「そういえば、こんな大会に出るなんて珍しいじゃないか。普段は凶キャラ大会の常連だろう?」 「へ?」  まさか彼にmugenの知識があるとは思っていなかったので驚いた。が、直ぐに気を取り直して答える。 「ああ、凶キャラトナメは今休みになっているんだよ」 「うぷ主が失踪したかい」 「いや、普通の大会に凶キャラが出たんだ」 「・・・恐ろしいじゃないか」  男がようやくこちらを向いた。  最初に凶キャラを見たのは、着地にレバー一回転の投げを入力したりして生計を立てている男だった。  投げキャラ仲間と、大して動ける訳でもないラリアットを回していた彼は、バリバリバニシングコンボで体力を削っていた。  オリコンゲージはとうに半分を下回り、コンボミスの心配も必要ない頃だ。  中距離の牽制戦とは打って変わった火力の心地よさと、ほんの少しの気まずさの中を、覚束ないウメハラ持ちでガチャガチャと入力している。  カァン!  遠くで他ゲーのSEがした。  近所で寝ぼけた棒術使いが、自分の名でも呼んだのだろうか。  カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!・・・  そのSEは断続的に響いてくる。  喧しくて仕方が無い。いったい何処のマフィアのボスが、あんなハゲバンダナを呼んでいるのか?近所迷惑この上ないジャメイカァ。  カァン!カァン!カァン!カァン!カァン!!カァン!!カァン!!!カァン!!!カァン!!!!  しかし、そのSEはどうやら他の筐体で鳴っているのではないらしい。  しかもだんだん自分に近づいてくる。  カァン!!!!!!  突然音が止んだ。耳が痛いくらいの静けさに襲われる。  〆のスクリューで酔った末に幻聴でも聞いたのか?いや、確かに聞こえた。  赤いサイクロンの髭面に嫌な汗が流れる。早く試合を終えようと起き攻めを試みると、ステージの奥に何か光るモニターが見えた。  そこで、ザンギュラは見たのだという。  尊大な、軍人のような化物だったそうだ。  モニターだと思ったものはそいつの、ぎらぎらと光る、バストアップの笑顔に嫌味しかない映像だったのだ。  その化物が、世紀末を病人が駆け抜けていくような、恐ろしいSEを出しながら、ロシアステージを一直線に、ザンギの方に向かってワープして来るのだ。  半分体力を残した、舐めプをする気など一遍に醒めたハラシ男は、慌ててJ2強Pで飛び込み、小さく国家を斉唱しながら、その尖兵をやり過ごしたのだという。  60フレームにも満たないその時間が、恐ろしく長く感じた。  将軍は男には気付かず、そのキャラドットを歪ませながら、SEを立てワープして行った。  ステージに決着時の様な静寂が戻り、スクリュー脳がダウン状態から復帰してみると、既にグリーンベレーはいなくなっていた。  あれ程の一致でありながら、ベガを指さしてパクリ疑惑を指摘するプレイヤーは誰一人いなかった。 「国に帰った軍人さんは、サマーが出ないってしゃがんでしまったらしい。まぁ、乱入後には治ったみたいだけど」 「コンパネを叩いたからだな」