Coolier - 新生・東方創想話

冬の わすれもの

2003/07/20 11:47:16
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春でも夏でも秋でもない季節が始まって、初めて雪が降った次の次の日のこと。
その日も前日から降り続く雪。
幻想郷は一季節の間の化粧をするのに追われていた。
まだまだ薄化粧だが多くの妖怪は自らの住み家に帰り、幻想郷から昨日ほどの賑やかさはなくなっていた。
すぐそこまで来た厳しさばかりの季節は大半の妖怪の行動を制限する。
その中にあって、例えば冬の妖怪や、一部の物好きは歓喜の声を上げていた。
物好きが喜ぶ理由は、単純、雪で遊べるからだ。
そして物好きは大抵、遊ぶことしか考えてはいないのだった。

物好きの一人に、宵闇の妖怪であるルーミアがいた。
彼女は積もった雪に子供か犬のように大喜びし、適当な、足跡付けられていない開けた場所を駆け回っていた。
まっさらな雪の平地に足跡をつけて振り返ってはにこにこする。
駆け回って雪に足を取られて転んでも、起き上がってにこにこする。
走り回っている間にどんどん興奮してきて、仕舞いには足跡の無い綺麗な雪へ飛び込む。
全身雪まみれになっても、先ほどよりさらに楽しそうに笑った。

こういった子は大抵怪我をするまで遊びが激しくなっていく。
彼女も例外ではなく、飛び込む際に体をひねったり、
木から落ちてきた雪が小山のようになっているところに、全速力で飛び込んだりとかなり無茶をし始めた。
そして怪我をする理由は、「やりすぎた」である。

やはり彼女はわんぱくの見本のような娘だった。
雪の小山に突っ込んだはいいが、突き抜けた。
突き抜けたその先には狙ったように硬い木の幹があった。

ゴンッ!

「わきゃ!?」

なかなかいい音がした。

「ぅう~…いったぁ~~…。」
目尻に涙を浮かべながら打った額をさすると、早くも腫れてきているようだった。
半泣きになりながら額をさすっていた手に、唐突に冷たい何かが触れた。
「ひゃっ…!」
驚いて声を上げて上を見上げると、いつの間にかすぐ前に誰かが立っていた。
手に触れたのはその人の──女性だ──雪のように白い右手だった。
「大丈夫?」
彼女はその冷たい手をルーミアの腫れた額に当てながら、暖かな眼差し向けて言った。
「ぇ…あ、うん。…大丈夫。ありがと…。」
「あんな無茶しちゃダメじゃない。元気なのはいいけどね。」
「ぁ……。」
さっきのはしゃぎ様を見られていたらしい。
さすがに恥ずかしかったらしく、ルーミアは顔を真っ赤にして俯いた。
冬だというのに顔が熱くて仕方ないくらいだった。
「…っ。」
ルーミアの額に手を当てている女性の顔が一瞬ゆがんだが、俯く彼女は気づかなかった。

女性の手は、とにかく冷たかった。
それこそ氷のような冷たさだったが、腫れた額には丁度よかった。
しばらくすると嘘のように腫れが引き痛みも無くなってしまった。
額をさすってもらっている間、少しは会話もしたが、それは、
「女の子なんだから~~~」だとか
「嬉しかったのは分かるけど~~~」といったお説教の類で、彼女が一体「何である」のかは分からなかった。

「もう大丈夫、ありがとうね。」
女性を見上げながらお礼を言う。
「そう?まあ大丈夫ならいいけど、もうあんなことしちゃだめよ?」
崩れた雪のほうを見て、微笑みながら彼女は言った。
ルーミアもふとそちらを見たが、
(あれ?)
注意がそれた瞬間引かれた女性の手が、赤く見えた気がした。

「それじゃ、私はもう行くわね。」
白い女性がふわりと舞い上がる。
「うん。ありがとう、ばいばい。」
屈託の無い笑顔で手を振りながら、ルーミアが言った。
しかしそこまで言ってから、ひとつ聞きたかったことを思い出した。
「あ、そうだ。あなたの名前は?」
女性は少し目を見開いて、ふっ、と微笑んでから、
「私は、「冬の わすれもの」レティ・ホワイトロックよ、お嬢ちゃん。それじゃあね、ばいばい。」
白い左手を振りながら、レティは雪の降る空へ飛び去っていった。
お嬢ちゃん、と呼ばれた理由にルーミアが気づいたのは、すっかり女性が見えなくなった頃だった。

レティは赤くなった右手の平を見つめながら、どこかを目指すでもなく飛んでいた。
「…ちょっと無茶しちゃったかしら。あの娘の事言えないわね。」
苦笑しながら一人呟く。
レティにとってはルーミアの体温でも長時間触れていたら軽い火傷のようになってしまうものだったのだ。


小さな出会いがあったことなど気にも留めず、冬は厳しさを増していった。
厳しさばかりの季節はまるで何かを忘れているように全てを雪で覆いつくす。

「冬の わすれもの」

それは、暖かな優しさ。



お ま け  (ただの妄想です)

ルーミアテスト中、どうしても解けない問題に遭遇。
仕方がないのでカンニング(!

ちらり

なるほど答えは!

「そーなのかー。」

カンニング失敗。
二つ名の解釈を少し変えてみた結果こうなりました。
したがって一応レティさんSSのはずです。
というか本当に火傷するのかは謎。
たま
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コメント



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1.30名無し削除
ルーミアめんこい。レティさん大人。そこに尽きる。
2.50なななし削除
そういう解釈があったか! そしてシリアスとギャグの落差に笑わされました。
3.50ななすぃ削除
にこにこするルーミアが鮮明に浮かびました。作者さんにはありがとうとしか。