他の妖怪がするという、一風変わった人間の食べ方というものを、私もやってみようと思ったのだ。
その冬の日は天気も良く、思い立ったが吉日ということもあり、すぐに私は人間を一人だけ山の市場で買ってきた。妖怪の山とはいえ、生きた人間はそれほど多くは流通していないのだが、その日は特別に運が良かったらしい。嬉しいことに人間の男の、年若く喰いでのありそうなのが手に入った。
家に帰って来ると、買ってきた人間は床の上に転がしておいて、私は"普通の"料理の本を確認した。
手枷足枷、耳栓、目隠しに猿轡とで雁字搦めにされて売られている人間は、そのまま首を刎ねて血抜きをして、腑分けしてから料理するのがいわゆるマニュアル通りの方法らしい。どのような料理法にしても、下ごしらえはおおよそ共通しているようだった。
買い物に行く前に記憶した内容と、寸分たりとも違いは無い。
もう読み返す必要もなさそうだと、私はその本は棚に戻しておくことにした。
次に私は、天狗の資料室で埃をかぶっていて、なんとなく借りてきたさとり妖怪専用の料理本を手に取った。
こちらだと、食べる部位によって違う、細かな下ごしらえの方法が記されていた。まだ読んでいない部分が多いが、とても興味深いし、この本こそが私がこのようなことを思い立った原因でもあった。
例えば、下ごしらえの欄には最初にどのような情報を与えるかで美味しく食べられる部位が変わる、という供述がある。さとり妖怪が言うのだから、それは相手の心境の変化を楽しむ食べ方なのだろう。
ちなみに私は、食べ慣れない者にもおススメな食べ方とあった、手の触れあいに興味津津だった。
ただ、私は心が読めない妖怪であるから、相手の反応を五感でもって観察して、相手の心境の変化を観察することになる。本にそのようなやり方は書いてなかったが、何事も経験である。
そして、私が実際に触れてみたところ、冬の寒空の下の市場で転がされていたせいか、人間の手はだいぶ冷たかった。別に哀れに思ったというわけでもないが、私はひとまず人間を抱き起して、むりやり座布団の上に座らせたうえで、改めて両手で包むようにその手を握った。
しかし、そうしていたのはさほど長い時間ではなかった。なにしろ、人間の手の冷たさに目新しさを感じていられたのもほんのわずかな間で、徐々に血の巡りが良くなり、いわゆる人肌にまで温かくなってしまえば、何の変哲もない人肌の手が目の前にあるだけだったからだ。冷たさの奥にある温かみは面白かったが、それが無くなってしまえば手を握り続ける意味は無い。
それに、ずっと手を握り続けていると、人間の方がまた違った反応を示すようになったから、そちら方も気になり始めていたのだ。
人間は猿轡を咬まされながらも、なにか言おうと唸り声をあげるようになったのだが、この場合の対応は二種類、本には書かれていた。一つは黙って観察する、もう一つは猿轡を外してやることだ。
私は当然、猿轡を外す方を選ぶ。どうにも私には、唸り声をあげる人間に楽しみを見出せる気がしなかった。
「おい、なんなんだコレは!」
そして、猿轡を外された人間の第一声はこれである。
料理本には、耳栓を外して対応してやる場合と、やはり無視して観察する場合とが記されていた。しかし、初心者は人間相手に優位を保つことが難しいことから、手を握ってやりつつ、しかし会話には応じず、しおらしくなるまで待つのがおススメだとある。
よって、初心者の私はそのまま無視することに決めたのだ。
「さっきからベタベタ触ってるお前に言ってんだよ!返事ぐらいしろってんだコラ!」
私はこのとき初めて知ったことだったが、五感をおおよそ封じられた状態にいた人間は、だいたいこうなるらしい。
外界から攫われて来る人間は、おおよそ生きる価値も死ぬ価値もない、無気力な者ばかりだというが、生存本能を呼び起こしてやれば、このように元気いっぱいに罵声を飛ばしたりもするようだ。人間とは不思議なものである。
と、本には書いてある。
ちなみに、この罵声はその人間の断末魔のような物で、心を読めない妖怪でも楽しむことができる貴重な食材らしい。しかし、元が生きる気力に欠けている人間だから、この空元気が続くのもせいぜい数十分だという。
「ハァ…ハァ…。おい、なんとか言えよ……」
そして、私が買ってきた人間は十分で力尽きた。
残念ながら私は罵声を楽しむ感性は持ち合わせておらず、大声をあげられるのも正直な話、近所迷惑だと思っていたから、気力が続かないのはありがたい。ただ、それとは別にして、情けないとは思うのだった。カニミソの少ない蟹を見た心地だろうか。
ただ、そんな感情はさておきで、一応はしおらしくなったので、本の指示に従って耳栓を外してやる。
「あ……」
「落ち着いたかしら?」
「な、なんだよ……」
声をかけてみても、気持ちがすっかりしぼんでしまっているのか、気の籠った言葉は返って来ない。
ちなみに本では、このとき最初に聞かせる音を選択するようにと書かれていたのだが、私はうっかり声をかけてしまったので、その方向で進めることにした。
「名前を教えてもらえる?」
「ひ、人に名前を聞くときには……」
「教えなさい」
「な、中村祐太です……」
何か尋ねるときには、軽く肩を小突いたり、金属を擦り合わせる音を聞かせると従順になるそうだが、私の場合は手を思いっきり握ることで言うことを聞かせることに成功した。まぁ、名前などどうでもいいのだが。
また本曰く、ここから先は好きなことを人間相手に言ったり聞いたりしても良いらしい。好きなことを尋ねて良いとは、もしかすると好奇心が強い私にとってはこれが一番楽しいし、美味しい時間なのかもしれない。
「年齢は?」
「19です」
「まだまだ子供ね。大学とかは?」
「……行ってません」
「へぇ、もう働いてたんだ?」
「いや……」
「ふぅん、つまり高校卒業してからは無職ってことね」
「………」
「まぁ、どうでもいいけど」
私の頭の中には、妖怪の山で得られるだけの外界の知識は、だいたい入っている。専門的な会話には当然ついていけないが、日常会話くらいは簡単だ。
「それより、いくつか話を聞かせてもらうわね」
「話……?」
「そう、貴方の19年の人生の中であった話」
相手に優位に立たれないように、ボロが出ないように気をつけないといけないが、そこは新聞記者として長年活躍している私にとっては造作も無いことだろう。
冗談などではない。私は妖怪の山の敏腕記者なのだ。
「でも、物ごころがつく前のことは聞けないだろうから、6歳くらいから1年ずつ順番に聞かせてもらうわね」
「はい……」
「6歳っていうと、小学校に入学した頃よね。友達は百人できた?」
「………」
「あら?どうかした?」
「あの……これはいったい何なんですか?なんで質問されてるんですか?」
しかし、こういうことはなにぶん初めてであるから、失敗もするだろう。
どうにも、この人間は早くも自分の立場を忘れてしまって、妙にリラックスしてしまっていた。現実逃避の一種なのだろうが、手枷足枷と目隠しをされていながらも、だいぶ平静を取り戻しているように見える。
私は慌てて本を読み返したが、そういう場合はそういう場合で楽しむのが良いとしか書いていなかった。人間の恐怖や狂気以外のところを楽しめるだろう、むしろ貴重なことだから是非とも楽しむべき、と。
「あー……あんたは天狗に攫われたのよ」
「天狗?天狗って、天狗の仕業の天狗ですか?」
「そう、天狗の食糧として。でも、ただ食べるのもつまらないから、こうしていろいろ問いかけをして、面白い答えを返してくるようなら、しばらく殺さないでおいてやろう、っていう話なのよ」
「そんなの聞いてない」
「教えてないし」
つまり、ここから先はマニュアル抜きの完全なアドリブの世界ということになる。
敏腕記者の実力が問われるときだが、正直、目の前の現実逃避してしまった人間を相手にどこまで優位に立てるのかは疑問だ。だが、それは私のせいではない。こんな人間の相手をするとしたら、どこの世界の敏腕記者でも私と同じような感想を述べるのではないだろうか。
「もういくつか答えちゃったじゃんか。天狗の癖にセコイ真似すんなよ」
「あー、はいはい。じゃあ今までのはノーカンにするから、それでいいでしょ」
「オッケー」
「ただ、敬語は使いなさい」
「おぶふっ」
そして、早くも優位に立たれている気がしたので、とりあえず一発殴っておいた。舌を噛まれると話をするのに問題がありそうだから、顔ではなく腹である。
「わ、わかりました」
「よろしい。では、さっきの問いかけから始めるわね」
「小学校一年生のときの滑らない話、でしたか?」
「下手なボケは減点対象ね」
「おぶふっ。ご、ごめんなさい」
身体にわからせるというのは、なるほど、口でいちいち説明するよりもわかりやすいこともあるらしい。
「小学校一年生のときは、やっぱり入学式が印象深いです」
「ふんふん……」
二発も殴ったりすると、話が脇道に逸れたりしたときも軽く腹を撫でてやるだけで従順になるから、効果てきめんと言う他ない。脇道に逸れないぶんだけ、早く話は進むし、深く聞き出すこともできて、私にとっては良いことずくめである。
しかし、それでも飛ぶように時間は過ぎる。小学校六年生までの話は二時間もかけてたっぷりと味わったし、中学校での生活も、三年間だから小学校の半分の一時間ほどで堪能させてもらった。
「恵まれた生活送ってたのねー。将来はお釈迦様にでもなりそうな贅沢っぷり」
「そうでしょうか?」
「まぁ、妻どころか恋人も居ないから、欲の空しさを知るには早いでしょうけど」
「そうですか……」
しかし、徐々に話す早さがゆっくりになってきた気もしていた。さすがに三時間も話っぱなしというのは、人間には辛かったのかもしれない。
そこで、別に相手を気遣ってというわけではないのだが、私もそこそこ満足していたので、少し休憩をはさむことにした。
「さて、少し休憩にするわね」
「それじゃあ、この目隠しもそろそろ外してもらえますか?」
「なにが、それじゃあ、なのよ。外さないわよ。馬鹿?」
「………」
私一人分だけのお茶を入れて、ほっと一息つく。
延々としゃべらされて喉が渇いているだろう人間を放置するというのはどうかとも思ったが、どうせ数時間後には殺されてしまうのだから、今更喉の渇き程度を気遣ってやるのもおかしな話である。
「あの……喉が渇いたんですが、水を飲ませてはもらえませんか?」
「手枷がついているけど、自分で飲めるの?」
「え、えっと……」
だが、求められてなおも断るほどには私も薄情ではない。
手枷を外すわけにもいかないから、私が手ずから匙で掬って飲ませてやることにする。しかし、見えていないせいか、やたらとこぼすからどうにも面倒であった。
もっとも、それでも目隠しを外すわけにはいかないのが私の辛いところである。大天狗などであれば目隠しを外しても外見で軽んじられることはないのだろうが、私は烏天狗なうえに童顔の部類だから困ってしまう。
「ありがとうございます」
「もっと怯えて貰わないと妖怪としてはつまらないんだけどー」
「はぁ」
「……まぁ、意味不明な悲鳴ばっかり聞かされるよりはマシだけど」
だが、目隠しを外さなければなにも問題は無い。姿が見えないぶん、想像で恐ろしい姿を思い描いてくれるのが人間というものだ。
「じゃあ、続きを始めるわよ」
「次は高校ですか……」
「あと四年ぶん、しっかり聞かせてもらうわよ」
「………」
他人の不幸は蜜の味とは誰が言ったことだろうか。
なるほど、他人の不幸話は確かに新聞のネタとしては人気が高い部類だ。新聞の読者にとっては他人の不幸話は蜜の味なのだろう。
しかし、当人から直接聞かされている新聞記者にとっては、とてもじゃないが蜜の味と表現できるものではない。
まさか、つい先ほど出会ったばかりの赤の他人がそんな重苦しいネタを差し出して来るとは、敏腕記者の私でも予想だにしなかった。
「高校一年のときには、家を引っ越しました」
気付けば私は、転校、いじめ、交通事故などと、暗い話に満ちた一年間を聞かされていた。別に気の利いたことを言ってやろうと思っていたわけでもないのだが、良い感想が思いつかずに、私はすっきりしない気分で聞くことに専念するしかなかった。
「高校二年のときには、親が離婚しました」
次の一年については、不登校、転校の提案、却下、家庭不和などの、小学校中学校までの楽しげな家庭環境が何処へ行ったのかと言わんばかりの、息苦しい日常生活を長々と聞かされていた。
もっと積極的に動けば良かったのではないかと言いたい部分もあったが、それができないこともあるのが人間ではないかとも思うから、結局は言えずじまいだ。それに、人間関係のやりとりで結果だけ眺めて文句を言うのはそもそもみっともないことだ。そんな説教が許されるのは、とことん時間に追われている閻魔くらいだろう。
「高校三年で、学校をやめて引きこもりになりました」
次の一年は、ほぼ完全な停滞だった。引き取り先の母親は自分にも責任があるだろうからと言い訳して、子供を放置して導きもせずに物だけを与えていた。子を養うために働いてもいたのだから、なにが悪いというわけでもないのだが、結果として子供は一年間なにもできずに家の中に閉じこもることになった。
「それで、去年になって、親が倒れました。脳卒中で、たぶん今も植物状態です」
不幸なのは、そこそこ親に蓄えがあったことだろう。
あと一年で成人するから、切り詰めれば成人するまでなんとか暮らしていけるだけの貯金が残されているから、という理由で遠くに住む親戚や離婚した父親には頼ることもままならず、一人で家の中に取り残されてしまった。
本来ならば、ここで奮起して一人立ちするのが筋だったのだろう。しかし、どうにも勇気を出せずに、ずっと一人で家に籠る生活を続けていたという。図々しいというべきか、阿呆というべきか。
しかし、成人する日が近づいていることだけはよく理解していたそうだ。いつまでも親の金に頼るわけにはいかず、働かなくては生きていけないことも。
「だから一応、家から出てみたんですけど……。まさか天狗に攫われるなんて思ってませんでした」
そして、至る現在。
家から出たといっても、まとまった金を懐に入れて、どこへ行くあてもなく彷徨っていただけだというから救いようがない。浮浪者と大差はなかっただろう。それに、人と顔を合わせるのが辛いからといって徐々に人気のない場所を探すようになったというから、幻想郷の神隠しに遭う条件はすっかり揃っていたと言って良い。
私がここでこの男の首を刎ねて、料理してしまっても幻想郷の誰も文句は言わないだろう。
「そう。それで全部なわけね」
「はい、これで全部です」
そして、外の世界でおおよそ忘れられていたこの男がいなくなったところで、気にする者はいないのだろう。
なんだか泣けてきた。
「じゃあ、殺すかどうか、答えを言うわ」
だから、私は……。
「あんたも物好きねぇ」
「いろいろ堪能させてもらったし。その分、お礼はしないとね」
夜中、人気が無くなる時間帯を選んで私は博麗神社を訪れていた。
大量の賽銭を放り込んでやったからか、夜中に起こされたわりに博麗霊夢の機嫌は悪くない。外来人を送り返したいから通り道をお願いしたいという話も、あっさり聞きいれてくれた。
ちなみに、肩に担いだズタ袋がその"外来人"だというのも、霊夢は興味なさげに聞き流してくれた。
「じゃあ、外に送り返すけど、袋から出してあげなくていいの?」
「幻想郷のことを覚えて帰られると厄介だし。私も一緒に行って、向こうで目隠しや手枷足枷も外してやるわ。私の場合、帰りは楽チンだし」
送ってくれさえすれば、あとは布団の中に戻ってくれても構わない。
私が最後にそう言うと、霊夢は鳥居に外界へと繋がる道を開けるのだった。小難しい儀式が必要なのかと思いきや、霊夢がその気になればあっさりと外界への穴は出来てしまうらしい。
そして、私がズタ袋を担いで穴を通り抜けた途端に、霊夢はそれを閉じてしまう。それだけ重大な行為だったということか、はたまた単に霊夢の気が早いだけなのか。まぁ、誰かが通りかかって騒ぎにならないとも限らないから、手早く済ませるに越したことはないのはたしかだ。
穴を通り抜けた先は、見慣れない林の中の寂れた神社だった。幻想郷の神社と違って雪掻きもされていないから、境内もなにも全部雪に埋もれてしまっている。
「さて、ついたわよ」
運送が済んだので、私はさっさとズタ袋を地面に転がす。
結界の外に出たせいか、どうにも身体が重くて仕方ない。それに、結界の内側へと引っ張られる気もしていた。
「ここはたぶん長野のどこか。近くに人家が見えるから、一人でも大丈夫ね」
ズタ袋から男を引っ張り出すと、目隠しはそのままで、手早く手枷足枷は壊してしまう。我ながら荒っぽいとは思う。
しかし、そんなことはどうでも良い程度には、あまり長くはこちらに居られる気がしなかった。仕事で気合いを入れているときはともかくだが、やはり外界は妖怪の私を拒絶するものらしい。
「あと、これは私からの贈り物だから、きちんと使うのよ」
だから、別れ際の大事なことなのに、説明がいいかげんになってしまうのも仕方のないことだ。
私は目隠しを外さないように言いつけながら、二枚の護符を手渡してやった。
「赤いのはイワナガヒメ様の力が籠った護符ね。今日のうちにお母さんの枕の下に入れてあげれば、きっと不老長寿のイワナガヒメ様の力が助けてくれるはずだから」
「え……」
「白いのは私の学業成就の護符。品質は保証しないけど、懐に入れておけばたぶん今年一年は勉強がハンパなく捗ると思うから、是非使ってね。あと……」
戸惑っている男を半ば無視して、私はまくし立てる。
「あんたはまだ19歳なんだから、自棄は起こしちゃダメだからね?私みたいな天狗がわざわざ助けてやった人間なんだから、その人生はまだまだ見込みがあるってことよ?いろんな人に頼って、恥かいて、迷って、良い人生にしないとダメだからね?」
少し感情が籠り過ぎて、意味がわからなくなっただろうか。しかし、訂正している時間はないから言い切ってしまう。
「たかが引きこもりで無気力になるんじゃないわよ!引きこもりは自分を見つめる手段だと思いなさい!一年くらい寺で瞑想ばっかりしていたと思えばいい!一年くらい大したことないから!ぶっちゃけ私も引きこもり経験者だし!天狗だけど!」
幻想郷の方に、引っ張られる。
なんだか、ひどく情けないことを言いまくっている気がしたが、本当なのだから仕方ない。それに、目の前にいるのは大別すれば私の同類なのだから本当に仕方がないのだ。
「えっと……。応援してるぞ!天狗がずっと見ているから、頑張れ!それと……」
最後は尻すぼみになって、相手も対応には困っているようだった。
目隠しを自分でとって、私の方を見ようと……。
「……あれ?」
だが、それは幸運にも私が幻想郷に引き込まれるのが先で、私の姿がその両目で捉えられることは、ついぞ無かった。
話の途中で煙のように掻き消えた私を探す気配が、最後に少しだけ感じられたが、私の方もすぐに相手の姿を見失っていた。幻想郷に戻ってきたことが肌で感じられて、少しだけ寂しい気分にもなる。
妖怪の山の通り道ではどこの物好き烏天狗に見つかってはネタにされやしないないかと不安であるから、このやり方にしたのだが、やはり時間が足りなかったかもしれない。いや、過ぎたことは仕方がないが……。
「……うん?」
ただ、自分が何処にいるのか分からないと気付いたとき、妙な寒気が走った。
私はとっさに、嫌な予感と共に振り向いていた。
あぁ、このやり方だと、そういうこともあるよな。
そのとき私は、背後に立っていた二人にずっと睨まれていたことに気付いたのだった。
「てへっ」
そこに居たのは、白面金毛の妖狐と、金髪の……。
後日、私は満身創痍で床に伏せつつ、外界で撮られた母子の写真を念写して、痛みに涙を流しつつ頬を緩ませる。
「うー、楽しそうだなぁ。どんな気分なんだろう」
私は別に人間の話で腹が膨らむ妖怪でもなんでもないのだが、写真の中の母子の話ばかりは、聞けたら良いのにと思わずにはいられない。
あぁ、人の心を食べる妖怪の気持ちとは、こういうものなのだろうか。
胸のあたりがしくしくして、切ない気分である。
たしかに、今の私の気持ちを彼らのやり方で表現すると、こうなるのかもしれない。
「お腹すいたなぁ……あ」
だが、そう言った瞬間に腹の虫がなったのは完全な偶然に違いなかった。
俺も天狗に応援されてえ……。
そんな和やかな気持ちを堪能できました。
面白かったです。
妖怪でありながら人を助けるなんてきっと彼女も仮面ライdゲフンゲフン