和気藹々、一家団欒、そんな言葉、状況、未来永劫無いと思っていた
「今の私は幸せ?……」
今私はシアワセ……
姿形誤魔化せてもこの気持ちに嘘偽り等無い
「そう、幸せな筈なのに……」
苦しい苦しいくるしいくるしいクルシイクルシイ――
このままじゃ私は壊れる
私だけじゃない、皆にも迷惑をかける
そう、選びたくない答え……
でももうそれしかない……
「さようなら命蓮寺、さようなら、皆――」
*
小鳥の囀り人が動き出す朝
ここ数日命蓮寺は騒がしかった
それは活気よって齎される喧騒では無い
この騒がしさの原因、それは
――封獣ぬえが消えた――
*
最初は何か悪戯でもしにいったのか、何はともあれお腹が空けば腹を鳴らして帰ってくるだろう
ぬえと最も付き合いの長いムラサだがぬえが数日間も姿を現さないなんてことは無かった
大抵悪戯に引っかかるとその醜態を肴にして笑って帰ってくるものだが今回は違う
何しろ悪戯の痕跡が命蓮寺にも人里の方にもまったくない
悪い予感がする――
命蓮寺の皆もそう考えているようでぬえが消息を絶って四日、遅すぎる緊急会議が行われた
「皆知ってのとおりぬえが消息を絶って既に早四日、悪戯された気配も無い、つまりは……」
黄と黒の虎柄、毘沙門天の代理虎丸星が口を開く
「考えたくもありませんがもしや退治、或いは拉致、監禁――」
「それはないな、ご主人様」
賢将、ナズーリンが横槍を入れる
「なぜですか?ナズーリン?」
「まったく、ご主人様は自分で考えることもできないのかね?それで毘沙門天様の代理などよくも名乗れるものだね」
「ふ、ふみゅぅぅぅぅぅ……」
「フフフ…じゃあ頭の回らないご主人様の為に説明してあげるよ」
「大好きナズーリンッ!」
ぎゅっとナズーリンに抱きつく星
まるで子猫のように撫で回される毘沙門天代理と主人を手玉にとる部下、少しは威厳を見せてくれ代理様
しかしこの緊急時に茶番劇など開いてる場合じゃないだろう、とナズーリンにアイコンタクトを送る
察したのかコホンッと一つ咳払いをし、一旦星を愛でるの手を休める
「まず今の時代巫女が妖怪を滅するまで退治するとは思えないしそのやる気も感じられない」
「となるとやっぱり拉致監禁では?」
ナズーリンの膝枕に頭を乗せながら星が疑問を飛ばす
「それも無いんだ、ぬえはあんな容姿性格だが昔一国を恐怖に陥れた大妖怪鵺だ、そんじょそこらの妖怪にやられる訳が無い。それに捕まるなんてヘマもしないだろう」
「正体不明の種もありますしね」
「ああ、そこで我々が自分を探して西へ東へ走り回る姿を見て笑ってるのではないかと鼠を走らせたのだが寺や人里周辺にはどうにもいないらしい」
「で、でもぬえには正体不明の種がありますよ?それを仕込めば――」
「うむ、だから私自ら出たんだがどうにも不可解な点があるんだ」
「不可解な点ってまさか!」
静観していた一輪が突如として声を上げる
しかし不可解な点?なんのことだか……
「ぬえが消えてからここ数日寺の掃除をしてるとよく正体不明の種が落ちてるの、それももう魔力を使い切ってスッカラカンの」
「そういえば人里でも数日前まで化け物が出るって噂がありましたね、どうやらぬえの仕業みたいですけど」
一輪と星がぬえ
「まさにその通りだよ、魔力切れの種でも私のダウジングロッドを狂わすことくらいはできるらしい」
「でもぬえは少し離れた種でも魔力の再注入くらいできる――」
――――その時ムラサに電撃走るッ……!
「お察しのようだね、船長」
無造作にばら撒いたまま放置される正体不明の種
それはまるで自分の場所を知らせないための煙幕――
「――そう、つまりは家出です」
不意に白蓮が声を上げる
「家出をしてしまったら帰りにくいものです――」
白蓮が立ち上がりパンパンと手を叩き――
「さぁ皆、家出娘を迎えにいきますよ」
*
草木も眠る丑三……
妖怪の山の麓、ぬえは一人木に背中を預け呟く
「元に戻っただけ、私は元より一人……」
鵺であるが故に求めてはいけない
鵺であるが故の鎖、この世の不
理解されず――居場所等無く――愛情等求めることは許されない――
壊れたように壊れたように
「
だから……私は孤独……」
繰り返す
「鵺に居場所なんて……無いのに……」
彼女の頬から流れる水、涙――
神と人のその境界に両足を置く人間と妖怪のみが感じるであろう天涯孤独によって沸き出るような孤独、自分に繋がり等無い、自分しかいないように思えるほどの錯覚、絶望、圧倒的孤独
「みんな……」
脳裏に移るのは和やかだった、幸せなのに苦しかった命蓮寺での日々、帰る場所だった掛け替えのない居場所――
「ムラサ……」
ふと、親友の名前を呟く
彼女は私を探してくれているのだろうか……
それとも愛想つかせて私のことなんて気にも掛けていないのだろうか――
「ムラサ……」
もう一度呟く、掛け替えのない親友の名を……
「寒いよ――――」
*
寅の刻、もうすぐ日の出である
ぬえを捜索するにあたって幻想郷全体を探すため、皆それぞれ散々に散って探していたがついにナズーリンの鼠がぬえを発見し、各員に報告に回っていた
村紗水蜜は鼠の報告を受け、空を飛ぶ船「聖輦船」を駆り妖怪の山の麓へと急がせていた
「あの子はああ見えて寂しがりやなんだから、早く迎えに行ってあげないと――」
壊れる、容易く、硝子のように――
「あなた一人が抱え込む問題じゃない、あなたに居場所が無いなんてことはない!」
そう、私が聖に救われたようにあなたも救われなければならない――
「私たち家族じゃない、そうでしょ、ぬえ――」
*
ああ、またか
ぬえ気がつけば同じことを考えていた
「私は……鵺なのに……」
この込み上げる、胸を焼くか如き感情――
「寂しいよ……ムラサ……」
「あなたの居場所はここでしょ?」
不意に声の発せられた方へ向く
そこには船に掛けられた仏術と日の出の朝日がムラサと聖輦船を神々しく輝かせていた
「求めてはいけないなんて決まりは無いの、神も仏も人間も妖怪も」
「で、でも――」
「でもじゃない!」
不意に抱き寄せられる、ああムラサの胸か
私が求めていたのはこれなのか?私を苦しめていた愛情を――
「あなたは愛情を受け取るのが苦手なだけ、でもそれを捨てちゃったらもう今度こそ本当に一人だから……」
ぬえの頭を優しく撫でる、その姿はまるで母と子――
「だからもう、一人で抱え込んじゃ駄目よ?あなたが一人悲しむ姿なんて見たくないから」
「ムラサ……私……」
今まで無かった、愛情なんて感じることもなかったのに
「……っ!」
不意に涙が零れる
この涙は悲しみ――怒り――恐怖――
そんな感情から流れるものじゃない
「ムラサぁ……」
「ぬえ……」
そう、居場所なんてない……そんなことはなかった……
今もこうして私を受け入れてくれる人がいる――
簡単なことだった、何故今までそれに気づけなかったのだろうか……
私の居場所はここにある――
*
ぬえが落ち着いたのを見計らってムラサが船を動かす
「さ、もう帰ろう、皆待ってるよ!」
ムラサはまだ自分に抱きついてるぬえの頭を愛でながら
「雲山なんてきっと拳骨を握って待ってるね、あれでも本当は心配で心配で仕方が無いのに雲山はとことん頑固親父だよね」
そんな茶々を入れてみるもぬえはムラサからまったく離れようともしない
「ムラサ……」
不意にぬえが声を上げる、それも耳を澄まさなければ聞こえないような声で
「なに?ぬえ」
「もう少し……こうしていたい」
甘えてくる、と言えるほど上手ではない
寧ろ不器用と言っても過言ではない甘え方――
それでもぬえは甘えてきてくれるのだ
つまり愛情を求めている――
「うん……分かったよ……」
淡い朝焼けは二人を照らし、それはまるでぬえの未来を示すが如く輝きはじめた
「今の私は幸せ?……」
今私はシアワセ……
姿形誤魔化せてもこの気持ちに嘘偽り等無い
「そう、幸せな筈なのに……」
苦しい苦しいくるしいくるしいクルシイクルシイ――
このままじゃ私は壊れる
私だけじゃない、皆にも迷惑をかける
そう、選びたくない答え……
でももうそれしかない……
「さようなら命蓮寺、さようなら、皆――」
*
小鳥の囀り人が動き出す朝
ここ数日命蓮寺は騒がしかった
それは活気よって齎される喧騒では無い
この騒がしさの原因、それは
――封獣ぬえが消えた――
*
最初は何か悪戯でもしにいったのか、何はともあれお腹が空けば腹を鳴らして帰ってくるだろう
ぬえと最も付き合いの長いムラサだがぬえが数日間も姿を現さないなんてことは無かった
大抵悪戯に引っかかるとその醜態を肴にして笑って帰ってくるものだが今回は違う
何しろ悪戯の痕跡が命蓮寺にも人里の方にもまったくない
悪い予感がする――
命蓮寺の皆もそう考えているようでぬえが消息を絶って四日、遅すぎる緊急会議が行われた
「皆知ってのとおりぬえが消息を絶って既に早四日、悪戯された気配も無い、つまりは……」
黄と黒の虎柄、毘沙門天の代理虎丸星が口を開く
「考えたくもありませんがもしや退治、或いは拉致、監禁――」
「それはないな、ご主人様」
賢将、ナズーリンが横槍を入れる
「なぜですか?ナズーリン?」
「まったく、ご主人様は自分で考えることもできないのかね?それで毘沙門天様の代理などよくも名乗れるものだね」
「ふ、ふみゅぅぅぅぅぅ……」
「フフフ…じゃあ頭の回らないご主人様の為に説明してあげるよ」
「大好きナズーリンッ!」
ぎゅっとナズーリンに抱きつく星
まるで子猫のように撫で回される毘沙門天代理と主人を手玉にとる部下、少しは威厳を見せてくれ代理様
しかしこの緊急時に茶番劇など開いてる場合じゃないだろう、とナズーリンにアイコンタクトを送る
察したのかコホンッと一つ咳払いをし、一旦星を愛でるの手を休める
「まず今の時代巫女が妖怪を滅するまで退治するとは思えないしそのやる気も感じられない」
「となるとやっぱり拉致監禁では?」
ナズーリンの膝枕に頭を乗せながら星が疑問を飛ばす
「それも無いんだ、ぬえはあんな容姿性格だが昔一国を恐怖に陥れた大妖怪鵺だ、そんじょそこらの妖怪にやられる訳が無い。それに捕まるなんてヘマもしないだろう」
「正体不明の種もありますしね」
「ああ、そこで我々が自分を探して西へ東へ走り回る姿を見て笑ってるのではないかと鼠を走らせたのだが寺や人里周辺にはどうにもいないらしい」
「で、でもぬえには正体不明の種がありますよ?それを仕込めば――」
「うむ、だから私自ら出たんだがどうにも不可解な点があるんだ」
「不可解な点ってまさか!」
静観していた一輪が突如として声を上げる
しかし不可解な点?なんのことだか……
「ぬえが消えてからここ数日寺の掃除をしてるとよく正体不明の種が落ちてるの、それももう魔力を使い切ってスッカラカンの」
「そういえば人里でも数日前まで化け物が出るって噂がありましたね、どうやらぬえの仕業みたいですけど」
一輪と星がぬえ
「まさにその通りだよ、魔力切れの種でも私のダウジングロッドを狂わすことくらいはできるらしい」
「でもぬえは少し離れた種でも魔力の再注入くらいできる――」
――――その時ムラサに電撃走るッ……!
「お察しのようだね、船長」
無造作にばら撒いたまま放置される正体不明の種
それはまるで自分の場所を知らせないための煙幕――
「――そう、つまりは家出です」
不意に白蓮が声を上げる
「家出をしてしまったら帰りにくいものです――」
白蓮が立ち上がりパンパンと手を叩き――
「さぁ皆、家出娘を迎えにいきますよ」
*
草木も眠る丑三……
妖怪の山の麓、ぬえは一人木に背中を預け呟く
「元に戻っただけ、私は元より一人……」
鵺であるが故に求めてはいけない
鵺であるが故の鎖、この世の不
理解されず――居場所等無く――愛情等求めることは許されない――
壊れたように壊れたように
「
だから……私は孤独……」
繰り返す
「鵺に居場所なんて……無いのに……」
彼女の頬から流れる水、涙――
神と人のその境界に両足を置く人間と妖怪のみが感じるであろう天涯孤独によって沸き出るような孤独、自分に繋がり等無い、自分しかいないように思えるほどの錯覚、絶望、圧倒的孤独
「みんな……」
脳裏に移るのは和やかだった、幸せなのに苦しかった命蓮寺での日々、帰る場所だった掛け替えのない居場所――
「ムラサ……」
ふと、親友の名前を呟く
彼女は私を探してくれているのだろうか……
それとも愛想つかせて私のことなんて気にも掛けていないのだろうか――
「ムラサ……」
もう一度呟く、掛け替えのない親友の名を……
「寒いよ――――」
*
寅の刻、もうすぐ日の出である
ぬえを捜索するにあたって幻想郷全体を探すため、皆それぞれ散々に散って探していたがついにナズーリンの鼠がぬえを発見し、各員に報告に回っていた
村紗水蜜は鼠の報告を受け、空を飛ぶ船「聖輦船」を駆り妖怪の山の麓へと急がせていた
「あの子はああ見えて寂しがりやなんだから、早く迎えに行ってあげないと――」
壊れる、容易く、硝子のように――
「あなた一人が抱え込む問題じゃない、あなたに居場所が無いなんてことはない!」
そう、私が聖に救われたようにあなたも救われなければならない――
「私たち家族じゃない、そうでしょ、ぬえ――」
*
ああ、またか
ぬえ気がつけば同じことを考えていた
「私は……鵺なのに……」
この込み上げる、胸を焼くか如き感情――
「寂しいよ……ムラサ……」
「あなたの居場所はここでしょ?」
不意に声の発せられた方へ向く
そこには船に掛けられた仏術と日の出の朝日がムラサと聖輦船を神々しく輝かせていた
「求めてはいけないなんて決まりは無いの、神も仏も人間も妖怪も」
「で、でも――」
「でもじゃない!」
不意に抱き寄せられる、ああムラサの胸か
私が求めていたのはこれなのか?私を苦しめていた愛情を――
「あなたは愛情を受け取るのが苦手なだけ、でもそれを捨てちゃったらもう今度こそ本当に一人だから……」
ぬえの頭を優しく撫でる、その姿はまるで母と子――
「だからもう、一人で抱え込んじゃ駄目よ?あなたが一人悲しむ姿なんて見たくないから」
「ムラサ……私……」
今まで無かった、愛情なんて感じることもなかったのに
「……っ!」
不意に涙が零れる
この涙は悲しみ――怒り――恐怖――
そんな感情から流れるものじゃない
「ムラサぁ……」
「ぬえ……」
そう、居場所なんてない……そんなことはなかった……
今もこうして私を受け入れてくれる人がいる――
簡単なことだった、何故今までそれに気づけなかったのだろうか……
私の居場所はここにある――
*
ぬえが落ち着いたのを見計らってムラサが船を動かす
「さ、もう帰ろう、皆待ってるよ!」
ムラサはまだ自分に抱きついてるぬえの頭を愛でながら
「雲山なんてきっと拳骨を握って待ってるね、あれでも本当は心配で心配で仕方が無いのに雲山はとことん頑固親父だよね」
そんな茶々を入れてみるもぬえはムラサからまったく離れようともしない
「ムラサ……」
不意にぬえが声を上げる、それも耳を澄まさなければ聞こえないような声で
「なに?ぬえ」
「もう少し……こうしていたい」
甘えてくる、と言えるほど上手ではない
寧ろ不器用と言っても過言ではない甘え方――
それでもぬえは甘えてきてくれるのだ
つまり愛情を求めている――
「うん……分かったよ……」
淡い朝焼けは二人を照らし、それはまるでぬえの未来を示すが如く輝きはじめた
題材自体は穏当な所ですから、キャラの配置などに気を遣えば十分楽しめる作品に出来ると思います。欲を言えばもうちょっと身が欲しかったですね、やはり。作品の長さ、事件発生から解決までの経過が急すぎて、ちょっと物足りない感じがします。構成自体は悪くないですがね。
そして、まあこれはご自分でも気づいてらっしゃるようですが、中途半端な感が否めません。進め方の骨子はシリアスなようで、ギャグ風味の味付けでもあり、シュールな感も漂う迷作です。もちろん、それで上手くまとまる場合はまとまります。上手な人は上手にまとめ上げちゃう。しかし、この作品では非常にミスマッチで、混じり合っていない部分が鼻につきます。それに付随して、日本語的表現が貧弱な気がします。
上げてみよう、やって見ようの考え方は立派です。人は須くアグレッシヴじゃないといけない。後はそこから少しでも経験をくみ取れれば上々です。得点は作品に40点とあなたの気概に40点。合わせて80点です。次作も楽しみにしていますよ。では。
とはいえ構成はなかなかいいので自信をもってください
やはりシリアス路線ならば中途半端な要素は些か目に障る、とまではいきませんが少々蛇足です
次作も期待しています
正体不明の妖怪ですから、まぁ、孤独は仕方ありませんかねぇ。