「お嬢様、これから学業に専念してもらいます」
「とりあえず咲夜。どんな過程があってその結論に至ったかを分かりやすく説明して」
「わーい! 学業だー!」
突然の提案から入ったことをお許しください。私、ここ紅魔館のメイド長である十六夜咲夜と申します。
目の前で頬杖をついたカリスマ溢れる可愛らしいお方が紅魔館当主であるレミリア・スカーレットお嬢様。その横におられる向日葵の咲いたような素晴らしい笑顔を浮かべておられるお方が、お嬢様の妹であるフランドール・スカーレット様でございます。
失礼ながら、私自身お二人には……特にお嬢様には数え切れないほどの苦労をかけられておりまして……勿論、この様な塵にも等しい私をメイド長と言う役職に就かせて頂いたことにも心より感謝させて頂いております。そう……お嬢様は言わば私の親。それに不満など有るはずがございません。
ですが……ですがしかし! それでも私にも譲れないことがあるというものです。
「学業ということは寺子屋に通えと? 嫌よ、あんな人間の子供ばかりが通うところなんて。私みたいなカリスマに溢れる紅魔館当主であるお嬢様が通える空気を要していないわ」
「わーい! 寺子屋だー!」
「そもそも咲夜、フランはともかく……何故私だけ? 私は人間どころか、そこらにいる妖怪とは比べられないほどの人生を歩んできているのよ? この意味が分からないわけがないでしょう。そんな私達に寺子屋の教師に教えられるものがあるはずがないわ……それよりプリンまだー?」
「ねーねー、いつから学業するのー? お姉様、プリン私も食べたい!」
「フラン、貴方本当に可愛いわね。思わず食べちゃうたくなっちゃうじゃない……」
「プリンー!」
「…………」
その短絡的な思考をどうにかしたいからに決まっているでしょう!
貴女がそんなことばかり言ってるから……当主として最低限の知識を持ってほしいと思うじゃないですか!
ああ、しかし何ということでしょう。今のお二人の頭の中には『プリン』という食べ物しかないみたいです。ていうか私一言しか発言していないのに、何故こんなにも絶望的な気分になっているのでしょうか……恐るべきカリスマ。
そんなことを考えて今にも話を無かったことにしようと思った時――誰が魔女と言おうと私には神様に見えます――動かない大図書館ことパチュリー・ノーレッジ様がお嬢様への説得を始められました。
「レミィ」
「あ、パチェ。どうかしたの?」
「咲夜の気持ちも考えてあげなさい。これは貴女のためを思ってのことなのよ」
「パチェまでどうしたの。何度でも言わせてもらうけど、私には――」
「本当に、学ぶべきものがないと思う?」
「ええ、勿論よ。大体咲夜も咲夜よ、私のことは貴女がよく分かっているでしょう?」
「はい……まあ」
「ほらね。それなら何で今更学業に専念しろと? そもそも、貴女が人間の子供と言う立ち位置に私を置いたということが許せないわ。一体どのような考えを持ってのことかしら」
口に出すことは出来ませんが、思い当たる節が数えられないほどあります。
この前紅茶をお出ししたとき、ダージリンとアッサムを優雅に間違えられたこと。
クリスマスの時、大きな靴下を準備して「プリン一年分」を要求されたこと。
大図書館にあったヒーロー物の漫画を読んで、真似して空に飛び出して日光に当たり全身大火傷を負ったこと。
それから…………。
「……咲夜」
「…………」
「咲夜?」
「…………」
「咲夜! こら咲夜!」
「あ、はい!」
「何ぼーっとしてるのよ。それより、顔色が悪いようだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です……」
いや、やっぱり正直に言えません。
だってこれを言ったらいろいろといけない気がしますから。紅魔館当主としても、私の主であることとしても。
もし正直に言ってしまえば「貴女は子供と同じぐらい困るから勉強してくれ」と言っているようなものです。この要に強制的に勉強を進めることはさすがにお嬢様のためにもなりません。一体どうしたらいいのか……。
そう私が自分を追い込んでいると――やはり彼女は神様です――パチュリー様が何かを思いついたようで、そのゆったりとした口調に確かな力強さを込めてお嬢様へと問いかけました。
「レミィ、貴女の大好きなプリン。どのようにして作られているか知ってるかしら?」
「え、何よ急に」
「知っているかしら?」
「も、勿論よ! 咲夜が作っているのでしょう!?」
「どのようにして?」
「くっ……!」
ああ、さすがはパチュリー様です。お嬢様が自らの無知を知ることで学びへの意欲を刺激させるつもりなのですね。見ていてつらいものがありますが、お嬢様も困ったようにして考えを巡らせているようです。
これはいける――そう私は確信しました。これでお嬢様が自らの意思で「ごめんなさい、私がもっとしっかりすれば良かったことだけなのよね」というのを期待しました。しかし……答えは予想外なところからやって来たのです。
「あ、私知ってるー!」
時間が止まりました。
実際止まったわけではありません。私の能力を持ってすれば問題なく出来ることですが……そう、あくまで表現方法としてはそれが正しいのだと思います。何故なら朗らかな笑顔で小さな手を一生懸命に振り上げながら、楽しそうに辺りを見渡す彼女――この場で最も無知であると思われた妹様が「知っている」と仰ったからです。
お嬢様はプリンの作り方が合ってる合ってないにしても、ご自身の妹が自分よりも「物知り」であるという現実を強く受けたようで、先ほどから口をあんぐりと開けたまま微動だにしません。私は多分、笑顔のまま固まっているのではないでしょうか?
しかしそこは我らが神様――もう神様で固定でいいですよね――パチュリー様が冷静な対応を見せてくれました。素晴らしい。
「フラン」
「あ、パチェリー! 私のことフランって呼んでくれるんだ!」
「貴女とも仲良くしたいしね……ちなみに私はパチュリーよ。それよりも……プリンがどのようにして作られるのか教えてくれるかしら?」
「はーい!」
そして妹様はそれが当り前であるかのように、と言うよりも書かれている文章を朗読するかのように言い始めました。
「これに使用するのは卵、卵黄、牛乳、グラニュー糖、バニラエッセンス。咲夜の作り方とは多少違うと思うけど……カラメルソースを作るためには水とグラニュー糖を混ぜて火で温めるの。そして濃い茶色になったら火を止めて熱湯を一度に加えて溶きのばしてプリンの型にそのまま流しこむの! そしたらプリン液を作るんだけど……」
「ふ、フラン?」
「牛乳にグラニュー糖を温めながら溶かして、その後温度を下げるためにまた牛乳を加えるの。そしたら卵と卵黄を入れて混ぜるんだけど……あ、泡立てないように注意ね? そしたら牛乳に温かいうちに入れて大きく混ぜるの。そしたらそのままこし器でこして、バニラエッセンスを加えてプリンの型に流しいれるの」
「やめて! フランお願い、もうやめて!」
「そして蒸し焼きにして、表面全体が固まったら完成! 温度とか計量はあまり覚えてないけど……勉強不足でごめんね?」
「良いのよフラン。目的は達成されたわ。ククッ」
「?」
そしてパチュリー様が視線を向けた先には……見ていているこちらが悲しくなるほど白く燃え尽きているお嬢様の姿。その小さなお口からは「私が……フ……ラ………ン……より? そん……な………」と小さすぎて聞こえないお言葉を発せられています。
対する妹様のほうはそんな姉には目もくれず「ねーねー咲夜ー? 今度一緒にプリン作ろー!」と嬉しいことを言ってくださいます。もうどっちが当主なのか分からなくなってきました。
ですが、さすがは現当主。霧散したはずのカリスマ性をかき集めて妹様へと労いの言葉をお掛けになられました。
「フラン、さすがは私の妹……貴女もプリンの作り方を知ってるだなんてね」
「勿論! お姉様も分かってたでしょ? 普段から他人任せで何も出来ない当主何ているはずがないもんね!」
「ぐっ……!」
「クククッ……」
「あ、そういえば私プリンだけじゃなくてカスタードクリームも作りたいんだ!」
「そ、そう……」
「フフッ……アハハ」
「でも、お姉様。カスタードクリームをクッキーにはさんで食べると絶対にお洋服汚しちゃうものね? クッキー半分崩れ落ちてあわててそのまま中身まで服に落として……いつもお洗濯してる咲夜かわいそう!」
「あぁっ……!」
「プフッ……アハハハハ」
「あ、でもお姉様は『自分で』お洗濯しないんだよね? 私はいつもお洋服弾幕ごっこで汚しても、しっかりと自分で洗うよー? 咲夜にお願いしてお洗濯するのに必要なもの部屋に置いてもらったし!」
「ぐ……あぅ…………」
「えーっとねー、それからー」
「アハハハハハハハハ!」
何故でしょうか?
この部屋にいるのはお嬢様に妹様にパチュリー様に私の4名でございます。特に侵入者が来たわけでもなく、いつも通りの毎日を送れているはずなのですが……決定的に何かが違います。
只でさえ喘息で苦しんでいるパチュリー様は先ほどから身体を「く」の字に折って地面を叩きながら肩を震わせています。お嬢様は引きつった表情で今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、妹様はと言うと普段の様な可愛らしい笑顔が何故だかどす黒い笑顔に見えるんです、眼が笑ってませんし。私はと言うと、先ほどからあまりにも重い空気のせいか冷や汗が止まりません。ていうかパチュリー様笑いすぎです、本当に喘息は大丈夫でしょうか?
「そ、そもそも! 何でフランはそんなことを知ってるのよ!」
「?」
さすがお嬢様、根がSなのは私が毎晩の行為からよく知っております。そのため攻められていることに耐えられなくなったのか勝負に出ましたね。
ですが、確かに私も気になっておりました。何故、妹様がプリンだけしか説明してないとはいえそのような知識をお持ちなのか。普通ならば「プリンを作るため」以外の目的では持てない知識のはずです。ということは、以前からプリンを作りたいと思っていてその作り方だけを覚えていたということになるのですが……。
「そう……フラン。貴女はもしかして、プリンの作り方しか知らないんじゃないかしら?」
「!」
「ブフゥ!」
ああ、さすがお嬢様。眼があやしく光りました。今の質問に対する妹様の反応が「しまった!」と言っているようでしたから、相手の穴を見つけることが出来たのだと思ったのでしょう。
実際私にもそう見えました……妹様はプリンの作り方しか知らない。だから他のことはお嬢様のほうがすぐれている知識があるかもしれない――と。
しかし、我らが神様パチュリー様――まだ笑っていました――はさらに噴き出して、もう何がツボなのか本気で分からなくなってきた時私は思い出したのです。
『咲夜。私に任せなさい』
そう……あれは私がお嬢様の無知を嘆いた時のことでした。
いつの間にか私のそばにいたパチュリー様がその一言だけを発したのです。
思えば「学業に専念しろ」と言うように私に言ったのはパチュリー様です。きっと彼女が笑い転げているのにも意味があるのでしょう……きっとですが。何しろ私達の神様です、きっと無駄なことなんてないはずです。
「フラン」
「…………」
ああ、お嬢様があと一歩のところまでやってきたようです。もう攻め立てる気満々です、妹様を蹂躙する気満々です。
これからお嬢様はきっと、自分のほうがすぐれているという思いをぶちかましていくのでしょう。ですがこれは私が望んでいることではありません。あくまでお嬢様にもっと当主としての知識を蓄えてほしいというのが願いでございます。
自らの知識を余計に傲慢に捉えてしまっては元も子もありません。この状況を打破するために私は悩みに悩んでいました――その時です。
「お姉様」
「何かしら?」
「私、フランドール・スカーレット。紅魔館当主であるレミリア・スカーレットお姉様の妹でございます。お姉様の様な気高く、可憐で、聡明で、カリスマ性の溢れたお姉様にはとても失礼のあることかもしれません」
「あら、貴女は私の自慢の妹よ?」
「ですから、私の知らない無知な部分を是非とも直して下さいませ。お姉様」
「勿論よ」
妹様が、先ほどお姉様を言い負かしていた時のように眼が笑っていないのです。
勿論、顔は向日葵が咲いたかのように笑っております。ですが、あの笑顔は……ええと、風見幽香の様な見るもの全てを惨殺するかのような怖い笑みではなく……表現するのが難しいのですが、これから相手が泣きだすのを楽しみにしている処刑者の様な顔をしているのです。
ですが、パチュリー様はもう息も絶え絶えに笑い続けています。もうそろそろいろいろと危険ではないでしょうか? というかこの状況で笑える意味が分かりません。さすがに怖くなった私はパチュリー様を助けるために彼女を優しく抱き抱えました。
「パチュリー様!」
「ク……クフフ……おなかいたい、おなかいた……アハハハハハハ」
「ど、どうなされたんですか?」
「やばい、その、まま、思い通り、に、いきすぎ、ククッ、フラン、最高、アハハハハ」
思い通りにいきすぎ――?
一体何のことでしょう?
きっと前に言ってた「私に任せて」という言葉が関係しているのだと思うのですが……もしかすると、妹様のあやしい目つきからお嬢様の狼狽した姿まで全てお見通しだったということだと思うのですが。
ですが、一つだけ分かることがあります。
――このまま思い通りに続いてしまえば、パチュリー様はきっと笑い死んでしまう――――。
ですが、私は自分の我がままのために協力してくれた彼女の気持ちを無下に扱いたくはありません。
今この状況を止めてしまっては、きっと私も彼女も一生後悔してしまうでしょう。
それでも……せめて彼女だけでもここから連れ出さないと……!
そう思い時を止めて、彼女を大図書館へと連れて行こうとしたとき、彼女が私にすがるような視線を向けてきたのです。
「さ、さく、咲夜、アハハハハ」
「パ、パチュリー様!?」
「だ、だ、だめ、よ。クハッ、わた、し、にも、ククク、最後まで、クフゥ!」
「…………」
「レミィの、フフッ、こと、は、しっかり、ふふふ、見届け、クッ、プフゥ!」
「パ……チュリー……様………!」
ああ、私は何て愚かなのでしょう。
パチュリー様はお嬢様のために――親友のために、彼女のことを最後まで見届けたいと仰いました。
その気持ちを裏切るなんて、もう私には出来ません。
もしかすると、これはお嬢様や紅魔館に対する裏切りかもしれません。
それでも……私は、十六夜咲夜として。彼女の友である十六夜咲夜として、彼女の意思を尊重したいと思ってしまったのです。
「パチュリー様」
「さ、さく、や」
「大丈夫です、パチュリー様」
――ああ。
こんな友人を私も持てたら、それはとても楽しい人生になるのではないだろうか。
私は、ここにいる親友のために苦しめる関係を、初めて……羨ましいと思えました。
だからこそ――私は、彼女と一緒にこの結末を見届けたいと思ったのです。
「大丈夫ですパチュリー様。一緒にお嬢様の成長への一歩を見守りましょう」
「さ、さく、あ、ありが、ククク、ありがと、ウフフ」
そして私達は、一緒に彼女たちの……お嬢様を更生させるために心を鬼にしてその光景を見続けるのです。
◆
「お姉様、別のお話無いの?」
「くっ……!」
私はレミリア・スカーレット。紅魔館当主であり、齢500年を生きるカリスマ溢れる吸血鬼である。
だが、そんな私は今絶体絶命の窮地に立たされている。他ならぬ、我が妹によって――。
「雨は天人のおしっこ……だっけ? そんなわけがないじゃない。雨って言うのは、空中の気圧がさがることによって気温も下がって空気中に含まれる水分が減って、それが雨となって地上に落ちてくるんだよ?」
「ぬぬぬ……」
「低気圧のほうが雨が降りやすい理由? 低気圧の中心に集まった空気は上に行くんだよ。だからその分空気中にある水分もそのまま上に持っていかれるから雲が発生しやすくなるんだもん」
「ぬぬぬぬぬ……!」
「まさか……天人のおしっことか、子供でも馬鹿にするようなことを考えてるなんて思いもしなかったよ」
「う、うるさい!」
だってそんなこと分かるはずがないじゃない。
ぶっちゃけ雨の日外に出ないのは天人のおしっこが汚いからって理由だったんだもん。え、もしかして違うの?
ああ、もう駄目だ……今目の前にいる妹は、きっと悪魔の娘に違いない……私を陥れるために準備された、まさしく悪の根源であるのだ……。
恐るべき、フランドール・スカーレット――!
「お姉様?」
「な、何よ!」
「頭大丈夫?」
「はうあ!?」
ああ、駄目だもう駄目だ気がくるってるって言われてる自分の妹に「あたまだいじょうぶ?」なんていわれちゃったもうだめいきていけないへやのすみっこでひざかかえて「うーうー」いいながらなきたいだれかたすけて。
そう私がもはやひらがな以外使えなくなるまで衰弱しかけているとき、今まで私を陥れていた彼女……最愛の妹が、先ほどまでとは違う優しい瞳で私にこう言ったのだ。
「一緒に、お勉強しよ?」
「え?」
「私ね、お姉様。お姉様や咲夜みたいに周りから尊敬されたくて、一生懸命お勉強したんだよ?」
「貴女、何を……」
「パチェリーが」
「パチュリーよ」
「私にね、『レミィの面白い顔が見たいついでに、貴女を立派な吸血鬼にするために勉強を教えてあげる』って言ってくれたの」
「パチェ……」
私の妹を正しい道へ更生させるために人一倍努力をしていただなんて……貴女は……!
そう思い、親友がいたはずの場所へと目を向けると、自慢のメイド長が私の親友に対して必死に言葉を訴えかけているところだった。
そう……彼女は、私のために――そして私の妹のために、その身が犠牲になることも構わず……!
「咲夜、フラン、パチェ」
そんなことに気付けなかった親友を許して何て言えない。
でも、そのおかげで私は気付くことが出来たのだ――。
「私、一生懸命勉強するわ。この紅魔館のためにも」
その瞬間、この世のものとは思えないほどの叫び――笑い声の様な気がした――が、紅魔館全体を揺らした。
それが紅魔館当主レミリア・スカーレットの親友、パチュリー・ノーレッジの尊い犠牲であった――。
というわけで作品名を見てこれは感動出来そうだ……と思った俺のあどけない気持ちを返してください
てかパチュリーの笑いに釣られて笑いまくりました
いいぞ!もっとやれ!
だが、もっとやってくれwwwwww
パッチェさん、無茶しやがって・・・
おぜうがカリスマ溢れすぎてwww
もっとやってください!
パチュリー様は本当に頭のいいお方ww
いいのこんな友情!?ww
フランちゃん、GJw
すごくいい
このふらんちゃんにはお付き合いを申し込みたいww
確かにレミさんフルボッコは面白かったけどwwwパッチェさんのツボがツボったwwwwやっヴぁいこれw