早苗が爆発した。 私は爆心地から少し離れたカフェテラスで、レモンティーを飲みながらそれを見ていた。 ここまで爆風が届くのだから、この爆発の凄まじさがうかがえる。 いかにあの丈夫な早苗とはいえ、いまの爆発は少し危険なのではないだろうか。 濛々と立ち込めた白煙が霧散すると、そこにはアフロになった早苗がいた。 遠目に確認すると、服には焦げ一つついてないどころか、周りに何一つ影響がなかった。唯一つ、髪の毛以外を除いて。 あれほどのどえらい爆発を起こさせておきながら髪にしか影響を及ぼさないというのは、成る程、奇跡というほかないだろう。 人里に突如として鳴り響いた爆音に人々は驚き、その出処を目で追った。 しかし、それが早苗から発せられた爆発だと認識するやいなや、人々は爆発から興味を失った。 またぞろ新たな信仰を集める営業だと認識されたのだろう。 人里の今月の標語は「むやみな信仰控えよう」である。 そもそも、早苗は元から爆発したようなやつである。 この程度の爆発で気にかける必要はなかったかもしれない。 「魔理沙、早苗が爆発してるわよ」 いつの間にか対面の席に座っていた魔理沙に話しかけたが、返事はなかった。 魔理沙はいつの間にか注文していたかき氷に夢中だった。 シロップの色から察するにレモン味だろうか。 「……ちょっと頂戴?」 「ヤダ」 レモンティーのストローを引き抜き、かき氷に向かわせたがあっさりと避けられてしまった。 「ケチ」 「私は今暑くてたまらないんだ。欲しけりゃ頼めばいい」 ふむ。 魔理沙をよく見ると汗だくだった。 私自身が暑さを感じないため気付かなかったが、今日は猛暑日らしい。 早苗もこの暑さで頭がおかしくなって爆発してしまったのだろうか。 「ん?」 魔理沙が怪訝な声を上げた。 視線の先を追うと、何やら空から小さな物体がこちらに向かって飛来しているのが見えた。 上海人形にキャッチさせる。 「……これは」 「早苗の髪飾りだな」 早苗がいつもつけているカエルの髪飾りだった。 こんなところまで飛んできたのにやはり傷一つついていなかった。 冷静に考えてみると、これはもしかしてすごい爆発なんじゃないだろうか。 ここまでコミカルな爆発というものはもう二度と見れないのでは。 早苗の方向を見ると、何やら子供たちに囲まれていた。 持ち物からして寺子屋帰りの生徒だろうか。 「上手いな。ちょうど寺子屋が終わる時間を見計らってたんだ。好奇心旺盛な子供たちなら興味を持つに決まってる」 なるほど。 魔理沙の分析に納得してしまった。 そこまで考えてのあの爆発だったのか。 確かに子供たちはアフロ早苗に興味津々のようだった。 そこから言葉巧みに人心掌握して守矢信者にしてしまうのだろう。 早苗はすごい。 「どうするんだ、それ?」 右手に持ったままの髪飾りの行方を尋ねられた。 上海に届けさせても良かったが――。 私は懐からがま口を取り出した。 「……行くのか?」 「ええ。早苗の頭の様子も気になるし、ね」 チャリン、とガラス張りのテーブルに硬貨を置いた。 その言葉は嘘では無い。 実際、人里の往来で爆発するなどという社会的常識が抜け落ちた行為をする早苗が心配でもあったし、 決して私があのコミカルな爆発に興味を持っていて、早苗にやり方を聞こうとか思っているわけではない。 「そうか……。おい、アリス!かき氷の代金が足りてないぜ!」 何をいけしゃあしゃあと。 魔理沙は放っておいて、木製のデッキから降りた。 暑さは感じないが、日差しが眩しい。やはり今日は特別に暑いらしい。 早苗が心配だから、急いだほうが良いかもしれない。早苗が心配だからね。 少し小走りになって、早苗のいる方に向かった。 そして―― ――爆発音がした。 どうやら早苗が子供を爆発させたらしい。 アフロにさせられた子供が笑っている。 周りの子供達も、早苗も、爆発したというのに皆笑っている。 次は僕も、私も、などと子供たちが早苗にせがんでいた。 早苗もそれを了承したのか、次々に子供たちを爆発させる! このままでは、寺子屋の生徒たちが全員アフロになってしまう。 それはちょっとした異変だ。 そうなってしまえば、早苗は慧音に頭にガツンとやられてしまう。 そのことを、早苗は分かっているのだろうか? 当の本人はそんなこと微塵も気に留めていない様子で、立て続けに幻想郷にアフロ人口を増やしていく。 ――ああ、もう! 爆風が私を次々と撫でて擦り抜けていく。 胸の高鳴りが抑えられない。 いてもたってもいられなくなり、脇目も振らず走りだす! 連続する爆発音と輪唱する蝉の大音声が、どうしようもなく私に夏を感じさせた。 「早苗ー!私にも――」 そのコミカルな爆発のやり方を教えてほしい! ――そう、口にする前に、 右手に持っていた髪飾りがコミカルに爆発した。