世界の真理を見通せても、決して彼女の心の内は分からないのよ。
世界の綻びを見通せても、決して彼女の心の内は分からないのよ。
だから、出かけよう!
共に駆け出し、共に世界を見て、共に鼓動を感じよう!
この冥い街へ、貴女と一緒に――。
◇ ◇ ◇
私の名前は宇佐見蓮子。世界をメリーと2人で駆け回る真理の探求者。なんていうと聞こえは良いけどね。
いわゆる、不良サークルよ。メリー? ええと、確か本名はマエリベリー・ハーン、多分。何を隠そうこの私の大切な相方。オカルトサークル、秘封倶楽部は宇佐見蓮子とメリーで構成されているわ。2人だけの精鋭部隊ってやつね。貴重なモラトリアムを私たちは世界の秘密を暴くために使っているの。
活動時間は夜。それには理由があるわ。第一に、私たちが追い求めている結界は夜に活動が活性化するということ。追い求めるものが夜に顔を出すのなら合わせるしかないわよね。第二に、私の能力は澄んだ夜の空にこそ輝くということ。星と月が見えるところならば、この世界の何処に居たって位置と時間がわかるわ。加えてメリーの持つ結界を見る瞳。秘封倶楽部が秘封倶楽部である所以なの。
月が粛々と昇り始める宵闇。今日も私たち秘封倶楽部の活動は始まるのよ。
「寒いわね……」
北風に身を震わせてメリーがそう言ったわ。そりゃ、冬だもの。当たり前のことなんだけど、当たり前のことを口に出すとよりいっそう実感が湧くというもの。メリーのせいで体感気温が3℃は下がったわね。遮るもののない夜の山道。私たちは一枚の写真に偶然映りこんでいた光る竹を求めていつもの活動範囲から更に北上していた。秘封倶楽部の活動のメインはもちろん結界を暴くこと。だけどメリーったらいつもヘンテコな写真を見つけては私にみせびらかすのよ。まったく、私の瞳をなんだと思っているのか、一度問いつめる必要があるわね。
「電車で一時間ってゆったわよね、蓮子」
「うん。電車で一時間。そこから徒歩で一時間半」
「……確かに電車で一時間ね。やられたわ」
まだ自然の残っている山道。天然の竹林までの道のりは山深く、険しい。危険かなと思ったけど、存外、月明かりというものは明るくて助かっている。準備万端に登山靴を用意していた私とは違って、サークル活動をするときのスニーカーしか履いていないメリーにこの道のりは辛そうだった。
吐息は白く、メリーのみずみずしい唇の傍で湯気のようにゆらゆらとゆらめいたかと思うと、風に流されて消えたわ。
「21時22分。少し休憩する?」
「そう、して、もらえると、助かりますわ」
セリフが細切れよメリー。やっぱり疲れていたのね。
「山登りをするセレブ。ついに息切れね」
「セレブはそもそも山に登りませんわ」
大きな岩に腰を下ろすメリー。つべたっと小さく叫んでぺたりと座り込んだわ。
「写真見せたのは昨日なのに、今日行くとは思わなかったわよ」
「昨日は遅かったしね。一日延びたから下調べはバッチリよ」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
私、宇佐見蓮子の信条は即日行動。それが叶わなかったのは移動手段がなかったから。一日に三本しか電車が走ってないなんて、想像もつかない世界だったわ。ある意味、東京へ行くのよりも遠いわね。
「行くなら行くと言って欲しかったわよ。そうすれば準備してきたのに……」
「私がメリーの分も準備してるから大丈夫よ。はい、紅茶」
「めるしー」
メリーはふーふーと冷ましながら紅茶を美味しそうに飲んでいたわ。やっぱり絵になるのよね、この娘は。寒空の山道が一瞬だけセレブの空間へと早代わりするのも、メリーの持つ天性の才能なのかしら。
「蓮子、光る竹ってさ。本当にあると思う?」
「んー。どうかなメリー。物的証拠だけだと信憑性は薄いわよね」
「この写真だって古すぎるわよ。加工はしてないみたいだけど」
「撮影技術でいくらでもごまかせるもの、大して意味は無いよ。……問題は、昔々のこの場所で、確かに光る竹を見た人が居るということ」
「目撃者は何よりも強し、ね」
「そゆこと」
私のお爺様なんだから確かな話よね、なんてメリーが言っている。そう、目撃者はメリーのお爺ちゃんだった。まさに竹取の翁だ。或いは、メリーの目がお爺ちゃんからの遺伝だとしたら、もしかしたら結界の綻びがあるということ。記憶と記録を頼りにこの場所を探し当てたのだ。
「まぁ、光る竹が見つからなくてもさ、ほら、筍お土産にもって帰ろうよ」
「蓮子、残念ね。貴女いつか言ってたわよね。……天然の筍には旬があって、美味しい時期は土の下って」
「ああ、そだっけ?」
目的地も筍の旬ももう少し先だった。残念無念。
「さて、身体は温まったかしら、メリー?」
「ん」
差し出した手をメリーの冷たい手が握る。全く……温まってないならそう言いなさいよ。言葉にしないと伝わらないものってあるんだから。私はメリーの手を取ったままポケットに突っ込んだ。
「ほら、こうすれば少しは温かいでしょ? メリーの手は冷たすぎるわ。そのままバナナで釘が打てるんじゃない?」
「……もぅ」
ポケットの中でメリーの手をぎゅっと握る。密着したメリーの吐息が耳にかかる。
「蓮子……」
メリーが喋るたびに私の髪が頬を掠める。くすぐったいなぁ、もう。
「いこう、メリー! 私たちの求めているものは――」
「ん、ちゅ」
振り返った私の唇に、柔らかくあたたかい感触。
間違いなくマエリベリー・ハーンの唇だということを認識する。
思わずメリーの手を更にきゅっときつく握り締めた。
なんだか耳が熱いよメリー。
「ぷぁっ! ちょ、ちょっと何してるのよメリー!」
「えっ、へへー。私をドキドキさせたお返しよ蓮子。初めてじゃないでしょう?」
「そ、そ、そりゃあ、そうだけどさっ!」
21時41分の星空が私を見つめている。
星空にも負けない程キラキラしているメリーの瞳が私を見つめている。
「あたたかくなった?」
「熱いわよっ!」
メリーは静かに瞳を閉じると僅かに顎を上げた。
「お返しの、お返し。まだかな?」
「馬鹿! メリーの、馬鹿っ」
冬晴れの寒空、凍てつく北風が秘封倶楽部を包む中、小さなキスの音が風に紛れて消えた。
-終-
世界の綻びを見通せても、決して彼女の心の内は分からないのよ。
だから、出かけよう!
共に駆け出し、共に世界を見て、共に鼓動を感じよう!
この冥い街へ、貴女と一緒に――。
◇ ◇ ◇
私の名前は宇佐見蓮子。世界をメリーと2人で駆け回る真理の探求者。なんていうと聞こえは良いけどね。
いわゆる、不良サークルよ。メリー? ええと、確か本名はマエリベリー・ハーン、多分。何を隠そうこの私の大切な相方。オカルトサークル、秘封倶楽部は宇佐見蓮子とメリーで構成されているわ。2人だけの精鋭部隊ってやつね。貴重なモラトリアムを私たちは世界の秘密を暴くために使っているの。
活動時間は夜。それには理由があるわ。第一に、私たちが追い求めている結界は夜に活動が活性化するということ。追い求めるものが夜に顔を出すのなら合わせるしかないわよね。第二に、私の能力は澄んだ夜の空にこそ輝くということ。星と月が見えるところならば、この世界の何処に居たって位置と時間がわかるわ。加えてメリーの持つ結界を見る瞳。秘封倶楽部が秘封倶楽部である所以なの。
月が粛々と昇り始める宵闇。今日も私たち秘封倶楽部の活動は始まるのよ。
「寒いわね……」
北風に身を震わせてメリーがそう言ったわ。そりゃ、冬だもの。当たり前のことなんだけど、当たり前のことを口に出すとよりいっそう実感が湧くというもの。メリーのせいで体感気温が3℃は下がったわね。遮るもののない夜の山道。私たちは一枚の写真に偶然映りこんでいた光る竹を求めていつもの活動範囲から更に北上していた。秘封倶楽部の活動のメインはもちろん結界を暴くこと。だけどメリーったらいつもヘンテコな写真を見つけては私にみせびらかすのよ。まったく、私の瞳をなんだと思っているのか、一度問いつめる必要があるわね。
「電車で一時間ってゆったわよね、蓮子」
「うん。電車で一時間。そこから徒歩で一時間半」
「……確かに電車で一時間ね。やられたわ」
まだ自然の残っている山道。天然の竹林までの道のりは山深く、険しい。危険かなと思ったけど、存外、月明かりというものは明るくて助かっている。準備万端に登山靴を用意していた私とは違って、サークル活動をするときのスニーカーしか履いていないメリーにこの道のりは辛そうだった。
吐息は白く、メリーのみずみずしい唇の傍で湯気のようにゆらゆらとゆらめいたかと思うと、風に流されて消えたわ。
「21時22分。少し休憩する?」
「そう、して、もらえると、助かりますわ」
セリフが細切れよメリー。やっぱり疲れていたのね。
「山登りをするセレブ。ついに息切れね」
「セレブはそもそも山に登りませんわ」
大きな岩に腰を下ろすメリー。つべたっと小さく叫んでぺたりと座り込んだわ。
「写真見せたのは昨日なのに、今日行くとは思わなかったわよ」
「昨日は遅かったしね。一日延びたから下調べはバッチリよ」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
私、宇佐見蓮子の信条は即日行動。それが叶わなかったのは移動手段がなかったから。一日に三本しか電車が走ってないなんて、想像もつかない世界だったわ。ある意味、東京へ行くのよりも遠いわね。
「行くなら行くと言って欲しかったわよ。そうすれば準備してきたのに……」
「私がメリーの分も準備してるから大丈夫よ。はい、紅茶」
「めるしー」
メリーはふーふーと冷ましながら紅茶を美味しそうに飲んでいたわ。やっぱり絵になるのよね、この娘は。寒空の山道が一瞬だけセレブの空間へと早代わりするのも、メリーの持つ天性の才能なのかしら。
「蓮子、光る竹ってさ。本当にあると思う?」
「んー。どうかなメリー。物的証拠だけだと信憑性は薄いわよね」
「この写真だって古すぎるわよ。加工はしてないみたいだけど」
「撮影技術でいくらでもごまかせるもの、大して意味は無いよ。……問題は、昔々のこの場所で、確かに光る竹を見た人が居るということ」
「目撃者は何よりも強し、ね」
「そゆこと」
私のお爺様なんだから確かな話よね、なんてメリーが言っている。そう、目撃者はメリーのお爺ちゃんだった。まさに竹取の翁だ。或いは、メリーの目がお爺ちゃんからの遺伝だとしたら、もしかしたら結界の綻びがあるということ。記憶と記録を頼りにこの場所を探し当てたのだ。
「まぁ、光る竹が見つからなくてもさ、ほら、筍お土産にもって帰ろうよ」
「蓮子、残念ね。貴女いつか言ってたわよね。……天然の筍には旬があって、美味しい時期は土の下って」
「ああ、そだっけ?」
目的地も筍の旬ももう少し先だった。残念無念。
「さて、身体は温まったかしら、メリー?」
「ん」
差し出した手をメリーの冷たい手が握る。全く……温まってないならそう言いなさいよ。言葉にしないと伝わらないものってあるんだから。私はメリーの手を取ったままポケットに突っ込んだ。
「ほら、こうすれば少しは温かいでしょ? メリーの手は冷たすぎるわ。そのままバナナで釘が打てるんじゃない?」
「……もぅ」
ポケットの中でメリーの手をぎゅっと握る。密着したメリーの吐息が耳にかかる。
「蓮子……」
メリーが喋るたびに私の髪が頬を掠める。くすぐったいなぁ、もう。
「いこう、メリー! 私たちの求めているものは――」
「ん、ちゅ」
振り返った私の唇に、柔らかくあたたかい感触。
間違いなくマエリベリー・ハーンの唇だということを認識する。
思わずメリーの手を更にきゅっときつく握り締めた。
なんだか耳が熱いよメリー。
「ぷぁっ! ちょ、ちょっと何してるのよメリー!」
「えっ、へへー。私をドキドキさせたお返しよ蓮子。初めてじゃないでしょう?」
「そ、そ、そりゃあ、そうだけどさっ!」
21時41分の星空が私を見つめている。
星空にも負けない程キラキラしているメリーの瞳が私を見つめている。
「あたたかくなった?」
「熱いわよっ!」
メリーは静かに瞳を閉じると僅かに顎を上げた。
「お返しの、お返し。まだかな?」
「馬鹿! メリーの、馬鹿っ」
冬晴れの寒空、凍てつく北風が秘封倶楽部を包む中、小さなキスの音が風に紛れて消えた。
-終-
なんと風情な……
ゲシュタルト崩壊し始めてきたw
ちゅっちゅ!
ちゅっちゅ!
趣があって実に美しい冬のちゅっちゅでござる
ちゅっちゅ!!
ちゅっちゅ!
もう満ち満ちていました。
ちゅっちゅ!
なぜ皆、後書きの切なさについて語らんのだ。
破廉恥にも程が……あれメリーさんなんでこんなとこにうわちょ(ry
ちゅっちゅ!
ちゅっちゅ!ちゅっちゅ!
ちゅっちゅ!
いやぁ、甘い秘封って本当に素晴らしいですね。
ちゅっちゅ!
ちゅっちゅ!
ちゅっちゅ!ちゅっちゅ!ちゅっちゅ!!
コメw
ちゅっちゅ!
この表現ちゅちゅーね! もとい、チョーイイネ! ヒフウサイコー
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