魂魄妖夢は庭師である。
もっと正確に言うなら庭師であり剣士である。さらに正確に言えば庭師であり剣士であり、白玉楼の主である西行寺幽々子の警護役でありその他雑務全般をこなしている。口の悪い人間……例えば霧雨魔理沙などは
「要するに何でも屋だろ」
とか言うのだが。
もっとも、事実そうなのだから誰も否定しない。本人ですら気を悪くするものの否定はしないし。
ともあれ、妖夢の1日は早い。早朝、身支度を整えるとまず剣術の鍛錬。彼女の剣術はまだ未熟であり、そのことは彼女自身もよく知っている。それゆえ、毎日の鍛錬は欠かせない。毎日2時間ほどを鍛錬に費やす。
その後朝食を取る。半分幽霊、半分人間の彼女は朝食も半分取る必要がある。ちなみに運動不足で最近余分な肉の付きつつある某魔法使い……本人の名誉のため特に名は秘す……などは、
「半分でいいのか、羨ましい奴」
とかふてくされながら言っていたようである。
閑話休題。朝食後、庭へと向かい仕事を始める。
庭師の仕事は白玉楼の幅二百由旬に及ぶといわれる庭……数字については誇張されている可能性は捨てきれないが……の手入れである。今更語るまでもないだろうが。
手入れと一言で言うが、実際のところその仕事は多岐に渡る。膨大な量の樹木……そのほとんどが桜である……の剪定、葉につく毛虫(の幽霊)の駆除、庭の掃除等々……その合間に幽々子の身の回りの雑多なことをこなし、夜遅く寝る。半分人間の妖夢は、夜も半分睡眠が必要なのだ。
その日も、同じような一日を過ごすはずだった……だったのだが。
一本の桜の大木。樹齢数百年はあるかと思われるこの大木の前に、妖夢は立つ。
西行妖ほどではないにしろ、この白玉楼でも古木の部類に入るこの木の剪定は、普通の人間の庭師なら十数人掛かりで丸一日かかる大仕事である。
だがこの白玉楼にそんなに庭師はいない。むしろいらない。このくらいなら妖夢一人でも十数分あれば片付くからだ。
妖夢は愛用の刀である楼観剣と白楼剣を鞘からスラリ、と抜く。
そして深呼吸を一つ。次の瞬間…………跳んだ。
大木の一番下に位置する大きな枝に着地すると、その反動を利用して駆け出す。両手の刀を振るうと、まるで刀の動きに釣られるかのように次々と余分な枝や虫に食われた葉がはらはらと舞い散る。
枝の上をあたかも平坦な地面の上を走るかのように疾走、そして再び跳躍。その間も両手の刀は指揮棒を振るうかのような複雑な動きを続ける。少し高い位置の枝に着地し、再び疾走。
その動きは神速にして精密。まさに達人の持つ研ぎ澄まされた刀のような動き、というのが妥当なところか。
ものの数十分で妖夢は大木の頂点の枝に到達する。最後の一枚の葉を切り落とした後、妖夢はそこから…………跳んだ。
落下しながら最後の仕上げとばかりに刀を振るう。残されたわずかな葉や枝が落ち、ついでにナイフがはじかれる。そして態勢を崩すこともなく着地。
「いきなりナイフ投げるなんて、一体どう言うつもり?」
着地した態勢のまま、妖夢は正面にいる人影を睨みつける。正面の桜の樹にもたれる様に立っているメイド服を来た人物……十六夜咲夜はニヤリ、と笑いながら自分の顔のすぐ脇に刺さったナイフを引き抜いた。
「投げてすぐ場所を移動したのに、移動する先を読んで打ち返してくるとは思わなかったわ。あと一瞬時を止めるのが遅かったら額からナイフが生えてた所じゃない」
悪びれた様子もなくそう言う。
「わざと避けられるタイミングで打ち返したの。あんたみたいなのに死なれてこっち来られても困る」
「言ってくれるじゃない、一度負けた分際で」
「今の私はあの時とは違うわ。あんたなんかに遅れは取らない」
「どうだか。負け犬はさっさと尻尾巻いて逃げ帰ったら?」
「それはこっちのセリフだわ。犬はさっさと犬小屋に帰りなさいよ」
「犬って言うな!!」
お互い険悪な雰囲気で睨み合う。緊張の糸が張り詰め、そしてぷつん、と切れる音がした。
同時に口を開く。
「いいわ、今度こそ完全な幽霊にしてあげる」
「いいわ、あんたも白玉楼の住人にしてあげる」
先に動いたのは咲夜からだった。いきなり無造作に先ほど桜の樹から抜いたナイフを投げつける。
妖夢はそれを白楼剣で咲夜の方に向かってはじき返した……いや、はじき返したはずだった。
「!!」
次の瞬間、ナイフは再び妖夢に向かって飛んでくる。咲夜に向かって再び打ち返す余裕もなく、とっさに楼観剣ではじいた。ナイフは地面に突き刺さる。
息付く暇もなく次のナイフが飛んでくる。しかも4本!!
楼観剣でまとめて3本弾き飛ばし、残り1本を白楼剣で跳ね飛ばす。
「ふふん、甘いね」
咲夜の嘲う声に、とっさに地面を転がる。さっきまで妖夢がいた地面に弾き飛ばしたはずのナイフが次々と突き刺さる。
「しつこいわねあなたも。そろそろ楽になればいいのに」
そういって咲夜はさらにどこからともなくナイフを取り出し、続けざまに投げつけてくる。しかも今度は8本。
「うるさいっ!!」
観覧剣の一振りで5本を弾き飛ばす。さらに白楼剣で3本を弾こうとした……だがしかし白楼剣は宙を斬る。
「!!」
3本のナイフは物理的にありえない角度で向きを変えていた。とっさに身を反らしてこれをかわす。視界にさっき弾き飛ばしたナイフが再び自分に向かって襲い掛かるのが見える。意識がそれを認識するより速く、妖夢は身をよじった。ナイフは妖夢を掠めるように地面に突き刺さる。服が破れ、白い肌に紅い筋が浮かぶ。
「これも避けるの?あなた、今まで避ける修行ばかりしてたのかしら?」
咲夜の嫌な笑み。妖夢は自分が小馬鹿にされていることに激しい怒りを覚えた。
「違う、断じて違うっ!!私は、私はっ!!」
その瞬間、妖夢の中で何かが「切れた」……
咲夜は困惑していた。
そもそも白玉楼へは境界の修復の進展具合を聞きに来ただけだったのだ。たまたま妖夢を見かけて、ふと悪戯心が働いて、ナイフを投げてみただけだった。無論、妖夢なら十分かわせるという確信があったからなのだが。
だがその後がまずかった。ついかっとなって売り言葉に買い言葉、気がついたらこんな状況になっていた。普段の咲夜なら決してこんな無粋な真似はしない。
(なんでこうなったのかしら)
考えてもどうにもならない。時間は巻き戻せても、自分の感情までは巻き戻せない。なら……
(最後まで悪役を務めるしかないでしょう!!)
よくわからないモヤモヤを抱えたまま、咲夜は時を止める。そしてナイフを召喚する。1本、2本、4本、8本、16本、32本、64本。そしてそれを一気に開放した。
「まぁどうだっていいわ。これでおしまいだから!!」
雨のようなナイフが妖夢に襲いかかる。
次の瞬間、妖夢が動いた。
息を吸う。鼓動。観覧剣を振るう。白楼剣を振るう。人間には認識できない異常な速さ。打ち返されるナイフ。1本。2本。4本。8本。16本。32本。64本。地面の葉や枝が舞いあがる。咲夜に向かい動き出すナイフ。それを追いかける妖夢。再び観覧剣を振るう。獄神剣「業風神閃斬」。縦に切れ目が入るナイフ。さらに咲夜に向かって飛ぶナイフ。切れ目から分かれる。64本のナイフは128本になる。鼓動。咲夜に向かって襲いかかるナイフ。
咲夜は自分の投げた64本のナイフがすべて打ち返され、しかも真っ二つになってこっちに飛んでくる光景に愕然とした。あまりの光景に一瞬思考が停止していた。ありえない。ありえないはずなのだが、目の前の光景は現実だ。とっさに時を止め……られなかった。
背中に当たる何かとがった感触。それが刀の切っ先であると認識するのと、128本のナイフがすべて咲夜を掠めて地面に突き刺さるのと、咲夜が久しく忘れていた「恐怖」という感情を思い出すのと、咲夜の意識が遠のくのはまったく同時だったから。
咲夜が目を覚ましたのは、紅魔館だった。
なんでも、たまたま白玉楼を訪れていた霧雨魔理沙が倒れている二人を見つけ、妖夢を幽々子に引き渡し、咲夜を紅魔館に連れかえったらしい。
「あのまま1.5人と0.5体とも桜の木の下に埋めてやってもよかったんだがな、それじゃさすがに寝覚めも悪いし、なによりレミリアを霊夢の奴に押し付けるのもなんだったから、ま、仕方なくな」
と魔理沙が憎まれ口を叩く。
「咲夜、あなた私を心配させた覚悟はできてるんでしょうね?」
レミリアは怒った顔をした。もっとも、本気で怒っているわけじゃなさそうだが。
「本当にすみません、お嬢様……魔理沙も悪かったわね」
とりあえず咲夜は素直に謝っておいた。なんだかんだ言って心配してくれる者がいるのは嬉しかった。
ちなみに妖夢も気絶していたようだ。どうやら瞬間的に大量の力を使ったせいで、オーバーヒートを起こしたらしい。
「まぁ一日も寝てれば回復するだろう」
と魔理沙は言った。
とりあえず今日は大事をとって一日休んでいるように、とレミリアは咲夜に命令して魔理沙と一緒に咲夜の部屋を出た。ふと咲夜はあの時感じていたモヤモヤの正体になんとなく気付いたような気がした。
(自分は無意識の内に時間を操る能力の上に胡座をかいていたのかもしれない。そして努力を重ねる妖夢を見下し、あんな態度をとっていたのでは?)
そう思うと、自分がいかに愚かなことをしたのかが思い知らされた。
(その結果がこれなら、私が演じたのは悪役じゃあなくって道化だったわけだわ)
自嘲ぎみに笑ってみる。そしてこんなことも考えてみる。
(とりあえず彼女には誠心誠意詫びよう。そしてお互い対等の立場で話せばひょっとすると……)
「いい友人……いえ、ライバルになれるかも」
そう口に出して、咲夜はくすりと笑うのだった。
もっと正確に言うなら庭師であり剣士である。さらに正確に言えば庭師であり剣士であり、白玉楼の主である西行寺幽々子の警護役でありその他雑務全般をこなしている。口の悪い人間……例えば霧雨魔理沙などは
「要するに何でも屋だろ」
とか言うのだが。
もっとも、事実そうなのだから誰も否定しない。本人ですら気を悪くするものの否定はしないし。
ともあれ、妖夢の1日は早い。早朝、身支度を整えるとまず剣術の鍛錬。彼女の剣術はまだ未熟であり、そのことは彼女自身もよく知っている。それゆえ、毎日の鍛錬は欠かせない。毎日2時間ほどを鍛錬に費やす。
その後朝食を取る。半分幽霊、半分人間の彼女は朝食も半分取る必要がある。ちなみに運動不足で最近余分な肉の付きつつある某魔法使い……本人の名誉のため特に名は秘す……などは、
「半分でいいのか、羨ましい奴」
とかふてくされながら言っていたようである。
閑話休題。朝食後、庭へと向かい仕事を始める。
庭師の仕事は白玉楼の幅二百由旬に及ぶといわれる庭……数字については誇張されている可能性は捨てきれないが……の手入れである。今更語るまでもないだろうが。
手入れと一言で言うが、実際のところその仕事は多岐に渡る。膨大な量の樹木……そのほとんどが桜である……の剪定、葉につく毛虫(の幽霊)の駆除、庭の掃除等々……その合間に幽々子の身の回りの雑多なことをこなし、夜遅く寝る。半分人間の妖夢は、夜も半分睡眠が必要なのだ。
その日も、同じような一日を過ごすはずだった……だったのだが。
一本の桜の大木。樹齢数百年はあるかと思われるこの大木の前に、妖夢は立つ。
西行妖ほどではないにしろ、この白玉楼でも古木の部類に入るこの木の剪定は、普通の人間の庭師なら十数人掛かりで丸一日かかる大仕事である。
だがこの白玉楼にそんなに庭師はいない。むしろいらない。このくらいなら妖夢一人でも十数分あれば片付くからだ。
妖夢は愛用の刀である楼観剣と白楼剣を鞘からスラリ、と抜く。
そして深呼吸を一つ。次の瞬間…………跳んだ。
大木の一番下に位置する大きな枝に着地すると、その反動を利用して駆け出す。両手の刀を振るうと、まるで刀の動きに釣られるかのように次々と余分な枝や虫に食われた葉がはらはらと舞い散る。
枝の上をあたかも平坦な地面の上を走るかのように疾走、そして再び跳躍。その間も両手の刀は指揮棒を振るうかのような複雑な動きを続ける。少し高い位置の枝に着地し、再び疾走。
その動きは神速にして精密。まさに達人の持つ研ぎ澄まされた刀のような動き、というのが妥当なところか。
ものの数十分で妖夢は大木の頂点の枝に到達する。最後の一枚の葉を切り落とした後、妖夢はそこから…………跳んだ。
落下しながら最後の仕上げとばかりに刀を振るう。残されたわずかな葉や枝が落ち、ついでにナイフがはじかれる。そして態勢を崩すこともなく着地。
「いきなりナイフ投げるなんて、一体どう言うつもり?」
着地した態勢のまま、妖夢は正面にいる人影を睨みつける。正面の桜の樹にもたれる様に立っているメイド服を来た人物……十六夜咲夜はニヤリ、と笑いながら自分の顔のすぐ脇に刺さったナイフを引き抜いた。
「投げてすぐ場所を移動したのに、移動する先を読んで打ち返してくるとは思わなかったわ。あと一瞬時を止めるのが遅かったら額からナイフが生えてた所じゃない」
悪びれた様子もなくそう言う。
「わざと避けられるタイミングで打ち返したの。あんたみたいなのに死なれてこっち来られても困る」
「言ってくれるじゃない、一度負けた分際で」
「今の私はあの時とは違うわ。あんたなんかに遅れは取らない」
「どうだか。負け犬はさっさと尻尾巻いて逃げ帰ったら?」
「それはこっちのセリフだわ。犬はさっさと犬小屋に帰りなさいよ」
「犬って言うな!!」
お互い険悪な雰囲気で睨み合う。緊張の糸が張り詰め、そしてぷつん、と切れる音がした。
同時に口を開く。
「いいわ、今度こそ完全な幽霊にしてあげる」
「いいわ、あんたも白玉楼の住人にしてあげる」
先に動いたのは咲夜からだった。いきなり無造作に先ほど桜の樹から抜いたナイフを投げつける。
妖夢はそれを白楼剣で咲夜の方に向かってはじき返した……いや、はじき返したはずだった。
「!!」
次の瞬間、ナイフは再び妖夢に向かって飛んでくる。咲夜に向かって再び打ち返す余裕もなく、とっさに楼観剣ではじいた。ナイフは地面に突き刺さる。
息付く暇もなく次のナイフが飛んでくる。しかも4本!!
楼観剣でまとめて3本弾き飛ばし、残り1本を白楼剣で跳ね飛ばす。
「ふふん、甘いね」
咲夜の嘲う声に、とっさに地面を転がる。さっきまで妖夢がいた地面に弾き飛ばしたはずのナイフが次々と突き刺さる。
「しつこいわねあなたも。そろそろ楽になればいいのに」
そういって咲夜はさらにどこからともなくナイフを取り出し、続けざまに投げつけてくる。しかも今度は8本。
「うるさいっ!!」
観覧剣の一振りで5本を弾き飛ばす。さらに白楼剣で3本を弾こうとした……だがしかし白楼剣は宙を斬る。
「!!」
3本のナイフは物理的にありえない角度で向きを変えていた。とっさに身を反らしてこれをかわす。視界にさっき弾き飛ばしたナイフが再び自分に向かって襲い掛かるのが見える。意識がそれを認識するより速く、妖夢は身をよじった。ナイフは妖夢を掠めるように地面に突き刺さる。服が破れ、白い肌に紅い筋が浮かぶ。
「これも避けるの?あなた、今まで避ける修行ばかりしてたのかしら?」
咲夜の嫌な笑み。妖夢は自分が小馬鹿にされていることに激しい怒りを覚えた。
「違う、断じて違うっ!!私は、私はっ!!」
その瞬間、妖夢の中で何かが「切れた」……
咲夜は困惑していた。
そもそも白玉楼へは境界の修復の進展具合を聞きに来ただけだったのだ。たまたま妖夢を見かけて、ふと悪戯心が働いて、ナイフを投げてみただけだった。無論、妖夢なら十分かわせるという確信があったからなのだが。
だがその後がまずかった。ついかっとなって売り言葉に買い言葉、気がついたらこんな状況になっていた。普段の咲夜なら決してこんな無粋な真似はしない。
(なんでこうなったのかしら)
考えてもどうにもならない。時間は巻き戻せても、自分の感情までは巻き戻せない。なら……
(最後まで悪役を務めるしかないでしょう!!)
よくわからないモヤモヤを抱えたまま、咲夜は時を止める。そしてナイフを召喚する。1本、2本、4本、8本、16本、32本、64本。そしてそれを一気に開放した。
「まぁどうだっていいわ。これでおしまいだから!!」
雨のようなナイフが妖夢に襲いかかる。
次の瞬間、妖夢が動いた。
息を吸う。鼓動。観覧剣を振るう。白楼剣を振るう。人間には認識できない異常な速さ。打ち返されるナイフ。1本。2本。4本。8本。16本。32本。64本。地面の葉や枝が舞いあがる。咲夜に向かい動き出すナイフ。それを追いかける妖夢。再び観覧剣を振るう。獄神剣「業風神閃斬」。縦に切れ目が入るナイフ。さらに咲夜に向かって飛ぶナイフ。切れ目から分かれる。64本のナイフは128本になる。鼓動。咲夜に向かって襲いかかるナイフ。
咲夜は自分の投げた64本のナイフがすべて打ち返され、しかも真っ二つになってこっちに飛んでくる光景に愕然とした。あまりの光景に一瞬思考が停止していた。ありえない。ありえないはずなのだが、目の前の光景は現実だ。とっさに時を止め……られなかった。
背中に当たる何かとがった感触。それが刀の切っ先であると認識するのと、128本のナイフがすべて咲夜を掠めて地面に突き刺さるのと、咲夜が久しく忘れていた「恐怖」という感情を思い出すのと、咲夜の意識が遠のくのはまったく同時だったから。
咲夜が目を覚ましたのは、紅魔館だった。
なんでも、たまたま白玉楼を訪れていた霧雨魔理沙が倒れている二人を見つけ、妖夢を幽々子に引き渡し、咲夜を紅魔館に連れかえったらしい。
「あのまま1.5人と0.5体とも桜の木の下に埋めてやってもよかったんだがな、それじゃさすがに寝覚めも悪いし、なによりレミリアを霊夢の奴に押し付けるのもなんだったから、ま、仕方なくな」
と魔理沙が憎まれ口を叩く。
「咲夜、あなた私を心配させた覚悟はできてるんでしょうね?」
レミリアは怒った顔をした。もっとも、本気で怒っているわけじゃなさそうだが。
「本当にすみません、お嬢様……魔理沙も悪かったわね」
とりあえず咲夜は素直に謝っておいた。なんだかんだ言って心配してくれる者がいるのは嬉しかった。
ちなみに妖夢も気絶していたようだ。どうやら瞬間的に大量の力を使ったせいで、オーバーヒートを起こしたらしい。
「まぁ一日も寝てれば回復するだろう」
と魔理沙は言った。
とりあえず今日は大事をとって一日休んでいるように、とレミリアは咲夜に命令して魔理沙と一緒に咲夜の部屋を出た。ふと咲夜はあの時感じていたモヤモヤの正体になんとなく気付いたような気がした。
(自分は無意識の内に時間を操る能力の上に胡座をかいていたのかもしれない。そして努力を重ねる妖夢を見下し、あんな態度をとっていたのでは?)
そう思うと、自分がいかに愚かなことをしたのかが思い知らされた。
(その結果がこれなら、私が演じたのは悪役じゃあなくって道化だったわけだわ)
自嘲ぎみに笑ってみる。そしてこんなことも考えてみる。
(とりあえず彼女には誠心誠意詫びよう。そしてお互い対等の立場で話せばひょっとすると……)
「いい友人……いえ、ライバルになれるかも」
そう口に出して、咲夜はくすりと笑うのだった。
こんな妖夢がみたかった!