お題:正しい天邪鬼と食えない神様 〜命蓮寺〜 早苗「――こないですね……」 お燐「そうだねぇ」 妖夢「一応、日時は伝えてあるのよね?」 鈴仙「ええ、咲夜が」 咲夜「伝えてありますわ」 早苗「う〜ん、それならもう来てもいいころなんですけど……」 布都「だが、こう言ってはなんだが、そやつは天邪鬼なのだろう? 素直にくるとも思えぬが」 星  「ううむ……」 鈴仙「でも、顔ぐらい見せてっていったんだから、来てくれても……」 布都「天邪鬼がそんな簡単に従うわけなかろう。強引に引っ張ってくるぐらいしか方法は無いと思うが」 妖夢「ですが、それでは……」 咲夜「意味が無い、わね」 星  「……うん、ではここは私が」 早苗「どうしたんですか、星さん」 星  「ちょっと私がその正邪殿に会ってきましょう。説得できるかどうかはわかりませんが……」 お燐「う〜ん、トラのお姉さん疑うわけじゃないけど、難しいんじゃないかなぁ」 星  「まあ、そうですが、かといって何もしないのも、ね」 お燐「……まあ、お姉さん無理なら、ほかの連中も無理そうな気はするけどね」 星  「ははは、まあそんな大それた者ではありませんが、微力を尽くしますよ――(席を立つ)――では、行ってきますね」 咲夜「いってらっしゃい」 布都「――待て、寅丸」 星  「あ、はい。なんでしょう」 布都「……延年の方位は向こうだ。そっちへ行くがいい」 星  「布都さん……わかりました。どうもありがとうございます」(ニッコリ 布都「ふん……貸し一つだぞ」 星  「ええ、今度おいしいお茶かお酒でも持っていきますよ(笑)」 布都「……よし、許す。では行ってこい」 星  「はい。それでは皆さん、行ってきますね」 皆  『行ってらっしゃい』 〜星出発後〜 咲夜「ちょっといいかしら?」 布都「なんだ?」 咲夜「さっきの『延年の方位』って何?」 布都「風水において中吉の方位だ。わかりやすく言えば繁栄、持続、人間関係といったものに効力を発揮する」 鈴仙「でも、風水ってそんな向かう方角指し示すものだっけ?」 布都「……単に、その正邪とやらがそっちにいるというだけのことよ。寅丸にその方角を教えてやっただけだ」 お燐「わ、すごいね、そんなのまでわかっちゃうんだ」 布都「その正邪とやらもこっちを見てはいるのだろう。どんな理由かは知らんがな」 妖夢「それで、『そっちへ行けばいい』って言ったんですね」 布都「そうだ。後は奴の腕、いや、舌次第よ」 咲夜「なるほどね」 布都「ああ見えて奴は結構舌が回る。お手並み拝見と行こうか」(←茶を啜る 早苗「……へぇ〜」 布都「……なんだ、早苗。突然ニヤニヤして」 早苗「いえ、布都さんっていつも星さんに突っかかりますけど、そういうところは信じてるんだなって(笑)」 布都「……お前のところに大凶の気でも送り込んでやろうか?」 早苗「いいえ、それは遠慮しておきます(汗)」 咲夜(照れてる照れてる) 〜ちょっと離れた高台の林〜 正邪「ふぅん……アレが命蓮寺、か。あんなところで雁首そろえて、暇な連中ばっかりだな」 星  「――失礼、鬼人正邪殿ですか?」 正邪「――っ……!? ……ち、違う」 星  「なるほど、あなたが正邪殿でしたか」 正邪「違うって言ってるのに……」 星  「ふふ、天邪鬼であるあなたが否定するということは、逆に正しいということでしょう」 正邪「ちっ……お前は?」 星  「おや、これは失礼。私は寅丸星。命蓮寺の本尊代理をしております」 正邪「あの成り上がりの神様か。……他人の言動いきなり逆手に取っておいて、失礼の一言で済ますとは、ずいぶん大概な神様だな。まあ、いい。私に何か用か?」 星  「ええ、いつまで経ってもお見えにならないので探しに参りました」 正邪「なんのことだ? ……って、こういう言い方したら逆にばれるんだったか」 星  「残念ながら(笑)」 正邪「ったく、やりにくい。……それで? 私の首に縄でも引っ掛けてつれてこうって腹か?」 星  「いえ、ちょっとお話に参りました」 正邪「……説教でもしようってのか、神様自ら」 星  「いえ、そんなつもりは……」 正邪「生憎だがね、私は素直に他人の言動に従うなんてのは真っ平ごめんだ――と言うより、素直に従えというのが無理な相談なのさ。天邪鬼なんだから」 星  「……」 正邪「さて、そんな私に対して、偉い神様はどんな説教をする気だい。私に正論や常識なんてのは通用しないよ、だって――」 星  「――天邪鬼なんだから」 正邪「……?」 星  「……私からあなたに説教することなどありませんよ。あなたは、間違ったことなどしていないのだから」 正邪「……へえ、他人の台詞を取ったかと思えば、随分突飛な事を言うね。何が言いたい?」 星  「――あなたは天邪鬼であるが故に正しい道を歩んでいる、と」 正邪「……」 星  「あなたは天邪鬼だ。だからこそ、皆と正反対の行動を取るのが正しいあり方でもある」 正邪「ふぅん……」 星  「そして、それがあなたにとっての正義。なればこそ、私が方向を無理やり変えることに理などありません」 正邪「……へぇ、こいつは驚いた。神様ってのは随分といい加減なもんだ」 星  「褒め言葉と受け取らせていただきましょう。――ですが、あなたにも、嘘を吐けない、反対できないということはあるのではないですか?」 正邪「まあ、あるさ。おっと、これも嘘だと思われるかな? ……それで、私に本音を語らせようって腹かい?」 星  「さて、どうでしょう?」 正邪「まあ、いい。――私は嘘つきでひねくれ者さ。他人を騙したくてしょうがない。他人に反抗したくてしょうがない」 星  「……」 正邪「もちろん、他人に本当のことなんて言ってやるもんか。それこそが私の生き様、有り様だ――だけど、そんな欲望だけは本当のことなのさ」 星  「……」 正邪「っと、口が滑ったかな。まあ、いいさ。これを信じるか信じないかはあんた次第。……さあ、どう答える? 偉い神様」 星  「……。……あなたは――」 正邪「……」 星  「――いえ、私は、それでいいのだと思います」 正邪「ほお」 星  「ですが、敢えて私もひねくれて見せましょう。――あなたの天邪鬼としての、その生き様に対して」(←宝塔を取り出す 正邪「……私を、退治しようってのか? 妖怪であるお前が、妖怪である私を。力のある神となった妖怪が、力のない反逆者でしかない私を」 星  「いえ――私のひねくれ方。それは、あなたの生き様の解釈です」 正邪「……どういうことだ?」 星  「――あなたは、逆に素直になってもいい」 正邪「……。……なぜ、と聞いたほうがいいか」 星  「『天邪鬼はひねくれ者である』……その解釈からひねくれていい」 正邪「……」 星  「……あなたは、天邪鬼であることから天邪鬼になってもいい。それもまた、天邪鬼としての生き様に反するものではないのだから」 正邪「ふぅん……なかなかのひねくれた解釈じゃないか」 星  「――どうですか? あなたも、私たちと一緒に」(←右手を伸ばす 正邪「ふん……なかなか言うじゃないか。正義一直線かと思ったら、結構食えない性格してるね」 星  「ええ、よく言われます(笑)」 正邪「はっはっは――面白い」(ニヤリ 星  「では……」 正邪「――だが」 パシッ(←正邪、星の右手をはたく 正邪「お断りだ」 星  「……」 正邪「そこで頷いたら天邪鬼の名が泣く。丁重に辞退させてもらうよ」 星  「そうですか……それは残念です」(←手を引っ込める 正邪「――まあ、あんたには興味が湧いた。次からは参加してやるよ」 星  「……え?」 正邪「聞こえなかった? 次からは行ってやるって言ってんの。それとも何か、やっぱり信用できないか?」 星「いえ、どういう風の吹き回しかな、と」 正邪「さっき言っただろう? そんな欲望だけは本当のことだ、って。天邪鬼でも、自分のしたい事には嘘はつけないんだよ。お前に興味が湧いたから行く、それだけさ」 星  「そうですか……ええ、楽しみにしておきますよ」(ニッコリ 正邪「くっくっく、本当に食えない奴だ。そこだけは気に入ったよ、神様『代理』」 星  「それは最大級の褒め言葉として受け取らせていただきますよ」(ニッコリ 正邪「ああ、信じるか信じないかは勝手だけど、天邪鬼としては最高級の褒め言葉だ(ニヤ ――さあ、もう行った行った」 星  「それでは、次回お待ちしております」(←深々と一礼をして踵を返す 正邪「期待するなよ」 星  「残念ながら、期待させていただきますよ(笑)」 正邪「嫌味な奴だ(笑)」 星  「(2、3歩歩き、振り返る)ああ、それと――」 正邪「なんだ、まだ何かあるのか?」 星  「――私は別に力があるわけではありませんよ。全てはこの宝塔のおかげですから。私はただの、力の無い『寅という幻想』の妖怪です」 正邪「……。……嘘を言っている……雰囲気ではないな」 星  「ええ、事実ですので」 正邪「そうかい。――じゃあ、いいことを教えてやる。……真に力のある者は、それが力であるということに気づかない」 星  「え?」 正邪「なに、力の無い者からの僻みさ。だが、それが反逆心を生むんだ。心しておきな。――お前が本当に神様『代理』に相応しいならね」 星  「……わかりました、ご忠告ありがとうございます」 〜星が去ったあと〜 正邪「――自虐も過ぎれば睨まれる。謙譲も過ぎれば嫌味になる。そして、韜晦も過ぎれば警戒される……くくっ、なかなか面白そうじゃないか、寅丸星。あいつのいる集団……なかなか一筋縄ではいかなさそうだな」 〜命蓮寺〜 星  「――ただいま戻りました」 妖夢「お帰りなさい、どうでした?」 星  「今回は無理でしたが、次回からは参加する、とのことです」 お燐「え、すごいね、説得しちゃったの?」 星  「まあ、どうにかこうにか(笑)」 早苗「すごーい!」 鈴仙「……でも、本当にくるのかしら?」 星  「まあ、それは……ご本人が興味を持ちましたので(笑)」 鈴仙「そっか。それなら私がとやかく言うことじゃないわね」 咲夜「お疲れ様、紅茶をどうぞ」 星  「あ、ありがとうございます……あちち」 咲夜「慌て過ぎよ」 星  「あはは……お恥ずかしい」 布都「ふん、やはり口は達者だな。我の論敵なだけはある」 星  「いえいえ――しかし、今日は特にひねくれた褒められ方をされますねぇ(笑)」 布都「……貶されないだけありがたいと思え」 星  「ご尤もで(笑)」