このお話には「レイラ」が大量に含まれています。
苦手な人は回避してください。
------------------------------------------------------------
幻想郷に春が着てから幾日か。
桜も見所を過ぎた頃、魔理沙は騒霊三姉妹とともに幻想郷の空を飛んでいた。
ここ数日の宴会で何かと彼女らと会うことが多く、お互いのことを話すこともあった。
そんななか、姉妹の家はわりと立派な屋敷で、図書館にもなかなかの蔵書があることを聞きつけた。
そうなれば当然、魔理沙が屋敷に行きたいと思うこともあるだろう。
この時期は姉妹らも多忙で、留守がちな家に人を置いておくのは悪い話でもなかった。
かくして魔理沙はプリズムリバーの屋敷に行くこととなったのである。
名目、留守番。
実際にはずっと図書室に篭っているだろうから番犬以下だろうが。
「へぇ。思ってたよりかまともなんだな。」
魔理沙は人の家に入るなり、それなりに失礼なことを口走った。性格である。
「騒霊屋敷であって幽霊屋敷ではないからね。」
この屋敷に住む三姉妹の長女、ルナサ・プリズムリバーが大して気にした風でもなく返す。
「夜中にラップ音がするくらいの普通の屋敷よ。」
こちらは次女、メルラン。
「ラップ音って…あんたらが原因だろう?」
「失礼な。あんな普通のラップ音は私たちじゃないわよ。ねぇ姉さん。」
メルランの言葉にルナサはなんとなく頷く。聞いていたかどうか若干怪しい。
「やっぱり幽霊屋敷じゃないか…。」
「ほら姉さん、時間もないんだから早く来てー。」
魔理沙たちの大分先を行っていた三女リリカが一つの扉の前で立ち止まり、姉たちを呼ぶ。
「あそこが図書室。」
「わかった。一晩借りるぜ。」
「留守番よろしく。」
「期待はしてないけど、侵入者がいたら何とかしてね。」
「持ち逃げだけは止めてよね~。」
姉妹は言いたいことを言って、この後夜通し行われる西行寺の宴会の準備のため館の奥に消えて行った。
「お、結構凄いな。」
魔理沙は思った以上の本の数に、図書室に入るや顔を緩ませた。
「こりゃ一晩じゃ足り無いぜ。」
言いながら近くの本を手に取り読み始める。
立ったままの姿勢で魔理沙は本を読み続けた。
どれほど時間がたったか。
読み終わった本を積み上げて椅子にしていた魔理沙が、本を探す以外に始めて本から顔を上げた。
(…足音?)
図書室の外から微かに響く音に、魔理沙は意識を集中する。
カッ、カッ、カッ。
足音はその音を隠そうとはしていない。侵入者にしては間抜けすぎる。
カッ、カッ、カッ。
足音の感覚は短い。背はそれほど高くはないか。ルナサでは、ない。
カッ、カッ、カッ。
違う。
姉妹のいずれのものとも違う。
そして足音はこちらに向かってきている。
(面倒なことにならなきゃいいが…。)
魔理沙の思いとは裏腹に、足音は図書室の前で止まった。
こちらの警戒をよそに、ドアは無警戒に開かれる。
開いた扉の向こうには、姉妹のそれによく似た青い服を着た少女が立っていた。
「こんばんは、だな。」
魔理沙は友達にでも挨拶するように軽く言った。
少女は魔理沙を見て一瞬驚いたようだが、
「こんばんは。あなたは、だれ?」
と、にこやかに挨拶してきた。
「留守番だぜ。」
「…そうじゃなくて…。…私はレイラ・プリズムリバー。怪しい人じゃないよ。」
「プリズムリバー…妹君かえ?あんたら四姉妹だったのか。」
「うん。私達は四姉妹だったよ。私は四女。」
魔理沙は本を読み続けて疲れていたせいか、この言葉のおかしなところに気づかなかった。
「ってことで、今留守番がてらここにいるんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、頼りにしてるね、魔理沙さん。」
「まけせておけ、とは言わないぜ。」
「あはは。うん、わかった。」
魔理沙は自己紹介と簡単に事情を説明して、再び読書に戻った。
レイラは図書室の小さな窓から時折雲に隠れる月を見上げていた。
互いに干渉しないまま、しばし時が流れる。
「………………っ、けほっ。」
喉が渇きすぎて咳き込んで、魔理沙はようやく飲まず食わずでいたことに気がついた。
厨房でも漁ってみるか、と思った魔理沙の前に暖かい紅茶の入ったカップが差し出された。
「どうぞ。そろそろ喉が渇くんじゃないかなって思ってたんです。」
「ああ、悪いな。」
カップを受け取り口に運ぶ。やや甘めだったが今なら丁度良いと言えるだろう。
ふと側のテーブルを見ると、サンドイッチなどの軽食も用意されていた。
見たとたん、魔理沙のお腹が盛大に鳴った。
レイラは笑いを我慢しながら、「どうぞ。」とだけ言って後ろを向いた。笑ってる。絶対笑ってる。
魔理沙は苦笑しながらサンドイッチを手に取る。
「いただきます、と。」
しばらくして。
食事も済ませて再び読書に戻った魔理沙だが、どこからか聞こえてきた音楽に本以上に興味をそそられた。
(歌……か?)
聞こえてくる音から歌詞は聞き取れない。しかしその旋律を成しているのは、澄んだ高い声。
歌に注意を払うと、それは外から聞こえてくる様だった。
魔理沙は図書室にある小さな窓から顔を出して耳を澄ませたが、敷地から聞こえてくる訳ではないらしかった。
広い図書室をしばらく歩くと一つだけ、両開きの大きな窓があった。
その窓に腰掛け、月を見上げながら歌うのは、
「……レイラ……。」
呼びかけられて、レイラは歌うのをやめた。辺りから音が無くなり、もの悲しさすら漂う。
歌が止まって初めて、魔理沙は自分が呼びかけたのだと気づく。同時に後悔した。
もう少し、いや、当分の間はあの歌を聴いていたかった。
「あ、うるさかったですか?」
月の光を浴び振り返り、申し訳なさそうに謝るレイラに魔理沙はしばし見惚れていた。
「……魔理沙さん?」
レイラは不器用に窓から飛び降りて、魔理沙の顔の前で手を振る。
「…あー、大丈夫だ。なんでもない。」
五秒位してからようやく反応を返して、軽く頭を振る。
「やっぱり、うるさかったですか?」
「逆だぜ。」
「?」
「あんまり良い声だから、引き寄せられてきたんだ。」
「…え?」
真正面から褒められて、レイラは顔を赤くする。
「よかったらさ、もう一回歌ってくれないか?」
「えと、はい。喜んで。」
レイラはにっこりと笑い、スカートの端をちょんと持ち上げ、軽く一礼した。
月の光のステージで、レイラが歌う。
彼女の声に、魔理沙はただただ魅せられる。
窓の外、美しい音色が自慢の虫達も息を潜めてその歌を聴く。
その場にある空気ですら魅せられたのか、雑音は一切無い。
魔理沙にじっと見つめられているのにレイラは照れたように微笑む。
歌にあわせてくるりと回ると、辺りから埃が舞い上がった。
しかしそれですら月の光を浴びレイラを彩る。幾百の宝石を散らしたように。
その中にあって、最も輝くものは───
宝石は塵へと返り、虫達が我先にとその音色を披露する。
外に虫の声が、図書室に静寂が戻ってからようやく、魔理沙は歌が終わったことに気がついた。
「………。」
頭を下げたまま、レイラが待っていた。
すべきことは一つ。
ぱちぱちぱちぱち。
たった一つの小さな拍手の音に、レイラがようやく顔を上げる。
「気に入って、貰えましたか?」
「気に入るどころかトラウマになるな。もう私は歌を歌えそうにないぜ。」
「…え?」
魔理沙の冗句を本気でとって、レイラが泣きそうな顔になる。
「冗談だ、冗談!いやほんと、凄いよかったぜ。」
レイラの頭を撫でながら魔理沙が慌てて言う。
慌てる魔理沙がおかしくて、泣き顔はどこかへ。
「……ありがとう。魔理沙さん。」
夜のコンサートの後。
二人で取りとめも無くいろいろな本の話や、他愛の無い会話をしていた。
しかし空が白む頃、レイラが不意にポツリと呟いた。
「…時間切れ、か。」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。えっと、喉渇いたでしょう?お茶入れてくるね。」
レイラは返事も待たずにさっさと立ち上がり、図書室を出て行ってしまった。
「…?どうしたんだ?」
疑問には思ったが、とりあえずレイラが進めてくれた本に目を通しておくことにした。
図書室を出たレイラは、大きくため息をついて歩き出した。
「…だめだよね。楽しかったから、これ以上望んだら。」
不確かな足取りで、歩く。
「……部屋まで持たないかな?日が昇るの、早いよ…。」
いじけた声で呟きながら窓の外を見る。
朝日が出るまで、もう数分と無いだろう。
「こんなところで寝たら、怒られちゃうなぁ。」
眠そうに目をこする。その肌は、白く透き通るようで───
「歌……褒めてくれた。……よかったぁ…。」
褒めてもらった歌をもう一度歌おうと、息を吸い込む。
からからから、かしゃん。かしゃ、かしゃ。
何かが崩れる音がして、その後何も聞こえなくなった。
朝日が、廊下を照らしていた。
図書室のドアが開く。
魔理沙がすぐに顔を上げると、立っていたのはメルランとリリカだった。
「お、お帰り。」
「ただいま。やっぱり働いてなかったでしょ~。」
「そうでもないぜ。」
「じゃあどうしてこんなに本が散らかってるの?」
魔理沙は辺りを見回して、本が物凄く散らかっているのを見て本気で驚いた。
その後散らかっている本の表紙に全て見覚えがあったので二度驚いた。
「……気のせいだぜ。」
『そんなわけあるか!』
姉妹に突っ込みを食らって、魔理沙はちょっと気圧された。
こういうときは話題をり摩り替えるに限る。
「そ、そういえばあんたら四姉妹だったんだな。三姉妹だと思ってたぜ。」
魔理沙の言葉にメルランが不思議そうな顔をする。
「…?私達は三姉妹よ?」
「は?だって四女に会ったぜ?レイラって娘だろ?」
「あー。レイラは四女よ。」
「ほら、だったら…」
「でも私達は三姉妹だけど?」
要領を得ない会話に、魔理沙は首を傾げるしかなかった。
図書室で口論が行われている頃、ルナサは館を何かを探しながら歩いていた。
「まったく、おとなしくしていろと言ってるのに。」
ルナサが帰ってきて、レイラの部屋を確認してみるとそこには「肝心なもの」が無かった。
さして慌てるでもなく「それ」を探しに行ったルナサだが、いつもより遠出したらしい。
三姉妹の部屋にも、音楽室にも「ない」。「彼女の両親の部屋」にも。
かといって館の外にあるはずが無いのでゆっくりと探しているのだが。
しばらく歩いていると、目的のものが見つかった。
彼女のそれによく似た青い服と。
「レイラ。探したよ。」
ルナサは「それ」を前にしゃがみ込む。
「どうしたの?こんな遠出して。」
心配そうな声に、ルナサのレイラに対する思いが感じ取れる。
「まあいいか、今度聞くよ。帰ろう。」
そういって手にしたヴァイオリンを鳴らす。
ここで初めて、「それ」が応えた。
立ち上がる青い服。
白い肌。
肌?
違う。
立ち上がる青い服と、白い骨。
ルナサがレイラの部屋に向けて歩き出す。
異形が、後に続く。
かしゃ、かしゃ。
耳障りな音を立てて、白骨が歩く。
白骨の着ている綺麗な青い服と同じ服を着た少女はいない。
あの美しい声は、どこからも聞こえてこない。
干からびた骸骨とともに、ルナサの姿は館の奥に消えていった。
苦手な人は回避してください。
------------------------------------------------------------
幻想郷に春が着てから幾日か。
桜も見所を過ぎた頃、魔理沙は騒霊三姉妹とともに幻想郷の空を飛んでいた。
ここ数日の宴会で何かと彼女らと会うことが多く、お互いのことを話すこともあった。
そんななか、姉妹の家はわりと立派な屋敷で、図書館にもなかなかの蔵書があることを聞きつけた。
そうなれば当然、魔理沙が屋敷に行きたいと思うこともあるだろう。
この時期は姉妹らも多忙で、留守がちな家に人を置いておくのは悪い話でもなかった。
かくして魔理沙はプリズムリバーの屋敷に行くこととなったのである。
名目、留守番。
実際にはずっと図書室に篭っているだろうから番犬以下だろうが。
「へぇ。思ってたよりかまともなんだな。」
魔理沙は人の家に入るなり、それなりに失礼なことを口走った。性格である。
「騒霊屋敷であって幽霊屋敷ではないからね。」
この屋敷に住む三姉妹の長女、ルナサ・プリズムリバーが大して気にした風でもなく返す。
「夜中にラップ音がするくらいの普通の屋敷よ。」
こちらは次女、メルラン。
「ラップ音って…あんたらが原因だろう?」
「失礼な。あんな普通のラップ音は私たちじゃないわよ。ねぇ姉さん。」
メルランの言葉にルナサはなんとなく頷く。聞いていたかどうか若干怪しい。
「やっぱり幽霊屋敷じゃないか…。」
「ほら姉さん、時間もないんだから早く来てー。」
魔理沙たちの大分先を行っていた三女リリカが一つの扉の前で立ち止まり、姉たちを呼ぶ。
「あそこが図書室。」
「わかった。一晩借りるぜ。」
「留守番よろしく。」
「期待はしてないけど、侵入者がいたら何とかしてね。」
「持ち逃げだけは止めてよね~。」
姉妹は言いたいことを言って、この後夜通し行われる西行寺の宴会の準備のため館の奥に消えて行った。
「お、結構凄いな。」
魔理沙は思った以上の本の数に、図書室に入るや顔を緩ませた。
「こりゃ一晩じゃ足り無いぜ。」
言いながら近くの本を手に取り読み始める。
立ったままの姿勢で魔理沙は本を読み続けた。
どれほど時間がたったか。
読み終わった本を積み上げて椅子にしていた魔理沙が、本を探す以外に始めて本から顔を上げた。
(…足音?)
図書室の外から微かに響く音に、魔理沙は意識を集中する。
カッ、カッ、カッ。
足音はその音を隠そうとはしていない。侵入者にしては間抜けすぎる。
カッ、カッ、カッ。
足音の感覚は短い。背はそれほど高くはないか。ルナサでは、ない。
カッ、カッ、カッ。
違う。
姉妹のいずれのものとも違う。
そして足音はこちらに向かってきている。
(面倒なことにならなきゃいいが…。)
魔理沙の思いとは裏腹に、足音は図書室の前で止まった。
こちらの警戒をよそに、ドアは無警戒に開かれる。
開いた扉の向こうには、姉妹のそれによく似た青い服を着た少女が立っていた。
「こんばんは、だな。」
魔理沙は友達にでも挨拶するように軽く言った。
少女は魔理沙を見て一瞬驚いたようだが、
「こんばんは。あなたは、だれ?」
と、にこやかに挨拶してきた。
「留守番だぜ。」
「…そうじゃなくて…。…私はレイラ・プリズムリバー。怪しい人じゃないよ。」
「プリズムリバー…妹君かえ?あんたら四姉妹だったのか。」
「うん。私達は四姉妹だったよ。私は四女。」
魔理沙は本を読み続けて疲れていたせいか、この言葉のおかしなところに気づかなかった。
「ってことで、今留守番がてらここにいるんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、頼りにしてるね、魔理沙さん。」
「まけせておけ、とは言わないぜ。」
「あはは。うん、わかった。」
魔理沙は自己紹介と簡単に事情を説明して、再び読書に戻った。
レイラは図書室の小さな窓から時折雲に隠れる月を見上げていた。
互いに干渉しないまま、しばし時が流れる。
「………………っ、けほっ。」
喉が渇きすぎて咳き込んで、魔理沙はようやく飲まず食わずでいたことに気がついた。
厨房でも漁ってみるか、と思った魔理沙の前に暖かい紅茶の入ったカップが差し出された。
「どうぞ。そろそろ喉が渇くんじゃないかなって思ってたんです。」
「ああ、悪いな。」
カップを受け取り口に運ぶ。やや甘めだったが今なら丁度良いと言えるだろう。
ふと側のテーブルを見ると、サンドイッチなどの軽食も用意されていた。
見たとたん、魔理沙のお腹が盛大に鳴った。
レイラは笑いを我慢しながら、「どうぞ。」とだけ言って後ろを向いた。笑ってる。絶対笑ってる。
魔理沙は苦笑しながらサンドイッチを手に取る。
「いただきます、と。」
しばらくして。
食事も済ませて再び読書に戻った魔理沙だが、どこからか聞こえてきた音楽に本以上に興味をそそられた。
(歌……か?)
聞こえてくる音から歌詞は聞き取れない。しかしその旋律を成しているのは、澄んだ高い声。
歌に注意を払うと、それは外から聞こえてくる様だった。
魔理沙は図書室にある小さな窓から顔を出して耳を澄ませたが、敷地から聞こえてくる訳ではないらしかった。
広い図書室をしばらく歩くと一つだけ、両開きの大きな窓があった。
その窓に腰掛け、月を見上げながら歌うのは、
「……レイラ……。」
呼びかけられて、レイラは歌うのをやめた。辺りから音が無くなり、もの悲しさすら漂う。
歌が止まって初めて、魔理沙は自分が呼びかけたのだと気づく。同時に後悔した。
もう少し、いや、当分の間はあの歌を聴いていたかった。
「あ、うるさかったですか?」
月の光を浴び振り返り、申し訳なさそうに謝るレイラに魔理沙はしばし見惚れていた。
「……魔理沙さん?」
レイラは不器用に窓から飛び降りて、魔理沙の顔の前で手を振る。
「…あー、大丈夫だ。なんでもない。」
五秒位してからようやく反応を返して、軽く頭を振る。
「やっぱり、うるさかったですか?」
「逆だぜ。」
「?」
「あんまり良い声だから、引き寄せられてきたんだ。」
「…え?」
真正面から褒められて、レイラは顔を赤くする。
「よかったらさ、もう一回歌ってくれないか?」
「えと、はい。喜んで。」
レイラはにっこりと笑い、スカートの端をちょんと持ち上げ、軽く一礼した。
月の光のステージで、レイラが歌う。
彼女の声に、魔理沙はただただ魅せられる。
窓の外、美しい音色が自慢の虫達も息を潜めてその歌を聴く。
その場にある空気ですら魅せられたのか、雑音は一切無い。
魔理沙にじっと見つめられているのにレイラは照れたように微笑む。
歌にあわせてくるりと回ると、辺りから埃が舞い上がった。
しかしそれですら月の光を浴びレイラを彩る。幾百の宝石を散らしたように。
その中にあって、最も輝くものは───
宝石は塵へと返り、虫達が我先にとその音色を披露する。
外に虫の声が、図書室に静寂が戻ってからようやく、魔理沙は歌が終わったことに気がついた。
「………。」
頭を下げたまま、レイラが待っていた。
すべきことは一つ。
ぱちぱちぱちぱち。
たった一つの小さな拍手の音に、レイラがようやく顔を上げる。
「気に入って、貰えましたか?」
「気に入るどころかトラウマになるな。もう私は歌を歌えそうにないぜ。」
「…え?」
魔理沙の冗句を本気でとって、レイラが泣きそうな顔になる。
「冗談だ、冗談!いやほんと、凄いよかったぜ。」
レイラの頭を撫でながら魔理沙が慌てて言う。
慌てる魔理沙がおかしくて、泣き顔はどこかへ。
「……ありがとう。魔理沙さん。」
夜のコンサートの後。
二人で取りとめも無くいろいろな本の話や、他愛の無い会話をしていた。
しかし空が白む頃、レイラが不意にポツリと呟いた。
「…時間切れ、か。」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん。えっと、喉渇いたでしょう?お茶入れてくるね。」
レイラは返事も待たずにさっさと立ち上がり、図書室を出て行ってしまった。
「…?どうしたんだ?」
疑問には思ったが、とりあえずレイラが進めてくれた本に目を通しておくことにした。
図書室を出たレイラは、大きくため息をついて歩き出した。
「…だめだよね。楽しかったから、これ以上望んだら。」
不確かな足取りで、歩く。
「……部屋まで持たないかな?日が昇るの、早いよ…。」
いじけた声で呟きながら窓の外を見る。
朝日が出るまで、もう数分と無いだろう。
「こんなところで寝たら、怒られちゃうなぁ。」
眠そうに目をこする。その肌は、白く透き通るようで───
「歌……褒めてくれた。……よかったぁ…。」
褒めてもらった歌をもう一度歌おうと、息を吸い込む。
からからから、かしゃん。かしゃ、かしゃ。
何かが崩れる音がして、その後何も聞こえなくなった。
朝日が、廊下を照らしていた。
図書室のドアが開く。
魔理沙がすぐに顔を上げると、立っていたのはメルランとリリカだった。
「お、お帰り。」
「ただいま。やっぱり働いてなかったでしょ~。」
「そうでもないぜ。」
「じゃあどうしてこんなに本が散らかってるの?」
魔理沙は辺りを見回して、本が物凄く散らかっているのを見て本気で驚いた。
その後散らかっている本の表紙に全て見覚えがあったので二度驚いた。
「……気のせいだぜ。」
『そんなわけあるか!』
姉妹に突っ込みを食らって、魔理沙はちょっと気圧された。
こういうときは話題をり摩り替えるに限る。
「そ、そういえばあんたら四姉妹だったんだな。三姉妹だと思ってたぜ。」
魔理沙の言葉にメルランが不思議そうな顔をする。
「…?私達は三姉妹よ?」
「は?だって四女に会ったぜ?レイラって娘だろ?」
「あー。レイラは四女よ。」
「ほら、だったら…」
「でも私達は三姉妹だけど?」
要領を得ない会話に、魔理沙は首を傾げるしかなかった。
図書室で口論が行われている頃、ルナサは館を何かを探しながら歩いていた。
「まったく、おとなしくしていろと言ってるのに。」
ルナサが帰ってきて、レイラの部屋を確認してみるとそこには「肝心なもの」が無かった。
さして慌てるでもなく「それ」を探しに行ったルナサだが、いつもより遠出したらしい。
三姉妹の部屋にも、音楽室にも「ない」。「彼女の両親の部屋」にも。
かといって館の外にあるはずが無いのでゆっくりと探しているのだが。
しばらく歩いていると、目的のものが見つかった。
彼女のそれによく似た青い服と。
「レイラ。探したよ。」
ルナサは「それ」を前にしゃがみ込む。
「どうしたの?こんな遠出して。」
心配そうな声に、ルナサのレイラに対する思いが感じ取れる。
「まあいいか、今度聞くよ。帰ろう。」
そういって手にしたヴァイオリンを鳴らす。
ここで初めて、「それ」が応えた。
立ち上がる青い服。
白い肌。
肌?
違う。
立ち上がる青い服と、白い骨。
ルナサがレイラの部屋に向けて歩き出す。
異形が、後に続く。
かしゃ、かしゃ。
耳障りな音を立てて、白骨が歩く。
白骨の着ている綺麗な青い服と同じ服を着た少女はいない。
あの美しい声は、どこからも聞こえてこない。
干からびた骸骨とともに、ルナサの姿は館の奥に消えていった。
彼女の歌…聴いてみたいなぁ(^^)
なんか切なくもあるけども
ぁぁ、言葉に出来ない(汗
でもよかったです
切ないような暖かいような、曖昧な印象の物語が東方らしくて好きです。