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「咲夜、明日からあなたに三日の休暇を与えるわ」
「……はい?」
レミリアからの突然の宣言に、咲夜は顔を斜めに傾ける。
「というわけでゆっくり休みなさい」
「あの、どういうことでしょうか? 私に何かご不満な点でも?」
「気まぐれよ、たまにはあなたが休んでるところをみたくなっただけ」
紅茶を一口味わい、レミリアは横目で視線を送る、
それを受け取った咲夜は頭を下げた。
「三日の休暇、ありがたく頂戴いたします」
「しっかり英気を養いなさい」
「かしこまりました」
それが、咲夜の地獄の始まりであった。
「……私服がない」
十六夜咲夜の休暇生活一日目、朝から彼女は困難の壁にぶつかる。
「休みである以上、メイド服を着るわけにはいかないし……」
クローゼットをあければ左から右までメイド服、
ただの一着たりとも普通の服がない。
「コートはあるけど……」
咲夜は壁にかけてある防寒用のコートを取り、しばらく思案する、
そして一度うなった後、一つの解を見つけ出した。
「コートの下は着なくてもいいわね!」
「よくありません」
「美鈴!?」
危ない思いつきを美鈴がすんでのところで食い止める。
「お嬢様から咲夜さんのお目付け役をうけたまわりました」
「見張りまで付けるなんて厳重ね」
「そうじゃないと咲夜さん働きかねないじゃないですか」
「……否定はできないわね」
「それよりも私の私服を持ってきましたよ」
「使用済み?」
「なんでですか」
美鈴から手渡されたのはよくあるシャツとジーンズ、
普段から動きまわる彼女らしいものだった。
「……胸がスカスカなんだけど」
「肉まんでもつめます?」
休暇生活一度目の美鈴の串刺しであった、
そして着替えを終えた咲夜は人里で思いもよらぬ姿を見せる。
「美鈴美鈴! 団子! 団子食べましょ!」
「はいはい」
「美鈴ー! この子犬かわいいー!」
「ちわわですか、どこかあくどいですね」
「美鈴! この服似合うと思わない!?」
「……メイド服以外の服も見ましょうよ」
満面の笑みを浮かべてはしゃぎまわる咲夜、
ついてまわる美鈴もあまりの変貌っぷりに少々戸惑っていた。
「(あー、でもこれでよかったのかな、休暇だし)」
「たいやき美味しいわー」
広場の椅子に腰掛けてたい焼きにかぶりつく咲夜と、
そんな光景をのほほんと眺める美鈴、まるでデートである。
「あっ、そうだ美鈴」
「なんです?」
「ちょっと荷物持ってて、掃除してくるから」
「駄目です」
それは完璧な擬態だった、存分に休暇を楽しんでいると見せかけての一動作、
しかし見張り役は美鈴である、立ち上がった咲夜の腕を掴み、その場に留める。
「ちっ」
「休暇中ですよ休暇中」
「いいじゃない、ちょっと箒で一払いしてくるだけよ」
「駄目です」
咲夜は手を振り払おうとするが、まるで万力で固定されたかのように動かせない。
「……わかったわよ」
結局休暇を満喫することに決めたのか、
それ以降は働こうとすることは無かった。
「あらおかえり、ずいぶんと楽しんだみたいね」
「ただいま戻りましたお嬢様、ですが楽しんだといっても買い物してきたぐらいですわ」
「頭にナズリーランドの帽子、右手に映画のグッズ、左手に食べ物、楽しみまくりじゃない」
「加えるならば私が持っている大量の荷物にも気づいていただきたいです」
咲夜の格好は一日で楽しめるものは全て楽しんだともいえる状態だった、
美鈴にいたっては漫画のごとく荷物を山のように抱えている。
「それではお嬢様、三日分楽しんだということで明日から仕事に復帰を」
「駄目よ」
「ですよね」
咲夜は諦めていなかった、恐ろしい執念である、
しかしお嬢様直々の駄目は堪えたのか、おとなしく引き下がった。
「あと二日、のんびり羽を伸ばしなさい」
「お嬢様のをですか?」
「……伸ばしたいの?」
こうして、十六夜咲夜の休暇生活一日目が終わった。
「よし、そろそろ寝静まったころね」
深夜、咲夜は起き上がり、一瞬でメイド服に着替える、
仕事に対する執念だけが彼女を目覚めさせ、部屋の扉を開かせるのだ。
「どうしました?」
だがその向こうで立っていた美鈴の姿を見たとき、
咲夜はそっと静かに扉を閉め、ベッドへと潜り込んだのだった。
十六夜咲夜の休暇生活二日目。
「……お嬢様、咲夜さんの様子が変です」
美鈴からの一報に、レミリアは渋い表情を浮かべた。
「予想はしてたけどね……で、何が起きたの?」
案内された先は美鈴が手をかけている花壇、
その花壇の前に咲夜はいた。
「ずっと花壇を見つめてるんです」
「……で、問題点は?」
「見つめ始めてからすでに三時間ほど過ぎてるというとこですね」
「それは問題だわ」
微動だにせず、かがんだ体勢のままじっと花壇を見つめる咲夜、
花に触れるどころか、視線すら滅多に動かさないのはある種の恐怖か。
「メイド服のままで見つめてたので一応着替えはさせましたけども……」
「うーん……」
レミリアは少し思案すると、咲夜にそっと近づいて顔をのぞき込む。
「紅茶ですか?」
「違うわ」
「お風呂ですか?」
「違う」
咲夜はうつろな瞳のままレミリアに反応した、
視線にも声にも力が入っておらず、まるで抜け殻のようだった。
「重症ね」
「重症ですね」
それからしばらく観察を続けるものの、咲夜に動く気配は全く見て取れない、
やがて日が暮れ、辺りが闇に包まれた頃に彼女はようやく立ち上がった。
「……おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
咲夜はそれだけを発すると、まるでゾンビのような動きで自室に戻っていった、
こうして、二日目は嵐の前の静けさの如く、何も起きずに過ぎたのである。
そしていよいよ十六夜咲夜の休暇生活は最終日を迎えた。
「あーもー洗濯たいへーん」
「メイド長復帰まーだー?」
洗濯室では朝から妖精メイド達が山積みの衣類を洗濯している差中であった。
「洗い終わった服持っていってー」
「はいはーい」
「洗濯ぅぅぅ!! いやっほぉぉぉう!!」
『ほぎゃあー!?』
突然洗濯室の扉を切り裂いて飛び込んでくるメイド長、
そのまま洗濯済みの衣類の中に飛び込み、雄叫びをあげる
「せせせせ洗剤洗剤! 洗剤はどこぉぉぉ!?」
『化物っ!!』
「落ち着いてください咲夜さん! ほら帰りますよ!」
「いやっ! 離して! 服を洗うの! 板でごしごし擦るのー!!」
「駄目です! 明日まで我慢してください!!」
「はなしてぇぇぇぇー!!」
十分後、そこには自室で椅子にくくりつけられた咲夜の姿が。
「しっ、しっ、しごっ……すっすっ……するっ……」
「これが永琳さんのいってた仕事中毒って奴ですか」
「らしいわね、自覚させないと駄目らしいから休ませてはみたけど、これは酷いわ」
「あはは、あははは……お嬢様の下着が一杯……」
「どんな妄想!?」
仕事中毒、文字通りの病状だが、これほど悪化する事例は稀である。
「待たせたわね」
「パチェ!」
「ここ三日ほど仕事中毒の治し方を調べてみたけど、
やはりあの医者の言うとおり、自覚させるのが一番みたいね」
部屋に入ってきたパチュリーは、手に持った書物をパラパラと捲りながら語る。
「効率的な自覚のさせ方は……美鈴、鏡を持ってきなさい、大きいのをね」
「はい!」
「鏡? それだけでいいの?」
「鏡は自分を写すもの、今の半ば狂い気味の自分を見せれば彼女なら自覚するはずよ」
「シンプルだけど効果は最大ってわけね」
突然の休暇、美鈴による見張り、そしてパチュリーの知恵、
その全ては咲夜を治すためのものであった。
「持ってきました!」
そして今、咲夜の前に人ひとりを軽く映すことのできる鏡が置かれる。
「さ、私たちは邪魔になるから出るわよ」
「あら、傍にいてあげなくてもいいの?」
「レミィ、あなたは自分の悪いところを他人に見られたいタイプ?」
「……成る程ね」
「大丈夫、咲夜ならきっと乗り越えてくれるわ」
「そうよね、私の自慢の従者だもの」
「咲夜さんならきっと大丈夫ですよね」
咲夜を残し、全員が部屋の外に出て扉を閉める、
数刻ほど過ぎた後には、間違いなく彼女は仕事中毒を乗り越えてると信じて。
「それでレミィ、なんでずっと部屋の前で待ってるのかしら?」
「そういうあなたこそ書斎に戻ったらどう?」
「ふふふ、咲夜さんは愛されてますね……っと、そろそろいい頃じゃないでしょうか?」
「そろそろね! 開けるわよ! いいわね!?」
「落ち着いてレミィ! 慎重にゆっくり急いで焦らず素早く手短にあけるのよ!」
「二人とも落ち着いてください」
そして三人はそれぞれ片手をドアノブにかけ、ゆっくりと捻った。
「そうよ十六夜咲夜もっと働くべきなのよ!
働け働けできるできる絶対できる働けもっとやれるのよ!!
やれるわ気持ちの問題よ働け働け! 炊事洗濯掃除家事!
諦めないで絶対に働いて積極的にポジティブに働け働け!!
美鈴だって頑張ってるんだから! 立つのよ咲夜諦めたら駄目!
働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け――」
ばたん。
「……まぁ、本人が働きたいって言ってるんだし」
「そうね、無理矢理止めても逆効果になるわ、知識的に考えて」
「ですよねー」
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でも私も本音を言うとゆっくりしたい…orz
体調だけは気をつけてくれ。
…三日でコレだと、長期休暇を与えたらどうなる事やら…(汗)
定期テスト←ゆっくりしすぎた結果がアレだよ…。
でも打ち上げと称してカラオケに行く。
これはもう手遅れだwww
ならば納得だ
それとも仕事やめますか
>時間停止中に休んでいる。
これの末路か…。