ずっとずっと昔から。
少なくとも私が彼女の式神となった時には既に。
我が主―――――八雲紫はこの場所を度々訪れていた。
「つき合わせて悪いわね」
紫様はここにくる度にいつもそう口にするが、彼女の瞳は私を映していない。
何処までも深いその瞳は、常に愚直なまでに『それ』に向けられている。
一面の花畑。
その中心に佇むかのような大きな大きな岩。
誰かの墓である―――――それだけは私にも理解できた。
彼女がここに来て何をするかと言えば、別段何をする訳でもない。
岩に語りかける訳でもなければ、何かを御供えしていく訳でもない。
ただ、ここを訪れる度に彼女は何処か嬉しそうで、けれども寂しそうな……私には決して見せないような表情で笑う。
そんな彼女の笑顔を見る度、私は何とも言えない様な居心地の悪さを感じてしまうのだ。
悠久とも言える時を生きてきた紫様。
これからも無限とも思える時を過ごすであろう紫様。
彼女の前に横たわる人生のベクトルの前では私達と共に過ごす時間など一つの点に過ぎない。
今まで彼女がぶつかって来たいくつもの点と同じ様に。
いつか私も彼女の前から消え……そして過去になってしまうのだろう。
しかしどうだ。
ここに眠っている『誰か』は身体こそ死んでしまっているのだろう。
けれど、その『誰か』の存在は今も紫様の心の中で生き続けている。
言葉にしてしまえば、陳腐。
けれどもそれは、無限の時を歩む彼女と共に生きた者にとって、最高の名誉ではないだろうか。
「そろそろ行きましょうか」
ふと、意識の外から主の声がする。
どうやら本日の邂逅はこれで終わりらしい。
紫様は墓標に背を向けると、うーんと大きく一つ伸びをした。
その表情は寂しさなど微塵も感じられない、いつも通りの笑顔。
私の知っている八雲紫、そのものである。
ここに眠っているのが誰なのか、私はそれを聞く気にはなれなかった。
聞いたところで、それは紫様を困らせるだけ。
この御方は決して答えを与えてはくれないだろうから。
ただ、死して尚、この御方がこれ程までに思い続ける存在。
私はほんの少しだけ、その『誰か』に嫉妬していたのだ。
――――――――――誰かと主と八雲藍――――――――――
「……紫らしいわね」
手元の御猪口を口に運びながら、薄く笑うのは西行寺幽々子様。
紫様にとっての無二の親友であり、ここ白玉楼の主を務める御方だ。
我が主の事で相談をさせて頂く際には、常々御世話になっている。
この日も話題は我が主、八雲紫様の事。
あの紫様の墓参りの後、彼女が寝静まったのを見届けてから、私はマヨヒガを抜け出した。
本来ならば主の寝込みを守るべきなのだろうが、この日ばかりは少しばかり酔ってしまいたい気分だったのだ。
酒の助力で紫様が想い続ける相手の事など全て忘れてしまいたかった。
けれどどれだけ酒を呑もうと、酔いが回ろうと浮かんでくるのは今日の事ばかりで。
結局、気付けば白玉楼まで、幽々子様に愚痴をこぼしに来てしまったという訳だ。
主の友人に愚痴をこぼすとは、何と不遜な式神であろうか。
「あの子は、見た目よりずっと繊細なのよ」
「繊細……そうかも知れませんね」
「寂しがりで、甘えん坊で、泣き虫で……まぁ、そんな所が可愛いんだけどね」
幽々子様はくすくすと楽しそうに笑う。
寂しがり、甘えん坊、泣き虫――――――それらは全て、私には見せてくれない紫様の顔だ。
この御方は私の知らない紫様を本当にたくさん知っている。
それが少し羨ましくもあり……けれども、真に頼りになる証なのだ。
「幽々子様」
私は出来る限り真剣な顔をしながら、彼女の名前を呼ぶ。
「貴女はあの墓に眠っているのが誰か、知っているのですか?」
予感があったのだ。
この御方ならば。
私よりもずっと紫様を知っているこの御方ならばきっと。
死して尚も紫様が想い続けている相手が誰なのかを知っているに違いない。
その正体を知って、何かが変わるのか。
愚かしい私には想像すらつかなかったけれど。
それでも答えが目の前に在るかも知れないのに見て見ぬふりをする、そんな事は未熟な私には出来る筈も無かったのだ。
くすり、と。
何処か儚げで―――――けれど何処までも優しげに。
酒を嗜む手を止めて薄く笑った彼女の表情は、知っている、と無言で応えていた。
ばくん、と私の心臓が跳ねる。
次なる質問を紡ごうとする唇が、乾いて上手く動かない。
やっとの思いで絞り出した声は、自分の出そうとしたものよりもずっとずっと小さな物だった。
「その御方は一体……」
「それを知って、貴女はどうするのかしら」
私の言を遮り、質問に質問で応える幽々子様。
うぐ、と言葉に詰まる私をその全てを見透かしたような瞳で捉えると、ふっと小さく笑みを浮かべた。
「少し意地悪だったわね。それなら、どうして貴女はそれを知りたいと思ったの?」
それも意地悪だ……私は思わず苦笑する。
この御方は普段ふわふわと漂っているようで、こう言う時はごまかしが効かないからタチが悪い。
目を逸らす事無く私の瞳を見つめ続ける幽々子様に、私は観念したように溜息を吐く。
始めから無条件で聞きだせるなどと、虫のいい事は思っていない。
「その御方のようになりたいと、思ってしまったんです」
「誰かもわからない相手に?」
「ええ。あそこで眠られている方は死して尚、紫様に想われている」
ありのままの本心を、言葉にして紡ぐ。
「……私は妖獣。人間や他の動物達に比べればずっと長生きですが、それでも死が存在しない訳ではない。何時の日か紫様を残して死んで行くでしょう」
そこまで口にすると、私はゆっくりと双眸を閉じた。
思い浮かぶのは、姿も知らない筈のあの墓の主。
私の嫉妬と羨望の対象である、あの御方の事だ。
「私もその御方のようになりたい。死した後も、ずっと紫様の中で生き続けたいのです」
本当は始めから誰かに打ち明けてしまいたかったのか。
自分の本心をさらけ出した事で、先程までのもやもやとした気分が、少しだけすっきりとした気がした。
これにて了とばかりに息を吐くと、目を開いて正面に座す幽々子様を仰ぎ見る。
果たして、私の愚かな望みを受けた幽々子様は何を思うのか。
ただただ感情の読み取れない表情で私の顔を覗きこむ彼女の言葉に、自分の意識を集中させる。
「死んだ者を永遠に想い続けるというのは残酷だわ」
私達を包み込む静かな緊張感の中。
責めるでもなく、嘲笑うでもなく。
何処か悲しげな声で、亡霊姫は言葉を紡ぐ。
「誰の死でであれ、その瞬間だけの悲しみなら耐えられる。けれども過ぎ去った者を忘れる事が出来ないならば、残された者は永遠に苦しみ続けなくてはいけなくなるわ。死した後は主の中から潔く消え去るのが、式としての忠義では無いのかしら」
……私の言えた事ではないけどね、と幽々子様は自嘲めいた溜息を吐く。
重い。
亡霊姫の言葉に、私が感じたのは例えようのない重みだった。
誰よりも多くの死をその目で見て来た彼女の言葉が、私の背中へと圧し掛かる。
彼女からしてみれば、私の願いなど子供の我儘にしか見えないだろう。
事実、自分でもただの我儘だと思う。
止めようと思うのは当然だ。
意図はともかくとして、私の望みは彼女の友人を傷つけようとしているのだから。
しかしそれでも。
それでも私は―――――
「それでも貴女は、あの子の心の中に遺りたいのかしら」
「はい」
幽々子様の問いかけに、私は一切の躊躇いなく首を縦に振る。
「死んだ者が遺すのは、何も苦しみだけではありませんから」
気の迷いでも、詭弁でも無く。
自分の本心からそう思う……そう願う。
過去を想う事で苦痛しか得られないのならば、人も妖も後ろを振り返ったりはしない。
苦しむとわかっていながら、死者を想わずにいられないのは、それ以外の何かを得る事が出来るからだ。
少なくとも紫様は……その御方を想い続ける事で苦しみ以外の何かを得ていると、私は思いたい。
「あるまじき願望だとは百も承知。それでも……それでも、私はあの御方と何時までも共に在りたいのです」
対して私の心からの言葉を受けた亡霊姫は、ゆっくりとその双眸を閉じる。
果たして彼女は私の願いに何を感じたのだろうか。
知ったような事を、と笑うだろうか。
残酷な事を、と怒るだろうか。
扇子によって上弦が隠されたその表情からは、真意の程は読み取れない。
永遠のように長い静寂が辺りを包みこむ。
その針の刺すような緊張感に、寒くも無いのに身震いをしてしまう。
果たしてどれくらいの時間が経っただろうか。
その目を開き、私を仰ぎ見た彼女は―――――
「くすっ」
笑った。
まるで舞い飛ぶ胡蝶のように穏やかに、けれど鮮やかに。
「幽々子様?」
「あの子は幸せ者ね。そこまで想ってくれる式がいるなんて」
その何処か嬉しそうな笑顔を見ていて、私は気付く。
嗚呼、これは図られたな、と。
この御方は、始めから私の想いを理解して尚、私自身に言葉を紡がせたのだ。
まるで出来レースを全力で走らされたような気恥ずかしさに、思わず自分の頬を掻く。
「……我侭なだけですよ。主を苦しめる事を承知の上としている時点で、私は式神失格です」
「八雲の姓を名乗るからには、それくらいで丁度いいのよ」
「そう言う物ですかね」
「そう言う物よ」
くいっと手元のお酒を飲み干しながら、楽しそうに口を開く。
「貴女も式神を持てば、わかるかもしれないわよ」
「御冗談を。式神が式神を使役するなど」
「そうかしら。貴女になら出来そうな気もするけど」
「出来たとしても、主と同列な行為をするなど不遜です」
「私は好きだけどね、そんな式神も。さっきも言ったけど、八雲の姓を名乗るからにはそれくらいで丁度いいのよ」
相変わらず滅茶苦茶な事を仰る方である。
ニコニコと邪気の無い笑みを向ける幽々子様に、私は深く溜息を吐く。
式神が自身の式神を持つなんて、破天荒にも程があると言う物だ。
……そう頭の中では否定しながらも、私の心の何処かに彼女の言葉が引っ掛かっていた。
もし式神を持てば、私も紫様に少しは近づく事が出来るのだろうか。
紫様の御心を少しは理解できるようになれるのだろうか。
滅茶苦茶な行為かもしれないが、何処か惹かれている自分がいるのも否定できない―――――
……いや、ちょっと待て。
何を思い切り脱線している。
私はあのお墓で眠っているかどうかを訪ねていた筈なのに。
何故いつの間にか、式神を持つか持たないかトークにすり替っているのだ。
「あの……!」
「?」
「それで、私の質問は……」
私の言葉を聞いた幽々子様がぽん、と自分の手を叩く。
「ああ、ごめんなさい。すっかり忘れていたわ」
どうやらすっかり記憶の彼方だったらしい。
本当にこの御方は鋭いんだか、ぽけぽけしているのかサッパリである。
何はともあれ、本来の目的を思い出した幽々子様。
コホンと小さく咳払いをすると、真剣な表情で居住まいを直す。
「あの墓に眠っている者。その正体は……」
「その正体は……?」
ごくり、と唾を飲み込みながらその瞬間を今か今かと待ち受ける。
果たして彼女の言葉は死刑執行か。
はたまた神の祝福か。
期待と不安がないまぜになる中、ついに彼女が口にした言葉は―――――――
「私からではなく、紫本人から聞いた方がいいわね」
「うぇえ!?」
「私は一言も教えるとは言ってないしねぇ」
ずるい。
結局、これでは私の一人負けではないか。
悪びれる様子も無くけらけらと笑う彼女の姿に、私は脱力したように肩を落とす。
この御方は食事の量も多いが、それ以上に人を食っている。
人心を掌握する事には多少自信があったが、それでもこの御方の心中を察する事はできそうもなかった。
ただ下を俯く私の背中に。
「あの子のこと、よろしく頼むわよ」
そう投げかけられた彼女の声は何処か儚く、そして何処までも優しげだったような気がした。
「ここで待っていて頂戴」
この日も、我が主は例の場所を訪れていた。
紫様は例の如く私に断ると、そのままゆっくりと背を向ける。
その視線の先に佇むのは勿論、彼女を惹きつけてやまない『誰か』の墓標。
今日もまた彼女は、今は亡き『誰か』を想い、あの楽しそうで、けれども寂しげば笑みを浮かべるのだろう。
―――――――あの子のこと、よろしく頼むわよ。
あの夜の幽々子様の言葉が、私の脳裏に浮かんでは消える。
彼女がどのような意味でその言葉を口にしたかは、私の知る所では無い。
けれども、少なくともこの瞬間は。
紫様が、掛け替えのない過去と対面しているこの刹那の時は。
ここでこうして彼女の背中を見守る事が、彼女の式神としての正しい行動なのだろう。
善人ぶっている訳でも、利口ぶっている訳でもなくそう思う。
そう、私は自分の役割を十二分に理解していた。
「……どうして、私を連れてくるのです」
十二分に理解していたにも関わらず。
それでも私は、墓標へと歩みを進める彼女の背中に疑問を投げかけた。
自分でも無意識の内に、思わず出てしまった言葉だった。
しかし不思議な事に、口にした事に対する躊躇いも後悔も、私の中には存在しなかった。
そうか……本当は私は、ずっと踏み出したかったのか。
紫様は歩みを止めると、私に向かってゆっくりと振り返る。
外見こそ平静を保っていた物の、彼女を纏う空気にははっきりと驚愕が滲み出ていた。
無理も無い。
今までこの件に一切触れて来なかった私が、突然疑問を口にしたのだから。
「いつも行き先すら告げずに、一人で何処かへ消えてしまう貴女が何故。どうしてここにだけは必ず私を連れてくるのです」
それでも私は言葉を続ける。
決して踏み出さなかった彼女への道を、一歩一歩思い切って踏みしめる。
果たしてこれは幽々子様との会話が原因なのか。
それとも、溜まり溜まった想いが許容量を超えてしまったのか。
定かでは無いが、この時私は不遜にも。
いと高き存在である筈の彼女の心に、少しばかり踏み込んでしまいたいと思ってしまったのだ。
「紫様」
彼女の目の前で歩みを止める。
一面の花畑の中向かい合った私達の姿は、まるで恋人同士の逢瀬のようだ。
そんな互いの手が干渉し合える程の距離間の中。
私と紫様は、互いに言葉を発しない。
互いに互いの瞳を見つめ合いながら、静寂が時を刻むのを感じ続ける。
ひゅうと。
冷たい風が、二人の間を吹き抜ける。
一面に萌える草木を揺らし、静の世界に久方ぶりに音を満たす。
果たして、彼女はそれを待っていたのだろうか。
真剣な瞳で私を射抜いていた彼女が、ふっと薄く笑んだ。
「怖いのよ」
「怖い……?」
何処か諦めたような、自嘲めいた彼女の答え。
私がその意味を理解するのに、数拍の時を要した。
誰よりも聡く、誰よりも強い彼女が恐怖する姿など、私には想像がつかなかったのだ。
首を捻る私の姿が予想通りだったのだろう。
彼女はくすりと薄く笑むと、穏やかな表情のままその瞳を閉じる。
「ええ、とても怖いの。ここに来ると、自分を保てなくなりそうで怖い。形振り構わず大声で泣き出してしまいそうで怖い。ここで安らかに眠る『彼女』を心配させてしまいそうで怖い」
呆然とする私に言い聞かせるように。
今まで決して見せようとしなかった自分の弱い部分を曝け出す。
「だから、貴女を連れてくる。主が式神に弱みを見せる訳にはいかないから。貴女が後ろから見てくれている間は、私は冷静でいなくてはいけない……冷静でいられるのよ。酷い話よね、怒ってくれて構わないわ」
そう口にする主の姿を見て、私ははっとする。
彼女は小さく震えていた。
それは、果たして何時からなのだろうか。
私が一歩踏み込んだ時からか。
今日、この場所に来た時からか。
いや、ひょっとしたらもっと前……この墓標の主である『誰か』が眠りについた時からか。
そんな事、若輩者の私に理解出来る筈も無い。
けれども、彼女にとってその『誰か』が本当に掛け替えの無い存在で在ったと言う事。
それだけは、私にもわかる気がした。
「いいえ、それで紫様の御心が静まるのならば、私は本望です」
震えの止まらない、我が主を仰ぎ見る。
随分遠くに在ると思ったその姿は、気付けばすぐ近くに在った。
それこそ、手を伸ばせば届いてしまいそうな程に。
「しかし――――――」
言葉にしながら、震える彼女の肩を一息で抱き寄せる。
あれだけ大きく感じていたその身体は、すっぽりと私の胸元に収まってしまった。
思ったよりもずっと華奢だった少女の、その儚げな顔を隠すように。
彼女の頭に手を添えながら、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「たまには、貴女様の弱さを見たくなりました」
「……困った、式神ね」
主の震えは勢いを増し、声帯にまで感染してく。
全て吐き出してしまえばいい、と私は無言で語りかける。
彼女にとっての『誰か』の代わりなどおこがましいが。
それでも、『誰か』の代わりに『誰か』が弱さを受け止めてあげなくてはいけないのだ。
そうでないと、彼女は優しすぎるから。
超然の仮面の下に全てを隠して、一生涙を流せなくなってしまう。
叶うならば―――――彼女の弱さを受け止める『誰か』が、『私』である事を。
不思議と酷く冷静な頭でそう願う私に対して。
果たして我が主はその全てを預けてくれるのだろうか。
ただ、少なくとも今この時は。
つぅ、と瞳から滴を零して、私の胸にその御顔を沈めてくれた。
「貴女の前にもね、私には式神がいたのよ」
白い花々を傾いた太陽が紅く染める夕刻。
冷静さを取り戻した我が主は墓石を見つめながら、同じく手を合わせる私にむかって語りかけた。
私の前にも紫様には式神が居て――――――そして恐らく、今ここで眠っている。
それは私自身、ある程度は予測していた事実で。
それでもやはり、ほんの少しだけちくりと針が刺さるような痛みが胸に走った。
「どのような、御方だったのですか」
「困った子よ。普段は物腰穏やかな癖に、怒ると本当におっかなくて……私も良く叱られた物だわ」
「し、式神が主を叱責……」
それは主従としてどうなのだろうか。
頬を引きつらせながら頭を悩ませる私の姿に、紫様はおかしそうに笑みを浮かべる。
その後も彼女は自分の式神について語ってくれた訳だが、主の食事を抜くわ、布団から追い出すわ。
おおよそ式神とは思えない破天荒な行動の数々に私は開いた口がふさがらない。
ただ、その御方の事を話すその姿はとても楽しそうで。
紫様にとって『誰か』との時間が、どれだけ幸せな物であったかを私に感じさせた。
「その御方の事を、本当に愛していらっしゃったんですね」
「どうかしら、今でもわからないわ。何せ、あの子は酷い奴だから」
「酷い……ですか」
紫様は空を仰ぎながら、心底呆れたような表情で言葉を続ける。
「ええ、一人で生きて来た私の隣にいつの間にか割り込んで、主の許可なく勝手に消えて行った不忠者よ」
「紫様……」
――――――死んだ者を永遠に想い続けるというのは残酷だわ。
幽々子様の言葉が、私の中に蘇る。
私もここで眠る『誰か』と同じ。
主の許可の有る無しに関わらず、いずれは消えて行ってしまう不忠の式。
それを理解した上で、私は紫様の中で生き続けるのを望んだ筈なのに。
それでも死した者を想い、こうも儚げに笑う紫様の姿にずきんと心が痛んだ。
「あの子が居なくなった時は、それこそ二度と式なんて作るもんか……って思った物だけど」
私の心中を察したのか、否か。
紫様はゆっくりと視線を落とすと、自分の式神が眠る墓石へとその意識を送る。
きっと彼女が想いを馳せるのは、『誰か』との眩いばかりに幸せな日々。
確かにそこにあった、けれども今は無い日々を思い出しながら、我が主は墓石を見つめ続ける。
……泣いているのではないか。
悲哀と後悔に顔を歪めているのではと懸念した。
けれども違った。
私の心配を否定するかのように、紫様はくるりと私の方に顔を向ける。
「どうやら私は、誰かが隣に居る事に慣れ過ぎたみたい」
我が主が浮かべていたのは、何処までも優しげな笑顔。
悲哀を纏いながら、けれども後悔を含まない表情で、私の瞳を見つめていた。
その笑顔を見て……私はほんの少しだけ理解出来た。
彼女はやはり、自分の隣に居続けた式神の事を、本当に大切に思っている。
そして――――――今もまた、自分の隣に居てくれる存在を欲して、私を式神にしてくださったのだ。
やはり、私はここで眠る『誰か』が羨ましかった。
あの超然とした紫様を、そこまで変えてしまった『誰か』に対して確かに嫉妬していた。
けれども、その『誰か』の存在のおかげで、紫様の隣にいる事が出来るのも……紫様に向かって一歩踏み出せたのもまた事実で。
嫉妬するのと同じくらい、私は『誰か』に対して感謝したい気分になる事が出来た。
「……最後に、一つだけ」
墓石へと向き直りながら、私は口を開く。
多くを話してくれた紫様に、あと一つだけ聞きたい事。
それを教えてもらうべく、我が主にもう一歩だけ踏みこんで見せる。
「その御方のお名前を、教えていただけませんか」
その疑問を予想していたように、紫様は薄く微笑み。
双眸を閉じながら、今は亡き式神の……
その心に刻まれた名を紡ぐ。
私にとっての他ならぬ羨望と憧憬の対象。
そして私の歩む先に存る、永遠の目標。
その御方の名前は――――――
「――――――八雲藍」
ま、これから頑張んな!
完全に騙されてた、最後の一行で切なさがこみあげてきました
完全にやられていた
つまり藍はもう・・・
だが、あとがき自重www
しかし、不自然な後書きが気になって反転を……。
み、見るんじゃなかったw
ただただ驚いています
本編は感動しました
俺は、俺は絶対反転しないぞ!
紫いいいい
完敗です
だが後書き、テメーはダメだ。
相変わらず、橙は立派に育ってしまって何よりです。
この式が式を持ったらどういう風になるのだろうか…
あとがきには別の意味でやられたwww 台無しだぁ!
何を言っているのかわからry
後書きにシビれたWWWW
ないた
さすが手負いさんです……!
が、あとがき反転してすべてが吹き飛んだ
すばらしいです
ちょっともう一回読んでくる。
ちぇぇえええええん!!w
少し遅れて衝撃が来た
やられたなあ……
うまいな
過去じゃなくて未来の話だったのかー
すばらしい作品でした!
完全に勘違いしていた…
もう一回読み直して納得
してやられました、面白かったです
後書きになにか恐ろしいことが書いてあると皆のコメから予想できるけどスルーしますねw
いい作品だと思います!
シリアスだから式神さんの性格が従順なのかと思ったら…!
手負いさんの藍様はやはり変わらないのですね。
本当に感服いたしました
後書きは…えっと…シリアスブレイクに定評のある手負い様らしくてよかったです!
だが、あとがき、なぜ自重できなかったんだw
そして後書きがあの色なのはせめてもの自重かwww
くやしいのうww
自分の予想を裏切られる話は実に面白い。
素晴らしいSSでした。これからも応援しています。
そしてあとがきwww
そして、誰かの正体に驚いた。
そしてとある少女だったはずの者の現状にワロタ
ところで、PSPでロード中に中断すると読めるかもしれません。
橙「えっ」
あとがきの空欄も特に疑問を持たず、
むしろ物語の余韻を上手く演出している、とさえ思った。
これは久々に大当たりなSSを読んだ、
と感想コメを読んだら……読んだら……。
と言いたいところだが! こん畜生ッ! 台無しじゃんwww
そしたらあとがきでアルェー?
理解するのに時間がかかった。
一瞬、えっ? 同姓同名にしたのかって思った。
コメントでしっかり理解したけど後書きで色々とぶち壊しwww
だがあとがき、テメーはだめだ。
これはすごいと書こうとしたらあとがきの存在を知って・・・
これはひどいと書かざるを得なくなりました。
何だろう。作者に対して許せない気持ちと賞賛したい気持ちが同居している。
とりあえず、10点を10回分いれることにしよう。
29番の人と同じ勘違いをしてしまったぜ。
あとがきは余韻を出したかったのかもしれないがコメをみる限り後書きの評判はあまりよくないな。まあ本文のクオリティーが高いからみんな高得点あげているようだが。
良いお話でした。
あとがきは反転だからセーフ……かな?
あとがきのためにPCからも拝見させて頂きました。
台無しwww
いや、十分してるか
最後の行を読んだ瞬間に、今までの文の情景が、塗り替えられました。
あとがき?
あれはあれで感動ですwww
と出てきた俺に隙は(ry
とりあえず、後書き落ち着け。
あれッ! 急に目にゴミが入った! 見えないぞッ後書きなのかよくわからないぞッ!!
見ていない! オレは見てないぞ! なあーんにも見てないッ!
これは藍でも橙でもない新しい式神なんですね。
あとがきPSPでもかろうじて読めましたw中日でピッチャーやってるチェンもいますねw
誤字報告を
誰の死でであれ→誰の死であれ
そうか、「御冗談を。式神が式神を使役するなど」っていう台詞、読み返せばズバリな伏線なんですね。勝手に藍様の過去の話だとばかり思い込んでいた。完敗だあ。
そしてあとがきの台無し感に乾杯。
あとがき以外は(笑)。
中日の投手やってたんじゃなかったのか…
てっきり過去のお話かと思いきや……。
そういえば、幽々子様の所に妖夢の姿も見えませんね。
そう考えると、幽々子様もまた逝ったひとを思っているのでしょうか。
うげぁー お見事です
好きです
ずるいよう
うはあ面白いなあ なんだよこれ