博麗神社お泊り権利。
妖怪垂らしの霊夢のこと、その権利をほしがる者は多い。まさに垂涎の的である。
霊夢がいいわよとなんのきなしに言った一言で、その権利を獲得しようと画策した妖怪、吸血鬼、妖精、鬼、蓬莱人、亡霊、神、魔女、天人、風祝の類は枚挙に暇が無い。
そして、勝ったのは、予定調和的であるが、最強と囁かれている八雲紫である。
霊夢のためなら死ぬ気になれる妖怪、それが紫であった。
そして今、時は満ちた。
お泊りの最強にして最大の山場。
最後のイベント。もちろんその前に二人で和気藹々としたおゆはんや、お風呂で背中のながしっこや、二人でババ抜きしたりと、楽しいイベントは盛りだくさんだった。
しかしすべては前座。
すべては伏線。
まさにこのために生きてきたと言えるであろう、究極目標に達しようとしている。
それは、霊夢に朝チュンな時間帯に起こしてもらう。
布団ごしにやわらかく手をかけて――
少女のくせに、母親のような慈愛の表情を見せ、クスリと笑い、
「私のかわいい紫、朝ですよ。もう起きなさい」
これだ!
すべてはこのために、妖怪どもを実力で叩き伏せ、吸血鬼をフルボッコにし、鬼を酒で酔わせ、蓬莱人をあきれるぐらいまで殺人し、亡霊を篭絡し、妖精をマジ泣きするまで脅し、神を罵倒し、魔女を陵辱し、天人におしおきし、風祝にご退場願ったのだ。
紫はまっ白いふかふかのお布団のなかで、わくわくを抑えきれなかった。ほとばしる欲情を、溢れるパトスをたぎらせた。
さすがに同じ布団で寝ることは叶わなかったが、手を伸ばせば届く距離に霊夢はいる。
神社の朝は早く、雀が鳴く頃には、霊夢は揺り起こしてくれるだろう。
ああ、待ち遠しい。
紫は布団の端を甘く噛んだ。
夜がこんなにも長かったとは思わなかったのである。
そして紫は、その優秀すぎる頭脳を使い、シミュレートする。
どんなふうに霊夢が起こしてくれるか。それだけでご飯三杯はいけそうである。
【霊夢 EASYモード】
霊夢はかわいいかわいい女の子。
幼女だった。
十歳ぐらいに見える霊夢。
そんな彼女がトトトと小さな足音を響かせて、私が寝ている布団のうえにダイブする。
ぽふん。
霊夢の小さな体重では、たとえ布団のうえに乗ってもたいしたことはない。
こそばゆいほどの重さである。
「ねー。ゆかり。おっきして。朝だよ」
霊夢は布団をまぶかにかぶっている私を必死に起こそうとする。かわいい。
私は少しいじわるしたくなって、そのまま寝入っているふりをする。
「ねー。ゆかりったら。おきてよ。おきてったら」
舌足らずな霊夢。
そのさくらんぼの唇が私を起こそうと必死になっているのを想像する。
黒曜石のような澄んだ黒い瞳が私の姿を探そうと必死になっているのを想像する。
ああ、今すぐ抱きしめてしまいたい。
けれど、もう少し霊夢が努力する姿を見ていたい。
私を起こそうと必死になっている姿。
人間のひたむきさは、妖怪にはとてもまぶしい。まぶしすぎる。神よりも神々しい。かわいいは正義。
「おきてよ……、ねぇ、ゆかり、もしかしてきぶんわるいの?」
いけない。
想像の境地のなかで戯れていたら、現実の霊夢のことを忘れていた。
たいして時間は経っていないが、霊夢の声に不安が混じる。
「ゆかり、さみしいよ。ゆかりとおはなししたいよ」
霊夢が泣き声になった。
私はサディスティックな気持ちと同時に、えもいわれぬ罪悪感をも覚え、その両義的な感情に心が昂ぶるのを感じた。
ああ、なんという背徳。
罪悪感は千年の時を経た美酒に匹敵する。
その甘さを想像するだけで、陶酔できるのだ。
もう少し――もう少し――
「ゆかりがおきないなら、ひとりで朝ごはん食べちゃうんだから」
「ん。ん。起きたわよ。霊夢」
私はついに耐え切れなくなって、布団から顔を出す。
この解放感をなんと表現すればよいだろう。
下品な表現になってしまうが、あえていうならば、なおりかけのカサブタをぴりぴりと剥がしていくような気持ちよさとでも言えばよいだろうか。
それに、霊夢の晴れやかな顔。
あなたの顔は太陽のようにまぶしい。
私の顔を視認した瞬間の変化。それはさながら花弁が花開く瞬間に似ている。
できることなら高性能カメラで微速度撮影したい。一秒千枚で、永久保存。
焼き増しは三枚までに抑えておこう。スキマもさすがにギッチギチになりつつあることだし。霊夢フォトだけで東京ドーム三つ分ぐらい貯まっているわ。
「ようやくおきたのね」
霊夢は少し怒ったように言った。眉に力をいれて、それから「め」と言って、私に怒りの表情を向ける。
あ、だめ。
また愛おしさが爆発して、耐え切れなくなりそう。
私はもぞもぞと布団の中にもぐりこむ。
「まだ眠たいわ」
「だめよ。いっしょに朝ごはん食べるのよ」
「うっふっふ。だめよ。霊夢、もうちょっと寝るの」
私は霊夢の小さな体をかき抱くようにして、布団のなかに誘いこんだ。
やだやだと霊夢はかわいらしい抵抗をこころみるが、所詮人間の、しかも小さな女の子の力なんてたかが知れている。
大妖怪である私の前では、文字通り児戯に等しい。
そして、ぴったりと吸いよせると、心地良い安心感。
霊夢の抱き心地は例えるならマシュマロのように柔らかく、全身から女の子特有の表現しがたい良い匂いがたちのぼっている。
くせのない髪の毛にそっと鼻を近づけて、一吸い。
甘美。甘美。
「霊夢、五分だけ時間を頂戴」
「だめ。ゆかりの五分は長いもの」
「お願い」
「しかたないなぁ」
霊夢はついには折れて、私に時間をくれる。でも、お布団の中の暖かさは霊夢の精神をも侵食し、ついには屈服させてしまうのだ。
すこやかな寝息をたてる霊夢を私はたっぷり昼まで堪能する。
やったね、ゆかりん。
大勝利。
【霊夢 NORMALモード】
霊夢はやっぱりかわいい女の子。
でもこのごろはちょっとだけ生意気盛り。
ゆかりんのことが大好きだけど、素直に心情を吐露するのは恥ずかしいと思う、そんな微妙なお年頃。
霊夢は少し戸惑うように私が寝ている布団を揺する。
左手をちょっぴり布団のうえに乗せて、触れているか触れてないかの絶妙なタッチだ。左手は添えるだけ。
「そろそろ朝よ。紫」
「ひとりじゃ起きられないのよ」
「嘘でしょ」
「嘘じゃないわ。霊夢が起こしてくれないと起きられないの」
私は手を伸ばして、霊夢に引っ張ってくれるように頼む。
霊夢は少しのあいだ躊躇し、そしておそるおそる手を伸ばす。
私が何かしないか気にしながら、けれどそのままさっさと朝ごはんを食べに行くのもはばかって、そのかわいらしい顔には奇妙な真面目さがあった。本当にかわいい。
手が吸いつく。
私が絡めたのだ。
すると、霊夢は顔を紅くした。
「な、なにするのよ」
「霊夢の霊力って心地よいわ」
「妖怪が霊力に心地よさを感じるなんて変よ」
「だって、霊夢の霊力よ。心地よいに決まってるわ」
「紫、なにか変よ。朝は低血圧で思考が飛んでるんじゃない?」
「私はね。朝は心地よく起きたいのよ。ソフトランディングのように柔らかく起こしてくれないとダメなの」
絡めた手を一気に引き寄せて、私は霊夢の体を布団の中にひきずりこむ。
霊夢は怒りと恥ずかしさで顔を赤く染める。
「なにすんのよ。本気で怒るわよ」
「霊夢があまりにもかわいらしかったから、しょうがないわ」
「なにをいうのよ」
恥ずかしさのあまり霊夢は顔を手で覆う。ああ、本当にかわいい。いまの私は霊夢のかわいさで死ねる。
「霊夢。あなたも女の子なんですからもっとかわいらしくありなさい」
「お母さんみたいなこと言わないでよ」
「妖怪と人間は親娘ほど年が離れているでしょう?」
私は霊夢の頭を左手で撫でつける。ほんの少し抵抗があるけれど、右手は霊夢の腰を固定して逃げることはかなわない。
最初は嫌がる霊夢だけど、最後は観念してされるがままになるの。ああ、もう、このまま食べちゃおうかしら。
「ふぅ。堪能堪能」
撫でつづけること約五分。
いい加減、霊夢の怒りも有頂天のようだ。あの生意気な天人みたいに、少しばかりお怒りの様子。
でもそんな怒りの表情も私だからこそのものだと思えば、心地よい。
「あんたいつも藍にもそうやって起こしてもらってるの?」
「え?」
「だから、あんた、いつも藍のほら、あのもふもふっとした尻尾に顔でもうずめながら起こしてもらってるんじゃない?」
「藍は冷たいから一人で起きてくださいとだけしか言わないわ。それに私は霊夢だからこそこうしてるのよ」
「んもう」
ぷりぷり怒る霊夢。
けれどその怒りの質が先ほどとは少し違うことを私は知っている。
もう霊夢だってそろそろ甘えたくてたまらないのだ。
まだまだお母さんが恋しい年頃なのだ。うふふ。いいのよ。霊夢。私のことを年を離れたお姉さんか、あるいは若くてまるで少女のようなお母さんだと思ってもいいの。だってあなたはこんなにも愛らしいのだから。
ぎゅ。
「んー。暑いってば」
「んふふ。ぎゅぎゅ」
「朝ごはん冷めちゃうでしょ。せっかく作っておいたのに」
「あとから食べればいいじゃない。それに妖怪にとっては、人間の心こそがなによりのごちそうなのよ」
「私を食べないで!」
「どうしようかしらねー」
頬をつんつん。身をよじって逃げようとする霊夢。
私は結局、昼ごろまで霊夢を布団から出さなかった。
やっぱり、ゆかりん。
大勝利。
【霊夢 HARDモード】
ここからは厳しい戦いになりそう。
霊夢の人格にもあやふやなところがなくなり、甘えるような年頃でもなくなった。
けれどゆかりんは知っているの。
霊夢は本当は私のことが好きで好きでたまらないけれど、目の前だとついついつっけんどんな態度を取っちゃうのだ。
つまり、ツンデレなのである。
「ほら、紫! 朝よ。起きなさいよ」
霊夢は布団の上に乗っかってくることはおろか、揺り起こしてもくれない。
腰に手をあてて、私を睨みつけるのみだ。
でもその怒りと呆れの表情には隠しきれない温かみもあるのだった。
「霊夢が起こしてくれないと起きれないの」
「なにいってんのよ。もうろくしてるんじゃない?」
「もうろくってひどいわ」
「うるさいわね。あんたなんかババァで十分なのよ」
「そんな乱暴な言葉を使ってはいけないわ」
「うるさいうるさいうるさい」
霊夢はヒステリックに叫ぶ。そんな霊夢ももちろんかわいい。
そもそも、うん万年の時を生きてきた私にとっては、多少生意気だろうが、ツンツンな態度だろうが、たまらなくいとおしいのだ。
人間とは本来的生来的にかわいらしく、特に霊夢はスキマのなかに入れても痛くないほどにかわいらしい。
「ほんと、あんた起こしてると、老人介護してるような気分になってくるわ」
霊夢は容赦なく布団を剥ぎ取る。
冬のお布団は言わば寒さから身を護るための結界に等しい。
その結界を一息に取り去ってしまうのは鬼のような恐ろしい行いと言えた。
ゆかりん、寒くて震えちゃう。
「霊夢。許して。お布団だけは許して」
「だめ。あんたのペースに合わせてたら人間としての生活に狂いが生じてしまうわ」
「少しぐらいいいじゃない」
「だめよ。人間と妖怪とは相いれないもの。境界をあやふやにするのは危険よ」
霊夢は冷たく断じた。
私は少しだけ悲しくなって、しかし霊夢の言葉は正しいとも感じる。
「霊夢。あなたの言うとおりね。でも、妖怪と人間は違うからこそ、重ね合わせることができる部分が奇跡のように思えるんじゃないかしら」
「じゃああんたが人間である私に合わせなさいよ」
「もちろん合わせてるわよ。けれど霊夢も私に合わせなさい」
「私はちゃんと合わせてるでしょ。ここに泊めてあげてるじゃない」
「足りないわ。もうちょっと合わせたいのよ。心もからだもね」
「な、なにをいうのよ」
霊夢の瞳がわずかに開かれるのを感じる。
頬は桜色に染まり、さっと朱がさす。
布団がなければ、霊夢を着ればいいのよ。
私は強引に霊夢の体を抱き枕にした。
霊夢は、「あ」と小さく呻いて驚きの表情になる。目をあわせない。恥ずかしがっているのだ。かわいい。
「んー。霊夢ってまだまだ子どもね。体温がちょっと高いわ」
「離れなさいよ。うっとおしい」
「いや。もうちょっと霊夢を感じていたいの」
「離れろー!」
じたばたともがく霊夢。
でもそうやって足掻くところが逆に嗜虐心をそそることを霊夢も知ったほうがいい。
私は霊夢の上腕あたりをしっかりと固定して、ゆっくりと唇を近づけていく。
「え、嘘、嘘でしょ」
「嘘じゃないかもしれないわね」
「いや、やだ。紫。やめて」
霊夢の抵抗がいよいよ激しいものとなる。
けれどゆかりんのパワーの前では、そよ風のようなものなの。まったく歯がたたないことを身をもって実感し、霊夢の表情にわずかに脅えが混じる。必死に人間らしい誇りで取り繕っているけれど、ゆかりんにはお見通しなんだから。
「離しなさいよ。本気で怒るからね」
「霊夢は私のこと嫌い?」
「は、何言ってんの?」
「好きと嫌いの境界の話よ。私は霊夢にとってどちら側にいるのかしら」
「強引なやつは嫌いよ。自分のことしか考えてないやつもね」
「そう。じゃあ解放してあげる」
私があっさり霊夢を解放したことで、いくぶん霊夢も疑いを抱いたようだ。私が何かをたくらんでいると思っているらしい。
「妖しいやつね」
「そりゃ、妖怪だもの」
私は妖艶の笑みを浮かべる。百万ドルの夜景に匹敵する程度の笑みよ。こんな微笑を向けるのは霊夢にだけなんだから。
霊夢のほっぺたがお餅のようにぷっくらとふくらんだ。ああ、本当に食べてしまいたい。
「さっきの話だけど……」
霊夢が壊れかけのラジオのように、言葉につまりながら、巫女服の裾をもてあそびつつ、私のほうを上目遣いに見た。
「べ、べつに嫌いってわけじゃないのよ」
「わかってるわよ。霊夢は私のことが好きなのよね」
「か、勘違いしないでよね。嫌いってわけじゃないってだけなんだから!」
「わかってるわよ。私ももちろん霊夢のことが大好きよ」
霊夢の顔が蒸気が吹き出そうなくらいに赤く染まった。
「ほら、たまにはいっしょに寝ましょう」
「昼まで寝るのはダメ」
「じゃあ、100数えるまでね」
私は霊夢をお姫様抱っこして、お布団のなかに連れこんだ。
気が向いたときにカウントして、たっぷり昼までお布団のなかで霊夢といっしょ。
ゆかりんって、頭イイ! 超エキサイティン!
大勝利。
【霊夢 LUNATICモード】
霊夢なら私の隣で寝てるわ。
すぅすぅと気持ちよさそうに寝ているの。
もちろん手を出したりはしないわ。人間というものは儚いもの。こころもからだも妖怪にとっては脆く壊れやすい。
だからこそ霊夢の寝顔に愛おしさを感じてしまうのだ。
でも少しだけならいいわよね。
私はスキマからミニサイズの毛玉さんを取り出して、霊夢の頬をそっと撫でる。
「んん」
くすぐったそうに身をよじる霊夢。
その無防備な仕草は天然記念物のイリオモテヤマネコよりも貴重なものだ。
ああ、それにしても霊夢の唇。
ぷっくらと膨らんで、血行のよさそうな少女の唇。
そこからわずかに漏れる吐息。
私はもうなんか辛抱たまらんとなりそうだった。もちろん、私は布団の中から飛び出て、すっぱだかで外をランニングして火照りを覚まそうなどという変態ではない。
布団というのは言わば現世に生じたニルヴァーナであり、そこから飛び出るということは、端的に言って悲劇である。ヘブンを追い出されたアダムとイブのように悲惨な運命が待ち受けているに違いない。
それに、ここには霊夢という名の禁断の果実が存在する。
ごくり。
生唾を飲みこむ私。
いけないわ。即物的すぎるわ。
「ん。紫、起きたの」
必死で獣性の境界を操っていると、そのうち霊夢が起き出してきた。
さすがにまだぼーっとしているようだが、霊夢は子どもらしい快活さですぐに精神を屹立し、シャキっとした声になる。
「おはよう紫」
「ん。おはよう。霊夢」
「どうしたの紫。なにか苦しそう」
「別にたいしたことじゃないわ。昨日の結界修復の疲れがでたのかしらね」
「そうなの? じゃあもう少し寝てていいわよ。私が朝ごはん作って来るわ」
「あ、だめ」
「え?」
「だめというか、なんというか……、霊夢がいてくれると助かるのよ。そ、そう。えーっと結界修復のためには霊力値のコントロールが必要なのだけど、私は妖怪だからそのコントロールが難しいの。それで、霊夢の霊力がエレメントモデルを構築するのに助かるのよ」
「よくわかんないんだけど」
「そばにいてほしいのよ」
「あっそ」
霊夢はそんなふうにそっけなく言って、また布団のなかにもぐりなおした。
ルナティック霊夢は隙だらけで、ゆかりんのことが好きで好きでたまらないのはいつもと変わらないところなんだけど、そろそろ境界を踏み越えてもいいかなというような危うさがあるのだ。
ああ、霊夢……おそろしい子。
妖怪を全力でたぶらかす天然の巫女さん。
この頃の霊夢は、妖怪退治はもとより、吸血鬼を視線だけで腑抜けにし、妖精一個大隊を一瞬で壊滅させ、鬼とともに致死にいたる量の酒を呑みたおし、蓬莱人が泣くまで殴るのをやめなかったり、神をチェーンソーで打倒し、亡霊と食べ比べで勝利を収め、魔女を指先ひとつでダウンさせ、天人をぺチンとはたいて昇天させ、風祝とは楽しくウインドウショッピングしたりするのである。
残された最後の希望は私。
一人一種族の八雲紫だけなのである。
散っていった者たちのため、私は霊夢と相対しなければならない。
「どうしたの。やっぱり疲れているの?」
「え、いやそんなことないのよ」
「本当? あんたって余裕たっぷりに見えるから逆に心配なのよね」
霊夢の顔が近い。
それで、すっと手が伸びた。
小さな手のひらが私のおでこにあたる。
「んー。熱とかはどうなのかしら。紫って妖怪だからよくわからないわね。人間基準だと熱いみたいだけど」
「だ、大丈夫よぉ」
あ、危ない。
一瞬で心を奪われそうになった。
ルナティックは集中力が切れた瞬間にピチュる。
「ねえ紫」
「ん。なにかしら」
「紫ってどうして幻想郷を護ろうと思ったの」
霊夢の体はほとんど私に密着している。
私の思考はまるでファミコンの線を数ヶ月ほったらかしにしていたみたいに混線していた。
並列的に思考ができていなければ、わけがわからない解答をしていただろう。
「そうね。難しくはないわ。私は幻想郷が好きなのよ」
「ふぅん」
「それで、幻想郷に住んでいる者たちのことがいとおしいの。もちろんあなたのこともよ」
「私も好きよ」
きゅんとなった。
胸がときめいた。
恥入る心はひとつもなく、真っ直ぐに射られる言葉の矢。
「幻想郷のことよ」
からからからから。
霊夢は笑う。
「あ、そうなの。そ、それは嬉しいわね」
「なにしょんぼりしてるのよ。もちろん――」
霊夢の顔がさすが幻想郷の巫女と呼べるだけのスピードで近づいて、
ちゅ。
頬のあたりに優しいキス。
「あんたのことも好きに決まってるじゃない」
だめ。境界のコントロールが効かない。
凄まじいスピードで私の精神領域が侵食されていく。
結局――
その日は一日中、お布団の中から出られなかったけれど、勝利と言えるかは微妙なところ。
ゆかりん。大勝利?
【霊夢 REALモード】
興奮して寝つけなかった私は、朝方になってようやく眠りに落ちた。
そして、霊夢は一人でさっさと自分だけ起きて、私を起こしてはくれなかった。
くすん。
けれど――
私がのそりのそりと起き出すと、居間には霊夢がいて、炊きたてであろうご飯が用意されていたのである。
もしかして私がそろそろ起き出すのを知っていたのだろうか。
いつか私が、自分の足で布団という心地よい空間を飛び出せると信じて待っていたのだろうか。
人間というものはかわいいだけでなく、強い存在なのだ。
「霊夢。おはよう」
私は人間の作法にのっとり、始まりの言葉を口にする。
良いゆかれいむでした
ご馳走様でした。
「ねー。ゆかり。おっきして。」ごめんびっくりした。起きてもおさまるまでしばらく布団から出られなくなります。
店長!勘定よろしく!!
どれもすばらしすぎるゆかれいむ!!
とりあえず全モードクリアしてくる!!
Luna? 私には夢想のさらに弾幕結界向こうでの話death.がふっ。
ゆかれいむ万歳!
ありがとうございました!!!!!!
きっとまだこの先に、
霊夢 Phantasmモードもあるんですよね!?
良質なゆかれいむでした。ごちそうさまです
よみにくすぎて読む気がしない
これであと10年は戦えますね!
REALモードも悪くない…よね?