Coolier - 新生・東方創想話

霧雨より愛を込めて

2010/02/26 01:16:46
最終更新
サイズ
6.89KB
ページ数
1
閲覧数
1917
評価数
57/114
POINT
6350
Rate
11.09

分類タグ

 妖怪も眠る丑三つ時。
 私は、魔法の森の入り口付近に建つ道具屋・香霖堂の前に立ち尽くしていた。
 誰かに見られやしないかと周囲の気配が気になってしまうが、私が身に纏うのは黒と白の魔法使い服と、尖った三角帽子だ。
 きっと、私の姿はこの暗闇が隠してくれるのだろう。
 だから大丈夫。誰にも、見られやしない。

「…………お邪魔しまーす、だぜ……?」

 腕に編み籠を下げた私は、そっと香霖堂の扉に手を掛ける。
 少しばかり立て付けの悪い扉が、木と木が擦れ合う音を鳴らしながら少しずつ開き、月の灯が店内へそっと差し込む。
 相変わらず、店主の趣味の品ばかりを集めた店だと思うけれど……そんな所が、あの香霖らしいと言えばらしいかもしれない。

 半分が人間で、半分が妖怪の道具屋さん。
 私が惹かれているのは、果たして香霖のどちら側の面なのだろうか。
 それとも、私はそのどちらもをひっくるめて、森近霖之助と言う男性の事を好いているのだろうか?
 ……止めておこう。恋の魔法は迂闊に触ると火傷をする物だと相場が決まっている。
 今は、贈り物を届けると言う目的を果さないと。

 贈り物――私は香霖に贈り物を届ける為に、こんな夜中に夜這いみたいな事をしているのだ。
 籠の中で、宝石箱に入れられた宝石の様に眠っているのは、この日の為にと悪戦苦闘して、どうにか形になってくれたチョコレートケーキ。
 私の、手作りの品だ。
 香霖の口に合うかは分からないけれど……美味しいと感じて貰えると、私は嬉しいかな。


「…………かなり、時間が過ぎてしまったな……もう、二週間近くのロスタイムだぜ」


 店内の壁に掛けられている暦をちらりと見てみれば、既に二月ももう終わろうとしている。
 本来ならば――今から、十日ほど前のあの日に渡すべきだったのだろうけれど、私はそれがどうしても出来なかった。
 美味しい物を届けたいと思い、どうしても納得の出来る品を作っていたらこんなにも遅刻をしてしまったのだ。
 全く……妙な所で職人気質な自分の性格が、ほんの少しだけ嫌いになってしまう。

 とにもかくにも、今の私は夜這い同然の行為をしている真っ最中なのだ。
 あまり、この場に長居をするべきではないだろう。
 早くケーキを置いて、立ち去らなければ――……


「…………………………んっ………………」


 瞬間、私の心臓の音が、一際激しく高鳴るのが感じられた。
 カウンターの椅子にもたれ掛かり、寝息を立てている香霖を見つけてしまったから。
 切れ長の端正な顔立ちなのに、何処と無く幼い少年の様な顔立ちにも見える。
 ナイフの様に妖しく煌く銀髪は、窓から差し込む仄かな月明かりを受て輝いていた。
 私の金髪は対照的に、その銀髪は何処と無く知的な雰囲気を纏っている様に思えた。
 その姿はまるで――駄目だ。適切な言葉が思い浮かばない。
 相手は、私を魅了してやまない男性なのだ。
 そんな相手を安っぽい言葉で例えるのは避けておきたいから、今はこの気持ちを胸の奥に封じ込めておくとしよう。
 何時の日にか――私が、もう少し立派に成長した時にでも、今の景色を思い出してノートにでも綴ればそれで十分だ。


「……はぁ。また読書中に眠ったのか。風邪でも引いたらどうするんだよ?」


 再度、香霖の方を伺ってみれば、こんな夜更けだと言うのに普段の服装のままで眠っているではないか。
 これじゃあ、夜風に当たって身体を冷やしてしまうかもしれない。
 全く……本当に、霧雨店で修行をしていた頃からお前は変わらないんだな。
 私も、香霖も。お互いに、何も変わっていない。


 そうだ――私が香霖に対して抱いているこの気持ちは、あの頃からずっと変わっていない。
 昔から、ずぅっと私は香霖の事が――……


「…………んんっ………………」
「おおっと。そんな事を考えている場合じゃなかったぜ。毛布はっと……」


 家捜しをするみたいでほんの少しだけ罪悪感があるけれど、そこは人助けだと言う事で勘弁をして貰おう。
 どうせ、妙な所で抜けている香霖の事だ。
 そこらに毛布の一枚や二枚、放り出したままにしているに違いない。

 暫く探していると、案の定カウンターの足元から毛布は見つかった。
 軽く叩いて埃を払い、目を覚まされない様に気を付けながら、私はそれを香霖に被せる。
 昔、『僕は半分が妖怪ですから、風邪は引かないんですよ』なんて事を言っていた気もするが……念の為だ。


「よし。これでオーケーと。後は……」


 生唾と一緒に緊張を飲み込んだ後――私は覚悟を決める事にした。
 そっと、籠の中からチョコレートケーキの入れられた箱を取り出す。
 本当は、バレンタインの日に届けたかった。
 でも、どうしても納得の行く物を届けたくて、だから――……



 いや、それも違う。
 私は……そんな理由で、バレンタインの日に必死にチョコレートケーキの研究をしていたんじゃない。
 だって……香霖なら、どんなケーキでもきっと「美味しい」と答えてくれるのだから。
 だから、ケーキの出来具合なんて二の次なんだ。



 私は、怖かったんだ。
 香霖が他の女の子からチョコレートを受け取っている現場に遭遇するのが、怖かったんだ。
 どうしても――私だけの香霖で居て欲しいと思うから、だから……自分に嘘を吐いて、時期をずらしてまでこんな事をしてしまった。
 本末転倒じゃないか?
 バレンタインに贈り物をするからこそ意味があると言うのに、私は臆病のせいでそれを逃してしまったんだ。
 博麗の巫女やら、紅魔館の従者やら、山の巫女やら――あるいは、他の連中やら。
 皆、私なんかよりもずぅっと魅力的な存在だ。
 あんなのが香霖にチョコレートを贈っている現場に遭遇してしまえば、私はもう立ち直れなくなるかもしれない。


 だから、私はバレンタインから逃げてしまったんだ。


 もしかすると、こんな私には恋をする資格なんて、無いのかもしれない。
 勝負のフィールドに上がる事を恐れ、試合終了後のロスタイムになってようやくフィールドに上がったのだから。
 これじゃあ、臆病者で卑怯者じゃないか。
 だから……私は、香霖に対して何かを伝えようとは思わない。
 バレンタインデーならチョコレートを贈りつつ告白の一つでも出来るのかもしれないが、今日はバレンタインデーではない。
 贈り物を置いて、それでお終い。
 私には……それで、十分だ。
 私の手作りのチョコレートを香霖が食べて、ほんの少しだけでも幸せになってくれれば、それで――……


「……でもまあ、籠にこっそりとイニシャルで「M・K」って名前を入れておくくらいは許してくれるよな?
 恋の神様だって、そこまでガチガチなお方じゃあるまいしさ」


 後は、香霖がこのイニシャルに気付いてくれるかどうかだが……
 それこそ、神のみぞ知るとでも言った所か。
 過度の期待は禁物。果報は寝て待てだ。


「じゃあな、香霖。風邪は引くなよ? あとそのケーキ、きちんと食べるんだぞ?」


 そして、私は香霖堂を後にする。
 未だに夜の闇は深いままだ。せめて恐ろしい妖怪に遭遇しない様に気を付けないと。


「………………………………んんっ…………」


 戸を開けた事で吹き込んだ風が、香霖の頬を撫でている。
 本当はもう少しだけ一緒に居たいのだけど……もう、帰る時間だ。
 私は、そっと扉を閉めて――


「…………ん………………まり……………………」
「……へっ?」
「……………………………………………………」


 さっきのは……私の聞き間違い、なのだろうか?
 それとも……もしかすると私の夢を……?

 いや、考えるのは止めておこう。
 その答えは――来年のバレンタインまで、じっくりと考えれば良いさ。


「…………ふふっ、バレンタインはこれからか……」


 そして、私は香霖堂を立ち去る。
 贈り物も出来たし、最後の最後に思わぬ寝言も聞けたのだから――こっそりと忍び込んで良かった。
 夜の風が私の金髪を優しく撫でてくれている。
 来年のバレンタインまでの間、じっくりとチョコレートケーキの修行をしないとな。


 来年は、もっともっと素敵な男性になって――そして、愛しの香霖のハートを手に入れるんだから。


「はぁ……香霖ってば本当に格好良いよなあ……
 私の店で修行をしていた時から、ずぅっと変わっていないんだから……はふぁ……」
オリキャラ設定

霧雨 魔理ノ輔(きりさめ まりのすけ)
種族:人間
職業:霧雨店店主・魔理沙の父親
能力:店を経営する程度の能力

霧雨魔理沙の実の父親にして、人里の商店・霧雨店の店主でもある男性。
娘と同じく美しい金髪をしており、毎朝髪のケアには一時間もの時間を掛けてしまう。
身長150cmで体重150kg程度。女装趣味があり、プライベートではスカート着用。口調も娘に似ている。

かつて自分の店で修行をしていた頃の森近霖之助に一目惚れをしてしまい、それ以来彼を大層可愛がっている。
ちなみに、霖之助の事は昔から香霖と呼んでいる。

要するに、メタボ体型で金髪女装のショタ好きオヤジだと思って頂きたい。

そりゃ魔理沙も家を飛び出すわ。


※色々と、ごめんなさい
はるか
[email protected]
http://www.geocities.jp/youjo_teisyoku/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1980簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
なんか ちくしょう……
4.90名前が無い程度の能力削除
なんだよコレ…
5.80名前が無い程度の能力削除
ちょ、おま…
6.100夕凪削除
え、え?
えーーーー?!
7.90名前が無い程度の能力削除
やられたw
8.70名前が無い程度の能力削除
なるほどなー
9.80名前が無い程度の能力削除
すさまじく嫌な読後感
10.60名前が無い程度の能力削除
後書きがなければ文句なしで100点だったのに・・・
11.80名前が無い程度の能力削除
そのどんでん返しいらないだろ……
13.70薬漬削除
魔理沙の親父さん何やってるんだwwwwww

点数悩んだ。
14.80名前が無い程度の能力削除
修行をしていた時を知っている段階で気づくべきだった…気づくべきだった…
17.10名前が無い程度の能力削除
地獄におちるといい^^
18.90名前が無い程度の能力削除
なんだか凄まじく負けた気がする…
20.80名前が無い程度の能力削除
この作者できおるわ
一流の釣り師としての風格を感じる
21.80名前が無い程度の能力削除
よもやこういうオチとは…
22.50名前が無い程度の能力削除
タイトルが霧雨ってところに違和感を感じたがまさかこんなことって…
嘘だと言ってよバーニィ
26.70名前が無い程度の能力削除
おおおーい…
今更普通の魔理沙×香霖は出てこないかなとは思ったけど、魔理ノ輔っておい!
150kgのメタボ体型で金髪女装ってこええよ!!ホラーだな、うん。
27.100名前が無い程度の能力削除
こいつぁ…やられたぜ
29.100名前が無い程度の能力削除
な、なんだってー
30.100奇声を発する程度の能力削除
えーー!!!!wwwww
ちょいwwwおまwwwwwwww
ただの変態じゃねーかwww
31.100名前が無い程度の能力削除
実家に帰らない奥方は偉大としか言いようがないwwww
32.100ぺ・四潤削除
そりゃあ誰でも魅力的に見えるだろwwwww
これほどまでに後書きを先に読まなくて良かったと思ったのは初めてだww
33.80賢者になる程度の能力削除
天災って奴ですねわかります
34.100高機動型ユボン3号削除
ちょwwww「もっともっと素敵な男性」って、誤字じゃなかったんですかwwww
38.10名前が無い程度の能力削除
詰まらん上にキモい
40.80名前が無い程度の能力削除
ひどすぎるwwww
43.90名前が無い程度の能力削除
ちくしょう、なんで150kgのキモピザなんだよぅ・・・
普通に美中年とかなら全然問題ナッシングだったのにぃ!
45.80名前が無い程度の能力削除
150kg……ここさえなければギリギリ許せたのに……w
47.50名前が無い程度の能力削除
これはひどい。ひどいとしか。ホントひどい。ちくしょう。
48.100名前が無い程度の能力削除
はは、こんなにもしてやられたと思ったのは久しぶりだ・・・
僕は君に敬意を表するッ!
49.90名前が無い程度の能力削除
じわじわくる
50.50名前が無い程度の能力削除
簡易評価で終わらすわけにはいかなかった。点数は据え置きであえて言わせてもらおう。
これはひどい。
52.60名前が無い程度の能力削除
釣神様が頭の中でリンボーダンスしてるんですが…
なに、この…なに?
53.60名前が無い程度の能力削除
現在進行形で口から吐いてた砂が、一瞬で泥に変わってしまったよ。
55.80名前が無い程度の能力削除
ただの変態キモピザじゃねーかちくしょうwww
56.70名前が無い程度の能力削除
ちくしょうえーえーりゃく
58.100名前が無い程度の能力削除
ちくしょう!!ちくしょう!wwwww
59.70名前が無い程度の能力削除
え!?あれ……?
ただの変態じゃん!!
あとがき読んだ後に読み返したら吐き気が……
体重とか細かい設定載せるなww
65.40名前が無い程度の能力削除
最後の2行で評価点-60だ
メタボ体型で金髪女装のショタ好きオヤジって・・・オリキャラ話というより、それはむしろグロテスクホラーじゃね?
66.100sdsd削除
 天 才 現 る
67.80葉月ヴァンホーテン削除
あれ? はるかさんにしては珍しい作風だなと思ってたら……。
これはひどいw
68.100名前が無い程度の能力削除
やっていい事と
悪い事が

あるんじゃないかと


おもうんですが
69.90名前が無い程度の能力削除
NDK(ねぇ今どんな気持ち?) NDK(ねぇ今どんな気持ち?)

畜生、点数が高くても低くても負けた気がする
72.無評価名前が無い程度の能力削除
よくそんなのから魔理沙生まれたなw
73.60名前が無い程度の能力削除
この話で一番可哀想なのは霧雨の奥方な気がしてきた
78.70名前が無い程度の能力削除
これはやられたwww
79.70名前が無い程度の能力削除
魔理男が来るものとばっかり思っていたら魔理ノ輔だったでござるの巻。
80.50名前が無い程度の能力削除
・・・え?
82.70名前が無い程度の能力削除
『僕は半分が妖怪ですから、風邪は引かないんですよ』
ここで違和感があると思ったら魔理沙じゃなかったのかよ・・・
俺の純情を返してw
83.80名前が無い程度の能力削除
何でやねん
91.100名前が無い程度の能力削除
なるほど魔理沙の口調は父親譲りだったのですね!あと服装も。
・・・そりゃ家出するよ。
93.60名前が無い程度の能力削除
いや、普通に魔理沙だったらかなりいいものだった筈。
それを惜しげもなく無駄にできるのが実力の表れなのか?
うーん……
94.60名前が無い程度の能力削除
タイトルで…ん?ってなったが…まさかこうなるとは…w
95.90名前が無い程度の能力削除
なんて嫌などんでん返しw
96.50名前が無い程度の能力削除
ふ ざ け ん な wwww

見事に引っかかったわこの野郎wwwww
98.80名前が無い程度の能力削除
甘え甘えと思ってたら劇薬が混じってた。
99.無評価名前が無い程度の能力削除
俺の乙女心を返せwwwww
101.90名前が無い程度の能力削除
いい話だn…あれ?

あれ?
115.100うり坊削除
百合は守られたんですね(ニッコリ)