(ギリギリギリギリギリギリ……)
八雲家に響く謎の音。
何を隠そうこの音は、大妖怪、八雲紫の発する歯軋りの音である。
その表情は憤怒の表情で満ちており、あえて形容するならば『般若』という言葉が一番似合う、幽香であろうとも裸足で逃げ出すかもしれない、そんな表情をしていた。
そう、八雲紫は怒り狂っていたのだ。
「ど、どうしたんですか紫様、そんな般若のような顔をして。」
慌てて駆け寄ってきたのはスキマ妖怪の式、八雲藍。
紫の奇行に付き合わされること○百年、もはや紫の行動パターンを分析できるほどになった藍であるが、それでも紫がこれほどの怒りを表すことなどほとんど見たことが無かった。
「どうしたもこうしたも無いわよ!見なさいこれを!」
と言って紫が差し出したのは水晶玉。紫はこの水晶玉を見ながら歯軋りをし、怒りに震えていたのである。藍は言われた通りにその水晶玉に写った光景を覗き見る。
「これは……霊夢?相手は……ま、まさかあのさとり妖怪!?」
そう、今霊夢は地霊殿攻略の真っ最中。紫はそれを遠隔でサポートしていた。
さとり妖怪との弾幕ごっこ、熾烈を極めているが、霊夢の方が若干優勢に思える。
「……確かに相手は心を読む危険な妖怪ですが、霊夢であればこのまま行けば勝利できると思いますが。」
「そんなことはどうでもいいのよ!これを見なさいこれを!!」
異変解決に向かう博麗の巫女を『どうでもいい』と切り捨て紫が指差したのは、現在進行形でさとりが出している弾幕であった。そして藍は、その弾幕に見覚えがあった。
「これは……紫様の弾幕とそっくりですね。」
「そっくりどころじゃないわ!そのものよ!あいつ霊夢の心を読んで再現しているの!
これは由々しき問題よ!盗人、パクリ、著作権違反!!」
ここでようやく藍は紫の怒りを理解した。要は、勝手に紫のスペルカードを再現しているところに怒りを覚えているらしい。紫も大妖怪だけあってプライドは高い、こんなに簡単に真似されることは屈辱であろう。更に、攻撃している対象が溺愛している霊夢であるということも更に紫の怒りを加速させていた。
「うふふふ……この代償は高いわよ古明地さとり……!この大妖怪である八雲紫の怒りを買った!この私が考え出す最高の復讐方法で、貴様を地獄に落とす……!」
禍々しいオーラをまといながらニヤニヤと笑う紫を見て、藍は内心でさとりに合掌した。
命を奪うなどということは無いだろうが、とんでもなく陰湿な嫌がらせをされるであろう。
それは、藍自身が既に何度も経験しているからこそ予測できることであった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
地霊殿の異変から、既に三ヶ月が経とうとしていた。
忌み嫌われていた地霊殿も今ではすっかり地上になじみ、ペットである空や燐、そしてさとりの妹であるこいしは頻繁に地上に遊びに行き、さとりは自らはあまり地上に出ないまでも、逆に地上での友人を地霊殿に招くなど、彼女なりに交友を広めていた。
今日も空はチルノ達と遊びに遊び、大変に満足しながら地霊殿へと帰ってきた。
「ただいま!さとり様!」
そこで、空を出迎えた者は……
「あら、おかえりなさい、空。」
さとりの服装をそのまま真似した、大妖怪、八雲紫であった。
さとりおなじみの幼稚園児に見えなくもない服装をしているが、頭身は高く、身長は空よりも高い。更に金色の長い髪は隠すことなくその存在をアピールしており、更には普段さとりがすることは無い化粧までしている。
「うにゅ?」
流石の空も、何か違和感を感じたようだ。
それを察し、紫はすぐさま会話に入る。
「どうしたのかしら?」
「あれ?うにゅ?なんかさとり様が……」
「何言ってるのかしら?私はいつも通りじゃない。」
「でも……」
「夕飯、何がいいかしら?」
「ハンバーグ!!」
さとり(紫)への違和感<<<<ハンバーグ
一瞬で勝負はついた。天秤にかけられた二つの概念、ハンバーグが乗った瞬間に違和感ははるか上空へと飛んで、星蓮船の頃にザコ敵と混じって出てくることだろう。
それからはもう空は何も疑問に思うことなく、烏の姿に戻って紫の肩の上に乗ってくつろいでいる。
(ギリギリギリギリ……)
そしてその光景を、歯軋りしながら見つめる者が居た。
(空!気付きなさい!どう考えてもそれは私じゃないでしょう!!)
この館の本当の主人、古明地さとり(本物)である。紫によって『存在の無の境界』をいじられ、極限までに存在感が薄くなっている、言わば『リアルこいし』状態になっている。
更に部屋の隅で椅子に縛られているため、身動きもとれない。端から見れば、部屋の隅で誰も座っていない椅子がガタガタと動いているようにしか見えないのだ。それだけでも充分不可解な光景であろうが、さとりと紫の違いも見抜けない空ではそれに気付くことも出来ないであろう。
(どういうつもりですか八雲紫!私が何をしたっていうのですか!)
紫に叫ぶさとり。紫自身はさとりの姿を認知しているため、声も聞こえる。
紫は視線だけさとりに向け、思念を送る。さとり相手ならば、これで会話は成立するのだ。
(ふふふ、あなたは私のプライドを傷つけた。その報いを受けてもらうわ!
さあ味わいなさい、真似されるということがどれほど不快なことであるのかを!!)
(ま、まさか弾幕を真似たことを……?そんなことで怒らなくていいじゃないですか!
子供ですかあなたは!)
(黙りなさい!そして私は子供じゃないわ、少女よ!)
(うわぁ……)
さとりは紫を説得することを諦めた。今の紫は八雲紫ではない、『古明地ゆかり』なのだ。
だとすれば残る手段は一つ。地霊殿の家族達に、この紫が偽者であると気付いてもらう!
空は見ぬけなかったが、まあ空は空だしということで諦めた。さとりの予測では、もうすぐ燐が、そして何時になるかわからないがひょっとすればこいしも帰宅するはず。この二人であれば、必ずこのニセさとりを見抜いてくれるだろう。さとりはあとの二人を信じることにした。
そして一時間後……
「ただいま帰りました~!」
この丁寧なあいさつは燐のものである。
さとりは燐に期待した。燐は三人の中では一番まともな感性を持っている。何故ならば、彼女は地霊殿においてツッコミポジションだからである。
日ごろから空の不可解な言動に付き合わされている燐ならば、きっとニセさとりの違和感にも気付いてもらえるはずであると。
「あら、おかえりなさい。」
――バターン!!
見事なクイックターンであった。燐は扉を開けて古明地ゆかりの姿を確認すると同時に踵を返し、扉を勢い良く閉め部屋の外へと逃げた。
(えー!?……ええーー!?)
燐は混乱していた。服こそさとりと同じであるが、頭身、髪の色、雰囲気と何もかもが違う。空はほとんど気付くことは出来なかったが、燐は空よりも頭がいい。一瞬でその違和感に気付くことが出来た。そしておそるおそる扉を開け、古明地ゆかりに一言。
「えっと……思いきったイメチェンですね?」
残念ながら、別人だと見抜くことまでは出来なかった。
今の言葉に、さとりが部屋の隅から猛抗議をする。
(イメチェンってなんですか!どう考えても身長が伸びてるでしょ!イメチェンで身長が変えられますか!変えられるなら私が変えたいわ!!)
さとりは、自分の低身長にコンプレックスを感じていた。
それはさておき、紫によって存在感を消されているので、燐の目には椅子しか移らない。
そしてその椅子はバッタンバッタンと大きく揺れていた。さとりが縛られながらも大暴れしているからである。
「さ、さとり様、あの椅子なんか物凄い動いてませんか……?」
「あら、ポルターガイストね。まあ地獄に近いこの場所、そんなことがあっても不思議ではないわ。」
「そ、そうですよね……」
(納得しないでください!!)
さとりは全力で抗議を続けるも声は届かず、ドッタンバッタンという椅子の音だけが響き渡る。一方の紫も、今一つ疑念を解消できてない燐に対し、もう一押しが必要だと感じていた。空の時のようにハンバーグ一つでは解決できそうにない。よって、ここは積極的に攻めることにした。
「ねぇ、燐……」
紫は燐の顎を手にとり、クイッと自分の方へ寄せる。
「あっ……」
なすがままにされる燐、その顔はどこかうっとりとしていた。
そして紫は、トドメの一言を燐にそっと呟いた。
「今日の貴方……一段とかわいいわね?」
ボンッ!
その言葉を聞くと同時に、燐の顔は茹蛸のように真っ赤になった。目はとろんとし、その表情を表現するならばまさにメロメロといったところであろうか。
「ああ……さとり様……」
「ねえ燐、私何かおかしいかしら?」
「いえ、おかしくないれすぅ……もう、これがさとり様でいいや……」
ついに燐も落ちた。そして最後の言葉にさとりは憤慨する。
(『いいや』ってなんですか!妥協しましたね、あなた妥協しましたね!?)
やはり、普段の愛情表現が足りなかったのだろうか、さとりは少し後悔するが既に遅い。燐は古明地ゆかりにノックアウトされてしまった。あとは期待できるのは、我が妹のみ。
正直地霊殿きっての常識人である燐ですら見抜けなかったのに、ブッ飛んだところがあるこいしに見抜けるのであろうか。さとりは不安に思えた。実の妹にまで間違えられたら立ち直れないかもしれない。
もう一度確認しておくが、古明地ゆかりは違和感バリバリなのである。
さとりがこんなに不安がっているのは、度重なる連敗に心を折られているだけなのだ。
そして更に30分後……
「たっだいまー!」
こいしも地霊殿に帰宅した。毎日必ず帰ってくる燐や空と違い、こいしは数日間家を開けることも珍しくない。そういう意味では燐とあまり変わらぬ時間に帰ってきたのはさとりにとってはラッキーであった。しかし、さとりは素直に喜べなかった。
(ああ、もしこいしも見抜けなかったら……私はここで舌を噛む……)
度重なる連敗で心を折られたさとりにとって、こいしが帰ってきてしまったことはある意味恐怖であった。愛する妹にまで間違えられてしまうのであろうか。
しかし、扉を開けたこいしは、一瞬驚いた顔をしたあと、あたりを見渡した。
そして、部屋の隅に目をやって……
(え……?)
さとりの見間違いで無ければ、今確かにこいしは……ウィンクをした。
ただの椅子にウィンクをしたとも考えにくい、とするとこいしは、さとりに気付いているということになる。
そう、無意識の世界にいるこいしは、同じように無意識の世界にいる者を感知することが出来るのであった。
「あらこいし、お帰りなさい。」
「ただいま~お姉ちゃん。」
しかしこいしはウィンク以外はとくにアクションもせず、普段のように古明地ゆかりに接する。空は相変わらず紫の肩に乗ってまったりとしているし、燐も紫の膝の上でゴロニャンとしている。一見するとまったく変化がないように見えるが、さとりには分かった。
(こいし、何か企んでる……?)
こいしの笑顔が、何かを企んでいる時の笑い方になっていることを、さとりは見抜いていた。姉であるさとりで無ければ気付かないほどの僅かな違いではあるが、明らかに紫を見てニヤついているのだ。
「あっれ~?お姉ちゃん、なんか……」
そしてこいしは、古明地ゆかりに対してたった一言、たった一言だけ言葉を投げつけた。
「老けた?」
(ブフッ!!)
その言葉に、さとりも思わず噴き出してしまった。
「グフッ!!」
一方の紫もその言葉に大きなダメージを負った。たった三文字の言葉は槍となり、紫のピュア?なハートを貫いた。一発KOである。
あまりのショックにうずくまる紫。そのスキにこいしはさとりに駆け寄り、さとりの無意識状態を解除した。いくら紫の能力が強力なものであったとしても、あくまでそれは『境界を操る程度の能力』である。こいしの能力の前では無意識の領域において紫の能力など赤子に過ぎないのだ。
「ふぅ……ありがとう、こいし。」
「びっくりしたよ。どんな状況だって感じ!」
一方の燐と空は人間型に戻り、慌てふためいていた。
「え!?え!?どういうこと!?」
「さとり様が二人!?」
さとりは二人の頭にゲンコツを食らわせる。
「うにゅ、いた~~い!!」
「よく見なさい!髪!身長!!胸!!」
「……あっ!」
ポン!と手を打つ二人。ようやく理解したようである。
「や、やっぱりおかしいなと思ってたというか?」
「そうだよね~、騙されたフリをした甲斐があったよね~。」
二人が冷や汗をかきながらフォローに走っているが、既にさとりの中で二人に対してお仕置きをすることは決定している。だがそれは後でいつでも出来る。とりあえずは、この目の前の古明地ゆかり……もとい、八雲紫に対してのお仕置きだ。
「さあ、どういうことか説明してもらいましょうか……!」
「弾幕をパクられて腹が立った。今は反省している。」
「まったく反省していない顔で言わないでください。」
棒読みで反省の言葉らしきものを口にする紫。しかもその後は横を向いて口笛を吹き始める始末。ちなみに曲はネクロファンタジア、無駄に上手いのが逆にさとりの神経を逆撫でする。
「そうですか、分かりました。ではあなたの心に聞いてみましょう!」
「ちょ、やめ……」
慌てる紫、しかし既にサドりモードに入ったさとりを止める者はいない。
紫の心が映し出され、その光景が何時の間にか用意されたスクリーンへと映し出された。
題して、『ゆかりんのトラウマ上映会☆』である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「たっだいま~……あら?幽々子、なんで私の格好をしているの?」
「ねえ藍、この人誰かしら?」
「さあ、知りませんね。」
「ちょ、藍、幽々子、何を言っているの!冗談はよしこちゃん!」
「こんな古いギャグを使う妖怪なんて見たことないわ~。」
「そうですね、ついでに白玉楼にスキマでゴミを捨てるような賢者(笑)さんは知りませんね~。」
「な、あのことを怒ってるの!?あれは酔っ払ってて……ちょ、ら~ん、ゆゆこぉ~!無視しないでぇ~………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上がトラウマ上映会の内容であった。紫はうずくまってえぐえぐと泣いている。
さとり達4人は多いにこの目の前の生物を哀れんだ。確実に自業自得だが、ここまで友人と従者にないがしろにされる主というのも珍しい。きっとこれだけではなく、日常的にこのような扱いを受けつづけてきたのだろう。そう考えると、さっきまでの怒りはどこへやら、さとりの中の母性本能的なものが刺激されていった。
そしてさとりは、優しく紫へと語り掛けた。
「今夜、ハンバーグなんですけど、一緒に食べますか……?」
「……うん。」
大妖怪のプライド<<<<<<<<ハンバーグ
が成立した瞬間であった。
了
八雲家に響く謎の音。
何を隠そうこの音は、大妖怪、八雲紫の発する歯軋りの音である。
その表情は憤怒の表情で満ちており、あえて形容するならば『般若』という言葉が一番似合う、幽香であろうとも裸足で逃げ出すかもしれない、そんな表情をしていた。
そう、八雲紫は怒り狂っていたのだ。
「ど、どうしたんですか紫様、そんな般若のような顔をして。」
慌てて駆け寄ってきたのはスキマ妖怪の式、八雲藍。
紫の奇行に付き合わされること○百年、もはや紫の行動パターンを分析できるほどになった藍であるが、それでも紫がこれほどの怒りを表すことなどほとんど見たことが無かった。
「どうしたもこうしたも無いわよ!見なさいこれを!」
と言って紫が差し出したのは水晶玉。紫はこの水晶玉を見ながら歯軋りをし、怒りに震えていたのである。藍は言われた通りにその水晶玉に写った光景を覗き見る。
「これは……霊夢?相手は……ま、まさかあのさとり妖怪!?」
そう、今霊夢は地霊殿攻略の真っ最中。紫はそれを遠隔でサポートしていた。
さとり妖怪との弾幕ごっこ、熾烈を極めているが、霊夢の方が若干優勢に思える。
「……確かに相手は心を読む危険な妖怪ですが、霊夢であればこのまま行けば勝利できると思いますが。」
「そんなことはどうでもいいのよ!これを見なさいこれを!!」
異変解決に向かう博麗の巫女を『どうでもいい』と切り捨て紫が指差したのは、現在進行形でさとりが出している弾幕であった。そして藍は、その弾幕に見覚えがあった。
「これは……紫様の弾幕とそっくりですね。」
「そっくりどころじゃないわ!そのものよ!あいつ霊夢の心を読んで再現しているの!
これは由々しき問題よ!盗人、パクリ、著作権違反!!」
ここでようやく藍は紫の怒りを理解した。要は、勝手に紫のスペルカードを再現しているところに怒りを覚えているらしい。紫も大妖怪だけあってプライドは高い、こんなに簡単に真似されることは屈辱であろう。更に、攻撃している対象が溺愛している霊夢であるということも更に紫の怒りを加速させていた。
「うふふふ……この代償は高いわよ古明地さとり……!この大妖怪である八雲紫の怒りを買った!この私が考え出す最高の復讐方法で、貴様を地獄に落とす……!」
禍々しいオーラをまといながらニヤニヤと笑う紫を見て、藍は内心でさとりに合掌した。
命を奪うなどということは無いだろうが、とんでもなく陰湿な嫌がらせをされるであろう。
それは、藍自身が既に何度も経験しているからこそ予測できることであった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
地霊殿の異変から、既に三ヶ月が経とうとしていた。
忌み嫌われていた地霊殿も今ではすっかり地上になじみ、ペットである空や燐、そしてさとりの妹であるこいしは頻繁に地上に遊びに行き、さとりは自らはあまり地上に出ないまでも、逆に地上での友人を地霊殿に招くなど、彼女なりに交友を広めていた。
今日も空はチルノ達と遊びに遊び、大変に満足しながら地霊殿へと帰ってきた。
「ただいま!さとり様!」
そこで、空を出迎えた者は……
「あら、おかえりなさい、空。」
さとりの服装をそのまま真似した、大妖怪、八雲紫であった。
さとりおなじみの幼稚園児に見えなくもない服装をしているが、頭身は高く、身長は空よりも高い。更に金色の長い髪は隠すことなくその存在をアピールしており、更には普段さとりがすることは無い化粧までしている。
「うにゅ?」
流石の空も、何か違和感を感じたようだ。
それを察し、紫はすぐさま会話に入る。
「どうしたのかしら?」
「あれ?うにゅ?なんかさとり様が……」
「何言ってるのかしら?私はいつも通りじゃない。」
「でも……」
「夕飯、何がいいかしら?」
「ハンバーグ!!」
さとり(紫)への違和感<<<<ハンバーグ
一瞬で勝負はついた。天秤にかけられた二つの概念、ハンバーグが乗った瞬間に違和感ははるか上空へと飛んで、星蓮船の頃にザコ敵と混じって出てくることだろう。
それからはもう空は何も疑問に思うことなく、烏の姿に戻って紫の肩の上に乗ってくつろいでいる。
(ギリギリギリギリ……)
そしてその光景を、歯軋りしながら見つめる者が居た。
(空!気付きなさい!どう考えてもそれは私じゃないでしょう!!)
この館の本当の主人、古明地さとり(本物)である。紫によって『存在の無の境界』をいじられ、極限までに存在感が薄くなっている、言わば『リアルこいし』状態になっている。
更に部屋の隅で椅子に縛られているため、身動きもとれない。端から見れば、部屋の隅で誰も座っていない椅子がガタガタと動いているようにしか見えないのだ。それだけでも充分不可解な光景であろうが、さとりと紫の違いも見抜けない空ではそれに気付くことも出来ないであろう。
(どういうつもりですか八雲紫!私が何をしたっていうのですか!)
紫に叫ぶさとり。紫自身はさとりの姿を認知しているため、声も聞こえる。
紫は視線だけさとりに向け、思念を送る。さとり相手ならば、これで会話は成立するのだ。
(ふふふ、あなたは私のプライドを傷つけた。その報いを受けてもらうわ!
さあ味わいなさい、真似されるということがどれほど不快なことであるのかを!!)
(ま、まさか弾幕を真似たことを……?そんなことで怒らなくていいじゃないですか!
子供ですかあなたは!)
(黙りなさい!そして私は子供じゃないわ、少女よ!)
(うわぁ……)
さとりは紫を説得することを諦めた。今の紫は八雲紫ではない、『古明地ゆかり』なのだ。
だとすれば残る手段は一つ。地霊殿の家族達に、この紫が偽者であると気付いてもらう!
空は見ぬけなかったが、まあ空は空だしということで諦めた。さとりの予測では、もうすぐ燐が、そして何時になるかわからないがひょっとすればこいしも帰宅するはず。この二人であれば、必ずこのニセさとりを見抜いてくれるだろう。さとりはあとの二人を信じることにした。
そして一時間後……
「ただいま帰りました~!」
この丁寧なあいさつは燐のものである。
さとりは燐に期待した。燐は三人の中では一番まともな感性を持っている。何故ならば、彼女は地霊殿においてツッコミポジションだからである。
日ごろから空の不可解な言動に付き合わされている燐ならば、きっとニセさとりの違和感にも気付いてもらえるはずであると。
「あら、おかえりなさい。」
――バターン!!
見事なクイックターンであった。燐は扉を開けて古明地ゆかりの姿を確認すると同時に踵を返し、扉を勢い良く閉め部屋の外へと逃げた。
(えー!?……ええーー!?)
燐は混乱していた。服こそさとりと同じであるが、頭身、髪の色、雰囲気と何もかもが違う。空はほとんど気付くことは出来なかったが、燐は空よりも頭がいい。一瞬でその違和感に気付くことが出来た。そしておそるおそる扉を開け、古明地ゆかりに一言。
「えっと……思いきったイメチェンですね?」
残念ながら、別人だと見抜くことまでは出来なかった。
今の言葉に、さとりが部屋の隅から猛抗議をする。
(イメチェンってなんですか!どう考えても身長が伸びてるでしょ!イメチェンで身長が変えられますか!変えられるなら私が変えたいわ!!)
さとりは、自分の低身長にコンプレックスを感じていた。
それはさておき、紫によって存在感を消されているので、燐の目には椅子しか移らない。
そしてその椅子はバッタンバッタンと大きく揺れていた。さとりが縛られながらも大暴れしているからである。
「さ、さとり様、あの椅子なんか物凄い動いてませんか……?」
「あら、ポルターガイストね。まあ地獄に近いこの場所、そんなことがあっても不思議ではないわ。」
「そ、そうですよね……」
(納得しないでください!!)
さとりは全力で抗議を続けるも声は届かず、ドッタンバッタンという椅子の音だけが響き渡る。一方の紫も、今一つ疑念を解消できてない燐に対し、もう一押しが必要だと感じていた。空の時のようにハンバーグ一つでは解決できそうにない。よって、ここは積極的に攻めることにした。
「ねぇ、燐……」
紫は燐の顎を手にとり、クイッと自分の方へ寄せる。
「あっ……」
なすがままにされる燐、その顔はどこかうっとりとしていた。
そして紫は、トドメの一言を燐にそっと呟いた。
「今日の貴方……一段とかわいいわね?」
ボンッ!
その言葉を聞くと同時に、燐の顔は茹蛸のように真っ赤になった。目はとろんとし、その表情を表現するならばまさにメロメロといったところであろうか。
「ああ……さとり様……」
「ねえ燐、私何かおかしいかしら?」
「いえ、おかしくないれすぅ……もう、これがさとり様でいいや……」
ついに燐も落ちた。そして最後の言葉にさとりは憤慨する。
(『いいや』ってなんですか!妥協しましたね、あなた妥協しましたね!?)
やはり、普段の愛情表現が足りなかったのだろうか、さとりは少し後悔するが既に遅い。燐は古明地ゆかりにノックアウトされてしまった。あとは期待できるのは、我が妹のみ。
正直地霊殿きっての常識人である燐ですら見抜けなかったのに、ブッ飛んだところがあるこいしに見抜けるのであろうか。さとりは不安に思えた。実の妹にまで間違えられたら立ち直れないかもしれない。
もう一度確認しておくが、古明地ゆかりは違和感バリバリなのである。
さとりがこんなに不安がっているのは、度重なる連敗に心を折られているだけなのだ。
そして更に30分後……
「たっだいまー!」
こいしも地霊殿に帰宅した。毎日必ず帰ってくる燐や空と違い、こいしは数日間家を開けることも珍しくない。そういう意味では燐とあまり変わらぬ時間に帰ってきたのはさとりにとってはラッキーであった。しかし、さとりは素直に喜べなかった。
(ああ、もしこいしも見抜けなかったら……私はここで舌を噛む……)
度重なる連敗で心を折られたさとりにとって、こいしが帰ってきてしまったことはある意味恐怖であった。愛する妹にまで間違えられてしまうのであろうか。
しかし、扉を開けたこいしは、一瞬驚いた顔をしたあと、あたりを見渡した。
そして、部屋の隅に目をやって……
(え……?)
さとりの見間違いで無ければ、今確かにこいしは……ウィンクをした。
ただの椅子にウィンクをしたとも考えにくい、とするとこいしは、さとりに気付いているということになる。
そう、無意識の世界にいるこいしは、同じように無意識の世界にいる者を感知することが出来るのであった。
「あらこいし、お帰りなさい。」
「ただいま~お姉ちゃん。」
しかしこいしはウィンク以外はとくにアクションもせず、普段のように古明地ゆかりに接する。空は相変わらず紫の肩に乗ってまったりとしているし、燐も紫の膝の上でゴロニャンとしている。一見するとまったく変化がないように見えるが、さとりには分かった。
(こいし、何か企んでる……?)
こいしの笑顔が、何かを企んでいる時の笑い方になっていることを、さとりは見抜いていた。姉であるさとりで無ければ気付かないほどの僅かな違いではあるが、明らかに紫を見てニヤついているのだ。
「あっれ~?お姉ちゃん、なんか……」
そしてこいしは、古明地ゆかりに対してたった一言、たった一言だけ言葉を投げつけた。
「老けた?」
(ブフッ!!)
その言葉に、さとりも思わず噴き出してしまった。
「グフッ!!」
一方の紫もその言葉に大きなダメージを負った。たった三文字の言葉は槍となり、紫のピュア?なハートを貫いた。一発KOである。
あまりのショックにうずくまる紫。そのスキにこいしはさとりに駆け寄り、さとりの無意識状態を解除した。いくら紫の能力が強力なものであったとしても、あくまでそれは『境界を操る程度の能力』である。こいしの能力の前では無意識の領域において紫の能力など赤子に過ぎないのだ。
「ふぅ……ありがとう、こいし。」
「びっくりしたよ。どんな状況だって感じ!」
一方の燐と空は人間型に戻り、慌てふためいていた。
「え!?え!?どういうこと!?」
「さとり様が二人!?」
さとりは二人の頭にゲンコツを食らわせる。
「うにゅ、いた~~い!!」
「よく見なさい!髪!身長!!胸!!」
「……あっ!」
ポン!と手を打つ二人。ようやく理解したようである。
「や、やっぱりおかしいなと思ってたというか?」
「そうだよね~、騙されたフリをした甲斐があったよね~。」
二人が冷や汗をかきながらフォローに走っているが、既にさとりの中で二人に対してお仕置きをすることは決定している。だがそれは後でいつでも出来る。とりあえずは、この目の前の古明地ゆかり……もとい、八雲紫に対してのお仕置きだ。
「さあ、どういうことか説明してもらいましょうか……!」
「弾幕をパクられて腹が立った。今は反省している。」
「まったく反省していない顔で言わないでください。」
棒読みで反省の言葉らしきものを口にする紫。しかもその後は横を向いて口笛を吹き始める始末。ちなみに曲はネクロファンタジア、無駄に上手いのが逆にさとりの神経を逆撫でする。
「そうですか、分かりました。ではあなたの心に聞いてみましょう!」
「ちょ、やめ……」
慌てる紫、しかし既にサドりモードに入ったさとりを止める者はいない。
紫の心が映し出され、その光景が何時の間にか用意されたスクリーンへと映し出された。
題して、『ゆかりんのトラウマ上映会☆』である。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「たっだいま~……あら?幽々子、なんで私の格好をしているの?」
「ねえ藍、この人誰かしら?」
「さあ、知りませんね。」
「ちょ、藍、幽々子、何を言っているの!冗談はよしこちゃん!」
「こんな古いギャグを使う妖怪なんて見たことないわ~。」
「そうですね、ついでに白玉楼にスキマでゴミを捨てるような賢者(笑)さんは知りませんね~。」
「な、あのことを怒ってるの!?あれは酔っ払ってて……ちょ、ら~ん、ゆゆこぉ~!無視しないでぇ~………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
以上がトラウマ上映会の内容であった。紫はうずくまってえぐえぐと泣いている。
さとり達4人は多いにこの目の前の生物を哀れんだ。確実に自業自得だが、ここまで友人と従者にないがしろにされる主というのも珍しい。きっとこれだけではなく、日常的にこのような扱いを受けつづけてきたのだろう。そう考えると、さっきまでの怒りはどこへやら、さとりの中の母性本能的なものが刺激されていった。
そしてさとりは、優しく紫へと語り掛けた。
「今夜、ハンバーグなんですけど、一緒に食べますか……?」
「……うん。」
大妖怪のプライド<<<<<<<<ハンバーグ
が成立した瞬間であった。
了
『古明地ゆかり』読み流してると一瞬スルーしそうになるwww
ていうか今回の「園児服のゆかりん」で自らトラウマを一つ増やしたんじゃないのかwww
面白かったけどオチが弱めだったかな
ハンバーグって偉大なんだな。と思った。
個人的にこの話のハイライトはこいしの一言にあると思いました。
終始にやけながら読んでましたよ。
最後のさとりの優しさも良かったです。
よし、明日の晩飯はハンバーグにしよう。
もうゆかりんは古明地家の三女になったらいいと思う
『ゆかりん』が『般若』とはこれ如何に……おや? 誰か来たようだ。
古明地ゆかりが本当に誕生してまうwww
キャラ叩きがしたいならチラシの裏でどうぞ。
この紫、どう考えても自業自得なんだもの。
ハンバーグはハンバーグでも、豆腐ハンバーグだったらどうなるだろう?
期待をしているお空とゆかりんが再び暴動を起こすのではないだろうか?
ゆかりんかわいいわぁ。
よし、ハンバーグ食べよう。
冗談はよしこちゃんはないなw
トラウマに触れずとも心をえぐる手段は心得てるwww