私は今でこそご主人様――寅丸星――に仕えているが、元々は毘沙門天の手下だった。 かつて聖が信仰していた毘沙門天。その代理として立てられたご主人様。さらにその監視役として派遣されたのが私だ。 まぁ、今となってはどうでもいいことだがね。私はもう、毘沙門天ではなく“ご主人様”の部下なんだ。そしてこれは自分の意思で決めたこと。 毘沙門天がご主人様を認めた証として、私に宝塔を預け、それを私がご主人様に手渡した。その瞬間から私の主は寅丸星なんだ。 監視役というのはしっかりと対象のことを観察するべきものだろう? だから私もしっかりとご主人様のことを見てきたよ、その結果さ。後悔なんて微塵も無い。 千年以上前、聖や寺の妖怪たちが封印された時、私とご主人様は人間の側についた。黙って見過ごしたんだ、毘沙門天の顔に泥を塗るわけにはいかないから。 ……いや、違うか。私たちはただ怖かっただけだ。正体がバレて、人間たちに退治されるのが怖かったんだ。 挙げ句どうだろう。その場は何とかやり過ごせたが、それから私たちはどうしようもない後悔の念に苛まれ続けた。 一度失った寺の信用を取り戻すことは難しく、私たちも敢えて信仰を集めようとはしなかったおかげで、結局寺は廃れてしまった。 罰が当たったのだろう。毘沙門天とは違う、別の誰かからのね。 しかし転機はやってきた。地下に封印された筈のムラサたちが寺にやってきたんだ! 聖を助けたい、力を貸して欲しい――そう言ってきた彼女たちに対する私とご主人様の決断は早かった。 信じてたんだ、「いつか機会は訪れる」と。だからずっと荒廃した寺で待ち続けていた。それがようやく……。 毘沙門天には背くことになったが仕方ない。もう二度と後悔するのは御免さ。私たちは人間じゃない、妖怪なんだ! それにもはや信仰なんて無かったしね。私にとっての毘沙門天は一人しかいない。それで十分さ。 思わぬアクシデントもあったが、結果的に聖の救出は果たされ、私たちは命蓮寺を興した。ほんの二ヶ月前のことだ。 今は……そうだな、非常に楽しい日々を送っているよ。 命蓮寺は元々「妖怪救済の為」という名目で開いたんだが、「宝船がお寺になった」ということで物珍しさから人妖問わず大勢が訪れ、連日の賑わいに皆大忙しだった。 これには本当に驚いた。どうやら人間と妖怪の溝は昔よりもかなり埋まっていたらしい。と言ってもそれは幻想郷に限ってのことらしいが、それでも凄い進歩だ。 封印されていた聖たちはもちろん、ずっと山に篭っていた私とご主人様も戸惑いを隠せなかった。 日が経つにつれて人足は徐々におさまってきたが、落ち着いた今でもお寺の人気はまずまずといったところ。 ――さぁ、前置きが長くなってしまったが、ここからが本題だ。 余裕が出来ると、皆生活に癖が出てきた。それぞれの一日のサイクル、習慣が定まってきたということさ。 私には私の、ご主人様にはご主人様の、皆には皆の過ごし方がそれぞれある。それは当たり前のことだ。 ご主人様が一日をどう過ごそうが、私にはそんなことを気にする必要なんて無い……筈なんだが、残念ながら現実は私を大いに悩ませてくれる。