恐慌焦燥話

酉京都大学教養科目「酒と文化2」⑤近代の安酒

2017/04/01 00:13:31
最終更新
ページ数
3
閲覧数
1003
評価数
2/3
POINT
2673

分類タグ


*****************************
講義ログシステム Alex
慣れれば楽しいCUIベース、レトロタイプの講義記録ツール
Ver.62.8.9 K13/12/07
*****************************

履修情報ファイル: MH0104.slbs
......読み込みに成功しました

コマ番号を入力してください: 55
科目情報を読み込んでいます......

------
共通教養科目(文系②)「酒と文化2」
講義ID:lib_9784
科目名:酒と文化2
開講期:第4ターム
曜/時限:金5(16:30~18:00)
教室:新3号館402教室
単位:1

概要:人間の歴史と共に存在した酒について、製造法や法制史、世俗の扱いなど様々な学問の視点から考察することで、酒が生み出した文化というものを学ぶ。
なお、今回の講義では明治維新から現在に至るまでの期間を扱う。

到達目標:酒における基礎知識を理解するとともに、学問分野にとらわれず多角的な視点でアプローチする例を学ぶことにより、所属する専門分野だけに縛られない様々な知の探求手法を理解する。

授業計画:初回授業時に説明

成績評価:出席30%+レポート70%

履修要件:指定しない。ただし、第3ターム「酒と文化1」の履修を推奨する。

------
現在、4ファイル、4コマの講義ログが記録されています。
最新ファイルの続きに記録しますか?(lib_9784_04.log) >n

新規ファイルで記録します。
ファイル名を選択してください
1:デフォルト連番設定(lib_9784_05.log)
2:講義番号+コマ番号(lib_9784_05.log)
3:別に名前を付けて保存
> 1

------≪ lib_9784_04.log で記録を開始します ≫------
K14/2/5 16:31 start

やぁやぁ、私が本日の講義を担当する伊吹だ。よろしく。

≪コメント≫
renko:あら、メリー。今回はだいぶ若い人よ。
merry:若いを通り越して幼い感じすらするわね。こっち側に座っても違和感ないわ。
renko:むしろ"こっち側に座っても"違和感あるわよ。たまに飛び級でそう言う人見るけど。

これまで2回の講義は「酒の近代史」として歴史を追って明治維新以降の酒について大まかな流れを学んだと思うが、ここからはテーマを絞って掘り下げていきたいと思う。

≪コメント≫
renko:"大まかな流れを学んだ"りしたっけ?
merry:全然。前の講義のおじいちゃんは日本酒についてひたすら熱く語ってたわよ。
renko:こりゃレポートは前の講義じゃない所にした方がいいわね……

今回のテーマは「近代の安酒」。明治から神亀の遷都までにおいての大衆が買う酒の中でもランクの低い酒について扱う。

さて、皆は安酒とは何かと聞かれたら何を思い浮かべる?コンビニやスーパーでもっとも単価の安い商品か、それとも税区分Bの商品か、人によっては新醸造法以外は認めない、香料と酵素添加で誤魔化している酒はみな安酒だ、と考える人もいるかもしれない。

では、試しに調べてみよう。専用端末でも内蔵アプリでも、なんならwebのサービスでも構わない。企業が出している国語辞典で安酒の意味を調べてほしい。

≪コメント≫
merry:いい笑顔ね。
renko:お酒について話すのがたまらないって顔よ。
merry:内容はともかく、明るくて聞きやすいのは助かるわ。
renko:ところでメリー、何て出た?
merry:それが出ないのよ。
renko:私も。どういうことかしら

≪メモ:merry≫
伊吹教員がにやりと笑って教室を見渡す。

どう?見つからないだろう。実は広辞苑にも大辞林にも「安酒」という見出し語はないんだ。つまり、安酒とは時代、場所、人によってさまざまに捉え方が異なる単語であり、定まった意味は「安い酒」程度しかない単語なのだよ。

といっても、ここから単語の相対性を論じるのは脱線が過ぎるというものだ。文学部や心理学部の講義になっちゃうよ。この話で目の色が変わった人はきっとそういう方面が専門の学生だろうから、ぜひこれからその方面の学問を究めてほしい。でも今回の講義はあくまで酒がテーマの話。時間も90分しかない。だから今回はもっと浅い基礎知識の紹介に留めよう。

つまり、多くの人が安酒と捉えるような酒、すなわち価格帯の最下層を占めている部類の酒はいったいどういうものだったのか紹介する、というのが今日のテーマだ。

前置きが長くなってしまったが、ここから、それぞれ酒の種類で安酒についてお話しよう。スライド2ページを開いてねぇ。

≪自動セクション挿入≫
1.合成清酒

まずは合成清酒から入ろう。いかにもってネーミングだな。こんな名前なのに旧型酒新型酒ないまぜになっているところが現在の日本酒表記を複雑にしていて日本酒の消費量が……、ってこれきっと前回の授業で玉ノ井教授が話してるよね?

≪メモ: renko≫
教室の大半が頷く


あー、やっぱり。じゃあそういう背景は飛ばそう。合成清酒、端的に言ってしまえば、このような経緯で生まれた酒だ。

≪スライド図示 p2≫
1.明治~昭和初期までの米不足 → 米を使わない酒造のニーズ
2.西洋科学の導入による技術進歩 → 香味成分は化学物質であり、分離や合成ができるという考え方
これらの要素が合わさり、1921年、理化学研究所が特許取得、発売開始。

化学物質を組み合わせて日本酒の香りに近いものを生み出し、それを添加することで人工的に日本酒を作る、まさに現在の合成食品のコンセプトそのものだけれども、それが東京時代の大正期に出来ていたというのは驚きだね。

あ、ちなみにこれ考案した人の立ち上げた研究室が西に移ってここの農学部に残ってるから、この中に農学部の人いるならきっと3年生の時に長ーい研究室自慢聞かされるよ。


≪メモ: renko≫
前の方で男子学生が小突いてる。どっちか農学部なのね。きっと。

話を戻そう。そうやって生まれた合成清酒だが、第二次大戦後の食糧難までは相当な需要があった。当時の日本人にとって酒と言ったら日本酒というイメージだったしね。

≪スライド図示 p3≫
・生産ピークは1950年代
・60~70年代に急減、そこからは2~5万KLで推移

1950年代では合成清酒の生産量は日本酒の1/3にまで達していたというんだから驚きだ。ところが、1960年からその生産は一気に落ち込み、現在に至るまで全酒造量の0.5%程度の量で細々と生産が続いている。こっからさらに旧型の合成清酒と新型の合成清酒に分かれたって話は次の授業で茨木さん(※)がやってくれると思うからそっち聞いてね。

≪注: merry≫
次の講義予定「新型酒の仕組みと制度」

大きく数字が落ちたのは、日本の食糧難が解決し経済成長もあって需要がなくなったこと、合成という名のイメージに加えて、当時が当時だから技術が未熟で、安いけど不味い酒のイメージが「合成清酒」というもののイメージについてしまったことが挙げられる。さらに、次で説明する合成清酒でない安い日本酒の登場も大きい。

そんな厳しい環境の合成清酒だが、どうやら料理用としての需要が結構根強いようだね。確かにこと新型酒で見れば、料理酒との違いは規制対策で塩分を入れるか分解酵素を入れるかの差程度のものだから、塩味が無駄につく料理酒の代わりに使う人がいても不思議じゃないね。

では、次に行こう。



≪自動セクション挿入≫
2.清酒

次は清酒だ。さっき話したように、安価な日本酒を作るのに画期的な方法が生まれた。増醸法という手法だ。これは簡単に言ってしまえば、先ほどの合成清酒を濃くしたものを醸造途中のもろみに入れ、日本酒の嵩を増す、という方法のことだ。詳しくはスライドの図を見てほしい。

≪スライド図示 p4 図2-1≫

日本酒の醸造途中にアルコールを添加する手法自体は江戸時代からある手法だし、安酒を作るための手法でもない。明治期までは腐造を防止するため、それ以降はアルコールが香味成分を溶かすことで味の切れを良くする、透明度を高める、といった目的で広く行われている。1瓶買うのに端末1台買えるような上等の旧型清酒でも使われている手法だ。原材料費のラベルを見るのはタダだから、機会があったらちょっと見てみてほしい。原材料に「醸造アルコール」と書かれているものがあったらこのような方法を使った酒だ。

そんな伝統手法を、発想転換して日本酒の量を増す手法にしたというのが増醸法とただのアルコール添加の違いだ。生まれたのは1949年。第二次大戦が終わって間もないころで、合成清酒ができた時以上に食糧事情は悪かった。この時の制度でギリギリまで嵩を増すと、純米で作った時の3倍の酒ができることから、この手法で出来た清酒は三倍増醸清酒、略して三増酒と呼ばれた。
三増酒は昭和期、特に戦後と呼ばれる1945年以降の大衆酒を象徴する酒だったが、こちらも経済成長や本格志向へのトレンド変化により1970年より減少。ついには2006年の酒税法改正により副原料(ここではアルコールだな)の配合割合が引き下げられたことにより三増酒は消滅してしまった。

といっても、実はこの手法自体はまだ残っている。さっき、目が飛び出るような値段の清酒のラベルを見てみてほしいといったけれど、今度はコンビニやスーパーで一番安い酒を見てみてほしい。ラベルが「清酒(新型)」もしくは「清酒(旧型)」となっているものね。ここに「米、米こうじ、醸造アルコール、指定分解物質」以外の表記、例えば酸味料や香料が含まれていたら、それはこの手法で作られている酒酒である可能性が高い。三増酒との違いはアルコールをどれだけ添加しているかの差だけで、法令ギリギリまで増していることには変わりない。今だと確か2倍か1.5倍か……確かそのくらいよ。「何でこんな値段で醸造酒が買えるんだろう?」と思ったことある人はこの中にいない?

≪メモ: merry≫
伊吹教員、手を挙げ挙手を求める。ちらほらと手が挙がる。

そこにはこういう絡繰りがあるんだよ。まさに価格を抑える安酒のための手法だ。ちなみに新型酒はさらに奇抜な方法があるんだけども、これは近代の安酒からは外れるから各自で調べてみてほしい。どう?安酒って面白いでしょ?


≪スライド図示 p6 表2-4≫
1943年 日本酒級別制度 開始
    一級、二級、三級、四級
1955年 特級、一級、二級
1990年 特定名称分類 開始
1992年 日本酒級別制度 廃止

≪スライド図示 p7 表2-5≫
    吟醸酒、大吟醸酒、純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸酒、特別純米酒、本醸造酒、特別本醸造酒(+普通酒[=それ以外])

えーっと、本当は掛かる税金も安くなってたって話もしなきゃいけないんだろうけども、これ話しだすと90分じゃとても終わらないので飛ばします。安酒なら一番下の級、特定名称分類なら普通酒という所に分類されるものだったと捉えておけば問題ない。

では次に移ろう。


≪自動セクション挿入≫
3.連続式蒸留焼酎

次は連続式蒸留焼酎。まさかここの大学の学生で漢字が連続しているのを見て怖気づくって人はいないと思うけど、なかなかピンと来ない名前だよねぇ。でもこれ、いわゆる甲類焼酎と呼ばれているものだ。これなら聞いたことあるんじゃないかな。

≪スライド図示 p7 表3-1≫

作り方はこう。とりあえず何かしらデンプンか糖をを発酵させてアルコールを作る。主流なのはサトウキビ糖蜜やコーンスターチだな。そして、それを連続蒸留してエタノールを取りだし、使いやすい濃度まで加水する。大抵は20度、ないしは25度。果実酒用に35度というものもあった。ちなみに35度の理由は税金。36度以上は種別が焼酎ではなくスピリッツになってしまうからね。税金上がるからこの濃度ってわけよ。

≪コメント≫
renko:また税金。
merry:昔の小説で「高い酒ってのは税金を飲んでるようなもの」って一節があったけど、まさにその通りね。

いやー、近代科学の英知って感じだね。水の代わりにガソリン入れたらバイオエタノール燃料、そのまま売らずに原料として流通させれば醸造アルコールだからね、これ。

このアルコールを精製することに全力を出した連続蒸留という手法は19世紀に発明され、世界各地へ広まった。ウォッカやウイスキーといった蒸留酒はその姿を大きく変えることとなり、その他の酒造の手法に大きな変革をもたらした。これまで話した合成清酒のベースや増醸酒の添加剤にもこの製法で作ったアルコールが欠かせないものとなっている。

≪スライド図示 p8 ≫

日本における蒸留酒、つまりは焼酎も例外じゃあない。連続式蒸留で作られ販売された最初の焼酎は、記録に残っている限りでは明治の終わり、1910年が最初だ。当初は「ハイカラ焼酎」と呼ばれ、その後「新式焼酎」という名称が定着した。第二次大戦後の1949年に酒税法の区分で「焼酎甲類」とされ、その名前が定着されることになる。甲類・乙類の区分がなくなるのは2006年なんだが、その後も引き続き甲類の名称は使われている。

大変興味深いことに、こんな極限まで水とエタノールに精製したような酒でも、ブランドによって明確に味が異なると主張しているし、事実その通りだ。ちなみに、売っていたボトルは他の酒類でもよく見る200mlのカップ、360ml瓶や720ml瓶、1Lの紙パックの他にこんなのがあった。

≪スライド図示 p9 ≫
実際に売られていた容器。5Lのペットボトル!


≪コメント≫
renko:「事実その通り」ねぇ。
merry:ん? 何かおかしいと思った?
renko:いや、それなりに昔の話なのに、まるで実際に飲んだかのように話すなぁ、と。
merry:実際に飲んでるんじゃない? どこかにそういう年季ものの旧型酒が眠っていると聞くわよ。
renko:数十年物の安酒、しかも旧型酒ってもう安いのか高いのかわからないわ。


これ、業務用じゃ無くて、スーパーに売られてたやつだからね? で、通販のレビューにはこんな感想が来ていたんだ。
≪スライド更新 p9 ≫
・酔いたいときは、帰宅後すきっ腹で飲むのが定番化しています。その時は、大体2倍で割る=12~3度ですので、一気に酔えます。
・お味はというと、特に格別美味しいということもなく、まずくもなく。普通にお茶で割って、楽しく酔っぱらえるものの様です♪


≪メモ: merry≫
教室に笑い声が漏れる。

みんな、こういう酒の飲み方しちゃダメだからね? いくら新型酒は健康を害さないとは言っても、飲まなくても手が震えてくるような依存症の人は未だにいるんだから。

えー、そんな焼酎甲類だが、飲んでる姿はどんな時代のどんなイメージがある? 君、どう?

≪メモ: renko≫
前部中央の生徒を指名。「昭和期に安い和室のアパートでちゃぶ台の上で飲んでる」と回答。


うん。想定していた答えが見事に来て私は嬉しいよ。
まだ経済発展が途中だった昭和の光景を思い浮かべる人多いんじゃないかと思うけど、実はこれは半分間違いだ。東京時代の甲類焼酎の消費量はピークが3回あってね、1つは第二次大戦後すぐ、もう1つが昭和末期、そして21世紀初頭だ。

≪スライド図示 p10 ≫

甲類焼酎の黄金時代

第1期(1950年前後 昭和20年代後半)
第2期(1985年前後 昭和50年代後半)
第3期(2005年前後 平成10年代後半)

第1期の要因はこれまで何度も出ている食糧難。焼酎甲類は米どころか廃糖蜜など食料としては使いにくいものでも酒にできるからね。娯楽も少なかった時期であり大きな需要を生み出した。そこから消費量は一度落ちて昭和の末に再度伸び始めるんだ。
つまり、さっきの「昭和期に安い和室のアパートでちゃぶ台の上で飲んでる」という答えは、戦後すぐの白熱灯が点っている四畳半や、バブル手前の無機質な安普請のアパートを想像していれば大正解だが、学生運動やベトナム戦争のあった頃をイメージしちゃうと要考証ということになりかねないんだよ。

さて、では第2期の要因は何だと思う?

≪メモ: merry≫
教員、挙手を求める。前部右側の生徒が挙手。
経済成長と共に格差が広がり安価な酒の需要が増した、と回答。
うーん、それは第3期の方の理由だな、と教員。
蓮子が挙手。割るものが増えたと回答。
良い所をついてる! と教員。

今の発言は半分正解だ。答えは居酒屋の酎ハイブームなんだ。大手居酒屋が様々な飲み物、主にお茶やジュースだな、それで甲類焼酎を割って供するようになった。値段と飲みやすさから若い人たちを中心に消費が伸び、こうなったというわけさ。

≪スライド更新 p10 ≫

第3期の理由はさっき出た意見が大体答えだ。不況と格差拡大により安価な製品に流れる動きの中、お手頃価格の酒として需要が伸びていったことが非常に大きい。

≪コメント≫
merry:やるじゃない。どうして知っているの?
renko:いや、ね。その時代が舞台のマンガで、ジュースみたいな酒飲んで前後不覚っていうエピソードあったのを思い出して。
merry:なるほど。でもそれならカシスとかマリブとか度数抑えめのカクテルなんじゃ?
renko:あっ。
merry:まあ、結果オーライって奴ね。

≪メモ: merry≫
スライドを送って次のセクションへ。

≪自動セクション挿入≫
4.単式蒸留焼酎

次はこれ、こっちもこの名前じゃなくて焼酎乙類、もしくは本格焼酎という名前の方が馴染みが深いだろう。旧式焼酎という語は……使っている人がいたらきっとタイムスリップしてきた人だな。

≪スライド図示 p11 ≫

単式の名の通り蒸留は1度だけ。そのため味や香りは原料の風味が残っていて、甲類焼酎とは違って芋や麦、米など風味の良い原料が使われる。それ故に高級品化・ブランド化した銘柄も数多い。しかしながら、それと同時に安価なブランドというものも数多く生まれた。さっき紹介したでっかいペットボトルの酒は単式蒸留の焼酎でもブランドがあり、甲類焼酎で有名なメーカーが手掛けている例も少なくない。さっき見せたでっかいペットボトルで売ってる製品もあったんだ。

≪自動セクション挿入≫
5.混和焼酎

これは一続きに話しちゃった方が分かりやすいから、次に行っちゃおう。ようは甲類と乙類を混ぜた焼酎のことだ。甲乙混和焼酎と乙甲混和焼酎の2種類があり、含まれている量が多い方が先に来るルールになっている。往々にして甲類の方が乙類よりも安いから「安い本格焼酎を買ったと思ったら混和焼酎だった」ということも結構あったみたいだ。

≪メモ: renko≫
スライドp12は記録省略。

≪自動セクション挿入≫
6.ビール・発泡酒

次のビールは非常に難しい。というのも、これまで紹介した種類の酒、この次以降に紹介するウイスキーやブランデーなどの酒は、端的に言ってしまうとより安いコストで多くの酒を造ることが出来るようになったから安くなった、という酒だ。これに対し、日本のビール・発泡酒は安い理屈が全く違う。この項目に絡むの要素はただ一つ。税金だ。

≪スライド図示 p13 ≫
2017年 とある量販店の販売価格
ビール 179円
発泡酒 130円
新ジャンル 108円


これは2017年の量販店におけるビール・発泡酒の値段だ。税金の区分がそのまま値段になっていることがわかるだろう。
この制度と歴史は話すと非常に長くなるから、飛ばし飛ばしで説明するよ。
まず、ビールの税率というのが他より高く設定されていた。そこで、原材料を変えることによりビールにならない発泡酒が出来た、ところが、その酒が大流行してしまったため、税金が引き上げられた。すると今度は、醸造後に添加物を加えることで発泡酒から外れる酒ができた。流れとしてはこんな感じだ。まさに税金との戦いだな。
だから、ここだけ「手間が掛かっている方が安い酒」という不思議な逆転現象が起きている。まあでも、最後のリキュール扱いにして税金を下げたタイプは醸造アルコールで薄めているようなものだから、これまでの製法に通じるものがあるな。
ここでちょっと脱線。この中で日本文化系の科目とってたり、その方面が専攻の人挙手。


≪メモ: merry≫
パラパラと手が挙がる。

日本独自の文化としてこの制度を挙げて「こんな混ぜ物するのは日本だけ、行政が無駄な手間を増やす悪癖」みたいなこと主張している論説文が結構あるんだけども。……あ、頷いたね。受験でやったりした?そっかそっか。でもこの手法自体は、口当たりを軽くするために海外でもやっている手法だからね? 新ジャンルに該当する酒も海外生産の実績はあったし、海外ビールを輸入して国内で売ったら発泡酒扱いになったという例もあったんだよ。気をつけた方がいいね。

話を戻して次に行こう。そろそろ時間も押してきた。あと洋酒3つでおしまいだから頑張ろう。


≪自動セクション挿入≫
7.ワイン

≪スライド図示 p14 ≫

次のワインは簡単に済ませる。税金も他と異なり等級制が導入されなかったからね。
ジュースより安価なものから、家が買えるレベルの超高級品までがあるのがワインだけれども、安いものの理由はこの3つ。ブドウの大量生産・大量収穫、大規模醸造、熟成期間の短縮。まあつまり、生産効率を上げてコストカットしたってことだな。どちらかというと他の農業製品の値段を下げる時に考え方は近い。


≪コメント≫
merry:あら、意外。こんなにあっさり終わるなんて。
renko:そう?
merry:だって、ワインって本当に上から下まで幅が凄いのよ?
renko:メリーがそう力説するととっても外国人っぽいわね。
merry:ちょっと!茶化さないでよ!


ではその次。

≪自動セクション挿入≫
9.ブランデー

次はウイスキーなんだけど、先にその次のブランデーを解説しよう。こっちの方が短いからね。
ブランデーの安酒というのはあまりイメージがないと思うが、確かに存在した。ブランデーという酒自体が、熟成年数によって数多くの符号が存在するからね。そして符号があるということは、それに応じた酒があるということだ。もちろん安いのは熟成年数が浅いものだ。スリースターとかVOとかに属するものだな。

≪スライド図示 p20 ≫
熟成年数によるブランデーの区分け
スリースター
VO
VSO
VSOP
ナポレオン
XO
※ただし、コニャック・アルマニャック以外はメーカー独自の基準で付けられている。


これに加え、昭和期の日本では洋酒の蒸留酒にも日本酒と同じく等級が振られていた。設立時は1~3級まで、その後特級・一級・二級の3区分となった。この区分けが1989年まで、つまりいわゆる戦後の昭和の最初から最後まで一貫して行われたわけだな。

ウイスキーやブランデーと日本酒の等級制との違いは、その分け方だ。日本酒の級の分け方は官能検査であり、審議会が味を確かめて判断していた。その分基準のあいまいさが問題になったりしたんだがね。その一方で洋酒の級別は非常にドライで、原酒の配合率で決まっていたんだ。原酒が20%以上なら特級、10~19%なら一級とか、そんな感じよ。


≪コメント≫
renko:そういえば、ブランデーの安酒って聞いたことないわね。
merry:言われてみれば。お菓子に使うのかしら?
renko:それはそれでなんか嫌だわ。


≪自動セクション挿入≫
8.ウイスキー

ブランデーの話は手早く終わらせてウイスキーに進もう。というのも、ブランデーだとここからの話は輸入品は原酒100%だから特級扱いで、税金が凄く高かったという話にしかならないからだ。安い酒じゃなくて高い酒の話だな。

そんなブランデーに対して、ウイスキーは洋酒の中では安価な酒がかなり流通した。日本軍の指定品になっていたからね。ただ、このウイスキーという酒は上にも下にも物凄く幅のある酒だ。
高い方についてはあえて言うまい。新型酒の制度ができ、旧型酒が骨董のような扱いとなる前から、古文書のような熟成期間の酒や車が買えるような価格の酒がたくさんあったのがウイスキーだ。
それにもかかわらず、下の価格帯は甲類焼酎といい勝負ができるくらい、安価な商品が流通していた。というよりも甲類焼酎の洋酒版だな。だって、甲類焼酎で紹介したようなボトル、ウイスキーにもあったから。こんな感じで。

≪スライド図示 p16 ≫
甲類焼酎に負けず劣らずなビッグボトル!

では、これらのウイスキーが安い理由は何か、それを探っていこう。あともう少しだ!

≪スライド図示 p17 ≫

細かい手法の差は色々あるが、ウイスキーの作り方は概ねここに示したような形だ。片方がモルトウイスキー、片方がグレーンウイスキー。
……ここまでの話聞いていたら分かる人いるんじゃないかと思う。これ、貯蔵前だけ考えるとモルトが乙類焼酎、グレーンが甲類焼酎の作り方なのよね。仕上がりも似ていて、モルトは個性が強くて複雑な味わい、グレーンは風味が軽くあっさりとした味わいと言われている。つまり、グレーンウイスキーをどう使うかが価格を抑えるキモとなる。さらに言っちゃうと、ウイスキーの場合、原酒が100%とも限らない。ブレンド用アルコールを加えることで価格がさらに下がる、というわけだ。

≪スライド強調 p17 ≫

さらに、昭和期にはこれに加えて税金の差もあった。先ほど言ったようにこの時期は配合率によって等級が分かれていた訳なんだけども、一番下の二級は当初何%がボーダーだったと思う?はい、眠そうにしてる君、

≪メモ: merry≫
30%以上と回答

ふむ、3割は入ってないとダメ、と。じゃあそこの君は?

≪メモ: merry≫
10%以上と回答

なるほどなるほど。1割は言っていればまあいいかな、と。では答え。

≪スライド図示 p18 ≫
1949年酒税法 原酒混和率
特級 30%以上
第1級 5%以上
第2級 5%未満

1978年酒税法 原酒混和率
特級 27%以上
1級 17%以上
2級 10%以上

5%未満ですよ。凄いでしょ。1940年代では、理論上は原酒0%でも二級ウイスキーを名乗ることが出来た。そんな酒が流通していた訳ですよ。昭和期って凄い時代だね。廃止直前の基準が下に並べてあるけども、それでも10%以上17%未満。つまり一番安い価格帯のウイスキーは8割以上はウイスキーではない何かだったというわけだ。そりゃ値段は安くなるし、味も安っぽくなるわけだよ。

≪スライド図示 p19 ≫
ウイスキーの熟成

そしてウイスキーの味と値段を大きく左右するのが熟成だ。安酒がテーマだから、ギリギリまで短くしているということしかここでは解説しない。興味があれば各自調べてほしい。

えー、日本酒の項でも話したと思うが、伝統文化を継承するという観点もあり、この時代のブランドは結構な数が生き残っている。つまり、こういう製法の流れを受け継いだ酒が、今もスーパーの片隅でお手頃価格で並んでいるということだ。


≪自動セクション挿入≫
10.まとめ
最後にまとめに入ろう。

≪スライド図示 p21 ≫
安酒はどうして価格が安いのか
1.原材料が安い
2.製造コストが安い
3.税金が安い

そして、安酒を安酒たらしめているもう一つの要素は・・・・・・?


近代において、言い換えれば旧型酒において、安酒と呼ばれる種類の安価な酒が生まれた要因は3つ。ひとつは安価な材料が使えたこと、もうひとつがより効率的な手法で生産できたこと、さらに税金が抑えられたこと。これら3つの要因が安酒を安酒たらしめていたんだ。
ここで注目したいのが、味の要素が全くないことだ。つまり、安酒=不味い酒では決してないという所が面白い所だな。まあ、そうはいっても要因の2で連続蒸留のアルコールがどうしても出てくるから薄い酒になるのは否めないんだがな。
そして、ここまでいろいろと安酒の作り方を紹介してきたが、安酒を飲む環境というものも忘れてはならない要素だ。どちらかというと安酒というのはそれ自体の味や質よりも、安い酒からくるイメージの方が安酒を安酒たらしめているのではないかとさえ私は思うよ。どのブランドかも判らないような酒を出す場末の居酒屋、貧困層の多い地域で飲まれるカップ酒、質よりもアルコールを取りたい貧乏大学生など、安酒そのものよりも安酒を飲む人、飲む場面、飲み方によって大きく変わるんじゃないかと思うね。


≪自動セクション挿入 課題・レポート≫

これで今回の講義は以上。最後にレポート課題について。この講座は授業ごとに出るレポート課題のうち、2授業分を選んで提出という評価形式だったと思うが、私の出す課題はこちら。

≪スライド図示 p22 ≫
●レポート課題
現代にまで残る東京時代発祥の安酒のブランドを1つ選び、解説せよ。
何故安酒と判断したかの理由を必ず述べること。(A4 3枚程度)

今にまで続く安酒のブランドを探して、紹介してください。ただし、授業の最初に言った通り、安酒の基準はまちまちなので、必ず何故自分はこの酒を安酒と思ったかを書くこと。それだけじゃ3枚行かないと思うから、この授業で説明したような製法や税制、時代背景を調べて書いてくれると、良い点が来るんじゃないかと思います。

はいお疲れ様でした!

K14/2/5 17:58 end
------≪ 記録を終了しました ≫------
保存中です......
lib_9784_04.logに保存しました。

コメントは最後のページに表示されます。