・この作品は『かみさまっ!! ~曲神編~』の続編です。
始めにそちらをご覧になってから読まれる事を推奨します。
前回の復習のあらすじ……ゆかりん、ケロ。チルノ最強説を唱える。ヘタレ霖之助。
* * *
一方、霖之助らはというと……
「え?」
「だから、『剣』を『呑』ませなさい」
霖之助は輝夜に剣の使用法を尋ねた。
しかし、帰ってきた答えは予想を大いに上回っていた。
月の姫はどっしりと、その場で半座を組み霖之助に告げた。
「あのね、それ(天叢雲剣)は元々、コイツ(八岐大蛇)から出てきた物なの。
然るべきモノを然るべき場所に『返す』……当然でしょ?」
いとも当り前かの様に言う。
「しかし……」
「香霖堂。真逆、アンタ……『剣』が惜しい、とか言うんじゃないわよね」
輝夜が上目で睨みつける。霖之助は首を振った。
確かに、『剣』が自分の手に入った時は喜びはしたものの、実際は己の部を弁えている節もある。
正直、この身は、天下取りの器では無いだろう……客観的に見れば。
まあ、諦めるつもりも無いけど。
「ふん。まあ、信じてあげる。
少し、昔話をしてあげるけど……その『剣』。太古の神々は『触れる』ことさえできなかった」
「へぇ。じゃあ、霖坊はソレ(神)以上ってか?」
妹紅が傍から笑う。
輝夜は挑発お構い無しに話を続けた。
「永琳なら、使えるだろうけど……『使える』だけ。須佐オジ様も、実際、『使える』だけだった。
『真意』は発揮できず仕舞い。
イザナギ御爺様やイザナミ御婆様じゃ、まず『剣』が拒絶するし」
俯く輝夜……何か、引っかかる。
霖之助と妹紅は顔を見合わせた。
「月夜見オジが『使おう』とした時なんか……暴走した」
「オイオイ、輝夜。ちょっと待て」
「いいから最後まで聞きなさい」
何時に無く、真剣な眼の月姫。
「月にいた頃の私と、豊が精々30%扱えた程ね……
ただ、歴代で『剣』を真に『仕えた』者は、ただ一柱……『 』様だけ」
「なんだって? 聞こえない」
何か、重要な事が聞こえなかった。
霖之助は妹紅にも確認を取った、が、彼女もまた、聞こえなかったようだ。
「兎角、私にしろ、豊にしろ、『選ばれた者』ではないの。
その点、貴方は『選ばれている』」
「……」
流石の霖之助(ぶっ飛び思考)でも、何がなんやらだ。
しかし、彼女が真剣であることは心に通じた。
輝夜は立ち上がり、ふざけたコスプレ髪飾りを外す。
神々しさ。
今の輝夜には、それがあった。
思わず片膝をつき、首を下げる霖之助。ポカンと口を開いたままの妹紅。
「……妾の言葉、天からの『託宣』だと思え。
リンよ。
今、この大蛇は大蛇(ヤマタノオロチ)にして、大蛇(ミシャグジ)に非ず。
所詮、仮初めの赤口(ミシャグジ)なぞ、大和の八岐の手綱を握る事など在り得ぬ」
「……はい」
妹紅は思う。輝夜にして、輝代に非ず、って感じだなと。
例えるなら……嘗て、都を賑やかせた、『かぐや姫』みたいだ。
「そして……妹紅」
「お、おう!」
思わず裏返る声。
輝夜は何時もの風に、クスリと笑った。
「なに、心配致すな。
事が終われば、何時もの『輝夜』に戻ろうぞ」
「べ、別に心配なんかしてないわよ」
「ふふふ。まあ、よい。
兎角、ソチにも手を貸して貰いたい。ええかの?」
「……お前に手を貸すんじゃないからね」
「それでええ」
腕を組む妹紅。
さて、と真下の大蛇を見た。
「どうやら、徐々に進んではいるみたいだね」
「むぅ、三柱がどうにかしてくれてるんでしょ。
頭(上)は『化け物』同士、弾幕張ってるし……で如何するのよ?」
「……」
輝夜は考えていた。
本来は大蛇の口を開かせる為に萃香が居ればベストなのだが、如何せん同力の仲間が居ない。
建見名方なら可能かもしれないが、今、手を離せば大蛇の進撃を許してしまう。
鬼程の力……
『私を、忘れてないか』
「「「っ!?」」」
聞こえない声。ふと、辺りを見回す。
いた。
先程とは二回りは小さい『化け物』が。
「……九尾」
『なに、紫様が手を貸すようにと……好きなように使ってくれ』
「『藍』さん」
八雲の式がそこに居た。
これで、ようやく駒がそろった。
「……頼むぞ。御二方。
リン。ソチは妾と共に来い」
霖之助は頷く。
『大蛇止め』は終盤に差し掛かった。
* * *
三柱は諏訪子の動向を覗いつつ、大蛇の足止めをしていた。
タケルと神奈子は『蔦』と御柱、そして自らの怪力を。
大国主は彼のみに許された力……国津神の覇気(プレッシャー)で、大蛇の行く手を遮る。
空には色取り取りの光。所により……血飛沫。
「くっ! ―――『人間と妖怪の境界』―――」
「はん! 『皮肉』な弾幕撃つじゃないかい。 ―――蛙狩『蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』―――」
「ったく! アンタもじゃない……ああ、もう! ゴメン、藍! 面倒見てらんない!」
紫は何やら高速で唱え出した。
「……荒っぽいのは好きじゃないけど、仕方ないわね。チートと笑うなら笑いなさい……ッ!!」
傘を上空に放り、両の手首を合わせ、両掌を諏訪子に向けた。
「―――偽華『デュアル・スパークⅡ』――― 行っけええええ!!」
「んな! 風見の!!」
強大な妖力が諏訪子を襲った。
が……
「んぎぎっ……この土着神の頂点……嘗めて貰っては、困るッ!!」
「……じょ、冗談きついわよ」
「でやあああ!」
腕をクロスにし、それを再度開く。
禍々しい圧力(オーラ)が紫の妖力を弾いた。
「ハアハア……贋作屋か? お前は?」
「だから、言ったでしょう。チートって言っていいって……」
片や、幻想郷『内』最強の妖怪。片や、幻想郷内『現時点』でトップの祟り神。弾幕勝負じゃ決着は付かないようだ。
しかし、紫にも考えはある。
(時間稼ぎができれば良い。諏訪子をブッ飛ばすのは……あの子の仕事……ッ)
ヒラヒラ落ちてくる傘を再び握る。
「埒が開かないね……」
「ホントだわ……」
再度睨み合い。
暫時、諏訪子は二拝……そして『鉄の輪』を具現化させた。近接を仕掛ける気だろうか。
紫は無論、自身が神とステゴロを始めたら負けると分かっている。しかし、引けはしない。
スキマから長刀(楼観剣似)を引き抜き、構えた。
「なんだい。獲物も使えるのかい?」
「……まあ、使いたくないけど。
アイツから貰った、この長刀に……斬れないモノなど、あんまりない……ってね」
「は?」
またしても大っ嫌いなクソガキ(妖忌)のグッドスマイルを妄見していまった。
「魂魄流三級八雲紫。押して参らん」
「けっ……段じゃないんかい」
火花が散った。
それを傍目で見ていた三柱。
今、諏訪子はスキマと肉弾幕り始めたが、今後如何出るか。
「くっそ! なんて莫迦力っ」
「止まりなさいってーの!!」
軍神とその力を持ってしても、その巨躯は退く所を知らないようだ。
「……タケル、神奈子」
ふと、大国主が呟く。
「……茶番のようだ」
「「え?」」
サングラスを上げ、『ソレ』に気付いた国津の頭領は苦笑した。
次の瞬間。
―――オオオオオオオオオォン……
「な?!」
「なんだ、と……」
今まで姿を消していた九尾の巨体が再び大蛇の眼前に現れた。
そして……ブチかます!
「おい! アレは……蓬莱山の姫様」
タケルが指差す九尾の背には、三名の人影。
「今じゃ!」
「オッシャアアアッ!!」
輝夜の掛け声と共に、妹紅が符を掲げた。
「全ッ力でいくわよ! 凱・風・快・晴ィ!!
―――蓬莱『フジヤマヴォルケイノ』―――」
大蛇の目の前が言葉通り『爆ぜた』。
当然、熱に弱い大蛇は奇声を上げ反り返る。
そして、その隙を見逃さない。
鋭利な槍と化した九尾の尻尾が、赤口へ捻じり込んだ。
『今だ!』
「行くぞや!」
「はい!」
霖之助と輝夜は口内へ飛び込んでいった。
* * *
―――大蛇体内。
外を藍と妹紅、三柱に任せ霖之助と輝夜は進んだ。
「限界(リミット)は10分……いや、5分……」
「急ごう」
目標は芯の臓腑。
最短ルートを輝夜が切り開き、霖之助がそれを追った。
「くっ……ミシャグジが」
体内には、やはりというべきか、ミシャグジ共が巣食っていた。
日本きっての災厄の八岐大蛇と言えど、ココまで侵されてしいまえば型無しだろう。
「私の後から離れないで」
「はい……やっと口調が戻ったね」
「五月蠅い。それどころじゃないわ……―――神宝『ブディストダイアモンド』―――」
レーザーがミシャグジ達を薙いでいく。
ただ……限が無い。
漸次、一匹のミシャグジが輝夜の頭上から―――
ザザザッ……
―――襲いかかる前に、打ちのめされた。
「サンキュ」
「……」
「優男かと思ってたけど、後ろくらいわ任せていいみたいね。
それ、巫女の退魔針じゃないの?」
「作ってるのは僕だ。持ってても可笑しくないだろう」
もっとも、扱いには慣れてないけど。
苦笑。
「香霖堂」
「ん? うわっ!」
何か厚いモノが霖之助を覆った。
布、か?
「火鼠の皮衣よ……『貸す』だけだから」
「了解だ」
姫に守られる騎士。いや、道具屋か……トンだ笑い者だな。
その後、輝夜は前方に弾幕を張り、霖之助が手前の道具で背中を守り、進み続けた。
ボロボロになりながらも……進み続けた。
輝夜の符は無くなり、霖之助も針やナイフ、茸爆弾といった道具も底をつきた。
そして―――
「ハアハア……此処ね」
―――ドクン、ドクンと蠢く心臓を……二つ、見つけた。
「どういうこと?」
「多分、片方が八岐の。もう一方がミシャグジのだろう」
「……予想外ね。どっちに刺せばいいのかしら」
本来、八岐大蛇に『還す(返す)』意味も兼ねて、其方に刺せばいいのだが。こればかりはイレギュラーだ。
せめて賢者がいれば、如何にかなるのだが……
「永琳には連絡取れないのかい?」
「今電波ジャックで忙しいから、無理ね……
仕方ない。香霖堂……」
「なんだい? ……って」
いきなり、輝夜が……一糸纏わぬ姿となった。
「何やってるんだ!」
「あら? 歳がいにも無く助平ね……今から起る事は内緒よ……誰にも言ってはいけない」
「何、を」
束の間、輝夜がクネリ出した。
いや違う……踊っている。舞い踊っている。まるで、何かに『憑かれた』ように。
「輝夜……いや、かぐや姫。貴女は『巫女』なのか?」
「香霖堂……今から、私の真名を告げます……内緒よ?」
「は?」
そして、光が満ちた。
* * *
―――外。
「んぎぎぎ! バ輝夜……早く、しなさいよ!」
『藤原の。無理をするな……私一人でも口は開いておける』
「っるさいわね! 指図される筋合いはないわよ!」
『……やれやれ』
『藍』は苦笑した。
紫様が良く言う、『つんでれ』とか言う奴なのだろうな。此奴は。
それよりも……
『紫様は大丈夫だろうか』
「んにに! 大丈、夫に……決まってるでしょ! アンタの主、信じなさいよ!」
『それも、そうだな』
その紫はというと……受けに徹していた。鉄の輪と長刀の会合音が鳴り響く。
なんせ紫の得意な『気配遮断』が、文字通り『神威』の前では無意味なのだ。攻めに移れない。
「ゆかりん、総受け……ってね」
「まだ、そんな、減らず口が、叩けるか!!」
「くっ……」
しかし、多分、大丈夫だろう。
「そろそろ……かしら」
「何を……ッ?!!」
―――キシャアアアァッ……
瞬間、ミシャグジが、大声を上げた。今にも鼓膜が破れそうな、超音波。
妹紅なんか鼓膜だけ二回、リザレクションしてしまった。
一同は手を止め、大蛇から離れた。諏訪子はそこで変化に気付く。
ミシャグジ達とパスが繋がらない。
「スキマ……何を、した?」
「ハアハア。別に、英雄さんが……クエスト成功してくれた、だけよ」
「はぁ?!」
そして、目を疑った。
大蛇(ミシャグジ)が、赤口白蛇が、脱皮していくのを。
「お、親父殿。これは……」
「ふむ……神奈子。先の青年、何という名だ?」
「え、も、森近です。森近、霖之助」
「ほう」
大国主は内心、笑った。成程、義父上(須佐乃皇)の再来か。
タケルは気付いていないようだが、あの『剣』……今は遥か及ばないが、おもしろい。何れ、彼も……
「タケル、神奈子……先に言っておく。私を月に差し出しなさい」
「「なっ!!?」」
「無論、私に罪は無いと自負しているが……何、私も考えがある。それにお前の地位も上がろう」
「し、しかし。そのような真似!」
タケルは首を振った。何故、如何して、いきなり?!
「親売りか? 違うな。私を思うなら、月夜見王に合わせるくらいの事をしてもらわなくてはな」
「「は?!」」
微笑する大国主。もう理解できない。
「まあいい。今は眼前の問題からだ……見ろ」
大蛇を見遣る。なんと……
「また、八岐大蛇に?!」
「どうやら、『還った(返った)』ようだ」
「『還った』?」
タケルと神奈子が首を傾ける。
大国主はサングラスを持ち上げ、問いに答えた。
「天叢雲剣(草薙)は、元々、八岐大蛇から『孵った』剣。剣が元の鞘に納まっただけの事だ」
「は?! 天叢雲?! 如何いう事だ!! それに……しかし、それでは根本的に!」
「おっと、言い過ぎたか……タケル。お前は少し落ち着きなさい。まだ終わって無い」
大国主は大蛇を指差した。
何かこう、揺れ動いている。天からは、雨水が降りてきた。
「消えていくだろう」
「大蛇が、霧消していく……そして雨?」
「ミシャグジから『返り』、剣は八岐大蛇に『還り』、そして……」
「大蛇自身は元の出雲に『帰された』というわけですか」
神奈子が呟いた。
次いで、妹紅、霖之助、そして火鼠の皮一枚しか羽織っていない輝夜が『藍』に乗せられ飛んできた。
因みに霖之助は『剣』を輝夜の衣の中に隠して貰った。
紫や輝夜が言うには、『剣』の存在を神々に隠す為だと言う。色々問題があるらしい。
既に、目の前の三柱にはばれているだろうが。
「終わったわ。あーもう、早く風呂入りたい」
「同感だわ。しかし、『言葉遊び』とは、下んない真似ね。スッパテルヨー」
「誰がスッパテルヨーよ!」
阿呆二名が騒いでいた。
しかし、それお構い無しで大国主は説明を始めた。
「藤原君と言ったか」
「誰アンタ?」
「……まあいい。『言葉遊び』では無く、『言霊(ことだま)』だよ。蓬莱山の姫君が使ったのは」
「ふーん。どうでもいい」
……馬の耳に念仏、いや、神言というわけか。一同は苦笑した。
さて、残るはアイツだけ。
「……やってくれたよ」
諏訪子が唇を噛む。痛々しいほどに血が出ていた。
紫は隙を見て、『藍』の背中へとスキマで逃げた。
「あ゛あ゛、疲れた」
『ほら、最後ですからシャキッとして下さい』
「はいはい……さて、諏訪子。貴女の負けよ?」
諏訪子は自身の帽子をギュッと握りしめた。その特徴的な目の部分が潰れるほどに。
ここで、終わりか……
(『……簡単な事さ。分からずやを、殴ってやればいいのよ』)
……まだだ。
「神奈子オォ!! まだだ! まだ終わってなァいッ!!」
「ッ!!?」
特攻。文字通り、神風の如く。血が出るほどに鉄の輪を握りしめ、神奈子目掛けて一つの弾と化した。
その突然の出来事に、誰もが固まってしまった。動けなかった。
勿論、神奈子も。
「このっ……大莫迦女郎おおおぉ!!」
―――残り1m……50cm……5cm……
「そこまでよ」
神奈子の胸の鏡にぶち当たる寸前、諏訪子の手首は掴まれた。
一同は手の主を見る。
「は、博麗、だと?!」
「れ、霊夢……」
「YES,I’m!! ったく、待たせ過ぎよ」
突然の来訪者(実はずっと視界にはいたのだが、なにやら坐していたので)に諏訪子は驚く。
今まで、何をしていたというのだ。
「言ったでしょ。この私が、アンタを、ブッ飛ばすってね!」
「くっ! 何を今更」
諏訪子、霊夢の手を振りほどき上昇。そして、そこで気付く。
(私に、『触った』だと?!)
一方紫はダルそうに、霊夢に問うた。
「……準備は良いのね」
「其処の兎詐欺が手伝ってくれたからね。ホントに利くの?」
やれやれと霊夢の後から飛んできたてゐが、溜息交じりに告げた。
「20ツ葉のクローバー並の幸運を分けたよ。逆に成功しなかったら、アンタの不運を褒めてやるしかないね」
「てゐ君。よくわからないが、御苦労」
「はい! 大国主様!!」
変貌とは言ったモノ。
さておき、霊夢はパシッと拳を叩き、諏訪子を睨んだ。
「覚悟は、いいわね」
「な、な……嘗めるなァ! 人間ッ!!」
「ふん。貯めに溜めこんだ霊力よ……初っ端からクライマックス!!
―――『夢想天生』―――」
そして、『博麗』は『宙』に浮いた。
始めにそちらをご覧になってから読まれる事を推奨します。
前回の復習のあらすじ……ゆかりん、ケロ。チルノ最強説を唱える。ヘタレ霖之助。
* * *
一方、霖之助らはというと……
「え?」
「だから、『剣』を『呑』ませなさい」
霖之助は輝夜に剣の使用法を尋ねた。
しかし、帰ってきた答えは予想を大いに上回っていた。
月の姫はどっしりと、その場で半座を組み霖之助に告げた。
「あのね、それ(天叢雲剣)は元々、コイツ(八岐大蛇)から出てきた物なの。
然るべきモノを然るべき場所に『返す』……当然でしょ?」
いとも当り前かの様に言う。
「しかし……」
「香霖堂。真逆、アンタ……『剣』が惜しい、とか言うんじゃないわよね」
輝夜が上目で睨みつける。霖之助は首を振った。
確かに、『剣』が自分の手に入った時は喜びはしたものの、実際は己の部を弁えている節もある。
正直、この身は、天下取りの器では無いだろう……客観的に見れば。
まあ、諦めるつもりも無いけど。
「ふん。まあ、信じてあげる。
少し、昔話をしてあげるけど……その『剣』。太古の神々は『触れる』ことさえできなかった」
「へぇ。じゃあ、霖坊はソレ(神)以上ってか?」
妹紅が傍から笑う。
輝夜は挑発お構い無しに話を続けた。
「永琳なら、使えるだろうけど……『使える』だけ。須佐オジ様も、実際、『使える』だけだった。
『真意』は発揮できず仕舞い。
イザナギ御爺様やイザナミ御婆様じゃ、まず『剣』が拒絶するし」
俯く輝夜……何か、引っかかる。
霖之助と妹紅は顔を見合わせた。
「月夜見オジが『使おう』とした時なんか……暴走した」
「オイオイ、輝夜。ちょっと待て」
「いいから最後まで聞きなさい」
何時に無く、真剣な眼の月姫。
「月にいた頃の私と、豊が精々30%扱えた程ね……
ただ、歴代で『剣』を真に『仕えた』者は、ただ一柱……『 』様だけ」
「なんだって? 聞こえない」
何か、重要な事が聞こえなかった。
霖之助は妹紅にも確認を取った、が、彼女もまた、聞こえなかったようだ。
「兎角、私にしろ、豊にしろ、『選ばれた者』ではないの。
その点、貴方は『選ばれている』」
「……」
流石の霖之助(ぶっ飛び思考)でも、何がなんやらだ。
しかし、彼女が真剣であることは心に通じた。
輝夜は立ち上がり、ふざけたコスプレ髪飾りを外す。
神々しさ。
今の輝夜には、それがあった。
思わず片膝をつき、首を下げる霖之助。ポカンと口を開いたままの妹紅。
「……妾の言葉、天からの『託宣』だと思え。
リンよ。
今、この大蛇は大蛇(ヤマタノオロチ)にして、大蛇(ミシャグジ)に非ず。
所詮、仮初めの赤口(ミシャグジ)なぞ、大和の八岐の手綱を握る事など在り得ぬ」
「……はい」
妹紅は思う。輝夜にして、輝代に非ず、って感じだなと。
例えるなら……嘗て、都を賑やかせた、『かぐや姫』みたいだ。
「そして……妹紅」
「お、おう!」
思わず裏返る声。
輝夜は何時もの風に、クスリと笑った。
「なに、心配致すな。
事が終われば、何時もの『輝夜』に戻ろうぞ」
「べ、別に心配なんかしてないわよ」
「ふふふ。まあ、よい。
兎角、ソチにも手を貸して貰いたい。ええかの?」
「……お前に手を貸すんじゃないからね」
「それでええ」
腕を組む妹紅。
さて、と真下の大蛇を見た。
「どうやら、徐々に進んではいるみたいだね」
「むぅ、三柱がどうにかしてくれてるんでしょ。
頭(上)は『化け物』同士、弾幕張ってるし……で如何するのよ?」
「……」
輝夜は考えていた。
本来は大蛇の口を開かせる為に萃香が居ればベストなのだが、如何せん同力の仲間が居ない。
建見名方なら可能かもしれないが、今、手を離せば大蛇の進撃を許してしまう。
鬼程の力……
『私を、忘れてないか』
「「「っ!?」」」
聞こえない声。ふと、辺りを見回す。
いた。
先程とは二回りは小さい『化け物』が。
「……九尾」
『なに、紫様が手を貸すようにと……好きなように使ってくれ』
「『藍』さん」
八雲の式がそこに居た。
これで、ようやく駒がそろった。
「……頼むぞ。御二方。
リン。ソチは妾と共に来い」
霖之助は頷く。
『大蛇止め』は終盤に差し掛かった。
* * *
三柱は諏訪子の動向を覗いつつ、大蛇の足止めをしていた。
タケルと神奈子は『蔦』と御柱、そして自らの怪力を。
大国主は彼のみに許された力……国津神の覇気(プレッシャー)で、大蛇の行く手を遮る。
空には色取り取りの光。所により……血飛沫。
「くっ! ―――『人間と妖怪の境界』―――」
「はん! 『皮肉』な弾幕撃つじゃないかい。 ―――蛙狩『蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』―――」
「ったく! アンタもじゃない……ああ、もう! ゴメン、藍! 面倒見てらんない!」
紫は何やら高速で唱え出した。
「……荒っぽいのは好きじゃないけど、仕方ないわね。チートと笑うなら笑いなさい……ッ!!」
傘を上空に放り、両の手首を合わせ、両掌を諏訪子に向けた。
「―――偽華『デュアル・スパークⅡ』――― 行っけええええ!!」
「んな! 風見の!!」
強大な妖力が諏訪子を襲った。
が……
「んぎぎっ……この土着神の頂点……嘗めて貰っては、困るッ!!」
「……じょ、冗談きついわよ」
「でやあああ!」
腕をクロスにし、それを再度開く。
禍々しい圧力(オーラ)が紫の妖力を弾いた。
「ハアハア……贋作屋か? お前は?」
「だから、言ったでしょう。チートって言っていいって……」
片や、幻想郷『内』最強の妖怪。片や、幻想郷内『現時点』でトップの祟り神。弾幕勝負じゃ決着は付かないようだ。
しかし、紫にも考えはある。
(時間稼ぎができれば良い。諏訪子をブッ飛ばすのは……あの子の仕事……ッ)
ヒラヒラ落ちてくる傘を再び握る。
「埒が開かないね……」
「ホントだわ……」
再度睨み合い。
暫時、諏訪子は二拝……そして『鉄の輪』を具現化させた。近接を仕掛ける気だろうか。
紫は無論、自身が神とステゴロを始めたら負けると分かっている。しかし、引けはしない。
スキマから長刀(楼観剣似)を引き抜き、構えた。
「なんだい。獲物も使えるのかい?」
「……まあ、使いたくないけど。
アイツから貰った、この長刀に……斬れないモノなど、あんまりない……ってね」
「は?」
またしても大っ嫌いなクソガキ(妖忌)のグッドスマイルを妄見していまった。
「魂魄流三級八雲紫。押して参らん」
「けっ……段じゃないんかい」
火花が散った。
それを傍目で見ていた三柱。
今、諏訪子はスキマと肉弾幕り始めたが、今後如何出るか。
「くっそ! なんて莫迦力っ」
「止まりなさいってーの!!」
軍神とその力を持ってしても、その巨躯は退く所を知らないようだ。
「……タケル、神奈子」
ふと、大国主が呟く。
「……茶番のようだ」
「「え?」」
サングラスを上げ、『ソレ』に気付いた国津の頭領は苦笑した。
次の瞬間。
―――オオオオオオオオオォン……
「な?!」
「なんだ、と……」
今まで姿を消していた九尾の巨体が再び大蛇の眼前に現れた。
そして……ブチかます!
「おい! アレは……蓬莱山の姫様」
タケルが指差す九尾の背には、三名の人影。
「今じゃ!」
「オッシャアアアッ!!」
輝夜の掛け声と共に、妹紅が符を掲げた。
「全ッ力でいくわよ! 凱・風・快・晴ィ!!
―――蓬莱『フジヤマヴォルケイノ』―――」
大蛇の目の前が言葉通り『爆ぜた』。
当然、熱に弱い大蛇は奇声を上げ反り返る。
そして、その隙を見逃さない。
鋭利な槍と化した九尾の尻尾が、赤口へ捻じり込んだ。
『今だ!』
「行くぞや!」
「はい!」
霖之助と輝夜は口内へ飛び込んでいった。
* * *
―――大蛇体内。
外を藍と妹紅、三柱に任せ霖之助と輝夜は進んだ。
「限界(リミット)は10分……いや、5分……」
「急ごう」
目標は芯の臓腑。
最短ルートを輝夜が切り開き、霖之助がそれを追った。
「くっ……ミシャグジが」
体内には、やはりというべきか、ミシャグジ共が巣食っていた。
日本きっての災厄の八岐大蛇と言えど、ココまで侵されてしいまえば型無しだろう。
「私の後から離れないで」
「はい……やっと口調が戻ったね」
「五月蠅い。それどころじゃないわ……―――神宝『ブディストダイアモンド』―――」
レーザーがミシャグジ達を薙いでいく。
ただ……限が無い。
漸次、一匹のミシャグジが輝夜の頭上から―――
ザザザッ……
―――襲いかかる前に、打ちのめされた。
「サンキュ」
「……」
「優男かと思ってたけど、後ろくらいわ任せていいみたいね。
それ、巫女の退魔針じゃないの?」
「作ってるのは僕だ。持ってても可笑しくないだろう」
もっとも、扱いには慣れてないけど。
苦笑。
「香霖堂」
「ん? うわっ!」
何か厚いモノが霖之助を覆った。
布、か?
「火鼠の皮衣よ……『貸す』だけだから」
「了解だ」
姫に守られる騎士。いや、道具屋か……トンだ笑い者だな。
その後、輝夜は前方に弾幕を張り、霖之助が手前の道具で背中を守り、進み続けた。
ボロボロになりながらも……進み続けた。
輝夜の符は無くなり、霖之助も針やナイフ、茸爆弾といった道具も底をつきた。
そして―――
「ハアハア……此処ね」
―――ドクン、ドクンと蠢く心臓を……二つ、見つけた。
「どういうこと?」
「多分、片方が八岐の。もう一方がミシャグジのだろう」
「……予想外ね。どっちに刺せばいいのかしら」
本来、八岐大蛇に『還す(返す)』意味も兼ねて、其方に刺せばいいのだが。こればかりはイレギュラーだ。
せめて賢者がいれば、如何にかなるのだが……
「永琳には連絡取れないのかい?」
「今電波ジャックで忙しいから、無理ね……
仕方ない。香霖堂……」
「なんだい? ……って」
いきなり、輝夜が……一糸纏わぬ姿となった。
「何やってるんだ!」
「あら? 歳がいにも無く助平ね……今から起る事は内緒よ……誰にも言ってはいけない」
「何、を」
束の間、輝夜がクネリ出した。
いや違う……踊っている。舞い踊っている。まるで、何かに『憑かれた』ように。
「輝夜……いや、かぐや姫。貴女は『巫女』なのか?」
「香霖堂……今から、私の真名を告げます……内緒よ?」
「は?」
そして、光が満ちた。
* * *
―――外。
「んぎぎぎ! バ輝夜……早く、しなさいよ!」
『藤原の。無理をするな……私一人でも口は開いておける』
「っるさいわね! 指図される筋合いはないわよ!」
『……やれやれ』
『藍』は苦笑した。
紫様が良く言う、『つんでれ』とか言う奴なのだろうな。此奴は。
それよりも……
『紫様は大丈夫だろうか』
「んにに! 大丈、夫に……決まってるでしょ! アンタの主、信じなさいよ!」
『それも、そうだな』
その紫はというと……受けに徹していた。鉄の輪と長刀の会合音が鳴り響く。
なんせ紫の得意な『気配遮断』が、文字通り『神威』の前では無意味なのだ。攻めに移れない。
「ゆかりん、総受け……ってね」
「まだ、そんな、減らず口が、叩けるか!!」
「くっ……」
しかし、多分、大丈夫だろう。
「そろそろ……かしら」
「何を……ッ?!!」
―――キシャアアアァッ……
瞬間、ミシャグジが、大声を上げた。今にも鼓膜が破れそうな、超音波。
妹紅なんか鼓膜だけ二回、リザレクションしてしまった。
一同は手を止め、大蛇から離れた。諏訪子はそこで変化に気付く。
ミシャグジ達とパスが繋がらない。
「スキマ……何を、した?」
「ハアハア。別に、英雄さんが……クエスト成功してくれた、だけよ」
「はぁ?!」
そして、目を疑った。
大蛇(ミシャグジ)が、赤口白蛇が、脱皮していくのを。
「お、親父殿。これは……」
「ふむ……神奈子。先の青年、何という名だ?」
「え、も、森近です。森近、霖之助」
「ほう」
大国主は内心、笑った。成程、義父上(須佐乃皇)の再来か。
タケルは気付いていないようだが、あの『剣』……今は遥か及ばないが、おもしろい。何れ、彼も……
「タケル、神奈子……先に言っておく。私を月に差し出しなさい」
「「なっ!!?」」
「無論、私に罪は無いと自負しているが……何、私も考えがある。それにお前の地位も上がろう」
「し、しかし。そのような真似!」
タケルは首を振った。何故、如何して、いきなり?!
「親売りか? 違うな。私を思うなら、月夜見王に合わせるくらいの事をしてもらわなくてはな」
「「は?!」」
微笑する大国主。もう理解できない。
「まあいい。今は眼前の問題からだ……見ろ」
大蛇を見遣る。なんと……
「また、八岐大蛇に?!」
「どうやら、『還った(返った)』ようだ」
「『還った』?」
タケルと神奈子が首を傾ける。
大国主はサングラスを持ち上げ、問いに答えた。
「天叢雲剣(草薙)は、元々、八岐大蛇から『孵った』剣。剣が元の鞘に納まっただけの事だ」
「は?! 天叢雲?! 如何いう事だ!! それに……しかし、それでは根本的に!」
「おっと、言い過ぎたか……タケル。お前は少し落ち着きなさい。まだ終わって無い」
大国主は大蛇を指差した。
何かこう、揺れ動いている。天からは、雨水が降りてきた。
「消えていくだろう」
「大蛇が、霧消していく……そして雨?」
「ミシャグジから『返り』、剣は八岐大蛇に『還り』、そして……」
「大蛇自身は元の出雲に『帰された』というわけですか」
神奈子が呟いた。
次いで、妹紅、霖之助、そして火鼠の皮一枚しか羽織っていない輝夜が『藍』に乗せられ飛んできた。
因みに霖之助は『剣』を輝夜の衣の中に隠して貰った。
紫や輝夜が言うには、『剣』の存在を神々に隠す為だと言う。色々問題があるらしい。
既に、目の前の三柱にはばれているだろうが。
「終わったわ。あーもう、早く風呂入りたい」
「同感だわ。しかし、『言葉遊び』とは、下んない真似ね。スッパテルヨー」
「誰がスッパテルヨーよ!」
阿呆二名が騒いでいた。
しかし、それお構い無しで大国主は説明を始めた。
「藤原君と言ったか」
「誰アンタ?」
「……まあいい。『言葉遊び』では無く、『言霊(ことだま)』だよ。蓬莱山の姫君が使ったのは」
「ふーん。どうでもいい」
……馬の耳に念仏、いや、神言というわけか。一同は苦笑した。
さて、残るはアイツだけ。
「……やってくれたよ」
諏訪子が唇を噛む。痛々しいほどに血が出ていた。
紫は隙を見て、『藍』の背中へとスキマで逃げた。
「あ゛あ゛、疲れた」
『ほら、最後ですからシャキッとして下さい』
「はいはい……さて、諏訪子。貴女の負けよ?」
諏訪子は自身の帽子をギュッと握りしめた。その特徴的な目の部分が潰れるほどに。
ここで、終わりか……
(『……簡単な事さ。分からずやを、殴ってやればいいのよ』)
……まだだ。
「神奈子オォ!! まだだ! まだ終わってなァいッ!!」
「ッ!!?」
特攻。文字通り、神風の如く。血が出るほどに鉄の輪を握りしめ、神奈子目掛けて一つの弾と化した。
その突然の出来事に、誰もが固まってしまった。動けなかった。
勿論、神奈子も。
「このっ……大莫迦女郎おおおぉ!!」
―――残り1m……50cm……5cm……
「そこまでよ」
神奈子の胸の鏡にぶち当たる寸前、諏訪子の手首は掴まれた。
一同は手の主を見る。
「は、博麗、だと?!」
「れ、霊夢……」
「YES,I’m!! ったく、待たせ過ぎよ」
突然の来訪者(実はずっと視界にはいたのだが、なにやら坐していたので)に諏訪子は驚く。
今まで、何をしていたというのだ。
「言ったでしょ。この私が、アンタを、ブッ飛ばすってね!」
「くっ! 何を今更」
諏訪子、霊夢の手を振りほどき上昇。そして、そこで気付く。
(私に、『触った』だと?!)
一方紫はダルそうに、霊夢に問うた。
「……準備は良いのね」
「其処の兎詐欺が手伝ってくれたからね。ホントに利くの?」
やれやれと霊夢の後から飛んできたてゐが、溜息交じりに告げた。
「20ツ葉のクローバー並の幸運を分けたよ。逆に成功しなかったら、アンタの不運を褒めてやるしかないね」
「てゐ君。よくわからないが、御苦労」
「はい! 大国主様!!」
変貌とは言ったモノ。
さておき、霊夢はパシッと拳を叩き、諏訪子を睨んだ。
「覚悟は、いいわね」
「な、な……嘗めるなァ! 人間ッ!!」
「ふん。貯めに溜めこんだ霊力よ……初っ端からクライマックス!!
―――『夢想天生』―――」
そして、『博麗』は『宙』に浮いた。
カリスマ輝夜がまた見れたから満足。そして香霖が妬ましい。記憶よこせー
次回、待ってます!
もちろんこのシリーズの結末も大いに楽しみだ。
氏の作風は好きなのですがね…
今回の輝夜はカリスマがありましたねー。でもスッパテルヨーでちょっと台無しw
最強のダチに背中を押してもらった神様に博麗の巫女が立ちふさがる!
・・・書いてみたものの、なんか違うw
そんなことはさておき結末が楽しみです。
1日でマンキョウさんの作品を一気に読んでるんですが物凄く話の持っていき方が旨くなってる気がします(素人意見ですが……
明日をたのしみにしてまーす
・4、5番様> 輝夜の設定は、ホント、トンデモです。批判大きそう……でもやる!
……裸? 脳内妄想余裕でしry(ピチューン。
・6番様> 実を言うと『大国主』編が終わるだけで、『かみさまっ!!』シリーズは続くかも。
輝夜の設定は決まりましたが、永琳を……どうしようかと……まあ、二人とも神様ってことで、今は。
・7番様> 申し訳無い。確かに、勢いですね……文才が欲しいです。
・8番様> 大体あってます! 次回は鬼チート天才巫女無双ですww
・9番様> 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。いいのか(ry
私の作品を一気読みとはwww時間かかるでしょうにwww