↓この先、異界。ACID CLUB EASTと聞いてなんのことだかわからない方はしあわせです。
純粋な幻想を穢すこともないので、スルーした方がいいかも。
霊夢に対する……確固たる、揺るがぬ幻想をお持ちの方はどうぞ。
「この……
「「 おおうつけがぁッ !!!! 」」
荒獅子のような咆哮。びりびりと館の窓が震え上がる。天地を揺るがす一喝は、その場に同席する者たちの心胆を芯から撃ち砕く。
彼女の大喝の前では……あらゆる抵抗、心理障壁は無意味。
ただただ平伏して絶対者の赦しを乞うのが、関の山であろう。
博麗 霊夢
それが、彼女の名である。
その性格――――苛烈にして峻厳、天衣無縫、天上天下唯我独尊。
博麗神社の巫女にして退魔師、稀代の弾幕家としてその名を幻想郷中に轟かす名士。
「我が弾幕は、人為に非ず。是、即ち天意なり」
平易な者どもがのたまえば、滑稽でしかない自意識過剰な電波。
だが、彼女――博麗霊夢に限って言えばあながち間違いではない。
古今東西、ありとあらゆる弾幕を網羅する深遠なる見識。雄大なる肩幅、ヘタレ弾幕家もを射抜く針の如き猛禽の眼光。紅白の、肩を露出させた魅惑の巫女装束を渋く着こなす、巌の如き壮年の美少女。人間として―――最高峰の魅力を備える、博麗の巫女。その身に宿りしは、並々ならぬ弾幕に対する熱意。だが、一切の妥協を許さぬその真摯な姿勢は、時に必然性の無い争いをも招く。
第一次弾幕講義 紅霧とお嬢様と犬冥土 ~ れみりゃ☆うー ~
第二次弾幕講義 春度を喰らう亡霊少女 ―魔王アバドンの再来―
第三次弾幕講義 えーりんえーりんたすけてえーりん ~右腕は、こう~
幾多の弾幕勝負を越えて―――無敗。
弾幕オブ弾幕。無重力の弾幕少女。卑怯くさい程無敵。神主に愛されし巫女。永遠の主役。
その功績を讃える異名は数知れず。博麗こそは、幻想郷の弾幕を手前勝手に批評できる唯一の弾幕家。
――時に厳しく、時に寛容。あらゆる者は…聖者に救いを求める民衆のように、霊夢の元へ萃まりゆく。
「館主、これはどういうことか」
博麗は問う。
「な、なにか不都合なことでもあったの? 霊夢」
先程の咆哮を受け、身を竦めたままの館主――レミリア・スカーレットは、恐る恐る真意を伺う。
だが、その言葉は博麗二重結界の前に弾かれる。歯を剥き出して怒鳴る博麗霊夢。
「だから私は弾幕に呼ばれるのは嫌なんだッ、人を招いておいて……このような弾を喰らわせるとは!!」
怒髪天を衝く。怒り心頭に達した博麗の言葉は厳しい。
「そ、そう? いつもと同じように、家の門番がスペル発動させたのだけど。霊夢のおくちには、合わなかったのかしら」
「館主……。いや、れみりゃよ。すまぬ、貴殿が悪いのではない。脅えさせて申し訳ない」
大好きな霊夢に失礼なことをしてしまった、と泣きそうな顔でうな垂れるレミリアに、博麗は優しく声を掛けた。
食堂の長大なテーブル――隣にちょこんと腰掛ける彼女の頭を撫で、幼子をあやすように諭す博麗。
ぽうっとした表情で、漢らしい父親のような博麗霊夢を見上げる、永遠に紅い幼き月。
その頬と目は、威厳ある異名をなぞるかのように――紅い。
ぎりり…
二人の傍らに控えるメイド長の歯軋りが、静まり返った食堂に響く。いや、悪魔で比喩なのだが。
「お嬢様、博麗様。申し訳ございません。この度の落ち度は全て――紅魔館の使用人どもを束ねる、十六夜咲夜の責任。いかような処罰もお受けする所存であります」
内心の葛藤をおくびにも出さず、侍従長は慇懃に申し立てる。
(ああん、お嬢さまぁ……そのような無防備なお顔を……相手が博麗霊夢じゃなかったら、殺人ドールを4セット喰らわせて、すぐさまプライベートなお部屋にお持ち帰り致しますのに。咲夜はいけない従者……いえ、わんこです! 撫で撫でしてやって下さい!! うー わんわん!!!!)
瀟洒なメイドの口元がぴくり、と歪む。外部に漏れた幻想はそれだけだ。
「ううん、咲夜の失敗は私の責任。スカーレットの名に掛けて……どんなおしおきも望むところよ」
毅然とした口調で従者をかばう紅魔の嬢。カリスマ溢るる様に、咲夜の鼻から……一筋の紅河。
(ブバッ!! ど、どんなおしおきも…!? ンヴノVW:ねいPVじえんW:Pくぃん:PV!?!?)
時が止まる。
――そして、時は動き出す。
瑞々しい顔でただずむメイド長。彼女はいつだって――瀟洒である。
「ふ……なんとも麗しき主従よ。安心いたせ、その方等に罪が無いことは分かっておる。……だが」
暗雲一転、鬼神の相を浮かばせ、博麗は吼える。
「…………中国!! 中国は居るかッ!!!!」
㊥ ひがしんぼ ㊥
紅魔館、守衛所―――
「あー、今日も平和だねー。さっきも黒いのが来たけど、どうせ敵わないんだから素通ししたし。
また図書館でパチュリー様といちゃいちゃするんだろうから、邪魔するのも無粋よね」
うんうん、と独り頷く門番の少女。
職務を忠実に曲解している彼女の名前は、紅美鈴。
鬼のような上司、恋符の開発に勤しむ普通の魔法使いなどに気を使う(すり減らす、とも言う)程度の能力を持つ。
粗末な兎小屋(守衛所)で、みかん箱のテーブルに向い正座をし、中国緑茶を啜っている。
――世間では、こういう扱いを「鬼いびり」ともいう。
もっとも、自分がしあわせだと思い込んでいる美鈴にとっては些細な事だが。
「先程お見えになった……博麗先生。私の出した弾幕、気に入って貰えたかしら。
最近不調だから、弾にちょっとキレが足りなかったような気がするけど……大丈夫よね!
見た目はいつも通りだし! うん、きっとわからな……
凍れる時の中を、英霊の魂を狩る戦乙女が駆け抜ける。
…………。
そして――
時は、
動き出す。
㊥ ひがしんぼ ㊥
「……いわよね! 手を抜いてたことなん………て………? あら? ここは」
ここは、咎人を裁く処刑場である。
「………さく、やさん?」
がっしりと自分の右腕を掴む、処刑人。
「……あは、ははは………」
乾いた笑いが虚しく響きわたった。誰も笑う者は――居ない。まさしく孤立無援、四面楚歌である。
「中国よ、貴様……」
押し殺した声で、博麗霊夢は唸る。
猛烈に嫌な予感が中国の全身を駆け巡る。絶望で目が眩みそうになるのを必死で堪えるが、そんなことでは――
「この私が誰だか、知らぬ筈はあるまいな」
びくん、と大技を出した後のように硬直し、美鈴は答える。
「は、はい。もちろん存じ上げております。ええ、存じていますとも!!
この幻想郷で、博麗先生を存じ上げない者はおりません。えへ、えへへ……」
どこぞのコーリンドーの偉い人の掲示板にあるアイコンのように揉み手をし、卑屈に笑う美鈴。
それが、博麗霊夢の最後の慈悲を絶ち切った。
「そうか。私が『弾幕倶楽部』を主宰する博麗霊夢と知りながら、こんなものを出したのか……
ふっ………この私も、舐められたものよな」
瞼を閉じ、笑みを浮かべながら博麗霊夢は可笑しげに嗤う。
「い、いえ! そのような事は……っ!! さ、咲夜さん! そうですよねっ、ねっ!!!」
同じく、目を閉じて腕組みする瀟洒な上司に相槌を求めるが、彼女は無言のまま反応が無い。
「お、おおお嬢さま~、た、たすけてくださ~」
「……見苦しいよ、門番。これ以上私に恥をかかせるのか? ――霊夢の前で。
黙るがいい、その良く動く舌を……引っこ抜かれたくなかったら……な」
紅魔の目が紅く、冷徹に光った。きゅうっと窄む瞳孔。魅了の邪眼が本領を発揮する。
霊夢に甘えてた時とは、まるで別人。その血も凍るような美しい姿は、まさに悪のカリスマ、口調まで変貌している。
だが、その卓越した魅力は寸分も損なわれてない。それも当然、れみりゃ様の格は……幻想郷いちなのだから。(博麗先生は論外)
「そ、そんなぁ……」情けない声で涙ぐむ美鈴に追撃が。
「・・・・・・ちゅうごくよ。一つ問おう。この弾幕――華符「芳華絢爛」
――これは貴様の精一杯なのか? 正直に答えるが良い」
「……(ここで嘘ついて「はいそうです」なんて言ったら、どんな折檻が待ってることやら…。ど、どうしよう……じゃあ……「いえ、手ー抜きましたー☆えへへ」……ぐむ、正直ものは死を見る予感。どっちにしても、博麗先生が帰った後に待つのは…咲夜さんの鬼折檻、か…。うう…どうしてこんな役回りが多いの!? みんな絶対私のこと誤解してるよぅ、そもそもなんで誰も名前で呼んでくれないわけ!? 中国じゃあないっての! 私の名前は……」
思考に没頭するあまり美鈴は、沈黙が長すぎるという―博麗霊夢が最も嫌う―最終カウントダウンに、自ら点火したことに気づかない。博麗先生のいかめしい額に青筋がぴくぴくと浮き上がる。もはや、誰の目にも美鈴の運命は、あきらか。それを証明するかの如く――
「 なんとか言わぬかぁっつ!!!! 中国ッ!!!!!!!!!! 」
QED。証明完了。哀れな犠牲者はひぇぇと地べたに額を擦り付け、平伏し「お許しを~」と卑屈の限りを尽くす。
・博麗霊夢は卑屈な者、無能な者、気に入らぬ者、言い訳がましい者、言い訳もせず平謝りする者が大嫌いである。
(……なにやっても、駄目じゃん)
・レミリア・スカーレットは霊夢の為なら喜んで名前も知らない(ひでぇ)いち門番のくびを刎ねるだろう。
(あんまりだ)
・十六夜咲夜は溺愛するあるじを不愉快な気分にした、名前も知らない使用人のことを決して赦しはしない。(断定)
(……イキロ、中国)
味方は誰も居ない。必死で弁明を試みる中国。返答如何によって生死が定まるのは、もはや避けられぬ。
「申し訳ありません……ッ! 博麗先生…。もういちど、もういちどだけ機会を!!
この美鈴、今度こそは先生を満足させる弾幕をお持ちしますッ!!!」
ギロリ。 博麗霊夢は厳つい顔で、目の前で土下座する少女を睨みつけた。
「……よかろう、私とて鬼ではない。今回は大目に見てやる。早く代わりの弾幕を持て」
「はいー! ただいまッ」
慌てて惨殺(寸前)空間から逃げ出す美鈴。バターンとドアを開け、一秒の遅れも惜しみ、脇目もふらず弾幕厨房へと駆け込む。もう必死である。洛陽紅脚で急速離脱。それは―――しゃららーんと効果音が鳴る程度の速度であった。
㊥ ひがしんぼ ㊥
………少女弾幕中
㊥ ひがしんぼ ㊥
「だ、駄目だわ……。最近滅多に本気出してないから、せいぜいHardまでしか、テンション上がんない……
でもでも! 符名はLunaもHardも一緒だから、だ、大丈夫よね! ……………………きっと」
『自らも騙せぬ嘘は~』古い格言が美鈴の頭をよぎる。……やっぱり作り直そうかな、と思い直すも
「中国、早くなさい。博麗先生がお待ちよ」
もはや、手遅れ。死を告げる天使――アズライールの――非情なる宣告が下された。
「あ、あのぅ……これはそのあのいわゆるひとつのあのですね
「……? なんだ、もう出来てるじゃない。さっさと持って来るのよ? ああ、それと――」
にこり、と微笑みながら瀟洒なメイドはトンデモナイことを宣う。
「取るに足らぬ前座とはいえ、貴方の弾幕は――紅魔館の威厳と美意識とグレイズ、全ての弾幕を格調高い物に仕上げる為の、最初の一歩。
それは序盤の盛り上がりを司る、大事な仕事。それこそ門番程度には身に余る光栄。――ゆめゆめ疎かにしないことね。
これ以上――――――お嬢様に恥をかかせたら、どうなるか、分かるわよねぇ………?」青→紅、攻撃色発動。
(嫌、嫌すぎるぅぅーーー!! 咲夜さん、目が紅いです! 正気に戻って下さいぃぃ)
――タイムアップ。これ以上待たせるとスペカボーナスもゼロ。美鈴はガクガクブルブルしながら、博麗先生の下へと、悲壮なる弾幕献上を行う。……一片の奇跡の可能性に、我が身の全てを託して……。
・
・
・
・
「ど、どうぞ。彩符「彩光乱舞」でございます」
「うむぅ……」
出された弾幕料理を見るなり、博麗の顔が強張る。彼女にかかれば、食すまでも無くメッキは剥がれ落ちる。
弾幕の皿に伸ばされる手。緊張のあまり硬直する美鈴。
がしゃあああああああああああああああああああん
テーブルから勢い良く払い落とされる皿。条件反射的にびくり、と目をつぶる美鈴。ばらばらと零れた弾幕が、美鈴に降りかかる。
博麗の怒りは、只でさえ低い沸点を容易く凌駕した。八つ当たりだけでは収まらず、更に苛烈な追い討ちが、不幸な少女を襲う。
「貴様……この私を愚弄するかッ。なんだこの弾幕は! 黙っていれば判らぬとでも思ったか!! この、たわけがッ」
「……………!?」 あわ あわ あわ…
「貴様は今後一切門前に立つな!! 弾拾いと、地下室の遊戯相手だけしか許さん!! それが不服なら出て行け!!!!」
「せ、先生………」 いやぁぁーーー! やっぱりこうなるのーーー!?
「咲夜」
「承知」
ずるずると引き摺られて逝く元門番。怒涛のように流れ落ちる涙。めいりんの鳴き声は、紅魔館の廊下から地下室へと移り往く……。
㊥ ひがしんぼ ㊥
「んふふふふー♪ 今日は楽しかったね、中国! また遊ぼうねー」
ズタボロの塊が地下室からサルベージされる。
「……ふぅん、頑丈なのね。貴方。案外天職かもね、妹様の遊び相手」
(か、かんべんして………ガク)
来た時よりぞんざいに、ずりずりと緑色のボロいサンドバックを引き摺る鬼女。ぺいっと兎小屋にソレを放り込む。
「んじゃ」
(……………………………絶対、愉しんでる………鬼、だわ)
しゅたっ! と片手を挙げ、瞬きする間に消え去るタネの無い手品を披露する瀟洒なメイド。いくら見事な演出とはいえ、そんなことは…瀕死の彼女にとって、極めてどうでもいいことだが。
(……しくしく)
・
・
・
「うう……からだ中が痛い。パチュリー様に治癒魔法かけてもらお……」
時刻は昨日の弾幕晩餐を通り越して、朝。ちゅんちゅんと普通の雀が鳴いている。
(……泣きたいのは、こっちよ……ちゅんちゅん)
もはや、自分がなにを言ってるのかワカラナイ。ちゅん? 中、白發中。麻雀の起源は……中国。ああ、そうなのね。皆で合唱、ちゅんちゅんちゅん……。アハハハハ……。
少女はちゅんちゅん呟きながら、図書館を目指す。その意識は既に空。無想天成。完全に逝っちゃっているようにも見えるが、本当のところは誰にも分からない。……彼女の名前と同じく。
~ ヴワル魔法図書館 ~
「パチュリーさま~どこですか~」
幽鬼のように彷徨う人影。紅美鈴である。ふらふらと足取りもおぼつかず、気を手繰り図書館の主を探す。
何時来ても、ここには本、本、本。本の樹海、知識の墓場。ありとあらゆる知識の宝庫。けれども……
「これだけ本があれば、どこかに私の名前もありそうよね……。紅(コウじゃないよ)、ホン、本、叛……謀反、か。……………無理ね。ここは弾幕馬鹿の巣窟だし…私のささやかな弾幕じゃあ瞬殺されるのがオチ…うう、自分で言ってて悲しくなってくるわ」
「………誰が弾幕馬鹿なのか、興味あるわ。ええと……目の前の中国を自白させるには……」
ぱらぱらぱら
ありとあらゆるどうでもいい知識を記した本が、ひとりでにめくれてゆく。何時の間にか美鈴の背後には二人の魔女が。
「あら……おかしいわね、この本に分からない名前があるなんて。ねぇ魔理沙、あなたの魔砲でどうにかならない?」
「んにゃ。無理だぜ。あいにく無から有を創り出す魔法は専門外なんでな。あの歴史の半獣なら、あるいは堀り出してくれるんじゃないか?」
散々な言われようだ。あながち間違いでは無いところが、哀愁を誘う。
「あ……う……パチュリーさま~」傷のいたみと相まって、最後の糸が切れたのか、よよよと泣き崩れる美鈴。
(もう、いいです。私は中国で。うう、だから、なんとかして下さい、色んな意味で終わってるこの状況を~)
「ちょっ……どうしたのよ、中国!? ……ねえ、魔理沙! いくらなんでも、言い過ぎじゃないかしら」
「……(いや、おまえも充分酷いこと、言ってるし)あー、すまんな中国。少しばかり言い過ぎた。
また、なんかあったのか? 私たちでよければ話ぐらいは聞いてやるぜ?」
あまりにヘタレな気を放射する目の前の少女を、さすがに哀れに思ったのか、二人は普段とは真逆の思いやりを発揮する。いじりがいのある彼女をからかうのは、好きなのだが…こうも痛々しいと、その気も失せるというものだ。
「………ああー! ありがとうございます~!! じつは………」
かくかくしかじか
使い古された古典的な表現方法、いつだって便利なものは便利。普遍的な真理である。中国が使うと違和感が全く無いのが恐ろしい。
・
・
・
「―――なるほど、霊夢の奴…どういうつもりだ? 普段のあいつらしくもない。
いくら弾幕好きとはいえ、ここまでやることもないだろ。なぁ、パチェ」
「……そうかしら? 博麗先生は自分に厳しく、他人に厳しいお方。中国の手抜き弾幕を出されて、ご自分の信念を侮辱されたと感じたんじゃない? 私だって…誰かさんに勝手に希少な本をごっそり持って行かれたら、キレるかもね」
――しまった。薮蛇だったか。……ここはひとつ―――
「それにしても! 許せないぜ、今回の霊夢の非道は!! 長年くだらない仕事を糞真面目に勤め上げた門番を、ただ一度の失態で切り捨てるとは。いくら創造主に忘れられ、影が薄く、居てもいなくてもいい存在とはいえ、こいつだって生きているんだ。簡単に削除していい筈が無い」
(………私、何気に酷いこと言われてる? 同情……なのかな? これは)
「じゃあ、どうするの? 魔理沙。 あの博麗先生に弾幕勝負でも挑むわけ? 中国に代わって」
――さっきから、どうも気になる。なんで皆、霊夢のことを「先生」て言うんだ? なにかが決定的にずれているような――
「いや、面と向かって挑むのは中国の為にならない。(たかが中国の為に、あの霊夢と本気でやり合うのもなぁ)
あくまで裏方としてこいつを助けていい弾幕を生み出して、霊夢をギャフン(………。)と言わせてやろう。
こいつには何かと世話になってるし、霊夢の暴走をどうにかするいい機会だ。それでいいか? 中国」
素晴しい友情であった。これは他人の恋路を邪魔しなかった中国の職務怠慢…いや、気遣いが実を結んだ瞬間である。
「本当ですか!? 私なんかのために、そこまでしてくれるなんて……この紅美鈴、感謝感激、恐悦至極、光栄の極みでありますー!!」
嬉しさのあまり、おかしなテンションになった中国。魔理沙の手をわっしと握り、ぶんぶんと激しくシェイクハンド。さすがに少々うざい。――優しさに餓えてたのかコイツ……魔理沙の顔が引きつる。じと目で眺める相方の視線が痛い。
「そ、そうと決まれば早速弾幕特訓だ。あー、最初に言ってがな、中国。
――私の弾幕指導は――厳しい、ぜ?」 にやり。
「うん、取り合えず同じ紅魔館に住まうものとして、私も出来る限りの実験台…いえ、スペルサポートを行なうわね。
私の七曜符は、魔理沙ほど容易くは避けられないわよ? 今日は調子もいいし、日月符も可能だわ。頑張りなさい――中国」 くすくすくす
素晴しき仲間たち。本当に中国はしあわせものである。紅美鈴の頬を一筋の汗が流れ落ちた。
(これ、なんかすっごく嫌な状況のような気がするんですけど。気のせい、かな? かな?)
㊥ ひがしんぼ ㊥
………中国弾幕中。
㊥ ひがしんぼ ㊥
舞台は再び紅魔館――弾幕食堂。
昨日に引き続き、紅魔館で一夜を過ごした博麗霊夢。難しい顔をしながら、新たな弾幕者の創り出した弾幕を賞味している。
「……弾幕の名称が無いな。誰が創った」
答えるメイド長。
「申し訳ありません、小悪魔でございます」
「ちっ……名前があるということだけは、生まれつきのもので、自称してどうにかなるものでも無いとはいえ……
――中国はどうした? あれから弾幕をぷっつり諦めたのか」
「いえ、先日妹様の生贄に捧げて生還して以来、なんの音沙汰も。メイド達の話では図書館に向かったとか」
紅魔館の当主が続ける。
「あのね、霊夢。昨日からパチェの所に……魔理沙が来ているの。言うべきか迷ったのだけど…霊夢に隠し事はしたくないから。黙っててごめんね」
目を潤ませる紅魔。なんて―――凶悪な破壊力。
「そうか、魔理沙の奴が……。中国め、あのような輩とちゃらちゃらしおって。
大方、なんやかやと私の悪口を吹き込まれて、やる気を喪ったのであろう。馬鹿な奴よ」
―――バァァン……
食堂の扉を勢い良く開け放つ音がした。
颯爽と現われ出でたのは二人の魔法使いとズタボロの元門番。白黒の古風な魔女スタイルが売りの、ぐうたら社員――もとい、盗掘マニア――霧雨魔理沙。
不安げに魔理沙のスカートの裾を掴み、片手に魔道書をきゅっと抱きしめ、寄り添う寝巻き姿の半病人――動けない大図書館――パチュリー・ノーレッジ。
そして――
「………」
魂が口からはみ出している、やばげな中国人。……恐らく彼女は、無我の境地に到っているのであろう。
――ねえ魔理沙、後は中国に任せておけばいいのに、余計な事に首突っ込むのは止しましょうよ。と小声で諌めるパチェに「まぁまぁ見てろって、名も知らぬ哀れな門番を格好よく救う――蝶素敵な魔砲少女。どうだ? 惚れ直すだろ、はっはっは~」などと脳天気な言葉を返す魔理沙。ふふーんと何気なく一同の面子を見やり、うげっと顔を硬直させる。
視線の先には――――博麗大先生が。
(えーと、アレは……霊夢、なのか? いつから私の幻視能力はEXになったんだ? ……不思議、だぜ)
じゃあな、と踵を返す魔理沙を相方がぐいっと引き止める。
(ちょっと魔理沙! ここで帰ったら話が進まないじゃない。さっきの威勢はどうしたのよ)
(……でもなぁ、見ろよ…あの広い肩幅、いかめしい威厳に満ちた顔。……勝てる気がしないぜ)
ぎゅうっ!
転進しようとする魔理沙の腕をちから一杯引きとめ、半病人の少女は涙目で訴えかける。
(魔理沙……私のことが、嫌いなの…? ここで出番が無くなったら、他のひとに、貴方を取られちゃう……。それとも……またあの人形師や妹様と浮気したいの? 二人きりで居ても、私…本ばかり読んでて…魔理沙が詰まらないのは分かってる。けどね、魔理沙と一緒に居られるだけで……もうなにもいらないほど、本当にしあわせなの。お願い、魔理沙…置いてかないで……。せっかく、こうして二人で居られる時間ができたのに、そんなの…嫌)
ズキュゥゥゥン
独特の効果音が魔理沙を貫く。
クリティカルヒット。ガード不能。リリアン女学院。スール制度。リリーホワイト。ξ・∀・)めるぽ。
訳のわからない単語が脳裏を駆け抜け、Hな雰囲気を増大させる。各感情パラメータはゲージを振り切った。
「ああ、私が間違ってたぜ。……パチェ、すまない」
そっと手を伸ばし、愛しいお姫様の目から零れる宝石を拭う。
「ううん、わがままばかり言って……ごめんね、魔理沙」
気丈に笑みを浮かべる病弱な美少女。
「パチェ……
「魔理沙……
近づく距離。通じ合うこころ。ふたりを祝福するかのように、何処からとも無く、百合の花が咲き乱れる……。
閑話休題。春符「百合色の幻想郷」
「………(いいわねぇ……私もお嬢様と……くぅん♪)
「………(霊夢、私ならいつでもオーケーよ。永遠の夜が欲しくなったら、いつでも来てね。私…一生懸命、頑張るからっ)
「………(むぅ……なんたる破廉恥な。魔理沙めが、いい気になりおって……)
「………」忘我の境地。この程度の刺激で彼女の目に光が戻ることは、無い。
Spell Card Bonus !
+19190160
「……ふー。 待たせたな、霊夢。 ちょっと廃人化してる中国に代わり、こいつの生み出した渾身の弾幕を解説するぜ。
――ほらよ、心して味わうがいい。中国の血と汗と涙の結晶をな」(くっ……なんて重圧だ。早い所済ませてパチェと……
博麗霊夢の射殺すような視線から目を背け、霧雨魔理沙は弾幕の皿を持った中国の背を押しやる。
トコトコと自動人形のようにテーブルに歩み寄るロボ美鈴? 明確な意識が無い分、恐怖とは無縁なのが救いである。
「………ドゾー、最符「極彩七鍵守護神マスター颱風」デゴザイマス」
棒読み。
不愉快そうに魔理沙を睨んでいた視線を、目前の弾幕に向ける霊夢。
その視線の先には――
「むぅ……これは」
――名状しがたきもの。星間宇宙の果て、プレアデスの輝きにも似た奇怪、かつ異様な美に彩られた弾幕。
不覚にも見入ってしまった己の無様を戒め、博麗は言葉を綴る。
「―――ふむ、基本の弾幕の上に七曜の属性を乗せ、本みりんで味を引き締め、合成の度合いを熟成させたか…
ともすればくどくなりがちな、多種多様な属性。よくぞここまで調和を持たせたものよ。だが…工夫はこれだけではあるまい」
ぱくり と弾幕を食しながら唸る。
「ほう…! これは……金平糖か。それも手間暇かけて職人が作った本式の、昔ながらの製法を忠実に守った逸品だな?
ふふ……チルノ程度なら騙せても、この私の舌は誤魔化せん。―――腕を上げたな、美鈴」
め、
い、
り、
ん。
黒歴史に埋もれし、誰もが忘れ去った筈の――真名。
はっとした表情で一同はその少女
「 紅 美鈴 」
を注視する。萃まる視線、萃まる驚愕、あつまる――――想い。
(おい……美鈴て、アイツのことか!? 調味料の名前じゃなかったんだな……吃驚だぜ)
(落ち着いて! 魔理沙。私も吃驚だわ、まさか「無名彩字記」に記されてない名を、博麗先生がご存知だったとは……。さすが、博麗の弾幕巫女。深遠なる無駄知識は、余人の及ぶ所では無いのね)
(――どうでもいいわよ、そんなこと。ああ、それよりお嬢様…きょとんとしたお顔も素敵ですわぁ…ハッハッハッ)犬みみもーど全開。
(霊夢……す・て・き)いやいや、あの霊夢「のような者」より貴方のほうが……二百由旬程度、素敵だ。
――めい…
…りん
――め…い、りん………
――めいりん……
≪ 美鈴 ≫
(………ん。 誰かが私の名を、呼んだ……? アハハ、まさか、ね。そんな馬鹿なこと、あるわけ無いのに)
「見事だ。――紅美鈴よ。以前の職務に戻り、これからも精進するがよい」
(えっ? えっ? えぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!? まさか、これは、夢じゃないの…?)
主電源が入り、CPUが活性化したロボ美鈴。眠りから覚めた伏竜は、一気呵成、トラウマの湖底より光さす地上へと駆け昇る。
「う、ううう……あ、あありがとぉうございますぅぅーーーーー!!!! 博麗先生……っ!! 美鈴は、美鈴は――その御言葉だけで、もう死んでも悔いはありませんッ!!!!!!!!!!」……そ、そーなのかー?
重苦しい雰囲気を打ち破るかのような笑い声が食堂に響く。重圧を放ち、場を硬直させるのが博麗先生の威厳であるなら、場を和らげ和気藹々とするのも、先生の人情のお力。あらゆる場を完全に掌握する彼女は、平和を取り戻したかに見える紅魔館に、更なる爆弾を投下する。そう――博麗霊夢は、極度の負けず嫌いなのだ。
「――だが、この弾幕料理には重大な欠陥がある。そうだな――魔理沙よ」
しん……と静まり返る一同。今度は魔理沙に視線が集中する。
「……なんのことだ? 霊夢。変な言いがかりはよせよ。中国の弾幕がいい出来だったんで悔しいのか?」
不機嫌に言葉を返す魔理沙。今回の弾幕はパチェと自分の「愛の」共同作業。(ついでに中国)いちゃもん付けられて黙っていられる筈も無い。更にありえざる記憶がどこからともなく湧き上がり、ひとりでに口をつく。
「大体、いい弾幕を追求するあまり人間らしい感情のすべてを捨てるとは、どうかしてるぜ!!
霊夢―――おまえのせいで、弾幕追求の犠牲になって………魅魔さまはッ!!!!」
(うにゃ? 私はなにを言ってるんだ? お、おかしいぜ。どんどんこの異常な世界に取り込まれていくような……あー、まぁいいか。面白けりゃ問題ないぜ)
「私は霊夢、貴様を絶対許すつもりは無い。お前の間違った人生も、弾幕も、全てを否定し尽してやるぜ……」
「ふん、小童が。この弾幕の欠陥もわからず、きゃんきゃんと吼えよって。なんたる無様よ…。
愚かな貴様にも、判るように言わねばならんか……
いいか、足りないのは『彗星』だ。箒星といっても差し支えあるまい。
なのに、マスタースパーク程度で妥協した貴様の傲慢、見抜けぬとでも………思ったかッ!!!!」
画面中を揺るがす大喝。紅魔館は霊夢の嚇怒にびりびりと身を震わせる。
「……………くっ」(あー、そうなのか? パチェ。)
「魔理沙…………」(博麗先生が言うからには、そうなんでしょうよ。う…耳がきんきんするー。)
押し黙る二人を余所に、霊夢は席をたち、大笑しながら扉に向かう。
「わぁっはっはっは! れみりゃさん、こんな弾幕の味もわからん連中との付き合いは控えたほうがよいですぞ。
せっかくの貴方の格が、@なみにさがってしまう。あれはあれで趣があって良いが、そこの黒い雑種程度に引き摺られてそうなるのはどうかと、老婆心ながら忠告しておきましょう。
―――魔理沙よ、少し弾幕をかじった程度でこの私――博麗霊夢に挑むとは、天に唾する所業。
無様を晒すのも大概にしておくがいい。――二度と私の前に、その面を見せるなッ!!」
ずかずかと振り向きもせず歩み去る霊夢。「あーん、待ってよぅ霊夢ー」と追いすがるれみりゃ。ストーキング(護衛)する咲夜。悔しそうにただずむ魔理沙にパチェが訊ねる。
「魔理沙……博麗先生との間になにかあったの? 尋常じゃないわよ、あの先生があそこまで言うなんて。
――博麗の弾幕は人の意に非ず、是即ち天意なり――の銘を忘れるほど怒るなんて、このままで済むとも思えないわね……」
心配げに魔理沙のエプロンの端を握るパチェ。温かい気持ちを感じながら、魔理沙はどこか遠くを見ながら呟く。「ああ、私にも何がなんだか判らないが――――面白くなりそうだぜ」
不敵に微笑む黒い魔砲少女。魔理沙は理解の範疇を超えた異界化現象に、微塵もたじろがない。とことん前向きな彼女を頼もしく思うパチェリー・ノーレッジ。二人の魔女たちは、しっかりと手を繋いでその場を後にする。
ひがしんぼ―――
それは呪われし祝福を受け紡がれる、位相のずれた異界の物語。
ありえないネタ。
ありえない感性。
ありえない―――肩幅。
ながれ る閃光の果てに展開する、究極と至高の弾幕勝負。
ひがしんぼ―――早く続きを作りやがれ(丁寧かつ、紳士的にお願い。敬意を込めて)
言いたいことは、それだけだ。
純粋な幻想を穢すこともないので、スルーした方がいいかも。
霊夢に対する……確固たる、揺るがぬ幻想をお持ちの方はどうぞ。
「この……
「「 おおうつけがぁッ !!!! 」」
荒獅子のような咆哮。びりびりと館の窓が震え上がる。天地を揺るがす一喝は、その場に同席する者たちの心胆を芯から撃ち砕く。
彼女の大喝の前では……あらゆる抵抗、心理障壁は無意味。
ただただ平伏して絶対者の赦しを乞うのが、関の山であろう。
博麗 霊夢
それが、彼女の名である。
その性格――――苛烈にして峻厳、天衣無縫、天上天下唯我独尊。
博麗神社の巫女にして退魔師、稀代の弾幕家としてその名を幻想郷中に轟かす名士。
「我が弾幕は、人為に非ず。是、即ち天意なり」
平易な者どもがのたまえば、滑稽でしかない自意識過剰な電波。
だが、彼女――博麗霊夢に限って言えばあながち間違いではない。
古今東西、ありとあらゆる弾幕を網羅する深遠なる見識。雄大なる肩幅、ヘタレ弾幕家もを射抜く針の如き猛禽の眼光。紅白の、肩を露出させた魅惑の巫女装束を渋く着こなす、巌の如き壮年の美少女。人間として―――最高峰の魅力を備える、博麗の巫女。その身に宿りしは、並々ならぬ弾幕に対する熱意。だが、一切の妥協を許さぬその真摯な姿勢は、時に必然性の無い争いをも招く。
第一次弾幕講義 紅霧とお嬢様と犬冥土 ~ れみりゃ☆うー ~
第二次弾幕講義 春度を喰らう亡霊少女 ―魔王アバドンの再来―
第三次弾幕講義 えーりんえーりんたすけてえーりん ~右腕は、こう~
幾多の弾幕勝負を越えて―――無敗。
弾幕オブ弾幕。無重力の弾幕少女。卑怯くさい程無敵。神主に愛されし巫女。永遠の主役。
その功績を讃える異名は数知れず。博麗こそは、幻想郷の弾幕を手前勝手に批評できる唯一の弾幕家。
――時に厳しく、時に寛容。あらゆる者は…聖者に救いを求める民衆のように、霊夢の元へ萃まりゆく。
「館主、これはどういうことか」
博麗は問う。
「な、なにか不都合なことでもあったの? 霊夢」
先程の咆哮を受け、身を竦めたままの館主――レミリア・スカーレットは、恐る恐る真意を伺う。
だが、その言葉は博麗二重結界の前に弾かれる。歯を剥き出して怒鳴る博麗霊夢。
「だから私は弾幕に呼ばれるのは嫌なんだッ、人を招いておいて……このような弾を喰らわせるとは!!」
怒髪天を衝く。怒り心頭に達した博麗の言葉は厳しい。
「そ、そう? いつもと同じように、家の門番がスペル発動させたのだけど。霊夢のおくちには、合わなかったのかしら」
「館主……。いや、れみりゃよ。すまぬ、貴殿が悪いのではない。脅えさせて申し訳ない」
大好きな霊夢に失礼なことをしてしまった、と泣きそうな顔でうな垂れるレミリアに、博麗は優しく声を掛けた。
食堂の長大なテーブル――隣にちょこんと腰掛ける彼女の頭を撫で、幼子をあやすように諭す博麗。
ぽうっとした表情で、漢らしい父親のような博麗霊夢を見上げる、永遠に紅い幼き月。
その頬と目は、威厳ある異名をなぞるかのように――紅い。
ぎりり…
二人の傍らに控えるメイド長の歯軋りが、静まり返った食堂に響く。いや、悪魔で比喩なのだが。
「お嬢様、博麗様。申し訳ございません。この度の落ち度は全て――紅魔館の使用人どもを束ねる、十六夜咲夜の責任。いかような処罰もお受けする所存であります」
内心の葛藤をおくびにも出さず、侍従長は慇懃に申し立てる。
(ああん、お嬢さまぁ……そのような無防備なお顔を……相手が博麗霊夢じゃなかったら、殺人ドールを4セット喰らわせて、すぐさまプライベートなお部屋にお持ち帰り致しますのに。咲夜はいけない従者……いえ、わんこです! 撫で撫でしてやって下さい!! うー わんわん!!!!)
瀟洒なメイドの口元がぴくり、と歪む。外部に漏れた幻想はそれだけだ。
「ううん、咲夜の失敗は私の責任。スカーレットの名に掛けて……どんなおしおきも望むところよ」
毅然とした口調で従者をかばう紅魔の嬢。カリスマ溢るる様に、咲夜の鼻から……一筋の紅河。
(ブバッ!! ど、どんなおしおきも…!? ンヴノVW:ねいPVじえんW:Pくぃん:PV!?!?)
時が止まる。
――そして、時は動き出す。
瑞々しい顔でただずむメイド長。彼女はいつだって――瀟洒である。
「ふ……なんとも麗しき主従よ。安心いたせ、その方等に罪が無いことは分かっておる。……だが」
暗雲一転、鬼神の相を浮かばせ、博麗は吼える。
「…………中国!! 中国は居るかッ!!!!」
㊥ ひがしんぼ ㊥
紅魔館、守衛所―――
「あー、今日も平和だねー。さっきも黒いのが来たけど、どうせ敵わないんだから素通ししたし。
また図書館でパチュリー様といちゃいちゃするんだろうから、邪魔するのも無粋よね」
うんうん、と独り頷く門番の少女。
職務を忠実に曲解している彼女の名前は、紅美鈴。
鬼のような上司、恋符の開発に勤しむ普通の魔法使いなどに気を使う(すり減らす、とも言う)程度の能力を持つ。
粗末な兎小屋(守衛所)で、みかん箱のテーブルに向い正座をし、中国緑茶を啜っている。
――世間では、こういう扱いを「鬼いびり」ともいう。
もっとも、自分がしあわせだと思い込んでいる美鈴にとっては些細な事だが。
「先程お見えになった……博麗先生。私の出した弾幕、気に入って貰えたかしら。
最近不調だから、弾にちょっとキレが足りなかったような気がするけど……大丈夫よね!
見た目はいつも通りだし! うん、きっとわからな……
凍れる時の中を、英霊の魂を狩る戦乙女が駆け抜ける。
…………。
そして――
時は、
動き出す。
㊥ ひがしんぼ ㊥
「……いわよね! 手を抜いてたことなん………て………? あら? ここは」
ここは、咎人を裁く処刑場である。
「………さく、やさん?」
がっしりと自分の右腕を掴む、処刑人。
「……あは、ははは………」
乾いた笑いが虚しく響きわたった。誰も笑う者は――居ない。まさしく孤立無援、四面楚歌である。
「中国よ、貴様……」
押し殺した声で、博麗霊夢は唸る。
猛烈に嫌な予感が中国の全身を駆け巡る。絶望で目が眩みそうになるのを必死で堪えるが、そんなことでは――
「この私が誰だか、知らぬ筈はあるまいな」
びくん、と大技を出した後のように硬直し、美鈴は答える。
「は、はい。もちろん存じ上げております。ええ、存じていますとも!!
この幻想郷で、博麗先生を存じ上げない者はおりません。えへ、えへへ……」
どこぞのコーリンドーの偉い人の掲示板にあるアイコンのように揉み手をし、卑屈に笑う美鈴。
それが、博麗霊夢の最後の慈悲を絶ち切った。
「そうか。私が『弾幕倶楽部』を主宰する博麗霊夢と知りながら、こんなものを出したのか……
ふっ………この私も、舐められたものよな」
瞼を閉じ、笑みを浮かべながら博麗霊夢は可笑しげに嗤う。
「い、いえ! そのような事は……っ!! さ、咲夜さん! そうですよねっ、ねっ!!!」
同じく、目を閉じて腕組みする瀟洒な上司に相槌を求めるが、彼女は無言のまま反応が無い。
「お、おおお嬢さま~、た、たすけてくださ~」
「……見苦しいよ、門番。これ以上私に恥をかかせるのか? ――霊夢の前で。
黙るがいい、その良く動く舌を……引っこ抜かれたくなかったら……な」
紅魔の目が紅く、冷徹に光った。きゅうっと窄む瞳孔。魅了の邪眼が本領を発揮する。
霊夢に甘えてた時とは、まるで別人。その血も凍るような美しい姿は、まさに悪のカリスマ、口調まで変貌している。
だが、その卓越した魅力は寸分も損なわれてない。それも当然、れみりゃ様の格は……幻想郷いちなのだから。(博麗先生は論外)
「そ、そんなぁ……」情けない声で涙ぐむ美鈴に追撃が。
「・・・・・・ちゅうごくよ。一つ問おう。この弾幕――華符「芳華絢爛」
――これは貴様の精一杯なのか? 正直に答えるが良い」
「……(ここで嘘ついて「はいそうです」なんて言ったら、どんな折檻が待ってることやら…。ど、どうしよう……じゃあ……「いえ、手ー抜きましたー☆えへへ」……ぐむ、正直ものは死を見る予感。どっちにしても、博麗先生が帰った後に待つのは…咲夜さんの鬼折檻、か…。うう…どうしてこんな役回りが多いの!? みんな絶対私のこと誤解してるよぅ、そもそもなんで誰も名前で呼んでくれないわけ!? 中国じゃあないっての! 私の名前は……」
思考に没頭するあまり美鈴は、沈黙が長すぎるという―博麗霊夢が最も嫌う―最終カウントダウンに、自ら点火したことに気づかない。博麗先生のいかめしい額に青筋がぴくぴくと浮き上がる。もはや、誰の目にも美鈴の運命は、あきらか。それを証明するかの如く――
「 なんとか言わぬかぁっつ!!!! 中国ッ!!!!!!!!!! 」
QED。証明完了。哀れな犠牲者はひぇぇと地べたに額を擦り付け、平伏し「お許しを~」と卑屈の限りを尽くす。
・博麗霊夢は卑屈な者、無能な者、気に入らぬ者、言い訳がましい者、言い訳もせず平謝りする者が大嫌いである。
(……なにやっても、駄目じゃん)
・レミリア・スカーレットは霊夢の為なら喜んで名前も知らない(ひでぇ)いち門番のくびを刎ねるだろう。
(あんまりだ)
・十六夜咲夜は溺愛するあるじを不愉快な気分にした、名前も知らない使用人のことを決して赦しはしない。(断定)
(……イキロ、中国)
味方は誰も居ない。必死で弁明を試みる中国。返答如何によって生死が定まるのは、もはや避けられぬ。
「申し訳ありません……ッ! 博麗先生…。もういちど、もういちどだけ機会を!!
この美鈴、今度こそは先生を満足させる弾幕をお持ちしますッ!!!」
ギロリ。 博麗霊夢は厳つい顔で、目の前で土下座する少女を睨みつけた。
「……よかろう、私とて鬼ではない。今回は大目に見てやる。早く代わりの弾幕を持て」
「はいー! ただいまッ」
慌てて惨殺(寸前)空間から逃げ出す美鈴。バターンとドアを開け、一秒の遅れも惜しみ、脇目もふらず弾幕厨房へと駆け込む。もう必死である。洛陽紅脚で急速離脱。それは―――しゃららーんと効果音が鳴る程度の速度であった。
㊥ ひがしんぼ ㊥
………少女弾幕中
㊥ ひがしんぼ ㊥
「だ、駄目だわ……。最近滅多に本気出してないから、せいぜいHardまでしか、テンション上がんない……
でもでも! 符名はLunaもHardも一緒だから、だ、大丈夫よね! ……………………きっと」
『自らも騙せぬ嘘は~』古い格言が美鈴の頭をよぎる。……やっぱり作り直そうかな、と思い直すも
「中国、早くなさい。博麗先生がお待ちよ」
もはや、手遅れ。死を告げる天使――アズライールの――非情なる宣告が下された。
「あ、あのぅ……これはそのあのいわゆるひとつのあのですね
「……? なんだ、もう出来てるじゃない。さっさと持って来るのよ? ああ、それと――」
にこり、と微笑みながら瀟洒なメイドはトンデモナイことを宣う。
「取るに足らぬ前座とはいえ、貴方の弾幕は――紅魔館の威厳と美意識とグレイズ、全ての弾幕を格調高い物に仕上げる為の、最初の一歩。
それは序盤の盛り上がりを司る、大事な仕事。それこそ門番程度には身に余る光栄。――ゆめゆめ疎かにしないことね。
これ以上――――――お嬢様に恥をかかせたら、どうなるか、分かるわよねぇ………?」青→紅、攻撃色発動。
(嫌、嫌すぎるぅぅーーー!! 咲夜さん、目が紅いです! 正気に戻って下さいぃぃ)
――タイムアップ。これ以上待たせるとスペカボーナスもゼロ。美鈴はガクガクブルブルしながら、博麗先生の下へと、悲壮なる弾幕献上を行う。……一片の奇跡の可能性に、我が身の全てを託して……。
・
・
・
・
「ど、どうぞ。彩符「彩光乱舞」でございます」
「うむぅ……」
出された弾幕料理を見るなり、博麗の顔が強張る。彼女にかかれば、食すまでも無くメッキは剥がれ落ちる。
弾幕の皿に伸ばされる手。緊張のあまり硬直する美鈴。
がしゃあああああああああああああああああああん
テーブルから勢い良く払い落とされる皿。条件反射的にびくり、と目をつぶる美鈴。ばらばらと零れた弾幕が、美鈴に降りかかる。
博麗の怒りは、只でさえ低い沸点を容易く凌駕した。八つ当たりだけでは収まらず、更に苛烈な追い討ちが、不幸な少女を襲う。
「貴様……この私を愚弄するかッ。なんだこの弾幕は! 黙っていれば判らぬとでも思ったか!! この、たわけがッ」
「……………!?」 あわ あわ あわ…
「貴様は今後一切門前に立つな!! 弾拾いと、地下室の遊戯相手だけしか許さん!! それが不服なら出て行け!!!!」
「せ、先生………」 いやぁぁーーー! やっぱりこうなるのーーー!?
「咲夜」
「承知」
ずるずると引き摺られて逝く元門番。怒涛のように流れ落ちる涙。めいりんの鳴き声は、紅魔館の廊下から地下室へと移り往く……。
㊥ ひがしんぼ ㊥
「んふふふふー♪ 今日は楽しかったね、中国! また遊ぼうねー」
ズタボロの塊が地下室からサルベージされる。
「……ふぅん、頑丈なのね。貴方。案外天職かもね、妹様の遊び相手」
(か、かんべんして………ガク)
来た時よりぞんざいに、ずりずりと緑色のボロいサンドバックを引き摺る鬼女。ぺいっと兎小屋にソレを放り込む。
「んじゃ」
(……………………………絶対、愉しんでる………鬼、だわ)
しゅたっ! と片手を挙げ、瞬きする間に消え去るタネの無い手品を披露する瀟洒なメイド。いくら見事な演出とはいえ、そんなことは…瀕死の彼女にとって、極めてどうでもいいことだが。
(……しくしく)
・
・
・
「うう……からだ中が痛い。パチュリー様に治癒魔法かけてもらお……」
時刻は昨日の弾幕晩餐を通り越して、朝。ちゅんちゅんと普通の雀が鳴いている。
(……泣きたいのは、こっちよ……ちゅんちゅん)
もはや、自分がなにを言ってるのかワカラナイ。ちゅん? 中、白發中。麻雀の起源は……中国。ああ、そうなのね。皆で合唱、ちゅんちゅんちゅん……。アハハハハ……。
少女はちゅんちゅん呟きながら、図書館を目指す。その意識は既に空。無想天成。完全に逝っちゃっているようにも見えるが、本当のところは誰にも分からない。……彼女の名前と同じく。
~ ヴワル魔法図書館 ~
「パチュリーさま~どこですか~」
幽鬼のように彷徨う人影。紅美鈴である。ふらふらと足取りもおぼつかず、気を手繰り図書館の主を探す。
何時来ても、ここには本、本、本。本の樹海、知識の墓場。ありとあらゆる知識の宝庫。けれども……
「これだけ本があれば、どこかに私の名前もありそうよね……。紅(コウじゃないよ)、ホン、本、叛……謀反、か。……………無理ね。ここは弾幕馬鹿の巣窟だし…私のささやかな弾幕じゃあ瞬殺されるのがオチ…うう、自分で言ってて悲しくなってくるわ」
「………誰が弾幕馬鹿なのか、興味あるわ。ええと……目の前の中国を自白させるには……」
ぱらぱらぱら
ありとあらゆるどうでもいい知識を記した本が、ひとりでにめくれてゆく。何時の間にか美鈴の背後には二人の魔女が。
「あら……おかしいわね、この本に分からない名前があるなんて。ねぇ魔理沙、あなたの魔砲でどうにかならない?」
「んにゃ。無理だぜ。あいにく無から有を創り出す魔法は専門外なんでな。あの歴史の半獣なら、あるいは堀り出してくれるんじゃないか?」
散々な言われようだ。あながち間違いでは無いところが、哀愁を誘う。
「あ……う……パチュリーさま~」傷のいたみと相まって、最後の糸が切れたのか、よよよと泣き崩れる美鈴。
(もう、いいです。私は中国で。うう、だから、なんとかして下さい、色んな意味で終わってるこの状況を~)
「ちょっ……どうしたのよ、中国!? ……ねえ、魔理沙! いくらなんでも、言い過ぎじゃないかしら」
「……(いや、おまえも充分酷いこと、言ってるし)あー、すまんな中国。少しばかり言い過ぎた。
また、なんかあったのか? 私たちでよければ話ぐらいは聞いてやるぜ?」
あまりにヘタレな気を放射する目の前の少女を、さすがに哀れに思ったのか、二人は普段とは真逆の思いやりを発揮する。いじりがいのある彼女をからかうのは、好きなのだが…こうも痛々しいと、その気も失せるというものだ。
「………ああー! ありがとうございます~!! じつは………」
かくかくしかじか
使い古された古典的な表現方法、いつだって便利なものは便利。普遍的な真理である。中国が使うと違和感が全く無いのが恐ろしい。
・
・
・
「―――なるほど、霊夢の奴…どういうつもりだ? 普段のあいつらしくもない。
いくら弾幕好きとはいえ、ここまでやることもないだろ。なぁ、パチェ」
「……そうかしら? 博麗先生は自分に厳しく、他人に厳しいお方。中国の手抜き弾幕を出されて、ご自分の信念を侮辱されたと感じたんじゃない? 私だって…誰かさんに勝手に希少な本をごっそり持って行かれたら、キレるかもね」
――しまった。薮蛇だったか。……ここはひとつ―――
「それにしても! 許せないぜ、今回の霊夢の非道は!! 長年くだらない仕事を糞真面目に勤め上げた門番を、ただ一度の失態で切り捨てるとは。いくら創造主に忘れられ、影が薄く、居てもいなくてもいい存在とはいえ、こいつだって生きているんだ。簡単に削除していい筈が無い」
(………私、何気に酷いこと言われてる? 同情……なのかな? これは)
「じゃあ、どうするの? 魔理沙。 あの博麗先生に弾幕勝負でも挑むわけ? 中国に代わって」
――さっきから、どうも気になる。なんで皆、霊夢のことを「先生」て言うんだ? なにかが決定的にずれているような――
「いや、面と向かって挑むのは中国の為にならない。(たかが中国の為に、あの霊夢と本気でやり合うのもなぁ)
あくまで裏方としてこいつを助けていい弾幕を生み出して、霊夢をギャフン(………。)と言わせてやろう。
こいつには何かと世話になってるし、霊夢の暴走をどうにかするいい機会だ。それでいいか? 中国」
素晴しい友情であった。これは他人の恋路を邪魔しなかった中国の職務怠慢…いや、気遣いが実を結んだ瞬間である。
「本当ですか!? 私なんかのために、そこまでしてくれるなんて……この紅美鈴、感謝感激、恐悦至極、光栄の極みでありますー!!」
嬉しさのあまり、おかしなテンションになった中国。魔理沙の手をわっしと握り、ぶんぶんと激しくシェイクハンド。さすがに少々うざい。――優しさに餓えてたのかコイツ……魔理沙の顔が引きつる。じと目で眺める相方の視線が痛い。
「そ、そうと決まれば早速弾幕特訓だ。あー、最初に言ってがな、中国。
――私の弾幕指導は――厳しい、ぜ?」 にやり。
「うん、取り合えず同じ紅魔館に住まうものとして、私も出来る限りの実験台…いえ、スペルサポートを行なうわね。
私の七曜符は、魔理沙ほど容易くは避けられないわよ? 今日は調子もいいし、日月符も可能だわ。頑張りなさい――中国」 くすくすくす
素晴しき仲間たち。本当に中国はしあわせものである。紅美鈴の頬を一筋の汗が流れ落ちた。
(これ、なんかすっごく嫌な状況のような気がするんですけど。気のせい、かな? かな?)
㊥ ひがしんぼ ㊥
………中国弾幕中。
㊥ ひがしんぼ ㊥
舞台は再び紅魔館――弾幕食堂。
昨日に引き続き、紅魔館で一夜を過ごした博麗霊夢。難しい顔をしながら、新たな弾幕者の創り出した弾幕を賞味している。
「……弾幕の名称が無いな。誰が創った」
答えるメイド長。
「申し訳ありません、小悪魔でございます」
「ちっ……名前があるということだけは、生まれつきのもので、自称してどうにかなるものでも無いとはいえ……
――中国はどうした? あれから弾幕をぷっつり諦めたのか」
「いえ、先日妹様の生贄に捧げて生還して以来、なんの音沙汰も。メイド達の話では図書館に向かったとか」
紅魔館の当主が続ける。
「あのね、霊夢。昨日からパチェの所に……魔理沙が来ているの。言うべきか迷ったのだけど…霊夢に隠し事はしたくないから。黙っててごめんね」
目を潤ませる紅魔。なんて―――凶悪な破壊力。
「そうか、魔理沙の奴が……。中国め、あのような輩とちゃらちゃらしおって。
大方、なんやかやと私の悪口を吹き込まれて、やる気を喪ったのであろう。馬鹿な奴よ」
―――バァァン……
食堂の扉を勢い良く開け放つ音がした。
颯爽と現われ出でたのは二人の魔法使いとズタボロの元門番。白黒の古風な魔女スタイルが売りの、ぐうたら社員――もとい、盗掘マニア――霧雨魔理沙。
不安げに魔理沙のスカートの裾を掴み、片手に魔道書をきゅっと抱きしめ、寄り添う寝巻き姿の半病人――動けない大図書館――パチュリー・ノーレッジ。
そして――
「………」
魂が口からはみ出している、やばげな中国人。……恐らく彼女は、無我の境地に到っているのであろう。
――ねえ魔理沙、後は中国に任せておけばいいのに、余計な事に首突っ込むのは止しましょうよ。と小声で諌めるパチェに「まぁまぁ見てろって、名も知らぬ哀れな門番を格好よく救う――蝶素敵な魔砲少女。どうだ? 惚れ直すだろ、はっはっは~」などと脳天気な言葉を返す魔理沙。ふふーんと何気なく一同の面子を見やり、うげっと顔を硬直させる。
視線の先には――――博麗大先生が。
(えーと、アレは……霊夢、なのか? いつから私の幻視能力はEXになったんだ? ……不思議、だぜ)
じゃあな、と踵を返す魔理沙を相方がぐいっと引き止める。
(ちょっと魔理沙! ここで帰ったら話が進まないじゃない。さっきの威勢はどうしたのよ)
(……でもなぁ、見ろよ…あの広い肩幅、いかめしい威厳に満ちた顔。……勝てる気がしないぜ)
ぎゅうっ!
転進しようとする魔理沙の腕をちから一杯引きとめ、半病人の少女は涙目で訴えかける。
(魔理沙……私のことが、嫌いなの…? ここで出番が無くなったら、他のひとに、貴方を取られちゃう……。それとも……またあの人形師や妹様と浮気したいの? 二人きりで居ても、私…本ばかり読んでて…魔理沙が詰まらないのは分かってる。けどね、魔理沙と一緒に居られるだけで……もうなにもいらないほど、本当にしあわせなの。お願い、魔理沙…置いてかないで……。せっかく、こうして二人で居られる時間ができたのに、そんなの…嫌)
ズキュゥゥゥン
独特の効果音が魔理沙を貫く。
クリティカルヒット。ガード不能。リリアン女学院。スール制度。リリーホワイト。ξ・∀・)めるぽ。
訳のわからない単語が脳裏を駆け抜け、Hな雰囲気を増大させる。各感情パラメータはゲージを振り切った。
「ああ、私が間違ってたぜ。……パチェ、すまない」
そっと手を伸ばし、愛しいお姫様の目から零れる宝石を拭う。
「ううん、わがままばかり言って……ごめんね、魔理沙」
気丈に笑みを浮かべる病弱な美少女。
「パチェ……
「魔理沙……
近づく距離。通じ合うこころ。ふたりを祝福するかのように、何処からとも無く、百合の花が咲き乱れる……。
閑話休題。春符「百合色の幻想郷」
「………(いいわねぇ……私もお嬢様と……くぅん♪)
「………(霊夢、私ならいつでもオーケーよ。永遠の夜が欲しくなったら、いつでも来てね。私…一生懸命、頑張るからっ)
「………(むぅ……なんたる破廉恥な。魔理沙めが、いい気になりおって……)
「………」忘我の境地。この程度の刺激で彼女の目に光が戻ることは、無い。
Spell Card Bonus !
+19190160
「……ふー。 待たせたな、霊夢。 ちょっと廃人化してる中国に代わり、こいつの生み出した渾身の弾幕を解説するぜ。
――ほらよ、心して味わうがいい。中国の血と汗と涙の結晶をな」(くっ……なんて重圧だ。早い所済ませてパチェと……
博麗霊夢の射殺すような視線から目を背け、霧雨魔理沙は弾幕の皿を持った中国の背を押しやる。
トコトコと自動人形のようにテーブルに歩み寄るロボ美鈴? 明確な意識が無い分、恐怖とは無縁なのが救いである。
「………ドゾー、最符「極彩七鍵守護神マスター颱風」デゴザイマス」
棒読み。
不愉快そうに魔理沙を睨んでいた視線を、目前の弾幕に向ける霊夢。
その視線の先には――
「むぅ……これは」
――名状しがたきもの。星間宇宙の果て、プレアデスの輝きにも似た奇怪、かつ異様な美に彩られた弾幕。
不覚にも見入ってしまった己の無様を戒め、博麗は言葉を綴る。
「―――ふむ、基本の弾幕の上に七曜の属性を乗せ、本みりんで味を引き締め、合成の度合いを熟成させたか…
ともすればくどくなりがちな、多種多様な属性。よくぞここまで調和を持たせたものよ。だが…工夫はこれだけではあるまい」
ぱくり と弾幕を食しながら唸る。
「ほう…! これは……金平糖か。それも手間暇かけて職人が作った本式の、昔ながらの製法を忠実に守った逸品だな?
ふふ……チルノ程度なら騙せても、この私の舌は誤魔化せん。―――腕を上げたな、美鈴」
め、
い、
り、
ん。
黒歴史に埋もれし、誰もが忘れ去った筈の――真名。
はっとした表情で一同はその少女
「 紅 美鈴 」
を注視する。萃まる視線、萃まる驚愕、あつまる――――想い。
(おい……美鈴て、アイツのことか!? 調味料の名前じゃなかったんだな……吃驚だぜ)
(落ち着いて! 魔理沙。私も吃驚だわ、まさか「無名彩字記」に記されてない名を、博麗先生がご存知だったとは……。さすが、博麗の弾幕巫女。深遠なる無駄知識は、余人の及ぶ所では無いのね)
(――どうでもいいわよ、そんなこと。ああ、それよりお嬢様…きょとんとしたお顔も素敵ですわぁ…ハッハッハッ)犬みみもーど全開。
(霊夢……す・て・き)いやいや、あの霊夢「のような者」より貴方のほうが……二百由旬程度、素敵だ。
――めい…
…りん
――め…い、りん………
――めいりん……
≪ 美鈴 ≫
(………ん。 誰かが私の名を、呼んだ……? アハハ、まさか、ね。そんな馬鹿なこと、あるわけ無いのに)
「見事だ。――紅美鈴よ。以前の職務に戻り、これからも精進するがよい」
(えっ? えっ? えぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!? まさか、これは、夢じゃないの…?)
主電源が入り、CPUが活性化したロボ美鈴。眠りから覚めた伏竜は、一気呵成、トラウマの湖底より光さす地上へと駆け昇る。
「う、ううう……あ、あありがとぉうございますぅぅーーーーー!!!! 博麗先生……っ!! 美鈴は、美鈴は――その御言葉だけで、もう死んでも悔いはありませんッ!!!!!!!!!!」……そ、そーなのかー?
重苦しい雰囲気を打ち破るかのような笑い声が食堂に響く。重圧を放ち、場を硬直させるのが博麗先生の威厳であるなら、場を和らげ和気藹々とするのも、先生の人情のお力。あらゆる場を完全に掌握する彼女は、平和を取り戻したかに見える紅魔館に、更なる爆弾を投下する。そう――博麗霊夢は、極度の負けず嫌いなのだ。
「――だが、この弾幕料理には重大な欠陥がある。そうだな――魔理沙よ」
しん……と静まり返る一同。今度は魔理沙に視線が集中する。
「……なんのことだ? 霊夢。変な言いがかりはよせよ。中国の弾幕がいい出来だったんで悔しいのか?」
不機嫌に言葉を返す魔理沙。今回の弾幕はパチェと自分の「愛の」共同作業。(ついでに中国)いちゃもん付けられて黙っていられる筈も無い。更にありえざる記憶がどこからともなく湧き上がり、ひとりでに口をつく。
「大体、いい弾幕を追求するあまり人間らしい感情のすべてを捨てるとは、どうかしてるぜ!!
霊夢―――おまえのせいで、弾幕追求の犠牲になって………魅魔さまはッ!!!!」
(うにゃ? 私はなにを言ってるんだ? お、おかしいぜ。どんどんこの異常な世界に取り込まれていくような……あー、まぁいいか。面白けりゃ問題ないぜ)
「私は霊夢、貴様を絶対許すつもりは無い。お前の間違った人生も、弾幕も、全てを否定し尽してやるぜ……」
「ふん、小童が。この弾幕の欠陥もわからず、きゃんきゃんと吼えよって。なんたる無様よ…。
愚かな貴様にも、判るように言わねばならんか……
いいか、足りないのは『彗星』だ。箒星といっても差し支えあるまい。
なのに、マスタースパーク程度で妥協した貴様の傲慢、見抜けぬとでも………思ったかッ!!!!」
画面中を揺るがす大喝。紅魔館は霊夢の嚇怒にびりびりと身を震わせる。
「……………くっ」(あー、そうなのか? パチェ。)
「魔理沙…………」(博麗先生が言うからには、そうなんでしょうよ。う…耳がきんきんするー。)
押し黙る二人を余所に、霊夢は席をたち、大笑しながら扉に向かう。
「わぁっはっはっは! れみりゃさん、こんな弾幕の味もわからん連中との付き合いは控えたほうがよいですぞ。
せっかくの貴方の格が、@なみにさがってしまう。あれはあれで趣があって良いが、そこの黒い雑種程度に引き摺られてそうなるのはどうかと、老婆心ながら忠告しておきましょう。
―――魔理沙よ、少し弾幕をかじった程度でこの私――博麗霊夢に挑むとは、天に唾する所業。
無様を晒すのも大概にしておくがいい。――二度と私の前に、その面を見せるなッ!!」
ずかずかと振り向きもせず歩み去る霊夢。「あーん、待ってよぅ霊夢ー」と追いすがるれみりゃ。ストーキング(護衛)する咲夜。悔しそうにただずむ魔理沙にパチェが訊ねる。
「魔理沙……博麗先生との間になにかあったの? 尋常じゃないわよ、あの先生があそこまで言うなんて。
――博麗の弾幕は人の意に非ず、是即ち天意なり――の銘を忘れるほど怒るなんて、このままで済むとも思えないわね……」
心配げに魔理沙のエプロンの端を握るパチェ。温かい気持ちを感じながら、魔理沙はどこか遠くを見ながら呟く。「ああ、私にも何がなんだか判らないが――――面白くなりそうだぜ」
不敵に微笑む黒い魔砲少女。魔理沙は理解の範疇を超えた異界化現象に、微塵もたじろがない。とことん前向きな彼女を頼もしく思うパチェリー・ノーレッジ。二人の魔女たちは、しっかりと手を繋いでその場を後にする。
ひがしんぼ―――
それは呪われし祝福を受け紡がれる、位相のずれた異界の物語。
ありえないネタ。
ありえない感性。
ありえない―――肩幅。
ながれ る閃光の果てに展開する、究極と至高の弾幕勝負。
ひがしんぼ―――早く続きを作りやがれ(丁寧かつ、紳士的にお願い。敬意を込めて)
言いたいことは、それだけだ。
途中から霊夢、いや博麗先生がが元ネタ絵で凄い迫力とともに脳裏に…
まさか「コレ」がネタになるとは夢にも思いませんでした。
幾星霜を数えた巌の如く、揺るがず、険しく、そして雄大な博霊先生の雄型・・・いや、御姿。
@と笑いが溢れすぎで何か大変なことになっちゃたな(゜Д゜;)と(笑
しかしながら原作(?)を作った身としては光栄極まりないです。
あんな恥ずかしい作品に感銘を受けていただけることに感銘を受けつつ締めの言葉を。
「大変失礼いたしました orz+」
ヤバイ
配役が素敵キングだ
なのに、ヴィジュアルが脳内にはっきりと……なじぇ?