「やはり、決心は…………………変わらないのか?」
深々と降り続ける雪の中、半獣の少女の声が響く。
悲しげな……どこかあきらめを含んだその声は、辺り一面に敷き詰められた純白の絨毯にかぼそく吸い込まれて行く。
遮るものとて無い空虚な雪原。
冥き空を閉ざす、鈍色の群雲。
隙間なく天を覆う雲からは、間断無く
はらはらと 白い雪が舞い落ちて来る。
ざくっ
静粛な場に、雪を踏みしめる足音が響く。
季節は真冬。 吐く息は白く、身を切り裂くような寒気は―――山に棲む獣たちを、仮初の死へと誘う。
半獣の少女――慧音の問いに答えることも無く、白い人影は歩を進める。
あえて、飛翔することをせず……自分は普通の人間であることを、示すかのように。
純白の、穢れなき白装束を纏う―――銀髪の白き姫。
小柄なその体には不釣合いな程の覚悟を秘めて、彼女はただ前のみを見据え…歩き続ける。
藤原 妹紅
今となっては継ぐものとて居らぬ―――いにしえの血。
始祖が渇望した不死を得ながらも、今の彼女は……そんなものに、一片の執着も無い。
――――生きることは、素晴しい。
生命が持つ、偽らざる本音。
かってはこの自分もそう考えていた。しかし――――
永遠を生きれる人間など、いない。
いるとすれば、それはもはや―――――
雪原を見渡すように屹立する、小高い丘の上
白い世界を犯す異物。
濡れた笑みを浮かべ ただずむ漆黒。
「……姫、………………本当に、よろしいのですか?」
傍に控える従者の問いに答える事無く、笑みを浮かべ続ける 黒の姫。
その身に纏うは―――――ぬばたまの衣。
地につかんばかりに流れる黒髪、白い肌を隠す……昏い夜の色を宿した着物。
その黒い瞳に愉悦を込めて、近づきつつある人影を凝視し―――待ち続ける。
蓬莱山 輝夜
いにしえの月人―――白金の瞳より零れし 黒い涙。
気まぐれに得た不死を弄び、幾多の人間を魅了せし………魔性のモノ。
――――なんて、退屈。
ありえざる存在が漏らす、生命への冒涜。
かっての自分はそう考えていた。しかし――――
千年の幻想
終わらない狂気
果て無き………殺し愛。
殺し、殺され また殺し、また殺され―――
狂った螺旋。 自虐。 嗜虐。
今殺した相手は、自分なのか―――輝夜なのか
私は輝夜? それとも妹紅?
憎い 愛しい 憎い 愛しい 憎い 愛しい――――
もはや、思い返しても詮無きこと。
二人の歪んだ絆は 絡み合い、侵し合い、傷つけ合い……
――――どちらが先に、言い出したのか。
遂には 今日 この刻 この場所で
最期の幕を引くべく、両者は集った。
――――ルールは、ひとつ。
「「この戦いで勝利したものが、負けたものの肝を喰らい――――決着とせん」」
約束の刻は、もう、間近。
氷雪に閉ざされし この場所で
曇天立ち込める この空で
白と黒、鏡に映ったように……対照的。
水と油のように相容れることの無い、二人の呪われし姫君は最後の逢瀬を果たす。
生き残るのは、いずれか。 解き放たれるのは、いずれか。
白の姫 黒の姫
鳳凰の飛翔 五つの難題
永遠の迷い子 永遠の咎人
―――舞台は整い、主役は揃った。
見届けるは二人の観客―――
最期の幻争は、いま
始まる。