Coolier - 新生・東方創想話

子供達の料理店:開店

2010/02/25 21:03:38
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 フラン・こいし・ぬえの三人娘により、ある料理店が開かれる事になった。
 その名も【正体不明の肉料理店】。穏やかな青空の下、その真っ赤なレンガ造りの洋風店は威風堂々と佇ずんでいる。
 そして店は営業してから、もう一週間が経った。しかし、早くも閉店の危機に瀕している。
 現在の時刻は午前十二時、お腹がペコペコのお昼時。それなのに、広々と並ぶ四人席のテーブルは、どれも暇を持て余している。それどころか、この一週間ほとんど新規のお客が来店してない。
 
 一体、この店の何が悪いのだろうか?
 土着神諏訪子の協力で、お店は里の賑わう中心地へと建てられた。古風な木造作りの多い里で、店は一際目立つ存在となる。
 日付は九月。秋姉妹が焼き芋を頬張る食欲の秋。時期も良い。
 素材は幽香が汗水垂らして作った大豆。食品はその大豆を使用した豆ハンバーグ。ぬえの能力を使えば、本物のような滴る肉汁やジューシーな食感も再現できる。
 値段も五百ヌエンと御手ごろ。オマケに肉の正体は大豆なのでヘルシー。女性にもオススメだ。
 掃除も行き届いて、床にはチリ一つ落ちていない。何十個もあるテーブルはどれもピカピカに光っている。ゆったりとした空間の、素晴らしいお店だ。
 ならばなぜ、こんなにも客が居ないのだろうか? 




「なぜ? なぜ? なぜなんだ!」

 店のテーブルに座る料理長ぬえ。両手で頭をボリボリと掻き、苦悩の声を漏らす。

「そんなの店の名前が悪いからに決まっているでしょうが!」

 前に座る副料理長フランは、テーブルを叩き立ち上がった。振動で水の入ったコップは大きく揺れる。しかしぬえは動じず、頬杖を付いたままだった。

「良い名前じゃん……」 

 不貞腐れてぬえが返す。フランの声はさらに荒ぶる。

「ホラーでしか見ないわよこんな名前! 誰が食べに来るのよ、正体不明の肉なんて!」
「お店設立のときは、フランもこいしも賛成してくれたじゃん。奇抜で良い名前だって!」

 ぬえは水を一気に飲み干し、コップをテーブルへと叩きつける。人が来なくてイライラするのは、彼女も同じだった。
 一方我慢の限界だったフランは、彼女をビシッと指差し叫ぶ。

「この正体不明オタク!」
「言ったなこの頭どっかん娘!」

 するとぬえも、憤慨しながら立ち上がった。勢いのあまりイスが後ろへ倒れる。
 そしてフランのホッペに手を伸ばし、むぎゅーっと引っ張る。痛みでフランはバタバタと羽根を揺らす。

「よくもやったわね、この脳みそ正体不明め!!!」

 フランも意味不明な悪口を言い、ぬえのホッペをにょーんと抓む。口を開け、八重歯を剥き出しにする二人の姿は、可愛い子供である。

「はにゃひなさいよぬぇ! あんたがわりゅいんでしょ!」
「うるひゃい! そっちこそはにゃせ!」

 二人は地べたで取っ組み合いを始める。争いの振動はテーブルにも伝わり、ガタガタと音が鳴った。
羽を絡ませながら争う二人を見て、火力担当の妹紅がやれやれと腰を上げる。

「そこまでだよお嬢ちゃん達。お互の頬っぺたはもう真っ赤じゃないか」
 
 なぜ妹紅がこの店に居るのか? それはお店設立の際に、暇そうにしていた彼女を、三人娘が誘ったのだ。最初は迷っていた妹紅だが、慧音に「面白そうだからやってみなさいよ」と後押しされ、この店の経営に携わる事にした。
 そんな火力担当の藤原さんだったが、この時は怒りの炎を鎮火させる事となる。 

「二人とも本当に子供なんだから。少しは成長しないと駄目だよ」
 
 妹紅は大人っぽく、ぬえとフランに話しかける。忠告を聞いた二人は、ホッペを抓み合うのをやめた。さすがは大人の妹紅と褒めたいが、次の瞬間訂正する事になる。
 フランは妹紅の右のホッペ、ぬえが左のホッペを同時に広げだした。彼女の頬がうにょんと横に伸びる。

「ちょっとょ! なゃにするのよふたりとみょ!」 

 目に涙を浮かべ、妹紅は抗議した。すると、二人は息をピッタリと合わせ、

「うるさい! 妹紅さんだって輝夜さんと、いつも子供のようにケンカしてるじゃない!」
「そうだよ! しかも輝夜がお店に来たときだって、妹紅はケンカを吹っかけてたじゃないか!」

 と同時に叫喚する。なんだかんだで、仲は良いようだ。
 そしてフラン・ぬえは、妹紅のホッペから手を離し、またお互いの頬をむぎぅと伸ばし合った。一方、顔を真っ赤にされた藤原さん。プルプルと体を震わせ鬼のような笑みを浮かべる。

「良い度胸だなお嬢ちゃん達、今昼は貴方達のトラウマになるよ!!!」
「「上等だよ!!!」」
 
 そして妹紅もフランとぬえのケンカに参加する。子供のように騒ぎながら。
 三人の取っ組み合いで、周りのイスやテーブルはピンボールの如く吹っ飛んだ……。


 
 

 
 三人が暴れている地点から、大幅二十歩店の奥へと進む。そこに、経営担当の藍は座っている。
 藍は眉間に皺を寄せ、店の売り上げが書かれた紙を見ていた。
  
 彼女も店を設立する際に、その頭の良さから三人娘に勧誘されたのだ。初めは迷った藍だったが、紫に「面白そうだから私も手伝うわ」と言われ、参加する事に決めた。
 そして、藍は責任感が強い。だからこそ、店が潰れる事を真剣に考えていた。
 
「実際この売り上げだと、明日にも店は潰れちゃいますよ。どうするんですか紫様?」
 
 藍は前に座る、ウェイター担当の紫に問いかける
 話しかけられた彼女の主は、ぬえのハンバーグを幸せそうに頬張っていた。

「こんなに美味しいのにねぇ。まあ、大丈夫、多分何とかなるわよ。そうよね諏訪子?」
「ん? 何か言った紫?」

 紫の隣に座る、オーナー&接客担当の諏訪子も、ハンバーグに夢中であった。全然話を聞いていないようである。
 店のオーナーなら、赤字は大問題。だが、諏訪子はケロっとしている。まったく気にしてないようだ。
 お気楽に食事をする二人を見て、藍は溜息を吐いた。

「まったく、少しは心配してくださいよ。本当にお客が入って来ないのですから」
「心配しないで大丈夫だって。もしもの時は、私が他の店に呪いをかけて再起不能にするから」

 諏訪子は自分の胸をドンッと叩いた。幼い顔で微笑んでいるが、やはり中身は祟り神。言っている事が物騒極まりない。
 藍は本当に諏訪子ならやりかねないかとドキドキしてきた。 

「やだなー嘘だよ嘘、冗談だって。可愛い神の可愛い冗談」

 不安な顔の藍を見て、諏訪子は大げさにおどけて笑う。呪いが可愛い冗談と言うところが、また祟り神らしい。
 藍は二度目の溜息を付き、静かに水を飲む。ゴクリという音が彼女の喉に心地よく響いた。

「大丈夫よ藍。開店した当初は結構人が来ていたのだから。心配しなくても、きっとまた来るわよ」 
 
 紫は心配性な従者を励ますつもりで言った。しかしその時の光景を思い出した藍は、三度目の溜息を吐き出した……。


 


 一週間前。開店初日の事だ。確かに客はぎゅうぎゅうに入っており、騒音レベルに賑やかだった。しかしこれは、ぬえ達の身内が来てくれたからである。
 紅魔館、地霊殿、命蓮寺、神奈子に早苗。これだけの連中が集まれば、当然大人数にもなる。
 レミリアやさとりは姉の偉大さを見せようと、超大盛りを頼む。どちらも少食の癖に。
 そして自分サイズのハンバーグが運ばれたときの、二人の泣き顔はとても面白かった。それでも頑張って食べた二人だが、お腹は妊婦さんのようにパンパンとなった。
 
 しかしそんな二人のプライドも、命蓮寺組みによりガタガタに崩される事となる。
 一輪&雲山は超大盛りを軽く何杯も食べ、超人聖はその10倍の量を平然と平らげた。明らかに彼女達の体積よりも、食べた体積の方が多かった。
 
 だが、話はそれで終わらない。神奈子と早苗の無駄な大食い魂に火が付いた。これは先日、テレビでフードファイトの再放送を見た所為だ。そんな二人が頼んだのは、神奈子の御柱よりも大きい超々大盛りであった。 
 当然、誇り高いレミリア・さとりもイジになる。えんえん泣きながらも超々大盛りを追加注文した。そして聖達も、負けじと注文を繰り返す。
 悲惨なのは咲夜を初めとする従者達だ。主のしょうもない戦いに、無理やり付き合わされる事となった。本当に可愛そうである。
 ちなみにこのとき、慧音&永遠亭組みは、主に妹紅が原因で始まった輝夜とのケンカを、店の外で眺めてました。
 
 そんなフードバトルをして盛り上がる彼女達だったが、次の日からは姿を見なくなってしまった。
 味に飽きたのだろうか? 違う、そうではない。
 答えは簡単。食べ過ぎによる、腹痛だ。
 カエルのようにお腹を膨らすファイター達。その日から、永遠亭で死人のように寝込んでいる。永琳達に看病され、うんうんと唸り声を上げながら……。 






「いやー、あいつらがあんなに馬鹿だとは思わなかったよ」

 その時の光景を思い出した諏訪子は、食べているハンバーグを噴出した。
 ケロケロと哄笑し、とても楽しそうである。

「笑い事じゃないです。あの事件で大量の患者が運ばれたのですから。店に悪い評判が出来ましたよ」

 藍は四度目の溜息を吐いた。相変わらずフラン、ぬえ、妹紅の三人は元気に絡み合っている。紫と諏訪子はアホみたいに食べてばかりで何もする気はない。
 私が何とかしないと……。藍は心の中で決心したときだった。

「そんなに落ち込まないでよ。あの三馬鹿トリオなら、私が止めて来て上げるから」

 諏訪子は落ち込む藍の肩を優しく叩き、三人の所へ勇ましく向かっていった。
 さすが神様だ、頼りになる。期待の眼差しで藍は諏訪子を見送る。

「普通に歩けばなおよかったのですけどね……」

 ピョンピョンとカエル飛びで行く祟り神を見て、藍はボソリと呟いた……。





 飛んでくる木片を器用に避けながら、諏訪子は争いの中心へと辿り着く。
 夢中でじゃれあっている三人は、諏訪子に話しかけられるまで、彼女の存在に気が付かなかったようだ。 

「ほらほら三人とも、もうケンカはやめなって。本当にガキなんだから」

 諏訪子は両手を腰に付け、やれやれと言った顔で三人を見下ろす。すると三人は争いをやめ、彼女の方を舐めるように凝視した。
 さすが土着神の頂点だと、諏訪子は自分を心の中で褒めたが、

「「「やかましいわ! 容姿がガキンチョの貴方に言われて堪るか!」」」
 
 三人同時に怒鳴り、諏訪子の柔らかい頬をむにゅーっ引っ張った。
 
「んにゃ! いひゃいよさんにんともー!」

 諏訪子は可愛く泣き声を上げ、手足をバタバタと振る。一方ホッペを抓む三人の顔は、幸せそうに緩んでいる。神の頬は、想像以上に触り心地が良いようだ。

「くひょ、どひゃくしんのおそりょしさをおみょいしらせてやりゅ!」

 そして、土着神の頂点・洩矢 諏訪子も三人のじゃれあいに参加した。子供の様に怒りながら。
 四人はお互いの頬を引っ張り、暴れまくる。その衝撃で周りのテーブル・イスは、店外まで吹っ飛んで行き、青い空へと旅立っていった……。
 



 

 四馬鹿カルテットの争いを、唖然と眺めていた藍。テーブルに頭を叩き付け、四度目の溜息を吐いた。  
 
「そんなに落ち込まないで藍」
 
 沈みかえった藍を、紫は優しく慰める。
 ハンバーグを食べる事は、相変わらずやめていなかったが。

「落ち込みたくもなりますよ……。なんでみんな悠長に構えていられるのですか?」
「んー、あの二人が心配するなって言っていたのよ。理由はそれだけ」
「二人って、あそこでケンカしているフランとぬえの事でしょうか?」

 紫は無言で頷く。藍は再び、二人の方を見た。フランとぬえは、妹紅や諏訪子と「馬鹿! アホ! ガキンチョ!」と童のように罵り、ポカスカとじゃれあっている。
 そんな二人の何をそんなに信用してるのか、藍は不思議に思う。するとさらに紫は話を続けた。 

「二人がね、こいしが何とかしてくれる、そう言ってたのよ。だから大丈夫なのでしょ、多分」
「こいしってあの無意識娘ですか?」

 紫はまた無言で頷いた。藍の不安はさらに深くなる。
 こいしは宣伝を担当しているのだが、この一週間ずっと外でふらふらとしていた。そんな娘に何を期待しているのかと、藍は首を傾げた。

「それにこいしちゃん、宣伝しないで弾幕ゴッコをやっていたらしいじゃないですか……」
 
 
 
 

 それは昨日のお昼の事だった。
 弾幕ゴッコでこいしに負けたと叫びながら、霊夢・魔理沙が意気揚々と店にやってきたのだ。
 こいしは弾幕しながら店の宣伝をしたのか? 藍は二人に尋ねたが、特にそういう話は聞かなかったようである。でもなぜかこいしと弾幕してたら、店に来店したくなった。そう、二人は不思議そうに語っていた。
 そして、二人は大量のハンバーグを注文し、満足そうに食べ、光速で店を飛び出していった。食い逃げだ。
 要は、こいしに負けた腹いせとして、この店へ食い逃げに来たようだ。ただでさえ赤字なのに、大迷惑である……。
 


 

 藍はその時の事を思い出し、五度目の溜息を吐いた。不機嫌そうに指でテーブルも叩き始める。

「駄目ですよあの無意識娘は、何の役にも立ちません」
 
 そんな藍を見て、紫は食べる手を止める。
 
「落ち付きなさい藍。貴方らしくもない。それに、そんな言葉あの二人の前で言っちゃ駄目よ」

 紫は珍しく、厳しい口調で藍を叱った。
 ついこいしの悪口を言ってしまった藍は、申し訳なさそうにうな垂れる。そんな従者を愛らしくなった紫は、今度は優しい口調で彼女に話す。

「大丈夫よ、みんなの事を信用してあげなさい」
「しかし、だったらなぜケンカなんかしてるんですか? 信用しているなら、落ち着いて待てばいいのに」
 
 藍は盛大に争っている四人を見ながら聞いた。すると紫は、ハンバーグを完全に食べ終えた後、

「お客が来ないから、暇潰しでもしているんじゃないの?つまらなくてイライラしていたのは皆同じなようだしね」
 
 と言う。そんな馬鹿な、と藍は思った。だけど、無心にじゃれあう四人の姿見て、藍の体も少しうずうずして来ていた。

「せっかくだから貴方も混ざってくれば?」

 紫に言われた藍は、ドキッとしながらブンブン首を横に振った。大げさな態度の従者を見て、彼女の主は艶笑する……。
 



 

 フラン・ぬえ・妹紅・諏訪子のケンカが終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。星の綺麗な夜である。
 他愛ないじゃれあいを終えた四人は、ぐったりしながら生き残ったイスに座る。
 四人の服は、体のラインが浮き出るくらい汗で濡れていた。額にも汗を溜め、顔もリンゴのように火照っている。

「あー、疲れた。まったくぬえは頑固なんだから」
「ふん、フランに言われたくないよ」

 二人は口げんかをしていたが、言いたい事を言った所為か、表情はスッキリとしていた。
 
「貴方達はどっちも頑固だよまったく」
「あーうー、久しぶりに暴れて楽しかったー」
 
 妹紅と諏訪子もそんな二人を見て顔を緩ませた。フランとぬえも、口げんかをやめ、テーブルへだるそうにもたれ掛かかる。
 
「それで、店の名前はこのままで大丈夫かな?」
 
 そしてぬえが、心配そうにフランに尋ねる。やっぱり、不安があったようだ。
 自分の所為で店が潰れるかもという、大きな不安が。
 そんな彼女を見てフランは、
  
「あー良いわよ別に。ぬえも考えがあってやったんでしょ。怒ったりして私も悪かったわ」 

 気まずそうに、ホッペを掻きながら答える。ケンカの原因であった店の名前は、結局変えないようだった。
 それを見ていた妹紅と諏訪子は静かに微笑み。その場を離れ、水を取りに行った……。
 
 

 その一方で、藍はぐったりとするフランとぬえに近寄った。
 四人が満足するのを、彼女はずっと待っていたのだ。

「二人とも、ちょっと聞いて良いかな?」
 
 そして、さっき疑問に思っていたことを口にする。 
 
「二人はこいしが何をしてるのか、わかっているの?」

 二人はこいしの事を良く知っていたから、何か策でもあるんじゃないか。何か、取って置きの秘密があるのじゃないかと、藍は疑問に思っていた。
 しかし、二人の口から返って来たのは、まったく別の言葉であった。

「さぁ、こいしちゃんって時々無意識に行動するから。イマイチわからないのよね」
「こいしだから仕方ないけどね」

 二人はおかしそうに笑った。藍の不安は取れないままである。しかし、次の二人の言葉で、藍は疑う事を急にやめた。

「だけどこいしちゃん。『私がこの店を盛り上げるから、安心して待っていてね!』って言ってたから、何かしら宣伝しているんでしょうね」
「『私がこの店を、幻想郷一のお店として宣伝するから信用してね!』とも言ってたねこいしは」
 
 それだけだった。それだけで、この二人はこいしの事を信用したらしい。
 藍はそれを聞いて、自分の心配なんかくだらないなと笑った。打算も理屈も抜きで、二人がこいしの事を信用してる理由が、それだけだったから。
 
「確かに、私も橙に言われたらそれを疑う事なんて、ね……」
 
 そう呟いた藍の表情に、不安な面影はもう無かった……。



 
 

 数分後、藍はぬえ達の体にふわりと毛布を敷いてあげる。やりたい放題に暴れてた四人は、相当疲れていたらしい。
 楽しそうに眠る四人を見ながら、藍は最後の溜息を吐く。せっかくなら自分もケンカに混ざれば良かったと、悔しそうに微笑んだ。
 
「それでは紫様、私達で店の後片付けをしますか」

 テーブルやイスは当たりに飛び散っている。四人が原因なんだから、叩き起こせばいい。なんて事を、藍は思わなかった。
 しかし紫は、藍の提案を断る。

「いいわよ藍。貴方も眠ってしまいなさい。後片付けは、私がやるわよ」

 藍はここ数日、この店をなんとかしようと悩んでいた。
 寝る間も惜しんで経営学を勉強し、眠そうに眼を擦っていた。

「しかし、紫様一人では……」
「寝なさい藍。これは命令です」

 紫は優しく叱ると、藍は無言でお辞儀をする。
そして、気持ちよさそうに地面に倒れた。
 
「たまにはケンカも良いものよ。大丈夫、明日にはお客が来るわ。多分ね」
  
 爆睡する五人を見ながら、紫は静かに呟いた……。
 

 

 
 
 
 翌日のお昼。店は人妖の声で賑やかだった。

「すいませーん。正体不明ハンバーグ定食一つください!」 
「はーいただいま!」
「こっちも超々大盛り一つお願いしまーす!」
「今持っていくわよー」
「正体不明の肉って言うから怖かったけど、食べてみたら美味しいわね」
「ありがとうございまーす!」
「お代は死んだら返すぜ!」
「クイニゲダー!」

 昨日までの静けさが嘘のように、店には客でいっぱいだった。
 紫が新たに運んだテーブルはどれも満席、店の外にも長い長い行列も出来る。
 厨房ではぬえとフランが、汗を垂しながらフライパンを振り、妹紅は自慢の火力を最大にした。諏訪子はお客にあざとく愛想を振りまいている。
 そんな中、紫は相変わらず飯を食べていた。スキマの能力を使い、キッチリ仕事はこなしていたが。
 本当に、みんな忙しそうに仕事をしていた。
 
 しかしなぜ、急にここまでお客が増えたのだろうか?
 紅魔館などの身内組みが復活したのか? しかし客の中には妖怪のルーミアから、全然知らない人間までいろんな人物がいた。
 それにいくら美味しいとはいえ正体不明の肉、不安要素は残る。しかしなぜか皆、安心したように肉と言う名の大豆を食べていた。
 レジで計算をしながら、藍は少しそれを疑問に思った。
そして、ふと外を見ると青空からこいしが降りてきた。一週間ぶりの帰宅である。
 
「ただいまみんな♪ 良かったー成功したみたいで」

 こいしは元気に振舞っていたが、表情は疲れているように見えた。服も汚れて破けている。

「お疲れ様こいし。成功したって言ったけど、一体何をしたの?」

 この異常なまでの客の増え方を、こいしのおかげだと信用する事にした藍は、迷う事なく聞いた。
 こいしは、聞いてくれたのが嬉しかったのか、ドタドタと足踏みをする。

「この一週間、私はある弾幕の研究をしてたの。無意識の力を使ったね、なんだと思う?」

 藍は頭が良い。ここまで説明されたら、流石にこいしが何をしたのか把握出来る。しかし、あえて答えを言うような、無粋な真似を彼女はしなかった。
 藍が無言で首を横に振ると、こいしは楽しそうに説明を続ける。

「えへへ♪ 私の力を使ってね、みんなの無意識を刺激したの。サブリミナル効果を使ってね」

 サブリミナル効果とは、潜在意識に働きをかけて人々の無意識に訴えかける効果である。実際、サブリミナルに人の動きを支配するほどの効果は薄い。しかし、無意識を支配したこいしの力なら、人を蝸牛に変えるくらいの効果は出せるだろう。

「大変だったんだよー。霊夢達になら、遠慮せずに弾幕出来るけど。一般人だと攻撃できないからね。私の弾幕すら意識できないレベルで、サブリミナル効果を出すのは苦労したよ。一週間も掛かるとは思わなかったけどね♪」

 実際大変だったのだろう。笑ってはいるが、こいしの目にはクマが浮かび、とても眠そうであった。
 このまま寝かせてあげよう。藍はそう思ったが、念のため聞かなければいけない事があった。

「それで、こいしはどんな弾幕を相手に見せたの?」

 強制的にこの店に来る様な効果を見せたのならば、それは明らかに異変。やってはいけない事、恐ろしい力になる。
 こいしは藍の質問に、淡々とした口調で答える。

「簡単だよー、(正体不明の肉料理店は安全、安心、おいしい)って文字を見せただけだよ。ハンバーグの正体をバラしたら、魅力が半減しちゃうものね」

 ぬえの能力は正体不明。だから、肉の材料が豆だと知られたら、もうそれは肉に見えない。もちろん、豆だと知って食べても美味しい。美味しいが、やっぱり味は半減してしまう。見た目や食感、匂いも味のひとつなのだから。
 だから、こいしはサブリミナルで肉の安全性を訴えた。 

「そうか、良い娘だねこいしは」
「ありがとう狐さん♪ 一度でもこの店に来てくれたら、素晴らしさはわかってくれるものね♪」
 
 藍は、こいしの頭を優しく撫でた。
 こいしは嘘を付いているかもしれない。と、藍は思わなかった。純粋に、こいしはこのお店を盛り上げたかったのだろう。
 それを疑ってしまった、藍は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。あんなの何気ない一言、そう藍は想わなかった。
 
「えへへ、私の無意識役に立ったでしょ♪」

 こいしの言葉に、さらに藍の胸は痛くなる。帽子で見えないが、自慢の狐耳もしょぼんと垂れていた。そして眼を瞑り、昨日の事を思い出す。役立たずと言ってしまったあの事を。

「私はこいしに、一つ謝らなければいけない事があるんだ」
 
 ひどい事を言ってしまった事を謝ろう。そう決心して目を開けたとき、こいしは精一杯両手を上げながら、無邪気に笑っていた。

「そんな事どうでもいいよ狐さん! それよりもほらっ!」

 フランやぬえは、サブリミナル効果なんて当然知らないだろう。それでも、こいしの事を信用した。紫や諏訪子や妹紅は、サブリミナルを知っていたから、信用したのだろうか?
 多分違うだろう。そんな事は、関係なかった。
 
 純粋な笑顔のこいしを見ていたら、藍もみんなの気持ちが分かるような気がしてきた。
 傍に居るだけで心洗われる、そんな透き通るような笑みを見て。

「ありがとう、こいし」

 そして狐さんは、精一杯背伸びした無意識少女と、成功の証のハイタッチをする。
 子供の様に、楽しそうにはしゃぎながら……。 
※この後、こいしは「お金を返したくなるサブリミナル」を開発した。

>ぺ・四潤さん
誤字本当に指摘ありがとうござます。
修正させていただきました。
汗を塩分変わりに使うのは料理では定番ですよね!
>10さん
大豆ハンバーグって結構美味しいですよね
>4さん
ありがとうございます。
そう言っていただけると本当に嬉しいです。
      、 _,,.,_
      ,ゝ`´⌒ヽ.   
 <て イ(.(、 人)ル   みんなにハンバーグ作るよ!
   ,へ ヽソ;゚ ヮ゚ノ(_,     。・゚・⌒)
   |/><::;:::'ij'::i::>つ━ヽニニフ))
    |/も':::::ャハ》 .
      `i_フ_フ´ .
ムラサキ
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コメント



0.3080簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
大盛り定食一つください
4.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり、ムラサキ氏の書く三人娘は堪りません。
毎回とても楽しみにさせていただいております。

という事で、私も大盛り定食を一つ。
8.100名前が無い程度の能力削除
10.100名前が無い程度の能力削除
こんな素敵なメンバーの料理店なら毎日行きたい
豆で出来たハンバーグ美味しいよね、ゆうかりんの大豆なら尚更
16.100名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気ですね
私も大盛定食一つくださいな
20.100ぺ・四潤削除
久しぶりに三人娘が見られなて幸せです。子供のケンカは見てて和みますなww
店の表にテーブル出してろりっこ諏訪子ちゃんに幸せそうにハンバーグ食べてもらったらお客がいっぱい来そうな気がする。
あと、「藤原さん」って言うとパートのおばちゃんみたいだwww
ところで、ハンバーグはゆうかりんの汗を吸ったお豆を使ってぬえぬえとふらんちゃんの汗で味付けしたということでOK?よし、食いに行く。
みんなで一生懸命汗を掻き息を荒げながらお豆をくりくりこね回して作ったハンバーグ。素晴らしいです。

私最近齢のせいか肉食べたいと思っても少しですぐ飽きてしまって、大豆ハンバーグのほうがいいです。
21.100名前が無い程度の能力削除
超大盛り一つください
22.100名前が無い程度の能力削除
超々大盛り一つください
23.100名前が無い程度の能力削除
何か腹減ってきたー
無意識の力かw
38.100名前が無い程度の能力削除
蝸牛に吹いたwwwまさかすぎるwww
41.70名前が無い程度の能力削除
女体盛…いえなんでもないです、大盛りください
47.100名前が無い程度の能力削除
大豆ハンバーグもいいけど、豆腐ハンバーグも美味しいです。
52.100七氏削除
藍しゃまいいですねー
58.100名前が無い程度の能力削除
畜生! 腹減った!

三人娘と思いきや、Ex&Ph組でしたね。多分、組み合わせ的に初じゃないかな?
面白かったです!
59.無評価ムラサキ削除
ここまで見てくださった方、本当にありがとうございます。
>2さん
了解です!
>8さん
ありがとうございます!
>16さん
雰囲気を楽しんでいただいてなによりです、
>21さん
かしこまりました!
>22
御柱一つ入りましたー!
>23さん
さすがはこいしちゃんですね!
>38さん
サブリミナルネタはそれ見て思いついたんですよねw
あれはなかなか凄い理屈でした。
>41さん
女体盛りはぬえが……大盛りですね、わかりました。
>47さん
豆腐ハンバーグもあっさりしてて美味しいですよね
前食べてびっくりさせられました。
>七氏 さん
藍さまは世話焼きな所がありそうで癒されます
>58さん
軸は三人娘ですね今回もw
三人娘と他のExボスの絡みは書いていて本当に面白かったです。
く|    ,..-──-ヘ/i |>
 <>ヽ、 ,'y,..-=== y__」/<>
  <>〈`'γ ノノハノノハノ<>
   .<>ゝノルリ ゚ ヮ゚ノ!|ノ<> 。・゚・⌒)  みんなにもハンバーグ作るよ!
     <>〈(つyiつ━━ヽニニフ))
      ,く/_!__」>,
        `ト,ノ~トノ"
60.100名前が無い程度の能力削除
無意識って万能だな...恐るべし

しかしこのメンバーだと藍が苦労人すぎるw
62.無評価ムラサキ削除
>60さん
いえいえ、怖いのはウィザーさんだけで十分です
ただでさえゆかりん一人でも藍さま大変そうですもんねw
65.90ずわいがに削除
無意識最強過ぎんだろ……

EX組の料理店ですか、賑やかそうで何より。
まぁ、テーブルやらイスやらが飛び交っていては命に関わるので、じゃれ合いには気をつけてねwww
66.90名前が無い程度の能力削除
Ex馬鹿カルテットw
Ex組勢ぞろいで楽しい店だなぁ。行きたい。
68.90名前が無い程度の能力削除
食事用のエプロンつけて、
満面の笑みで両手にナイフとフォークを持ったケロちゃん幻視してニヤニヤが止まりませぬw

あとスイマセン一箇所ツッコミを……
>現在の時刻は午後十二時、お腹がペコペコのお昼時。
午後なら零時、十二時なら午前では?
69.無評価ムラサキ削除
>>ずわいがにさん
皆実力者ぞろいですから、頭にテーブルが当たっても
死ななくても痛いだけですねw
>>66さん
Ex勢のみなさんはどなたも個性的でいいですよねぇ
>>68さん
午前の間違いでした。
午後十二時とか異空間な時間帯になってましたね……。
誤字修正ありがとうございます
84.100名前が無い程度の能力削除
イイネ