がば、と跳ね起きる。
100%の羽毛布団。
礎となった同胞を想い、しばし滂沱する。
「あ、鳥か?私」
舐めるな小僧。
妖ですよ、アヤカシ。
確かな心のつながりを感じた追悼の涙は、原点の発見により霧散した。
ふと窓の外を見る。
これ以上ない晴天。
「わーい」
こんな日に出かけない手はない。
「腕が鳴るわい」
帽子をかぶり、飛び出した。
我が名はミスティア・ローレライ。
キングオブ夜雀だ。
存在感は薄い。
名づけ親に名前を間違えられるなんてザラだ。
「……」
涙ぐむ。
数分後、涙を拭いて立ち上がる。
いい女に涙は似合わないのだ。
さておき晴天。
なので、本日は私の実力を天地に知らしめようと思う。
「無軌道に、慎ましく」
風もあったかいし、いうことなしだ。
「さて、手ごろな奴はいないものか」
うろうろ飛び回る。
うろうろ。
うろうろ。
「いやしない」
用のないときには唸るほどいるくせに。
「愚民どもめ」
「あんたが筆頭でしょ」
「むん?」
不意の侮辱。
だが気にしない。
振り向くと色々と発達不全な羽虫がいた。
「おおリグル。いいところに」
「ん?なんか用だったわけ?」
「うむ。……そいやっ」
奇襲する。
視界をふさぎ、背後に回る。
「覚えておけ、貴様を落としたのはミスティア・ローレライだ」
とん、と首筋に手刀を落とす。
「あう」
それでリグルはゆっくりと落下していった。
「他愛のない。が、1ポイントゲットだ」
目的は謎のポイント集めになっていた。
次のポイントを探す。
道中、決め台詞について思いを巡らせていると、結界近くまできてしまったことに気づく。
「ふむん」
近くの神社に頭の温かそうな巫女がいたはずだ。
次のポイントを巫女に定めて、神社を目指した。
「いた」
あっさり発見。
縁側で茶をすすっていた。
不意打ちは高貴な我が志に反する。
まずは声をかける事にした。
ちなみに声をかけた後奇襲するのは、志に反しない。
都合のいいマイ志だった。
「巫女巫女、聞いてくれ」
「あらあんた……たしか…ミスティア……ロラレーイ?」
「違う。ラとレが逆だ」
「ミスティア・ロレラーイ」
「変な所を伸ばすな」
「はいはい。イロレラー・ミコシバ」
「ウォイ!」
跡形もねー!
いかん。手玉に取られている。
気にしちゃだめだ。
マイペース。マイペース。
「巫女巫女、聞いてくれ」
「だからなによ」
「夜は目が見えなくなるよ!」
――夜盲 夜雀の歌
しょっぱなから必死。
――霊符 夢想妙珠
かき消える我が奥義。
大人げねー。
「大人げねー」
声に出してみる。
コブシが飛んできた。
「きゅう」
とぼとぼ帰る。
「あ、ちょっと待ちなさい」
「なんだいお嬢さん!」
罪の意識に囚われて飯でもおごってくれるのか?
素敵な未来図に、歯を光らせて振り向いた。
「あんた、この前ちゃぶ台の上のおはぎ、食べたでしょう」
「そんなことするわけないでしょ」
失礼な話だ。人を呼び止めて、おはぎ泥棒呼ばわりだ。
「あんたの羽が落ちてたんだけど」
「知らないったら」
「そう。まあまた仕入れるからいいけど……それで、こし餡と粒餡、どっちがおいしかった?」
「粒餡!粒餡!」
諸手をあげて訴える。
――夢想封印・瞬
「大人げねー」
容赦もなかった。
今度こそとぼとぼ帰る。
湖のほとりに出た。
湖面に顔を映してみる。
見れば見るほど良い女だ。
色気がにじみ出ている。
ならば足りないのは何だ。
童女のような透明なコケティッシュさか?
両手を広げてくるくる回ってみる。
「ぐえー」
目が回った。
しかもこれ傍から見たら気の毒な子一直線だ。
少し悲しくなる。
そこへ、
「だ、大丈夫……?」
気遣う声。
一瞬で笑顔を作る。
「もちろんです。フロイライン」
「そ、そう」
一瞬で引かれた。
ちくしょう。
「ん?」
よく見ると目の前の女はアリス・マーガトロイドだった。
が、いつもと違う。
妙な襷をかけていた。
『ともだちひゃくにんできるかな』
達筆だった。
しばし思案。
「なるほど」
魔理沙の仕業か。奴の字だ。
アリスを弄り回して楽しもう、という腹だろう。
理解すれば行動は早い。
「アリス」
「な、なに?」
「友達になろう」
「えっ……いいの?」
心底嬉しそう。
……本当に友達いないんだなあ。
「いいとも。だから後ろを向いてくれ、マイフレン」
「うん!」
くるりと背を向けてくる。
疑いを知らない。
いい子だ。
だがそれが命取りになる。
「そりゃ」
襟あしをつまんで背中に氷を入れる。
「きゃっ……」
10センチほど飛び上がった。
おーおー、可愛らしいことで。
振り向いたアリスの目にじわりと涙が浮んだ。
「ひどいよ……」
寂しげに飛び去った。
「ウィナー」
「ウィーナー」
これで2ポイント。
がっし、とチルノと腕を組む。
「いいタイミングで来てくれた。兄弟」
「まかせなさいよ。…兄弟?」
「うむ。2ボス同盟」
「あー……なるほど」
「時に兄弟」
「なに?」
「飯をおごってくれ」
水かけられた。
世知辛い。
仕方なく一人、湖を離れる。
「おい、ミスティア。よくもやってくれたな」
そこに声がかかる。
「んぬ?」
魔理沙だ。
やはりさっきのアリスは魔理沙に唆されていたんだろう。
が、それはともかく……
早い。
アリスが泣き去ってから五分と立ってないぞ……。
ここから魔理沙の家までは優に十五分はかかるはず。
神速で泣きかえって、神速で泣きついて、神速で魔理沙はここまで来たのか。
甘甘だ。
「お前のおかげでアリスは帰ってくるなり泣いて閉じこもっちまった」
「そりゃお気の毒様」
「アリスを泣かせる奴は許さねえ」
「……もともとアリスを泣かせるためのイベントだったんでしょ?あれ」
「ああ。だが私以外の奴がアリスを泣かせるのは許可できない」
うむうむ、と魔理沙は頷く。
ダメな人だなあ。
「そういうわけで」
――恋符 マスタースパーク
「ぎゃー」
上機嫌で魔理沙は帰っていった。
「くう」
なんたる傍若無人さ。奴には謙虚さが決定的に欠けている。
「神にでも選ばれたつもりか」
ロン毛の団長に耳を切られてしまえ。
歩きながら、しばらく内心で罵倒していると気も晴れてきた。
「さて、現在のポイントはー?」
初心(でもないが)にかえる。
「しょんぼり」
2ポイント。
いかん。まったくたまっていない。
手早くポイントを溜めなければ夜になってしまう。
もし夜になってしまったら……特に問題ないな。
だが妙な悔しさがある。
「さっさと集めてしまおう」
それがいい。
ふと見れば、膝を抱えてゆらゆらと左右にゆれる門番がいた。
「うわあ」
どうやら紅魔館まで来てしまったようだが、これはあんまりな出迎えではなかろうか。
「らんらん、らんらら、らんらんらー……」
ナ○シカ。
こわっ。
だが同時に憐憫の情も生まれる。
強さとは武力のみに非ず。
この哀れな門番を勇気付けることもポイントゲットにつながる気がした。
というか、そうしよう。
「どうしたんだい、お嬢さん!」
うなだれる門番の肩を叩いて笑顔を見せる。
「らんらんらんら、らららららー……」
「いや、お嬢さん…」
「らんらんらんら、らららららー……」
「……」
「らんらららー、らん、らー…」
厳しすぎ。
ひぃ。虚ろな顔つきで彼岸花をむしりはじめた。
死んだ魚だってもう少し活力に溢れてる。
ほっとくか。
だがそれは逃げることになる。
出来ない。ローレライの名が許さない。
再び挑戦。
「ほ、ほら、もう少し明るく仕事しようよ、ね?」
「笑ってれば仕事も楽しいっちゅうか……」
「――中華?」
「え?い、いやそんなことは何も……」
「――中華……」
「い、いやだからそんなことは言っちゃいないって」
「――チャイナ」
「な、なに!?いやそれも、そもそもあんたしょっちゅう極彩色のチャイナ服着てるじゃないか」
「――中国…!」
「ぐ、偶然、偶然だって、そんなの、たまたまよ!」
「偶然……そう、本当に?」
ぐっ、と親指を立てる。
「当たり前じゃないか。中国」
――崩拳
「ぎにゃー」
お約束って厳しい。
しかし最後の一言はナチュラルに出てきた。
本気で中国。
うーむ。哀れだ。
やれやれ。またしてもポイントゲットし損ねた。
まいったね。
何がいけないんだ。
老獪さか?
年を重ねたしたたかさが欠けているというのか?
ふむ…。
だがダメだ。
老獪さを備えてはいけない。
アレは年くったキャラが復権のため見せる最後の足掻きであり、前途有望なルーキーたるこの私には必要のない物だ。
「うむ、路線変更は無しで」
ありのままの君が好き。
「そんな台詞いわれてー」
じたばたした。
「おや?」
見上げるとメイドが一人飛んできた。
ちょうどいい。鬱門番から奪い損ねたポイントを巻き上げてやろう。
早速飛び上がる。
「おーい、そこいく赤い小娘の従者ーぁああ!?」
一瞬で地面に押し倒される。
早いなんてもんじゃない。
上空50メートルくらいにいたろう、あんた。
「もう一度、言ってごらんなさい……」
ぎゃー。
死ぬほどこえー。
ビキビキ音が立つくらい怒ってるくせに笑顔は崩さない。
老獪さってこれか?
……まったく違うな。
したたかさとは程遠い、気持ちいいほどストレートな脅迫だ。
「お嬢様の侮辱は許さない」
私を押し倒すメイドの背後にズラリと並ぶナイフの群れ。
「許さない。許さない」
「お慈悲を、チャンスをください」
本物だ。
修羅100%。
ピュアな想いは美しい、なんて誰が言ったんだ。
「先ほどの台詞、もう一度言ってごらんなさい…」
「は、はいぃ」
今必要なのは世辞だ。
歯の浮くようなリップサービスを提供できなければ私に明日はない。
できるのか、私に。
曲りなりとも一つの怪異の長として君臨する私に、矜持をすてたおべんちゃらなど紡ぎ出せるのか。
緊張に喉がなった。
「薔薇よりも紅く、なお美しき紅魔の姫君と、その身を守る剣たらんと研ぎ澄まされた美貌の騎士よ、あなた方は月よりも気高い」
死ぬほどたやすく口に出来た。
「あらー、分かってるじゃない」
再び起こる瞬間芸。
瞬きするまもなく地に脚をつけ、ぎゅむ、と抱きすくめられる私。
「そうなのよ、姫とナイトなのよ、ええ、ええ、貧相な巫女なんかには出来ないキャストなのよねー」
「苦しいです…卿」
恐ろしく完璧な胸に顔を埋めたまま、ぐりんぐりんと左右に振られる。
おお…やーらかい。
呼吸を代償に得られる至福。
いつでも再生できるように、脳に刻んでおこう。
「よく分かってるじゃない、あなた。名前は?うちで働いてみない?」
「み、ミスティア・ローレライ……労働は…間に合ってますので……」
「そう?惜しいわね。まあ、いいわ。私は十六夜咲夜。いつでも紅魔館にいらっしゃいな」
にこにこと去っていった。
「ぷはぁ」
呼吸再開。
今なら空気に金を払えるね。
しかし胸の感触も好きだ。
「咲夜おねーさんかあ」
にぎにぎ、と手のひらを開閉する。
「いいにおいだったなあ」
うっとりだった。
「……はっ」
いかん、懐柔されそうになった。
「はん、口ほどにもない」
しゅっしゅっ、と空間に正拳突きを入れる。
円を描くように腕を回し、心臓と臍の前辺りで手刀を構えて腰を落とす。
「次はないと思いたまえ」
何処から見ても申し分のない勝者の風格。
よし、ポイントゲットとしよう。
3ポイントだ。
「ふふふ、自分の才能が怖いわ」
「そうなんですか?」
「む?おお、夜雀その一か」
「なんですか、その一って……」
「聞け聞け、今日は3ポイントだ」
「はあ、どうでもいいですけど、もう夕方です。そろそろ帰りますよ」
「なんだと?私の今日一日の苦労がどうでもいいだと?」
「今日はグラタンですよ」
「わーい」
グラタンは大好きだった。
「ふんふんふーん」
「もう、なんですかその鼻歌は」
「いいだろー別に。ほら手、繋いでやるぞ」
「はいはい」
「な、なんだよー。私は別に、お前がそんな目で……」
「はいはい」
「…………」
「しょうがないですねえ……ほら」
「あ……、ふふーん」
「もう、ぶんぶん手を振らないで下さい」
「ふんふんふーん」
「困った人ですね…」
ポイントもたまった。部下の信頼も厚い。
「言うこと無しだ」
「そうですか」
「麻布に男性ストリップショーでも見に行くか?」
「いきませんよ……」
「ふんふんふーん」
「もう……」
今日は花丸だ。
大変面白かったです。
目で追うたびに、ストレートにカーブを交えつつ心臓まで届いてくる文字。
全てが素晴らしくて、つい感想を書きたくなってしまいました。
実によいセンスをしておられます。脱帽しました。
「そんな台詞言われてー」
かわいいよミスティ
お馬鹿さ加減がたまりませんでした。
「大人げねー」最高です。
咲夜さんって貧ぬーじゃなかっt・・・ナ、ナイフg(クロックコープス
あちらこちらをふらふらと渡り歩く夜雀は可愛らしくて小憎らしい。
あけっぴろげにぶつけてくる色彩々な感情に、つい小さな笑いを漏らしてしまいます。
小さな物語ですが味の方は良質。
大変美味しゅう御座いました。ご馳走様です。
グラタン食べたくなってしまいました。こんな時間なのに。
アホお子様なミスチー最高!
ここでニヤニヤw
夜雀に快い日常を。
移り気にも見えるミスティアが、らしくて良かったです。