―――……一年目、人里。
大した用事があるわけでもないのだが暇だった。
とりあえず人里にでも足を運べば誰かしら、自分と同じ暇人がいるかもしれない。そう思いぶらついていた。
自分で言うのもなんだが、正直自身の容姿恰好は目立つ部類だろう。
加え、知り合いもそれなりにいる為、暇つぶしには其れなりに宛てがある。
暫時、ぶらぶら歩いてみると、やはり声をかけられる。
気の良い旦那、夫人方は甘味なんかくれたりする。まったく、そんな歳でも無いっていうのに。
私は幻想郷、特にこの里が好きだ。
昔……はるか昔の自分の国に雰囲気が似ている。
管理者(スキマ)は胡散臭いが、こういった『在るべき』郷を置いてくれている点は、好感を持てた。
共に幻想入りした連れ(アイツ)や子孫(あの子)にも、好くしてくれている。
初めは部を弁えない新参として叩かれるかと思ったが、思いの外、そうでも無かった。
勿論、反発が無いはずが無い。
初めは、社を妖怪の山に置くという事もあって、天魔や天狗主義の幹部達とはウマが合わなかった。衝突だってあった。
表立ってはいないのだが……プロパガンダは恐ろしいものだ。
まあ、結果として馴染めた。所として博麗や霧雨のおかげが大きい。
『あの子』はやはり、幻想郷(こっち)の方が合っていた。なに、現代社会不適合者って言っているわけじゃない。
どうしても、『浮く』。
外に友達がいなかったわけではない。親と上手くいっていなかったわけではない。
ただ、力が、有り過ぎた。
セーブするには強過ぎて、解放するには危険過ぎる。
何れ、廃人になってしまっていたかもしれない。若しくは、その力を見出せないまま、普通の女として一生を終えていたやも。
……そっちの方が、良かったかもね。
兎角、今、私達は幸せだった。
神は消えず、少女は適所に巡り合えたのだから。
「全てを受け入れる。でも、それは……残酷な事、ねえ」
蜜柑味の飴玉を口の中で転がし、呟いてみた。
今日は、何をして遊ぼうか。
* * * * * * *
―――……二年目、『山』の議事堂。
連れ(アイツ)が、莫迦な事を言い出した。技術革新をすると言う。
何を考えているのだろう。私達が何の為に幻想郷に来たのか忘れたとでもいうのだろうか。
そう思いつつも、反論できなかった私がいる。
如何せん、微温湯に浸かり過ぎたんだ。
神が科学の恩恵を求める。なんて、莫迦な話。
思えば、この頃からネジの本数が合わなくなってきていた。
『山』の重役会議で討論会があった。議題は、この技術革新について。
残念ながら、私自身連れに反論できる立場では無いので、他者の反論を願った。
私の事を、連れのイエスマンかガキ程度にしか見ていない連中らだが、しかし、それでもそこに『義』があると信じて議事に臨んだ。
散々だ。
反論したのは、天魔と鴉天狗の女、数名の年寄り河童だけ。
天魔が言った。過ちを繰り返す気か、と。
鴉天狗が言った。また誰かに責任を押し付けて、あまつさえ反乱軍を増やす様な事をする気か、と。
幻想郷の歴史は知らないが、きっと昔、同じような事をしようとして災厄があったのだろう。
しかし、天魔といえど、民主的な『数の暴力』には抗えない。
連れにへコヘコしている愚かな老人天狗共が皆、神様の言う事だ、仕方ないだろう、と嘲笑った。
素晴らしい事じゃないか、科学は、と汚い笑みを浮かべて連れの意見に賛同した。
そして、連れの意見が通った。通ってしまった……
何処から引っ張ってきたのか天照の三本脚鴉を、地底旧地獄の頭の悪そうな鴉に埋め込み、外で今や主要として名高い原子力……『核EN』として利用しようとしたのだ。
私は聞かされていなかったのだが、その鴉にもまた、家族がいたらしい。
連れはその事を知っていたのだろうか……もし知っていてその事をやったというのなら、私は、連れを……
まあ、それは最早過去の事。目を瞑ろう。
ただこの『核EN計画』を実行してしまった事により、あの子が可哀相になった。
あの子が信仰を集める為に人里へ降りて、謳うのは定番と化していた頃だった。
正直、神である私が言ってはいけないと思うのだが、宗教ってのは『人間』側からしてみれば、『一線』がある。
勿論、そこに踏み込んでくれた人間に対しては、『神』側は其れなりの恩恵を施すつもり。
あの子が人里で謳う事については、皆既に見慣れていた。
私達を信仰せずとも、早苗ちゃん熱心だね。今日も頑張ってね。お姉ちゃん外のお話聞かせて。と民人が親しみを持ってくれるようになっていた。
それだけで、私達(少なくとも私)は満足だった。
しかし、俗に言う『間欠泉異変』から人々の目が変わった。
例の如くあの子が里に信仰集めに行った時だった。何時もの様に、神様云々とは別に子供達に外の話を聞かせていた時、一人の親が我が子の手を引き連れ帰った。
始めは、何かの用事かと思ったのだが……次第にそういった親が増えていった。
あの子は賢くて優しい子だから、私達に不平不満は言わない。
それでも、言って欲しかった。
「莫迦な事は止めて下さい……ってね」
あの子は、従順過ぎた。
* * * * * * *
―――……三年目、霧の湖付近。
みょんな事から『最強会』とかいうお遊戯会に所属する事になってしまった。
お遊戯会というとリーダーは怒るのだが、まあそんな事はどうでもいい。
要は気が紛れれば何でも良かった。現実から、逃げたかった。
憂いが、現実となってしまっていたから……
異変が起こる度に、人々は口を揃えて言う。
「また、守矢さんですか……か」
「何よ諏訪子。そんな潰された蛙みたいな顔しちゃって」
「……五月蠅い」
氷精が隣に座る。
妖精の癖に……いや、もうこいつは妖精なんてレベルじゃなく……まあ、どうでもいい。
湖を眺める。対岸を眺める。『山』を眺める。
ああ、また『影』が見えた。また私達(主にアイツ)の暴走による産物だ。
隣から感嘆の声が聞こえるが、そんな良いモノでは無い。
ただのハリボテ。
「命が籠って無い木偶だねぇ」
「……宵闇」
スキマ並に胡散臭い宵闇妖怪が目の前に現れた。
「お前さん『ら』は、幻想郷(ここ)を変える気なの?」
「……さあね。『私』は知らない。『アイツ』に聞いて」
「ふーん……この前の聖輦船事件の『発端』も、アンタ『ら』らしいじゃないの。
気を付けなよ。その内、後ろからブッスリと」
「……」
それ以上は言うなと睨んでやる。
おお、怖い怖いと闇に紛れて消える宵闇。クククと癪に障る声だけが辺りに残った。
聖輦船事件。
間欠泉異変から誘発した二次災害……なんて天狗の奴が書きやがった。
私は正直、あの鴉天狗達(特に射命丸)なんかは好かない。
あの女鴉や天魔はどこか、守矢を良く思ってない節がある。
個人的には好かれているかもしれないが、社会的立場からというものだ。侵略者、とでも思っているのだろう。
「私らは……異端かねぇ」
「は?」
「いや。アンタに言っても仕方ないかな」
氷精が首を傾げた。私は苦笑するしかない。
こんなんで神様やってるんだからねぇ。
「アタイには難しい事は何も分からない」
「知ってるよ」
「でも、簡単な事なら分かる」
草の上に横になり、曇天の隙間から見える太陽に手を伸ばす氷精。
簡単な事、か。
「何悩んでんのよ」
「……別に」
「いんや、悩んでるね。簡単な事だ」
「アンタ……ホントに妖精?」
「閻魔(ヤマ)に否定されたけどね。『アタイ』は、何処まで行っても『アタイ(チルノ)』だよ。
まあ、そんな事はどうでもいい。どうしたの?」
「……」
氷精に従い横になる。草の上は少々湿っていた。
私は何故か、不平不満をちっぽけな妖精に話してしまった。
コイツが理解してるかどうかなんて知ったこっちゃない。兎角、何処かにぶちまけたかった。
神奈子の事。
早苗の事。
『山』が思っていた以上に腐っていた事。
そして……
「―――……神奈子、言ったんだ。早苗を、異変解決に行かせたのは……失敗だったって」
「……くだんない」
「ああ、まったくだよ」
早苗が人里にできた新参の御寺の住職を復活させた。
結果的に異変は解決されたのだが……宗教的な問題が残ってしまった。
折角、集まっていた守矢の信仰が、奴らに持って行かれていたのだ。
「確かに、私やアイツみたいな存在(神)にとっては死活問題。
でもね……私は消えたって良いんだ。あの子が、幸せならね」
「莫迦言う。アンタが消えたら、早苗だって悲しいに決まってるでしょ」
「ふふ、アンタも悲しんでくれるの?」
「……まあ、どうだろね」
照れながら、ソッポを向く氷精。以外と可愛い所がある。
兎角、最近アイツと『ウマ』が合わない。
元々そういったとこはあったのだが……『生まれながらに』して神であるアイツと、『人の身』から神になった私との違いだろう。
だが、私も『神』である以上、アイツの言っている事の方が、正しい。
なんて、矛盾。
「最近、何が正しいのか分からなくなってきてね。
ねえ、最強さん。どうかこの哀れな蛙めに道を指し示してくれはしませんか?」
妖精に教えを請う神。
なんて、無様。
「阿呆ね」
「はは、そうね」
乾いた声しか出なかった……―――
「喧嘩しろ」
「……え?」
―――……氷精は空に伸ばした掌を握った。
「言ったろ。難しい事は分かんないって。
だから、簡単な事さ。分からずやを、殴ってやればいいのよ」
「……」
コツンと、私の頭を叩く氷精。ニシシと笑ってやがる。
ああ、まったく、お前は本当に……
「……ばか、ね」
「な?!」
「ふふ、褒めてんのよ」
流石、問題児共のリーダー。
この何とも言えないカリスマ、どこぞのお嬢様や姫様も見習うべきだ。
よいしょと立ち上がる。私は氷精の方を見ず告げた。
「あんがと」
「おう」
「近い内、莫迦やると思うけど……大目に見てね」
「あいよ。気が済むまでやって来い。神様(友達)よ」
「ふふ、ええ、やってやるわ。氷精(友達)よ」
そして、私は期を待った。
* * * * * * *
私は神奈子(八坂刀売乙女)も早苗も愛している。
此の際だ、言ってしまえばタケル(建見名方)の奴だって、もう殺そうなんて思わない。
でも、許せない事がある。
それは私の性(サガ)によるものだ。
我ハ『土着神』。曲神也。郷(サト)ノ総意ヲ壱(モットモ)トスル者。
私達(守矢)のやっている事は、郷の意志に背いている。
故に、自身を、そして八坂刀売乙女を粛正する。エゴと言われても構わない。私は、使命を全うする。
「さあ、喧嘩(ゲゲル)だ。神奈子」
さて、一騒ぎ起こしましょう。
あたい達ったら最強ね!の謎が一つ解けました。個人的に続きを期待してみたり。
「よし、お前ら。喧嘩しろ」と。
おかしなことをやる奴には拳固で分からせる。
なんだか、チルノがゴルディアスの結びを一刀の元に断ち切ったアレキサンダーに見えてきた。
次のシリーズはちらほら名前が挙がってる総大将を是非!
相手に不満があるなら、思いっきりぶつけてこいってやつですよね、多分。
相変わらずのカリスマチルノと胡散臭いルーミアカッコヨスww
このチルノの、あの閻魔さまの邂逅が見てみたいなー。
「ふんどし」というワードが嫌いなのは同意です。
「部を弁える」は「分を弁える」だった気がしますが、合ってるのか自信がない。
・13番様> 最強会関連はおいおい、書いていきます。チルノ信者は『紙一重』で危ないんですけどね……
・16番様> 征服王チルノ。Cv大塚明夫ですよね。わかります。
・17番様> 今回は急ぐぜ! 早く次のシリーズに入りたいから(オイww
・18番様> 総大将……天魔? 反乱軍リーダー? ぬら御大将? どなたでしょうか?
・19番様> うっひょーい!
・20番様> 行ってくるぜ! 女郎共! ってセリフが合いそうですねwww
チルノが閻魔にもう一度会う時は、もう、妖精じゃ無くなってる気がします……
『部』を弁える……どっちかなぁ。変換すると『部』だけど、『分』な気もします。教えて偉い人。
・24番様> バカは、褒め言葉ぜよ!
私が気になるのは、今の所静観を保ってるぬらりひょん様です。
妖怪だと「堕ちる」って気もするし
何れにしろ御期待通り、このシリーズが終わり次第、二回くらいにわたって出演させます!
・39番様> 北欧とかだと妖精王とか精霊王いますからね。大妖精でも、シルフィード……とか。
ただ閻魔の解釈だと、『妖怪』になりかけてるようですが。神主も『雪ん娘』とか言ってますし。
さあ……どうなるやら。
そうとはどこにも書いてませんが
どちらにせよ面白かったが
その一つが、安易にチルノを馬鹿として扱うこと。
ですが… 世の中には「いい馬鹿」と「悪い馬鹿」がいるんだよぉ!w
あなたの描いたチルノはもちろん…!