幻想郷、春。
「こちら側」なら名所と呼ばれ人に溢れかねない景色の、博麗神社でのこと。
夕暮れ。元より来客の少ないこの神社にあってすら、こと浮いた姿が鳥居をくぐった。
美しいブロンドに赤いヘアバンド。透き通るような白い肌に空色の服。
彼女の名、アリス・マーガトロイド。
手には彼女に似た人形と、紅白のもう一体がしっかりと握られていた。
(まずは霊夢を見つけなきゃ。)
紅白の人形を見ながらアリスが自分の胸に手をやる。
鼓動が速い。柄にも無く緊張しているらしい。
(大丈夫、やれるわ。)
紅白の人形をぎゅっと握り締め、彼女は境内を進んだ。
手を上げる。手の甲を扉に向けて、叩く、寸前で留める。手を下ろす。
手を上げる、手を握る。ぎゅっと握る。手の甲を向けて、叩、けない。
玄関の扉の前で、アリスはもう長いことそれを繰り返していた。
先ほどよりも速い鼓動に体が浮いたような感覚。緊張も来るところまで来ていた。
なんのことはない。
霊夢が出てきたら隙を突いて髪の毛を奪って、この人形に入れる。それだけだ。
そうすればこの人形の力で──
「さっきから、何してるの?」
後ろからかけられた声にアリスは一瞬びくっとして、その場にぺたりと座り込んだ。心底驚いたらしい。
「…なにそんなに驚いてるの?さっきも挙動不審だったし。」
「…あ、え、えーと…。」
実のところ腰が抜けていたアリスは何とか振り返る。声の主はやはり霊夢だった。
「ん?なんか持ってる?」
アリスが抱えている人形を覗き込もうと霊夢が顔を寄せる。
チャンスだ。
なんかずいぶんと間抜けになってしまったが、なりふりかまってもいられない。
アリスは後ろに倒れながら霊夢の頭をつかみ、一気に───
ぶち。
「っっいったぁぁ~~!!」
十本くらい一気に髪の毛をむしられた霊夢は痛みにうずくまる。
十本くらい一気に髪の毛をむしったアリスは大急ぎで紅白人形に髪の毛を詰める。
そしてアリスに似た人形に近づけ──。
霊夢が涙目でアリスを睨みつける。
「あんた一体何のつもり──って、おぉ!?」
食って掛かろうとした途端、霊夢の体が何かに引っ張られたように。
アリスに覆いかぶさった。
がち。
派手にぶつかった。
歯が。歯に。
「………!!!!!!」
「…………。(ぽっ」
霊夢は驚いて体を起こそうとするが、うまくいかない。
見ればアリスが胸の上で紅白とアリスに似た人形の顔と顔を合わせている。
──あれが元凶か!
霊夢は人形に手を伸ばしたが、アリスが紅白人形の手の位置を変える。
人形の手は他人に見られたら言い逃れできない位置に持っていかれた。当然霊夢の手も。
アリスは人形の顔を離して、至近距離で霊夢を見つめる。
「霊夢ったら、こんなところで大胆ね。」
「ばっ…!冗談言ってる場合じゃないでしょう!!早く何とかしなさい!」
「ふふ。わかったわよ。今日のところは、だけどね。」
まあこれさえあればもっと「らしい」場所で「できる」わけだし、などと思いながらアリスは人形の距離を離す。
と、
「あ、体動く。」
妄想が過ぎたらしい。人形支配が一瞬おろそかになって。
「この莫迦魔法使いがーー!!」
霊夢の叫びとともに紅白人形は境内の外に吹っ飛ばされた。
「あ。」
アリスが何もなくなった手元を見ながら言った。
「ふ。」
霊夢がアリス人形を手にして言った。
「……えーと、ああそうだ。私そろそろ帰らないとー……何て、無理かしら……。」
アリスが命乞い。
「藁人形なら私でも作れるけど、このくらい精巧だと効果も上がるのかしら?」
霊夢がにやりと笑う。
「…わ、私が悪かったから、ね?霊夢。…ちょ、普通人型の生き物はそっちに腕は曲がらないんですけどーー!!」
アリスの絶叫とともに、幻想郷の日が沈んだ。
「こちら側」なら名所と呼ばれ人に溢れかねない景色の、博麗神社でのこと。
夕暮れ。元より来客の少ないこの神社にあってすら、こと浮いた姿が鳥居をくぐった。
美しいブロンドに赤いヘアバンド。透き通るような白い肌に空色の服。
彼女の名、アリス・マーガトロイド。
手には彼女に似た人形と、紅白のもう一体がしっかりと握られていた。
(まずは霊夢を見つけなきゃ。)
紅白の人形を見ながらアリスが自分の胸に手をやる。
鼓動が速い。柄にも無く緊張しているらしい。
(大丈夫、やれるわ。)
紅白の人形をぎゅっと握り締め、彼女は境内を進んだ。
手を上げる。手の甲を扉に向けて、叩く、寸前で留める。手を下ろす。
手を上げる、手を握る。ぎゅっと握る。手の甲を向けて、叩、けない。
玄関の扉の前で、アリスはもう長いことそれを繰り返していた。
先ほどよりも速い鼓動に体が浮いたような感覚。緊張も来るところまで来ていた。
なんのことはない。
霊夢が出てきたら隙を突いて髪の毛を奪って、この人形に入れる。それだけだ。
そうすればこの人形の力で──
「さっきから、何してるの?」
後ろからかけられた声にアリスは一瞬びくっとして、その場にぺたりと座り込んだ。心底驚いたらしい。
「…なにそんなに驚いてるの?さっきも挙動不審だったし。」
「…あ、え、えーと…。」
実のところ腰が抜けていたアリスは何とか振り返る。声の主はやはり霊夢だった。
「ん?なんか持ってる?」
アリスが抱えている人形を覗き込もうと霊夢が顔を寄せる。
チャンスだ。
なんかずいぶんと間抜けになってしまったが、なりふりかまってもいられない。
アリスは後ろに倒れながら霊夢の頭をつかみ、一気に───
ぶち。
「っっいったぁぁ~~!!」
十本くらい一気に髪の毛をむしられた霊夢は痛みにうずくまる。
十本くらい一気に髪の毛をむしったアリスは大急ぎで紅白人形に髪の毛を詰める。
そしてアリスに似た人形に近づけ──。
霊夢が涙目でアリスを睨みつける。
「あんた一体何のつもり──って、おぉ!?」
食って掛かろうとした途端、霊夢の体が何かに引っ張られたように。
アリスに覆いかぶさった。
がち。
派手にぶつかった。
歯が。歯に。
「………!!!!!!」
「…………。(ぽっ」
霊夢は驚いて体を起こそうとするが、うまくいかない。
見ればアリスが胸の上で紅白とアリスに似た人形の顔と顔を合わせている。
──あれが元凶か!
霊夢は人形に手を伸ばしたが、アリスが紅白人形の手の位置を変える。
人形の手は他人に見られたら言い逃れできない位置に持っていかれた。当然霊夢の手も。
アリスは人形の顔を離して、至近距離で霊夢を見つめる。
「霊夢ったら、こんなところで大胆ね。」
「ばっ…!冗談言ってる場合じゃないでしょう!!早く何とかしなさい!」
「ふふ。わかったわよ。今日のところは、だけどね。」
まあこれさえあればもっと「らしい」場所で「できる」わけだし、などと思いながらアリスは人形の距離を離す。
と、
「あ、体動く。」
妄想が過ぎたらしい。人形支配が一瞬おろそかになって。
「この莫迦魔法使いがーー!!」
霊夢の叫びとともに紅白人形は境内の外に吹っ飛ばされた。
「あ。」
アリスが何もなくなった手元を見ながら言った。
「ふ。」
霊夢がアリス人形を手にして言った。
「……えーと、ああそうだ。私そろそろ帰らないとー……何て、無理かしら……。」
アリスが命乞い。
「藁人形なら私でも作れるけど、このくらい精巧だと効果も上がるのかしら?」
霊夢がにやりと笑う。
「…わ、私が悪かったから、ね?霊夢。…ちょ、普通人型の生き物はそっちに腕は曲がらないんですけどーー!!」
アリスの絶叫とともに、幻想郷の日が沈んだ。