1
レティとチルノが海へ寒中水泳に行った。
ところが折り悪く、海は干上がっていて水泳どころではない。
「きっと水を一人占めしてる奴がいるにちがいないわ」
浮き輪を振り回しながら憤慨するチルノ。「取り戻してやる!」
「それがいいわね」と売店で買ったかき氷を食べながらレティ。「海水のない海水浴は寒いから」
しかし手がかりがないので悩んでいると、売店でかき氷を売っている魔法使いがいうには
「紅魔館の主が、妖怪だらけの水泳大会をやるらしいぜ」
それだ、とレティとチルノは合点した。ふたりは水着姿のまま、まっしぐらに紅魔館へむかった。
2
紅魔館は水没していた。
「おや」書斎で泳いでいた小悪魔は、たいへんな勢いで水面を突き進んでくる影を見とがめた。「水泳大会の参加者ですか」
否、と答えたのはレティとチルノのうちのチルノ。「水を取り戻しにきたのよ」
それは困りますね、と小悪魔は小首を傾げた。ともに傾く頭の翼。
「まだ水泳大会が終わっていないのですよ。これが終わらないと、お嬢様は旗を振れないので」
「旗?」
「参加者は紅白組と黒組に分かれていて、どちらが勝ったかはお嬢様の挙げる旗で判断されるのです。お嬢様はたいへん旗を挙げたがっていまして、つまりは、そのためだけにこの水泳大会がもよおされたわけで」
とんでもない話だ、チルノは頭から凍気を吹き出した。「わがままにもほどがあるわ」
なんとしても、とレティもいった。「水を還してもらわないと」
やれやれ、と小悪魔は頭の翼をすくめた。「むこうみずな人たちですね」
3
小悪魔を撃退したレティとチルノは水泳大会の会場へやってきた。
大広間にはいちめんに水が張っており、水面じゅうに妖怪どもがひしめいている。
ちょうど歌謡ショウの時間で、メイド長がモップがわりにマイクを握っていた。
♪私はいいメイド 従えごこちのいいメイド
とても気がつく 気がまわる まわるまわるの・ル・ラ・ラ(ハイ!)
でもね哀しいときもある 時は止められても 涙は止められなくて
勇気の呪文は 斬る切るキルKILL 「殺人ド~ル」
「さあ、その下手くそな歌をやめて、勝手に集めた水を還して頂戴」
レティの言葉にメイド長は大いに怒り、
「水泳大会の前に、あの冷凍食品どもを解凍しておしまい」
と集まっている妖怪どもに命じた。津波のように押し寄せてくる妖怪たち。
「数が多い!」チルノが狼狽気味にいった。「手間取りそうだ」
「しかし」とレティはあわてずさわがず、「水が戦場なら私たちが有利よ」
寒気一閃。
水が瞬時に凍結、妖怪どもは身動きできなくなった。
「紅白」
お嬢様が旗を挙げた。
黒よりは、紅白のほうが好きだったのである。
レティとチルノが海へ寒中水泳に行った。
ところが折り悪く、海は干上がっていて水泳どころではない。
「きっと水を一人占めしてる奴がいるにちがいないわ」
浮き輪を振り回しながら憤慨するチルノ。「取り戻してやる!」
「それがいいわね」と売店で買ったかき氷を食べながらレティ。「海水のない海水浴は寒いから」
しかし手がかりがないので悩んでいると、売店でかき氷を売っている魔法使いがいうには
「紅魔館の主が、妖怪だらけの水泳大会をやるらしいぜ」
それだ、とレティとチルノは合点した。ふたりは水着姿のまま、まっしぐらに紅魔館へむかった。
2
紅魔館は水没していた。
「おや」書斎で泳いでいた小悪魔は、たいへんな勢いで水面を突き進んでくる影を見とがめた。「水泳大会の参加者ですか」
否、と答えたのはレティとチルノのうちのチルノ。「水を取り戻しにきたのよ」
それは困りますね、と小悪魔は小首を傾げた。ともに傾く頭の翼。
「まだ水泳大会が終わっていないのですよ。これが終わらないと、お嬢様は旗を振れないので」
「旗?」
「参加者は紅白組と黒組に分かれていて、どちらが勝ったかはお嬢様の挙げる旗で判断されるのです。お嬢様はたいへん旗を挙げたがっていまして、つまりは、そのためだけにこの水泳大会がもよおされたわけで」
とんでもない話だ、チルノは頭から凍気を吹き出した。「わがままにもほどがあるわ」
なんとしても、とレティもいった。「水を還してもらわないと」
やれやれ、と小悪魔は頭の翼をすくめた。「むこうみずな人たちですね」
3
小悪魔を撃退したレティとチルノは水泳大会の会場へやってきた。
大広間にはいちめんに水が張っており、水面じゅうに妖怪どもがひしめいている。
ちょうど歌謡ショウの時間で、メイド長がモップがわりにマイクを握っていた。
♪私はいいメイド 従えごこちのいいメイド
とても気がつく 気がまわる まわるまわるの・ル・ラ・ラ(ハイ!)
でもね哀しいときもある 時は止められても 涙は止められなくて
勇気の呪文は 斬る切るキルKILL 「殺人ド~ル」
「さあ、その下手くそな歌をやめて、勝手に集めた水を還して頂戴」
レティの言葉にメイド長は大いに怒り、
「水泳大会の前に、あの冷凍食品どもを解凍しておしまい」
と集まっている妖怪どもに命じた。津波のように押し寄せてくる妖怪たち。
「数が多い!」チルノが狼狽気味にいった。「手間取りそうだ」
「しかし」とレティはあわてずさわがず、「水が戦場なら私たちが有利よ」
寒気一閃。
水が瞬時に凍結、妖怪どもは身動きできなくなった。
「紅白」
お嬢様が旗を挙げた。
黒よりは、紅白のほうが好きだったのである。