私は495年間、地下に幽閉されてきた。
その間何をしていたのだろう。
思い出すことができない。
覚えているのはただ与えられた食事を取って、眠っていたことだけだ。
しかしたまにあることを思い出しては激しく暴れた。
暴れたといっても地下に張られた魔法の力によって
能力を封じ込められていたから、やさしい暴れ方だったが。
私が思い出したものは私の姉だ。
レミリアスカーレット。私と血のつながった者。
私がここに閉じ込められたのはあいつのせいだ。
あいつが「フランは危険だ。閉じ込めなければ」と言わなければ
私は今頃外で楽しく暮らしていたというのに…!
私は地下で一人さびしく暮らしてきた。
「お嬢様。私が仕え始めた頃にも聞きましたが、地下には何があるのですか?
たまにパチュリー様、子悪魔と一緒に地下に行っているみたいですが…」
レミリアは咲夜に「地下には行ってはいけない」としか言っていない。
咲夜も咲夜で主人の命令には基本的には背かないので地下に行ったことはない。
しかし誰にでも好奇心というものは沸く。
咲夜は最近になってまた地下のことが気になりだしたようだ。
「何もないわよ。倉庫代わりに使っているだけだから気にしなくていいわ」
「そうですか」
咲夜はこんな答えにだまされるような人間ではなかったのだが、
レミリアが正直に答えないということはよほど大変なものがあるのだろうと咲夜は理解していた。
そのため咲夜もそれ以上首を突っ込むようなことはやめた。
「パチェ、今日は地下に行く日よ」
レミリアは図書館を訪れ、パチュリーを呼ぶ。
「もうそんな日? ここにいると時間が早く経つ気がするわ。
小悪魔、行くわよ」
「はい、わかりました」
レミリアはパチュリー、小悪魔をつれて地下へ向かった。
地下には彼女の妹であるフランドール・スカーレットが閉じ込められていた。
なぜ彼女は自分の妹を地下に閉じ込めたのか。
それは彼女の力が強力すぎたからだ。
「あらゆるものを破壊する程度の能力」
この能力のおかげで彼女は地下に閉じ込められることになってしまった。
しかし地下に閉じ込めたところで能力を封じ込めなければ意味がない。
そのため、紅魔館の魔法使いであるパチュリーに頼んで、
フランを弱体化させる魔法を地下にかけてもらっている。
この魔法が解けなければ彼女は物を破壊することが出来ない。
逆に言うと魔法が解けてしまったらこの赤いお屋敷は一夜にしてなくなってしまうだろう。
いや、下手をすると幻想郷そのものが消し飛んでしまうかもしれない。
それくらい彼女の持つ能力は危険な能力なのだ。
「フランはどんな感じかしら、小悪魔?」
レミリアは気になって、小悪魔に聞いてみた。
「最近は暴れることなくじっとしてらっしゃいますよ」
小悪魔はいつもフランの元に食事を運んでいる。
妖精メイドに任せてもかまわないのだが、
妖精メイドよりも小悪魔のほうが付き合いが長く、信頼できるのでこのような仕事を任せているのだ。
「そう、ならいいわ。彼女が本気を出したらこの屋敷でかなうものはまずいないでしょうね」
そのような会話をしているうちに地下についた。
「パチェはいつものように魔法をかけなおしておいて」
魔法をかけたからといってその効果がいつまでも続くわけではない。
いつかは効果が切れてしまう。
そのため定期的に魔法をかけなおす必要があった。
「レミィは?」
「今日は久しぶりにあの子と話してみるわ」
そういってレミリアは一人、フランの部屋へ向かった。
彼女の部屋―というよりは監獄―の中には何もなかった。
部屋にはここへ来る者に向かって飛び掛らないように鉄格子がかかっている。
まるで動物園の猛獣のような扱いだ。
「ご機嫌はいかがかしら、フラン…?」
「お姉様…!」
フランは敵意をむき出しにしている。
「お姉様のお陰でいい調子ですわ」
「そう、それはよかった。あなたのために特別に用意した部屋ですもの。
いい気分になれるのは当たり前ね」
フランはレミリアのその言葉が挑発とわかってはいたが、心が沸騰してくるのを感じた。
「特別な部屋ですって・・・? これのどこが特別なのかしら!?」
「あら、特別じゃない。あなただけがこんな部屋に住んでるのよ?
特別以外の何物でもないわよ」
その言葉がフランを完全に怒らせた。
「ふざけるな! お前さえ・・・お前さえいなければ…!
私はこんな窮屈な思いをしなくて済んだのに!」
「…負け犬の遠吠えほど見苦しいものはないわね。
それじゃあ、私は忙しいから帰るわ。さようなら、フラン」
そういいながらレミリアはフランに背を向けた。
しばらくの間その背中に向かって罵声は浴びせられ続けた。
くそっ…!
なぜあの女は妹である私に対してあそこまで冷酷でいられるのだろうか。
私は腹の虫が収まらなかったので部屋で暴れた。
暴れると私は少し落ち着くことが出来た。
どうすればあの人を見下す女を黙らせることが出来るだろうか・・・
…そうか、答えは簡単だ。
あの女を…コロシテシマエバイイ…
私はそのときが来るのをゆっくりと待つことにした。
「レミィ、こっちは終わったわよ」
「そう…帰りましょうか」
「…何かあったの?」
「私は…
あの子の姉なのに、なんで優しい言葉をかけてやることが出来ないんだろう…」
レミリアは発言とは裏腹に、妹の不幸を嘆いていた。
先ほどのような発言をしてしまったのは恐らくこの屋敷の主として接しなければならなかったからだろう。
しかし、閉じ込めることは必要だった。
フランの持つ能力は強力だ。
しかし彼女はその能力の危険を学ぶには幼すぎたため閉じ込めるしかなかった。
能力を間違って使ってしまわないように。
「…こんな時になんだけど、伝えておかなければならないことがあるわ」
「何…?」
「地下にかけた魔法だけど、そろそろ解けそうなの」
「何で!? 魔法はかけ直したはずじゃ…」
「魔法をかけなおしても長い間かけ続けてきたために効果がどんどん薄くなってきてるのよ。」
例えば刃物を研いで長い間使い続けたとしよう。
研ぐことによって確かに切れ味は一時的に回復したかもしれない。
しかし、いつかは研いでも完全に使い物にならなくなる日が来る。
それに似たようなものなのだ。
「ということは…」
「ええ。近いうちに彼女は地下から出てくるでしょうね」
「…仕方ないわ。私はあの子の姉よ。その時が来たら私があの子をおとなしくさせて見せる」
「彼女はおそらく出てきたとしても長い間弱体化の魔法がかけられていたため本気を出せないはずよ」
「そこをつけば勝機があるってことね」
「そう」
「わかった…」
それから数日が過ぎた。
いつものように壁際で黙って座っていた私はあることに気づいた。
「体がいつもより動く…?」
今日はいつもと比べて体が軽い。
「もしかして…」
試しに鉄格子に向かって能力を使ってみた。
手を鉄格子に向かってかざし、手を握り締めると鉄格子は簡単に吹き飛んだ。
「能力が戻ってる…!? なんで…?」
しかしこれは好都合だ。
「これで…これで、あの女を…!」
フランはにやりと笑った。
あの女を…コロセルトキガツイニキタ!
「みんな! 早く逃げなさい!」
咲夜は叫びながら妖精メイドを外へと誘導した。
今、屋敷内にはレミリア、咲夜、パチュリーしかいない。
・・・いや、もう一人を忘れていた。
屋敷を破壊しながらレミリアと死闘を繰り広げている化け物だ。
「パチュリー様…アレはいったい…?」
「あれはレミィの妹よ」
「妹…!?」
「あなたにはまだ説明していなかったわね」
パチュリーは簡単にフランの説明をした。
「そんなことが…」
「身体能力は姉であるレミィの方が上のはずだけれど、
妹様は物を破壊できる能力を持っている」
「ということは…」
「ええ。レミィの方が不利かもしれないわ…」
「お姉様! 私が今までどんな思いをしていたかわかる!?」
「…」
「私は今まで地下で苦しい思いをしてきた! それなのに姉様は…!」
レミリアは妹の攻撃をかわしながら話を聞いていた。
フランの力は魔法が解けたばかりとは思えないほどすさまじかった。
彼女が暴れまわったお陰で紅魔館はすでに半壊している。
「私は地下で誓った! 私を閉じ込めたあなたに復讐すると! だから今すぐ…死んで・・・?」
「くっ…!」
フランは手当たり次第に周りのものを破壊し始めた。
紅魔館はもはや原形をとどめていない。
「あなたが私を殺すつもりならば…私もあなたを殺すつもりで行くわよ!」
そう言い終わるとレミリアは手に赤い槍を握った。
グングニルの槍。
北欧神話の最高神であるオーディンが持っていた槍だ。
「…あはっ。そうこなくちゃ殺しがいがないよ!」
フランも笑いながら赤い剣を手にする。
同じく北欧神話に登場する剣、レーヴァティン。
二人が神話の武器を持ってにらみ合う光景はまるで神話の1ページのようだ。
「…行くよ!」
フランは目にも留まらぬ速度でレミリアを斬る。
しかしレミリアはうまくグングニルでその一撃を受け止めた。
「…!」
今度はレミリアが無言でグングニルを横になぎ払う。
すばやい動きでそれをよけるフラン。
「お姉様もやるじゃない。だけどそんな攻撃で・・・私を倒そうなんて思わないでね!」
フランはレーヴァティンを振った。
お互いの距離は離れているので斬りがあたるはずはない。
しかし振られたレーヴァティンから炎がほとばしり、レミリアを襲う。
「なっ!?」
この一撃はレミリアには予想外だったのだろう。
すぐによけようとするが、炎が肌を軽く舐めていった。
「まさかその剣にそんな力があるなんてね…」
「ふふふ…どうしたの姉様? 私に勝てない?」
「まだ勝負は始まったばかりよ…!」
レミリアがグングニルを投げた。
「そんなまっすぐに投げられた槍が当たる訳ないで…!?」
しっかりとよけたはずなのに槍はフランに突き刺さった。
「な!? 今のはよけたんじゃ…!?」
「グングニルを投げられたものは絶対にかわすことは出来ない。
これがあの槍の能力よ」
驚く咲夜にパチュリーが解説した。
「この勝負・・・レミィの勝ちね」
「はぁ…はぁ…」
フランは瀕死だった。吸血鬼だから重傷を負っても死ぬことはないのだが。
レミリアはフランの前に立って槍先をフランの顔へと向ける。
「ひっ…!」
初めてフランは恐怖した。
このままだと姉に存在を消されてしまう。
体全体を一瞬にして消されてしまえばさすがの吸血鬼も死んでしまうだろう。
目の前にいるのは妹なのだが、レミリアの目は笑っていない。
道端の石ころでも見下ろすような目をしている。
「や、やめて…!」
フランは懇願した。
しかし、レミリアの目は変わっていなかった。
「し…死にたく…ない…!」
顔を伏せて涙をこぼすフラン。
初めて彼女が死というものを身近に感じた瞬間であった。
そのとき、レミリアはグングニルを捨てて妹を抱きしめて泣いた。
「ごめんなさいフラン…私だってあなたを本当に閉じ込めたいと思っていなかった…!」
「え?」
「閉じ込めたのはあなたのためでもあったのよ」
パチュリーが近づいてきて言った。
「レミィはあなたに何も壊してほしくなかったの」
「どういう…こと?」
「あなたがいろいろなものを壊して周りから罵声を浴びせられることをレミィは恐れていた。
だからあなたが精神的に成長するまで地下に閉じ込めていた。」
まあ、魔法のかけすぎで今回みたいなことになっちゃったけどね。と付け加えた。
「ごめんなさい…あなたが能力を使って他人を傷つけることを恐れていたの。
だけどそんな思いがあなたを苦しめてしまった…」
「…ごめんなさい」
「え?」
フランは小さな声で謝った。
「私…そんなこと知らないで『お姉様なんて死ねばいい』と思ってしまった。
ごめんなさい…! お姉様…!」
「いいのよ…私も悪かった…
私もあなたに対して冷たい態度で接していたから…許してくれる…?」
「うん…もちろん。私も許してほしい。」
「許すわ。これからは一緒に仲良く暮らしましょうね…」
それから壊れた紅魔館は咲夜の能力を使って一瞬で元通りになった。
ネタばらしをすると時を止めてから修理をすることによって、
一瞬で元通りになったように見えただけなのであるが。
「さて・・・新しい家族も増えたことだし、今夜はパーティーですね」
「ええ。頼むわ、咲夜」
「紹介がまだでしたね。私はメイド長の十六夜咲夜。
今後もよろしくお願いしますね、妹様」
「よろしくね、咲夜!」
「はい、こちらこそ。それでは料理の準備をしてきます」
そういって咲夜は厨房へ向かった。
「それにしても…すぐに仲良くなったわね」
「ふふ…あんなに楽しそうなお嬢様はじめてみましたよ」
パチュリーと子悪魔はそんなことを話していた。
「あ、そういえば」
咲夜が戻ってきた。
「妹様とお嬢様の部屋は同じになりますので」
咲夜は笑顔でそう言う。
「え!? ちょっと!私たち別々に寝れるわよ!」
「そうよ!」
姉妹はそう抗議したが、話を聞かないで咲夜はまた厨房へと消えていった。
「…」
「…」
姉妹は黙って顔を見合わせていたが、しばらくするとお互いに笑った。
「しょうがないわね。一緒に寝ましょうか、フラン?」
「そうね。お姉様がどうしてもというならいいわよ」
フランの言葉を聴いてレミリアは真っ赤になってフランの髪を引っ張った。
「いたた! 何するのよ、馬鹿姉!」
「うるさい! あなたが『どうしても』とか言うからいけないんでしょうが! 一言多いのよ!」
フランもレミリアの頬をつねる。
「あーあ、始まっちゃいましたね…」
「でも、お互いに楽しそうだからいいんじゃないかしら?」
パチュリー、小悪魔の場所からでもけんかをする姉妹の笑顔がよく見えた。
こうして二人は姉妹として新たな生活を送ることになった。
今までのことは水に流して無邪気に笑いあう姉妹。
この姉妹をみていると幸せになれそうだ…
この屋敷に住む全てのものがそう思った。
それほどまでに二人の笑顔は魅力的で愛らしいものだった。
その間何をしていたのだろう。
思い出すことができない。
覚えているのはただ与えられた食事を取って、眠っていたことだけだ。
しかしたまにあることを思い出しては激しく暴れた。
暴れたといっても地下に張られた魔法の力によって
能力を封じ込められていたから、やさしい暴れ方だったが。
私が思い出したものは私の姉だ。
レミリアスカーレット。私と血のつながった者。
私がここに閉じ込められたのはあいつのせいだ。
あいつが「フランは危険だ。閉じ込めなければ」と言わなければ
私は今頃外で楽しく暮らしていたというのに…!
私は地下で一人さびしく暮らしてきた。
「お嬢様。私が仕え始めた頃にも聞きましたが、地下には何があるのですか?
たまにパチュリー様、子悪魔と一緒に地下に行っているみたいですが…」
レミリアは咲夜に「地下には行ってはいけない」としか言っていない。
咲夜も咲夜で主人の命令には基本的には背かないので地下に行ったことはない。
しかし誰にでも好奇心というものは沸く。
咲夜は最近になってまた地下のことが気になりだしたようだ。
「何もないわよ。倉庫代わりに使っているだけだから気にしなくていいわ」
「そうですか」
咲夜はこんな答えにだまされるような人間ではなかったのだが、
レミリアが正直に答えないということはよほど大変なものがあるのだろうと咲夜は理解していた。
そのため咲夜もそれ以上首を突っ込むようなことはやめた。
「パチェ、今日は地下に行く日よ」
レミリアは図書館を訪れ、パチュリーを呼ぶ。
「もうそんな日? ここにいると時間が早く経つ気がするわ。
小悪魔、行くわよ」
「はい、わかりました」
レミリアはパチュリー、小悪魔をつれて地下へ向かった。
地下には彼女の妹であるフランドール・スカーレットが閉じ込められていた。
なぜ彼女は自分の妹を地下に閉じ込めたのか。
それは彼女の力が強力すぎたからだ。
「あらゆるものを破壊する程度の能力」
この能力のおかげで彼女は地下に閉じ込められることになってしまった。
しかし地下に閉じ込めたところで能力を封じ込めなければ意味がない。
そのため、紅魔館の魔法使いであるパチュリーに頼んで、
フランを弱体化させる魔法を地下にかけてもらっている。
この魔法が解けなければ彼女は物を破壊することが出来ない。
逆に言うと魔法が解けてしまったらこの赤いお屋敷は一夜にしてなくなってしまうだろう。
いや、下手をすると幻想郷そのものが消し飛んでしまうかもしれない。
それくらい彼女の持つ能力は危険な能力なのだ。
「フランはどんな感じかしら、小悪魔?」
レミリアは気になって、小悪魔に聞いてみた。
「最近は暴れることなくじっとしてらっしゃいますよ」
小悪魔はいつもフランの元に食事を運んでいる。
妖精メイドに任せてもかまわないのだが、
妖精メイドよりも小悪魔のほうが付き合いが長く、信頼できるのでこのような仕事を任せているのだ。
「そう、ならいいわ。彼女が本気を出したらこの屋敷でかなうものはまずいないでしょうね」
そのような会話をしているうちに地下についた。
「パチェはいつものように魔法をかけなおしておいて」
魔法をかけたからといってその効果がいつまでも続くわけではない。
いつかは効果が切れてしまう。
そのため定期的に魔法をかけなおす必要があった。
「レミィは?」
「今日は久しぶりにあの子と話してみるわ」
そういってレミリアは一人、フランの部屋へ向かった。
彼女の部屋―というよりは監獄―の中には何もなかった。
部屋にはここへ来る者に向かって飛び掛らないように鉄格子がかかっている。
まるで動物園の猛獣のような扱いだ。
「ご機嫌はいかがかしら、フラン…?」
「お姉様…!」
フランは敵意をむき出しにしている。
「お姉様のお陰でいい調子ですわ」
「そう、それはよかった。あなたのために特別に用意した部屋ですもの。
いい気分になれるのは当たり前ね」
フランはレミリアのその言葉が挑発とわかってはいたが、心が沸騰してくるのを感じた。
「特別な部屋ですって・・・? これのどこが特別なのかしら!?」
「あら、特別じゃない。あなただけがこんな部屋に住んでるのよ?
特別以外の何物でもないわよ」
その言葉がフランを完全に怒らせた。
「ふざけるな! お前さえ・・・お前さえいなければ…!
私はこんな窮屈な思いをしなくて済んだのに!」
「…負け犬の遠吠えほど見苦しいものはないわね。
それじゃあ、私は忙しいから帰るわ。さようなら、フラン」
そういいながらレミリアはフランに背を向けた。
しばらくの間その背中に向かって罵声は浴びせられ続けた。
くそっ…!
なぜあの女は妹である私に対してあそこまで冷酷でいられるのだろうか。
私は腹の虫が収まらなかったので部屋で暴れた。
暴れると私は少し落ち着くことが出来た。
どうすればあの人を見下す女を黙らせることが出来るだろうか・・・
…そうか、答えは簡単だ。
あの女を…コロシテシマエバイイ…
私はそのときが来るのをゆっくりと待つことにした。
「レミィ、こっちは終わったわよ」
「そう…帰りましょうか」
「…何かあったの?」
「私は…
あの子の姉なのに、なんで優しい言葉をかけてやることが出来ないんだろう…」
レミリアは発言とは裏腹に、妹の不幸を嘆いていた。
先ほどのような発言をしてしまったのは恐らくこの屋敷の主として接しなければならなかったからだろう。
しかし、閉じ込めることは必要だった。
フランの持つ能力は強力だ。
しかし彼女はその能力の危険を学ぶには幼すぎたため閉じ込めるしかなかった。
能力を間違って使ってしまわないように。
「…こんな時になんだけど、伝えておかなければならないことがあるわ」
「何…?」
「地下にかけた魔法だけど、そろそろ解けそうなの」
「何で!? 魔法はかけ直したはずじゃ…」
「魔法をかけなおしても長い間かけ続けてきたために効果がどんどん薄くなってきてるのよ。」
例えば刃物を研いで長い間使い続けたとしよう。
研ぐことによって確かに切れ味は一時的に回復したかもしれない。
しかし、いつかは研いでも完全に使い物にならなくなる日が来る。
それに似たようなものなのだ。
「ということは…」
「ええ。近いうちに彼女は地下から出てくるでしょうね」
「…仕方ないわ。私はあの子の姉よ。その時が来たら私があの子をおとなしくさせて見せる」
「彼女はおそらく出てきたとしても長い間弱体化の魔法がかけられていたため本気を出せないはずよ」
「そこをつけば勝機があるってことね」
「そう」
「わかった…」
それから数日が過ぎた。
いつものように壁際で黙って座っていた私はあることに気づいた。
「体がいつもより動く…?」
今日はいつもと比べて体が軽い。
「もしかして…」
試しに鉄格子に向かって能力を使ってみた。
手を鉄格子に向かってかざし、手を握り締めると鉄格子は簡単に吹き飛んだ。
「能力が戻ってる…!? なんで…?」
しかしこれは好都合だ。
「これで…これで、あの女を…!」
フランはにやりと笑った。
あの女を…コロセルトキガツイニキタ!
「みんな! 早く逃げなさい!」
咲夜は叫びながら妖精メイドを外へと誘導した。
今、屋敷内にはレミリア、咲夜、パチュリーしかいない。
・・・いや、もう一人を忘れていた。
屋敷を破壊しながらレミリアと死闘を繰り広げている化け物だ。
「パチュリー様…アレはいったい…?」
「あれはレミィの妹よ」
「妹…!?」
「あなたにはまだ説明していなかったわね」
パチュリーは簡単にフランの説明をした。
「そんなことが…」
「身体能力は姉であるレミィの方が上のはずだけれど、
妹様は物を破壊できる能力を持っている」
「ということは…」
「ええ。レミィの方が不利かもしれないわ…」
「お姉様! 私が今までどんな思いをしていたかわかる!?」
「…」
「私は今まで地下で苦しい思いをしてきた! それなのに姉様は…!」
レミリアは妹の攻撃をかわしながら話を聞いていた。
フランの力は魔法が解けたばかりとは思えないほどすさまじかった。
彼女が暴れまわったお陰で紅魔館はすでに半壊している。
「私は地下で誓った! 私を閉じ込めたあなたに復讐すると! だから今すぐ…死んで・・・?」
「くっ…!」
フランは手当たり次第に周りのものを破壊し始めた。
紅魔館はもはや原形をとどめていない。
「あなたが私を殺すつもりならば…私もあなたを殺すつもりで行くわよ!」
そう言い終わるとレミリアは手に赤い槍を握った。
グングニルの槍。
北欧神話の最高神であるオーディンが持っていた槍だ。
「…あはっ。そうこなくちゃ殺しがいがないよ!」
フランも笑いながら赤い剣を手にする。
同じく北欧神話に登場する剣、レーヴァティン。
二人が神話の武器を持ってにらみ合う光景はまるで神話の1ページのようだ。
「…行くよ!」
フランは目にも留まらぬ速度でレミリアを斬る。
しかしレミリアはうまくグングニルでその一撃を受け止めた。
「…!」
今度はレミリアが無言でグングニルを横になぎ払う。
すばやい動きでそれをよけるフラン。
「お姉様もやるじゃない。だけどそんな攻撃で・・・私を倒そうなんて思わないでね!」
フランはレーヴァティンを振った。
お互いの距離は離れているので斬りがあたるはずはない。
しかし振られたレーヴァティンから炎がほとばしり、レミリアを襲う。
「なっ!?」
この一撃はレミリアには予想外だったのだろう。
すぐによけようとするが、炎が肌を軽く舐めていった。
「まさかその剣にそんな力があるなんてね…」
「ふふふ…どうしたの姉様? 私に勝てない?」
「まだ勝負は始まったばかりよ…!」
レミリアがグングニルを投げた。
「そんなまっすぐに投げられた槍が当たる訳ないで…!?」
しっかりとよけたはずなのに槍はフランに突き刺さった。
「な!? 今のはよけたんじゃ…!?」
「グングニルを投げられたものは絶対にかわすことは出来ない。
これがあの槍の能力よ」
驚く咲夜にパチュリーが解説した。
「この勝負・・・レミィの勝ちね」
「はぁ…はぁ…」
フランは瀕死だった。吸血鬼だから重傷を負っても死ぬことはないのだが。
レミリアはフランの前に立って槍先をフランの顔へと向ける。
「ひっ…!」
初めてフランは恐怖した。
このままだと姉に存在を消されてしまう。
体全体を一瞬にして消されてしまえばさすがの吸血鬼も死んでしまうだろう。
目の前にいるのは妹なのだが、レミリアの目は笑っていない。
道端の石ころでも見下ろすような目をしている。
「や、やめて…!」
フランは懇願した。
しかし、レミリアの目は変わっていなかった。
「し…死にたく…ない…!」
顔を伏せて涙をこぼすフラン。
初めて彼女が死というものを身近に感じた瞬間であった。
そのとき、レミリアはグングニルを捨てて妹を抱きしめて泣いた。
「ごめんなさいフラン…私だってあなたを本当に閉じ込めたいと思っていなかった…!」
「え?」
「閉じ込めたのはあなたのためでもあったのよ」
パチュリーが近づいてきて言った。
「レミィはあなたに何も壊してほしくなかったの」
「どういう…こと?」
「あなたがいろいろなものを壊して周りから罵声を浴びせられることをレミィは恐れていた。
だからあなたが精神的に成長するまで地下に閉じ込めていた。」
まあ、魔法のかけすぎで今回みたいなことになっちゃったけどね。と付け加えた。
「ごめんなさい…あなたが能力を使って他人を傷つけることを恐れていたの。
だけどそんな思いがあなたを苦しめてしまった…」
「…ごめんなさい」
「え?」
フランは小さな声で謝った。
「私…そんなこと知らないで『お姉様なんて死ねばいい』と思ってしまった。
ごめんなさい…! お姉様…!」
「いいのよ…私も悪かった…
私もあなたに対して冷たい態度で接していたから…許してくれる…?」
「うん…もちろん。私も許してほしい。」
「許すわ。これからは一緒に仲良く暮らしましょうね…」
それから壊れた紅魔館は咲夜の能力を使って一瞬で元通りになった。
ネタばらしをすると時を止めてから修理をすることによって、
一瞬で元通りになったように見えただけなのであるが。
「さて・・・新しい家族も増えたことだし、今夜はパーティーですね」
「ええ。頼むわ、咲夜」
「紹介がまだでしたね。私はメイド長の十六夜咲夜。
今後もよろしくお願いしますね、妹様」
「よろしくね、咲夜!」
「はい、こちらこそ。それでは料理の準備をしてきます」
そういって咲夜は厨房へ向かった。
「それにしても…すぐに仲良くなったわね」
「ふふ…あんなに楽しそうなお嬢様はじめてみましたよ」
パチュリーと子悪魔はそんなことを話していた。
「あ、そういえば」
咲夜が戻ってきた。
「妹様とお嬢様の部屋は同じになりますので」
咲夜は笑顔でそう言う。
「え!? ちょっと!私たち別々に寝れるわよ!」
「そうよ!」
姉妹はそう抗議したが、話を聞かないで咲夜はまた厨房へと消えていった。
「…」
「…」
姉妹は黙って顔を見合わせていたが、しばらくするとお互いに笑った。
「しょうがないわね。一緒に寝ましょうか、フラン?」
「そうね。お姉様がどうしてもというならいいわよ」
フランの言葉を聴いてレミリアは真っ赤になってフランの髪を引っ張った。
「いたた! 何するのよ、馬鹿姉!」
「うるさい! あなたが『どうしても』とか言うからいけないんでしょうが! 一言多いのよ!」
フランもレミリアの頬をつねる。
「あーあ、始まっちゃいましたね…」
「でも、お互いに楽しそうだからいいんじゃないかしら?」
パチュリー、小悪魔の場所からでもけんかをする姉妹の笑顔がよく見えた。
こうして二人は姉妹として新たな生活を送ることになった。
今までのことは水に流して無邪気に笑いあう姉妹。
この姉妹をみていると幸せになれそうだ…
この屋敷に住む全てのものがそう思った。
それほどまでに二人の笑顔は魅力的で愛らしいものだった。
いくら素直になれないからって、皮肉に過ぎますぜ、おぜう様;ww
はい、紅魔郷以前の物語・・・つまり霊夢たちと出会う以前の物語と思っていただいて結構です。
好きな子ほどいじめたくなるというセリフがあったりしますが、今回はそれですね^^;