake370.blog52.fc2.com/
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コメント



0.1770簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
永遠って割としんどいだろうけど達者に生きてくれ、姫様。
次に向かい続ける輝夜の生き様がどこまでも眩しい。いいお話でした。
10.100名前が無い程度の能力削除
姫様さすが姫様

3人それぞれの関係がすごく好みでした
素敵
13.100夕凪削除
受けるかどうかは分からない?
確かに読み手によって好みは分かれるでしょうが……。
私的感想では、受ける人のほうが多いと思います。
そう、願いたい。

素晴らしい作品でした。
久しぶりに、ちょっと涙腺緩んだよ。
16.100名前が無い程度の能力削除
すごくしっとりやわらかい雰囲気で、心に染み入りました。
こういう輝夜、大好きです。
17.100名前が無い程度の能力削除
最後はなんだかじーんときてしまいました。
この話好きだなぁ・・・
18.無評価設楽秋削除
読んで頂いた方、コメント書いて頂いた方、ありがとうございます。
>7さん  輝夜にはこれからも、頑張って生きてもらいたいですね。恐らくは、作中の輝夜であれば大丈夫だと思いますよ。
>10さん 輝夜と慧音の掛け合いは、書いてて楽しかったですw
>夕凪さん 読んで頂いた方の心に、何か残せるモノがあればと思って書いていました。なので、夕凪さんの率直な意見は嬉しいです。
>16さん しっとりやわらかい雰囲気ですか。それは良かった。とある人の作品を読んでから雰囲気を重視する作品を書いてみたいと思いましたので。
>17さん 好きとまで言ってもらえれば、作者冥利に尽きます。私も構想を練っていた時に、じーんと来ましたよw
20.100リバースイム削除
輝夜と妹紅と慧音の関係が実にいい雰囲気で表されてると思う。
輝夜がとても愛しくなる作品でした。ありがとうございます。
23.70名前が無い程度の能力削除
生まれ変わりってあんまり好きじゃないんですよ。その個人が個人であることを軽く扱ってる感じがして。
鶴森紅子さんがことあるごとに妹紅と比べられることを考えると、『妹紅』と呼んで欲しくはなかったです。
まあ前世の記憶があるんならいいんですが、それはそれでご都合主義っぽく見えてしまって……。
とはいえ、永夜返しで不死の束縛を解くシーンは素直に感動しましたし、子を成したいという妹紅の望みは
よく描けていると思いました。全体の雰囲気もかなり好みです。
何か批評っぽくなってしまってすみません。これからも頑張って下さい。
25.100名前が無い程度の能力削除
 描写の一つ一つが心に残るような、素敵なお話。

 ごちそうさまでした。
26.70名前が無い程度の能力削除
よかったんですが永琳が物語上重要な立場なのに台詞だけで語られてしまったのがちょっと残念だったり
30.90野田削除
妹紅の恋情は輝夜に対してあるようなので
紅子の父親と、妹紅の結びつきは恋愛と呼ぶにはずいぶんまったりしたものだったのでしょうか。
野暮な推察ですが。

輝夜で、こういうストレートな希望が書けたのか、と
私とはまったく違う永遠亭の書き方なので、驚きました。
同じものを見ているはずなのに不思議なもんです。

それにしてもふたりが語り合い殺し合い睦み合う様子は、色んな行為が入り混じっていてよかったです。

意地の悪い文も健在のようでw
31.90名前が無い程度の能力削除
良いですね
33.70名前が無い程度の能力削除
オチが微妙
途中までは嫌いじゃなかっただけに残念

てゐや鈴仙、あやなんかはちょい役ながらいい味出してたと思う
35.無評価設楽秋削除
なるほど。そういう視点もあるんですね。私には見えてなかった箇所だ。
>リバースイムさん 読んで頂き、ありがとうございました。この三人は中々書く人によって距離感が異なります。だから、自分なりの距離感で書いてみたので、その言葉は嬉しいです。
>23さん ご都合主義。……は、反論の言葉が出てこない…ぐふ。いや、確かにその通りです。物語性を優先しすぎましたね。リアリティとのバランスも考慮しないといけないのでしょう。いえいえ、批評大歓迎! これからも宜しくお願いします。
>25さん 今回はくどくならないよう、だけど丁寧に書かせてもらいました。少しでもお腹の足しになれば幸いです。
>26さん 「永琳が物語上重要な立場なのに」嗚呼、確かに。側近ですもんね、いつも傍に居る、と。失念してました。キャラの生活環境かー。これも気をつけさせて貰います。
>野田さん あの妹紅であれば、父親と仲良くできたと思います。永遠亭は何を掘り下げるかで、全然話が違いますからね。この話を書けて良かったと思ってます。「色んな行為」の所は野田さんが好みそうだなーって感じてましたw ええ、意地の悪い文は健在ですw あと、眼球も(ボソ
>31さん その一言で、頑張った甲斐があると思えます。読んで頂き、ありがとうございました。
>33さん 嗚呼~…。申し訳ないです。途中まで、かぁ。もっと考えて作品を作ろうと思います。ちょい役を書くのは好きです。文はちょっとやり過ぎちゃったみたいですけどねw
42.90ずわいがに削除
妹紅と輝夜には決定的に違いがあったんですよね。月人と人間、そして永琳という拠り所。
輝夜に自分を殺させるなんて、本当に酷いな妹紅は。……まぁ、信頼してたんでしょうね。

それにしてもこの姫様、好きだなぁ。
44.無評価設楽秋削除
>ずわいがにさん コメントありがとうございます。
永琳の存在は大きいのでしょうね。妹紅の復讐という言葉は、お互いを分かり合った上での”悪い冗談”でしょうね。もう笑うしかないと、そんな感じで。
書いた本人が言えた事じゃないですが、この作品の輝夜は私も好きですね。
45.100名前が無い程度の能力削除
蓬莱人を描くssはなにかと重くなりがち
こういう作品は最近評価がつきづらくて残念ですね。
レスを誘う後書きで無駄に評価が伸びている作品なんかより
ずっと楽しめました。
素晴らしい信頼関係ですね。
46.100うぃむ削除
こちらの方にも足を運んでみました。

ほんと殺しあったり仲よさそうに話してたり
不思議な関係ですねこの二人。
読んでいて心地よかったです。

それからこの話と「境界線の向こう側」のせいで
設楽さんが眼球とミカンの人になりそうですw
まぁミカン食べてるのは文ですし
もしかしたらメリーと別れた後って位置づけなのかなぁと妄想してみたり。
47.80名前が無い程度の能力削除
うーん、私も妹紅の子供のシーンは蛇足っぽく感じてしまったり。
今まで纏っていた雰囲気が、一気に爽やかになってしまったのがもったいないかなあ。
永夜抄の人たちの、ある種独特の空気感が上手く出ていると思ったので。こう、もう少しビターなかんじで終わってほしかった。
まあ、あくまで好みの問題のような気がしますが。

でも、面白い話でした。
特に妹紅の台詞が、どこか淡々として落ち着いているのに、言い得ぬ迫力があって印象的でした。
48.無評価設楽秋削除
>>45さん 妹紅と輝夜の関係は好きですね。なので、自分の中で満足できる形で書けて良かったです。
この作品を楽しんで頂けたみたいで、何よりです。
読んで頂き、ありがとうございます。
>>うぃむさん ええ、読んで頂きありがとうございます。
大体その妄想であってる可能性も無きにしも非ずのような気がしたけど私の勘違いかもしれないです。嘘ですが。
えー、変なキャラ付けを誘発してしまいましたね。では、次回にでも汚名を挽回します。……あれ?
>>49 さん
読んで頂きありがとうございます。嗜好の差がありましたねw 残念です。
ですが、色々とやってみようとは思うので、貴方の嗜好に応えられれば良いとは思いました。
妹紅の台詞。重みのある言葉は何かしらの想いが含まれています。印象に残せたのなら幸いです。
49.100名前が無い程度の能力削除
輝夜の問いかけに対する妹紅の最後の微笑みが重くて、読後いろいろ考えさせられました。
輝夜にとっての永遠、妹紅にとっての死、そして二人を取り巻く慧音や永琳といった人々の描写。
ルービックキューブの道具立ても秀逸だったし、言葉の選び方や情景描写の文章がものすごく美しい。
しばらく夕陽を見るとこの作品のことを思い出しそうです。読めてよかった。とても面白かったです。
50.無評価設楽秋削除
>>49さん
ルービックキューブ。あれって実は私、一回も揃えた事がないんですよね。こんなもん、一生かかってもできるかっ!って感じですw
単純に生きてるとは素晴らしいとか、幸せだったとPCで入力するのは簡単ですが、その言葉に実感出来る意味を込めるのは難しい。
だから、楽しんでもらえたのならば何よりです。読んで頂き、ありがとうございました。