「えーと、トカゲのしっぽに猫幽霊の目玉、最後に処女の生き血を大さじ一杯と」
日の差さない密室で、魔法明かりを頼りに古文書とにらめっこをしながら調合作業に励む魔女の姿があった。
すべての材料が魔力を媒介に混ざり合い、いい感じにとろみが出てきた鍋の中身を見て、パチュリーはほくそ笑んだ。
「よし、これで完成。……さて、とりあえず作ったはいいけど、どうしようかしらこれ」
彼女が作ったのは、いわゆる一つの惚れ薬であった。
しかし特に使う当てがあるわけではない。単に数百年ものの書斎から久しぶりに魔道書の類を発掘したので、魔女としてその内容を実践せずにはいられなかっただけであった。
(そうね、いろいろ面白いことに使えそうだから、レミィにあげるのは……いえ惚れ薬はダメね)
紅白の顔を思い出しパチェリーは頭を振る。その人間のことは嫌いではない、けれど自分よりお嬢様と仲良くなるのは許し難いことであった。
(となると……魔理沙にあげるのは少ししゃくにさわるし……たまには私がいたずらに使ってみようかしら)
ふと浮かんだ考えに、魔女はその見かけ相応の子供っぽい笑みを浮かべた。
パチュリーは玄関から外に出ると、美鈴の姿を探した。
「えーと……あ、いたいた。おーい、メイリーン!」
「……おや、これはパチュリー様。いったい何の用ですか?」
警備中パチュリーに声をかけられるという珍しい出来事に、美鈴は不思議そうな顔をする。
「うん。ちょっと魔法薬の実験を手伝ってほしいの」
パチュリーが取り出した濃い紫色に染まったフラスコを見て、美鈴は五十歩近く後ずさる。
「え、えーとそれはつまり、その」
「ああ、別に美鈴が直接毒味しなくてもいいから。他の誰かに飲ませて、その結果を私に報告してくれるだけでいいわ」
それを聞いて美鈴はほっとしたが、すぐに渋い顔になる。
「誰かって、いったい誰に」
「じゃ、任せたからねー」
問答無用で美鈴に薬を持たせると、パチュリーは館の中に駆け戻った。
憂鬱そうに紅魔館の中を散策する美鈴。パチュリーはこっそり彼女の後をつけた。
例の薬は、飲んだ後最初に見た人間に対し惚れるという至極わかりやすい使い方のものであった。後で報告してくれればいいというのは方便で、その実は自分の目で結果を確認するつもりであった。
(いったいどうなることかしら)
様々な結果を想像してパチュリーが口元をほころばせていると、タイミングよく咲夜が通りかかった。
「あ、咲夜さん。あのですね」
「美鈴、こんなところでさぼっていちゃダメじゃない。お嬢様に言いつけるわよ」
「あ、あの……すみません」
「……まあいいわ。じゃ、私は掃除が残ってるから」
とりつく島もなく、メイド長は立ち去ってしまった。
次に魔理沙がやってきた。
「お、中国。門番から廊下掃除に左遷されたか?」
「違います、それと中国って呼ばないでくださいー」
「まあかたいこというなって。それよりパチュリー見なかったか?」
「私は先ほど会いましたけど。図書館に戻っていませんか?」
「うーん、それがいなかったんだよなあ。……ま、いないならいないで適当にやらせてもらうぜ。それじゃあな」
「はい、それでは」
後になって、自分の目的を忘れていたことに美鈴は気がついた。
次に会ったのは霊夢であった。
「珍しいですね、霊夢さんがこちらに来るなんて」
「ええ、たまには気分転換もいいかなと思って」
実は今日の献立を考えるのが面倒になって、ということを霊夢は口に出さなかった。
「そうですか。……え、えーとですね、実は故郷から面白いジュースが届いたんですけど」
美鈴が例の薬を取り出した瞬間、霊夢の姿はその場から消え失せた。
今度は名もないメイドとすれ違った。
「あ、あの」
「美鈴さま、ごきげんよう」
挨拶だけしてメイドは立ち去った。
(人選間違えたかしら)
なかなか進展しない事態に、ここはいったん薬を取り返すべきかとパチュリーが考えたとき。
「……ちょっとトイレ」
美鈴は薬を机の上に置くと、トイレに駆け込んでしまった。
この状況で取り戻すと話がややこしくなるので、パチュリーは美鈴が帰ってくるまで待つ。
ちょうどそこにやってくる小さな人影があった。フランドールである。
「お、ジュース発見」
フランドールは、それがフラスコに入っていることに何の疑問も持たず、例の薬を一気に飲み干してしまう。
「あっ!」
思わず、パチュリーは声をあげてしまった。すぐに、このまま美鈴が戻ってくるまで待てばよかったことに気がついたが、時既に遅し。
「……そこにいるの、パチュリー?」
フランドールに気づかれたが、隠れている場所が場所だけに姿を見せずに逃げることもできない。なす術もなくパチュリーは見つけられてしまった。
「……あ、あはは。おはようございます、妹様」
観念して、こわばった表情になったパチュリーが声をかけた途端。
フランドールは脱兎のごとく逃げ出した。
(あら?)
気がつけば、妹君の姿はもうどこにも見えなかった。
「変ね、調合間違えたかしら。それとも解読のほうかな?」
レミリアはパチュリーを探していた。咲夜がおいしいクッキーと紅茶を作ってくれたので、みんなで食べようと思ったのだ。
そこへ、フランドールがものすごい勢いで走ってくる。
「どうしたのフラン? そんなに慌てて」
声をかけるとフランドールはすぐに立ち止まった。珍しく呼吸が荒く、顔色も妙に赤い。
「……お姉様。ううん、別になんでもないわ」
フランドールは平静を装って答えるが、レミリアはすぐに妹の様子が変なことに気がついた。
しかし妹が変なのはいつも通りのことなので、姉は特に気にとめず、自分のほうの話を切り出す。
「まあいいわ。ところでパチュリーを見なかったかしら?」
「……えっ!?」
フランドールが素っ頓狂な声をあげる。
妹がそんな声をあげるのを姉ははじめて聞いたが、やはり特に気にしなかった。
「知ってるの、フラン?」
「……う、うん。さっき、あっちで会った」
フランドールはぎこちない手で、自分が今来た方角を指さす。
「そう。ありがとう」
フランドールと別れて、レミリアはすたすたと歩く。
やがて、向こうの方から歩いてくるパチュリーを見つけた。
「見つけたわよ、パチェ」
「あ、レミィ。フランドール様見かけなかったかな……って」
「どうしたの?」
パチュリーはレミリアのすぐ後ろを指さした。そこにいたのは、姉の姿に隠れてこちらの様子をうかがっているフランドール。
「あら、いつの間に」
「……気がついてなかったの?」
「ええ、今の今まで」
レミリアはフランドールから離れようとするが、フランドールはレミリアの服の裾をしっかと掴んで離れようとしなかった。動き方からして、どうやらパチュリーから隠れようとしているらしい。
さすがに、レミリアも妹の異常の異常に気がついた。
「どうしたのかしら? パチェ、あなたフランに何かした?」
その質問に、パチュリーは返答に困る。確かにあの惚れ薬は自分が作ったが、そのことはレミリアもフランドールも知らないことであった。
「う、ううんと、ちょっと私にもよくわからないわ。ただ、さっき声をかけたらいきなり逃げ出しちゃって。……ねえ妹様、私何かしたかな?」
なんとか笑顔を浮かべて、パチュリーはフランドールに近づく。
すると、フランドールは顔を真っ赤にしてレミリアの後ろにぱっと隠れてしまった。
(……もしかして……)
パチュリーはある可能性に思い当たるが、にわかにはそれを信じられなかった。
確かめるため、パチュリーは直球の質問を投げかける。
「ねえフラン。私のこと、好き?」
そう言った瞬間。
いきなりフランドールが泣き出してしまった。顔は真紅を通り越して今にも火を噴きそうなほどの色に。
そしてそのままレミリアのスカートの下に潜り込んでしまう。
(間違いない)
パチュリーは確信に至る。それと同時に、まったく予想外の事態に心底困ってしまった。
惚れ薬は確かに効いていた。
問題は、フランドールが異常に恥ずかしがってしまっていることであった。そんな彼女を見るのは、パチュリーも、レミリアも生まれてはじめてのことである。
(あの薬、人格も変えてしまう効果があったのかしら。あとで魔道書をもう一度読み返しておかないと)
とりあえずこの場は逃げてしまおうか、などとパチュリーが考えていると。
レミリアはフランドールを自分のスカートから出して、優しくその頭を撫でた。
「ほら、泣かないでフラン」
「うう……ひっく……おねえさまあ……」
フランドールはレミリアに抱きつくと、そのままわあわあと泣く。
パチュリーは、二人が、これほど姉と妹らしく振る舞っているのを見たことがなかった。逃げることも忘れて、呆然と見守る。
やがて。
パチュリーは、レミリアがうっとりとした表情を浮かべていることに気がついた。
「かわいい、すごくかわいいわ、フラン」
優しく頭を撫でる姿は確かに姉のものであるが、なにかそれ以上のものが見えてしまい、思わずパチュリーはたじろいでしまう。
「あ、あの、レミィ?」
「……ああ、パチェ。ほらフラン、パチェにちゃんとご挨拶なさい」
レミリアに言われ、フランドールはパチュリーと向き合おうとするが、またすぐに姉の後ろに隠れてしまいそうになる。
レミリアはそんな妹を止めると、しっかりとその手を掴んだ。
「ほら、姉さんがついててあげるから、勇気を出して」
その言葉に涙が止まり、今度こそフランドールはパチュリーと向き合う。
「……あ、あの、パチュリー」
「うん」
「……」
かろうじて聞こえるか細い声で、フランドールは「はい」と言った。
「……はい?」
「ふふふ。パチェ、フランはさっきのあなたの質問に答えたのよ」
楽しそうに解説するレミリア。フランドールは真っ赤な顔のままうつむいてしまう。
「あ、そ、そうなんだ」
それは、一応予想の範疇のことであったが、改めて言われると思わずパチュリーも顔を赤くしてしまう。これは惚れ薬が言わせていることなのに。
「……お姉様と、呼んでもいいのよ」
レミリアの話はいきなり飛んだ。
「いや、だから、あのねレミィ」
パチュリーは事の次第を説明しようとするが、レミリアは聞く耳を持たない。
「さて、告白が終わったら今度はデートね」
「……えっ!?」
「で、で、で、デートぉ!?」
パチュリーとフランドールは一緒になって仰天する。
「あら。恋人同士になったら、次にするのはデートでしょう?」
話は思いっきり飛んでいた。レミリアの頭の中で。
「いや、だからレミィ。実は」
「パチェ。私が姉だからって、遠慮することないのよ」
「だから、違う~」
「あ、あの、お姉様」
「大丈夫よ、フラン。今のあなたはとっても魅力的だから」
今まで聞いたことのない実の姉の言葉に、フランドールはきょとんとする。
「……ほんとう?」
「ええ。ほんと、見違えるくらい……」
レミリアは恍惚とした表情で、フランドールの髪の毛をくしゃくしゃにかき混ぜる。
「……えへへ」
姉の褒め言葉に、フランドールは、心の底からの笑顔を見せた。
(うう、なんだか言い出せなくなってきた~)
先に着替えを済ませて、パチュリーは玄関前で待っていた。
服を選ぶのにはほとんど困らなかった。なにせ滅多に外出しない性分から、よそ行きの服を非常に限定された数しか持っていなかったためだ。それらも自分で手に入れたものではなく、何かの機会にレミリアから贈られた物であった。
フランドールを待っている間、パチュリーはつい憂鬱になりため息をついてしまう。
もとはといえば自分のせいなのだが、まさかこの服を着て、レミリアではない別の誰かとデートすることになるとは思ってもみなかった。しかもそのレミリアが音頭を取って、というのがどうにも理不尽であった。
(確かにさっきのもじもじしたフランはちょっとかわいかったけれど、でも私は)
どうにも心が煮え切らないでいるところに、玄関のドアが開いた。
「さあ、フランドール様のご用意ができましたよ」
明らかに状況を楽しんでいる咲夜に連れられて、姫君が現れる。
パチュリーは、それが誰なのか一瞬わからなかった。
くせのある髪の毛は綺麗にセットされ、普段の快活な服装に替わり、丈が長めの女性らしさを意識した美しい服に身を包んでいる。
それはレミリアのお古であった。フランドールもまたよそ行きの服を持っていなかったためだ(こちらは長期の監禁生活が理由であったが)。
ただ、数百年も生きているだけにレミリアの小さかった頃の服がまっとうに残っているわけもなく、それはいささか大きめのサイズであった。それでもどうにかまともに着られているのは、咲夜がうまく仕立て直してくれたおかげか。
「よくお似合いですよ。フランドール様も、パチュリー様も」
「……ふん、あ、ありがとう」
パチュリー以外に対しては、フランドールの態度は割といつも通りであった。ただし何らかの形でパチュリーを意識すると、はにかんでおとなしくなった。
「……じゃ、いってくるから」
「はい、いってらっしゃいませ。日差しにはお気をつけください」
咲夜が日傘を差しだしたので、パチュリーが受け取った。身長差からして自分がさした方がよいだろうという判断からであった。
「さ、いくわよ妹様」
パチュリーが声をかけるが、フランドールは動かなかった。
「妹様?」
「ダメですよパチュリー様、ちゃんと名前で呼んであげないと」
真面目な顔の咲夜に諭され、仕方なしにパチュリーは名前で呼ぶ。
「……さ、いこう、フラン」
パチュリーが手を差し出す。
フランドールは逡巡したのち、赤い顔を背けながら、そっとパチュリーの白い手を握った。
デートとはいえ、基本的に家に閉じこもっている二人に気の利いた行き先はなかなか思いつかなかった。さらに条件として付け加えれば二人とも日光に弱く、フランドールは流水にも弱い。
少し迷ったのち、パチュリーは近場の森を目的地に選ぶ。そこなら日光の量も限定されるし、二人が興味を惹かれるものも少なからずあった。
幻想郷の森は、夜は妖怪たちが支配する恐ろしい場所だが、昼は動物と妖精たちの楽園である。普段の二人ならむしろ夜の方がお似合いなところであるが。
到着するなり、フランドールは早々に見つけたリスの親子と追いかけっこを始めてしまう。次に風の妖精と出くわせば、今度はそれが伴う大気の流れに応じて駆けていく。
こうして何か興味を惹かれるものと行きあうごとにそちらに目移りしては、予測のつかない動きで駆け巡った。ただ、不思議なことにいじめたり殺したりすることは決してなく、単に追いかけてはじっと見つめるばかりであった。
「フラン、待って~」
日傘を片手に、パチュリーはぱたぱたと走る。今日は肉体労働の日にもなりそうだった。
(……なんで私、こんなことしてるんだろう)
ふと現状への疑問にかられる。これは、妙ないたずらを考えたことへの罰なのだろうか。
そんなことを考えていると、パチュリーは歩みを遅くした。フランの足が止まったためだ。近場に獣や妖精の気配はなく、黙って地面に目を注いでいるが、今度は何か虫でも見つけたのだろうか。
「……はあ、はあ。どうしたの、フラン?」
パチュリーの呼びかけにフランは振り向くが、また地面に視線を落とす。
横から覗き込むと、そこに咲いていたのは一輪の小さな花であった。
「お花に興味があったの?」
パチュリーの問いかけに、フランはうんとうなずき、再び好奇の眼差しをそれに向けた。
その真剣な表情に、これは自分にあわせて花に興味を持っているふりをしているわけではないと悟る。
「……こうして花が咲いてるの、はじめて見たわ」
(えっ……?)
フランドールの言葉に、パチュリーははっとする。
しかし、少し考えて、それは当然であることにパチュリーは気がつく。生まれてから数百年以上幽閉され続けてきたのだから当たり前の話であった。紅魔館の中に花は咲かない。花瓶に活けられた花や、庭園に設けられた花壇はあっても、野に咲く花はどこにもなかった。
パチュリーもこうして誰の思惑も受けずありのままに咲く花を見るのはずいぶん久しぶりのことであったが、それは彼女が自分の意志で室内での作業に専念しているからだ。力を制御できないという理由で閉じこめられているフランドールとは違った。
(そういえば、今日は一度も暴れることがないわね)
好きな相手がそばにいることが、無意識に力を発揮しないようにさせているのだろうか。その意味ではあの惚れ薬が力の制御を可能にしたともいえるのではないか。
今そこにいるのは悪魔の妹と畏れられた破壊の化身ではなく、世の中に知らないことがまだまだたくさんある、ただの幼い少女であった。
パチュリーは覚悟を決めた。
フランドールの顔をこちらに引き寄せると、自分ができるとびきりの笑顔を浮かべてみせる。
「よし、今日はとことんつきあってあげるから。外の空気を目一杯楽しもう、ね?」
普段の内向的なパチュリーからは想像もつかない言葉に、フランドールは目をぱちくりさせ、そして、頬を染めながら笑い返した。
(……ちょ、ちょっと軽率だったかしら……)
体力の限界まで振り回され、パチュリーは倒れる寸前のところでどうにか耐えていた。
同じ屋内型の生活をしているのに、どうしてフランドールは体力が有り余っているのか、精の尽きてきたパチュリーの頭には不思議に思えてしょうがなかった。
「ぜえ、ぜえ……ごめん、ちょっと休憩入れさせて~」
もう何度目になるか忘れた休憩タイムを請うて、パチュリーは返事を待たないうちにどっかりと尻餅をついた。ちょうど大きな大木があったので、それの年季の入った大きな根っこに腰かける。
紫色の蝶のつがいを追いかけていたフランドールもすぐにやってきた。
「……ごめんね、パチュリー」
気まずそうに謝るフランドール。
「はあ、はあ……ううん、別に謝ってもらわなくてもいいんだけど……ぜえ、はあ」
謝る前に行動ペースを落としてくれ、とはパチュリーは言い出せなかった。
今日のフランドールは、良い意味で本当に無邪気であった。その上力を発揮して暴れることもないため、その姿はちょっぴり日光が苦手なただの元気な子供であった。
「そろそろ、お昼にしようか?」
フランドールの提案に、パチュリーは一も二もなく頷く。
今日はお腹がぺこぺこだった。運動をしたせいで、体がいつも以上にエネルギーの補給を欲している。
「お弁当は……咲夜が作ってくれたんだっけ」
フランドールが取り出した包みを見ながら、パチュリーは何気なくつぶやく。
すると、フランドールが顔を赤くしてそっぽを向いた。
「? なに?」
疑問は、弁当の包みを解いたときに氷解した。
そこにあったのは、やたらにでかくて形がいびつなおむすびが二つ、であった。誰がこれを作ったのかは考えるまでもなかった。
(そっか。出発の準備に時間がかかったのは、これを作っていたせいもあったのね)
見てくれこそ悪かったが、今のパチュリーはとにかくお腹がすいていた。もう食べられるものならなんでもいいやと、おむすびの一つを両手で持つと、一息でかぶりついた。
「……」
甘かった。
(塩と砂糖を間違えてるー!?)
いくら空腹とはいえ、この甘ったるい味はさすがにきつかった。パチュリーは、目の前のフランドールではなく、ちゃんとチェックをしなかった咲夜を恨む。
「……おいしい?」
期待と不安の入り交じったいじらしい顔で、フランドールが尋ねてくる。
こんな表情で尋ねられては、いやでも答えは決まってしまった。
「う、うん、おいしいわよ。すごく」
半ばやけになって、パチュリーはがつがつとおむすびにかぶりついた。普段こんな食べ方ことをしたらレミリアか咲夜あたりに行儀の悪さをからかわれることだろう。
フランドールはその言葉に安心し、笑った。そして自分のぶんのおむすびにかぶりつき。
表情が歪んだ。
「……」
泣きそうな顔でパチュリーを見る。
「え、えーと……そう、疲れたときは特に糖分が重要だから、これはいいおむすびよ」
なんだか妙なセリフになってしまったが、パチュリーはそのままおむすびを食べ尽くすとお茶で胃まで押し流した。
そしてフランドールを見る。
結局、フランドールは泣いていた。声こそあげなかったが涙が頬を止めどなく伝い落ちる。
返事に困った挙げ句、パチュリーはフランドールをそっと抱き寄せた。
「ほら、もう泣かないで。今度、いっしょにとびっきりおいしいおむすび作ろう、そしてレミィや咲夜を驚かせてあげましょうよ、ね?」
それでもフランドールは泣きやまず、結局一時間ほど二人はそのまま抱き合った。
夕日が沈む頃、パチュリーはようやく紅魔館へと帰ってきた。
「……た、ただいま~」
背負ったフランドールに押しつぶされそうになりながらも、パチュリーは最後の気力を振り絞ってドアを開いた。
泣くだけ泣いて気が済んだのか、あのあとフランドールは前以上に森を駆けずり回り、その結果途中で疲れて眠ってしまったのだ。
「お帰りなさいませ、パチュリー様、フランドール様。……あらあら」
出迎えた咲夜は、眠ったフランドールを背負うパチュリーという奇妙な構図に思わず笑みをこぼす。
「笑わないでよ。こっちは慣れないことばかりで大変だったんだから」
「ふふ、そのようですね」
咲夜はパチュリーからフランドールを受け取ると、起こさないようにそっとおぶった。
「それでは妹様はお部屋に運んでおきますね。パチュリー様はどうしますか?」
「今日は本気で疲れたから、湯浴みしたらすぐに寝るわ」
「ではそのように。お風呂は三秒で沸かしますので、少々お待ちください」
そしてパチュリーは、久しぶりに出た一日の垢を綺麗さっぱり洗い落とすと、ふらつく足取りで自分の部屋に戻る。
(もう寝よう、今日は本気で寝よう)
パチュリーは自分のベッドに倒れ込む。
ぽふ。
布団ではない、別のものに体が当たった。
(……え?)
見れば、その毛布を引っぱがして幸せそうに眠っている先客は、間違いなくフランドールであった。
「……咲夜~」
本当は心の底から叫びたかったが、体の疲れとフランドールを起こさないようにという配慮から、普通よりちょっと小さめの声でパチュリーは親友の従者を呼ぶ。
一秒で咲夜は現れた。
「何でしょうか、パチュリー様?」
「なんでフランがここで寝てるのよ~」
「お嬢様のご命令です。布団は一つ、枕は二つと」
ぼふ。
パチュリーは、思いっきり頭を枕に打ちつけた。さいわい怪我はないというか、しようがないが。
「……なんでそうなるかしら」
「デートの次は、もちろんアレかと存じ上げますが」
「だから、話が飛びすぎ。……ふぁぁ……」
ついついあくびが出てくる。あまりの眠気に、枕もフランも惚れ薬もどうでもよくなってきていた。
「……もういい、このまま寝るわ。おやすみ、咲夜」
パチュリーは布団に潜り込むと、三秒で寝入った。
「おやすみなさいませ、パチュリー様、フランドール様」
咲夜はぐっすりと眠る二人を見て微笑むと、毛布を整え直してから、起こさないようにそっと扉を閉めた。
翌朝。
少し涼しい風を感じ、パチュリーは目が覚めた。
体中のあちこちが筋肉痛だった。ぐっすり眠れたのはよいが、目覚めはいささか心地が悪い。
とにかくまずは着替えようとして、パチュリーは自分の部屋の様子に気がついた。
なんだかずいぶんと荒れていた。箪笥や棚などといった調度品のあちこちにひびが入ってしまっている。ただ、完全に壊れてしまったものはなく、大切にしている魔術道具や本棚およびその中身の類は無傷であった。
(まさか)
ベッドを見れば、夕べ隣で眠っていたはずのフランドールの姿は、既になかった。
パチュリーが蝶番の一部壊れたドアを開けると、すぐそばに美鈴が倒れているのを発見する。
部屋の外は、まさに混沌としていた。嵐の過ぎ去った後よりひどく、物という物が原形をとどめないほどに壊されまくっている。
美鈴をとりあえず往復ビンタで起こすと、パチュリーは何事があったのか問いただした。
「――それが、フランドール様が起きてこられたと思ったら、いきなり暴れ出してしまって。いや、私も止めようとはしたんですけど、うっかり初撃の弾幕の直撃を食らってしまい――」
申し訳なさそうにする美鈴。
「それで、フランは?」
「咲夜さんが追撃にいかれました。霊夢さんと魔理沙さんも後から応援に向かったようなので、もう勝負はついていると思いますが」
「そう、ありがと」
傷だらけの美鈴は放っておいて、パチュリーは破壊の痕が続く先に向かおうとする。
「あ、それと」
「なに?」
「あの……すみません、昨日の薬の件なんですが。実はちょっと目を離した隙に――」
「ああ、別に気にしないで。あれはもういいの」
惚れ薬の話が出て、パチュリーはあの魔道書に書かれていた記述の一節を思い出した。
確か、薬の効果は一晩で切れると。
(……昨日のフランは、もういないか)
荒れ果てた館の姿がそれを証明している。
パチュリーの胸がちくりと痛んだ。
高速で館の中を翔ると、パチュリーは壊れた部屋の後かたづけをしている咲夜を見つけた。
ということは、既に一段落ついてしまったのだろう。
やりきれない思いにさいなまれながらも、パチュリーは咲夜に話しかける。
「咲夜、フランは」
「おはようございます、パチュリー様。フランドール様は、ご自分の部屋にお戻りになられました」
「……そう」
戻ったというが、戻されたというのが正確なところだろう。これだけ大暴れしては、罰として当分の間再び監禁されるはずだ。
昨日は何一つ騒ぎを起こさなかったというのに。あるいは、実は無意識下で破壊衝動がたまっていて、薬の効き目が切れた途端に堰を切って溢れ出たのかもしれない。もしそうなら、それはフランドールではなくパチュリーの責任であった。
「あの――」
「朝食のご用意は既にできていますが、いかがいたしましょうか? 昨日は夕食をお食べになっていませんから、お腹がすいているのでは」
それは確かだった。タイミングよく、お腹がぐうと鳴る。
パチュリーは罪悪感に包まれる。こんなときに、自分の体はのんきに生理現象を引き起こしていた。
「……そうね、いただくわ」
ともかく腹ごしらえを先に済ませるかと、パチュリーは思った。
食堂の椅子につき、これからどうするかをぼんやりと考えていると、やがて朝食が運ばれてきた。
パチュリーは皿の上に載せられたものを見て、目を丸くする。
「これ……」
「妹様お手製おむすびですよ。本日は間違いなく塩を使用しています」
昨日とはまたずいぶん形が違ったが、そこにあったのは紛れもなくあのおむすびであった。
パチュリーは、おそるおそる一口かじる。
しょっぱかった。今度はちゃんと塩だ。ただし少々しょっぱすぎたが。
パチュリーはぱくつくと一気におむすびを平らげる。無作法で頬にご飯粒がついたが、全然気にしなかった。咲夜も何もとがめない。
「今日のお昼もおむすびですから、パチュリー様も準備しておいてくださいね。お嬢様も、霊夢も魔理沙も、みんなで一緒に作りますから」
「フランも……?」
「もちろんです。主催が片手落ちでは仕方がないじゃないですか」
咲夜はにこにこしながら、朝食の後かたづけをする。そのかたわら、ナプキンでパチュリーの頬についたご飯粒を一つ一つ取っていった。
「午前と午後の空いている時間は、館の掃除を手伝ってくださいね。私一人でも十分なのですが、お嬢様のご意向でこれまたみんなでやることに決まりましたので」
「ねえ、フランは? 謹慎処分じゃないの?」
「いいえ。反省しているということで、罰は壊したものの後かたづけだけということになりました。以前は暴れても全然反省してくれませんでしたから」
「なら、部屋に戻ったっていうのは」
「ふふふ……。単に、すぐには顔をあわせづらいだけのようですよ」
パチュリーが食堂を飛び出していくのを、咲夜は笑いながら見守った。
紅魔館は、今日も何事もなく過ぎていく。
ただ、時間の流れが、少しだけ優しくなったように感じられた。
日の差さない密室で、魔法明かりを頼りに古文書とにらめっこをしながら調合作業に励む魔女の姿があった。
すべての材料が魔力を媒介に混ざり合い、いい感じにとろみが出てきた鍋の中身を見て、パチュリーはほくそ笑んだ。
「よし、これで完成。……さて、とりあえず作ったはいいけど、どうしようかしらこれ」
彼女が作ったのは、いわゆる一つの惚れ薬であった。
しかし特に使う当てがあるわけではない。単に数百年ものの書斎から久しぶりに魔道書の類を発掘したので、魔女としてその内容を実践せずにはいられなかっただけであった。
(そうね、いろいろ面白いことに使えそうだから、レミィにあげるのは……いえ惚れ薬はダメね)
紅白の顔を思い出しパチェリーは頭を振る。その人間のことは嫌いではない、けれど自分よりお嬢様と仲良くなるのは許し難いことであった。
(となると……魔理沙にあげるのは少ししゃくにさわるし……たまには私がいたずらに使ってみようかしら)
ふと浮かんだ考えに、魔女はその見かけ相応の子供っぽい笑みを浮かべた。
パチュリーは玄関から外に出ると、美鈴の姿を探した。
「えーと……あ、いたいた。おーい、メイリーン!」
「……おや、これはパチュリー様。いったい何の用ですか?」
警備中パチュリーに声をかけられるという珍しい出来事に、美鈴は不思議そうな顔をする。
「うん。ちょっと魔法薬の実験を手伝ってほしいの」
パチュリーが取り出した濃い紫色に染まったフラスコを見て、美鈴は五十歩近く後ずさる。
「え、えーとそれはつまり、その」
「ああ、別に美鈴が直接毒味しなくてもいいから。他の誰かに飲ませて、その結果を私に報告してくれるだけでいいわ」
それを聞いて美鈴はほっとしたが、すぐに渋い顔になる。
「誰かって、いったい誰に」
「じゃ、任せたからねー」
問答無用で美鈴に薬を持たせると、パチュリーは館の中に駆け戻った。
憂鬱そうに紅魔館の中を散策する美鈴。パチュリーはこっそり彼女の後をつけた。
例の薬は、飲んだ後最初に見た人間に対し惚れるという至極わかりやすい使い方のものであった。後で報告してくれればいいというのは方便で、その実は自分の目で結果を確認するつもりであった。
(いったいどうなることかしら)
様々な結果を想像してパチュリーが口元をほころばせていると、タイミングよく咲夜が通りかかった。
「あ、咲夜さん。あのですね」
「美鈴、こんなところでさぼっていちゃダメじゃない。お嬢様に言いつけるわよ」
「あ、あの……すみません」
「……まあいいわ。じゃ、私は掃除が残ってるから」
とりつく島もなく、メイド長は立ち去ってしまった。
次に魔理沙がやってきた。
「お、中国。門番から廊下掃除に左遷されたか?」
「違います、それと中国って呼ばないでくださいー」
「まあかたいこというなって。それよりパチュリー見なかったか?」
「私は先ほど会いましたけど。図書館に戻っていませんか?」
「うーん、それがいなかったんだよなあ。……ま、いないならいないで適当にやらせてもらうぜ。それじゃあな」
「はい、それでは」
後になって、自分の目的を忘れていたことに美鈴は気がついた。
次に会ったのは霊夢であった。
「珍しいですね、霊夢さんがこちらに来るなんて」
「ええ、たまには気分転換もいいかなと思って」
実は今日の献立を考えるのが面倒になって、ということを霊夢は口に出さなかった。
「そうですか。……え、えーとですね、実は故郷から面白いジュースが届いたんですけど」
美鈴が例の薬を取り出した瞬間、霊夢の姿はその場から消え失せた。
今度は名もないメイドとすれ違った。
「あ、あの」
「美鈴さま、ごきげんよう」
挨拶だけしてメイドは立ち去った。
(人選間違えたかしら)
なかなか進展しない事態に、ここはいったん薬を取り返すべきかとパチュリーが考えたとき。
「……ちょっとトイレ」
美鈴は薬を机の上に置くと、トイレに駆け込んでしまった。
この状況で取り戻すと話がややこしくなるので、パチュリーは美鈴が帰ってくるまで待つ。
ちょうどそこにやってくる小さな人影があった。フランドールである。
「お、ジュース発見」
フランドールは、それがフラスコに入っていることに何の疑問も持たず、例の薬を一気に飲み干してしまう。
「あっ!」
思わず、パチュリーは声をあげてしまった。すぐに、このまま美鈴が戻ってくるまで待てばよかったことに気がついたが、時既に遅し。
「……そこにいるの、パチュリー?」
フランドールに気づかれたが、隠れている場所が場所だけに姿を見せずに逃げることもできない。なす術もなくパチュリーは見つけられてしまった。
「……あ、あはは。おはようございます、妹様」
観念して、こわばった表情になったパチュリーが声をかけた途端。
フランドールは脱兎のごとく逃げ出した。
(あら?)
気がつけば、妹君の姿はもうどこにも見えなかった。
「変ね、調合間違えたかしら。それとも解読のほうかな?」
レミリアはパチュリーを探していた。咲夜がおいしいクッキーと紅茶を作ってくれたので、みんなで食べようと思ったのだ。
そこへ、フランドールがものすごい勢いで走ってくる。
「どうしたのフラン? そんなに慌てて」
声をかけるとフランドールはすぐに立ち止まった。珍しく呼吸が荒く、顔色も妙に赤い。
「……お姉様。ううん、別になんでもないわ」
フランドールは平静を装って答えるが、レミリアはすぐに妹の様子が変なことに気がついた。
しかし妹が変なのはいつも通りのことなので、姉は特に気にとめず、自分のほうの話を切り出す。
「まあいいわ。ところでパチュリーを見なかったかしら?」
「……えっ!?」
フランドールが素っ頓狂な声をあげる。
妹がそんな声をあげるのを姉ははじめて聞いたが、やはり特に気にしなかった。
「知ってるの、フラン?」
「……う、うん。さっき、あっちで会った」
フランドールはぎこちない手で、自分が今来た方角を指さす。
「そう。ありがとう」
フランドールと別れて、レミリアはすたすたと歩く。
やがて、向こうの方から歩いてくるパチュリーを見つけた。
「見つけたわよ、パチェ」
「あ、レミィ。フランドール様見かけなかったかな……って」
「どうしたの?」
パチュリーはレミリアのすぐ後ろを指さした。そこにいたのは、姉の姿に隠れてこちらの様子をうかがっているフランドール。
「あら、いつの間に」
「……気がついてなかったの?」
「ええ、今の今まで」
レミリアはフランドールから離れようとするが、フランドールはレミリアの服の裾をしっかと掴んで離れようとしなかった。動き方からして、どうやらパチュリーから隠れようとしているらしい。
さすがに、レミリアも妹の異常の異常に気がついた。
「どうしたのかしら? パチェ、あなたフランに何かした?」
その質問に、パチュリーは返答に困る。確かにあの惚れ薬は自分が作ったが、そのことはレミリアもフランドールも知らないことであった。
「う、ううんと、ちょっと私にもよくわからないわ。ただ、さっき声をかけたらいきなり逃げ出しちゃって。……ねえ妹様、私何かしたかな?」
なんとか笑顔を浮かべて、パチュリーはフランドールに近づく。
すると、フランドールは顔を真っ赤にしてレミリアの後ろにぱっと隠れてしまった。
(……もしかして……)
パチュリーはある可能性に思い当たるが、にわかにはそれを信じられなかった。
確かめるため、パチュリーは直球の質問を投げかける。
「ねえフラン。私のこと、好き?」
そう言った瞬間。
いきなりフランドールが泣き出してしまった。顔は真紅を通り越して今にも火を噴きそうなほどの色に。
そしてそのままレミリアのスカートの下に潜り込んでしまう。
(間違いない)
パチュリーは確信に至る。それと同時に、まったく予想外の事態に心底困ってしまった。
惚れ薬は確かに効いていた。
問題は、フランドールが異常に恥ずかしがってしまっていることであった。そんな彼女を見るのは、パチュリーも、レミリアも生まれてはじめてのことである。
(あの薬、人格も変えてしまう効果があったのかしら。あとで魔道書をもう一度読み返しておかないと)
とりあえずこの場は逃げてしまおうか、などとパチュリーが考えていると。
レミリアはフランドールを自分のスカートから出して、優しくその頭を撫でた。
「ほら、泣かないでフラン」
「うう……ひっく……おねえさまあ……」
フランドールはレミリアに抱きつくと、そのままわあわあと泣く。
パチュリーは、二人が、これほど姉と妹らしく振る舞っているのを見たことがなかった。逃げることも忘れて、呆然と見守る。
やがて。
パチュリーは、レミリアがうっとりとした表情を浮かべていることに気がついた。
「かわいい、すごくかわいいわ、フラン」
優しく頭を撫でる姿は確かに姉のものであるが、なにかそれ以上のものが見えてしまい、思わずパチュリーはたじろいでしまう。
「あ、あの、レミィ?」
「……ああ、パチェ。ほらフラン、パチェにちゃんとご挨拶なさい」
レミリアに言われ、フランドールはパチュリーと向き合おうとするが、またすぐに姉の後ろに隠れてしまいそうになる。
レミリアはそんな妹を止めると、しっかりとその手を掴んだ。
「ほら、姉さんがついててあげるから、勇気を出して」
その言葉に涙が止まり、今度こそフランドールはパチュリーと向き合う。
「……あ、あの、パチュリー」
「うん」
「……」
かろうじて聞こえるか細い声で、フランドールは「はい」と言った。
「……はい?」
「ふふふ。パチェ、フランはさっきのあなたの質問に答えたのよ」
楽しそうに解説するレミリア。フランドールは真っ赤な顔のままうつむいてしまう。
「あ、そ、そうなんだ」
それは、一応予想の範疇のことであったが、改めて言われると思わずパチュリーも顔を赤くしてしまう。これは惚れ薬が言わせていることなのに。
「……お姉様と、呼んでもいいのよ」
レミリアの話はいきなり飛んだ。
「いや、だから、あのねレミィ」
パチュリーは事の次第を説明しようとするが、レミリアは聞く耳を持たない。
「さて、告白が終わったら今度はデートね」
「……えっ!?」
「で、で、で、デートぉ!?」
パチュリーとフランドールは一緒になって仰天する。
「あら。恋人同士になったら、次にするのはデートでしょう?」
話は思いっきり飛んでいた。レミリアの頭の中で。
「いや、だからレミィ。実は」
「パチェ。私が姉だからって、遠慮することないのよ」
「だから、違う~」
「あ、あの、お姉様」
「大丈夫よ、フラン。今のあなたはとっても魅力的だから」
今まで聞いたことのない実の姉の言葉に、フランドールはきょとんとする。
「……ほんとう?」
「ええ。ほんと、見違えるくらい……」
レミリアは恍惚とした表情で、フランドールの髪の毛をくしゃくしゃにかき混ぜる。
「……えへへ」
姉の褒め言葉に、フランドールは、心の底からの笑顔を見せた。
(うう、なんだか言い出せなくなってきた~)
先に着替えを済ませて、パチュリーは玄関前で待っていた。
服を選ぶのにはほとんど困らなかった。なにせ滅多に外出しない性分から、よそ行きの服を非常に限定された数しか持っていなかったためだ。それらも自分で手に入れたものではなく、何かの機会にレミリアから贈られた物であった。
フランドールを待っている間、パチュリーはつい憂鬱になりため息をついてしまう。
もとはといえば自分のせいなのだが、まさかこの服を着て、レミリアではない別の誰かとデートすることになるとは思ってもみなかった。しかもそのレミリアが音頭を取って、というのがどうにも理不尽であった。
(確かにさっきのもじもじしたフランはちょっとかわいかったけれど、でも私は)
どうにも心が煮え切らないでいるところに、玄関のドアが開いた。
「さあ、フランドール様のご用意ができましたよ」
明らかに状況を楽しんでいる咲夜に連れられて、姫君が現れる。
パチュリーは、それが誰なのか一瞬わからなかった。
くせのある髪の毛は綺麗にセットされ、普段の快活な服装に替わり、丈が長めの女性らしさを意識した美しい服に身を包んでいる。
それはレミリアのお古であった。フランドールもまたよそ行きの服を持っていなかったためだ(こちらは長期の監禁生活が理由であったが)。
ただ、数百年も生きているだけにレミリアの小さかった頃の服がまっとうに残っているわけもなく、それはいささか大きめのサイズであった。それでもどうにかまともに着られているのは、咲夜がうまく仕立て直してくれたおかげか。
「よくお似合いですよ。フランドール様も、パチュリー様も」
「……ふん、あ、ありがとう」
パチュリー以外に対しては、フランドールの態度は割といつも通りであった。ただし何らかの形でパチュリーを意識すると、はにかんでおとなしくなった。
「……じゃ、いってくるから」
「はい、いってらっしゃいませ。日差しにはお気をつけください」
咲夜が日傘を差しだしたので、パチュリーが受け取った。身長差からして自分がさした方がよいだろうという判断からであった。
「さ、いくわよ妹様」
パチュリーが声をかけるが、フランドールは動かなかった。
「妹様?」
「ダメですよパチュリー様、ちゃんと名前で呼んであげないと」
真面目な顔の咲夜に諭され、仕方なしにパチュリーは名前で呼ぶ。
「……さ、いこう、フラン」
パチュリーが手を差し出す。
フランドールは逡巡したのち、赤い顔を背けながら、そっとパチュリーの白い手を握った。
デートとはいえ、基本的に家に閉じこもっている二人に気の利いた行き先はなかなか思いつかなかった。さらに条件として付け加えれば二人とも日光に弱く、フランドールは流水にも弱い。
少し迷ったのち、パチュリーは近場の森を目的地に選ぶ。そこなら日光の量も限定されるし、二人が興味を惹かれるものも少なからずあった。
幻想郷の森は、夜は妖怪たちが支配する恐ろしい場所だが、昼は動物と妖精たちの楽園である。普段の二人ならむしろ夜の方がお似合いなところであるが。
到着するなり、フランドールは早々に見つけたリスの親子と追いかけっこを始めてしまう。次に風の妖精と出くわせば、今度はそれが伴う大気の流れに応じて駆けていく。
こうして何か興味を惹かれるものと行きあうごとにそちらに目移りしては、予測のつかない動きで駆け巡った。ただ、不思議なことにいじめたり殺したりすることは決してなく、単に追いかけてはじっと見つめるばかりであった。
「フラン、待って~」
日傘を片手に、パチュリーはぱたぱたと走る。今日は肉体労働の日にもなりそうだった。
(……なんで私、こんなことしてるんだろう)
ふと現状への疑問にかられる。これは、妙ないたずらを考えたことへの罰なのだろうか。
そんなことを考えていると、パチュリーは歩みを遅くした。フランの足が止まったためだ。近場に獣や妖精の気配はなく、黙って地面に目を注いでいるが、今度は何か虫でも見つけたのだろうか。
「……はあ、はあ。どうしたの、フラン?」
パチュリーの呼びかけにフランは振り向くが、また地面に視線を落とす。
横から覗き込むと、そこに咲いていたのは一輪の小さな花であった。
「お花に興味があったの?」
パチュリーの問いかけに、フランはうんとうなずき、再び好奇の眼差しをそれに向けた。
その真剣な表情に、これは自分にあわせて花に興味を持っているふりをしているわけではないと悟る。
「……こうして花が咲いてるの、はじめて見たわ」
(えっ……?)
フランドールの言葉に、パチュリーははっとする。
しかし、少し考えて、それは当然であることにパチュリーは気がつく。生まれてから数百年以上幽閉され続けてきたのだから当たり前の話であった。紅魔館の中に花は咲かない。花瓶に活けられた花や、庭園に設けられた花壇はあっても、野に咲く花はどこにもなかった。
パチュリーもこうして誰の思惑も受けずありのままに咲く花を見るのはずいぶん久しぶりのことであったが、それは彼女が自分の意志で室内での作業に専念しているからだ。力を制御できないという理由で閉じこめられているフランドールとは違った。
(そういえば、今日は一度も暴れることがないわね)
好きな相手がそばにいることが、無意識に力を発揮しないようにさせているのだろうか。その意味ではあの惚れ薬が力の制御を可能にしたともいえるのではないか。
今そこにいるのは悪魔の妹と畏れられた破壊の化身ではなく、世の中に知らないことがまだまだたくさんある、ただの幼い少女であった。
パチュリーは覚悟を決めた。
フランドールの顔をこちらに引き寄せると、自分ができるとびきりの笑顔を浮かべてみせる。
「よし、今日はとことんつきあってあげるから。外の空気を目一杯楽しもう、ね?」
普段の内向的なパチュリーからは想像もつかない言葉に、フランドールは目をぱちくりさせ、そして、頬を染めながら笑い返した。
(……ちょ、ちょっと軽率だったかしら……)
体力の限界まで振り回され、パチュリーは倒れる寸前のところでどうにか耐えていた。
同じ屋内型の生活をしているのに、どうしてフランドールは体力が有り余っているのか、精の尽きてきたパチュリーの頭には不思議に思えてしょうがなかった。
「ぜえ、ぜえ……ごめん、ちょっと休憩入れさせて~」
もう何度目になるか忘れた休憩タイムを請うて、パチュリーは返事を待たないうちにどっかりと尻餅をついた。ちょうど大きな大木があったので、それの年季の入った大きな根っこに腰かける。
紫色の蝶のつがいを追いかけていたフランドールもすぐにやってきた。
「……ごめんね、パチュリー」
気まずそうに謝るフランドール。
「はあ、はあ……ううん、別に謝ってもらわなくてもいいんだけど……ぜえ、はあ」
謝る前に行動ペースを落としてくれ、とはパチュリーは言い出せなかった。
今日のフランドールは、良い意味で本当に無邪気であった。その上力を発揮して暴れることもないため、その姿はちょっぴり日光が苦手なただの元気な子供であった。
「そろそろ、お昼にしようか?」
フランドールの提案に、パチュリーは一も二もなく頷く。
今日はお腹がぺこぺこだった。運動をしたせいで、体がいつも以上にエネルギーの補給を欲している。
「お弁当は……咲夜が作ってくれたんだっけ」
フランドールが取り出した包みを見ながら、パチュリーは何気なくつぶやく。
すると、フランドールが顔を赤くしてそっぽを向いた。
「? なに?」
疑問は、弁当の包みを解いたときに氷解した。
そこにあったのは、やたらにでかくて形がいびつなおむすびが二つ、であった。誰がこれを作ったのかは考えるまでもなかった。
(そっか。出発の準備に時間がかかったのは、これを作っていたせいもあったのね)
見てくれこそ悪かったが、今のパチュリーはとにかくお腹がすいていた。もう食べられるものならなんでもいいやと、おむすびの一つを両手で持つと、一息でかぶりついた。
「……」
甘かった。
(塩と砂糖を間違えてるー!?)
いくら空腹とはいえ、この甘ったるい味はさすがにきつかった。パチュリーは、目の前のフランドールではなく、ちゃんとチェックをしなかった咲夜を恨む。
「……おいしい?」
期待と不安の入り交じったいじらしい顔で、フランドールが尋ねてくる。
こんな表情で尋ねられては、いやでも答えは決まってしまった。
「う、うん、おいしいわよ。すごく」
半ばやけになって、パチュリーはがつがつとおむすびにかぶりついた。普段こんな食べ方ことをしたらレミリアか咲夜あたりに行儀の悪さをからかわれることだろう。
フランドールはその言葉に安心し、笑った。そして自分のぶんのおむすびにかぶりつき。
表情が歪んだ。
「……」
泣きそうな顔でパチュリーを見る。
「え、えーと……そう、疲れたときは特に糖分が重要だから、これはいいおむすびよ」
なんだか妙なセリフになってしまったが、パチュリーはそのままおむすびを食べ尽くすとお茶で胃まで押し流した。
そしてフランドールを見る。
結局、フランドールは泣いていた。声こそあげなかったが涙が頬を止めどなく伝い落ちる。
返事に困った挙げ句、パチュリーはフランドールをそっと抱き寄せた。
「ほら、もう泣かないで。今度、いっしょにとびっきりおいしいおむすび作ろう、そしてレミィや咲夜を驚かせてあげましょうよ、ね?」
それでもフランドールは泣きやまず、結局一時間ほど二人はそのまま抱き合った。
夕日が沈む頃、パチュリーはようやく紅魔館へと帰ってきた。
「……た、ただいま~」
背負ったフランドールに押しつぶされそうになりながらも、パチュリーは最後の気力を振り絞ってドアを開いた。
泣くだけ泣いて気が済んだのか、あのあとフランドールは前以上に森を駆けずり回り、その結果途中で疲れて眠ってしまったのだ。
「お帰りなさいませ、パチュリー様、フランドール様。……あらあら」
出迎えた咲夜は、眠ったフランドールを背負うパチュリーという奇妙な構図に思わず笑みをこぼす。
「笑わないでよ。こっちは慣れないことばかりで大変だったんだから」
「ふふ、そのようですね」
咲夜はパチュリーからフランドールを受け取ると、起こさないようにそっとおぶった。
「それでは妹様はお部屋に運んでおきますね。パチュリー様はどうしますか?」
「今日は本気で疲れたから、湯浴みしたらすぐに寝るわ」
「ではそのように。お風呂は三秒で沸かしますので、少々お待ちください」
そしてパチュリーは、久しぶりに出た一日の垢を綺麗さっぱり洗い落とすと、ふらつく足取りで自分の部屋に戻る。
(もう寝よう、今日は本気で寝よう)
パチュリーは自分のベッドに倒れ込む。
ぽふ。
布団ではない、別のものに体が当たった。
(……え?)
見れば、その毛布を引っぱがして幸せそうに眠っている先客は、間違いなくフランドールであった。
「……咲夜~」
本当は心の底から叫びたかったが、体の疲れとフランドールを起こさないようにという配慮から、普通よりちょっと小さめの声でパチュリーは親友の従者を呼ぶ。
一秒で咲夜は現れた。
「何でしょうか、パチュリー様?」
「なんでフランがここで寝てるのよ~」
「お嬢様のご命令です。布団は一つ、枕は二つと」
ぼふ。
パチュリーは、思いっきり頭を枕に打ちつけた。さいわい怪我はないというか、しようがないが。
「……なんでそうなるかしら」
「デートの次は、もちろんアレかと存じ上げますが」
「だから、話が飛びすぎ。……ふぁぁ……」
ついついあくびが出てくる。あまりの眠気に、枕もフランも惚れ薬もどうでもよくなってきていた。
「……もういい、このまま寝るわ。おやすみ、咲夜」
パチュリーは布団に潜り込むと、三秒で寝入った。
「おやすみなさいませ、パチュリー様、フランドール様」
咲夜はぐっすりと眠る二人を見て微笑むと、毛布を整え直してから、起こさないようにそっと扉を閉めた。
翌朝。
少し涼しい風を感じ、パチュリーは目が覚めた。
体中のあちこちが筋肉痛だった。ぐっすり眠れたのはよいが、目覚めはいささか心地が悪い。
とにかくまずは着替えようとして、パチュリーは自分の部屋の様子に気がついた。
なんだかずいぶんと荒れていた。箪笥や棚などといった調度品のあちこちにひびが入ってしまっている。ただ、完全に壊れてしまったものはなく、大切にしている魔術道具や本棚およびその中身の類は無傷であった。
(まさか)
ベッドを見れば、夕べ隣で眠っていたはずのフランドールの姿は、既になかった。
パチュリーが蝶番の一部壊れたドアを開けると、すぐそばに美鈴が倒れているのを発見する。
部屋の外は、まさに混沌としていた。嵐の過ぎ去った後よりひどく、物という物が原形をとどめないほどに壊されまくっている。
美鈴をとりあえず往復ビンタで起こすと、パチュリーは何事があったのか問いただした。
「――それが、フランドール様が起きてこられたと思ったら、いきなり暴れ出してしまって。いや、私も止めようとはしたんですけど、うっかり初撃の弾幕の直撃を食らってしまい――」
申し訳なさそうにする美鈴。
「それで、フランは?」
「咲夜さんが追撃にいかれました。霊夢さんと魔理沙さんも後から応援に向かったようなので、もう勝負はついていると思いますが」
「そう、ありがと」
傷だらけの美鈴は放っておいて、パチュリーは破壊の痕が続く先に向かおうとする。
「あ、それと」
「なに?」
「あの……すみません、昨日の薬の件なんですが。実はちょっと目を離した隙に――」
「ああ、別に気にしないで。あれはもういいの」
惚れ薬の話が出て、パチュリーはあの魔道書に書かれていた記述の一節を思い出した。
確か、薬の効果は一晩で切れると。
(……昨日のフランは、もういないか)
荒れ果てた館の姿がそれを証明している。
パチュリーの胸がちくりと痛んだ。
高速で館の中を翔ると、パチュリーは壊れた部屋の後かたづけをしている咲夜を見つけた。
ということは、既に一段落ついてしまったのだろう。
やりきれない思いにさいなまれながらも、パチュリーは咲夜に話しかける。
「咲夜、フランは」
「おはようございます、パチュリー様。フランドール様は、ご自分の部屋にお戻りになられました」
「……そう」
戻ったというが、戻されたというのが正確なところだろう。これだけ大暴れしては、罰として当分の間再び監禁されるはずだ。
昨日は何一つ騒ぎを起こさなかったというのに。あるいは、実は無意識下で破壊衝動がたまっていて、薬の効き目が切れた途端に堰を切って溢れ出たのかもしれない。もしそうなら、それはフランドールではなくパチュリーの責任であった。
「あの――」
「朝食のご用意は既にできていますが、いかがいたしましょうか? 昨日は夕食をお食べになっていませんから、お腹がすいているのでは」
それは確かだった。タイミングよく、お腹がぐうと鳴る。
パチュリーは罪悪感に包まれる。こんなときに、自分の体はのんきに生理現象を引き起こしていた。
「……そうね、いただくわ」
ともかく腹ごしらえを先に済ませるかと、パチュリーは思った。
食堂の椅子につき、これからどうするかをぼんやりと考えていると、やがて朝食が運ばれてきた。
パチュリーは皿の上に載せられたものを見て、目を丸くする。
「これ……」
「妹様お手製おむすびですよ。本日は間違いなく塩を使用しています」
昨日とはまたずいぶん形が違ったが、そこにあったのは紛れもなくあのおむすびであった。
パチュリーは、おそるおそる一口かじる。
しょっぱかった。今度はちゃんと塩だ。ただし少々しょっぱすぎたが。
パチュリーはぱくつくと一気におむすびを平らげる。無作法で頬にご飯粒がついたが、全然気にしなかった。咲夜も何もとがめない。
「今日のお昼もおむすびですから、パチュリー様も準備しておいてくださいね。お嬢様も、霊夢も魔理沙も、みんなで一緒に作りますから」
「フランも……?」
「もちろんです。主催が片手落ちでは仕方がないじゃないですか」
咲夜はにこにこしながら、朝食の後かたづけをする。そのかたわら、ナプキンでパチュリーの頬についたご飯粒を一つ一つ取っていった。
「午前と午後の空いている時間は、館の掃除を手伝ってくださいね。私一人でも十分なのですが、お嬢様のご意向でこれまたみんなでやることに決まりましたので」
「ねえ、フランは? 謹慎処分じゃないの?」
「いいえ。反省しているということで、罰は壊したものの後かたづけだけということになりました。以前は暴れても全然反省してくれませんでしたから」
「なら、部屋に戻ったっていうのは」
「ふふふ……。単に、すぐには顔をあわせづらいだけのようですよ」
パチュリーが食堂を飛び出していくのを、咲夜は笑いながら見守った。
紅魔館は、今日も何事もなく過ぎていく。
ただ、時間の流れが、少しだけ優しくなったように感じられた。
振り回されながらもフランを暖かく見守るパチュリーに
こちらも心暖まったりと、楽しく良いお話でした!
いろいろ破壊している妹様がここまで変わるとは
パチュリー作惚れ薬・・・恐るべし
こんな可愛らしい妹様もありですな!
よかったですよb
「妹が変なのはいつも通り」っておぜうさまったら何てことをw
なんというか、妹様から形容しがたい可愛さがにじみでてて、いろいろとヤバイです。
乙女な妹様の幸福をお祈りします。