チルノの裏999crn記念 阿求チルSS  それは幻想郷縁起の取材の帰り道。紅魔館そばの湖の岸を歩いていたときでした。 「ん?」  私の視界の端、草むらにの中になにか青くて白いものが見えます。まるで新撰組の羽織みたいなあれは……チルノさん?  近づいてみるとやはりそうです。チルノさんは草むらに大の字になって、すやすやと昼寝をしていました。 「妖精なのに、ずいぶん堂々と寝てますね」  呆れて呟いてしまいます。  妖精は幻想郷では一番弱い存在で、人間や妖怪どころか野生動物にさえあっさり殺されるので、普通はこんな目立つところで寝ていたりしません。もっとも死んでもしばらくすれば復活しますが。  だというのにチルノさんは、本当に無防備に眠っています。  普通の妖精より力があるゆえの自信でしょうか? でも見ている限りでは自信というより、ほのぼのとした雰囲気しか漂ってきません。  近づいて声をかけてみます。 「もしもしー、チルノさんー?」 「くー……」  まったく起きる気配がありません。  私は軽く息を吐いて微笑み、チルノさんの横に腰掛けました。たまにはこうしてぼんやり日向ぼっこがするのもいいでしょう。  無防備そうに寝てる姿をぼんやり眺めます。するとふといたずら心が湧き、人差し指で鼻先をくすぐります。  でもチルノさんは起きることなく、軽くうめいて頭を少し揺すぶっただけでした。  そのはずみで、彼女の頬が私の指に当たります。 「あ……」  驚きに思わず声が漏れました。  なぜなら、その頬がやけに温かかったのです。  氷の妖精であり黙っていても冷気を放出するチルノさんですから、体温も冷たいと思っていました。なのにまるで赤ん坊のような温もりがあります。  この発見に、私の好奇心がむくむくと湧き上がってきました。 「ちょっと失礼しますねー」  そう小声で呟いて、チルノさんの頬に両手を当てます。うん、たしかに温かい。  そのまま手の平を滑らせて首筋も触り、さらに肩に手をおきます。  うーん。間違いなく体温があるみたいですね。冷気を出しているというのに、身体は普通の人間のように温かいというのはなぜでしょうか。  と、そこで私は今の状況に気づきました。  無防備に寝ているチルノさんに覆いかぶさるようにして、肩に手を置いた私がいる。  これってどう考えても、寝込みを襲う態勢……!  自分でも顔が上気したのがわかりました。心臓の音がやけにうるさく響きます。  こんなところを誰かに見られたら……と思っているのに、なぜかチルノさんから目が離せません。 「ん……」  そのとき、チルノさんが軽くうめきます。その声さえ、私にはやけに色っぽいものに感じられます。  そして唇が、かすかに動きました。  それがまるで誘っているかのように思え、私はゆっくりと自分の顔を近づけ――  ――唇を、重ねました。  チルノさんの口の中はひんやりとしていて、不思議な感触でした。  まるでカキ氷を食べたかのよう。冷気は体の表面ではなく、体内から発しているのでしょうか。  冷たい感覚を口にしたことで、私の茹だっていた頭が冷静になってきした。  なにをバカなことをやってるんでしょうか。こんなとこ誰かに見られたら大変なことになるのに。  内心苦笑しながら、そっと頭を上げます。  ……が、唇が離れません。  まるで糊でくっつけたかのように、私とチルノさんの唇が張り付いているのです。 「む、んぐ! ぐっ!」  頭を上げようとしますが、タコのようにお互いの唇がみよーんと伸びます。  腹立たしいことにこれだけされてるのに、チルノさんはまだのん気に寝てる始末。  なんとか剥がさないと……と焦る私の背後上空から、声がかけられました。 「どうもー、文々。新聞です。阿求さんじゃないですか、なにやってるんですか?」  まずい! 天狗だ!  慌てた私は跳ねるように身を起こし……  ベリッ!  いっそ小気味よくなるくらいの音が、あたりに響きました。  屋敷に帰った私を、お手伝いは目を真ん丸くして迎えました。 「おかえりなさいませ阿求様……って、なぜマスクを? 風邪ですか?」 「……どうふぇほいいでふょう」 『たとえ寝ていても触らないようにする。凍傷になる恐れがある』 稗田阿求著 幻想郷縁起 チルノの頁より抜粋 終 あとがき 子供の頃に冷凍庫の霜を舐めとろうとして酷い目にあったことを思い出しつつ書きました それと993crnの>>367さん、ネタありがとう