ある日、霖之助が外を歩いていると、道端に何かが落ちていたのを見つけた。
手にとって名前を調べてみると、その物の名前は宝塔だという。
貴重な物だと考え、持ち帰って店先に並べてみた所、一人の妖怪ネズミが店を訪れた。
「……この辺に反応が。 ああ、有った有った。
すまないが、この宝塔は私のご主人様の物なので、返してもらうよ」
勝手に店の商品を持ち帰ろうとするネズミの手から、宝塔を取り上げる店主。
当然そんな無茶な要求にはいと答えるはずも無く、数時間に及ぶ舌戦の末、少女に高値で買い取らせる事に成功した。
次の日、霖之助が外を歩いていると、道端に何かが落ちているのを見つけた。
手にとって名前を調べてみると、その物の名前は宝塔だという。
昨日も見つけたはずで、あの少女が買っていったはずだが、と思うが落ちている事には変わりない。
早速持ち帰って店先に並べてみた所、昨日の少女が店を訪れた。
「この辺に宝の反応が出ていたのだが……なっ!?」
店先に並べられている宝塔を見つけ、少女は声を上げて驚いた。
昨日買っていったばかりの物が商品にされているのだから、それも無理の無い事である。
「店主…まさか、盗んできたんじゃないだろうな?」
途轍もない剣幕で言い寄って来るが、店主は冷静に拾い物だと答える。
少女は信じられないといった面持ちだったが、事実なので店主もそれ以外に答え様が無かった。
「…まあ、仕方が無いか」
渋々、少女は昨日と同じ値段で宝塔を買い、大事そうに抱えて帰っていった。
次の日、霖之助が外を歩いていると、道端に何かが落ちているのを見つけた。
手にとって名前を調べてみると、その物の名前は宝塔だという。
何かの間違いではないかと霖之助は思ったが、確かにこれは宝塔で、しかも道端に落ちていた。
何はともあれ落ち物は落ち物、早速持ち帰って店先に並べてみた所、昨日の少女がまた店を訪れた。
「昨日と同じ反応……まさかとは思ったが、やはり」
案の定、少女は棚に並べてあった宝塔に目をつけた。
半ば呆れ気味ではあったものの、素直に昨日と同じだけの代金を支払い、宝塔を買っていった。
「誰にも見付からない様に元に戻しておく私の身にもなって欲しいものだ……」
去り際に、ぽつりと愚痴を漏らしていた。
次の日、霖之助が外を歩いていると、道端に何かが落ちているのを見つけた。
手にとって名前を調べてみると、その物の名前は宝塔だという。
もしかしてこれはドッキリなのか? 何処かに天狗が隠れているんじゃないか? と辺りを見回してみたものの、誰の気配も感じられない。
とりあえず帰り道、落とし穴に気をつける様にし、店先に並べてみると、昨日の少女がまたまた店を訪れた。
「…もしかしなくても。 やっぱりね……」
数日で随分とやつれたものだと、霖之助は思った。
流石に可哀相に思ったのか、昨日と同じ値段で宝塔を少女に譲ってあげた。
「これ、経費で落ちるのかな…」
とぼとぼと歩いて帰り行く背中は、何処と無く夕暮れのサラリーマンの様な哀愁が漂っていた。
次の日、霖之助が外を歩いていると、道端に何かが落ちているのを見つけた。
手にとって名前を調べてみると、その物の名前は宝塔だという。
空、木陰、叢、足元、背中、道の先に敵影無し。 現物に触れてみるが、時限爆弾ではなし。
カラスのファインダーの音無し、スキマの気配無し、巫女の気配無し、魔法使いの気配無し、システムオールグリーン。
某地獄鴉のサイレンが鳴り響いたような気がして、霖之助は宝塔を手に自称戦地を駆け抜け、店先に並べた。
「店主っ!! これは一体どういう事だ!!」
店を吹き飛ばす爆発音は、宝塔からではなく店の扉から響いた。
驚いた事に、少女の手には大事そうに抱えられた宝塔が有る。
4個ほど。
何故こんなに宝塔が有るのかは分からないが、霖之助はとりあえず5個目の宝塔を少女に薦めた。
「何が『はい、いつものね』だ! 私はどうして宝塔がこんなに沢山有るのか聞きに来たんだ!」
それは霖之助の方こそ知りたいと思っていた。
有れば有るだけ買っていってくれる客が来る、非常にありがたい品だからである。
「それに、此処にある宝塔は全部力を失ってるじゃないか! おかげで道中えらい目に遭ったんだぞ!」
「落ち着きなさい、ナズーリン」
怒気剥き出しの少女の後ろから、静かな女性の声がした。
「ご主人様!?」
口ぶりから察するに妖怪ネズミの主であろう、寅柄の女性がガタガタの扉を開けて店の中に入って来た。
「大丈夫ですよナズーリン、今使っているのはちゃんと財布と一緒に……あれ?」
女性は懐を弄るも、その手は空を切るばかり。
どうやら財布と共に、件の宝塔を何処かに失くしてしまったらしい。
「たたた大変ですナズーリン! 早く再交付の申請をっ!! もう罰金は嫌ですうぅぅぅぅぅ!!!」
「だから必要な時以外は持ち歩くなと言っただろうご主人様ああああぁぁぁぁ!!!」
寅とネズミは、大慌てで扉を吹き飛ばし何処かへ飛んで行ってしまった。
「………ふむ」
次の日、霖之助はまた見つけた宝塔を持って拾った車に乗ってみたが、無免許運転で小兎姫のお叱りを受けたという。
え?え?
元ネタがあるならわかりやすいんだろうけど、自分じゃ思いつかないな…
そもそも宝塔がなんでパスケースなのか、いやそれは百歩譲ってそうだとしても
なんで幻想郷に動く車があるのか
と、その点について小一時間問い詰めたい
というか小兎姫、あんたマニアなんだから香霖堂に買い物に来てみれば?
案外面白いものが見つかるかもよ?