あの日、あなたは巫女と戦ったね。
わたしだって負けたけど、しかたないじゃない、ブランクあったんだもの。
あの日、あなたは魔法を求めて外に出て行ったね。
必ず帰ってくる、なんて気のきいたことは言ってくれなかった。
あなたが出ていった後のこと、ちゃんと考えてくれていたのかな?
皆、あなたのことが大好きだったんだよ。
わがままでどうしようもないけど、強くてときどき優しいあなたは館の、わたしたちの世界の中心。
太陽だったあなたがいなくなってから、どうなったか教えてあげたいな。
ねえ、知ってたかな。
あなたが出ていった後からしばらくしたら、夢幻世界とのつながりが消えちゃった。
最後に双子の悪魔と会った時、泣いてたんだよ。
あの、幻月と夢月が!
あなたが知っても、信じないよね。
でも、あの時はきっと、嘘泣きなんかじゃなくて本当に泣いてたんだと思う。
ねえ、あなたはこうなることを見越していたのかな。
昔から頭は良かったし、きっとわかってたんだろうね。
でも、ここまで早いとは思わなかったんじゃないかな。
双子の悪魔と会えなくなってから、今度は幻想郷にも行けなくなったんだ。
くるみちゃんとオレンジはほとんどいつも幻想郷側にいたから、閉じ込められずに済んだみたい。
二人とも、元気にしているのかな。
特にくるみちゃんは弱いくせにいたずら好きなんだもん。
人間にいじめられてないかな。
オレンジは大丈夫だろうね。
あの子は芸達者だから。
きっと今でも元気なら、バトンを振りまわしてるのかな。
ねえ、あなたは、帰ってこないつもりだったのかな。
「わたしを、一人ぼっちにするつもりだったの、かな?」
門の前で一人つぶやいた。
相変わらず世界のはざまにあるこの空は、不可思議に彩られているのに、暗い。
風も吹かないけれど、雨も降らない。
逆刃の鎌は、相変わらず重くて、冷たい。
長い間、ずっとこうして門の前で立っていた。
一人で。
「一人ぼっちになってからずっとこうしてたわけじゃないんだよ……」
庭の手入れも、館の掃除も全部やった。
ただ、すぐにやる意味を見失って、やめてしまった。
花は枯れて、とうの昔に腐った根しか残っていない。
生命力の強いものだけが、壁につるを伸ばして生きながらえている。
「好きだって言ってたのに、ひまわり。忘れちゃったのかな。ほら、みんな泣いてるよ」
館も荒れ果て、明かりだってつくことは二度とないのかもしれない。
「ベッドがほこりだらけで全然眠れなくて……馬鹿みたいだよね、当たり前なのに」
口元だけを無理にゆがめて、笑おうとしてみる。
鏡はないけれど、きっとひどい顔になっているんだろう。
やることがなくなってからは、ほぼずっとこうして門の前に立っていた。
どうして、と聞かれたならば、それは。
「帰ってこないかな。幽香」
待っているから。
「この前ね、久しぶりにお料理したんだけど、多分もうアレで最後だね。寿命なのかも」
それは、わたし自身のものなのか、館のものなのか、どっちだっていいのだけれど。
「本当、馬鹿みたい……。無駄になるのに決まってるのに」
すでに何度目かわからないが、渡せないチョコレートを作った。
どうして作るんだろう。
出られないのに。
会えないのに。
帰ってこないのに。
「ハッピーバレンタイン、幽香」
ハッピーなのに、まるで呪いみたいだ。
そう思いながら、わたしは目を閉じた。
だからバッドエンドなんかじゃない。
ゆうかりんは即刻迎えに来るべき