このテキストは、東方創想話の作品集139、 「聖輦船遊覧飛行の旅」で発生した謎掛けの解答編にあたるテキストです。 出来れば本編↓をご覧頂いてからお読みください。 http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1298127182&log=139 以下はエンディングっぽく進みます。 ==================================================================== ■解答編 ====================================================================  竹林の奥地、永遠亭。  新たにやってきた住民は難しい顔をして茶を啜っていた。 ナズ「いい加減に回数券を消費してくれないか。でないと私は帰れないんだが」 輝夜「あら。だって、探してもらうものが何か、見つからないんですもの。    それまでは居てもらわないと」 ナズ「それはいつ見つかるのだね」 輝夜「いつか。今すぐかもしれないし、もっと後かもしれないし」  聖輦船の遊覧船旅行を終えたあと、  輝夜が賞品として選んだのはナズーリンの探し物回数券だった。  ナズーリンはすぐに使い切ってもらおうと、自分から永遠亭までやってきていた。  しかしこの二日間、彼女は何もせずに過ごしていたのだ。 村紗「あんた、勢い勇んで出掛けた割には悠々としてるわね。暇そうだわ」 ナズ「暇なんだよ」  探し物の得意なナズーリンがこんなに時間が掛かっているなんて、何を探しているのだろう。  村紗は気になって様子を見に来ていた。  しかしあくびを繰り返してうたたねを続けるナズーリンを見て、  探し物がまだ始まっていないことを知った。 村紗「それにしても輝夜さん。よく謎が解けましたね」 輝夜「ありがとう。色々と偶然が重なったのよ」 村紗「あの玉簾の絵を掲げた方は非常に惜しかったです。    このまま終わっちゃうのかなって、残念にも思いながら司会をしていたんですよ」 輝夜「絵を煮る山。アルファベットにすればeoniruyama。これを逆から読めばアマユリノエ。    雨百合の絵はつまりレインリリー。つまり玉簾の絵なわけね。    そこのナズーリンさんが懇切丁寧に教えてくれたわ」 ナズ「まったく。立ち入り禁止区域に最後の兎を連れて行かれたら、溜まったものじゃないよ。    あれは入念に計画を練って始められたものなんだ。あのまま迷い続けられて、    下船の時間までうろつかれたらそれで終わりなんだ。    あれは非常に危ないところだったんだよ」 輝夜「それでも、時間を掛けて説明してくれた気がするけど……」 ナズ「君が聖の髪留めを付けていたからだよ。あれは魔性なんだ。抗えない。    一輪は効果をオマケ程度に捉えていてね。程度を知らないんだよ。    だから簡単に人に渡してしまおうとする。    ……そういえば君、いまは付けていないが何処へやったんだ?」 輝夜「永琳が持っているわ。一度兎の海に溺れちゃって。解呪するって言っていたけど。    それまで付けちゃ駄目だって」 ナズ「それがいい。是非ともそうしてくれたまえ」  襖が開いて、鈴仙がお茶を持って入ってきた。 鈴仙「お茶をお持ちしましたよ。って、何か一人増えてるし」 村紗「あがっていますよ」 鈴仙「あなたも泊まっていくの? 布団なら用意してあげるけど」 村紗「いやいや、私は帰りますけどね」  村紗の分のお茶もまた用意して、鈴仙は輝夜の傍に座り込んだ。 村紗「で、答えに気付いたのはいつだったのかしら」 輝夜「この子が探しにやってきたときね」 ナズ「私をこの子と呼ばないでくれ」 輝夜「誘導されるんだな、って思ったとき、ふと気付いたのよ。    これは命蓮寺住民としてじゃなくて、運営としての行動なんじゃないかって」 村紗「運営?」 輝夜「そう。プライベートは見せられない、ってあのとき言われたけど。    運営は業務を効率的にまわすために表で裏で動くはずよね。    もしこの謎掛けが示すものが人であるならば、    ひょっとしたら、これは私か鈴仙を皆の居る場所へ返そうとする行為なんじゃないか、って思ったの。    それとなく何度か薦められたしね」 鈴仙「そういえば、そんなことを言っていましたね」 ナズ「君はなかなか聡いね」 輝夜「それに、立ち入り禁止区域の中にある絵が答えだっていうのも、釈然としなかったわ。    謎掛けを出しておいて、その答えが立ち入り禁止の場所にあるだなんて、    反則もいいところじゃない。だからこれは違うな、って思ったのよ。    で、私か鈴仙のどちらかが重要なんだろうな、とは思っていたのよ。    ただ重要だとはいっても、何がどう重要なのかは解らなかった」 村紗「ふむ」 輝夜「疑いをもったのは、寅丸さんの伝言がきっかけね」 村紗「ほう」 輝夜「うちのてゐを保護しているから、保護者の兎を、つまり鈴仙を探している。そういう話だったわね?」 鈴仙「そうです。迷子になったてゐを捕まえて、私を探しているって」 輝夜「ええ。彼女は迷子捜しを全般に請け負っているそうね。    でもね、私には一つだけ他の人たちと違って、アドバンテージがあったのよ。    それは、彼女は乗船者の位置を把握することが出来る、ということを、    上白沢慧音に聞いて知ってしまっていたの。そこで矛盾に気が付いたのよ。    乗船者の位置を把握できるのなら、彼女が鈴仙を探して呼びかけ回ることは不自然だわ。    自分が一番熟知している筈なのだからね。    それなのに探しているとわざわざ尋ねる理由。それはね、尋ねることそのものが目的だったからよ」 鈴仙「なんと。そういうことだったんですか。って、私、今それ始めて聞きましたよ」 輝夜「ええ、始めて言ったのよ。で、食堂にやってきた永琳に聞かれたのよ。    ウンザンって知ってる? って。    それを耳にしてピンと来たわけ。全てが繋がったわ。    最初に甲板で謎掛けを披露する際、あなたは名前を強調した。水に甘い蜜で水蜜。そう名乗った。    謎掛けを紹介したあと、あなたはマスコットとして雲山という言葉を口にした。    雲が山のように伸び上がる、と言ってね。    そこに不自然な重複を感じて、何か意図あるのかと少し思いとどまっていたのよ。    すぐに忘れてしまったけど。    ただ、やっぱり意図はあった。この山のように、というのがポイントだったのよ。    ウンザンは雲の山と書く。ザンを山と書く。そう教えるためだった。    つまり、絵を煮る山はエヲニルヤマじゃない。エヲニルザンなんじゃないかって。    そうすると、eoniruyamaがeoniruzanになる。woはoと解釈するわね。    これを逆にすると、ナズリンオエ、または、ナズリノエ。    どちらかと考えたとき、あまりにも合致する名前を私は知っていた。それがあなたよ、ナズーリン。    これはね、ナズーリンを追え、というメッセージだったのよ」 ナズ「ふ、ふっふふ。まったく。参ったね、あなたには」 輝夜「あなたは賞品に出されるほど探し物が得意だそうね。それなのに、上白沢慧音を探していた。    寅丸さんと同じく、人に聞いてまでね。理由や目的はもちろん、言うまでもないわよね?    その上白沢慧音は迷子の子どもを連れていた。    そして彼女が探していたのは寅丸さんだった。    寅丸さんは迷子のてゐを保護して、鈴仙を探していた。    これが意味するものは何か。    それは干支よ。これは干支を順に追っていたのよ」 村紗「そのとおり! さすがです。いや、おみそれしました。それで正解ですよ」 輝夜「私は鈴仙の様子をそれとなく窺っていたけど、不自然な様子は見られなかった。    髪留めの効果で少しおかしくなっていたけど、外してみたら至って普通だった。    誰かを探しているわけでもないし、てゐを連れて戻ってからはずっと暢気な顔だった。    で、確認してみたらご覧の通り、という話ね」 鈴仙「いやぁ。そこんとこ勘弁してくださいよ」 村紗「なるほどなるほど、そういうことだったのですね。    そこまで推理してもらえて、出題側としては嬉しい限りですね」 輝夜「ついでに言えば、上白沢慧音さんはともかく、うちのてゐも共謀していたんでしょう?」 鈴仙「え?」 村紗「あら、そこも見破られましたか」 輝夜「出鼻をくじかれた、というところかしらね」 村紗「本当、そのとおりですよ」  村紗はお茶を飲み終えると、陽気な顔をして話し始めた。 村紗「まず、謎についてはですね、ちょっとした、本当にちょっとしたイベントのつもりだったんですよ。    少し笑えればそれでいいな、というぐらいの。    で、たまたま山の巫女が来ていたんですよ。彼女も私たちと同じように布教していますから、    状況を知ろうとしてたまにそれとなく様子を窺いに来るんです。    それで彼女を庵にあげて、ちょっと聞いてみたんですよ。面白い謎掛けを知らないか、って。    すると彼女、熱くなりましてね。ここはこうして、あちらはこうして、というふうに、    色々な計画を持ち出しましてね。横文字なんて私は耳でしか知らなかったのですが、    この機に勉強させていただきましたよ。    で、平等に里の方々にも広めなければならないという話になって、上白沢氏に協力いただいて、    横文字を授業に取り入れてもらったんですね。    彼女には干支の牛役としてお願いするのに苦労しましたよ。少し嫌がっていましたから。    ただ謎の答えを公表しないことを条件に、出てもらえることになったんです。    ここでの会話は、あれですね、何というんでしたっけ、あ、オフレコだ。オフレコですよ」 ナズ「そういえば、君は横文字は知っていたのかい? ここはそれとは無縁の屋敷のようだが」 輝夜「永琳がお堅い学問を講義してくれるのよ。暇で勉強していたら、そのうちに覚えちゃったわ」 鈴仙「けっこう、当て字とか面白いですよ」 村紗「なるほど。干支の話になったとき、たまたま鼠と虎はいたんですがね、    牛、兎、辰、巳、午……と続いていくには、やっぱり一致する人がいないんです。    辰は竜宮の使いさん、巳は山の神様。でも続く午や羊が居ませんで。    これは難しいだろうという話になったんですよ。    それに遊覧時間にも限りがあります。何処か切りの良いところはないか、といったところで、    今年の兎でいいんじゃないか、と落ち着いたんです。    肝心の兎は竹林で捕まえて来ようという話をしていたんですが、一輪が帰ってきて言うんですよ。    永遠亭っていうところの人たちを招待したい、って。    竹林にあるらしいので詳しく聞いたら、兎役が、つまりは鈴仙さんがいるそうじゃないですか。    それで一発で決まったんです。何としてでも連れてこいって言いましたよ。    しかしですね、聞いていると思いますが、一輪のやつ、誰でも連れてきていい、と言ったそうなんです。    後日、不信に思って調べていたらですね、やっぱり彼女以外にも妖怪兎がいたんです。    しまった、と思いましたよ。これだとイベントにならないんです。    もし鈴仙さん以外に妖怪兎が来てしまった場合、どちらも答えになってしまうのではないかって。    星が鈴仙さんだけを探している特別な理由を作るのが難しいなと思っていたんです。    そこで竹林で遊びほうけていた兎の大将らしい方にこっそり相談したんです。    快諾でしたよ。任せろといいましてね。    乗船が最後になったのもいい洒落だったと思いますね。    鈴仙さんはわざわざ最後に乗ってもらったんです。    あなたがあの指示書を嫌がったら、根本が崩れてしまいますからね。    実は読んでもらっている間、私と白蓮はそれを窺っていたんですよ。    干支の中でも、あなたにだけは何の説明もしていませんでしたからね。    もし止めると言い出しそうなら、すぐに飛び出して事情を話すつもりでした。    でも結局は受け入れてもらったみたいで、非常に助かったところなんですがね」 輝夜「ふぅん。そういう裏があったのね。ずいぶん手の込んだ話じゃない」 鈴仙「あーっ! そういうことは、あいつ、わざと寝坊したってこと? 信じられないわ」 村紗「まぁ、楽しんでいただけて光栄ですよ」 輝夜「そうね。非常に良かったわ。退屈しなかったもの」 ナズ「私は非常に退屈なんだがね」  だんだんと気が抜けてきたのか、ナズーリンは寝そべりはじめた。  普段はキリっとした彼女も、やることがなければだらしなくなるのである。 ナズ「で、探し物は何なのか、それはいつ見つかるんだい? 見つかったら起こしてくれよ」 輝夜「さぁ、いつかしら。もうちょっとかしら。探し物が何か、見つからないことにはね」 村紗「私、帰るわね。聖に話しておいてあげるから」 ナズ「よろしく頼むよ。ご主人様にもね」 輝夜「さよなら。また逢いましょう」  村紗が帰ったあと、少しずつナズーリンは舟を漕ぎはじめ、寝息をたてはじめた。  輝夜はいつまで経っても探し物を提示しようとはしなかった。 鈴仙「……そういえば、輝夜さまはどうして謎掛けの参加を私に促されたのですか?    ご自分で決められるものと思っていましたので、びっくりしましたよ」 輝夜「別に大したことじゃないわ。私は永琳と合流しようと思っていたのよ。    でも何となく、あなたがイベントを気にしてるな、って思ったのよ。    参加したいのだったら、そうしてあげようかなって」 鈴仙「それは、意外ですね。いつもの輝夜さまでしたら、お師匠様を選ばれると思います」 輝夜「そうね。だから気まぐれなのよ。ただの」  輝夜は永遠を解いたあと、自分が穢れの影響を受けているとは考えていなかった。  永遠の命を秘めた身体は、穢れによる寿命とは徹底的な断絶があるからだ。  だから輝夜は自分の選択をただの気まぐれであるととらえていた。  地上の影響を受け、少しずつ変わりつつあるということに彼女は気付いていなかったのだ。 ナズ「……ムニャムニャ」 鈴仙「……輝夜様。こちらの方にはもう二日ばかり泊まってもらっていますが、    いったい何を探してもらうつもりなんですか?」 輝夜「違うわ。探し物が何か、探しもらっているのよ」 鈴仙「なるほど。謎掛けですね」 輝夜「それも違うわ。難題よ」  輝夜の探し物は、質問の意図に気付くことそのものだった。  謎掛けのお礼か、逆に難題返しをされているとナズーリンが気付くまで、  もう二日ばかり掛かったという。 ==================================================================== ■あとがき ====================================================================  お疲れ様でした。ようやっと終わりです。  本来であれば、てゐにも謎掛けを受けさせておいて、兎からさらに続いて  永江衣玖or美鈴(辰)、神奈子(巳)、チルノ(馬鹿)、紫(メリーさんの羊)、  里の誰か(猿)、射命丸(酉)、咲夜(犬)、再び慧音(亥)  などと続けようかなと思ってたのですが力尽きました。  猿って誰かいるのかな。  それでは。