『作内順序』 長女:寅丸(親代わり) 次女:咲夜(星より2歳↓ ちょっと孤独好きなお年頃) 三女:お燐(咲夜より1歳↓ 人懐っこい) 四・五女:鈴仙・早苗(双子。燐より1歳↓ はっちゃける早苗(妹)と苦労人の鈴仙(姉)) 六女:妖夢(れいさなより2歳↓ 実直な末っ子。憧れの人は長女) 《5ボス家》 「ふう、お茶が美味しいですねぇ……」 星が家の縁側でお茶を飲んでいると、 「ただいま帰りましたー!」 元気いっぱいな帰りの挨拶が聞こえてきた。姉妹の中でアレほど元気な挨拶をするのは早苗しか居ない。 星は湯飲みを置いて、元気な妹を出迎えた。 「お帰りなさい、早苗」 「ただいまです、星お姉ちゃん。……あれ、鈴仙ちゃんはまだ帰ってないんですか?」 挨拶もそこそこに矢継ぎ早に言葉を発してきょろきょろとする早苗。どうやら鈴仙を探していたらしい。多分、学校で見失ったから『先に帰ってるかも』とでも思ったんだろう。 星は苦笑しながら早苗を押し留めた。 「鈴仙なら、まだ帰ってきてませんよ。私の次に帰ってきたのは早苗ですね」 「そっかー……残念、ちょっと服借りようと思ったのに」 その答えを聞いた早苗は、腕を組んで呟き始める。どうやら何か企んでいるようだ。 「なにかあったんですか?」 星が聞いてみると、早苗は憤慨したように言葉を繋げた。 「そうそう! 聞いてくださいよ、星お姉ちゃん! 霊夢ったら、今度は『服なんてどうでもいいし』とか言い出したんですよ!」 「霊夢? ああ、博麗さんのことですか?」 博麗霊夢。彼女は早苗の友人で、星とも何度か面識がある。 「そうですそうです。年頃の女の子なんだから、もっとお洒落に気を使うべきなんですよ! なのに霊夢ったら……」 ――要約すると、霊夢が服装に無頓着なことに早苗が怒ったらしい。それで私服にも洒落た物が多い鈴仙の力を借りようと思ったのだろう。 苦笑した星は、早苗を諭すことにした。 「早苗、他人様に無理やり強制するものではありませんよ。博麗さんだって、普段の格好が気に入ってるから、あまり洒落た格好をしないんだと思いますよ」 「そうですけどー……やっぱりもったいないですよー、霊夢可愛いのに」 憤慨してるのは、早苗なりの優しさの結果である。彼女を見栄え良くしたくてあれこれと考えているのだろう。霊夢にとっては大きなお世話かもしれないが、彼女が早苗を邪険にしないあたり、嫌がってはいないように見えた。会ったのは数度だが、特に早苗と問題を起こしていたわけでもない。その数回とも、毎回早苗が憤慨していたような気はするが。 ともあれ、お節介と言われるかもしれないが、それが早苗流の好意の表現だというのは姉である星が一番分かっていた。 「あはは、私だってあまり気を使わないですからね。博麗さんの気持ちはなんとなく分かりますよ」 「むう、星お姉ちゃんだってカッコいいんですから、もっと気を使ってくださいよ〜」 目の前にいる自分の姉も、問題の霊夢並に洒落っ気とは無縁と気付いてふくれっつらをする早苗だが、当の本人である星は軽く流した。 「おだてたって何も出ませんよ。ところで早苗、勉強は大丈夫なんですか?」 「え!? え、えーと……あ、あはは、この話はまた今度ということで……」 頭の上がらない姉には触れられたくない話題だったのか、早苗は後退るようにして自分の部屋へと逃げていった。 「やれやれ、しょうがないですねぇ」 縁側に戻りつつ、ふぅ、と息を吐く星だが、別に呆れているわけではない。そもそも早苗の成績は悪くないのだ(良くもないが)。単に勉強が嫌いなだけで。 それだけでも問題な気はするが、かと言って叱るほどでもないので心配しつつも様子を見ている星である。 「さて、そろそろ皆帰ってくるころですね、おゆはんの準備でもしましょうか」 縁側に戻ったばかりの星は、僅かに残っていた茶を飲み干すと、台所へと足を向けた。 「ただいまー」 星が台所に入ろうとしたところで、今度は燐が帰ってきた。 「お帰りなさい、燐。今日は遅かったですね」 「うん……ちょっとね」 燐は何か沈んだ表情をしている。何かあったのだろうか。 「大丈夫ですか? 疲れた顔をしていますが……」 「んー、ちょっとね……」 同じ台詞を繰り返し、ため息をつく燐。何かに呆れているようにも見える。 そんな様子を見ていた星は、ひとつ思い当たった。 「また、お友だちのことですか?」 「まあね〜」 今日は友人関係に悩む日なのだろうか。星はそんなことも思ったが、とりあえず続きを聞いた。 「とりあえず……これ見てくれる?」 燐が差し出したのは、校内新聞だった。 「どれ……あ、これは燐のお友達の霊烏路さんですね」 差し出された新聞に載っていたのは一人の少女が茶道に勤しんでいる姿だった。見出しには『中等部2年の霊烏路空さん、茶道の家元に認められる!』と書かれている。まあ、この校内新聞はいつも誇大に見出しを作るので、多少は割り引く必要があるだろうが、それでも立派なことを成し遂げたということは分かる。 そんな見出しに大きく載っている少女、霊烏路空は燐の親友で、学校内での有名人である……いろんな意味でという但し書きつきの。 ともあれ、燐はそんな友人が載った記事の、本当の顛末を語り始めた。 「まあ実際は、たまたま茶道部に見物に来てた家元さんのお弟子さんが『筋がいい』、って言っただけなんだけどね。あいつ、茶道部じゃなくて科学部だし」 「それでも見事なものじゃないですか。中学生でこの腕前は十分に立派なものですよ」 星が手放しで褒めると、燐は少し笑顔になって、自分のことのように喜んだ。 「えへへ……あいつ、礼儀作法は完璧だからね。親友として鼻が高いよ」 友達の吉事を自らのことのように一緒に喜べることが燐のいいところだ。だからこそ、燐は友達も多く頼られる存在になっている。 星もにこやかになって聞いていたいところだが、それなら何で最初に沈んでいたのか疑問が残る。 「でも、それなら、どうして沈んでたんです?」 「そうなんだよ……礼儀作法は完璧なんだよ……なのにさぁ」 星の質問に、さっきまでの笑顔はどこへやら、またも疲れた表情をした燐は急に落ち込みだした。 「何であいつ、国語とかは壊滅なんだよぅ……」 ――燐によるとその霊烏路さんは、礼法は誰が見ても文句のつけようが無いほど完璧で、理系に関しては天才とまで言われるほどだが、文系科目が壊滅的にダメらしい。 おかげでテストで玉砕し、居残りさせられていたため、燐も付き合って居残りしていたそうな。別に自分まで居残りしたことに文句を言いたいのではなく、単に釈然としないものがあるのだろう。純粋に友人を心配していることもあるだろうけども。 鬱々としている燐を見かねた星は、元気付けるようにこう言った。 「一芸に秀でることはいいことではないですか。霊烏路さんの場合は二芸にも三芸にも秀でてるんでしょう?」 とんがった天才というのはどこにでも居るものである。 「そうだけど……」 「燐はそうやって、直ぐ深く考え込むところがありますからね。ちゃんとポジティブに考えないとダメですよ? 気が滅入っちゃいます」 「うん……」 燐は星の言うように、少し深刻に考えすぎるところがある。普段は明るくて面倒見のいい姉御肌だが、実は凄く真面目でさびしがりやなのだ。どうも周りの期待に応えたがるところがあるため、星も心配していた。 「話を聞く限り、霊烏路さんもいい子だと思いますよ。勉強の一部ができないからといって深刻に考えなくても大丈夫ですよ。燐のお友達なんですから」 「……うん、そうだよね。ありがと、星姉さん」 「そうですそうです。燐もいい子なんだから、そんなに悩んではいけません。笑顔です、笑顔」 なでなで。 「……///」 星に頭を撫でられた燐は顔を赤くすると、パッと一歩さがった。 「もう、あたいらだっていつまでも撫でられてばかりじゃないよ」 「あはは、私はまだまだ撫でたいですねぇ」 ニコニコした星にはぐらかされたことを悟ったか、燐は顔が赤いまま自室へと戻っていった。まあ、気は晴れたようなので今日はもう大丈夫だろう。 よし、とつぶやいた星は、今度こそ台所に入って夕飯の準備を開始することにした。 と、 「……燐も真面目なことね」 そこに咲夜が現れた。 「おや、いつからそこに?」 「今しがたよ」 短く答えた咲夜は、ついっとそのまま去ろうとした。 「大丈夫ですよ、燐はつぶれたりしません。あの子は強いですからね」 「……なんのことかしら」 「心配してる姉が二人もいるんです、つぶれたりなんてさせやしませんよ。ね?」 「……少し寝てるわ」 星の言葉に咲夜はそれだけ告げると去っていった。最初から最後まで話を聞いてて心配になったんだろう。 咲夜はつっけんどんに見えるが、なんだかんだで妹たちを心配しているのである。最近は一人で居ることを好むようなところがあるが、姉妹を邪険にするところは見たことが無い。 星は素直じゃないんだから、と微笑むと、今度こそ台所へ入っていった。「まあ、咲夜を起こすのは大変なんですけどねぇ……」とつぶやきながら。 「星姉様、ただいま帰りました」 「お帰りなさい、妖夢」 緑の服を翻しながら帰ってきた妖夢を、星は笑顔で出迎えた。 「今日の剣道の稽古はどうでしたか?」 「はい、先生にお褒めの言葉を頂きました」 妖夢は末っ子ながら武道を志し、姉である星の槍術に対して剣道を習っている。なかなか筋がいいそうで、星としても鼻が高い。 「よくがんばりましたね、偉いですよ」 「えへへ……///」 星がにっこりと微笑んで頭を撫でると、妖夢ははにかみながら嬉しそうに頬を紅潮させる。が、再び直ぐに真面目な顔に戻った妖夢は、少し名残惜しそうに星から離れた。 「すみません、星姉様。今日はちょっと宿題が多いので……。今から取り掛からないと間に合いそうも無いんです」 そういう妖夢は、少し複雑そうである。妖夢は残念ながら剣道ほど学業が得意ではないからだ。 「おや、それは大変な……。分からないところがあったら皆に聞くといいですよ。もちろん私にも、です」 「はい、お願いします、星姉様。ですが、まずは自分でがんばってみたいと思います」 両手に握りこぶしを作って気合を入れた妖夢は、ずんずんと自室へと向かっていった。 「――あ、それと星姉様」 「? はい、なんですか、妖夢」 障子戸を開ける前にもう一度振り向いた妖夢は、ちょっと恥ずかしそうに尋ねた。 「今日の御飯は何でしょうか?」 「今日は肉じゃがですよ。みんな疲れてるみたいですから、いっぱい食べてくださいね♪」 「やった! はいっ!」 妖夢は今度こそ、さらに嬉しそうに部屋へと入っていった。 きっと稽古に熱中しすぎてお腹ペコペコだったんだろう。普段は生真面目一直線で堅苦しいけど、こういうところで喜色満面になる辺りはまだまだほほえましいところがあって、星は嬉しくなる。 「あの笑顔を見ると、一段とやる気が出てきますね。さあ、がんばっちゃいますよー!」 末っ子と同じく気合を入れた長女は袖をまくって、まずは米研ぎから始めるのであった。 ――そろそろ鍋が煮えるといったところで、星ははた、と気がついた。 「そういえば、鈴仙がまだ帰ってきてませんね……どうしたんでしょう」 「ふわぁ〜あ……どうしたの?」 考え込む星の後ろから、なにやら気だるそうな声が聞こえてきたと思いきや、いつの間にか後ろに咲夜が立っている。 「ああ、咲夜。珍しいですね、一人で起きてくるなんて」 「宿題あったの忘れてた」 「あ、ああ、そうですか……」 どうも寝入ろうとしたところで宿題があったことを思い出し、急ピッチで終わらせたらしい。それで肉じゃがの匂いにつられてやってきたってところなんだろう。 「鈴仙のことだから心配は要らないと思いますが……」 「そうねぇ……どうせだから私が探しに行く? 星姉はお鍋見てなきゃいけないでしょう」 「ううむ……」 眠気覚ましもかねた散歩のつもりなのか、咲夜がそんな提案をした矢先、 「――送ってくれてありがとう。それじゃあね。……ただいまー」 その本人が帰ってきた。それも誰かと一緒に居たらしい。 鈴仙はそのまますたすたと歩き、台所の入口からぴょこんと顔を出した。 「お帰りなさい、鈴仙。今日は遅かったですね」 「星姉さん……と、咲姉さんもいたんだ。ごめん、二人とも。友達の手伝いしてたら遅くなっちゃった」 ばつ悪げに頭をかきながら、鈴仙は二人の姉に頭を下げる。 「いえ、無事で何よりです。今から咲夜が探しに行こうかとしてたところですよ」 (ぷいっ) 星のため息混じりの台詞と共に、咲夜がそっぽを向いた。照れてるのだろう。 「そんな、大げさよ。ちょっと妹紅に頼まれて彼女の家の手伝いしてただけだってば。お礼で焼き鳥ちょっともらったけど」 慌てて手を振りながら釈明をする鈴仙は、確かになにやら小包を持っている。と、同時になにやら香ばしい匂いが漂ってきた。 妹紅とは鈴仙のクラスメイト、藤原妹紅のことだろう。ちょっと男の子っぽい雰囲気を持つ少女だと星は聞いている。 「ほら、妹紅の家って焼き鳥屋さんだから……週末は忙しくなっちゃうのよね。だから手伝い頼まれたんだけど、思いのほかの繁盛で……」 「あっ、鈴仙ちゃん、丁度いいところに」 説明を続ける鈴仙を遮ったのは、いつの間にかやってきていた早苗だった。 「鈴仙ちゃん、ちょっとお願いがあって」 「……また? 今度は何なの?」 鈴仙はハァ、とため息をつきながら額に手を当てた。毎度のことなので、最早何を言う気にもなれないのだろう。 早苗も毎回心底申し訳なさそうに頼む辺り、第一に頼りたい相手なのかもしれない。 「うん、鈴仙ちゃんが着てない服、ちょっと貸してくれないかなー、って思って……ダメ?」 「……別にそのぐらいいいけど、理由ぐらい聞かせてよね 「ありがとう!」 喜色満面の早苗にもう一度ため息をついた鈴仙は、星と咲夜に向かってすまなさそうに右手を前に出して『ごめん』のポーズをした。 「――ごめん、星姉さん、咲姉さん、話は後でするわ」 理由が分かっている星は、にっこりと笑って頷いた。 「ええ、大体分かりましたから、気兼ねなく手伝ってあげてください」 「ありがとう。じゃあ、これ、妹紅からのお礼。『お姉さんや妹さんたちと食べてくれ』って。それじゃ」 「ごめんなさい、星お姉ちゃん、咲夜お姉ちゃん」 鈴仙は包みをおくと、早苗に引っ張られるように二人の部屋へ消えていった。 「……相変わらず、鈴仙は早苗に甘いわね」 ふぅ、と息を吐きながら咲夜が呟くと、星も笑って同意した。 「ああ見えて、鈴仙も早苗が好きなんですよ。ちゃんと頼りにされてますからね」 「……そうね」 咲夜はそれだけ呟くと、そのまま台所を出て行った。 星はそれを見届けると再び用意に戻る。 「さて、せっかくですし、藤原さんからの頂き物も並べてしまいましょうかね。……お、これはおいしそうな……っとと、我慢我慢、ツマミ食いはいけません」 星は思わず手を出しそうになりながらも、夕飯の準備を着々と進めていった。 「ご飯ですよー」 『はーい』 星の呼びかけに返事した5人がゾロゾロとやってきて全員席に着いた。 「みんなそろいましたね。――では、いただきます」 『いただきまーす』 6人も居れば、姉妹の食卓はどうしても賑やかだ。 割と静かな咲夜と行儀のよい妖夢は除くにしても、特に賑やかな早苗、喋り好きの燐と来て、二人にツッコミを入れる役割を担う鈴仙に、話をにこやかに聞く星となれば、そりゃ騒がしくなるに決まっている。最初の二人も会話に参加しないことも無く、食卓は華やかだ。 「――そういえば鈴仙、今日は遅かったけど何かあったの?」 「ああ、妹紅に頼まれてお店の手伝いをね。お客さん多くて手間取っちゃった」 「妹紅ちゃんの家って、焼き鳥屋さんだったよね。看板娘」 「へえ、そうなんですか。鈴仙と藤原さんの二大看板娘、といったところですね♪」 「いや、私じゃ看板娘って無理だと……。妹紅も男の子っぽいしなぁ」 「……鈴仙なら問題ないわよ」 「はい、鈴仙姉様なら他の方にも引けをとりませんよ」 「やめやめ、私はそういうガラじゃないから」 「鈴仙ちゃんはもっと自分に自信持ってくださいよー。妹紅ちゃんの場合は男の子っぽいところからファンも多いんですからー」 「へえ、二人並ぶとさぞかし絵になったろうねぇ」 「あははは、私も見てみたかったですねえ」 「もー、燐姉さんや星姉さんまでー」 『あははは』 ――姉妹の笑い声が響きながら、夜は更けていった。 ――咲夜たちが寝静まったころ、星は独り仏間に居た。 「……お父さん、お母さん」 仏壇に向かって独り手を合わせる。 「妖夢は強く真面目に真っ直ぐと育っています。早苗も元気いっぱいでやんちゃなところはありますが、みんなの人気者で友達も多くいい子です。鈴仙はちょっと引っ込み思案なところはありますが、しっかりした子です。燐はさびしがり屋ではありますがよく気の付く頼りになる子に育っています。咲夜は最近ちょっとつっけんどんですけど、みんなを心配している優しい子です」 星はそこで一息つくと、さらに続けた。 「――みんな思い思いに、元気にやっています。だからお父さん、お母さん、心配せずに見守っていてください……」 そう言って口を閉じた星は、しばらく瞑目しながら手を合わせる――数分後、もう一度口を開いた。 「……私は、妹たちに恥じない姉で居られてますか? 私は姉として妹たちを守れてますか? どうか、どうかお父さん、お母さん、私のこともしっかりと見守っていてください……」 再び口を閉じた星は、そのまま長い間手を合わせたまま微動だにしなかった。 「ん〜……あら? 星姉?」 夜中に目を覚まし、一旦水を飲もうと廊下を歩いていた咲夜は、丁度仏間を通りかかった時、仏壇の前に座っている星を見つけた。 「どうしたの……?」 ひょい、と仏間の扉から顔を出して聞いてみるが返答はない。もう一度よく見てみると、 「すー、すー……」 星は仏壇の前に座ったまま船を漕いでいた。 「……。……器用だこと」 咲夜は当初の予定通り水を一杯飲むと仏間に戻り、船を漕いでいる星を起こさないよう、そっと背負った。 「お父さん……、お母さん……」 寝言で両親を呼ぶ星に苦笑しながら、咲夜は星の部屋に向かって歩き始めた。 「……心配しなくても、誰に対しても星姉は自慢の姉よ。私にとっても、皆にとってもね。だからそのまま自信持って突き進みなさい、星姉。私はそんな星姉に憧れているんだから。……ちょっと照れくさいけれど、ね」 星に言い聞かせるように呟いた咲夜は、そのまま星の部屋へその自慢の姉を運んでいった。 第一話 了