Coolier - 新生・東方創想話

未来予想図

2010/02/22 03:15:53
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「きっとー何年経ってもー♪」

 こうして、変わらぬ気持ちで。
 かつてそう歌った妹は、今では心を閉じてしまった。







 そんな、心を閉じた妹が持ってきた一つのビデオ。
 河童製の高性能品だそうな。専用のカメラを用いれば六時間まで録画でき、また上書きも可能であるという。
 どうしてそんな物をこの子が、とも思ったけれど、外向的な性格の妹。
 恐らくは地上に出た時に誰かから譲って貰ったのだろう。幸いにしてビデオデッキも、先日河童から譲り受けていた。
 タイミングがぴったり過ぎると思わなくもないが、偶然という物は得てして小説のような奇跡をもたらすものである。
 そこに関わってくるのは私たちという観測者の意思。それがなければ不思議に思うことすらないのだ。
 そう考えれば、さして不思議でもないのかもしれない。

「ねぇお姉ちゃん、早く見ようよー。私もう待ち切れないー」

 そう言ってばふばふとソファを叩くこいし。ぷくーっと頬を膨らませているところがまた愛らしい。
 はいはい、分かりましたよ。私は頷きビデオをデッキの中に挿入し、再生ボタンを押してこいしの隣に座った。
 画面がブレる。黒い背景に白い線が何本も走り、上下に忙しなく動き回る。
 最初の方には何も記録されていないのだろう。待っていればその内再生されるはずだ。
 と、そういえば。

「ねぇこいし。このビデオ、一体何が録画されているの?」
「んー? それはねー、秘密!」
「秘密って……まぁ、もうすぐ分かるからいいけど」

 もし見たら一週間以内に他の人に見せないと死ぬとか、そういう類の物だとしたら嫌だったんだけれど。
 でも、あの口ぶりからすればこいしも内容は知っているのだろう。
 そんな危険な物は持って来ない筈だし、そもそもそんな物は存在しない。想像上の物でしかないのだ。
 無駄に心配をしてしまった、とソファに背中を預ける。結構な柔らかさで、私の体がずずっと沈み込んでしまう。
 それだけに心地良い。ただ重力に身を任せていると、ふと画面がちらついた。
 どうやら記録した部分に入ったようである。

「……画面の揺れがひどいわね。仕様?」
「ハンディカメラで撮ったような物らしいからね。あんまり期待はしない方がいいと思う」
「そう……なら仕方ないわね」

 再び画面に視線を戻す。中央には紫色の何か。恐らくは、人。ぼそぼそと内容が分からない程度に喋っている。
 ぐらん、と画面が揺れた。次いで「なんだって?」と動揺したような声。撮影者の物か。若々しい少女のそれだ。
 しかし、どこかで聞いたような――そんな疑念が頭をよぎった時、テレビの音声は突然明瞭になった。

『かっぱっぱー、かっぱっぱー、きゅうりのキュウちゃん丸かじりー』

 か細い、それでいて可憐な歌声。透き通っていて、ガラスのような質感が感じられる。
 あぁでも、ちょっと待って、ねぇ、これって、あなた、まさか。

「あぁ……お姉ちゃんの歌声は、やっぱり何度聞いても素敵ね! ね、ね、今のところ巻き戻して! もう一回聴きたいから」
「させるかぁっ!」

 バネのように飛び出し、ビデオデッキのところまで一直線。そのまま勢いに乗って停止ボタンを押す。
 秘技、エクストリームビデオ停止。テレビ画面は一瞬で黒く染まる。

「あーっ! ちょ、何いきなり止めてんのお姉ちゃん! まだ聴き始めたばっかじゃん!」
「始めも何も私は撮影を許可した覚えはないわ! ……全く、あの黒白。油断も隙もありゃしない」

 そう、あの歌詞で思い出した。つい先日の出来事。ペットが一騒動起こした時の話。
 異変解決人と称して出張ってきた、やけにすばしこい魔法使い。あの歌は、あいつの思考を読んだ時に歌った歌だ。
 よもや録られているとは。肖像権侵害で訴えてやろうか。

「オプションを利用した何とか、って言ってたよ。河童さんのお話だと」

 あれか。
 次来たら壊しておこう。

「どうでもいいからさー、早く再生ボタン押してよ。もう一回聴きたい」
「ダメよ。貴女にはこれは二度と見せません。すぐに燐に処分して貰います」
「えーっ!? そんなのダメだよ、横暴過ぎるよ! 独裁権力反対!」
「横暴も何も、ダメと言ったらダメなのです。大体……こんなものを見てどうしようというの? 私はここにいるじゃない」
「だってー……」

 こいしはやや俯き、両人差し指の先をつんつんと何度も重ね合わせたり離したりしている。しかも上目遣いだ。
 ああもう、かわいいなぁ。

「……お姉ちゃんが歌ってるところ、見たことなかったんだもん」
「そりゃあ、見せようとしなかったからね。ましてや貴女になど」
「なんでさ! いいじゃん別に、減るもんじゃないし!」
「だって恥ずかしいでしょう! それもこいし、貴女は家族なのよ!? 尚更恥ずかしいに決まってるじゃない!」
「私は恥ずかしくないもん!」
「それは貴女だけよ!」

 むむーっ、と互いに顔を突き合わせる。一瞬の攻防。心臓を射抜くような鋭い視線が、二人の間で交差した。
 しかし直後にぷいっとこいしが顔をそらせる。ただし視線だけはこちらにしっかりと向けて。
 念のこもった、切れ味のあるねめつけるようなジト目だ。
 私譲りらしい。

「ふんっ。それならいいわ、私にだって考えがある。後悔しても知らないからね、お姉ちゃん」
「えぇ、どうぞどうぞ。私が後悔することなんてありません。どうぞその考えとやら、実行して下さい」
「……お姉ちゃんのバカ! もう知るもんか!」

 言うが早いがダッと駆け、部屋を飛び出るこいし。何をするつもり、と声を掛けると、

「出掛けてくる!」

 律儀な返答だった。







 まぁ、言わないでも大方予測は出来ていた。
 恐らくは、またその河童からダビングテープでも貰ってくる算段なのだろう。
 それならそれで構わない。また処分するまでだ。
 こいしの浅い考えなど、私には何の意味も持たないのよ。
 くすくす、ふふふ、あっはははは。
 やがて一人で笑うのもむなしいことに気付き、私は本棚から本を一冊取り出し椅子に深く腰を掛けた。
 ぺらり。ページをめくる。
 ぺらり。
 ぺらり。
 ぺらり。
 べり。
 あらっ、破っちゃった。







 ぺらり。
 また一ページめくると、がちゃりとドアノブを回す音が耳に届いた。
 面を上げれば見知った顔。我が愛しいペット、火焔猫燐である。
 首に掛けたタオルで、首筋に垂れる汗をぬぐっていた。
 とにもかくにも、年がら年中仕事場は暑いのである。
 辺りをきょろきょろ。すぐに私の姿を見つけた燐は、あっと声を上げてぺこりと頭を下げた。

「こんにちはさとり様。珍しいですね、お一人なんて」
「別に珍しくもないでしょうに。いつも一人じゃない」
「そうですか? でも……」

 再度きょろきょろと辺りを見回す。
 何を探しているのだろうか。
 あるいは、誰を?

「こいし様、どこに行きましたか?」
「あぁ、こいしのこと。あの子はついさっき出掛けましたよ。へそを曲げて、ね」
「へそを曲げて? 喧嘩でもしたんですか?」
「いつもの戯れよ。気にしないでもすぐに帰ってくるでしょう。心配する必要はないわ」
「さいですか」

 得心した、というように燐は何度も首を縦に振る。そのままそれでは、と言って去ろうとする燐に、私は待ったを掛けた。

「なんでしょうか?」
「貴女、仕事は? まだ上がりの時間には早いでしょう」
「仕事? あぁ、今は休み時間ですよ。昼休みです。ご飯を食べたらまた戻りますよ」

 成程、そういうことか。それなら特に異議はない。
 仕事頑張ってね、と私が告げると、燐は深々とお辞儀をする。そしてそのまま部屋を出て、再度部屋の中は私一人になった。
 そういえば。

「こいし、お昼食べて行かなかったわね……どうするつもりかしら」

 もう心配せずとも、あの子ならどこかで食べてきそうなものだけれど。
 大丈夫か。そう結論付け、私はまた手元の本に目を落とした。







 ぺらり。
 また一ページめくると、がちゃりとドアノブを回す音が耳に届いた。
 面を上げれば見知った顔。我が愛しいペット、霊烏路空である。
 普段の服は脱ぎ捨てられ、薄着一枚のみ。灼熱地獄はとみに暑い。ああでもしないと暑くてたまらないのだろう。
 髪の毛はリボンで一本にまとめられ、軽くポニーテールになっていた。あの長髪も暑苦しそうな気がする。
 かと言って、切れと積極的に勧めるのも気が引けるのだけれど。あれだけ長い髪なら、それなりに思い入れもあるだろうし。
 まぁ、自身がそれで納得しているのなら問題はないだろう。そう私は判断して、空に声を掛けた。

「こんなところに来るとは珍しいわね、空。何か用なの?」
「うにゅ? あ、さとり様」

 ぺこり、と一礼。私も会釈で返す。
 いや、挨拶はいいから。何の用か。

「そろそろ晩御飯の時間なので、早めに切り上げました。あ、ノルマはちゃんと達成しましたよ」

 慌てて注釈する。別にそんなことしなくても、私は気にしないのに。
 大体、地霊殿のペットたちは皆生真面目過ぎるのだ。もう少しサボるなりなんなり、手の抜きようはあるだろうに。
 いつだって完璧で最高の仕事を仕上げてくれる。主人としてこの上なく誇れるペットたちだ。
 まぁ、それはそれとして。

「もうそんな時間でしたか……外ももう暗いものねぇ。本を読んでいると、時間が過ぎるのを忘れて困るわ」
「今日の当番はお燐でしたっけ。多分まだ仕事やってると思うから呼んできますね」

 そう言って、私の返答を待たずに部屋から出て行こうとする空。
 しかしすぐに立ち止まって引き返し、再び周囲をきょろきょろと見回す。

「……? あれー? さとり様、こいし様はどこへ?」
「貴女もこいし? あの子も人気者ね……はぁ。どこかへ出掛けて行きましたよ。行き先は私も知らないわ」
「そですか。……もしかして、喧嘩でも?」

 どうしてそういう発想に飛ぶ。
 こういうのを、勘が良い、って言うんでしょうね。
 燐といい空といい、どうしてこうも察しが良過ぎるのやら。

「……えぇ、まぁ、そう言っても差支えはないでしょう。
 でもその内帰ってくると思うわ。だからあの子の分のお夕飯も残しておいて」
「あ、それは分かってますよ。ちゃんとお燐にも言っておきます。……それじゃあ」

 とだけ、言い残して。
 またすぐに駆けて行ってしまった。
 燐以上に足が速い。身体能力はこの地霊殿でもピカ一なのだ。
 やれやれ、と息を吐く。こいしもどこへ行っているのやら。もう日も落ち始めているというのに。
 でもまぁ、子供じゃあるまいし。門限なんて今更だ。昼食同様、晩御飯だって心配はいらないだろう。
 それでも心配になってしまうのは、やはり仕方のないことなんでしょうねぇ。
 親じゃあ、ないんだけれども。







「過ごして行けるのね、あなたとだから……」

 確か、続きはこんな感じだったはず。
 よく覚えてはいないけれど。
 やっぱり、あの子に聞かせるには少し恥ずかしい。

 ふと、窓から外を見る。
 真っ暗な世界の中に広がる、一面の雪景色。気付かない内に降り始めていたようだ。
 そう言えば、と妹のことを思い出す。自分の記憶が正しければ、雨具の類は持っていかなかったはずだ。

「こいし、どうしたのかしら……早く帰ってきてほしいものだけれど」

 外を見ながら、そっと呟く。
 しんしんと降り続ける雪は、まだまだ止みそうになかった。
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コメント



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7.20名前が無い程度の能力削除
え、これで終わり?
13.30名前が無い程度の能力削除
話のメインがどこにあるのか掴めませんでした。
これが続き物で、こいしの飛び出した行き先や狙いがあればまた違うのでしょうが
現状だとどの部分をメインに見ても中途半端にしか見えません。
14.30名前が無い程度の能力削除
未完成のような印象をうけました
16.90名前が無い程度の能力削除
>「過ごして行けるのね、あなたとだから...」
古明地姉妹と未来予想図、なんだか感動してしまいました
愁いを帯びた雰囲気のラストも素敵でした。これも作者様の狙いかな
19.60ずわいがに削除
すみません。
「こいしはいったいどんな手段を使ってくるのかなぁ」とオチに備えて構えていたもので……ちょっと拍子抜けしてしまったと言いますか;