もぞもぞと2つの塊が蠢いている。魔理沙はパチュリーに抱きついたまま離れようとはしなかった。パチュリーは顔を真っ赤にしながらもなんとか魔理沙を引き剥がそうとするが、非力なパチュリーの腕で魔理沙に勝つことは不可能だった。
「魔理沙、どうし……きゃあっ!!」
そうしているうちにパチュリーは足をもつれさせ、床に倒れこんでしまった。魔理沙はパチュリーにしがみついたまま一緒になって床に転がる。なんとなく、魔理沙がパチュリーを押し倒しているような格好だが、2人ともそれには気づいていなかった。
「ど、どうしたっていうのよ魔理沙!」
「……うにゃー」
「へ?」
混乱状態のままパチュリーがもがいていると、不意に魔理沙の口からそんな言葉が漏れだした。
誰が聞いても、猫の声としか思えなかった。
「にゃあ」
「ま、魔理沙?」
魔理沙は一声そう鳴いて、いっそうパチュリーに頬を摺り寄せる。その様子は確かに、猫が甘えているようように見えた。
(何やったの?あれ)
改めて美鈴が訊き直す。何から何まで謎だらけな魔理沙の行動に、美鈴はまたも疑問符だらけな表情になる。見ている分には面白いのだが、果たしてこれをどう解釈すれば魔理沙の心情を読み取ることができるのか。
小悪魔はそんな美鈴にウインクした。
(簡単ですよ。魔理沙さんに獣化の魔法をかけただけです)
小悪魔はさらっと答えた。
(獣化?)
(はい。ヴェルハビオっていいまして、もともとは動物の習性をまとめた本なんです。それに具現化の魔法を足し合わせて魔理沙さんにかけたんですよ)
小悪魔は先ほど手にしていた本を美鈴に見せる。中のページには、確かに様々な動物の図が描かれていた。
(その中で、猫の習性を入れてみたんです)
猫は懐く場合と懐かない場合とで両極端である。その習性に魔理沙の心情を投影させることで、魔理沙の心を行動として分かりやすく見ることができるのだ。
(魔理沙さんがパチュリー様に好意的であればあんな風になりますし、仮にそうでなかったとしても気づきにくいんですよ。魔法をかけられたことのほうが前面に出ますからね)
そう言って、小悪魔はにっこりと笑う。
つまり魔理沙が好意的であればパチュリーに懐く。そうでなければ懐かないというわけだ。実に簡単な見分け方だ。魔理沙が懐けば小悪魔の思い通りであるわけだし、また懐かないとしても、パチュリーから見れば魔理沙が魔法をかけられたことしか分からない。それ以上には頭が回らないのだ。
好意的であれば万事オーケー。そうでなくてもパチュリーのカドは立てない。おまけに結果からいけば、物理的な距離は縮まっているわけである。
美鈴は感心した。強制的であることには間違いないが、それに関して見事なカモフラージュが施されている。
「ま、魔理沙!やめてってば!ど、どこ触ってるのよ!」
「うにあー」
小悪魔が説明している間にも、猫となった魔理沙はパチュリーに猛烈なアタックをかけていた。面白いのでもう少し見ていることにする2人。
「ちょっ……!やめっ……!」
「うにー」
(……うっひゃー)
小悪魔と美鈴は同時にため息をついた。
猫魔理沙はパチュリーの胸に顔をうずめる。さらにそこから暖かい場所を求めて、パチュリーにのしかかるように体を寄せる。パチュリーは完全に押し倒された格好になってしまい、全く抵抗できなかった。魔理沙はパチュリーの脇に腕を無理矢理通し、背中に手を回して抱きしめる。それから一旦顔を胸から離すと、今度はパチュリーの顔に頬擦りを始めてしまった。
「………………!!!」
パチュリーはもう完全に硬直してしまっている。一瞬だけ体を震わせたところを見ると、恐らく魔理沙の息が耳にでも当たったのだろう。
(ねえ。これって相当好きって事なんじゃないの?)
(え、ええ。これはちょっと……予想外でした)
小悪魔と美鈴も硬直している。小悪魔としても、魔理沙がここまでパチュリーにべたべたになるとは思っていなかったのだ。魔理沙はパチュリーのことを嫌いじゃない程度にしか思っておらず、パチュリーが一方的に魔理沙のことが好きなのだと思っていた。しかし、現実は予想の遥か上を行く。
これならば背中を押すなんて大げさなことはやらなくてもよい。
背中を小突くくらいで十分だった。
小悪魔と美鈴は2人を凝視していた。小悪魔はこの状態で魔理沙を元に戻すつもりでいたのだが、それは完全に忘れて見入ってしまっていた。
だから、もはや何も見えていないだろうパチュリーに見つかるなどとは思っていなかったのだ。
「……あ?」
ふと、魔理沙に抱きつかれたままのパチュリーの焦点が合った。それは、本棚の一角に結ばれている。
そこは、小悪魔と美鈴のいる場所だった。
「あ……あ~!!」
「あ、やば!」
「見つかった!」
「何見てるの!……っていうかこれあんたがやったんでしょー!!」
パチュリーが叫ぶ。
証拠がないから濡れ衣もいいところだが、犯人であることには間違いないので、小悪魔と美鈴は慌てて本棚の陰に隠れた。しかし時既に遅し。瞬時に思考回路が回復したパチュリーは、魔理沙を抱えたまま一気に魔力を放出した。
「私で遊ぶなんて……木符『グリーンストーム』!!」
パチュリーは1枚のスペルカードを放った。瞬間、緑色の鋭い妖弾が2人のいるところに3方向から襲い掛かる。小悪魔と美鈴にとっても不意打ちに近かったので、逃げ切る前に巻き込まれてしまった。
強風に煽られ、まともに進むことができない。踏ん張っているうちに妖弾はますます増え、本棚を巻き添えにして2人を囲む。
計画は失敗だった。自分たちが影で動いていたことはばれてはならないのだ。美鈴は頭を抱えて青ざめ、小悪魔は観念して目をぎゅっとつむっていた。
妖弾が、そんな2人に迫る。
――キィン。
爆発音が、やけに遠くから聞こえた気がした。意識が薄れていっているのならそういうこともありうるだろうが、今自分の意識ははっきりしている。
「……?」
しかし体は全く痛くない。ダメージを受けた様子はなく、また周りから破壊音が聞こえるわけでもない。小悪魔は恐る恐る目を開けてみた。
「大丈夫?」
それと同時に、自分の隣にいた美鈴ではない誰かの声が耳に入った。
「あ、咲夜様」
その声に振り向くと、メイド長十六夜咲夜の顔が視界に入った。よく見ると、小悪魔と美鈴をそれぞれ脇に抱えてしゃがんでいる。どうやら、時を止めてパチュリーの攻撃から救ってくれたようだ。
「あ、ありがとうございます、咲夜様」
「あ、咲夜さん来てたんですか」
美鈴も今気づいたようで、閉じていた目を開けて咲夜を見た。咲夜は2人を解放した。とりあえず服や髪についた埃を払っておく。
「さっきから見てたけど……まあ面白いことやらかしたわね」
咲夜はにやにやしながらパチュリーたちの様子を伺っている。魔理沙にかかった魔法はまだ解けておらず、パチュリーの叫び声が聞こえていた。そんな手もあったのね、と咲夜が呟いているような気がするが、詳しく聞かないほうがいいような気がした。
「で、あれどうするの?」
なんだか収拾がつかなさそうに見えるのだろう。美鈴が咲夜と並んでパチュリーたちを見ながら小悪魔に訊く。
「もちろんあの魔法は解きますけど、それよりもまずあっちを何とかしなきゃいけないので……」
小悪魔は苦笑いしながら、先ほどまで自分たちのいた辺りを指差した。
そこはものの見事に破壊されきっていた。優秀さかけては幻想郷随一だと思われるメイドたちが既に駆けつけているが、本の整理は小悪魔にしかできないことである。散らかった本と本棚の残骸を集め片付けることはできても、本を元に戻すことはできないのだ。それに、決してメイドたちは弱くないものの、本の中には彼女たちの力を遥かに凌ぐものも存在するのだ。区画から考えるとそれはそこにはないのだが、そのこともあって図書館の片付けというのはなかなかに進みにくいものなのである。
「ええと、すみませんがお2人とも片付けの手伝いに行ってくれませんか?木屑は全部残しておいてください。本棚作り直すのに使いますから」
「あなたはどうするの?」
小悪魔の頼みに承諾した2人だったが、ふと美鈴が口を開いた。そもそも小悪魔がいなければ直すものも直せないというのに。
その言葉に、小悪魔は悪戯っぽく笑った。恐らく2人には、小悪魔の背後に何か黒いものが見えたことだろう。
「事態の収拾と、発展を狙ってきます」
黒いハードカバーの魔道書に気をつけるように言って、小悪魔はその場から飛び立った。少しして、咲夜と美鈴が片付けにいったことを気配で知る。魔道書は何日か放っておいてもなんら危険性はないのだが、個人的に早く整理してしまいたいので、小悪魔は手早くこちらのほうを片付けてしまおうと思った。
気配をさらし、小悪魔はパチュリーと魔理沙の元へと降り立った。
「パチュリー様、どうしましたか!?……って」
そして、たった今来ましたという表情でパチュリーに近づく。しかしあまり近づきすぎるようなことはしない。そのほうが不自然になってしまうからだ。小悪魔はもつれ合う2人をしっかりと観察できるところで立ち止まった。
パチュリーが苛立たしげに小悪魔を睨みつける。それに対して小悪魔はパチュリーから目を逸らした。別にばれたことに対してやましいわけではない。ここから先を全て演技で押し通し、あまつさえこちらのミスさえもうやむやにしてしまうためなのだ。
「お……お取り込み中でしたか……す、すみません~……」
わざとらしく頬を赤く染めて、小悪魔はそそくさとその場を立ち去ろうとした。ちょこちょこと小走りで、しかし早すぎず。パチュリーが呼び止められるくらいの絶妙なスピードで。
「ま、待ちなさい!何勘違いしてるの!っていうかこれやったのあなたでしょうが!」
「知りませんよぉ!仕事に戻りますのでこれで!」
ごゆっくり、といらん捨てゼリフを残して、小悪魔はパチュリーの前から姿を消した。パチュリーは魔理沙に取りつかれたままだから動くことはできない。パチュリーの死角に入ると、小悪魔はほくそ笑んだ。たった二言三言なのだが、今の状態のパチュリーには何でも効くのである。その中でもより効果的な言葉を選んで小悪魔はパチュリーに叩きつけておいた。くすくすと笑いながら、小悪魔は半壊状態の本棚のところへと歩いていった。
「ありがとうございます」
そこに着くと、既に本はまとめられ、元本棚も山積みにされていた。小悪魔は咲夜と美鈴、そして片付けに入っていたメイドたちに頭を下げる。それから再び小悪魔は他の魔道書を呼び寄せた。アルイペールという魔道書をめくり、修復の呪文を唱える。木の破片を1度完全に分解し、その上で新しく構築し直す。本当は木の繊維を考えて修復したほうが強度を簡単に戻せるからいいのだが、パチュリーのスペルでほとんどが細切れにされてしまったためそれはかなわない。仕方なしに小悪魔は木屑で本棚を作り直した。強度のほうがいささか心配だが、上のほうによほど重いものを乗せない限り倒れたり壊れたりはしない。何か強い衝撃を与えれば別だが、それは他の本棚も一緒なので、実質本棚は元通りになったことになる。
「ところで、事態の収拾と発展って言ってたけど、そうなってるの?」
本棚の修復が終わると、咲夜が口を開いた。
小悪魔はその言葉にこくりとうなずく。紅髪の2人から労働者3人に名を変え、小悪魔、美鈴、咲夜の3人は今一度パチュリーたちの様子を見ることにした。先ほどは2人が動いていることがばれそうになったので、咲夜が空間を捻じ曲げパチュリーたちから3人は見えないようにした。ありがたい能力である。
覗きが安心して実行できるようになったところで、3人は見入る。
「さっきはちょっとやばかったわよねえ」
美鈴がため息混じりに呟く。
「ええ。でも、あれくらいならまだ許容範囲ですよ」
小悪魔はそれにあっさりと返した。なるべく見つからないようにやっているつもりだが、だからといってリスク発生時のことを考えないのでは策とは呼べない。
二重三重に計画を用意してこそ成功を呼び込めるのだ。だからこそ先ほどの発言もできたのである。
小悪魔の言っていた「事態の収拾」も、あながち間違ってはいないように思えた。
パチュリーも魔理沙も、今は騒ぐのをやめている。
「ふに~」
「ふにーじゃないってば……」
完全に猫化してしまった魔理沙に、パチュリーは呆れてしまっていた。立ち上がる事もできず、机を背もたれにして魔理沙に抱きつかれている。
「はあ……。これって獣化の魔法よね……。全く、人で遊ぶなんて……」
パチュリーは何かぶつぶつ言っている。愚痴なのは分かるが、それほど機嫌は悪くなさそうだった。
パチュリーがなんだかんだで嫌な気分にならないことは確信済みだ。小悪魔はそこまで考えてやっている。仮にも2人の他人を動かすのだから、より成功率の高いやり方でなければならない。シミュレーションは今日だけでなく、パチュリーの気持ちに気づいたときからずっとやっていたのだ。
いずれにしろ、成功してもらわなければ困るのである。
「とにかく、これ解かないと……」
はあ、とパチュリーからため息が漏れた。
「うにゃ?」
魔理沙がパチュリーの顔を覗き込む。
「………………」
――なでなで。
「ふにゅ~」
――なでなでなで。
そう言いながらもしばらく魔理沙の顔を見つめていたパチュリーは、おもむろに魔理沙の頭を撫で始めた。魔理沙は気持ちよさそうに目を細める。
――なでなでなでなで。
3人は無言でその様子を見ていた。パチュリーも無言で魔理沙を撫で続けている。
「……はっ!」
と、急に我に返ったのか、パチュリーが撫でるのをやめた。そして今までのことを否定するように首をブンブン振る。
「べっ別に可愛いなんて思ってないわよ!早く離れてってば!」
「うにゅ~!」
誰かに弁明するようにパチュリーは騒ぐが、全て筒抜けな3人以外は誰も聞いていないのだから言ってもあまり意味はない。慌てて魔理沙を引き剥がす作業を再開するが、まだ頭を撫でてもらいたい魔理沙はいっそうパチュリーにしがみつくだけだった。
(いい感じね)
(可愛いわあ……)
パチュリー以外にとっては微笑ましい光景に、咲夜と美鈴の頬が思わず緩む。
しかし。
その2人の横では、小悪魔が全く違う意味の笑いを浮かべていた。
凶悪さにおいて、かつてこれほどまでに小悪魔の嬉しそうな顔を、誰も見たことがなかった。もちろん今も誰も見ていない。
「ふゅ~……」
「……し、仕方ないわね」
パチュリーは魔理沙を離すことをあきらめたようだ。大きなため息が聞こえてくる。
「………………」
と、何を思ったか、パチュリーは周りを気にし出した。先ほどのように小悪魔たちが見ていないかきょろきょろと見回す。しかし、小悪魔たちがいるところは空間が曲げられていてパチュリーからは見えない。加えて、3人とも気配を初めから殺していたから動きを察知する事もできないのだ。
「……いつも、これくらい素直ならいいのに」
パチュリーは誰も見ていないと思ったようだ。魔理沙に目を向け直すと、じっとその顔を見つめる。
「ち、ちょっとだけだからね……」
(!!)
(あー!!)
咲夜と美鈴が息を飲む。
獣化の魔法を使われた者は、その間の記憶がほとんど失われる。それはパチュリーも知っているのだ。しかし自分の気持ちを素直に伝えることはできず、だからこうして隠れてしまうのだ。素直に言えないから、裏でこっそり。
パチュリーは魔理沙の顔をそっと包む。
そして、自分の顔を魔理沙に近づけていった。
(……!!)
(い、いけー!!)
何かやたらと盛り上がっている2人。
もちろんこのままでもかまわない。このまま、その行為を続けてもらってもかまわなかった。
しかし。
「……解呪」
ごく一部の空間に、小悪魔の声が響いた。
「……パチュリー?」
「……まり……え?」
目を閉じて、完全にその体勢に入ろうとしたパチュリーの耳に、魔理沙の言葉が入ってきた。
パチュリーが目を開ける。恐らく、その視界には疑問と恥ずかしさが半々に表れた魔理沙の顔がどアップで映っていることだろう。
「………………」
「………………」
パチュリーの背中に腕を回し、これでもかというくらいに抱きしめている魔理沙。その魔理沙の肩をそっと抱き、今にもその唇を奪おうとしているパチュリー。
お互い、そのまま凍っていた。
冬の雪景色のように、2人とも頭の中は真っ白だったことだろう。
500年を生きるレミリアでさえ聞いたことのないような絶叫が、無限に広がる図書館を覆いつくした。
「パチュリー?パチュリー。おーい」
およそ知識と日陰の中で生きてきた魔女が出したものとは思えない叫びを上げた後、パチュリーはそのまま気絶してしまった。それが呼吸困難になるほど声を出したからなのか、はたまた瞬間最大脈拍数が普段の100倍くらいいったからなのかは、パチュリー自身も分からないことだった。目の前にあった顔が1人で阿鼻叫喚の地獄絵図を見せ、怒号とも言えるくらいの叫びを上げた後視界から消えた。魔理沙にはそう見えたかもしれない。とにかく事情の分かっていない魔理沙は、パチュリーをゆすって起こそうとしていた。
一方それを見ていた3人のうちの2人が、残る1人に掴みかかっていた。
(なんてことすんのよ!!せっかくいいところで!!)
(素晴らしくいいタイミングで取り返しのつかないことやってんじゃないわよ!!)
今にも殴りかからんばかりの勢いで、美鈴は小悪魔の胸倉を掴んでいた。
今にも刺し殺さんばかりの勢いで、咲夜は小悪魔の頬にナイフを当てていた。
死が文字通り目の前に迫っている。小悪魔はそう感じた。
(で、でも!あれじゃ駄目なんですよ!)
息が苦しいが、それでも小悪魔は必死になって弁解する。
獣化の魔法は記憶をとどめる効果を持たない。だから、パチュリーがこっそり猫状態の魔理沙にキスをしても、それはパチュリーが魔理沙の絵か人形にキスをしたのとなんら変わりないのである。
魔理沙の気持ちを知った小悪魔の次の目的は、2人の距離を縮めること。そのためには、今度は魔理沙にパチュリーの気持ちを知ってもらわなければならない。
魔理沙がパチュリーに対して好意を持っているにもかかわらずその素振りを見せない理由。
1つはそのような方向に行かないよう魔理沙自身が自分を制御していること。或いはそこまで深い関係にはなりたくないということ。
もう1つは、魔理沙もパチュリーと同じように自分の恋心を隠しているということ。
だがどちらにしても、パチュリーの気持ちを魔理沙に知ってもらわなければ話にならないのだ。パチュリーの恋が実るか実らないか、どちらかの結果に行き着くためには魔理沙がパチュリーのその心を知らなければならない。
だから、小悪魔は魔理沙にかけた魔法を解いた。たとえ未遂であっても、少し考えればパチュリーが何をしようとしていたかは明白だ。魔理沙がそれに気づけば、あとは自然と返事が来るはずである。
それがいい方向なのか悪い方向なのか、そこまでは小悪魔にも分からないが。
小悪魔は賭けていた。自分が、パチュリーが勝てる方向へ。
「ん……?」
かなり乱暴な方法ではあったが、パチュリーは意識を取り戻したようだ。しかし先ほどからかなり高い密着度を維持し続けており、今も魔理沙がパチュリーの肩を掴んで見つめあう形になっている。瞬時に自分と魔理沙との距離を読み取ったパチュリーは、床にへたり込んだまま後ずさりをしようとした。だがその先にあるのは壁。魔理沙は動いていないのだが、結果的に追い詰められてしまっている。ごん、とパチュリーの後頭部が壁にぶつかった。
「大丈夫か?」
魔理沙がパチュリーの顔を覗き込む。ちっとも大丈夫でないことは明白なのだが、パチュリーは予想通りこくこくうなずいて魔理沙をそこからどかそうとした。
だが、魔理沙も心配くらいはする。昨日もそうだった。パチュリーが別の意味で具合の悪いことは誰にでも分かる。昨日のように、魔理沙は後ろに下がろうとするパチュリーを抱え上げた。
「だ、だから平気だってば!降ろして!」
「いいからいいから。そんなに寝たくないならとりあえずあっちに戻るぞ」
不健康ゆえに体重の軽いパチュリーをまたも「お姫様抱っこ」で魔理沙は運ぶ。そして、パチュリーに負担がかからないよう丁寧に椅子に座らせた。自分もまたその隣の椅子に座る。
「うーん。一体何がどうなってるか分からないんだが……」
魔理沙は後頭部をさすりながら呟く。記憶を失っていたのだから当たり前だろう。魔理沙の視点でものを見てみると、本を読んでいたと思ったらいきなりパチュリーの顔が目の前にあった、というところだろうか。
「べ、別にどうもなってないわよ」
珍しく本も持たず、魔理沙から目を逸らしてパチュリーが答える。実際は冬が突然春になったくらいの大変化が起きていたのだが、パチュリーは口が裂けてもそんなことは言えないだろう。
「……なあ、パチュリー」
「……何よ」
パチュリーはできるだけ口を尖らせて話している。普段から不機嫌そうな口調ではあるが、それが今のところパチュリーにとって最大の抵抗なのだろう。
だから、魔理沙がもしもその言葉を言っていたのなら、それはおそらく博麗大結界の向こうまで吹き飛んでしまっていただろう。
キスしてもいいぜ、と。
そうなると思っていた。雰囲気から見れば覗いていた3人は同じ事を考えていた。ことに小悪魔はそれを確信していた。
何度もシミュレーションしたのだ。どのような状況でどのようなことをすれば2人がどうするか。気づかれないようにするために美鈴に手伝ってもらった。この雰囲気を壊さないために、咲夜に特別なメイドの割り当てを考えてもらった。舞台を作り、役者を揃え、小道具も完備し、小悪魔の考えた脚本通りに事が進むと思っていた。あらゆる可能性を考慮し、失敗したときの事も頭に入れておいた。最初から最後まで、二重にも三重にも策を用意しておいた。
だが――。
その緻密に組み込まれた計画は、根こそぎ破壊されることになる。
「可能性」さえも破壊できる能力を持った、1人の幼い少女によって。
魔理沙がその言葉を紡ごうとしたその瞬間、図書館の扉が開き、猛スピードで1人のメイドが飛び込んできた。
「パチュリー様!!フランドール様が!!」
それだけで、そこにあった雰囲気は粉々に壊された。魔理沙とパチュリーが、小悪魔と咲夜と美鈴が、同時にそのメイドを見、遠くから聞こえる破壊の音を聞きつけた。
その場にいた全員が、強烈な眩暈に襲われたことは言うまでもない。
ええ、大好きですとも、ぬこ。
ともあれ神がかった甘さ痒さに悶えたり辛抱たまらなかったり。
特にカップリングは拘ってないのがすっかり魔理パチュに転んでしまいました。
そして盛り上がったところにさらにフラン投入で青天井状態のテンション。
もはや最後まで読むしかねー、と直感しました。
展開、内容ともにGJの嵐でした♪ もちろんこれ読んで、最萌トーナメントは速攻パチェに入れましたともさ。
さてさて、ここで伏兵フランの登場でどうなることやら。続きも楽しみにしてますよ。
>最近、ノーマルでもなぜか必ず1回は小悪魔に落とされるようになりました。
ズバリ愛ですね(断言)
このまま一線越えるかと思いきやフランの乱入。
二人の運命が気になります。
次はパチュリーがゐぬ化して魔理沙に!?(w
「一瞬だけ体を震わせたところを見ると、恐らく魔理沙の息が耳にでも当たったのだろう」の一文に動機が激しくなったのは秘密です。
そっか…、お耳が弱いのですね、パチュリー様…(眩暈)
フランという最早障害どころか火災…難易度高ぇな!
そこに痺れるぅ!憧れるぅ!