Coolier - 新生・東方創想話

中有に少女達のアルカディア (6)

2005/01/01 08:44:13
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 無謀だ。
 そんなことは言われるまでも無く分かっている。ちょっと鈍感なのは認めるが、小悪魔とてそこまで馬鹿ではない。

 もともと、少女は蔵書整理の手伝いのために、パチュリーによって別世界から召喚された悪魔である。そのような使役目的で召喚する場合は、何らかの形で従わせる方法を用意しておくべきなのだが、彼女の場合はそれが全て無用だった。
 この本好きの悪魔の少女は、無理矢理呼びつけられたにも関わらず大喜びで、それどころか此処を自分の住処のように決め付け、召喚したパチュリーを主と仰いで付き従っている。
 彼女が、元いた世界でどのような境遇だったのかは誰も知らない。
 使役されるために、魔法によって強制されているわけではない小悪魔は、いつでも帰る事が出来るはずだったが、帰ろうとした素振りを見せたことは一度も無かった。
 だから、彼女もメイド達と一緒で、もう帰るべき場所など無いのかもしれない。
 それらは全て、憶測に過ぎないが、ひとつだけはっきりしていることがある。

 彼女もまた、紅魔館の住人であることを自ら選んだのだ。

 無謀とは知っていながら、相手が館の支配者の妹だと分かっていながら、尚の事引き下がる訳には行かなかった。
 図書館の秩序を乱す者は、強行手段を以ってしても排除するというのが小悪魔の信念である。
 例外は無い。
 それは微妙な矛盾をはらんでいるように感じられるが、もしそうだとしたら、この機会にその認識を眼前の少女に教え込まなくてはならない。
 自分の居場所を、自分の帰るべき場所を、この図書館の秩序を守り抜く為に。


 小悪魔の手にしたカードがより一層大きな光を放つと、その身体を取り巻く淡い光の中から、大量の魔法弾が姿を現して飛び散った。
 迎え撃つフランドールは、スカートの裾を翻しながら、まるで優雅に踊っているように、不規則な弾道の間を軽やかに躱してゆく。
 弾数こそ多いが、弾速はそれほどでもない。
 小悪魔は楽しげなフランドールを睨むと、水平に構えたカードを横に一閃させた。
 途端に、限度を超えた魔力のフィードバックが、激痛となって突き刺さるように襲い掛かる。さしたる魔力を持っていない小悪魔にとって、スペルカードの行使は明らかに荷が勝ちすぎていた。
 それでも、彼女は表情を崩すことなく、今まで手にしたことが無い量の魔力を束ねて解き放った。

 真下から突き上げるように、閃光を撒き散らしながら二つの光の壁が屹立した。
 フランドールは不意を突かれた様子も無く、空中でくるっと一回転して飛び退る。
 だが、その直後に、光の壁が帯状のレーザー光にその姿を変え、フランドールの両脇を掠めるように突き抜けた。
 それとタイミングを合わせて、その中を短い槍のような魔法弾が無数に駆け抜ける。
 完全に両側を塞がれる格好になったにも関わらず、フランドールは少しも慌てることなく、身体をスピンさせるように飛来する魔法弾を次々と躱してゆく。
 徐々に角度をつけ、光の壁が離れていくのを見やると、
「なーる!これは本のページみたいにしてあるんだね!」
 と、眼下の魔法陣の中央に立つ小悪魔に笑いかけた。
 なるほど、屹立する光の壁が本の表紙なら、その間を飛び交う魔法弾はさながら本のページを捲っているといったところか。
 小悪魔はそれには答えず、僅かに片眉だけ上げると、手にしたスペルカードを反対側に振った。

 と、その時である。
 図書館の入口エントランスから足音が響いてきた。それも複数だ。
 まず最初に姿を現した──実際には飛んできたのだが──のは、飾りリボンのたくさんついたフリルのドレスを纏った小柄な少女。
 この図書館を管理しているパチュリーである。
 その顔に驚愕の表情が浮かぶ。
 図書館内に満ちる濃い魔力に、眼下に繰り広げられている異様な光景。
 空中に伸びる火線に、上空を舞うのはパチュリーの良き友人である館主・レミリアの妹、フランドール。
 床に展開された魔法陣は、明らかにスペルカードによって生まれるものに他ならない。そして、その中央に立つのは、自分の唯一にして忠実な部下である少女だった。
 続いて、四人のメイドが駆け込んでくる。
 一人はメイド長・咲夜である。その隣にいるのは、回廊で美鈴を連れて行ったあの長身のメイドだ。
 その後ろには、小悪魔に夜食を持ってきた二人のメイドが付き従っていた。
 つまり、二人は逃げたのではなく、事態の収拾を図る為に誰かを呼びに行ったのである。
 だが、事態は既に収拾に向かって大きく動こうとしていた。
 それも、おそらく誰も予想していなかった形で。

 フランドール自身に大きな誤算があった。
 誤算というか、この戦闘に臨むにあたってそこまで何か考えていたわけではないのはもちろんだが、驚異的な魔力と身体能力を以ってしても、回避するための空間が確保できなければ、避けようがないのである。
 前から魔法弾が来た時、次弾が後ろから来ることは予測できたはずだ。
 一方向からだけの魔法弾では、余程の威力がないと相手を撃墜するのは難しい。
 接近砲戦ならいざ知らず、離れてやり合うことが圧倒的に多い魔法の戦闘では、相手の退路を断ち切るか一方向に限定して撃つのがセオリーなのだ。
 それを考えると、両側が塞がれていたとはいえ、その場で避けずに一旦包囲から外れるべきだったのだが、初見でそこまで読み切るのは少々酷だろうか。
 それでも、この魔法が図書館の司書を務めている小悪魔らしく、本に見立てて構築されたものだと見抜いたフランドールの感覚を以ってすれば、十分に対応できるはずだった。
 今度は、フランドールの後ろに光の壁がそびえ立つ。
 彼女は振り向き様、それに俊敏に反応し、今度は後ろへ飛び退る。
 だが、いつもの遊び相手と違う相手であることに加え、スペルカードを相手にする機会に乏しい彼女の絶対的な戦闘経験の差が、ほんの僅かながらミスを誘った。
 それはそうだ。
 遊びといっても、フランドールに向けてスペルカードを使う者はいない。今日は一人いたようだが、その愚かさを身を以って知ったことだろう。
 いや──そのような理屈だけが、この結末が訪れた要因とは言い切れない。
 それができなかったのは、最初から遊び気分だったフランドールと、図書館防衛のために死力を尽くす小悪魔との、メンタルな部分の違いが大きく作用したものだと思いたい。
「あっ…!」
 フランドールの足が光の帯に当たり、空中でつまづいたようにバランスを崩す。
 襲い掛かる光の帯の、その角度が先程とは微妙に異なっているところまで、瞬時に対応することができなかったのだ。
 この局面でそれは、文字通り命取りだ。
 フランドールが身体を捻り、体勢を立て直そうとする。空中だからこそできる芸当と言えるが、どちらにしてももう遅い。

「フランドール様っっっ!!!」
 エントランスにいた従者達の、絶叫に近い声が重なり合って響き渡る。

 最初の一発が、フランドールの胸元に命中する。

 小悪魔が視認できたのはそこまでだった。
 先程と同様、無数の光の槍が二つの光の壁の間を駆け抜け、その赤い姿を覆い隠した。


 魔法陣が消失すると同時に、光も消え去り、元の図書館の姿が戻る。
「はあ…、はあ…はあっ…っっ」
 折り崩れるように床に手を付き、激しく肩で息をする小悪魔だったが、すぐさま頭上を振り仰いだ。
 空中に赤い影。
 フランドールは、魔法弾が通過したその場で漂うように浮かんでいたが、やがてゆっくりと、後ろに倒れこむような形で翼を折られた鳥のように落ちて行った。
 だが、その肢体が床に叩き付けられる前に、一陣の風のように、空中に忽然と現れた姿が横からフランドールの姿を抱き留め、そのまま床に着地する。
 藍のエプロンドレス。
 舞い上がった銀色の髪が肩に降りる。
 咲夜だった。
 エントランスにいた筈の彼女がいつの間にそこに駆け寄ったのか、何もないところから唐突に現れたかのように周囲の者達の目に映る。それこそ、彼女の得意の手品のように。
「フランドール様!!」
 慌しく階段を駆け降りて来たパチュリーとメイド達が、その傍に駆け寄る。
 フランドールを抱き留めた咲夜は、その身体をゆっくりと床に横たえると、小悪魔の方を振り返った。
 駆け寄ってきた者達が一斉にその足を止め、息を呑む。びっしょりと汗をかき、呼吸を整えるのに精一杯だった小悪魔も、一瞬肩を震わせて咲夜の顔を凝視した。

 下唇を噛んで、無言で小悪魔を睨み付ける咲夜。
 両手の指の間には、何時の間にか銀色のナイフが四本ずつ輝いている。

 そして、その顔は憎悪に満ち、その瞳には、殺意以外の何物でもない感情が漲っていた。

  -12-

 床を大きく踏み付ける音が響いたかと思うと、瞬きする程度の間に咲夜の姿はその場から掻き消えていた。
 小悪魔はすぐに瞳だけ左右に動かして館内を見やるが、咲夜の姿は見えない。
 と、フランドールの傍に跪いていた長身のメイドが、弾かれたように上を見やる。
 反射的にそちらを振り仰いだ小悪魔だったが、直後に身の毛が弥立つような恐ろしい殺気を感じ、即座に視線を元に戻す。

 その瞬間、今度はフロアの床を駆ける靴音が響き渡った。
 またも唐突に、何もないところから現れたかのように咲夜が姿を見せる。
 そして、鬼気迫る形相の彼女の両腕が振り上げられた。
 跳躍するために踏み切ったような足音は、上へ跳んだと見せかけるためのフェイントか。

 すぐさま、横っ飛びに転がる小悪魔。
 それまでいた所に、駆けて来る咲夜の手から無数の赤い光が溢れるように煌き、空を切り裂いて降り注ぐ。

 小悪魔は目を見開き、舌打ちした。
 そして、勢い良く背中の翼を広げると、空気の抵抗を利用して強引に体勢を反対方向に変えようとする。
 だが、それでは間に合わない。
 間髪を入れず床を蹴り、そのまま全力で後ろに宙返りするように跳ぶ。
 考えるより先に、身体が危険を察知して動いていた。
 咲夜得意の移動攻撃。視界の端に、空中で両腕を振り下ろす彼女の姿が映る。

 上へ跳んだと見せかけて、正面。
 だが、正面から来たのは赤い魔法弾。
 咲夜は魔法使いではない。
 正面がフェイントで、やはり彼女は上へ跳んでいたのだ。

 銀色の光が煌き、咲夜のナイフが小悪魔の足を掠めた。
 続け様に、小悪魔が跳んだその軌跡に対し、正確無比に交差させるように恐ろしい速度で銀のナイフが襲い来る。 
 だが、ほんの一瞬の差で、小悪魔の身体は銀色の凶器の上を飛び越えていた。

 小悪魔は着地すると、即座に身構える。
 対する咲夜は、軽く膝を曲げて図書館の床に降り立つと、再び両腕を体側にくっつけるように下げていた。手には、いつどこから取り出したのか、銀のナイフが四本ずつ挟まっている。
 その顔からは、先程までの厳しい表情は消え去っていたが、代わりに青白い炎を思わせる冷たい殺意が宿っていた。
 咲夜がそうして両腕を下げて構えるのは本気の証拠だ。どこから攻められても即座に切り返せるばかりか、逆にどこからでも攻められる態勢である。
 得物がナイフ、しかも投げが基本という咲夜ならではの、見た目と違って全く隙のない戦闘態勢だった。
「咲夜っ!やめて!!」
 パチュリーが悲痛な叫びを上げるが、咲夜には届かない。最初から、聞く耳を持たないかのように思える。
 小悪魔は、敬愛する主の姿をちらっと見たが、すぐに咲夜に視線を戻した。なぜか、その口許に僅かに笑みが浮かぶ。
 それに気が付いた咲夜は僅かに眉を動かし、静かに、しかし感情を押し殺した抑揚のない声で口を開いた。
「私の奇術を躱されるとは思っていなかったわ。…何か言いたい事は?」
 咲夜は、事の経緯についての釈明を求めているのではない。暗に、遺言代わりに言い遺すことがあれば聞いてやる、と言っているも同然の尋ね方だ。

 小悪魔は、黙って首を振った。


 戦端は唐突に開かれた。
 もっとも、小悪魔にはもう戦う術はないのだから、戦闘と呼ぶには一方的過ぎる。
 そして咲夜は、腕利き揃いのメイド達の中でも超腕利き。相手が妖怪でも悪魔でも、互角かそれ以上に渡り合える人間離れした戦闘能力の持ち主である。
 その咲夜が本気になれば──待ち受けているのは戦闘などではなく、一方的な殺戮だ。

 咲夜の腕が振り上げられると、銀色の光が煌いた。
 その数は、優に数十本。
 どこに隠し持っていたのか、いや、実際に隠し持っていたとしても、一度に投げられる筈のない量のナイフが、虚空を切り裂いて襲い掛かる。
 しかも、射角がずらされており、小悪魔を狙い定めているだけでなく、その周りを包み込むように降り注ぐ。
 どちらに動いても逃がさないつもりだ。
 そればかりか、同時に投げたように見えたのに、僅かにタイミングまで違っているという見事ぶり。
 腕を振り上げる一回のアクションで、何故そのような芸当が可能なのかは、誰にも分からない。

 咲夜の手品には、種はないのだ──。

 身構えるより先に小悪魔の身体が動く。
 どの道、見切って避けるとか躱すといったレベルではない。咲夜のナイフ投げの腕前は、紅魔館の者なら誰だって知っている──百発百中だ。誇張表現ではない。
 脳が知覚するより先に、脊髄反射だけで動かなければ間違いなく急所に命中する。
 だが、致命傷を避けたところで、咲夜は当然の事ながら次の一手を放ってくるだろう。
 それがもたらすものは、確実な死だ。
 仮に、奇跡が起こって避け切ったとしても、反撃の糸口を掴むことができなければ、ほんの僅かな時間だけ、命を繋ぎ止めるに過ぎない。
 それでも、小悪魔は躱しに行った。
 刹那の間に、彼女の胸中にどのような思いがよぎったのかは分からない。
 ひとつだけ確かなことは、彼女はどこまでも職務に忠実だったということだけだ。自分の行動が、館の他の者にどう映ろうとも、その行動が正しいものであったという信念を曲げることを潔しとしなかったのである。

 だが、声高に自己の正当性を主張するような真似をしなかったにしても、小悪魔と咲夜とでは、力量差があまりに大きすぎた。
 力を伴わない正義は無力──そんな現実を突き付けるように、降り注ぐ銀の弾道が想像を絶する変化を見せる。
 全てのナイフの軌道が急峻な角度で変わったのだ。

 ありえない。
 咲夜の手を離れた銀のナイフは物理法則を完全に無視し、小悪魔めがけて狙い済ましたように一斉にその切っ先を変えていた。

 流石の彼女も目で捉えるのが精一杯で、その視覚情報を回避行動に移す事ができない。今度という今度ばかりは、悪魔という種族の身体能力と反射神経を以ってしても、避けるとい言葉が馬鹿馬鹿しく思えるほど、常識の範疇を逸脱し過ぎていた。
 最初の一本が、足の爪先辺りの床に突き立つ。
 眼前に迫り来る銀色の光に、意図せず身体の重心が後ろへと傾く。その両腕の脇を、唸りを上げたナイフが掠め飛んで床に突き立った。
 完全にバランスを失った小悪魔は、そのまま仰向けに図書館の床へと倒れ込む。
 立て続けに響き渡る、床を抉る音。
 そして、ぎゅっと目を閉じた彼女に、磁石に吸い寄せられるように銀のナイフが降り注いだ。

 程なくして、床を抉る凄まじい音が止む。
「……あれ?」
 小悪魔は目を開けた。
 少なくとも、まだ生きている。そして身体に痛みはない。
 僅かに頭を起こし、思わず身体を震わせた。
 彼女の身体を取り巻くように、綺麗に銀のナイフが床に突き立っていたのだ。両腕と脇の間、両足の間、そして首筋と、正確無比に人型を浮き彫りにするように林立する銀のナイフ。その間に、小悪魔の身体は横たわっていたのである。
 そして、傍らには人影。
 そちらを見やると、咲夜が一本だけ手に残ったナイフの切っ先を向けて、小悪魔の姿を見下ろしていた。
 ややあって、咲夜は薄ら笑いを浮かべると、呟くように口を開いた。
「意外…とでも言いたげね──。でも、これから嬲り殺しにするつもりだったとしたら?」
「咲夜!お願いだからやめて!!」
 そう叫びながら、パチュリーが咲夜の腕にしがみ付くと、半ば涙目になりながら懇願する。
 そして、その傍らにもう一人、短髪で長身のメイドが割って入るように歩み寄った。咲夜は彼女に一瞥をくれると、今度はナイフの切っ先をそちらへと向ける。
「フランドール様の筆頭侍従が、邪魔立てするのかしら…観月。」
 観月と呼ばれた長身のメイドは、嘆息したように息をひとつ吐くと、目を細めて咲夜を見据えた。無言の視線が、肯定の意思を示している。
 パチュリーは目を丸くして、咲夜の片腕とも言うべきメイド──観月を見やった。
 そんな言葉が出てくるとは意外である。観月は副侍従長兼警備部隊副長であり、レミリアの側近侍従筆頭である咲夜に対して、フランドールの側近侍従の筆頭格だ。
「…ならば容赦はしないわ。その首、差し出す覚悟があってのことでしょうね?」
 射るような視線でそう咲夜が低く告げると、今度は観月は目を伏せ、静かに答えた。
「この首でよければくれてやる。」
 あっさりと、彼女は事も無げに言い放った。夕食はいらないからやる、といったような、あまりに平然とした物言いだった為、一瞬の空白の時間が生じる。
「…だが、後でな。今はフランドール様の御身を第一に考えてくれないか。」
 その言葉に、咲夜は片眉を吊り上げると、横に顔を向ける。その先には、不安そうな顔で事の成り行きを見守る蜂蜜色の肌の少女と、雪のように白い肌の髪の長い少女。そして、二人に抱かれるようにして、ぐったりと力なく横たわっているフランドールの姿があった。
「…フランドール様にもしもの事があったら、私の命と──咲夜殿の命を足しても到底贖い切れん。──それに、館の者の生殺与奪の権利は、貴女にも無い筈だが?」
 今度は真っ直ぐに咲夜を見据え、先程とは違ってやや睨み付けるように、観月は独白めいた口調で告げる。だが、その言葉には急かすような種類の響きが含まれていることを、咲夜は感じ取った。
 黙ってナイフを下ろすと、エプロンの裏に仕舞い込む咲夜。確かに、事に当たる順序が間違っているという観月の指摘は正しいものだった。
「…その通りね。──では此花副長、フランドール様を自室へお連れして。パチュリー、頼んだわ。」
「了解した、十六夜侍従長殿。」
 慇懃な口調でそう答えると、二本指を額に当てて敬礼を返す観月。パチュリーも黙って頷くと、二人のメイドに抱えられているフランドールの元へと駆け寄った。

「…そこの二人。」
 沈黙の後、不意に咲夜が二人のメイドの少女に呼び掛ける。
 観月はフランドールを抱きかかえ、パチュリーを伴って退出していた。
 顔を上げた二人に、咲夜はやっと身体を起こした小悪魔を顎で指し示す。
「…その子を拘束しておきなさい。私はお嬢様にご報告差し上げるわ。」
 そして咲夜は踵を返し、宣言するように、その一方でどこか言い捨てるように次のように告げた。

「反逆者への審問は、お嬢様のご臨席の下で行う。」

 次の瞬間には、咲夜の姿は綺麗に消え去っていた。

(つづく)
すみません。

今回唯一のオリキャラ、長身のメイドさんは此花観月という名前です。なお、「みつき」と読みます。どういう人なのかは、雰囲気的に察して頂けると助かります。というか、あまり書いても仕方のないことじゃないかと。
ちょっと話が当初のプロットよりずれたため、その軌道修正がやや強引過ぎたと反省している箇所もあるのですが、なんとか着地点だけは考えていた通りにできそうです。
ここまでお付き合いくださった皆さん、ありがとうございます。
小悪魔の断罪で締めくくる最終話も、どうぞ読んでやって下さい。なお、弾幕はもう書かないと思いますが。
MUI
[email protected]
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コメント



0.2040簡易評価
23.70はね~~削除
 ひゅうっ(口笛)
 中盤の軽いノリが嘘のように、いよいよ攻撃をしかけて来ましたね。どこでテーマなり重い部分なりを撃ってくるかと思ったら、まさかこう来るとは。

 小悪魔の図書館の秩序&パチュリー第一、というある意味物凄くすさまじい設定は第5話で見た時も驚きましたが、その愚直な子供っぽさが結果的には一番まずい方向にっ。はわわわわわわ……。
 咲夜さんの表情、絵なんかなくたって脳裏に浮かびます。頭の中ではMIDIの(これ重要)ルナダイアルが鳴りっぱなし(泣)
 一気に背筋に冷水が入りこむようなこの緊張感と、危うさ。…………いや、嫉妬するのが根本的に間違ってるレベルな気がします(汗)
 ラストどうやってこの話を締めるのか。そしてタイトルの持つ真の意味は何なのか。色々と深読みしつつお待ちしております。

>此花観月
 観月と聞くとどうしても、炎上する館をバックに「あはははははははははは!」と笑いながら殺戮をしまくるとある娘を思い出す私です(半泣)
 あの強力なメイドさんですよね。私も紅魔館の話を書く上で副メイド長は出そうと思ってるんですが……いつか名前使わせてください、いいキャラでした(笑)
27.60七死削除
ひえええええっ! 小悪魔がっ! 小悪魔がぁ~~~~っ!!

異議あり! 裁判長! 検察官が咲夜さんだとはまり過ぎて
怖すぎでかのゲジュタポも真っ青であります!!
今までこんなにおっかない咲夜さんを見た事はあったであり
ましょうか、いやない。

さあサイは投げられた。 なるべくしてなるようにならない、
激動の紅の館、その運命の終着駅を今、各駅停車が通過します!

そんな感じでまったく予想出来ない次回、心より楽しみにしております。