寅丸星は風呂上りに毎日牛乳を欠かさずに飲む。
彼女の脳内偉人は言った『毎日の牛乳が乳をデカクする』と
ゆえに彼女は毎日欠かさずに牛乳を飲む。
聖まで、と贅沢は言わない。
ただせめてもう少し、もう少しだけでいいから部下と差を広げたい。
そんな事を考えながら腰に手を当てて牛乳を飲む彼女の視界にある物が映る。
それは体重計だった。
「…………」
そういえば最近は自分の体重など測っていなかったな、と星は思う。
確か以前測った時は××kgだったはずだが……
星は自分の今の体重が気になりだした。
何せ今年は寅年という事でお正月は里の人々が沢山美味しい物を寺に持って挨拶に来てくれた。
お正月の間はそれらの消費をひたすら行なっていたが、食べるばかりで運動をしていなかった。
きっと、ソレらが確実に身についている事だろう。
毘沙門天の弟子として、武神の代理なんてやっているが星だって女の子である。
だから、普段は無関心を装っているが、影では自分の容姿や体重などは気にしている。
「…………」
星はキョロキョロと辺りを見渡して誰もいない事を確認すると、恐る恐る体重計に上った。
体重計はキシキシと二度三度軋み、現在の体重を星に示す。
「…………?」
示された体重に星は一度首を傾げて、手にしていた牛乳を床に置く。
しかし、示され体重に大規模な変化は見られない。
そこで身体に巻いていたタオルも取り払ってみる。
それでも、体重に大きな変化はない。
むしろタオルを取った事で今の自分のお腹が見えてしまった。
若干ポッコリと出っ張っていて思わず
「うわ……」
と言ってしまった。
ある程度は覚悟していたがここまでとは正直思っていなかった。
「……おや、体重計の上でどうしたんだいご主人?」
「え!?ナズーリン!?あ、その、こ、これはですね?今日は、たまたまその重力の強い日でして」
体重計の上で固まる星の前にナズーリンが現れて星は思わず慌てる。
そんな慌てる星を無視して、彼女は体重計の示す体重と星の腹を見て『プッ』と笑い。
「ご主人、運動でもしたらどうだい?その内デブ寅とか言われないように注意した方がいいよ」
ナズーリンはその言葉を残して風呂場の中へ消えていった。
残された星はナズーリンの見下した目と言葉を思い出して、ダイエットを決意した。
――
次の日の昼過ぎ、命蓮寺の前にはジャージ姿の星がいた。
思い立ったが即実行『ダイエットはまた今度』なんて言っていては何時までたっても始まらない。
そこで彼女は人間の里の中を走る事にした。
これにはちゃんと考えがあり、里の中を走りながら挨拶を交わし人々との交流に繋げる。
そうする事で里の人達に良い印象を持ってもらい、少しでも聖の思想を幻想郷中に広める助けにしたいのだ。
『人間も妖怪も平等な世界を』という聖の思想を幻想郷中に広めるには信用、信仰が必要不可欠だ。
ソレら信用や信仰を集めるにはまずは興味を持ってもらうことが大切だと思う。
その為には挨拶、コミニュケーションを取る事が一番効果的だ。
大きな声でしっかり挨拶すればまず、悪い印象はもたれない。
だから里の中を走る事はダイエットだけでなく、信仰を集める助けにもなる。
走る事でダイエットとなり、大きな声で挨拶をする事で良い印象を持ってもらう、と
つまり人間の里の中を走る事はまさに一石二鳥になるのだ。
「ふっ、ふっ……、さて行きますか」
アキレス腱を伸ばす運動を軽く行い星は走り出した。
走るコースは里の端から端まで数回往復する簡単な、間違っても道に迷う事はまずないコースを組み立てた。
もちろん人通りのそれなりにある道だ。
ダイエットと、もう一つの目的の信仰集めも忘れていない。
頭の中でルートを再確認して、星は走り出した。
里の人々は突然の毘沙門天の登場に驚いている様だったが、星が挨拶をするとしっかりと挨拶を返してくれた。
道行く人々に『こんにちは』と挨拶を行ないながら星は走っていた。
そんな風に走る星に声がかけられた。
「おーい、毘沙門天様ー!」
「?」
声の方を見るとたい焼きと看板の出てる屋台の方から手を振っている人がいた、確か寺によく来る人だ。
あの人とは何度か話した事があるが、顔は怖いが良い人であったという印象がある。
どうも自分の事を呼んでいる様なので星はその人の元へ行く。
「こんにちは、どうかしましたか?」
店主は威圧感のある顔で、星の言葉にニィと笑う。
話してみると良い人なのだが、コレだけ見ると小さな子供は泣き出す事だろうな、と星は思った。
「いやいや、毘沙門天様ともあろう方が何をしているのかと思ってな」
「ああ、運動ですよ最近身体が鈍っていまして、それと皆さんと交流をするためですかね」
「交流……成る程ね、毘沙門天様もここに馴染む為にイロイロがんばってんだね」
「ええ、まぁ、あ?」
質問に答える途中、星の腹が突然『グウ』と鳴いた。
「……ぷ、」
いきなりの音に屋台の店主は噴出し、星は恥かしそうに顔を真っ赤にする。
ダイエットのために食事を抑えていたのが仇となった。
目の前で焼かれているたい焼きがあまりにも良い匂いがしていたので身体が反応したようだ。
「す、すいません」
恥かしそうに謝る星に
「いやいや、何だか神様が身近に感じられて俺はいいと思うよ、っとホレ」
男は言いながらたい焼きを一つ手渡してきた。
「え?あのコレ」
突然たい焼きを渡されて星は慌てる。
ちょっとした運動のつもりだったからお金なんて持ってきていない。
「どんな理由か知らんけど腹減ってんだろ、食いなよ」
「え?いやでも私は今お金を持っていなくて……」
お金はないし、それにダイエット中であるためあまり甘い物は如何な物かとも星は考えた。
しかし
「いいから金はいらないよ、毘沙門天様が来てくれたってだけでこっちは縁起が良いんだ
金なんていらないから食ってくれよ、俺からのほんの気持ちだ」
男は豪快に笑いながらそう言ってきた。
中々気持ちの良い人だなと思いながら星は迷った。
彼の好意は嬉しい、でも自分はダイエット中である。
それに商売をしているなら、他人に無料で商品を挙げてしまうのは損失でしかない。
本来なら気持ちだけ受け取り丁寧に断るのが正しい姿だ。
でも、きっとそうすればこの人はガッカリすると思う。
だから、この人の気持ちを無駄にしてはいけない。
ソレに何よりもさっきからたい焼きが凄く良い匂いでたまらない。
ああ、でも私は今はダイエット中……
ああ、でも良い匂い……
だが、しかし体重が……
でも、出来立てのたい焼きなんて凄く美味しいと思う……
しかし、ダイエット中に甘い物は……
星は葛藤する。
そして、『この誘惑に負けては駄目だ!』と強く決意し
「あ、あの、やっぱりコレは嬉しいのですが、気持ちだけでフガ!?」
断ろうとした星の口にたい焼きがねじ込まれた。
「いいから食いなって美味いから」
男はやはり豪快に笑っていた。
この人の性格は顔に吊り合う様なかなり強引な性格のようだ。
そして、たい焼きをねじ込まれた星は、そのたい焼きを反射的に噛んだ。
サクっとした最中を突き破り、口の中に餡子の甘みがじわ~っと広がっていく。
もともと味がよかったのとお腹が空いていた事もあり物凄く美味しく感じて
頭の中で立てた先程の決意は『やっぱり断ろう』から『食べた分動けば良いや』に変わった。
「ほいひい(おいしい)!」
「だろ?今後とも贔屓にしてくれると嬉しいね、そん時はおまけするからさ」
「モグモグ、はひ、モグモグ、ほの時は是非ほ願いひます!」
「……食ってから喋りなよ」
何とも美味しいたい焼きだった。
これは良い甘味屋を見つけた物だ、今度ナズーリンに買っていってあげよう。
――
たい焼きを食べ終わるまで暫く店主と二人で談笑して、星はまた走り出した。
罪悪感に包まれて……
やってしまった。
ダイエットを始めた初日で誘惑に負けてしまった。
『これではいけない!!』星は気を引き締め直した。
後悔してばかりでは駄目だ、もう痩せるまで絶対間食はしない。
まずは食べてしまったたい焼きの分走ろう。
そんな風に意気込んだ星に声をかける人がいた。
団子屋のおばちゃんだった。
「星ちゃ~ん何してるの~?」
「ああ、こんにちは実は最近身体鈍ってまして、それと皆さんと交流をするため里の中で
ジョギングでもしようと思いまして」
「まぁ、そうなの、……あ、そうだ、今ねお団子の新作が出来たばっかりなの、味見してくれない?」
「え゛!?」
「もともとお寺に持っていこうと思って作ってた奴だから感想を聞かせてほしいのよ」
「え?あ、あの、その……」
「私は美味しいと思うんだけどやっぱりいろんな人の意見が聞きたいからね?お願い」
『駄目だぞ星!さっきのたい焼きの分まだ動いていないじゃないか!?』
おばちゃんの言葉に脳内の自分が注意しろと言う。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ私!
さっき『もう間食はしない』って決めたばかりだ。
私はそう簡単に決意の変わる軽い女じゃないぞ!!
星は自分自身に言い聞かせて、今の申し出を断るべく口を開く。
「あ、あのですねお気持ちは凄く嬉しいんですけど……」
――
……お団子、美味しかったです。
だ、駄目だ!このままじゃ食べてばかりで運動できていない。
よし、決めたもう絶対間食なんてしないで真面目に走るぞ!!
そんな決意新たな走り出した星にまた声がかけられた。
「お~い、星さん」
最近評判の里に出来たばかりのケーキ屋だった。
――
……ケーキ凄く美味しかったです。
流石評判になるだけはありました。
クリームがきめ細かくて口当たりがよく、甘さもそこそこに抑えてあり
イチゴの酸味が爽やかで何個でも食べられそうなケーキでした。
って、駄目ですよこれでは!?
はい、もう決めましたよ。
もう絶対に夕飯まで何もたべませんよ!!
強く心に誓った星にまたしても声がかけられた。
「おー、寅丸様」
美味しいと噂のクレープ屋だった。
外に出ている看板に『新作、抹茶クリーム』と言う文字がデカデカと書かれていた。
――
ジョギングから帰ってきた星は汗を流すために風呂場へ向かった
汗を流し、いつも通り牛乳を飲みながら星は恐る恐る体重計にのってみる。
すると驚いた事に体重に変化はなく、今日食べた栄養が全て胸にいっていた。
……何て都合の良い事などあるはずもなく
体重計に示された体重と鏡に映った自分の腹を見て星は泣いた。
その夜、星は心を入れなおして改めてダイエットへの誓いを立てた。
もう絶っっっ対に間食なんてしない!!
星はそう次の日からの誓いを立てた。
そして次の日から心を入れ替えた星の壮絶なダイエットが始まった。
――数日後
ナズーリンには最近気になっている事があった。
「……ご主人?」
「ん?なんですかナズーリン?」
「最近、お昼過ぎくらいから姿を見なくなったが、何かやっているのかい?」
「あ、気が付きました?実はですねダイエットを始めたんですよ」
「……ダイエットを?」
「はい、貴女に言われてから体重が気になってですね……、ですからダイエットを始めたんですよ」
言って胸を張る星の姿にナズーリンは何と言っていいか解らなかった。
「では、今日も行ってきます」
星はドスドスと足音を立てて外へと向かっていった。
星がいなくなった後でナズーリンは呟いた。
「ご主人、明かに以前より確実に肥えてるんだが……、貴女は何をしてるんだ本当は?」
――
里の人達の気持ち美味しいです。
by寅丸星
彼女の脳内偉人は言った『毎日の牛乳が乳をデカクする』と
ゆえに彼女は毎日欠かさずに牛乳を飲む。
聖まで、と贅沢は言わない。
ただせめてもう少し、もう少しだけでいいから部下と差を広げたい。
そんな事を考えながら腰に手を当てて牛乳を飲む彼女の視界にある物が映る。
それは体重計だった。
「…………」
そういえば最近は自分の体重など測っていなかったな、と星は思う。
確か以前測った時は××kgだったはずだが……
星は自分の今の体重が気になりだした。
何せ今年は寅年という事でお正月は里の人々が沢山美味しい物を寺に持って挨拶に来てくれた。
お正月の間はそれらの消費をひたすら行なっていたが、食べるばかりで運動をしていなかった。
きっと、ソレらが確実に身についている事だろう。
毘沙門天の弟子として、武神の代理なんてやっているが星だって女の子である。
だから、普段は無関心を装っているが、影では自分の容姿や体重などは気にしている。
「…………」
星はキョロキョロと辺りを見渡して誰もいない事を確認すると、恐る恐る体重計に上った。
体重計はキシキシと二度三度軋み、現在の体重を星に示す。
「…………?」
示された体重に星は一度首を傾げて、手にしていた牛乳を床に置く。
しかし、示され体重に大規模な変化は見られない。
そこで身体に巻いていたタオルも取り払ってみる。
それでも、体重に大きな変化はない。
むしろタオルを取った事で今の自分のお腹が見えてしまった。
若干ポッコリと出っ張っていて思わず
「うわ……」
と言ってしまった。
ある程度は覚悟していたがここまでとは正直思っていなかった。
「……おや、体重計の上でどうしたんだいご主人?」
「え!?ナズーリン!?あ、その、こ、これはですね?今日は、たまたまその重力の強い日でして」
体重計の上で固まる星の前にナズーリンが現れて星は思わず慌てる。
そんな慌てる星を無視して、彼女は体重計の示す体重と星の腹を見て『プッ』と笑い。
「ご主人、運動でもしたらどうだい?その内デブ寅とか言われないように注意した方がいいよ」
ナズーリンはその言葉を残して風呂場の中へ消えていった。
残された星はナズーリンの見下した目と言葉を思い出して、ダイエットを決意した。
――
次の日の昼過ぎ、命蓮寺の前にはジャージ姿の星がいた。
思い立ったが即実行『ダイエットはまた今度』なんて言っていては何時までたっても始まらない。
そこで彼女は人間の里の中を走る事にした。
これにはちゃんと考えがあり、里の中を走りながら挨拶を交わし人々との交流に繋げる。
そうする事で里の人達に良い印象を持ってもらい、少しでも聖の思想を幻想郷中に広める助けにしたいのだ。
『人間も妖怪も平等な世界を』という聖の思想を幻想郷中に広めるには信用、信仰が必要不可欠だ。
ソレら信用や信仰を集めるにはまずは興味を持ってもらうことが大切だと思う。
その為には挨拶、コミニュケーションを取る事が一番効果的だ。
大きな声でしっかり挨拶すればまず、悪い印象はもたれない。
だから里の中を走る事はダイエットだけでなく、信仰を集める助けにもなる。
走る事でダイエットとなり、大きな声で挨拶をする事で良い印象を持ってもらう、と
つまり人間の里の中を走る事はまさに一石二鳥になるのだ。
「ふっ、ふっ……、さて行きますか」
アキレス腱を伸ばす運動を軽く行い星は走り出した。
走るコースは里の端から端まで数回往復する簡単な、間違っても道に迷う事はまずないコースを組み立てた。
もちろん人通りのそれなりにある道だ。
ダイエットと、もう一つの目的の信仰集めも忘れていない。
頭の中でルートを再確認して、星は走り出した。
里の人々は突然の毘沙門天の登場に驚いている様だったが、星が挨拶をするとしっかりと挨拶を返してくれた。
道行く人々に『こんにちは』と挨拶を行ないながら星は走っていた。
そんな風に走る星に声がかけられた。
「おーい、毘沙門天様ー!」
「?」
声の方を見るとたい焼きと看板の出てる屋台の方から手を振っている人がいた、確か寺によく来る人だ。
あの人とは何度か話した事があるが、顔は怖いが良い人であったという印象がある。
どうも自分の事を呼んでいる様なので星はその人の元へ行く。
「こんにちは、どうかしましたか?」
店主は威圧感のある顔で、星の言葉にニィと笑う。
話してみると良い人なのだが、コレだけ見ると小さな子供は泣き出す事だろうな、と星は思った。
「いやいや、毘沙門天様ともあろう方が何をしているのかと思ってな」
「ああ、運動ですよ最近身体が鈍っていまして、それと皆さんと交流をするためですかね」
「交流……成る程ね、毘沙門天様もここに馴染む為にイロイロがんばってんだね」
「ええ、まぁ、あ?」
質問に答える途中、星の腹が突然『グウ』と鳴いた。
「……ぷ、」
いきなりの音に屋台の店主は噴出し、星は恥かしそうに顔を真っ赤にする。
ダイエットのために食事を抑えていたのが仇となった。
目の前で焼かれているたい焼きがあまりにも良い匂いがしていたので身体が反応したようだ。
「す、すいません」
恥かしそうに謝る星に
「いやいや、何だか神様が身近に感じられて俺はいいと思うよ、っとホレ」
男は言いながらたい焼きを一つ手渡してきた。
「え?あのコレ」
突然たい焼きを渡されて星は慌てる。
ちょっとした運動のつもりだったからお金なんて持ってきていない。
「どんな理由か知らんけど腹減ってんだろ、食いなよ」
「え?いやでも私は今お金を持っていなくて……」
お金はないし、それにダイエット中であるためあまり甘い物は如何な物かとも星は考えた。
しかし
「いいから金はいらないよ、毘沙門天様が来てくれたってだけでこっちは縁起が良いんだ
金なんていらないから食ってくれよ、俺からのほんの気持ちだ」
男は豪快に笑いながらそう言ってきた。
中々気持ちの良い人だなと思いながら星は迷った。
彼の好意は嬉しい、でも自分はダイエット中である。
それに商売をしているなら、他人に無料で商品を挙げてしまうのは損失でしかない。
本来なら気持ちだけ受け取り丁寧に断るのが正しい姿だ。
でも、きっとそうすればこの人はガッカリすると思う。
だから、この人の気持ちを無駄にしてはいけない。
ソレに何よりもさっきからたい焼きが凄く良い匂いでたまらない。
ああ、でも私は今はダイエット中……
ああ、でも良い匂い……
だが、しかし体重が……
でも、出来立てのたい焼きなんて凄く美味しいと思う……
しかし、ダイエット中に甘い物は……
星は葛藤する。
そして、『この誘惑に負けては駄目だ!』と強く決意し
「あ、あの、やっぱりコレは嬉しいのですが、気持ちだけでフガ!?」
断ろうとした星の口にたい焼きがねじ込まれた。
「いいから食いなって美味いから」
男はやはり豪快に笑っていた。
この人の性格は顔に吊り合う様なかなり強引な性格のようだ。
そして、たい焼きをねじ込まれた星は、そのたい焼きを反射的に噛んだ。
サクっとした最中を突き破り、口の中に餡子の甘みがじわ~っと広がっていく。
もともと味がよかったのとお腹が空いていた事もあり物凄く美味しく感じて
頭の中で立てた先程の決意は『やっぱり断ろう』から『食べた分動けば良いや』に変わった。
「ほいひい(おいしい)!」
「だろ?今後とも贔屓にしてくれると嬉しいね、そん時はおまけするからさ」
「モグモグ、はひ、モグモグ、ほの時は是非ほ願いひます!」
「……食ってから喋りなよ」
何とも美味しいたい焼きだった。
これは良い甘味屋を見つけた物だ、今度ナズーリンに買っていってあげよう。
――
たい焼きを食べ終わるまで暫く店主と二人で談笑して、星はまた走り出した。
罪悪感に包まれて……
やってしまった。
ダイエットを始めた初日で誘惑に負けてしまった。
『これではいけない!!』星は気を引き締め直した。
後悔してばかりでは駄目だ、もう痩せるまで絶対間食はしない。
まずは食べてしまったたい焼きの分走ろう。
そんな風に意気込んだ星に声をかける人がいた。
団子屋のおばちゃんだった。
「星ちゃ~ん何してるの~?」
「ああ、こんにちは実は最近身体鈍ってまして、それと皆さんと交流をするため里の中で
ジョギングでもしようと思いまして」
「まぁ、そうなの、……あ、そうだ、今ねお団子の新作が出来たばっかりなの、味見してくれない?」
「え゛!?」
「もともとお寺に持っていこうと思って作ってた奴だから感想を聞かせてほしいのよ」
「え?あ、あの、その……」
「私は美味しいと思うんだけどやっぱりいろんな人の意見が聞きたいからね?お願い」
『駄目だぞ星!さっきのたい焼きの分まだ動いていないじゃないか!?』
おばちゃんの言葉に脳内の自分が注意しろと言う。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ私!
さっき『もう間食はしない』って決めたばかりだ。
私はそう簡単に決意の変わる軽い女じゃないぞ!!
星は自分自身に言い聞かせて、今の申し出を断るべく口を開く。
「あ、あのですねお気持ちは凄く嬉しいんですけど……」
――
……お団子、美味しかったです。
だ、駄目だ!このままじゃ食べてばかりで運動できていない。
よし、決めたもう絶対間食なんてしないで真面目に走るぞ!!
そんな決意新たな走り出した星にまた声がかけられた。
「お~い、星さん」
最近評判の里に出来たばかりのケーキ屋だった。
――
……ケーキ凄く美味しかったです。
流石評判になるだけはありました。
クリームがきめ細かくて口当たりがよく、甘さもそこそこに抑えてあり
イチゴの酸味が爽やかで何個でも食べられそうなケーキでした。
って、駄目ですよこれでは!?
はい、もう決めましたよ。
もう絶対に夕飯まで何もたべませんよ!!
強く心に誓った星にまたしても声がかけられた。
「おー、寅丸様」
美味しいと噂のクレープ屋だった。
外に出ている看板に『新作、抹茶クリーム』と言う文字がデカデカと書かれていた。
――
ジョギングから帰ってきた星は汗を流すために風呂場へ向かった
汗を流し、いつも通り牛乳を飲みながら星は恐る恐る体重計にのってみる。
すると驚いた事に体重に変化はなく、今日食べた栄養が全て胸にいっていた。
……何て都合の良い事などあるはずもなく
体重計に示された体重と鏡に映った自分の腹を見て星は泣いた。
その夜、星は心を入れなおして改めてダイエットへの誓いを立てた。
もう絶っっっ対に間食なんてしない!!
星はそう次の日からの誓いを立てた。
そして次の日から心を入れ替えた星の壮絶なダイエットが始まった。
――数日後
ナズーリンには最近気になっている事があった。
「……ご主人?」
「ん?なんですかナズーリン?」
「最近、お昼過ぎくらいから姿を見なくなったが、何かやっているのかい?」
「あ、気が付きました?実はですねダイエットを始めたんですよ」
「……ダイエットを?」
「はい、貴女に言われてから体重が気になってですね……、ですからダイエットを始めたんですよ」
言って胸を張る星の姿にナズーリンは何と言っていいか解らなかった。
「では、今日も行ってきます」
星はドスドスと足音を立てて外へと向かっていった。
星がいなくなった後でナズーリンは呟いた。
「ご主人、明かに以前より確実に肥えてるんだが……、貴女は何をしてるんだ本当は?」
――
里の人達の気持ち美味しいです。
by寅丸星
寅丸さん、その体重では幻想郷としてはもう重量税を納めて頂きませんと(ry)
マニアックな話はともかく、ダイエットを始めて余計に太る星さん可愛い。
ただ、少々描写があっさりしすぎな気がしましたので、この点でご容赦を。
でもそんな星さんも好きです。
ホワァッ!!
まあ、そんな情報は置いとくとして
さすが毘沙門天様の代理ですね!
星ちゃんはもう人里走るな、寺の周りグルグル走っとけww
でもちょっぴりむっちりしちゃっててもそれはそれで可愛いと思うんだ
しかし、己が能力がアダになっちゃってるのかなw
強い力も考えものですな。
でも最終的に「食べる」という行動を取るのは自分自身なんだからな!
コイツはまさしく甘味が集まる程度の能力ですね