時刻は昼下がり。私はと言うと、図書館の本に囲まれる普段どおりの日々だ。
「パチュリー様。紅茶をお持ちいたしましたわ」
「ん、ありがと」
いつも通りの時間に、メイド長の咲夜がやって来た。
お盆にはカップが2つ。昔は咲夜が持ってくるのは一つだけだったのだが、私が2つ持ってくるように伝えたのだ。
片方は無論私のだが、もう一つは……今日はまだかしら……。
そんな事を考えていると、バーンという派手な音と共に勢い良くドアが開かれた。ドアの方を見なくたって誰かは分かる。こんなドアの開け方をするのは魔理沙以外はいない。
妹様の場合は『開ける』じゃなくて『壊す』だし。
「ようパチュリー、今日も今日とてやって来たぜ。とりあえずまずは上手い紅茶を一杯頼む」
「また来たの……あなたも暇ね、魔理沙」
ああ違うでしょう私! ちゃんと、来てくれてありがとうって伝えなさいよ!
もう一人の自分が、そう心の中で叫んでいる。
仕方が無いじゃない……恥ずかしくてそんな事言えるわけ……。そう思いつつ、髪の毛の先をついクルクルと弄りながら誤魔化しで咲夜の淹れた紅茶に口を付けた。
「ではパチュリー様。後でカップを下げに参りますので、私はこれで。……あ、それと魔理沙は図書館内を荒らして回らないように」
魔理沙のカップに紅茶を注ぐと、それだけ言って咲夜はいなくなる。
私の方をちらっと見て軽く笑みを浮かべながら。
…………何だか、変に気を回された気がするのは私の気のせいかしら……?
「おおぅ、私も中々に信用が無いな。まるで普段からここを荒らしてるような言われ様だぜ」
「荒らしてるじゃない、力一杯」
『魔理沙さんが来るとその後の片付けが大変ですー』とは司書の小悪魔の愚痴だが、確かに魔理沙の場合、本を探しに来てると言うよりも、本を読み荒らしているという感じだ。
まあ……真剣に調べ物をしている時の魔理沙の横顔は、凄く何ていうか……その……格好良くて、そんな小悪魔の苦労も忘れるくらいなんだけど……。
「さてと……実は今日は、ここに来る前にフランの所に寄ってたんだよ。レミリアからちょっと相談があってなー」
「妹様の所? それは……魔理沙も災難ね」
魔理沙の言葉が、私の胸をチクリと刺した。
妹様が魔理沙の事を好きなのは、私はとっくの昔に気づいている。レミィだって咲夜だってそうだろう。分かってないのは魔理沙くらいのものだ(私の場合も似たような物だけど……)
だから……魔理沙が私の所より先に妹様の所に寄った……と聞いて、ただそれだけの事なのに一瞬、妹様に嫉妬してしまった。
少しだけ表情に出てしまったかもしれない……魔理沙は鈍感だから気が付かないだろうけど。
「あーまあな~、案の定今日もフランの遊びにつきあわされたし。でだ、レミリアの奴が『フランをいつまでも部屋の中で遊ばせるのも、健康的じゃないわね』とか前々から私に言ってたんだよ」
それは私も知っている。
レミィも妹様の事を色々と心配はしているようだし、私にもそんな話は結構しているから。
「それで、私の言う事だったら聞くだろうしフランの奴をピクニックでも連れて行ってくれと頼まれてな~。その話をフランにして来た訳だ」
ちなみにフランは二つ返事で賛成したけどな、と言って笑う魔理沙。
……ちょっと待って。
そ、それはつまり……妹様と魔理沙でデートするって、そう言うこと!? しかもレミィ公認で!?
「……あらそう。どうせ魔理沙の事だから無償じゃないんでしょ?」
「ご名答だぜ。ここで魔法の実験やるのを5回まで認めてくれるって特約をレミリアの署名付きで一筆貰ってきた。ああ、掃除はメイド隊が責任を負うからパチェは心配しなくていいとさ」
鼻歌混じりに、ひらひらと一枚の紙を私に見せる魔理沙。
レミィったら私に何も言わないでそんな勝手に約束なんかして……ってそれも問題だけど! 魔理沙と妹様がデートなんて……そんなのダメ! 絶対にダメよ!!
そう心の中では思っているのに。
「べ……別に良いんじゃないの。魔理沙の好きにしたら?」
私の口から出たのは、思いっきり逆の言葉だった。
あああああ……馬鹿だ。私は大馬鹿だ。
けれど、今さら言ってしまった言葉を引っ込める訳にも行かない。
「魔理沙の話はそれだけかしら? じゃあ私は調べ物の続きがあるから」
いたたまれなくなって、席を立つ。これ以上、なんでもないフリを続けるのは無理そうだったから。
その私の裾を魔理沙の細い腕が掴んだ。
「待て待て待て待て、話はまだ終わってないぞ。レミリアの条件はもう一つあるんだよ。不健康なのがもう一人いるから、フランと一緒に連れ出してくれって」
え? もう一人って……?
「だ、誰の事、それ?」
「パチェ以外に誰がいるんだよ、貧血喘息病弱魔女」
え? ええ? ええええええ――!?
わ、私が? 魔理沙と!? デート!?
その時、先ほどの立ち去り際の咲夜の微笑の意味が分かった。魔理沙が何の用で今日来たか分かってて黙ってたわね咲夜……。
「で、どうだ? パチェが賛成してくれなきゃ、さっきの条件は流れるようになってるんで私としてはぜひ来て欲しいんだが」
「…………し、仕方が無いわね……付き合って……あげるわよ」
ああ、つくづくと本音を言わない口だ。
けれど、魔理沙の誘いに同意する事だけは出来た。カーッと顔が赤くなっていくのが分かる。
「ん? おいおいどうしたパチェ? 顔が真っ赤だぞ、熱でもあるのか?」
「べ、べべ、別に熱なんか……きゃあ!」
その時、いきなり魔理沙の顔が一気に近づいて来たかと思うと、額をくっつけた。
「ちょっと熱あるんじゃないか? ……っておいパチェ、どうした? おーーい!?」
そのあまりの魔理沙の行動に、私の意識は綺麗にどこかへと飛んでいった。
その日の夜。私はというと……当然だけど全然眠れなかった。
「はぁ……」
あの後、魔理沙が帰った後にレミィを問い詰めたら、にっこりと笑って『頑張ってね』とだけ言われてレミィが何をしたいのか全部分かった。つくづくおせっかいな友人だと思う……いつもの事だけど。
ああ、でもどうしよう。何をすればいいんだろう。いつも通り振舞えるだろうか。いや、いつも通りじゃダメだ、何かしないと……でも何かって……。
おかしな妄想がグルグルと頭の中を駆け回る。
溜め込んだ知識も、こういう時にはまるで役に立たない。当然だ。好きとかなんとか、そんなのがしっかりと分析できて必ず成功できる方法があるなら私も凄く知りたい。
でもやっぱり……服はもうちょっと可愛い物の方が良いわよね……。
そんな事を考えているうちに、夜はあっという間にふけていった。
……後にして思えば、この時無理矢理でも寝ておけば、後々あんな事態にはならなかったと思う。
ただ、まるで小娘のように浮かれていた私には絶対に無理だっただろうけど。
翌朝。
「パチュリー様、そのお体では無理です。残念ですが、今日は一日お休みになって……」
「ゴホゴホゲホゴホ! 小悪魔、そこを……どきなさい! 行くのよ、絶対に――!」
ベッドから無理矢理這いずるのを、小悪魔に止められてベッドまで連れ戻される。喘息が悪化した理由は……間違いなく夜更かしが原因だろう。
でもこんな……こんな喘息なんか、気合さえあれば……ゴホゴホゴホ!
そんな私の様子に、小さく首を横に振る小悪魔。
「すいません。魔理沙さんからも言ってあげて下さい。私が言ってもパチュリー様は聞きませんので……」
え!? 魔理沙……もう来てるの!?
その時、私の寝室のドアが開いて困った表情の魔理沙が中に入ってきた。
「あー。来たいって気持ちは良く分かった……んだが、ちょっとそれじゃあ歩いて回るのは無理だろ。残念だがパチェは今日は寝てろ。またの時に連れて行くから」
ああ小悪魔、魔理沙連れてくるなんて……あなた卑怯よ。
魔理沙にそう言われて、それでも突っぱねるなんてできる訳無いじゃない! こんな機会なんてそうそうあるもんじゃないのに……う――!!
「………………」
咳で喋るのも辛くて、私は魔理沙に対して首を縦に小さく振るだけしか出来なかった。
「ねえねえ魔理沙~! 行こ行こ、早く行こう~♪」
その時、後ろから妹様が入ってきて魔理沙の手を引っ張った。
「分かった分かった、もうちょっと待てってフラン。パチェ、体を一番に大事にしろよー、こらこら引っ張るなって……」
そうして、妹様に引きずられるように魔理沙はいなくなってしまう。
「パチュリー様……申し訳ございません。ただ……」
「小悪魔、下がりなさい!」
怒鳴ってしまって、一気にむせ返る。
私の怒気を感じたのか、小悪魔はまた後で参りますと言った後、礼をして部屋を出て行った。
…………ああ、最悪だ。自分が一番悪いのに、こうして他の相手にやつ当たりだなんて。
目を閉じると情けなくて涙が零れた。
その時。脳裏にさっきの妹様の顔が浮かんだ。魔理沙を独り占めできることが凄く嬉しそうに。
「やっぱり……寝てなんか……ゴホゴホ……居られない……」
放ってなんか置けない。今無理しないでいつ無理をしろって言うのか。
いつも肌身離さず持ち歩いている私の本を横になった状態でそっと開く。私の研究内容やら日記やら新しいスペルやら、何でもかんでも書いている本だ。
その中に、こんな状況を克服するスペルが……一つだけある。複合符の応用で、自分に撃つ能力上昇スペル。日符と月符だけは反発する為に複合符に混ぜられないが、それ以外の組み合わせを考えていて偶然出来たスペルだ。
何故か、強い気持ちが無ければ発動しないスペル。けれど今ならば間違いなく使える!
「月の神ルナ……太陽神ラーの力を覆いその力を増せ」
符を7枚使った複合符で、同じ符を二重に使う事でより強い魔力を出す。
「五行の法則を曲げ……金と土を共にし……ゴホゴホ……その存在を同一にせよ……」
一気に魔力をこの体調で放出したせいで、眩暈がする。
でもこのスペルの詠唱は短い。後少し。後少しだけ、持てば!
「我に不退転の決意有らば……ゴホ! ……其の力我に一時貸し与えたまえ!」
【月月火水木金金符】
五色の色が私を包み……そして、体が一気にすっと軽くなった。
「パチュリー様!? 今の魔力は何事で……あ」
滅多に見られないような大魔力の放出に小悪魔がすっ飛んでくる。
「どうしたの。ああ、私? もうすっかり治ったわよ。むしろこんな体調が良いのは初めてね」
貧血も喘息も何も感じない。それどころか絶好調時の私よりもさらに数段魔力も高い。今だったら、魔理沙にも霊夢にも確実に勝てるだろう。
「パチュリー様……一体何をされ……ああー! まさか、以前私におっしゃったあの能力上昇スペル使ったんですか!?」
その質問に、私は笑顔で返した。
「じゃあ私は出かけるから、留守番と書庫の整理よろしくね」
そうして、止める小悪魔の目の前から一気にテレポートする。
理論上分かってはいたけれど……本当に凄いわね、このスペル。そんな私の得意じゃないテレポートもこんな一瞬でできるなんて。これで欠点が無ければ最高なんだけど。
さあ。魔理沙を追いかけないと……。
【24時間弾幕りあえますか!?】 つづく~
「パチュリー様。紅茶をお持ちいたしましたわ」
「ん、ありがと」
いつも通りの時間に、メイド長の咲夜がやって来た。
お盆にはカップが2つ。昔は咲夜が持ってくるのは一つだけだったのだが、私が2つ持ってくるように伝えたのだ。
片方は無論私のだが、もう一つは……今日はまだかしら……。
そんな事を考えていると、バーンという派手な音と共に勢い良くドアが開かれた。ドアの方を見なくたって誰かは分かる。こんなドアの開け方をするのは魔理沙以外はいない。
妹様の場合は『開ける』じゃなくて『壊す』だし。
「ようパチュリー、今日も今日とてやって来たぜ。とりあえずまずは上手い紅茶を一杯頼む」
「また来たの……あなたも暇ね、魔理沙」
ああ違うでしょう私! ちゃんと、来てくれてありがとうって伝えなさいよ!
もう一人の自分が、そう心の中で叫んでいる。
仕方が無いじゃない……恥ずかしくてそんな事言えるわけ……。そう思いつつ、髪の毛の先をついクルクルと弄りながら誤魔化しで咲夜の淹れた紅茶に口を付けた。
「ではパチュリー様。後でカップを下げに参りますので、私はこれで。……あ、それと魔理沙は図書館内を荒らして回らないように」
魔理沙のカップに紅茶を注ぐと、それだけ言って咲夜はいなくなる。
私の方をちらっと見て軽く笑みを浮かべながら。
…………何だか、変に気を回された気がするのは私の気のせいかしら……?
「おおぅ、私も中々に信用が無いな。まるで普段からここを荒らしてるような言われ様だぜ」
「荒らしてるじゃない、力一杯」
『魔理沙さんが来るとその後の片付けが大変ですー』とは司書の小悪魔の愚痴だが、確かに魔理沙の場合、本を探しに来てると言うよりも、本を読み荒らしているという感じだ。
まあ……真剣に調べ物をしている時の魔理沙の横顔は、凄く何ていうか……その……格好良くて、そんな小悪魔の苦労も忘れるくらいなんだけど……。
「さてと……実は今日は、ここに来る前にフランの所に寄ってたんだよ。レミリアからちょっと相談があってなー」
「妹様の所? それは……魔理沙も災難ね」
魔理沙の言葉が、私の胸をチクリと刺した。
妹様が魔理沙の事を好きなのは、私はとっくの昔に気づいている。レミィだって咲夜だってそうだろう。分かってないのは魔理沙くらいのものだ(私の場合も似たような物だけど……)
だから……魔理沙が私の所より先に妹様の所に寄った……と聞いて、ただそれだけの事なのに一瞬、妹様に嫉妬してしまった。
少しだけ表情に出てしまったかもしれない……魔理沙は鈍感だから気が付かないだろうけど。
「あーまあな~、案の定今日もフランの遊びにつきあわされたし。でだ、レミリアの奴が『フランをいつまでも部屋の中で遊ばせるのも、健康的じゃないわね』とか前々から私に言ってたんだよ」
それは私も知っている。
レミィも妹様の事を色々と心配はしているようだし、私にもそんな話は結構しているから。
「それで、私の言う事だったら聞くだろうしフランの奴をピクニックでも連れて行ってくれと頼まれてな~。その話をフランにして来た訳だ」
ちなみにフランは二つ返事で賛成したけどな、と言って笑う魔理沙。
……ちょっと待って。
そ、それはつまり……妹様と魔理沙でデートするって、そう言うこと!? しかもレミィ公認で!?
「……あらそう。どうせ魔理沙の事だから無償じゃないんでしょ?」
「ご名答だぜ。ここで魔法の実験やるのを5回まで認めてくれるって特約をレミリアの署名付きで一筆貰ってきた。ああ、掃除はメイド隊が責任を負うからパチェは心配しなくていいとさ」
鼻歌混じりに、ひらひらと一枚の紙を私に見せる魔理沙。
レミィったら私に何も言わないでそんな勝手に約束なんかして……ってそれも問題だけど! 魔理沙と妹様がデートなんて……そんなのダメ! 絶対にダメよ!!
そう心の中では思っているのに。
「べ……別に良いんじゃないの。魔理沙の好きにしたら?」
私の口から出たのは、思いっきり逆の言葉だった。
あああああ……馬鹿だ。私は大馬鹿だ。
けれど、今さら言ってしまった言葉を引っ込める訳にも行かない。
「魔理沙の話はそれだけかしら? じゃあ私は調べ物の続きがあるから」
いたたまれなくなって、席を立つ。これ以上、なんでもないフリを続けるのは無理そうだったから。
その私の裾を魔理沙の細い腕が掴んだ。
「待て待て待て待て、話はまだ終わってないぞ。レミリアの条件はもう一つあるんだよ。不健康なのがもう一人いるから、フランと一緒に連れ出してくれって」
え? もう一人って……?
「だ、誰の事、それ?」
「パチェ以外に誰がいるんだよ、貧血喘息病弱魔女」
え? ええ? ええええええ――!?
わ、私が? 魔理沙と!? デート!?
その時、先ほどの立ち去り際の咲夜の微笑の意味が分かった。魔理沙が何の用で今日来たか分かってて黙ってたわね咲夜……。
「で、どうだ? パチェが賛成してくれなきゃ、さっきの条件は流れるようになってるんで私としてはぜひ来て欲しいんだが」
「…………し、仕方が無いわね……付き合って……あげるわよ」
ああ、つくづくと本音を言わない口だ。
けれど、魔理沙の誘いに同意する事だけは出来た。カーッと顔が赤くなっていくのが分かる。
「ん? おいおいどうしたパチェ? 顔が真っ赤だぞ、熱でもあるのか?」
「べ、べべ、別に熱なんか……きゃあ!」
その時、いきなり魔理沙の顔が一気に近づいて来たかと思うと、額をくっつけた。
「ちょっと熱あるんじゃないか? ……っておいパチェ、どうした? おーーい!?」
そのあまりの魔理沙の行動に、私の意識は綺麗にどこかへと飛んでいった。
その日の夜。私はというと……当然だけど全然眠れなかった。
「はぁ……」
あの後、魔理沙が帰った後にレミィを問い詰めたら、にっこりと笑って『頑張ってね』とだけ言われてレミィが何をしたいのか全部分かった。つくづくおせっかいな友人だと思う……いつもの事だけど。
ああ、でもどうしよう。何をすればいいんだろう。いつも通り振舞えるだろうか。いや、いつも通りじゃダメだ、何かしないと……でも何かって……。
おかしな妄想がグルグルと頭の中を駆け回る。
溜め込んだ知識も、こういう時にはまるで役に立たない。当然だ。好きとかなんとか、そんなのがしっかりと分析できて必ず成功できる方法があるなら私も凄く知りたい。
でもやっぱり……服はもうちょっと可愛い物の方が良いわよね……。
そんな事を考えているうちに、夜はあっという間にふけていった。
……後にして思えば、この時無理矢理でも寝ておけば、後々あんな事態にはならなかったと思う。
ただ、まるで小娘のように浮かれていた私には絶対に無理だっただろうけど。
翌朝。
「パチュリー様、そのお体では無理です。残念ですが、今日は一日お休みになって……」
「ゴホゴホゲホゴホ! 小悪魔、そこを……どきなさい! 行くのよ、絶対に――!」
ベッドから無理矢理這いずるのを、小悪魔に止められてベッドまで連れ戻される。喘息が悪化した理由は……間違いなく夜更かしが原因だろう。
でもこんな……こんな喘息なんか、気合さえあれば……ゴホゴホゴホ!
そんな私の様子に、小さく首を横に振る小悪魔。
「すいません。魔理沙さんからも言ってあげて下さい。私が言ってもパチュリー様は聞きませんので……」
え!? 魔理沙……もう来てるの!?
その時、私の寝室のドアが開いて困った表情の魔理沙が中に入ってきた。
「あー。来たいって気持ちは良く分かった……んだが、ちょっとそれじゃあ歩いて回るのは無理だろ。残念だがパチェは今日は寝てろ。またの時に連れて行くから」
ああ小悪魔、魔理沙連れてくるなんて……あなた卑怯よ。
魔理沙にそう言われて、それでも突っぱねるなんてできる訳無いじゃない! こんな機会なんてそうそうあるもんじゃないのに……う――!!
「………………」
咳で喋るのも辛くて、私は魔理沙に対して首を縦に小さく振るだけしか出来なかった。
「ねえねえ魔理沙~! 行こ行こ、早く行こう~♪」
その時、後ろから妹様が入ってきて魔理沙の手を引っ張った。
「分かった分かった、もうちょっと待てってフラン。パチェ、体を一番に大事にしろよー、こらこら引っ張るなって……」
そうして、妹様に引きずられるように魔理沙はいなくなってしまう。
「パチュリー様……申し訳ございません。ただ……」
「小悪魔、下がりなさい!」
怒鳴ってしまって、一気にむせ返る。
私の怒気を感じたのか、小悪魔はまた後で参りますと言った後、礼をして部屋を出て行った。
…………ああ、最悪だ。自分が一番悪いのに、こうして他の相手にやつ当たりだなんて。
目を閉じると情けなくて涙が零れた。
その時。脳裏にさっきの妹様の顔が浮かんだ。魔理沙を独り占めできることが凄く嬉しそうに。
「やっぱり……寝てなんか……ゴホゴホ……居られない……」
放ってなんか置けない。今無理しないでいつ無理をしろって言うのか。
いつも肌身離さず持ち歩いている私の本を横になった状態でそっと開く。私の研究内容やら日記やら新しいスペルやら、何でもかんでも書いている本だ。
その中に、こんな状況を克服するスペルが……一つだけある。複合符の応用で、自分に撃つ能力上昇スペル。日符と月符だけは反発する為に複合符に混ぜられないが、それ以外の組み合わせを考えていて偶然出来たスペルだ。
何故か、強い気持ちが無ければ発動しないスペル。けれど今ならば間違いなく使える!
「月の神ルナ……太陽神ラーの力を覆いその力を増せ」
符を7枚使った複合符で、同じ符を二重に使う事でより強い魔力を出す。
「五行の法則を曲げ……金と土を共にし……ゴホゴホ……その存在を同一にせよ……」
一気に魔力をこの体調で放出したせいで、眩暈がする。
でもこのスペルの詠唱は短い。後少し。後少しだけ、持てば!
「我に不退転の決意有らば……ゴホ! ……其の力我に一時貸し与えたまえ!」
【月月火水木金金符】
五色の色が私を包み……そして、体が一気にすっと軽くなった。
「パチュリー様!? 今の魔力は何事で……あ」
滅多に見られないような大魔力の放出に小悪魔がすっ飛んでくる。
「どうしたの。ああ、私? もうすっかり治ったわよ。むしろこんな体調が良いのは初めてね」
貧血も喘息も何も感じない。それどころか絶好調時の私よりもさらに数段魔力も高い。今だったら、魔理沙にも霊夢にも確実に勝てるだろう。
「パチュリー様……一体何をされ……ああー! まさか、以前私におっしゃったあの能力上昇スペル使ったんですか!?」
その質問に、私は笑顔で返した。
「じゃあ私は出かけるから、留守番と書庫の整理よろしくね」
そうして、止める小悪魔の目の前から一気にテレポートする。
理論上分かってはいたけれど……本当に凄いわね、このスペル。そんな私の得意じゃないテレポートもこんな一瞬でできるなんて。これで欠点が無ければ最高なんだけど。
さあ。魔理沙を追いかけないと……。
【24時間弾幕りあえますか!?】 つづく~
しかしこう、何か必死になったパチュリーは可愛いですね。いつもは落ち着き払っていても、きっとフランにだけは振り回されて苦労しているいるのでは?などと私は思うのですが。
しかし魔理沙×パチェはいいなぁ…。