* 知識の泉 ~Graveyard of knowledge~ *
――――――――へぇ~
ワハハハハハハハハ…………
―――………、……………です!
へぇー へぇー へぇー
―――………? …………!!
どっ!!!!
………でした~
「…………………へぇ~」
コタツにあごを乗せ、口をぼへら~、とだらしなく開きながら彼女はオウムのように声を出す。
とろんとした目は、糸のように細く
ぐてー、とテーブルに突っ伏すからだ
開いた口からは、今にも――半分幻の庭師のように――霊体が出てきそうだ。
アリス・マーガトロイド
それがこの少女の名である。
魔法の森の奥深く、迷い込んだら出られない天然の迷路。
そこにアリスの館は在った。
シックな色の屋根には、昨夜に降った雪が数センチ積もり、傍から見るとまるでチーズケーキのようなメルヘンさを醸し出している。その土台を囲む外壁は白く、まるで館のあるじの心のように純白で清楚な輝きを放っていた。
館を訪れる者―ごく一部の招かれざる客―に、こてこての少女趣味な印象を与える建物には多くの部屋がある。
主なものでは―――
地下にある魔法研究室―――努力する所を見られたくないので、滅多に人が入ることは無い。
人形工房 ―――上海人形、蓬莱人形、その他大勢の人形たちはここで生まれる。
厨房 ―――主にお菓子など少女らしいものを作ることが多い。
それらとは別に普段アリスが過ごす『やすらぎ空間』ともいうべき部屋。
いまアリスが居るその場所で、またもや……新たなため息の暴風が吹き荒れようとしていた……。
小奇麗な内装、壁際には柱時計、お気に入りの人形たち。本棚には貴重な魔術書に混じり、滅茶苦茶少女趣味な本がちらほら。アリスが背を丸めてぬくぬくとするコタツ。向かいには、紫から入手した魔法の箱が起動している。
様々な映像、音を映し出すその箱は、とても気まぐれで――恐らくは、紫が気の向いた時にこっそりスキマで繋げてるのだろう――今日はたまたま、外の世界の番組を垂れ流しているようだ。
*
『……………んどの…………は、……………です!
―――おおぉーーーー
『…………の刃と、………弾丸。どちらが……………………か?
―――ざわ…… ざわ……
ざわ…… ざわ……
『……………あとで
*
「……………あ゛ー。つまんない、わ………」
そう言いながらも、番組を見続けるアリス。話が途切れ、意味のわからないことを言い出したので視線をテーブルの上に向ける。視線の先には籠に入ったみかん。少し手を伸ばして皮を剥けば、甘酸っぱい果汁が口に広がり、つかの間の口福をもたらしてくれる。だが……
「あー、めんど。…………蓬莱。いっこ、ちょうだーい」
マスターの命を受け、アリスの使い魔―――蓬莱人形がみかんを抱え、アリスのもとへと健気に向かう。
「んあー。上海、むいてー」
蓬莱が運んだみかんを、えいっと真上に投げる。
…………。
しゅばばばばばば
ぽとん。
宙に浮かぶみかんへと、一瞬鋭い視線を向け――上海はエプロンの中から可愛らしいサーベルを引き抜き、神速の抜刀術で目標の皮のみを切り刻む。
上海人形―――アリスの最高傑作の双璧を担う、殺戮人形。キリングドールとも呼ばれるその能力は………
断じて、みかんの皮を剥く為に発揮するものでは、無い。
………………。
お疲れさま、と言いたげに相棒を労うみかん係。
蓬莱人形―――上海を剣の公爵とするならば、彼女は落日の女王。どちらも割りと器用になんでもこなすが、
蓬莱の得意とする能力は……極大出力の破壊光線を放射し、その収束光で群がる敵をなぎ払い、一掃すること。それに加えて
……みかんを放り投げることもできる、素敵な人形だ。
・
・
・
「あーん」
大口を開け、やる気無い表情で餌を待つ二人のマスター。顔を見合わせる従者たち。
…………。
上海がむっとした様子で、みかんを一切れサーベルで串刺しにする。あわあわとして、止めようとする蓬莱。
ひゅひゅひゅひゅひゅん がぽぽぽぽぽ……
次から次へとアリスの口に飛び込むみかん。
その速度はまさに神速、ルナティック。
「…………んがが。――――――ごくん。ぷぁー。
ちょ、ちょっと……激しすぎ……もっと優しく食べさせてよ……」
わがままなマスターの声を知らんぷりして、定位置に戻る上海人形。ぺこぺこと謝る蓬莱を余所に、彼女は沈黙を保つ。
余りに不甲斐ない主の有様に業を煮やしたのか、こちらを見ようともしない。
そうこうしているうちに、番組の続きが始まる。洗脳されたかのように姿勢を正し――最初と同じポーズだが――画面を眺めるアリス。
―――既にみかんのことは……忘れている。
*
ダーン!!!! キィイン…… ばす
ばす
―――おおおーーー
へぇー へぇー へぇー
*
「……今度、庭師と魔理沙で試してみようかしら……
でも、なんでわざわざ刃の部分を狙うんだろ。
どうせ撃つなら、急所のど真ん中に圧倒的な弾幕でぶち込めばいいのに。
本当―――外の人間のすることは解らないわ。頭、悪いんでしょうね」
一人でぶつぶつ呟くアリス。二体の人形は優しく、生暖かい目であるじを見守る。
画面のなかでは次のシーンが映る。
*
『マシン………と、……刃、……………………か?
―――どよ… どよ…
どよ… どよ…
『…………逃げない。………………です
―――おおぅ……
ずががががががががががががががががががががががががががががががが
―――…………。
『………たのは、………である。
…へぇー へぇー へぇー へぇー
*
「…………美しくないわ。あんなにえげつない真似で、勝とうだなんて―――無様すぎよ。
勝負の美学というものを、勉強し直したほうがいいのではなくて?
どこぞの黒いの並みに必死すぎて、泣けてくるわね……」
…………。
………………。
先程とは180度反対の意見を吐くあるじの様子を、無言で二人は見守り続ける。
このマスターは、常に全力を出すことをせず……たとえ負けても言い訳が立つようにしている。
言っていることは正しい、けど……何が何でも気に食わない様に見えるのは……気のせい、なのか。
「あぁ~、眠む……。蓬莱、上海! コーヒー入れてー。あ、豆はこの前紫もやしから蒐集した奴ねー」
がちゃり
ばたん。
なんともいえない空気の満ちる……脱力空間から逃げ出すようにして、二人は主命を果たす。
部屋に残されたのはアリスのみ。壁際の人形たちは、魔力をカットしているので今は動くことは、無い。
*
『ヌーディス……………船……片側に………転覆
へぇ~ へぇ~ へぇ~
―――うほっ。
『後悔は…………、…………見たいです
へぇ~ へぇ~ へぇ~ へぇ~ へぇ~
*
「……………外の人間って、こんなんばっかなの………
頭、痛いわ……。
砂浜であんな、はしたない格好で……羞恥心ってもんを知らないのね」
眠気でぼんやりした頭を抱えながら、こめかみを揉むアリス。
と、その時……彼女の頭上に天啓の如く、素晴しい光景が広がる。
♀ 美しき幻想郷の湖岸 ~Lakefront of evil passion~ ♀
ザザァァ………
湖のほとり、真っ白な砂浜で波と戯れるアリス。
雲ひとつ無い青空。周囲5km半径には氷精一匹おらず、世界には自分と……
『うふふふふ、アリスー。こっちこっちー!
「え? なあに? 霊夢ー。
『じゃーん!!
「きゃっ!!!! れ、れ、れれれれいいむぅぅ……ふっ、服はどうしたの!?
『いいじゃない。ここには私と……アリス、貴女と二人っきりなんだから……ね?
「う……うん!!!! そ、そうよね! 私たち友達だし、なにも……問題ないわね!! ええ! 全く!!
砂浜であられもない姿で横たわる霊夢。波打ち際からいそいそと―――服を脱ぎ捨てながら駆け寄るアリス。
既にテンションゲージは振り切り、モードはルナティックを通りこしてウルトラにまで達している。
『ほ~ら~! アリス~はーやーくぅー(はぁと
―――ああ、神綺さま。とうとう……長年の夢が……
この上なく良い笑顔で、鼻から紅い糸を伸ばし―――霊夢に届け、この想い―――
全身からしあわせ光線を発しながら、狂喜の満月は宙を駆ける。
普段は気にも留めない魔界のカリスマに、感謝の祈りを捧げつつ、霊夢の胸へと飛び込んで逝く。
「ああぁぁぁぁぁん!! れーいーむぅぅぅ!!!! 好っきやねーん!!!!!!!!
♀ 夢の終わり ~Was it good nightmare ?~ ♀
がっ!!!!
額をテーブルに打ち付ける痛みで目が覚める。
いてて…と涙目で辺りを見回すと―――
部屋に居るのは、自分のみ。
魔法の箱からは、楽しげに笑う着物姿の人間たちが。それは―――
―――まるで 孤独な自分を 嘲笑ってるかのようで
# 素晴しきアリス・マーガトロイド ~Puppet manipulator of revenge~ #
「…………な、な、ななななな
ワハハハハハハハ………
「………………………
どっ ハハハハハハハ………
「……………ウフフ、………アハハ………
ダハハハハハハハハハ!!!!
・
・
・
・
「 な に が
お か し い っ て の よーーーーーー!!!!!!!!
ふ・ざ・け・ん・なーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
ばーーん!!!! ごろごろごろ………… ゆれるてーぶる ころがるみかん
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戦操「ドールズウォー」!!!!!!
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魔法の箱の周囲に瞬時に召還される、上海旗下の量産型殺戮人形たち。
青いエプロンドレスを着た、可愛らしい姿をしているが……
その両手には既に、ぎらりと不吉に輝く白刃が握られていた。
指揮官たる上海人形を欠いてるため、その統率は充分とは言えないが、たかが箱一つ破壊するには充分すぎる戦力を持つ。
標的を完全に包囲した心無き人形たちは、召還者の号令を待ちわびる。
―――右手の親指を立てて……
――首の前ですぃーと横一文字に引く。
―指を大地にくいっと向け、
彼女は囁いた。
「………殺れ」
ずしゃしゃしゃしゃーーー ざくっ ざくっ ざざざざざくっ がちゃん ぱりーん
ぞぶっ ぞぶっ ズバーーーーーーーーーーーー ががががががががががががががががが
ビシッ がしゅがしゅ ばきーーーーーん ざしゅっっつ めるぽ ガッ
がきぃぃーーーーーーーーーーーん ざん…… スパーーーーーーーーーーーーン …ぼすん。
ちゅどーーーーーーーーーん!!!!
…………完全に沈黙する、魔法の箱。
その残骸からは元の形を推測することは困難。
役割を終えた人形たちは、スカートの端をつまんで ちょこんとお辞儀をして元の空間に帰還する。
―――アリスの秘儀で作られた『ブクレシュティの人形館』へ。
異空間にある、その魔人形保管庫には人形制作用の自動人形が常駐しており、『アーティフルサクリファイス』などに使用する、魂を持たぬ自爆技用の量産人形がずらりと揃っている。人形をこよなく愛する彼女は、たとえ魂を持たぬものとはいえ、手ずから製作した人形を傷つけることは出来ない。ならば、そんな技使うな…ていうか、戦闘させるな! といいたい所だが、それはそれ、これはこれ。病的なまでに自己の正当性を信じられるところが、アリスのアリスたる所以である。
荒い息を吐きながら、ふたたびコタツに潜り込むアリス。
興奮冷めやらぬ様子で―――全身を、その暖かな胎内へと滑り込ませ、なにやらごそごそとやり始める。
時折……ああん、霊夢ぅ など声がしたのは――誰も聞かかったこと、即ち空耳だ。
そう、聞く者の居らぬ言の刃は……自らを傷つけるのみ。
今宵のアリスの言動は、ただアリスのみが知る―――乙女の、秘密。
……蠢く、コタツ。
そして、幾ばくかの刻が過ぎた。
がちゃ
………。
……………!
上海と蓬莱がドアを開け、やすらぎ部屋に戻ると、そこには……
「や、おかえりー。早かったわね、ごくろうさま」
………。
……………。
もう、どこから突っ込めばいいのか……
取り合えず、二人はなにも見なかったことにした。
まぁ、妙にすっきりしたマスターの顔は、先程までよりもましになったので、良しとしよう。
「んー、いい香り。さすがに二人とも、私の最高傑作なだけの事はあるわ」
……。
………。
ご機嫌だ。離れてる間に、マスターに何があったんだろう……。
全ては、歴史の砂塵のなか。
知ろうと思うならば、歴史の半獣に堀り起こしてもらうほかあるまい。
もっとも……
満月の夜に、不用意に彼女へ近づくのは………………賢明とは言えないが。
―――貴方が、そういう趣味の持ち主なら
……話 は 別 だ が 。
#
箱が亡くなり、静寂が室内に満ちる。
かち こち
かち こち
先だってアリスの八つ当たりを受けて、機能を停止した柱時計は既に修復され、規則正しいリズムを刻んでいた。
修理に当っては、アリスにとって非常に不愉快な出来事があった。幻想郷で複雑な機械――特殊な柱時計などは、何処でも直せるという訳ではない。多種多様な人形を製作するアリスならば、時計の一つや二つどうにでもなるだろう。と思われるかもしれないが、彼女の専門はあくまで人形――それも呪物に大きく傾倒している。複雑なからくりは正直手に余る。
「あー、この箱……またあの変態店主に頼まなきゃ駄目、か……ああ、もう………
嫌だわね、もうガラクタにして魔理沙にでも上げちゃおうかしら。なんかと引き換えに。
ああぁぁ!! それにしても、思い出すだけでも腹が立つ! コーリンドーめー」
いくら今宵は冷静さを欠いているとはいえ、理知的で計算高い彼女がここまでその男を嫌うのは……それなりの理由がある。そう、あれは聖夜が明けた明後日のことだった…………
$ 幻想郷の中心で萌えを叫ぶ漢 ~Heavy Lolita complex patient~ $
人里はなれた寂しげな場所――魔法の森のすぐ近く、そこに幻想郷でも二つと無い、変わり者の店はあった。
和洋折衷…というよりは、無秩序にそれぞれの個性を組み合わせたような、怪しい素敵な外観。店内には古びたストーブ、所狭しと置かれた不可思議な物品。アリスの蒐集家としてのプライドをくすぐる用途不明の魔法の品々、引き連れている上海、蓬莱のエプロンに隠してお持ち帰りしたくなる程魅力的だ。
そう、此処はアリスにとって、実にいい場所であった。
―――この、店主の存在を除けば。
からん
ドアを開けてアリスは薄暗い店内に踏み入る。別段、此処に訪れるのは初めてではないのでなんの遠慮も無い。
「うっ……何時来てもいい品揃えね…と、今日はそんなことしてる場合じゃないんだっけ。
……? 誰もいないわね。 この隙に………って違うー! 落ち着け、落ち着くのよ…アリス。
――ちょっと!! 店主!!!! いるなら出てきなさい! お客様をいつまで待たす気なの!?」
大声で店の奥に声を掛けるアリス。
ごそごそと物音が聞こえ、のっそりと人影が現われる。
「なんだアリスか。そんな大声出さなくても聞こえてるよ。
……店の品物、勝手に取ってないだろうな?
お前と魔理沙は、油断も隙もないから……
で、今日はどういう用件だい?」
「失礼ね。人をあんな盗賊と一緒にしないでくれる?
そんなことより! 貴方、時計とか直せるわよね」
「……? あ、ああ。大抵のものならば、な。
そうか、またしょうも無いことで自分から壊したんだろ?
いや! 言わずとも解る。こう見えても僕は洞察力には自信があるんだ。
で、それを僕に直して欲しい、と。そういうことだろ?」
「………まぁ、大体は当ってるわ。自分で壊した、て所だけ訂正して貰いたいけど。
そうと決まれば早速直しに着て頂戴。もちろん礼はするわ」
「はは、霊夢や魔理沙とは違う…てことか。
よし、いいだろう。見てやらんことも無い、だが……」
「………?」
「詳しい話は仕事が終わってからだ。さぁ行くぞ、アリス」
なにやら怪しい笑みを浮かべ、妙にうきうきした様子で店を後にする店主。アリスは悪感を感じつつも、その後を追い元来た道を辿ってゆく。この時は、まだこの店主の奇妙な性癖を、うぶなアリスは気づくことは無かった……。
$
アリスの館。
「ふぅん。随分派手に八つ当たりしたものだな。で、これを直せば言い訳か」
「ええ、出来れば今日中にやって頂戴。
年末までには使えるようにしたいから」
「無茶言うなぁ……ま、いいだろう。
2~3時間で終わるからその間人形でも作っているといい。
報酬は……そこの可愛らしいお嬢さんのような人形。
それでいいなら、すぐにでも取り掛かろう」
「…………。(お人形? お嬢さん? 男のクセに変わってるわね……ん、仕方ないか)」
「ええ、了解したわ。こっちも同じぐらいに出来ると思うから、せいぜい頑張って頂戴」
「…………ふふ、任せろ。この僕にかかれば、こんなのチルノの手をひねるようなものさ……
――約束、忘れるなよ?」
不敵な笑みを浮かべ、作業に取り掛かる香霖堂店主。ちらちらと壁際の人形を見ている気がするが……気のせいだろう。こちらも作業に取り掛かるか……。
$
数刻後、エプロンドレスに金髪の人形が新たに生を受けた。もっとも、魂の入ってないただの人形だが。それでも見た目は決して他の魔人形に劣るものではない。どうせあの男にやるのだから、少しぐらい手を抜けば良かった、とも思ったが……こと、人形に関しては私は妥協することができない。損な性格だが…それが私なのだから、一向に構わない。
さて、そろそろあいつの仕事っぷりを見に行くか……。
がちゃ
「……………。
人形をもち、ドアを開けると……
「むふふ……この下はどうなってるのかな~
古物商としての、僕の好奇心が びんびんと! 騒ぎ出すんだよ!!
ああ、そうさ。決してやましい気持ちなんか――これっぽっちも、無い!!!!
純粋な探究心が………僕を駆り立てる…………あふぅん(はぁと
――なんだ、これは。目の錯覚か?
空いてる片手でごしごしと目を擦る。そして、壁際の人形の……スカートの中に顔を突っ込んでいる男の方を、もう一度見る。
「………ハァハァ、なんて素晴しいんだ…キミは。ああ、もうたまらないよ……
こ、この魅惑の三角巾の表面をぐるぐるなぞるだけでは……我慢できん!!!!
空想、妄想、予想、仮想―――幻想。ふ、ふ、ふ………どうやら、次のステップに移る時が来たようだね?
この下着の下に……なにがあるのか。もしかしたら、これはある種の謎かけかもしれない………
そう、これは僕の今までの知識と経験、なにより『勇気』をためす試練に他ならない!!!!
まってるがいい、愛しい君よ。今から………僕は! 漢になる!!」
「……………。」
――おかしいわね。どう見てもこれは―――あの変態が、私の人形にいかがわしいことをしている風にしか、見えないんだけど。もしかして、私の幻視能力が……あの人間でない男の影響を受けて……狂ってしまったのかしら?
「………ねぇ、上海、蓬莱。私には目の前で人形を襲ってる男の姿が見えるんだけど、そうなのかしら?」
………。(こくり
……………!?(こくこく
――ああ、やはりこれは現実なのね。考えてみれば当然のことだわ。そんなことに気づかないなんて、馬鹿ね、私は。
人形の股に顔を埋めた男の行為は、さらにエスカレートしようとしていた。放置しておけば取り返しのつかない傷を、あの子に与えてしまうだろう。
ちらり、と柱時計を見る。どうやらきちんと仕事は済ませたらしい。その辺はさすがというべきか。
ならば、こちらも……約束を果たさねばなるまい。
……そうだ。この気持ち――あの男にふさわしい呪い人形があったっけ。
あの下品な男に……ちょうどいい。――さぁ来なさいな。恨みが募る程強くなる……
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;
悪魔「恨みの土着人形-エボニーデビル-」
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ブクレシュティの館より召還されし、奇妙なインディアン風の不気味な人形。
下品な笑みを浮かべ、生理的不快感を煽る呪術触媒。濁った両目をばちりと開き、憑依対象の元へと――俊敏な動作で駆け寄る。汚らしい乱杭歯が林立する口から、涎を撒き散らしながら。手には剃刀のような鋭利な刃物を握って、喜々として…愛しいアイツの元へ。
「はぁはぁハァハァ……うっ! こ、これは………な、なんて―――ぐぎゃっつ!!!!
尻を突き出した状態で床に這いつくばるコーリンドー。その尻目掛けて大口を開け、がぶりつく恨み人形。
人間ではありえない動作でびょ~んと飛び上がる変態。涙目で必死にケツの人形を外そうと試みる。
「ぐわぁああああああああ!!!! な、なんだってーーーーこんなものが、僕のお尻にィィ!!!!
うわぁぁあああああああああああん!!!! やめてー! がじがじしないでぇーーーーーーー
いやいやと身悶えするコーリンドー。冷たい目で自分の狂態を見守るアリスに助けを求める。
「あああああああああ、ありすぅ~! いったいこれは、何の真似だいっ! ひ、ひどいじゃないか!!!
僕になんの恨みが……あっふぅーーーーん!! いやぁあああああああん!!!」
「…………。自分の胸に聞いてみるのね。約束は果たしたわ、コーリンドー。せいぜい可愛がって貰うがいいわ。
――その、愛しい愛しい…お人形さんに」
「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!
い、いいかい、アリス。落ち着くんだっ…! これは…そう、不可抗力だったんだよ!!
あまりに、君の人形が良く出来てるんでっ! ぐあっ!! は、離したまえ! この野郎!!
こいつめ! こいつめ! お、同じ学術探求の徒じゃないか、僕らは! 君なら…解ってくれると
うおぉおおおおおおおおお!! 思ったのにぃぃーーーーーーーーーー」
「やめてよ、変態。…用事は済んだことだし、さっさと帰って。そのお人形さんは報酬にあげるから。
――早く出て行かないと……もう一体、サービスするわよ?」
心底怯えた情けない顔で、脱兎の如く館から駆け出すコーリンドー。本当に…人間なのかと思える速度で、見る見る遠ざかっていく。……そのケツに、愉快な人形をぶら下げながら。
「~~~~~~~~~~お、憶えてろよー! アリス!! この屈辱は、晴らす!!!
――――いいかっ! きっとだ!! きっとだぞ…うぎぎぎぎぎぎぎーーーーーー!!!!」
「………憶えないわよ。はぁ……知らなかったとはいえ、なんてモノを我が家へ招いてしまったの。
寒気がするわ……うぅぅ、お風呂に入って寝よ……」
ばたん
○ 初日の出は貴女と ~Royal flare~ ○
―――鬱なことを思い出してしまった…不覚。……あの箱は魔理沙行きね。勿体無いけど、あの馬鹿に頭を下げる位だったら…その方がなんぼかましだわ。後であの子たちに片付けさせよ……。
いつのまにやら時刻は11時。昼ではなく、深夜である。もしかしたら…と少しは期待していたが、結局誰も来なかった。
……今日の日付は、既に1月1日、元旦。――あけましておめでとうな日。それも……あと一時間で、終わりだが。
「…………あけまして、おめでとう。上海、蓬莱。今年も宜しくね」
………。(ぺこり
……………。(ふかぶか
「…………………………寂しくなんか、無い…わ」
………。(……
……………。(……
「ふふ、嫌ねぇ…そんな目で見ないでよ。
大丈夫、私には――――――こんなに素敵な友達が、居るんだもの。
上海、蓬莱……他にもほら、たくさん たくさ…ん……」
窓の外には、大きな太陽が昇ってた。
一年の始まりに相応しい――大きくって、真っ赤な朝日。
心なしか、部屋の中まで暖かくなってきたように感じる。
―――いくら、朝日が眩しく、熱く見えるといっても……そんなこと、あるはずが無いのに。
「あー。綺麗な朝日ね………………って! なんでこんな時間に朝日が昇るのよ!?
アリスのいる部屋の中は、もう真夏のように暑い。魔法防御の掛かっている館の内部でこれだから、外は恐らく灼熱地獄だろう。見ると窓枠が高温に耐えかねて溶解しようとしている。
「な、ななななんなの!? どういうこと! 一体何が………
取り合えず様子を―――上海! 蓬莱! 出るわよ!!」
先程までの脱力状態から、瞬時に戦闘モードに移行するアリス。
ありったけの魔力札――青い符力の源をひっつかみ、厳重な魔法障壁を展開させながら館の外に出る。そこには――――
おおきな おおきな
赤い 紅い ほおずきみたいな太陽が
「…………これは、もしかしなくても……あいつの仕業か。病弱が売りのくせして、人様の庭で随分と派手にやってくれるものね」
燃え盛る人工の太陽からは、凄まじい勢いでプロミネンスが噴出している。七曜の王者の揺らめく火炎は空間すら焼き焦す。炎の海から身をくねらせて踊り狂う火竜、絶望的なまでに巨大な火球から伸びるそれは――いにしえの龍王 八岐大蛇のよう。
魔理沙や霊夢から、話には聞いていたが…なんて圧倒的な力……これが、本気を出したあいつの切り札か――――
そのスペルの名は――――
日符「ロイヤルフレア」
「………ふん。さっさと出てきなさいな、七曜の魔女――動かない大図書館 パチュリー・ノーレッジ!!」
紅い太陽の中からゆっくりと生まれ出でる人影。気だるい雰囲気を身に纏う、知識の番人。
詰まらなそうな目でアリスを見ながら、小さな可愛らしい唇を開き――古代より伝わる言霊を宣言する。
身構えて、上海、蓬莱を従え、いつでもスペルを発動できる態勢をとる七色の人形遣い。
―――いつでも来るがいいわ、ちょうどいいストレス発散になりそうね。
上海、蓬莱。…………今日は、思いっきり飛ばすわよ……!!
パチュリーが宣言する。
「…………あけまして、おめでとう…………………ことよろ」
「……………………………は?」
不機嫌な表情を隠そうともせず、パチェは心底嫌そうに言葉を続ける。
「……ことよろ」
「いや、それは解ったから。私が聞いてるのは―――
「なんで弾幕ごっこしないのか、だろ?」
――魔理沙。なんであんたがここに……
館の陰から出てきたのは、いつもこそこそと私の(物になる予定の)コレクションを横取りする…憎たらしい野魔法使い。
同じ、魔法の森に住み
同じ、蒐集家であり
同じ、魔法に関わる存在で
同じ?霊夢のおともだち。
近親憎悪…というものなのか、お互いに意識せずにはいられない二人であった。
――特に、いっつも博麗神社に入り浸るのは……非常に不愉快だ。
「魔理沙……で、あんたたちが揃って私の家まで詰め掛けるなんて……魔女たちの武闘会でも開くつもり?」
「……座布団、一枚」
「ったく、やれやれだぜ……。そんなことばかり考えてるから、人形しか友達いないとか言われるんだぜ?」
むかっ
「主に、あんたが言いふらしてるんでしょうが!! 大体、魔理沙こそ弱っちいくせに…必死すぎて笑えないのよ。
陰でこそこそ努力するのもいいけど、少しは私みたいに優雅さを学ぶといいわ」
「……どうやら、私の妖怪退治の腕前を知りたいらしいな……七色魔法馬鹿。
―――私が魔砲を放った後には、妖怪どころか――人間も残らない」
「…………魔理沙。用件…
「――その言葉、ちょっと屈折させてお返ししますわ。
所詮、あんたは白黒程度――その力は私の二割八分六厘にも満たない」
どんどん雲行きが怪しくなる。お互いの言葉で過熱していく二人。
呆れたようなじと目でそれを見守る七曜の賢者。
――賢者は、黙して語らず。
もはや…説得は無意味、と悟った賢者はボソボソと呟いてその場を後にする。
「……どうでもいいけど、みんな待ってるんだから早く来ることね。
私は先に紅白たちのところに行ってるから……それじゃあ、いい弾幕を」
ふよふよと去っていくパチェの背後で、壮絶な弾幕の応酬が始まる。
……このぶんでは、今日中に神社に来ることは困難だろう。
折角、皆がアリスのために――宴会の準備を……しているというのに。
―――アリス・マーガトロイド。
…………自ら好んで、墓穴を掘る少女であった。
∴ 待ち人来たらず ~Fisherman's profit~ ∴
1月1日 PM11:55 博麗神社
神社では、既に紅魔館、白玉楼、八雲一家、永遠亭の面々に加え、チルノ、ルーミア、コーリンドーらの関係なさそうな者達まで揃っている。それぞれの者たちは、主賓のアリスを待つこともなく――そもそも、待つ気があったのか疑わしいが――新年の宴を楽しんでいた。
詳しく語ることが――無粋に思えるほどの、幻想的な宴であった。
縁側で、紫から酒を注いで貰う霊夢。ふと思い出したように紫に呟く。
「………そういえば、アリス……来ないわね。
魔理沙のアイディア、気に入らなかったのかしら」
妖艶な顔で、酒を勧める紫が答える。
「ああ、どうせ引きこもってて初日の出も見てないだろうから、あの魔女の日符で見せてやろう。
――とかいうアレ?」
「ええ。それでも来ないってことは、やっぱり一人でいるほうが好きなのかしら。あいつは」
「うふふふふ。……そうかも、ね。
それより、霊夢―――ほらほら、どんどん飲んで飲んで。折角私が持ってきた大吟醸、飲んでくれないと…悲しいわ」
「……ちょ、さっきから注ぎすぎよ? 紫。―――まさか、またよからぬことを企んでるんじゃないでしょうね」
「いえいえ、私はただ…霊夢においしいお酒を飲んで欲しいだけ。やましいことなんて、これっぽっちも考えてませんわ」
「……胡散臭いわね。でもまぁいいか、今日ぐらいは…ね」
霊夢と親しげに酒を酌み交わす紫。
いまごろ弾幕戦闘に興じている薄幸の少女がみたら、ハンカチを咬んで悔しがる光景だ。
元旦の境界を目前にして、紫は霊夢の耳元で囁く。
「……今年も宜しくね? れ・い・む」
かぷり、と耳たぶをはむ。
―――顔を真っ赤にした霊夢の怒鳴り声が、夜空に響く。
1月2日 AM0:01
こうして、アリスの長い一日は
終わった。
―――右手の親指を立てて…… >―――両手を振りかざし……
――首の前ですぃーと横一文字に引く。>――体の前にすぅ、と伸ばす。
―指を大地にくいっと向け、 >力を溜めた拳をくっとひねり、
彼女は囁いた >ぱちん、と指を掻き鳴らす
素晴しき、指ぱっちん。 ……我慢できなかったorz
でもそんな彼女が愛おしく見えて来た今日この頃、スレまくった上司の態度に絶望にくれながらも、みかん弾幕をお見舞いしてプチレジスタンスに明け暮れる上海、蓬莱達の献身的な活躍がまた見たいのでこのままシリーズ化を密かに期待しております。
香霖堂の店主=変態のレッテルが貼られてますねぇ。本当のところはどうなのやら‥‥まだ読んだことなかったのですが、逆に興味が。エボニーデビルに狙われたら、スタンドでも勝つのは難しいぞ。頑張れ霖之助!
人形とアリスのやりとりが特によかった。面白かったですよ~
素晴らしく「我こそ正義」なアリスに乾杯!