ここはかつて彼岸花が咲き誇り、数多の魂が渡った三途の川。
しかし今や水は淀み、花は枯れ、かつて積まれた石の塔が、僅かにその面影を保っていた。
「やぁ、やっと来たね。あんたが最後の一人だよ。」
姿こそ変わらないものの、随分年老いた雰囲気の船頭が一人彷徨う魂に声をかける。
魂は言われるまま舟に乗り、かつて入っていた肉体の形に変化した。
「…」
「じゃあ、出発するよ。」
船頭はそう言って小舟をこぎ出した。澱んだ流れなのに、大した力も込めずに舟は動き出す。
「最初に言っておくよ。」
「…」
「映季様は他のところに担当が変わった。有能なお方だったからね。上の事情って奴で栄転さ。管轄だった幻想郷のほとんどの魂はもう逝ったから、あそこはもう廃墟さね。」
「…」
「という訳で、このあたいが今は閻魔と船頭を兼任してるよ。もっとも、ここにはあたい一人しか居ないけどね。」
「…」
少女の魂は黙っている。
「さて、時間もないし着くまでにあんたの裁きをちゃちゃっと、済ましちゃおうか。」
「…」
「藤原妹紅。罪状および来歴。貴族藤原不比等の白子の子として生まれ、兄や親戚に疎まれ辛い幼年期を過ごす。
16の時、月から来た姫の贈った薬を奪い、その際に罪のない死者を殺している。
また、その薬によって不死と言う最大の禁忌ともいえる罪を冒している。その後、世を恨み、姫を恨み、暴行、殺害した数多数。その罪の大きさは筆舌に尽くし難い」
「…」
「もって、閻魔たる私、小野塚小町は上の者の魂を以下のような処遇に処す。」
「…」
「判決。上の物、藤原妹紅の魂は輪廻の輪に復帰するものとし、輪は畜生道から開始する。その罪は輪廻の輪で贖うものとする。」
「…え?」
少女が初めて口を開いた。
「あんたのやった事はどれをとってもとんでもない罪だ。本来ならば、どんなに善行を積んでも転生は許されないそれほどの罪だ。だが、あんたは転生を許された。」
「…」
「なぜだかわかるかい?」
「…」
「それはね、あんたが愛されていたからだよ。幻想郷の、あんたと関わりのあった人妖が、あんたの罪を少しづつ、少しづつ、背負ってくれたんだ。
あの薬師が半分近くを負った。
彼女は不死の薬は飲んでいかなった。もともと長命だっただけで、その命は有限だった。
あの姫様への罪滅ぼしの為に、彼女はあんたと姫様の罪を背負った。
残りのうち幾らかは、あのハクタクが背負った。彼女はかなり善行を積んでいたから、望むなら転生で王に生まれる事や、恵まれた家で育つことも可能だった。
なりは変わって記憶も無くなっているが、どこかで安月給で教師をやっている事だろう。
他にも、あんたに助けられた人間や、妖怪が少しづつ背負った。わかるかい?あんたは愛されていたんだよ。あんたは、生まれて来るべきでないなんて事は無かった。
あんたの長い長い、気の遠くなるような人生は無駄なんかじゃ無かったんだよ。」
「うっ…うぅぅぅぅ…」
「魂は輪廻に乗る。しかし、あんたの罪の全てが赦された訳じゃない。だからあんたは畜生道に落ちる。
ただ、そこで善行を積めばあんたはいつか必ず人間に戻る。頑張って善行を積むんだよ、彼女と一緒に。」
「うっ…うぅぅ…ひっく…みんな…みんなぁ…うぇぇ…」
「さ、泣くのは止めて、転生の準備に入ろうか。ほら着いた.この舟を降りて、そこの門をくぐるんだ。あとは勝手に転生される。さぁ。」
「ありがとう…うぇ…小町さん…ヒック…ありがとう…」
「早く行っとくれ。あたいはもうそろそろ眠いんだ。寝れないじゃないか。」
「ありがとう…みんなありがとう…」
彼女の魂は泣きじゃくりながら輪廻の門をくぐり、そして門が閉まった。
そして船頭は船底で横になり
「ふう…終わりましたよ、映季様…」
そして、その舟は二度と動く事はなかった。
それより後のある時代のどこかで、2匹の猫が生まれた。
白銀の毛と、漆黒の毛を持った二匹は仲睦まじく過ごし、時には人を助けて、多くの人に見守られながら一緒に眠るように息を引き取ったという…
しかし今や水は淀み、花は枯れ、かつて積まれた石の塔が、僅かにその面影を保っていた。
「やぁ、やっと来たね。あんたが最後の一人だよ。」
姿こそ変わらないものの、随分年老いた雰囲気の船頭が一人彷徨う魂に声をかける。
魂は言われるまま舟に乗り、かつて入っていた肉体の形に変化した。
「…」
「じゃあ、出発するよ。」
船頭はそう言って小舟をこぎ出した。澱んだ流れなのに、大した力も込めずに舟は動き出す。
「最初に言っておくよ。」
「…」
「映季様は他のところに担当が変わった。有能なお方だったからね。上の事情って奴で栄転さ。管轄だった幻想郷のほとんどの魂はもう逝ったから、あそこはもう廃墟さね。」
「…」
「という訳で、このあたいが今は閻魔と船頭を兼任してるよ。もっとも、ここにはあたい一人しか居ないけどね。」
「…」
少女の魂は黙っている。
「さて、時間もないし着くまでにあんたの裁きをちゃちゃっと、済ましちゃおうか。」
「…」
「藤原妹紅。罪状および来歴。貴族藤原不比等の白子の子として生まれ、兄や親戚に疎まれ辛い幼年期を過ごす。
16の時、月から来た姫の贈った薬を奪い、その際に罪のない死者を殺している。
また、その薬によって不死と言う最大の禁忌ともいえる罪を冒している。その後、世を恨み、姫を恨み、暴行、殺害した数多数。その罪の大きさは筆舌に尽くし難い」
「…」
「もって、閻魔たる私、小野塚小町は上の者の魂を以下のような処遇に処す。」
「…」
「判決。上の物、藤原妹紅の魂は輪廻の輪に復帰するものとし、輪は畜生道から開始する。その罪は輪廻の輪で贖うものとする。」
「…え?」
少女が初めて口を開いた。
「あんたのやった事はどれをとってもとんでもない罪だ。本来ならば、どんなに善行を積んでも転生は許されないそれほどの罪だ。だが、あんたは転生を許された。」
「…」
「なぜだかわかるかい?」
「…」
「それはね、あんたが愛されていたからだよ。幻想郷の、あんたと関わりのあった人妖が、あんたの罪を少しづつ、少しづつ、背負ってくれたんだ。
あの薬師が半分近くを負った。
彼女は不死の薬は飲んでいかなった。もともと長命だっただけで、その命は有限だった。
あの姫様への罪滅ぼしの為に、彼女はあんたと姫様の罪を背負った。
残りのうち幾らかは、あのハクタクが背負った。彼女はかなり善行を積んでいたから、望むなら転生で王に生まれる事や、恵まれた家で育つことも可能だった。
なりは変わって記憶も無くなっているが、どこかで安月給で教師をやっている事だろう。
他にも、あんたに助けられた人間や、妖怪が少しづつ背負った。わかるかい?あんたは愛されていたんだよ。あんたは、生まれて来るべきでないなんて事は無かった。
あんたの長い長い、気の遠くなるような人生は無駄なんかじゃ無かったんだよ。」
「うっ…うぅぅぅぅ…」
「魂は輪廻に乗る。しかし、あんたの罪の全てが赦された訳じゃない。だからあんたは畜生道に落ちる。
ただ、そこで善行を積めばあんたはいつか必ず人間に戻る。頑張って善行を積むんだよ、彼女と一緒に。」
「うっ…うぅぅ…ひっく…みんな…みんなぁ…うぇぇ…」
「さ、泣くのは止めて、転生の準備に入ろうか。ほら着いた.この舟を降りて、そこの門をくぐるんだ。あとは勝手に転生される。さぁ。」
「ありがとう…うぇ…小町さん…ヒック…ありがとう…」
「早く行っとくれ。あたいはもうそろそろ眠いんだ。寝れないじゃないか。」
「ありがとう…みんなありがとう…」
彼女の魂は泣きじゃくりながら輪廻の門をくぐり、そして門が閉まった。
そして船頭は船底で横になり
「ふう…終わりましたよ、映季様…」
そして、その舟は二度と動く事はなかった。
それより後のある時代のどこかで、2匹の猫が生まれた。
白銀の毛と、漆黒の毛を持った二匹は仲睦まじく過ごし、時には人を助けて、多くの人に見守られながら一緒に眠るように息を引き取ったという…
これからに期待します
色々気になる部分はあるけど、続きでその辺の謎が解けることを期待してます。
妹紅が何故死ねたのかなど疑問点は多々ありますが
三部作との事なんでそこで解説されるものだと信じてこの点を。
それにしても蓬莱人が滅びる程の年月……果たして如何ほどのものか。