「さとりさまーこれチョコですー」
「あら、ありがとう」
・・・妬ましい!
くっそ、楽しんでばっかじゃ世の中はまわらないんだよ・・・
などと妬み続けるのも何なので自分も参加して楽しんでみるか。
***
よいしょ、よいしょ…
ふぅ、これくらいでいいかな。
今日は聞いた話だと「バレンタインデー」とかなんとかのチョコを渡す日らしいじゃない。
それでもって告白とかしちゃう日らしいじゃない。妬ましい。
でも今回はその妬ましい行事に参加してみることにしたの。
この前喧嘩しちゃった勇儀に謝ろうと思って。
何もない日に謝るのはちょっと気が引けるからね。うん。
だから、甘いものが嫌いな彼女のために"酒入り"チョコを作るんだ。
勇儀にはやく渡したい。
そして、仲直りしたい。
それで、彼女に笑ってもらいたい。
***
できた!
やっとできた!
途中でまちがえてメチルアルコールってやつを入れて味見の時に死にかけたけど今回のチョコはそんなことがない。
日本酒入り、カカオ99%。
甘くなんかないよ、勇儀!
今、渡しに行くからね!
おーいゆーぎー!
「ん?パルスィか。何か用でもあるのか?」
素っ気無いなぁ。もう少し元気だしていこうよ。
このチョコ、貰って?
これで受け取ってくれれば…
「チョコレート?私は甘い物が嫌いなんだ」
え?うん、知ってるよ、だからカカ……
「知っていてか?知っていて甘いものを渡すか!?
節分の時にも豆をぶつけてきやがって!ふざけてんのか!?」
ま、まだ怒ってたの…?
あ、あのときはごめ
「触んな!」
私は宙を舞う。頬が痛い。
殴られた…んだ。
遅れて痛みが襲ってくる。
うぅ…痛…い…
「一度ならず二度までも、ふざけるな、もう私に近寄るな!」
ごめん、ごめんね、勇儀…
行っ…ちゃっ…た……
私嫌われてるのかな。
そうだよね…私なんて…嫉妬の塊だもんね。
***
「大丈夫?血、出てるよ?」
その声は…
ヤ、ヤマメ?
「何かあったの?すごく痛そうだけど…」
なんでもない、聞かないで、
そうだ、これ、あげるよ。受け取って?
「ごめん、それは無理。食べられないよ」
え、どういうこと、それ、
もしかして、
ヤマメまで、
私を、
嫌うのか。
そうか、嫌うのか、そうか、ヤマメまで、死んじゃえ、死ね、死ねェェエエ!
「やめて!」
静かに、それでいて凛々しくヤマメが言った。
「私、パルスィの”自分は正しい、悪いのは自分じゃない”って考え方、好きじゃないな」
やっぱりそうだよね。
そうだよね、嫉妬なんてね。
そうだよね、好く奴なんていないよね。
はは、ははは、じゃあな、ははは
「待って!」
私は走り出した。
***
走った。
目の前が見たこともない風景になってきた。
走った。
もう岩肌しか見えなくなってきた。
そこで力尽き果てた。
右ポケットを見てみる。無い。チョコが、無い。
くそっ…畜生…
勇儀に嫌われた…
ヤマメにも嫌われた…
もう、私には…何も…
その時私の目に映ったものが一つ。
ずっと前からそこにあったのに
ぜんぜん気付かなかった、影。
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
|この先絶壁につき注意|
|__________|
看板だ。
ははは…
そよぐ風が妬ましい。
流れる水が妬ましい。
かわいい、かっこいいと持て囃される輩が妬ましい。
バレンタインに本命チョコを貰い、ヘラヘラしている輩が妬ましい。
―一度ならず二度までも、ふざけるな、もう私に近寄るな!
謝っても許してくれない彼女が妬ましい。
理解しようとせず拒絶する者が妬ましい。
―私、パルスィの”自分は正しい、悪いのは自分じゃない”って考え方、好きじゃないな
自分の生きざまを完全否定する彼女が妬ましい。
唯一の友人に裏切られてしまう自分が妬ましい。
この世界、大っ嫌いだ。
この大嫌いな世界が死なないならば。
私が死ねばいいんだ。
そして間もなく私は浮かんだ。
私が、死んじゃえ。
***
――三日後
「勇儀さん、少し話があるんですが…」
「なんだ?」
「バレンタインにチョコレートをあげる相手には愛しているという気持ちを伝えるらしいですよ」
「…つまるところ、どういうことだ?」
「パルスィちゃんはあなたのことが好きだった、というわけです」
「そこで、です」
「この近くに寄せるだけでお酒のにおいがするチョコレート、あの遺影の前で食べてきてください」
――彼女の最後の想いですから。
「美味い…美味いよ……
だから…パルスィ……
一緒に、食べたかったなぁ……」
「麦の海に沈む果実」の中に同じ名前の本が出てきますよね
そうですね。インスパイアというより小説化プロジェクト
スカイプで小説化に関して了承は取ってあります、だいぶ前に。
>8
どちらかの続編でしたね。三月は深き紅の淵に
小説投稿サイトって言ってたのはこれなのね!いつの間にっていう感じなのさww
ありがとうございます、大事に保存しておきますぁ。
出来ればあとがきだけじゃなく、本編でも何かしら救済の措置が欲しかったですねぇ
面白かったんですが、この点数で失礼させていただきます。まことに申し訳ない。