今、私は悩んでいる。
最近の私の存在意義に疑問を感じるのだ。
私は今、この白玉楼で幽々子様の剣の指南役…のはずだが、庭師をしている。
この頃は、この立場が意味の無い物かと思えてきた。
幽々子様は真面目に私の指南を受けて下さらないが、そもそも幽々子様に剣が必要なのだろうか。
この庭師業も、私がやらなくとも良いのでは無いだろうか。
要するに、私の立場が他の者でも代えられる気がしてならないのだ。
それに、幽々子様は私を頼りないと思っている。
何時だったか、私は自分を「冥界一硬い盾」等と言ったが、信頼されていない盾に何の意味があるだろう。
壊れるかも知れない盾を使うぐらいなら、避ければ良い。幽々子様はそれが出来るお方だ。
…こう考えて居ると、居ても立ってもいられなくなってくる。
焦りだけが強くなってくる。
力が、欲しい。必要とされる力。
幽々子様をお守りする事が出来る力。
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妖夢が居なくなった。
数日前、「修行に行って参ります」と言って外へ出て行ったきり。
妖夢の日課としている修行かと思ったけれど、何時まで経っても帰ってこない。
しかし、妖夢は楼観剣と白楼剣を置いて行っている。戻ってくるつもりがあると言う事だ。
何か怪我でもしているのかもしれない。
そうだとすると、早く探さなければいけない。
…妖夢の立ち寄りそうな場所、知り合いの所は全て回ってみたが、見つからない。
ただ、妖夢が立ち寄りそうな場所と言っても殆ど私は知らない。
私は、妖夢の事を何も分かって無かったのかもしれない。
いや、分かって居なかった。
私は妖夢の残した剣に残る気を頼りに、妖夢を探しに行く事にした。
妖夢…私は、主として失格かもしれない。
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妖夢が、見つかった。
薄暗い森の上からその森を何気なく見渡したら、
木の葉に隠れて頭しか見えなかったが、妖夢の後姿が見つかった。
私が妖夢の後姿を見間違うはずが無い。妖夢の後ろに素早く降り立とうとする。
「妖夢!妖……夢……?!」
『それ』は、妖夢であり、妖夢で無い存在だった。
数え切れない何かの死骸の中、ただ一人。
血に染まった一振りの刀を持ち、乾いた返り血で全身を赤黒く染め、妖夢は立っていた。
妖夢がこちらを振り向く。
その目には精気が無く、狂気と殺意に満ち溢れていた。
その狂気と殺意の目で私を睨むようにして見据える。
そして、突然妖夢は笑い出した。
「くくく………ふふ……あはははははははっ!!!」
邪悪に笑いながら、妖夢が凄い勢いで飛び掛ってくる。
咄嗟に楼観剣を鞘から抜き放ち、間一髪の所で受け止める。
恐ろしい力だ。どんどん押されて行く。
「妖夢っ!私が…分からないのっ…?!」
妖夢の持つ刀が目に入った。
異常とも言える怨気と狂気、殺気がこの刀から発せられている。
多分妖夢はこの刀に操られている。
操られたその時から、ずっと刀を振るい続けていたのだろう。
このまま放置していては、妖夢の命は恐らく長くは無い。
妖夢の目が、それを証明している。
「妖夢…この刀が、悪いのね…?
妖夢を……私の妖夢を、返しなさいっ!!」
力を込め、妖夢を弾き飛ばす。
次に妖夢が飛び掛ってくる前の一瞬に、私は考えをめぐらせる。
死の力を使うか?
しかし、力が弱すぎればその隙に妖夢は何事も無かったかのように襲い掛かってくるだろう。
強すぎれば本当に殺してしまう。
そもそも、今の妖夢がその隙を与えてくれるとは考えにくい。
…となると、やはりあの刀をどうにかするしか無い。
ここまで考えた時に、妖夢が跳ぶのが見えた。
どうやら、先程の競り合いは小手調べのような物だったようだ。
更に速度と威力が上がっている上に、何所に居たのか妖夢の半身まで襲ってくる。
受けきれずに、少しずつ私の体に傷が入る。
死ぬと言う概念が無いとは言え、この類の物で攻撃されれば痛いし、再生には時間が掛かる。
しかし、さっきから致命的と思える妖夢の攻撃は、悉く芯を微妙にズレている。
まだ、妖夢の意識が残っているのかもしれない。
早く解放してやらなくては。
…しかし、このまま斬りあっても、ジリ貧になるだけだろう。
妖夢の刀が通る位置より中に踏み込んで、一撃で決めるしかない。
再び妖夢が離れ、また飛び込んで来る。
左腕を狙う妖夢の斬撃をわざと浅く受ける。
避けきる心算が無ければ、更に一歩踏み込んで攻撃が出来る。
まだ反応できない妖夢の手元、刀を狙って楼観剣を振りかざし---
妖夢と目が合う。
その目には、敗北感では無く勝ち誇るような輝きがあった。
楼観剣を握る手に衝撃が走る。
妖夢の半身に体当たりされ、狙いを大きく外れて空を斬る。
しまった。
そう思った時には、妖夢の姿は視界に無かった。
左肩に衝撃。
続いて激痛が来る。意識が飛びそうになるが、何とか堪える。
「くぅっ……あ………!!」
どうやら、左腕は千切れてはいないようだ。
しかし、暫くは使い物にならないだろう。
妖夢はその場に立ち止まり、止めを刺す事に明らかに躊躇している。
もしかしたら…。
「妖夢…あなたは、こんな刀に…操られるほど、未熟では無い…でしょう…?」
妖夢の顔の、邪悪な笑みが薄れて行く。
あの意地悪をしてあげた時のような、泣きそうな顔になる。
良かった、妖夢の目だ…。
次の瞬間、脇腹に強烈な衝撃が来た。
妖夢が回し蹴りを放ったようだ。
私は吹っ飛ばされ、木に叩きつけられる。
もう、痛みで体が殆ど動かない。
妖夢の目は、元に戻ってしまっていた。
視界が滲み、霞む。
悔しい。
私は、あの刀から妖夢を助ける事も出来ないの?
妖夢がゆっくりと近寄ってくる。
あの邪悪な笑みを浮かべて。
そして、私の前で立ち止まり、妖夢は刀を振り上げ---
自らの胸を、貫いた。
「妖……夢?」
妖夢は何時ものような笑みを浮かべ、倒れる。
「妖夢っ!」
私は妖夢の側へ行き、傷を見る。
全身が激痛に襲われるが、そんな事は気にしていられない。
妖夢の傷は、素人目にも分かるほどの致命傷だ。
「死」が妖夢に覆い被さって行くのが見える。
「幽々子様…、済みません…。」
「妖夢、喋っては駄目っ!」
すぐに止血を行い、傷を深めないように刀を抜き、投げ捨てる。
使えない左手と、痛みで狂う手元がもどかしい。
「私は…幽々子様に…必要とされるだけ…の、力が…欲しかったんです。
あはは…でも…駄目、ですね。刀の力に、支配、されて…。
幽々子様にお怪我を負わせてしまった上に…この様、です。」
「妖夢の…莫迦…!
私は、妖夢が側に居てくれるだけで、良かったのに…!」
「幽々子様…本当に、済みません、でした…。」
「…妖夢…?」
「死」が妖夢を完全に覆ってしまう。
本当に、妖夢が死んでしまう。
…嫌だ。嫌だ!
「嫌だ!妖夢、私を置いて逝かないでっ!!!」
「死」が、薄くなってゆく。
妖夢を取り巻く「死」が消えてゆく。
…私が、「死」を、操った…?
…そこで、私の意識は途切れた。
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…あの後、私が先に気が付いて、幽々子様を背負ってこの白玉楼に戻ってきた。
刀に支配されてからの意識が無かったので、迷いながらだったが。
帰った後、幽々子様からそれはもう物凄い説教を受ける羽目になった。
あそこまで本気で説教されたのは初めてだ。
と言うより、私が幽々子様にこんなに説教される日が来るとは思っても見なかった。
ちなみに、あの刀は村正だか何だったかと言う名前で…。
取り合えず、結構な妖刀だったらしい。
それでも、刀に操られるとは、私もまだまだ未熟だ。
また、私は庭師をやっている。
幽々子様は私を探しに来る時に、誰かに代理の管理を頼むのを忘れていたらしい。
余程焦って居たんだろうけれど、お陰で凄い事になってしまっている。
「よーうむー!」
嗚呼、また幽々子様の呼ぶ声がする。
今日は一体何の無理難題だろう?
まだ庭の整理も終わってないと言うのに。
私が引き起こした事の後始末とは言え、これ以上はもういっぱいいっぱいだ。
まぁ、私も今回の事で一つ勉強出来たから、良しとしよう。
私は、必要とされている。
話の展開が早くて唐突な印象です。
もっと展開に時間と文章をかけたほうがいいと思いました。
盛り上がりきらないうちに、次の場面に移っている感じ。
ふぁいとです。
ゆゆ様と妖夢ならこんなこともあるだろうなぁ、と。
でもやはり、もう少し深く掘り下げてみてもいいと思います。
例えば妖夢の「存在意義に疑問を感じる」という気持ちにしても、どういう経緯でそう思うようになったのか(例えば、幽々子さまのためにもっと役に立てるように、と悩んでいた結果とか)を考えてみたり、二人ともより細かい心情の描写を入れてみたりすることで、作品に味が出るのではないでしょうか。
私もこういうのには弱い性質です。次も期待してます。頑張ってください。