紅魔館っていう場所は存外に堅苦しい場所で、レディの作法やら貴族としてのあり方なんかをとやかく言われる。
特に、アイツ―――私の姉であるレミリア・スカーレットは本当に口うるさい。
そんなの私の勝手だというのに、アイツはやれ「食事のときは音を立てるな」だの、「もう少しシャンと女性らしくありなさい」だの。
とにかく、あれこれとモノを言うし、我が侭で頑固な性分だから頑として聞かない。
あ、そうだ。私の名はフランドール。フランドール・スカーレット。
人は私の事を狂気の吸血鬼だの破壊の権化だの言うけれど、それは正真正銘の事実であり、そして私はこの紅魔館の当主の妹だ。
さて、そんな私ではあるのだけれど、今はノビノビと廊下を歩いている。
いつもならなるべく部屋にいるようにといわれるのだけれど、今日はそんな邪魔者もいない。
理由は単純明快。今日から我がお姉様は博麗の巫女の元に泊まりにいっているのだ。懐刀の咲夜と一緒に。
いつもならこうやって鼻歌交じりに歩いていると色々言われてしまうのだけれど、その注意をする人物が今はいない。
あれ、これなんてパラダイス? 他人の目を気にしないでいいことがこんなにも気楽なものだったとは、いやはや予想外だ。
そんな風に自由を満喫していると、廊下のむこうから見覚えのある人物の姿が見えて、私は思わず首をかしげた。
「あぁ、妹様丁度いいところに!!」
「どうしたのさ、小悪魔。随分と慌ててるみたいだけど」
ワインレッドの長い髪に、背には蝙蝠の羽を生やした彼女は、小悪魔と呼ばれているパチュリーの使い魔。
普段はこの館の地下に存在する図書館で仕事をしていて、時々やらかす悪戯がはた迷惑な女の子である。
その彼女が慌てた様子で走ってきたのだ。すでに嫌な予感しかしない。
「実はですね、実験中に悪戯したら実験が失敗してしまいまして……」
……うわぁ、まためんどくさいことやらかしやがったよコイツ。
「……うわぁ、まためんどくさいことやらかしやがったよコイツ」
「今思ったことそのまま口に出しましたよこの子」
おっといけない、つい本音が出てしまったわ。
だって、仕方がないじゃないか。何かあると大体の確率で小悪魔が原因だったりするんだから。
とりあえず、文句を言う前に彼女は普段の自分の行いを振り返ってみて欲しい。割と切実に。
「で、今度はどんな悪戯やらかしたの?」
「いやぁ、パチュリー様達が実験してた鍋に私の髪の毛を混ぜたらですね、いろんな私が分裂してしまいましてー」
「どんな悪夢、それ」
いや、予想以上に酷すぎる。
何しろ、一人でも大変だというのに、小悪魔が分裂とか狂気の沙汰としか思えない。私が言うのもなんだけど。
すると彼女は私の言葉が不満なのか、ぷーっと頬を膨らませてご立腹だ。
「酷いですよ妹様。私、泣いちゃいますよ?」
「はいはい、嘘泣きはいいからさ、それで私に何か手伝ってほしいんでしょ?」
こうしていても埒が明かないと判断した私は、小悪魔の言葉には取り合わず話を促した。
すると、彼女は先ほどまで不機嫌そうだったというのに、うって変わってにっこりと笑って「さすが妹様、話が早い」と手を打つ。
内心で、一体どれが彼女の本当の感情なのやらとため息をつく。ころころと表情を変えて、けれどそれがどれも仮面のように思えて。
小悪魔、なんてよく言ったもんだ。力は大したこともないくせに、その卓越した話術で相手を煙に巻く。
いや、力がないからこそ、話術が卓越してしまったのか。そこまで考えて、そんなこと思っても仕方ないかと思考を打ち切った。
「はい、妹様これで捕まえるの手伝ってください」
……いや、正確に言うと、打ち切らされたといったほうが正しいか。
彼女が私に手渡してきた代物に、私は思わず眉をひそめることしか出来ずにいた。
何しろ、彼女が手渡してきたのは飴玉と虫取り網という、双方の関連性が皆無としか思えない代物である。
……どないせーっちゅうねん。
「小悪魔、百歩譲って虫取り網は納得するとしてもさ、飴玉は何で?」
「あ、いましたよ妹様!! あそこです、あそこ!!」
「聞けよ」
人の質問に答えずに廊下の先を指さす小悪魔に苦言をこぼしてみるものの、どうせ聞きはしないんだろうなとため息ひとつついて指の先に視線を向ける。
一見、何もいないように見えるのだけれど、よくよく視線を凝らして見れば廊下の柱の影に、こちらを覗く小さな何かが見えた。
おそらく全長は10cmもないだろう、赤く長い髪に蝙蝠のような羽、まさしく手乗りサイズの小悪魔とも言うべきものだろう。
そのちっこい小悪魔はこちらが気付いたと悟ると、慌てた様子でトテトテと逃げていこうとして―――盛大にずっこけた。
ゴチンッという鈍い音と共に、床に顔を打ち付けたその様は、見ていて痛ましい光景だ。
「……こぁ~」
前のめりに倒れたまま、じんわりと涙目になったかと思うとホロホロと泣き始める。
確かに、さっきのは痛かっただろう。顔面からダイブしたかのような見事なこけ方だったし、嗚咽がこっちまで聞こえてくる始末。
……え、何コレ、カワイイ。
一度ため息をついて、そのちっこい小悪魔に歩み寄る。
手のひらに載せて顔の前にまで持ってくると、やっぱり子供のようにえぐえぐと泣いて涙を拭っていた。
うん、なんだろう。この胸を穿つような凄まじい罪悪感。私何もしてないのに。
このまま泣かれると、私のほうが先に気が滅入ってしまう。
もう一度、盛大なため息をひとつ零すと、私は先ほど小悪魔から受け取った飴玉をちっこい小悪魔―――もうチビでいいや―――に、渡してやるのだった。
「えっとさ、飴玉いる?」
▼
「ほっこり」
私の頭上から、満足そうな声が聞こえてくる。
この数十分ですっかりと定位置になってしまったらしい私の頭の上で、チビは満足したように掴まっていた。
さしずめ、たれ小悪魔とでも表現すればいいのだろうか。こうして見ると、なかなかに愛嬌のある奴である。小悪魔から分化したとは思えないほどに。
「さすがですね妹様、幸先のいいスタートです!」
とりあえず、コイツから分化したのがこのチビだとは信じたくない話ではあるけれど。
「わー、なんですか妹様。そのものすごく胡散臭そうな顔」
「いやね、何処をどう間違ったら小悪魔からチビが分化したのか不思議でたまらないわけなんだけど」
「あれ? 私っていつもこんな感じじゃありません?」
「オーケー、とりあえず小悪魔は鏡を見て過去の自分の行いを考えるとこから始めようか」
本当、どの口からそんな言葉が飛び出しやがるのか。
人の紅茶に唐辛子を混ぜ込んだり、人の枕にニンニク詰め込んだり。悪戯が人生の至高の喜びなんて豪語する困ったさんが何を言うか。
そんな奴から、このかわいらしいおチビさんの爆誕である。なんでこうなったの?
そんな考えが表情に出ていたんだと思う。彼女はくすくすと笑って「冗談ですよ」とウインクをひとつ。
本当、なんだか遊ばれてるみたいで面白くない。
「こあー?」
「あぁ、大丈夫よチビ。別にどこかが痛いって訳じゃないから」
心配そうな声色と共に、チビが私の頭をぺしぺしと叩く。
この子なりの心配なのだとすぐにわかって、私は苦笑しながらそんな言葉を返していた。
ここからじゃチビの姿は見えないけれど、今頃首でも傾げているか、それとも満足そうに笑っているか。
感情が素直な分、どこぞの悪戯好きよりよっぽどとっつきやすい。
「なつかれてますねぇ」
「ま、悪い気はしないんだけどさ」
そんなやり取りを交えながら、私達は紅魔館を虱潰しに歩き回る。
彼女の話によれば、実験に参加していたのはパチュリーに小悪魔、そして魔理沙やアリスとおなじみのメンバーだったとか。
丁度、お姉様がいないという事もあって大規模な実験を試みていたらしいのだが、それも小悪魔の悪戯で妙な方向に結果が出てしまったらしい。
他の皆も、散らばってしまった小悪魔を集めるべく行動しているらしいのだけれど、今のところ他のみんなとすれ違う様子もないのは、幸運と見るべきか否か。
「小悪魔、大体どのくらいの数が散らばったわけ?」
「151匹です」
え、何その悪夢?
「そのうち掴まったのが140匹、妹様の合わせて141匹ですね」
「あれ、早くない? 捕まえるの」
「あはは、お恥ずかしながら、二日ほど前から皆徹夜で探してますからねぇ」
笑いながらの彼女の言葉に、ふーんっと曖昧な相槌を打った私は、胡散臭げに小悪魔を見る。
二日前から徹夜といったが、そのわりにはコイツはやたら元気な気がするんだけど、その辺どういうことなのか。
ていうか、絶対にサボってたでしょアンタ。今の今まで一匹も捕まえてなかったのがいい証拠な気がする。
「失敬な。私だって捕まえてるんですよ? 図書館で一時的に保管しに戻ってますし」
「あ、そうなんだ。ていうか、人の思考を読むな。『覚』かアンタは」
「こぁっこぁっこぁ、何をおっしゃいます妹様。妹様の考えなら手に取るようにわかりますよ」
……本当、いつの間に私のプライバシーはかけらもなくなってしまったのだろうか。
小悪魔は相変わらず愉快そうに笑ってるし、チビは不思議そうに首をかしげてる。
細かいことは考えても仕方がない。いや、実際はあんまり細かくはないような気がするけど、ここで小悪魔とプライバシーについて話しても始まんないし。
とにかく、その分化した小悪魔をとっ捕まえる作業から入ろう。どうせ暇だったのだし、この際小悪魔のことに関しては二の次だ。
「ようやく見つけたわよ、そこの性悪悪魔ッ!!」
と、そんな思考に埋没しているときだ。その声が聞こえてきたのは。
その声は私にとっては聞きなじみのない声で、パチュリーのものでもアリスのものでも、ましてや魔理沙のものでもない。
ふと、意識を現実に引き戻してそちらに視線を向けて見れば、まったく持って意外な人物がそこにいた。
鮮やかな緑のセミロングに、真っ赤な瞳はキツく怒りを表すようにつり上がっている。
その薄桃色の日傘は先が鋭く、その切っ先を私達に向けて突きつけている。
風見幽香。幻想郷においても、最強の一角を担う正真正銘の規格外が私達の目の前にいる……のだけど。
「……えっとさ、どうしたの幽香?」
「どうしたもこうしたもあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私が問いかけて見れば、彼女は半ば涙目になって全力で吼えた。
うん、それも無理らしからぬことだろう。私も彼女とおんなじ立場だったら同じことしてたと思う。
端的に言おう。幽香も手乗りサイズになってた。しかも猫耳猫の尻尾というオマケつきである。
「実験交じりのお茶会があるからって、アリスや魔理沙たちもいるから気まぐれにきてみれば、ソイツの悪戯で私はこんな、こんな―――ッ!!」
怒りでプルプルと震えるチビ幽香。
いつもの彼女なら、それはもうそこいらの妖怪なら逃げ出してしまいそうな威圧感を放っているだろうに、ちっこくなったせいかむしろ可愛らしい。
うん、それはなんというかご愁傷様としか言いようがない。こいつの前で油断するともれなくこういった珍事件に巻き込まれるのだ。
その辺は、小悪魔と関わった大半の面々が暗黙の了解として理解していることである。
「幽香落ち着いて。小悪魔はいつもあんなんだから、治そうと思っても手遅れだわ。飴上げるから落ち着いて」
「飴なんているわけないでしょ! 私は風見幽香!! 誰もが恐れおののく最強の大妖怪よ!!」
私の言葉に、それはもう大妖怪らしく啖呵をきる幽香。
その姿は威風堂々、まさに大妖怪であると思わしめる見事な言葉であっただろう。
ただ残念なことは、私が出した飴にずっと釘付けな上に涎だらだらでちっとも説得力がないことだけど。
彼女はそこまで言ってのけると、一目散に小悪魔に疾走する。
小さいと侮るなかれ、そこはやはり最強と名高い大妖怪。信じられないスピードで小悪魔までの距離を走りぬけ。
こけっ。ベチーン!!
盛大にこけて顔面から床にキスをした。
……あれ、なんだろうこのデジャヴ。
「こあー?」
「えっとさ、大丈夫幽香?」
「う、うるさい放っておいて!! 恥ずかしくなんてないんだから!! 泣いてなんかいないんだから!!」
チビと私の心配する声に、彼女は半泣き状態で盛大にわめき散らした。
なんというか、語るにおちている様な気がするのは気のせいなのかな? 気の毒すぎて指摘ができないから生暖かい目で見守るしかないのだけど。
「み、見ないで! そんな目で私を見ないでぇぇぇぇ!!」
……うん、どうしよう。だんだん居た堪れなくなってきた。
ふと、小悪魔のほうに視線を向けて見れば、何処か気の毒そうに表情を歪める小悪魔がいた。
いや、気の毒そうな顔してるけど、元凶はあなただからね? 何を第三者のような表情してるのさ?
もう一度、幽香に視線を向けて見る。猫の耳はへにゃんとたれてしまい、真っ赤な顔を両手で必死に押さえている。
うん、何このかわいい生き物。
「幽香、ちなみにコレ、人里で限定20個の蜂蜜味なんだけど」
何気なく言った私の言葉に、幽香の目がキラリと光る。
最強の妖怪が陥落したのは、この直後のことだった。
▼
あれから、館内を歩き回って探しては見るものの、目立った成果はなく仕方なく紅魔館の外へ。
裏庭のほうから探してはいるのだけれど、やはり成果は芳しくない。
日傘を片手に、忌むべき太陽の下で探し回るのは中々きつい。
「あら、随分とキツそうね」
「そりゃ吸血鬼だからね。太陽の下で元気な吸血鬼なんて、そうそういるはず無いじゃない」
何処か愉快そうな声が肩から聞こえて、私はため息混じりに言葉を返す。
右肩に乗っているのは手乗りサイズの猫耳猫尻尾完備の風見幽香。すっかり機嫌を良くしたらしい彼女は、鼻歌交じりで気楽なものだ。
そんなに好きだったのか。雲山屋一日二十個限定の蜂蜜味の飴玉。
「そりゃそうですよ妹様。何しろ、雲山屋の蜂蜜味は舐めると目からビームが出せると評判ですから」
「だから人の考えを読むなって……いや、チョット待って、それ大丈夫なの?」
小悪魔のとんでもない発言に、私の咎める言葉は途中から不安に取って代わった。
普通なら嘘だと断じることが出来るのだけれど、困ったことに何かポリシーでもあるのか、小悪魔はまったくといっていいほど嘘をつかない。
嘘をつかず、そして相手を騙す狡猾さは、彼女の口のうまさというものをよく表しているだろう。
そんな私の不安を感じ取ったのか、小悪魔はクスクスと笑ってぴんっと親指を立てる。
「もちろん、言葉のあやというやつでしょう。お店側のキャッチフレーズでしょうし、真に受けると頭がこんがらがっちゃいますよ」
「そうよ、気にしないほうがいいわ。その話、飴を舐めた主人が目からビームを出してたってだけの話なんだから」
……いや、それ結局ビーム出したことには変わりないよね? ビーム出したんだよね!!?
ねぇ、二人とも私を不安から救いたいの? それとも不安のどん底に陥らせたいのかどっちなの!!?
さっきまでの険悪な雰囲気は何処に言ったのか、やたらと仲のいい小悪魔と幽香の言葉が、余計に私の思考を混乱させる。
「こあー?」
心配そうに私の顔を覗きこむチビの心遣いが心に染みる。一体、いつの間にチビは私の心のオアシスになってしまったのやら。
覗きこむチビの頬を突いてやれば「きゃーきゃー」と嬉しそうに目を細める彼女の、なんと可愛らしいことか。
あー駄目、ものすごく癒される。ていうかこのチビ、可愛すぎるんだけど。
思わず頬が緩んだ私は悪くないと断じたい。まったく罪な女ね、チビってば。
……あれ、おっかしいなぁ。景色がにじんでよく見えないや。なんで涙が出てくるのかなぁ。
「あれ、妹様どうかしました? 嬉し涙ですか?」
いや、ちょっと黙ってろお前。
「それにしてもさ、こういうチビばっかりなの?」
「そうですね、第一段階はそうですよ」
溢れ出そうになった殺意をかろうじて押し止め、私は笑顔で小悪魔に問いかける。口の端がひくついてた気がしないでもないけど。
そんな私の様子に気付いているんだかいないんだか、小悪魔はんーっと考えて言葉を紡ぐ。
……えっと、今なんかものすごく嫌な言葉を聞いた気がするんだけど。
「第一形態って、どういうこと?」
「あ、それはですねー……―――」
小悪魔が何かを言いかけた刹那―――何かが砕け散るような、歪な音があたりに響き渡った。
その尋常ではない音に、思わず私達は音がした方角に視線を向ける。
音がしたのは正門の方角。そこから土煙が上がっており、音の発生源が正門だと理解させるには十分で。
「小悪魔!」
「いえっさー!!」
私の言葉に小悪魔が先行して正門に向かって走っていき、私はチビと幽香を振り落とさないように気をつけながら正門に向かって疾走する。
頭のほうからチビの「こあー!!?」なんて悲鳴が聞こえてきたけど、今は我慢して欲しい。
嫌な胸騒ぎを覚えながら、ようやく私達は正門に到着した。
すると、壁に叩きつけられたのか、美鈴が項垂れるように倒れていて、私は血の気が引くような思いで彼女に駆け寄る。
幸い、大きな怪我は無いようでほっとする。気絶してはいるけれど、この分なら大事に至ることは無いと思う。
「ほっとしてる場合じゃないんじゃないの? アレを見なさいよ」
何処か呆れたような幽香の言葉に、私はハッとして振り返る。
彼女の言うとおりだ。先ほどの轟音がしてからさほど間がたってないということは、美鈴を退けた相手がここにいるっていうこと。
私はその相手を見定めようとして―――
「へ?」
思わず間の抜けた声を上げて、呆然とそれを見上げるしか出来なかったのである。
そう……見上げる、である。私が振り返った視線の先、そこにいたのは……何処からどう見ても軽く15mはあろうかという巨大な小悪魔らしきものだった。
らしきものって言う時点で察して欲しい。髭が生えてたりサングラスしてたり、やたらと劇画タッチなアレを小悪魔とか言いたくない。
やたら高笑いしている小悪魔(大)だけど、その声がものすごく低い。たとえるなら「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」とか叫びそうなほどに低い。
ついでに声がチョットだんでぃだった。
「そんな、恐れていた最終進化を起こしていた子が居たなんて!!」
「チョット待ってぇぇぇぇぇぇ!!? なんか色々アカンよねあんなどうしようもないの!!」
やたらシリアスに話をふってくる小悪魔だけど、私はそんな風にシリアスに乗れるはずも無く思いっきり彼女にツッコミを入れてしまう。
だって、アレの存在感が異常すぎるよ!!? サ○エさんにケン○ロウを放り込むがごとき暴挙だもん!!?
ていうか、小悪魔は進化って言ったけど何をどう間違って進化したらああなるの!!?
「ふはははははは!! 私はもう小悪魔ではない。あらためて名乗るならば、そう!! 大悪魔と名乗らせてもらおう!!」
「捻り無しなの!!?」
そしてそのシリアスなノリに乗ろうとする大悪魔。
とりあえず、お前のその異様な存在感がシリアスという空気を木っ端微塵に砕いているということを悟って欲しい。ぜひとも悟って欲しい!
「ふ、ふふふ、そうね。貴女はもう小悪魔ではないわね」
ガラガラと瓦礫の中から傷だらけの人形遣いご登場。
あの大悪魔にやられたのは予想できる。それにしても、人形遣いですらこの有様とは、あの大悪魔、ふざけた見た目とは裏腹に相当な実力者らしい。はた迷惑すぎる。
そんな私の思いとは裏腹に、アリスはクックックッと不敵に笑いながら立ち上がった。
「まだ立ち上がるか。この大悪魔を前にして!」
「当たり前じゃない。私にはまだ、最高のカードがこの手にあるのだから!」
大悪魔の見下すような言葉にも、アリスは毅然とした様子でカードを掲げる。
傷だらけだというのに戦意を失わず、文字通りの巨大な敵を前にしても動じない姿は、確かにカッコいいと思った。
彼女は叫ぶ。そのスペルカードの名を。己が命を託した一枚のカードに、命を吹き込むように。
「出ろぉぉぉぉ! ゴリアテェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
はたして、それは本当にスペルカードの宣言だったのか。
彼女の叫びに呼応するように、空でキラリと何かが光った。
一体なんだと思う間もなく、超高速で飛来したのは一体の人形―――いや、それを人形と呼称することすらおこがましい。
それは大悪魔と同じ巨体で、両手には紅魔館すらも真っ二つに出来るであろう巨大な剣、ソイツは人形と呼ぶには余りにも巨大すぎた。
呆然とする私達をよそに、「とう!!」と元気のいい掛け声でジャンプするアリス。
同時に人形の胸部がパカッと音を立てて開き、彼女は綺麗にジャストイン。
直後、人形の目が命を宿したようにキュピーンッと輝き、両腕の剣を大きく振りかぶり、突きつけるように剣を構えた。
『あはははははははは!! 馴染む、実に馴染むわこの体ぁー!!』
アリス、それものすごく悪役っぽいから言わないほうがいいと思う。
ていうかさ、アリスのテンションがおかしくない? アリスってこんなにテンションの高い子だったっけ?
「仕方ないんですよ妹様。みんな二日間寝ないで徹夜なんですから」
「いや、だから人の思考を読まないでってば」
でもそっか。みんな徹夜のせいでナチュラルハイってやつなのね。そりゃそうよね、生き物なら睡眠っていう行為は必須だし。
だから、アリスが普段とは考えられない異様なテンションでも仕方ないことなのね。
うん、それなら納得―――
「出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
欠片たりともできるはずが無かった。
そんな私の考えを悟ってか、小悪魔が「こぁ~っこぁっこぁっこぁっこぁ!!」と愉快そうに笑う。
だから、その笑い方をやめろというに腹立つな!!
「納得できませんか?」
「出来るわけないでしょ! どう考えたって普段とのテンションの差が違いすぎるってば!!」
「そうですか? アリスさん、魔界に居た頃は自分のことを『死の少女』って名乗ってたんですよ?」
「マジで!!?」
アリス、向こうで何があったの!?
「あぁ、そういえばあの子、魔界でそんなこと言ってたっけ?」
「あれ、幽香って魔界に行ったことあるの?」
「えぇ、霊夢と魔理沙と、それから悪霊一匹とね。ふふ、向かい来る連中を旅行気分で蹂躙するのは本当に楽しかったわ。
あの子も大層な二つ名を名乗ったわりにはてんで弱くってねぇ。懐かしいわぁ」
……なんていうか、私の肩で赤裸々に当時のことを語るのはいいんだけど、アリスにとっては絶対に語られて欲しくないことだよね?
その二つ名を使ってたこととか、幽香にぼこぼこにされたこととかどう考えても本人思い出したくないことだよね?
アリス、普段はクールで素直じゃないお姉さんなイメージがあったんだけど、昔はハッちゃけてたんだね。知らなかった。
ズズゥゥゥゥンっという地鳴りが私達を揺らす。
目の前で繰り広げられる怪獣大決戦に私達は介入することも出来ず、ただ呆然と見守ることのみ。
目の前の二人はノリノリで会話しているんだけれど、私はというと遠い目をしてそれを眺めるのみである。
とりあえず、人形に乗って『ゴリアテフィンガァァァァァァァァァ!!』と叫んで右手を突き出すアリスは見ない方向で。
「で、どうするのコレ?」
「妹様が止めればいいんじゃないんですか?」
「夜だったらそれでもいいけどさ、今は昼間だし。それに、今は肩は幽香が乗ってるし、頭にはチビも居るでしょ?」
つまり、私は身動きが取れない状態って言うこと。
ふとチビの様子を伺って見れば、かすかに寝息が聞こえてくる。
こんな状況だって言うのに眠ってしまったらしい。暢気なもんよねぇ、ちょっと羨ましい。
そのチビを振り落とすようなまねはしたくないし、私自身、昼間に外で戦闘なんて自殺行為をする気はないし。
と、そんなことを話し合っていると、紅魔館のほうから魔理沙がクッキーを頬張りながらこっちに歩いてきた。
「よぉ、こっちはあらかた捕獲し終わった。残るはアレだけだ」
「あ、そうなんだ。ていうか、魔理沙すごい隈なんだけどどうしたの?」
「……聞くな、フラン。色々あったんだよ」
どこかげっそりとやつれこけた魔理沙の言葉に、私も幽香も何も言えなくなって「あ、そう」と冷や汗混じりに言葉にするしかない。
あぁ、魔理沙があんなにやつれているってことは、後ろで怪獣大決戦よろしく妙な進化を遂げた小悪魔相手に獅子奮迅の活躍をしていたことだろう。
あと、そのクッキー美味しそうだね。あとでひとつ頂戴。
「それでは、後はアリスさんに任せてのんびりお茶でもいたしましょう」
「あぁ、そうだな。そうしようぜ」
「え゛!!? あの戦いスルーするの!!?」
小悪魔の笑顔の提案に、魔理沙も疲れきったように同意してそそくさと紅魔館に戻ろうとするのを見て、私は思わず声を上げてしまう。
けれど、二人は聞くつもりが無いのかそそくさと戻っていく。彼女達を呆然と見送る私の頬を、肩に乗っていた幽香がちょいちょいと突きながら声をかけてきた。
「ほら、私達もいきましょう」
「いや、でもさぁ……」
「アレに混ざりたいの?」
くいっと後ろの怪獣大決戦を親指でさした彼女。
その指先を視線で追えば、『アンタって人はぁぁぁぁぁぁ!!』と叫びながら、剣を両手持ちにして大悪魔に突貫していく人形の姿。
鳴り響く爆音。大地を揺さぶる二対の巨体。響き渡る重低音の大音声。
明らかな近所迷惑大決戦。逃げ行く妖精もなんのその、目の前の巨体約二名はノリノリで戦っているから始末に終えない。
少しの間、考え込むように私は瞑目する。
やがて、にっこりと、生涯に一度きりしか浮かべないのではないかと思うほどの満面の笑顔を、幽香に向けた。
「私、幽香が魔界にいったときの話が聞きたいわ」
「あら、それくらいならかまわないわよ?」
「うん、それじゃ図書館に戻ろうか」
まるっきり見なかったことにしてスルーすることに決めた。
後ろから爆発音やら地響きやら聞こえてこようが知ったことか。もう勝手に好きなように生きるといい。
そうして私達は紅魔館へと戻っていく。
過去を振り返ることなく、前だけを見据えて、私達は未来へと歩んでゆくのだ。
カッコいいこと言ってるけど、決して現実逃避なんかじゃないと断言したい。現実逃避じゃない。現実逃避なんかじゃないんだったら!!
私達が紅魔館に戻った後、チビが起きたみたいでくあっと欠伸をひとつ。
私は苦笑して頬をなでてやっていると、紅魔館に配達に来たらしい雲山屋の主人の「雲山ビィィィィム!!」という叫びと共に、爆発音と悲鳴が二つ上がった気がした。
▼
さて、あの後どうなったかというと、分裂した小悪魔は元に戻り無事に一段落。
猫耳尻尾姿の手乗り幽香は元に戻るには準備が必要で時間がかかるとかで、私の部屋で寝食を共にしている。
ちなみに、あのチビも一緒だ。我が侭を言って彼女だけ残してもらったのだけれど、今では私と幽香のマスコットとして日々可愛がられていたり。
アリスも徹夜続きのナチュラルハイから正気に戻ったようで、今ではそのことで魔理沙や幽香や私にからかわれ、赤面する日々を送っている。
と、一時はどうなるかと思った騒動だったけれども、終わって見れば随分と平和に事件が終わったものだと思った。
……そう、今日この日までは。
目をごしごしと何度もこする。しかし目の前の現実は何も変わっておらず、咲夜の隣に凄まじい違和感の塊が肩を並べて歩いていた。
咲夜の隣を歩くのは、大きさこそ2メートル程度だけど何処からどう見てもあの時の大悪魔そのものな訳で。
しかも、何をトチ狂ったかメイド服着用と言う悪夢のごとき所業である。
二人は私の隣を通り過ぎ、何事も無く談笑しながら歩き去っていく。
極めツケに、転んだ挙句に「あ、痛い転んじゃった」などというデストロイ級の捨て台詞を残して、やがて大悪魔は見えなくなった。
長い長い沈黙。一瞬、私は自分の記憶と見たものが信じられず、呆然と二人が消えた廊下の先を見つめ続ける。
肩に乗っていたチビが心配したのか、「こあ~?」と私の頬をペチペチと叩くがそれすらも気にならない。
目を瞑り、私は両の手を壁につける。そして、自らの頭を大きく振りかぶり。
「砕け散れ私の記憶ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
今の忌まわしい記憶を消し去ろうと、思いっきり壁にヘッドバッティングを決めて気絶して、私は夢の世界へと旅立った。
ヒ○グマ、ゴ○ゾウは進化させずに鑑賞するもの。
ギャグもストライク連発ですし。
あれは清杉?
転。んじゃった
をすぐに直すんだ
私はの名は
何かあると大体の確立で
煙に撒く→煙に巻く
廊下の先を指さす子悪魔
悟り→妖怪の種族的には「覚」がいいかも
除きこむ
推しとどめ→押し止め
話しふってくる→話ふってくる
不適に笑い→不敵に笑い
彼女達を呆然と見送る私の~~の一文→何かがおかしいと思うので一応
瞠目→これは、驚いたりした際に目を見張る事。瞑目が良いのでは
無事分裂した小悪魔は元に戻り→これでもわかるけれど→分裂した小悪魔は無事元に戻り の方がすんなり読める……と思いますがどっちでもいいかも。考えてたら判らなくなってきた。
チビこあ下さい
いや、ほんと欲しい
ハイテンションアリス良いね。
あとフランの突込みやら何やらがw
それはそうと、チビこあはどこにいけばもらえますk
ちび幽香の頭なでたいいぃ!
ので誰かください…いやマジで
これはシリーズ化決定だなwwww
さて今回の騒ぎをよそに館に戻ったレミリアだが、なんと!!!
的なノリで、ひとつ
そしてサニーサイドアップの一輪さんと雲山が何気にツボでした。
それはさておき、ちび幽香りんはもらっていきますね。
>ヒ○グマが進化したときに
すいません、その進化系をバリバリに使ってます。
しかも、「かえんだま」+「こんじょう」+「からげんき」の背水の陣コンボで…
そ、それでも、それでもExなら
>ちょっと強かった
と幽香に言わせるぐらいにはっ!
二日前ほどから→二日ほど前から の方がいいような
太陽の下で元気な吸血鬼なんて、早々いるはず無いじゃない
→「そうそう」は平仮名でおk
ポケットに常に飴玉と両手にネコじゃらし装備して一緒に遊びたい。
元の姿に戻っても飴玉出せば条件反射でふにゃっとした笑顔で擦り寄ってくるのですね。鼻血出そうだ。
なるほど、サナエさんですね。
誰も一度は罹るのものさ……中二病ってやつはね……
そのチぃビをぉよこせぇ。すぉうするぇばぁ、命だぁけは助けてやるぉぅ(CV.若本
確かに酷い光景だwww