オリジナルキャラなんて出して見たので嫌いな方は全力回避推奨。
正直あまり東方に似合うキャラでは無いと思います。
*****
紅魔郷の中でも特に辺境、山を越えて山を越えた山を越えた所にある、小さな店。店員は、異様に長い黒髪に全身と顔の殆どを覆い隠した女性が一人のみ。
こんな所に店を構えていてはまともな来客は望めないだろうが、まともでは無い客は結構来るようだった。
朝霧も消えずに残る早朝。
少し蝶番の錆びた扉を開け、今日最初の客は店を尋ねてきた。
十代半ばだろうか、家政婦の、率直に言えばメイド服を纏った少女だった。しかしなぜか上からフード付きのマントを羽織り、端整な顔を隠していた。
「いらっしゃいませ」
「挨拶は結構よ。それより頼んでおいた物は」
「……ああ、貴女でしたか。もう出来上がっています。お持ちしますので暫くお待ちを」
その返事を聞いた少女は緊張に身を強張らせた。その仕草は、何となく恋人に合う直前の緊張に似ているような気がする。
少ししてから、店員は髪の毛を操って創り出した腕で、人間の子供ほどはある革張りの箱を抱えて店の奥から現れた。
「こちらになります……どうぞ、お確かめ下さい」
箱をそっと地面に置いた。少女はすぐに箱に取り付き開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。店員が黒髪を操って鍵を差し出すと、引っ手繰るようにして鍵を受け取り、開け始めた。
震える手で蓋を持ち上げる。そこに入っていたのは赤いドレスを着た、等身大の少女の人形だった。肌の質感まで再現した精巧な作りで、今にも動き出しそうな気配すらした。
写真を数枚渡され、「この少女の人形を出来るだけ正確に作ってくれ」と言われて作ったのだが、我ながら良い出来だと思っていた。
「仕上げの際、知り合いの人形師にも手伝ってもらいましたが……お気に召しましたか?」
「……」
メイドの少女は肩を震わせて、人形の上に覆いかぶさるように凝視していた。
「何かお気に召さない所がおありでしたら何なりと」
「……高」
「は?」
「……最高の出来よ。この宝石の瞳、白魚のような指、白磁にも勝る頬……」
我慢できなくなったか、少女は人形を抱え上げて号泣した。
「これぞ私のお嬢様! これほどの仕事、良くやってくれたわ!」
そう言いながらメイドの少女は、オーバーアクションで人形を抱き締めた。
聞いたところによると、この人形は彼女が勤めている館の当主の姿らしい。彼女はそのお嬢様にかなりアブナイ(本人は気がついていないようだが)惚れ方をし、こうして精密な人形で欲を満たそうと言う腹だそうだ。
「お嬢様、これでベッドの上で貴女恋しさに枕を濡らす事も……」
「ご満足いただけた様で何よりで御座います。これで身体の細部まで忠実に再現した甲斐があったという物です」
その言葉に敏感に反応し、禁忌を覗き見るような慎重さで人形の襟元をそっとめくって覗きこむメイドの少女。
あと2センチ……あと1センチ……。
次の瞬間、鼻血を噴出して後ろに倒れこんだ。
「お嬢様の柔肌までもが……これで私の物に。わが人生に一片の悔い無し……っふふふふふ」
遠くを見つめて薄ら笑いを浮かべる少女を見て、
『この人に必要なのは人形じゃなく、大結界の外で使われている精神安定剤なのではないか』
とちらりと考える店員であった。
とりあえず鼻血の跡は拭いて帰ってもらおう。
時刻は昼過ぎ。結界の外で入手した「CD」と言う物を聞きながら昼食を済ませた丁度その時だった。
またもや錆びた蝶番の音が、客を迎え入れた。
「お邪魔……します」
入ってきたのは如何にも病弱そうな、喘息持ちで本だけがお友達みたいな少女だった。良くこの日差しの中山を越えてやって来れたものだと、失礼ながら考えた。
服装もネグリジェ。これでお出かけとは違う意味で勇気のある少女だと思った。
しかし商売人の端くれたる者、気の聞いた、客にあった文句が言えなければならない。
客にあった言葉……病弱、喘息、ネグリジェ……
「いらっしゃいませ、当店では喘息を和らげる薬、鎮痛剤、睡眠薬、麻酔薬、それ以外の方法でも楽になるための薬も多数取り揃えております」
これだ。
まさに客のニーズにあった完璧な客引きだと、店員は確信した。
「……私ってそんなに病弱で不眠症で今にも死にそうに見えるの?」
「安楽死も取り扱って……もしかして違いましたか?」
「病弱って所は悔しいけど……否定出来ない」
目に見えて落ち込んでしまった。もしかしたら引きの文句は失敗だったかもしれない。
「ところで、本日はどのようなご用向きで」
「……ここに来れば何でも揃うって咲夜から聞いたんだけど」
咲夜とは先ほど着たあのメイドの事らしい。
ちなみに床にはうっすらとだが、まだ血の跡が残っている。情念がこびりついて消えそうにないのが怖かった。
「何でもと言われると分かりませんが、ご要望を満たせるように努力致します」
「じゃあ……私に似合う服って言うのもあるかしら。魔理沙にお家に招待されちゃって、それで可愛いお洋服なんか来て行きたいのに……着飾った事なんて無いから」
服。
てっきり強力な薬を所望かと思っていたのだが、これはまたずいぶんと女の子らしい御要望だった。
この少女に似合う服。
「死装束なんかは如何でしょう」
「もしかして気がつかないうちに喧嘩売られてるの? それともボケなの?」
「いえ決してそんな事は……とにかく、御友人に招待されて、お洒落して行きたいけど自分に似合う服が分からない、と?」
「そうなの。ウェディングドレスはちょっと不評だったし、何度も来て行くの嫌だから」
どこをどうやってウェディングドレスに行きついたのかすこぶる興味があったのだが、詮索はしないでおいた。まあ素材は文句の出ようも無いほど良いから、何を着ても似合わない事は無いだろうと思った。
「ではどのような色がお好きですか?」
「え、ええと……わかんない。今まで服の色なんて考えたこと無いから」
ネグリジェとウェディングドレスで外出するようではさもあらん。
「あなたを招待したと言うその相手は、どのような御方なのですか?」
「凄く魔法が強くて、優しくて、黒い服が格好よくて、笑った顔も凄く可愛くて、しかも努力家で毎日勉強を欠かさなくて……」
「もう結構です」
一応様々な色合いの服を選んで見たが、結局髪の毛の色に合わせて、薄紫のドレスに決まった。ネグリジェと同じ色である。
大きなリボンもつけて目いっぱい少女趣味にしてやった。
「服はこんな感じで如何でしょう?」
「私、良く分からないんだけど……綺麗、かな?」
自信が無いらしい。実は無責任な事に、店員にも全く自信が無かった。
「綺麗と言いますか、可愛い、と思います」
「魔理沙、気に入ってくれるかな?」
「それは聞いて見ないと何とも言えませんが、少なくとも貴女が綺麗になろうと試行錯誤した事は伝わるはずです」
それは服を選んだ自分にも言って聞かせているのだが。
「……」
「お優しい方なのでしょう?」
「……うん」
どうやら納得したらしい。顔に少し明るさが戻った。
そもそも服以前に本人が可愛いのだし、それに自信を持てばなんとでもなるはずなのだ。
「次は、そのお友達と一緒に御来店下さい」
店員は深く頭を下げた。
夜。
もう人は来ないだろうと思っていたのだが、そこに夜ならではの客がやってきた。
蝙蝠の羽、鋭くとがった犬歯……吸血鬼である。
「咲夜に人形を売ったのはあなたね?」
その吸血鬼は、今朝メイドに売った人形にそっくりと言うか、そのモデルに間違いなかった。
赤い月を背にして浮かぶその姿は、少女の外見とは相容れない威厳を持っていた。
「あなたは客の注文を満たしただけだから、あなたを責める気は無いわ」
どうやら命の危険は無いらしい。
『あんな人形売りおって』とか言われて襲いかかられたら間違いなく助からなかった。
「その代わり、私のお願いも聞いてくれるかしら」
「応えられる範囲なら。私はお客様を選ぶつもりはありません」
「じゃあ一つだけ」
吸血鬼は店員の前に下りた。そして顔を近づけ、一言。
「雇ってるメイドがまともになる道具とか、ない?」
次の日の朝まで、涙を流しながらの吸血鬼の愚痴は続いた。
正直あまり東方に似合うキャラでは無いと思います。
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紅魔郷の中でも特に辺境、山を越えて山を越えた山を越えた所にある、小さな店。店員は、異様に長い黒髪に全身と顔の殆どを覆い隠した女性が一人のみ。
こんな所に店を構えていてはまともな来客は望めないだろうが、まともでは無い客は結構来るようだった。
朝霧も消えずに残る早朝。
少し蝶番の錆びた扉を開け、今日最初の客は店を尋ねてきた。
十代半ばだろうか、家政婦の、率直に言えばメイド服を纏った少女だった。しかしなぜか上からフード付きのマントを羽織り、端整な顔を隠していた。
「いらっしゃいませ」
「挨拶は結構よ。それより頼んでおいた物は」
「……ああ、貴女でしたか。もう出来上がっています。お持ちしますので暫くお待ちを」
その返事を聞いた少女は緊張に身を強張らせた。その仕草は、何となく恋人に合う直前の緊張に似ているような気がする。
少ししてから、店員は髪の毛を操って創り出した腕で、人間の子供ほどはある革張りの箱を抱えて店の奥から現れた。
「こちらになります……どうぞ、お確かめ下さい」
箱をそっと地面に置いた。少女はすぐに箱に取り付き開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。店員が黒髪を操って鍵を差し出すと、引っ手繰るようにして鍵を受け取り、開け始めた。
震える手で蓋を持ち上げる。そこに入っていたのは赤いドレスを着た、等身大の少女の人形だった。肌の質感まで再現した精巧な作りで、今にも動き出しそうな気配すらした。
写真を数枚渡され、「この少女の人形を出来るだけ正確に作ってくれ」と言われて作ったのだが、我ながら良い出来だと思っていた。
「仕上げの際、知り合いの人形師にも手伝ってもらいましたが……お気に召しましたか?」
「……」
メイドの少女は肩を震わせて、人形の上に覆いかぶさるように凝視していた。
「何かお気に召さない所がおありでしたら何なりと」
「……高」
「は?」
「……最高の出来よ。この宝石の瞳、白魚のような指、白磁にも勝る頬……」
我慢できなくなったか、少女は人形を抱え上げて号泣した。
「これぞ私のお嬢様! これほどの仕事、良くやってくれたわ!」
そう言いながらメイドの少女は、オーバーアクションで人形を抱き締めた。
聞いたところによると、この人形は彼女が勤めている館の当主の姿らしい。彼女はそのお嬢様にかなりアブナイ(本人は気がついていないようだが)惚れ方をし、こうして精密な人形で欲を満たそうと言う腹だそうだ。
「お嬢様、これでベッドの上で貴女恋しさに枕を濡らす事も……」
「ご満足いただけた様で何よりで御座います。これで身体の細部まで忠実に再現した甲斐があったという物です」
その言葉に敏感に反応し、禁忌を覗き見るような慎重さで人形の襟元をそっとめくって覗きこむメイドの少女。
あと2センチ……あと1センチ……。
次の瞬間、鼻血を噴出して後ろに倒れこんだ。
「お嬢様の柔肌までもが……これで私の物に。わが人生に一片の悔い無し……っふふふふふ」
遠くを見つめて薄ら笑いを浮かべる少女を見て、
『この人に必要なのは人形じゃなく、大結界の外で使われている精神安定剤なのではないか』
とちらりと考える店員であった。
とりあえず鼻血の跡は拭いて帰ってもらおう。
時刻は昼過ぎ。結界の外で入手した「CD」と言う物を聞きながら昼食を済ませた丁度その時だった。
またもや錆びた蝶番の音が、客を迎え入れた。
「お邪魔……します」
入ってきたのは如何にも病弱そうな、喘息持ちで本だけがお友達みたいな少女だった。良くこの日差しの中山を越えてやって来れたものだと、失礼ながら考えた。
服装もネグリジェ。これでお出かけとは違う意味で勇気のある少女だと思った。
しかし商売人の端くれたる者、気の聞いた、客にあった文句が言えなければならない。
客にあった言葉……病弱、喘息、ネグリジェ……
「いらっしゃいませ、当店では喘息を和らげる薬、鎮痛剤、睡眠薬、麻酔薬、それ以外の方法でも楽になるための薬も多数取り揃えております」
これだ。
まさに客のニーズにあった完璧な客引きだと、店員は確信した。
「……私ってそんなに病弱で不眠症で今にも死にそうに見えるの?」
「安楽死も取り扱って……もしかして違いましたか?」
「病弱って所は悔しいけど……否定出来ない」
目に見えて落ち込んでしまった。もしかしたら引きの文句は失敗だったかもしれない。
「ところで、本日はどのようなご用向きで」
「……ここに来れば何でも揃うって咲夜から聞いたんだけど」
咲夜とは先ほど着たあのメイドの事らしい。
ちなみに床にはうっすらとだが、まだ血の跡が残っている。情念がこびりついて消えそうにないのが怖かった。
「何でもと言われると分かりませんが、ご要望を満たせるように努力致します」
「じゃあ……私に似合う服って言うのもあるかしら。魔理沙にお家に招待されちゃって、それで可愛いお洋服なんか来て行きたいのに……着飾った事なんて無いから」
服。
てっきり強力な薬を所望かと思っていたのだが、これはまたずいぶんと女の子らしい御要望だった。
この少女に似合う服。
「死装束なんかは如何でしょう」
「もしかして気がつかないうちに喧嘩売られてるの? それともボケなの?」
「いえ決してそんな事は……とにかく、御友人に招待されて、お洒落して行きたいけど自分に似合う服が分からない、と?」
「そうなの。ウェディングドレスはちょっと不評だったし、何度も来て行くの嫌だから」
どこをどうやってウェディングドレスに行きついたのかすこぶる興味があったのだが、詮索はしないでおいた。まあ素材は文句の出ようも無いほど良いから、何を着ても似合わない事は無いだろうと思った。
「ではどのような色がお好きですか?」
「え、ええと……わかんない。今まで服の色なんて考えたこと無いから」
ネグリジェとウェディングドレスで外出するようではさもあらん。
「あなたを招待したと言うその相手は、どのような御方なのですか?」
「凄く魔法が強くて、優しくて、黒い服が格好よくて、笑った顔も凄く可愛くて、しかも努力家で毎日勉強を欠かさなくて……」
「もう結構です」
一応様々な色合いの服を選んで見たが、結局髪の毛の色に合わせて、薄紫のドレスに決まった。ネグリジェと同じ色である。
大きなリボンもつけて目いっぱい少女趣味にしてやった。
「服はこんな感じで如何でしょう?」
「私、良く分からないんだけど……綺麗、かな?」
自信が無いらしい。実は無責任な事に、店員にも全く自信が無かった。
「綺麗と言いますか、可愛い、と思います」
「魔理沙、気に入ってくれるかな?」
「それは聞いて見ないと何とも言えませんが、少なくとも貴女が綺麗になろうと試行錯誤した事は伝わるはずです」
それは服を選んだ自分にも言って聞かせているのだが。
「……」
「お優しい方なのでしょう?」
「……うん」
どうやら納得したらしい。顔に少し明るさが戻った。
そもそも服以前に本人が可愛いのだし、それに自信を持てばなんとでもなるはずなのだ。
「次は、そのお友達と一緒に御来店下さい」
店員は深く頭を下げた。
夜。
もう人は来ないだろうと思っていたのだが、そこに夜ならではの客がやってきた。
蝙蝠の羽、鋭くとがった犬歯……吸血鬼である。
「咲夜に人形を売ったのはあなたね?」
その吸血鬼は、今朝メイドに売った人形にそっくりと言うか、そのモデルに間違いなかった。
赤い月を背にして浮かぶその姿は、少女の外見とは相容れない威厳を持っていた。
「あなたは客の注文を満たしただけだから、あなたを責める気は無いわ」
どうやら命の危険は無いらしい。
『あんな人形売りおって』とか言われて襲いかかられたら間違いなく助からなかった。
「その代わり、私のお願いも聞いてくれるかしら」
「応えられる範囲なら。私はお客様を選ぶつもりはありません」
「じゃあ一つだけ」
吸血鬼は店員の前に下りた。そして顔を近づけ、一言。
「雇ってるメイドがまともになる道具とか、ない?」
次の日の朝まで、涙を流しながらの吸血鬼の愚痴は続いた。
咲夜が帰ってから~レミリアが来店するまでに何があったかを知りたいですね
あと、面白かったです
博麗大結界を越える店員か…やるな。