Coolier - 新生・東方創想話

東方蒼魔郷

2003/07/29 00:06:40
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「こんなに月も紅いから──」
幼さの残る、しかし気品漂う声。
「こんなに月も紅いのに──」
幼さの残る、されど凛々しくもある声。

『楽しい夜になったわね──』


紅い月が、ゆるゆると小さくなる。
紅い月が、その紅さを失ってゆく。
紅かった月が青白く光る時、
果たして幻想郷から霧が払われた。


紅魔館の手入れの行き届いた庭。
青白い月のほの明かりの中、上品な服を乱れなく身に纏う紅魔館の主、レミリア・スカーレットの姿があった。
その品のある服、顔立ちからは考えられないことに、彼女は芝生に寝転んでいた。
「…月、綺麗ね。」
呟きに近い囁き。
答える声は、すぐ傍にあった。
「そうね。私はこっちのほうが好きだわ。」
足を投げ出し手をついて座り、月を見上げるは紅白の服を纏う巫女、博麗霊夢。
やや乱れた呼吸と上気した顔が、彼女が一仕事終えた後だと物語っていた。

「疲れているなら、寝転んで休んだら?
 たまにはこういうのもいいわよ。」
月を見上げながら呼吸を整えている霊夢に向かって、月を眺めながらレミリアが言った。
「……。」
霊夢は一瞬レミリアを見やり、手の支えをはずしてばふっと芝生に倒れこんだ。
丁度頭を向かい合わせに寝転んでいる形になる。
まだ息の乱れている霊夢が、頭を思いっきり反らせてレミリアを見上げ、
「あんたは、疲れてないみたいね。
 …手加減でもしてたのかしら?」
やや腹立たしげに聞いた。
「ふふ、まさか。」
楽しそうな声での返事に霊夢は面白くなさそうな顔をする。
しかし、
「まあいいわ。霧さえ出さなければ問題はないし。」
と、深く追求しようとはしなかった。

「ああ、お嬢様、こんな所にいたんですか。」
霊夢の呼吸が整った頃になって、二人ともが聞き覚えのある声が庭に響いた。
声の主は紺と白を基調にした服を、本来ならばしわ一つ無く着こなす、十六夜咲夜。
しかし闇から現れた彼女の纏う服はあちこちが無残に破れてしまっていた。
「…霧が晴れたということは、まさか…?」
「うん。あはは、負けちゃった。」
心配そうな咲夜の声とは対照的に、レミリアは笑って言った。
「服に傷一つつけないで、負けたも何もないでしょうに。」
霊夢の独り言は、やはり独り言で終わった。

「さて、そろそろ館に戻ろうかし…ふぁ…。」
言葉尻をあくびに取って代わられながら、体を起こしたレミリアが言った。
どこと無く眠そうなその表情は彼女をさらに幼く見せる。
「お疲れでしょう。私がお部屋までお連れしましょうか?」
尋ねながら咲夜はレミリアの横に膝をつき、返事を待たずにすっと抱き上げた。
「うん…お願い…。」
抱き上げられるや、レミリアはそれだけ言って眠ってしまった。

「さて、あんたはどうするの?」
小柄な少女を抱き、まだ寝転んだままの小柄な少女に咲夜が尋ねる。
「…泊めて。」
「却下。」

憮然とした表情の巫女とすまし顔のメイド。
両者の間に静かに黒い服にエプロン(?)姿の少女が降り立った。
「よ、お疲れさんだな、霊夢。」
少女の正体は、綺麗とはいえない言葉遣いの魔法使い、霧雨魔理沙。
「ほら、お迎えが来たわよ。きっと極楽浄土は、暖かくて幸せに違いないでしょう。」
「お迎え違いだぜ。」
咲夜の言葉を軽く流して、魔理沙は霊夢を見下ろした。
「一人で帰れそうか?」
「…正直辛い。」
魔理沙は返事とともにすっと抱き上げ…たりはせず、一度体を起こさせて背負い上げた。
「…ありがと…。」
背負い上げられるや、霊夢はそれだけ言って眠ってしまった。

魔理沙は「重いな…。」と呟くと、まだこの場に残っていた咲夜に背を向けた。
咲夜も別に魔理沙を見ていたわけではなかったが、背を向けられると同時に、
「おやすみ。」
そう言って、魔理沙に背を向け館へと歩き出した。
「…あんたもな。おやすみ。」
聞こえない声で呟いて、魔理沙は飛び去っていった。

「…聞こえてるわよ。」
黒と赤と白の流れ星に、咲夜が呟いた。


夜が明けて、久方ぶりに太陽が顔を出した。
霧の無い幻想郷の空は高く、そして蒼かった。
その広い蒼天はいつもの幻想郷の夏のまま。
ただ一つ違うことといえば、
日傘を差した吸血鬼が、真昼に舞うことくらいだろうか──
実はこのタイトルが使いたかっただけという噂。
たま
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コメント



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1.30nanasi削除
なぜレミリアは・・・詮索するのは無粋ですかね。
2.30nanashi削除
優雅かつ優美なレミリア様…