ここは竹薮の奥にあります永遠亭
きょうもきょうとて、ウサギどもがひしめきあい、そぞろ耳寄せあっていようという
そやつらがぴょんぴょん跳ねながら密談するには
「ちょいと思うんだけどね」
「なにさ?」
「うちらはこれだけ働いているのに、その報酬ときたら一日一本のニンジン、月に一度のニンジンジュース、というのはどうにも理不尽じゃあないかな」
「それもそうだね」
といったぐあいに、待遇面での不満を訴えるという次第
そこでウサギどものお頭格である、因幡のてゐに談判することと相成ります
「かくかくしかじかで」
と、ウサギども、「もう少し、分け前をいただけませんか」
「しゃっ」
聞くやてゐ、両目吊り上げ耳跳ね上げ、牙むき出して形相すさまじく、
「きさまら化けウサギふぜいが、小癪にもそんな注文をつけてくるとは。傍らいたいわ」
とて、ウサギどもを当たるをさいわい殴りのめし蹴りのめし、耳を結びつけてブン回し、ちぎっては投げちぎっては投げるという大立ち回り
伊達に永遠亭いちの暴れん坊と呼ばれてはおりません
ウサギども、べそかきながらほうほうのていで退散するという始末
「考えてみれば」
結ばれた耳をほどきながら、ウサギども、「お頭は話が通じるお方じゃあなかった」
「それもそうだわ」
そんなら初めっから行かなければいいところですが、まァそこが畜生の浅はかさであります
「むしろ、鈴仙さまにお願いしたほうがいいのでは?」
「それはそうね」
鈴仙・優曇華院・イナバ、月から来た宇宙ウサギながらも、むしろ地上者のてゐよりは気立てが良いともっぱらの評判
むしろてゐが凶暴すぎるのだ、なんて話もありますが、さておき、ウサギども打ち揃ってウドンゲの元へ参ります
ウドンゲはと見れば、飼い主であり姫君である蓬莱山輝夜の言いつけで、ウサギの着ぐるみ姿で空中ウサギ跳びのまっさいちゅう
ウサギにウサギの着ぐるみ、というあたりが宇宙人的なユーモアの発露であります
「しかじかこうこう」
とウサギどもが訴えますと、ウドンゲ着ぐるみのままで思案顔、
「あなたたちの不満はわかるわ。でもねぇ……」
しがない飼いウサギの分際では、永遠亭の予算に口を出すなど五つの難題、どだい無理
「そんなことは」
期待していません、とウサギども、「ただ、うちらの訴えを、御方様にお伝えして欲しいので」
「……あっそ」
言い知れぬ不満を感じつつも、ウドンゲ、ウサギどもの依頼を引き受けようという心意気
「とはいっても、本当に、伝えるだけだからね。あんまり期待しないでよ」
「期待なんて」
全然していません、ダメで元々です、とくちぐちにさえずるウサギども
「あぁそう……」
度し難い寂しさに駆られながら、ウドンゲは事の次第を輝夜に告げることを約束いたします
といっても、もとより自分からのこのこ出向くわけにはいかず、お呼びがかかるまではどうにもこうにも動けません
ウサギどもが成功報酬の前払いとして置いて行ったニンジンバーを齧っていると、彼女の師匠であるところの永琳がやって参ります
「あらウドンゲ。なんて格好しているの? まるでウサギじゃあないの」
「いや、ウサギですけど」
「知ってるわよ」
月人のジョークは難解であります
「そんなことより、イナバどもが騒いでいたようだけど。何かあったのかしら」
「は。それは」
「ウドンゲは何か知っていそうね」
「それは……その」
「新作の自白剤があるの。試してみようかしら」
「実はこうです」
ウドンゲ我が身かわいさに、すぐさま事実をありのままに報告
「ふぅん。……で? まだ姫には言っていないのでしょうね」
ウドンゲがうなずくと、永琳うすらと笑み浮かべ、
「なら結構。……くっくっく。姑息な手を使うものね、あの鳥娘も」
「はぁ? ……あー、蓬莱人ですか?」
「そうよ。あの忌々しい人間が、こちらを撹乱しようと、ウサギどもを扇動したにちがいないわ」
「そうかなぁ……」
「そうなの」
「そうですね」
「えぇ。だから、姫に報告するには及ばないわ。こちらで……始末をつけないとね」
「でも、どうするんです?」
「そうねぇ。あなたならどうするかしら」
「そりゃ、……ちょっとくらいは、ニンジンの量を増やしてやるとか」
「馬鹿」
「ウサギなのに」
「うちにどれだけウサギがいると思ってるの? むしろ減らしたいくらいよ」
「じゃあ、このまま据え置き……?」
「薄馬鹿」
「薄くなってるのによけい耳が痛い」
「それじゃあ、連中も収まらないでしょ。手下の勤労意欲を殺いでどうするのよ」
「それじゃ、どうしたらいいんです?」
ニタリ、と人の悪い笑みが似合う永琳であります
「ウドンゲは」
「嫌いです」
「まだ、何も言っていないじゃあないの」
「……どうせ、ろくでもないことを押し付けられるんでしょうから」
失礼ね、と永琳は笑い、「ろくでもないってことはないわよ……ちょっと痛くて、わりと辛くて、かなり痒いかもしれないけど」
「……痒い!?」
悪人と小悪人は密談のすえ、ウサギどもを呼び集めていうには
「あなたたちの言い分はわかったわ。とはいえ、そうそうニンジンの量を増やせるほど、うちの家計は温かくないの。でもそれではあんまりだから」
永琳がなおいうには、「そこで妥協案として、ウドンゲに一肌脱いでもらうことにしたわ」
「と、いうと?」
簡単なことよ、と薬師は片目をつむって、「ウドンゲにあなたたちのニンジンを管理させる。この子を倒せたら――その日のニンジンは独り占めよ」
「……はぁぁ?! ちょ、師しょ……」
う、どういうことですか! と言う暇もあらばこそ、目の色を変えたウサギどもが、いっせいにウドンゲに飛びかかってくるという
「ま、まだ私は持ってないって……!!」
しかし欲望の虜じかけとなったウサギどもには声も届かず、やむなくウドンゲきりきり舞いで応戦しようという寸法
何ンといっても苦しいのは、お得意の狂気の瞳が効かないこと
何せ相手はすでに、欲に狂っております
やむ得ずウドンゲパンチやウドンゲキック、ウドンゲヒップアタックを繰り出してどうにかウサギどもを撃退していきます
ばったばったと倒れるウサギども、ところがやっと片付いたと安心したウドンゲに、ひときわ身のこなし鋭い影が肉薄しようという
「……てゐっ!?」
「――ひゅっ」
伸びた爪がウドンゲの肩口をかすめ、繰り出された蹴りは顎に紙一重であります
「あんたは無関係じゃないのっ!」
「ウサギなら、みんなニンジンは美味しいものっ」
理屈も何もありゃしない、うなり声とともに跳躍、ウドンゲの間合いを侵す地上の狡兎であります
(制空権は!)
渡しはしない、と視線一閃ウドンゲ目線
「シャハッ」
奇声とともに、身体を折るてゐ
(しめたッ)
と、ウドンゲの安堵一瞬、
「うぐっ!?」
したたかに、脇腹をえぐられ横転
(効いたふりッ!)
ゴロゴロと転がり、深手を確認
欲望に猛った相手に、弱った視線では、効かぬも道理というところ
そこへ間近に迫る、荒い息の主はてゐであります
「イィーーーッ!!」
雄たけびとともに迫り来る野獣、その名はてゐ
「…………っ!」
とっさに、ウドンゲが放り投げたのは
「……オフッ!!」
食べかけのニンジンバーであります
欲に駆られた目線が、そちらにくぎ付け
その間隙、なんで逃しましょう
ウドンゲの魔視線がうなりをあげて、てゐの目を、脳髄を、貫いて貫通いたします
断末魔の声を聞いて、ウサギどもの野望がついえたと自覚するウドンゲでありました
その後、永琳がウサギどもを懐柔すべく、
「これからはニンジンを月に三十本、ニンジンジュースは年に十二回支給する」
と伝えたところ、ウサギどもはもろ手を上げて大喜びし、永琳を徳としたということであります
いっぽうウドンゲはといえば、姫にたまわった着ぐるみをボロボロにしたかどで、さんざん折檻されたとか
鈴仙・U・イナバ、受難の一幕であります
♪ニンジンを 食べるときには 落ち着いて
喉につめるな 丸呑みはするな
きょうもきょうとて、ウサギどもの歌が鳴り響く永遠亭の食事どきでありました
きょうもきょうとて、ウサギどもがひしめきあい、そぞろ耳寄せあっていようという
そやつらがぴょんぴょん跳ねながら密談するには
「ちょいと思うんだけどね」
「なにさ?」
「うちらはこれだけ働いているのに、その報酬ときたら一日一本のニンジン、月に一度のニンジンジュース、というのはどうにも理不尽じゃあないかな」
「それもそうだね」
といったぐあいに、待遇面での不満を訴えるという次第
そこでウサギどものお頭格である、因幡のてゐに談判することと相成ります
「かくかくしかじかで」
と、ウサギども、「もう少し、分け前をいただけませんか」
「しゃっ」
聞くやてゐ、両目吊り上げ耳跳ね上げ、牙むき出して形相すさまじく、
「きさまら化けウサギふぜいが、小癪にもそんな注文をつけてくるとは。傍らいたいわ」
とて、ウサギどもを当たるをさいわい殴りのめし蹴りのめし、耳を結びつけてブン回し、ちぎっては投げちぎっては投げるという大立ち回り
伊達に永遠亭いちの暴れん坊と呼ばれてはおりません
ウサギども、べそかきながらほうほうのていで退散するという始末
「考えてみれば」
結ばれた耳をほどきながら、ウサギども、「お頭は話が通じるお方じゃあなかった」
「それもそうだわ」
そんなら初めっから行かなければいいところですが、まァそこが畜生の浅はかさであります
「むしろ、鈴仙さまにお願いしたほうがいいのでは?」
「それはそうね」
鈴仙・優曇華院・イナバ、月から来た宇宙ウサギながらも、むしろ地上者のてゐよりは気立てが良いともっぱらの評判
むしろてゐが凶暴すぎるのだ、なんて話もありますが、さておき、ウサギども打ち揃ってウドンゲの元へ参ります
ウドンゲはと見れば、飼い主であり姫君である蓬莱山輝夜の言いつけで、ウサギの着ぐるみ姿で空中ウサギ跳びのまっさいちゅう
ウサギにウサギの着ぐるみ、というあたりが宇宙人的なユーモアの発露であります
「しかじかこうこう」
とウサギどもが訴えますと、ウドンゲ着ぐるみのままで思案顔、
「あなたたちの不満はわかるわ。でもねぇ……」
しがない飼いウサギの分際では、永遠亭の予算に口を出すなど五つの難題、どだい無理
「そんなことは」
期待していません、とウサギども、「ただ、うちらの訴えを、御方様にお伝えして欲しいので」
「……あっそ」
言い知れぬ不満を感じつつも、ウドンゲ、ウサギどもの依頼を引き受けようという心意気
「とはいっても、本当に、伝えるだけだからね。あんまり期待しないでよ」
「期待なんて」
全然していません、ダメで元々です、とくちぐちにさえずるウサギども
「あぁそう……」
度し難い寂しさに駆られながら、ウドンゲは事の次第を輝夜に告げることを約束いたします
といっても、もとより自分からのこのこ出向くわけにはいかず、お呼びがかかるまではどうにもこうにも動けません
ウサギどもが成功報酬の前払いとして置いて行ったニンジンバーを齧っていると、彼女の師匠であるところの永琳がやって参ります
「あらウドンゲ。なんて格好しているの? まるでウサギじゃあないの」
「いや、ウサギですけど」
「知ってるわよ」
月人のジョークは難解であります
「そんなことより、イナバどもが騒いでいたようだけど。何かあったのかしら」
「は。それは」
「ウドンゲは何か知っていそうね」
「それは……その」
「新作の自白剤があるの。試してみようかしら」
「実はこうです」
ウドンゲ我が身かわいさに、すぐさま事実をありのままに報告
「ふぅん。……で? まだ姫には言っていないのでしょうね」
ウドンゲがうなずくと、永琳うすらと笑み浮かべ、
「なら結構。……くっくっく。姑息な手を使うものね、あの鳥娘も」
「はぁ? ……あー、蓬莱人ですか?」
「そうよ。あの忌々しい人間が、こちらを撹乱しようと、ウサギどもを扇動したにちがいないわ」
「そうかなぁ……」
「そうなの」
「そうですね」
「えぇ。だから、姫に報告するには及ばないわ。こちらで……始末をつけないとね」
「でも、どうするんです?」
「そうねぇ。あなたならどうするかしら」
「そりゃ、……ちょっとくらいは、ニンジンの量を増やしてやるとか」
「馬鹿」
「ウサギなのに」
「うちにどれだけウサギがいると思ってるの? むしろ減らしたいくらいよ」
「じゃあ、このまま据え置き……?」
「薄馬鹿」
「薄くなってるのによけい耳が痛い」
「それじゃあ、連中も収まらないでしょ。手下の勤労意欲を殺いでどうするのよ」
「それじゃ、どうしたらいいんです?」
ニタリ、と人の悪い笑みが似合う永琳であります
「ウドンゲは」
「嫌いです」
「まだ、何も言っていないじゃあないの」
「……どうせ、ろくでもないことを押し付けられるんでしょうから」
失礼ね、と永琳は笑い、「ろくでもないってことはないわよ……ちょっと痛くて、わりと辛くて、かなり痒いかもしれないけど」
「……痒い!?」
悪人と小悪人は密談のすえ、ウサギどもを呼び集めていうには
「あなたたちの言い分はわかったわ。とはいえ、そうそうニンジンの量を増やせるほど、うちの家計は温かくないの。でもそれではあんまりだから」
永琳がなおいうには、「そこで妥協案として、ウドンゲに一肌脱いでもらうことにしたわ」
「と、いうと?」
簡単なことよ、と薬師は片目をつむって、「ウドンゲにあなたたちのニンジンを管理させる。この子を倒せたら――その日のニンジンは独り占めよ」
「……はぁぁ?! ちょ、師しょ……」
う、どういうことですか! と言う暇もあらばこそ、目の色を変えたウサギどもが、いっせいにウドンゲに飛びかかってくるという
「ま、まだ私は持ってないって……!!」
しかし欲望の虜じかけとなったウサギどもには声も届かず、やむなくウドンゲきりきり舞いで応戦しようという寸法
何ンといっても苦しいのは、お得意の狂気の瞳が効かないこと
何せ相手はすでに、欲に狂っております
やむ得ずウドンゲパンチやウドンゲキック、ウドンゲヒップアタックを繰り出してどうにかウサギどもを撃退していきます
ばったばったと倒れるウサギども、ところがやっと片付いたと安心したウドンゲに、ひときわ身のこなし鋭い影が肉薄しようという
「……てゐっ!?」
「――ひゅっ」
伸びた爪がウドンゲの肩口をかすめ、繰り出された蹴りは顎に紙一重であります
「あんたは無関係じゃないのっ!」
「ウサギなら、みんなニンジンは美味しいものっ」
理屈も何もありゃしない、うなり声とともに跳躍、ウドンゲの間合いを侵す地上の狡兎であります
(制空権は!)
渡しはしない、と視線一閃ウドンゲ目線
「シャハッ」
奇声とともに、身体を折るてゐ
(しめたッ)
と、ウドンゲの安堵一瞬、
「うぐっ!?」
したたかに、脇腹をえぐられ横転
(効いたふりッ!)
ゴロゴロと転がり、深手を確認
欲望に猛った相手に、弱った視線では、効かぬも道理というところ
そこへ間近に迫る、荒い息の主はてゐであります
「イィーーーッ!!」
雄たけびとともに迫り来る野獣、その名はてゐ
「…………っ!」
とっさに、ウドンゲが放り投げたのは
「……オフッ!!」
食べかけのニンジンバーであります
欲に駆られた目線が、そちらにくぎ付け
その間隙、なんで逃しましょう
ウドンゲの魔視線がうなりをあげて、てゐの目を、脳髄を、貫いて貫通いたします
断末魔の声を聞いて、ウサギどもの野望がついえたと自覚するウドンゲでありました
その後、永琳がウサギどもを懐柔すべく、
「これからはニンジンを月に三十本、ニンジンジュースは年に十二回支給する」
と伝えたところ、ウサギどもはもろ手を上げて大喜びし、永琳を徳としたということであります
いっぽうウドンゲはといえば、姫にたまわった着ぐるみをボロボロにしたかどで、さんざん折檻されたとか
鈴仙・U・イナバ、受難の一幕であります
♪ニンジンを 食べるときには 落ち着いて
喉につめるな 丸呑みはするな
きょうもきょうとて、ウサギどもの歌が鳴り響く永遠亭の食事どきでありました
所詮は畜生よのうw
A朝三暮四・・・言葉だけ変わっただけで、内容は一切変って無い事。
得点 0点
一日一本だと年365本(四年に一度366本)。
一月30本だと360本。
・・・・・・先生、ヤツはさりげなく悪魔です。