「魔理沙、何そんな所でぼーっとしてるのよ」
ここは博麗神社。境内の掃除をしていた霊夢は、縁側に座っている魔女に問いかけた。
「……ああ、霊夢か。いや何、こう天気のいい春の日は、神社に行くに限ると思ってな」
「何よ、それ」
「気にするな」
そう言って、再びぼーっとしだす魔理沙。視線の先には、辺り一面満開の桜があった。
「どうせまた、お花見に来たんでしょう? わざわざウチに来なくてもいいんじゃないの?」
「別にいいだろ、人がどこで花見したって」
「まあ、そうだけど」
そして会話は途切れ、静寂が訪れる。神社の周りはいたって静かで、時折吹く風で桜の花が揺れる音が聞こえる程度だった。
「ぶっ」
突然沈黙を破る、妙な音。それは、魔理沙のものだった。
「ど、どうしたの?」
「…桜の花びらが、口に入った」
「…何で入るのよ」
「口を開けていたからな」
「口を開けてぼーっとしてたの? ちょっとぼけっとしすぎじゃない?」
「そうかもな」
「しっかりしなさいよ」
「………」
そしてまた、途切れる会話。聞こえてくるのは、霊夢の動かす竹箒の音だけだった。
「そういえば」
しばらくして、今度は魔理沙の方から話しかけて来た。
「何?」
霊夢の箒を動かす手が止まる。
「今日は居ないな、あのお嬢様」
「…ええ。別に毎日来る訳じゃないもの」
「それもそうだな」
またしばらくして、霊夢が魔理沙の隣に座ってきた。
「掃除、終わりか? まだ掃き終わってないように見えるけど」
「きりが無いって事に気付いたわ」
霊夢の言うとおり、満開の桜は掃いている側から花びらが落ちてくるのであった。このまま掃除をしていたら、恐らく日付が変わっても終わる事は無かっただろう。
「…眠い」
それからしばらく二人で桜を眺めていたが、急に魔理沙がそんな事を言った。
「『春眠、暁を覚えず』、かしら?」
冗談めいた口調で返した霊夢だったが、
「膝…貸してくれ」
魔理沙はそのまま霊夢の方へと倒れこんだ。
「ちょ……何? ほんとに寝る気?」
「んー…まあなー……」
眠そうな声で、魔理沙が呟いた。
「…もう、しょーがないなあ………」
霊夢も無理に起こそうとはせず、膝を貸す事にした。
春の幻想郷。神社を通り抜ける風は、どこまでも優しかった。
「…夢……霊夢………」
「………………はっ」
魔理沙の声で、霊夢は目が覚めた。どうやらあの後、自分も眠ってしまったらしい。
「…春眠、恐るべしね」
「全くだな…ふあああ………」
同意する魔理沙の声は、まだまだ眠そうだった。
「あれ、もうこんな時間?」
霊夢が空を見上げると、日は既に西に傾きはじめていた。
「…夜桜も、オツなものだな」
すっかり日も暮れ、星が瞬く幻想郷の夜。神社の縁側には、相変わらず魔女が座っていた。
「魔理沙、本当にどうしたの? 今日は随分呆けてるじゃない?」
霊夢は心配そうに、魔理沙の顔を覗き込んだ。
「ああ…大した事じゃないけど…ちょっと、な……」
「ちょっと、何? 何があったの?」
「ちょっと、な…新しい魔法の実験をしてて………」
「それで?」
魔理沙の顔を食い入るように見つめる霊夢。
「何か、失敗したみたいで……それで、その魔法の副作用か何かだと思うけど……3日くらい、眠れてない」
「嘘!? ちょっと、大丈夫なの!?」
「大丈夫だぜ……ただ、今まで眠れてなかったから、その反動だと思うけど………今、凄く眠い」
肉体の疲労を表すかのように、魔理沙の体は少し揺れていた。
「もう…! それを早く言いなさいよ…」
そう言って、霊夢は魔理沙の肩を担いで立たせた。
「こんな所で寝ないで、うちの中で休みなさい。今日は泊まっていっていいから……」
「ああ………恩に…着る……ぜ……」
「ちょっと、魔理沙………あら」
魔理沙は霊夢に寄りかかったまま、寝息を立てていた。
「……もう。しょうがないわねえ……」
霊夢は少し思案した後、手を魔理沙の肩と腰に回し、そのまま抱きかかえた。
「…それじゃあ、行きましょうか? ………眠れる森の、魔女さん?」
そうして霊夢は歩き始めた。
風が吹き、桜吹雪が舞う博霊神社。
金色に輝く月の光が、幻想郷を優しく包み込んでいた―――
ここは博麗神社。境内の掃除をしていた霊夢は、縁側に座っている魔女に問いかけた。
「……ああ、霊夢か。いや何、こう天気のいい春の日は、神社に行くに限ると思ってな」
「何よ、それ」
「気にするな」
そう言って、再びぼーっとしだす魔理沙。視線の先には、辺り一面満開の桜があった。
「どうせまた、お花見に来たんでしょう? わざわざウチに来なくてもいいんじゃないの?」
「別にいいだろ、人がどこで花見したって」
「まあ、そうだけど」
そして会話は途切れ、静寂が訪れる。神社の周りはいたって静かで、時折吹く風で桜の花が揺れる音が聞こえる程度だった。
「ぶっ」
突然沈黙を破る、妙な音。それは、魔理沙のものだった。
「ど、どうしたの?」
「…桜の花びらが、口に入った」
「…何で入るのよ」
「口を開けていたからな」
「口を開けてぼーっとしてたの? ちょっとぼけっとしすぎじゃない?」
「そうかもな」
「しっかりしなさいよ」
「………」
そしてまた、途切れる会話。聞こえてくるのは、霊夢の動かす竹箒の音だけだった。
「そういえば」
しばらくして、今度は魔理沙の方から話しかけて来た。
「何?」
霊夢の箒を動かす手が止まる。
「今日は居ないな、あのお嬢様」
「…ええ。別に毎日来る訳じゃないもの」
「それもそうだな」
またしばらくして、霊夢が魔理沙の隣に座ってきた。
「掃除、終わりか? まだ掃き終わってないように見えるけど」
「きりが無いって事に気付いたわ」
霊夢の言うとおり、満開の桜は掃いている側から花びらが落ちてくるのであった。このまま掃除をしていたら、恐らく日付が変わっても終わる事は無かっただろう。
「…眠い」
それからしばらく二人で桜を眺めていたが、急に魔理沙がそんな事を言った。
「『春眠、暁を覚えず』、かしら?」
冗談めいた口調で返した霊夢だったが、
「膝…貸してくれ」
魔理沙はそのまま霊夢の方へと倒れこんだ。
「ちょ……何? ほんとに寝る気?」
「んー…まあなー……」
眠そうな声で、魔理沙が呟いた。
「…もう、しょーがないなあ………」
霊夢も無理に起こそうとはせず、膝を貸す事にした。
春の幻想郷。神社を通り抜ける風は、どこまでも優しかった。
「…夢……霊夢………」
「………………はっ」
魔理沙の声で、霊夢は目が覚めた。どうやらあの後、自分も眠ってしまったらしい。
「…春眠、恐るべしね」
「全くだな…ふあああ………」
同意する魔理沙の声は、まだまだ眠そうだった。
「あれ、もうこんな時間?」
霊夢が空を見上げると、日は既に西に傾きはじめていた。
「…夜桜も、オツなものだな」
すっかり日も暮れ、星が瞬く幻想郷の夜。神社の縁側には、相変わらず魔女が座っていた。
「魔理沙、本当にどうしたの? 今日は随分呆けてるじゃない?」
霊夢は心配そうに、魔理沙の顔を覗き込んだ。
「ああ…大した事じゃないけど…ちょっと、な……」
「ちょっと、何? 何があったの?」
「ちょっと、な…新しい魔法の実験をしてて………」
「それで?」
魔理沙の顔を食い入るように見つめる霊夢。
「何か、失敗したみたいで……それで、その魔法の副作用か何かだと思うけど……3日くらい、眠れてない」
「嘘!? ちょっと、大丈夫なの!?」
「大丈夫だぜ……ただ、今まで眠れてなかったから、その反動だと思うけど………今、凄く眠い」
肉体の疲労を表すかのように、魔理沙の体は少し揺れていた。
「もう…! それを早く言いなさいよ…」
そう言って、霊夢は魔理沙の肩を担いで立たせた。
「こんな所で寝ないで、うちの中で休みなさい。今日は泊まっていっていいから……」
「ああ………恩に…着る……ぜ……」
「ちょっと、魔理沙………あら」
魔理沙は霊夢に寄りかかったまま、寝息を立てていた。
「……もう。しょうがないわねえ……」
霊夢は少し思案した後、手を魔理沙の肩と腰に回し、そのまま抱きかかえた。
「…それじゃあ、行きましょうか? ………眠れる森の、魔女さん?」
そうして霊夢は歩き始めた。
風が吹き、桜吹雪が舞う博霊神社。
金色に輝く月の光が、幻想郷を優しく包み込んでいた―――